1 渉外離婚について-1 written by 岡部 健一 13.12.14 第1 日本人妻と欧米夫の離婚事件の紛争の特徴 妻が日本人、夫が欧米人の夫婦の離婚の場合において最もよくトラブルとなってい るのは、子の親権・監護・面会交流の問題です。その理由として以下のような点が挙 げられています。 ① 日本では、離婚後は、単独親権であることから、離婚して親権を失えば二度と 子どもと会えなくなるという不安にかられる ② 日本では親権者の決定において母親が優位にあると言われていること、外国人 であることが不利に働くとの懸念が強く働く ③ 共同親権制を採用している国の場合、自国の離婚・親子観へのこだわりが強い ④ 離婚に先立ち母親が子どもを連れて家を出て別居に至る日本的な別居のスタイ ルが極めて大きな紛争・葛藤の引き金になることが多い ⑤ 渉外離婚の場合、子どもの問題について将来起こりうる様々な場合を想定した 事細かな取決めを行おうとする場合も多い。 第2 相談に際しての注意点 1 そもそも日本の弁護士が対応可能な相談か 家族法の実務は条文の知識を読んだだけでは正確なところがわからないことが多 いです。 国際裁判管轄が日本にあるかどうか明確でない場合、あると言えるかも知れない が外国で手続きを行った方が利点があると思われる場合などは、相談者に対して、 事例 アメリカ人の夫と日本人の妻が日本で結婚し、婚姻届を役所に提出しました。二人 の間には1人の子どもが産まれ、1年が経ちました。その間、夫はアメリカでレス トラン経営をするため、日本とアメリカを行ったり来たりしており、妻も夫に同行 し、夫の実家で数週間を過ごすこともありました。 ある日、夫がアメリカに行ったまま帰ってこないようになり、心配になった妻が子 どもを連れてアメリカの夫の実家に行き、そこでしばらく生活していたところ、夫 が別の日本人と不倫をしていることがわかりました。 妻は子どもを連れて日本に帰り、離婚の準備を進めたいと思っていたところ、夫の 代理人からアメリカにて裁判を提起したという通知が届き、妻は弁護士事務所に相 談に来ました。
2 外国の弁護士に相談することを提案した方がよく、日本に国際裁判管轄があり、か つ、準拠法が日本法であることが確実な場合は、日本法を前提とした助言を行うこ とになります。 2 翻訳費用の問題 受任にあたっては、日本語から外国語への、外国語から日本語への翻訳が必要と なる場合があることの説明とともに、依頼者側で翻訳の手配を行うのか、弁護士が 自分自身又は法律事務所の職員等により行うのか、外注するのか、その場合の費用 の負担等について、あらかじめ取り決めておくことが必要です。 第3 国際裁判管轄権について 1 国際裁判管轄とは 国際裁判管轄とは、渉外事件に関連のある複数の法域(国)のうち、どの国の裁 判所が当該事件を扱うことができるかという問題をいいます。国際裁判管轄権が日 本に認められない場合には、日本の裁判所で当該事件を扱うことができないので、 まず国際裁判管轄の有無を検討する必要があります。国際裁判管轄の決定について は、世界共通のルールはありません。 2 国際裁判管轄の競合と管轄争い 国際裁判管轄の規律に世界共通基準はなく、国ごとの自由な規律に委ねられてい ることから、国際裁判管轄の競合が起こりえます。日本に国際裁判管轄があれば、 外国の裁判所で同一事件について裁判が行われているということだけで、直ちに日 本の訴訟が却下されるということにはなりませんが、外国の裁判所が先に離婚判決 をなし、その判決が日本において承認され、効力を有する場合には、訴えが却下さ れる可能性があります。 3 国際裁判管轄は法律関係ごとに決定 国際裁判管轄の決定は、本来は、法律関係ごとになされることに注意が必要です。 ただし、渉外離婚事件の場合、一般に、離婚とともに、子の親権者指定、財産分与 請求、慰謝料請求、養育費の請求、子との面会交流の全部又は一部を併せて求める ことが多く、最も中心的な離婚請求について日本の裁判所に国際裁判管轄があると 認められれば、これに付随する附帯請求の管轄もほぼ自動的に肯定される傾向が強 いので、渉外離婚についてはこの点をシビアに考える必要性は少ないと言えます。 4 離婚についての日本の国際裁判管轄決定のルール 最高裁昭和39・3・25大法廷判決が先例と言われています 原則 被告の住所地国 例外 原告が遺棄された場合 (ex 日本で生活を行っていた夫婦の一方が他方を置き去りにして外国へ行 ってしまったケース)
3 被告が行方不明の場合 その他これに準ずる場合 には例外的に原告の住所地が日本にあれば日本の管轄を肯定します。 なお、「住所」について、明確な基準を示した裁判例はありませんが、渉外離婚に ついて日本に国際裁判管轄を認めた事案からは、1年未満の居住でも日本に住所が あると認めていることが窺われます。 また、昭和39年判決の後の平成8年の最高裁判決は、当事者間の公平、裁判の 適正・迅速、被告の不利益、離婚を求める原告の権利の保護等を考慮して管轄を判 断すべきとしました(平8・6・24)。この2つの最高裁判例が国際裁判管轄の先 例となる判例と言われていますが、この判決と前記39年最高裁判例との関係を整 合的に捉えることが出来るかについては議論もあります。 5 実務上、最も問題になるのが、夫婦の一方が日本に居住し、他方が外国に居住し ている場合の渉外離婚事件の国際裁判管轄です。 日本に居住している当事者が原告となって、外国に居住している当事者を被告と して日本の裁判所に離婚訴訟を提起する場合は、前述の2つの最高裁判決の基準に 照らし、事案の具体的な事情に応じて管轄の有無を検討することになり、日本で婚 姻生活を営んでいた夫婦の一方が他方を「遺棄」して外国に居住しているような場 合、判例は日本に国際裁判管轄を認めてきました。 6 なお、よくある誤解として、婚姻手続地により国際裁判管轄が定まるものではな い点に注意が必要です。すなわち、外国で結婚式を挙げて同地の婚姻の方式で行い、 日本の本籍地にその届出を行っていない場合があります。この場合、外国での婚姻 が日本法から見て有効に成立していれば、戸籍への届出は報告的届出にすぎず、こ の届出がなされていなくても、婚姻自体は有効に成立しています。そして、婚姻が 有効であることを前提として、国際裁判管轄が日本にあるかを通常の場合と同様に 検討して行くことになります。 7 執行のことを考える 日本の裁判所に国際裁判管轄があるか否かを考える場合、日本の裁判所で得た判 決を、外国で承認・執行する必要が有るかについても留意しておく必要が有ります。 相手方名義の婚姻財産が外国にあり、執行は外国で行う必要があるような場合には、 日本で得た判決が当該外国で承認され執行可能かどうかまでを視野に入れて助言す ることが望ましいと言えるでしょう。 また、執行の問題ではありませんが、例えば外国の裁判所にも国際裁判管轄があ るのであれば、アリモニー(離婚後扶養)や財産分与の基準財産関係書類の開示手 続、養育費の算定基準金額や給与からの天引きによる取立ての手続等の面で日本法 によるより原告にとって有利な場合があります。そうだとすると、弁護士としては 日本に国際裁判管轄が認められる場合であっても、被告の居住地国での訴訟提起の
4 検討を助言するべき場合もあります。 第4 準拠法について 1 抵触法とは 国際裁判管轄が日本にあるとしても当然に日本法の適用が認められるわけではあ りません。渉外事件では、事件と何らかの連結点で関連のある法域が複数存在しま す。その中からどの法域の法律を当該事件に適用するかという法の選択の基準を定 めたものが抵触法です。抵触法により選択された、当該事件に適用するよう指定さ れた法を準拠法といいます。国際裁判管轄について世界に共通のルールがないのと 同様、抵触法についても世界に共通のルールはありません。 2 日本の抵触法は、以前は「法例」という名称で定められており、平成18年に改 正され、名称も「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」といいます。)に改め られました。日本の抵触法の特徴は、身分関係については、当事者の国籍を連結点 とする本国法主義を原則としながら、常居所地を副次的連結点としている点です。 外国の抵触法には、身分関係について住所地法主義を採用するものが少なくあり ません。 3 性質決定 準拠法は、問題となっている法律関係ごとにその法的性質に応じて決定されます. 抵触法規定は個別法律関係より包括的な法律関係を単位として準拠法を指定してい ます。そのため、抵触法の準拠法決定基準に従い、準拠法を選択するためには、ま ず、当該事案において法の適用により判断すべき問題・法律関係の性質を決定する 必要があります。これを、法律関係の性質決定といいます。 渉外離婚に関する問題で、法律関係の性質をどう考えるかにより準拠法の指定ル ールが異なるため法律関係の性質決定が問題となるものとして、婚姻費用、財産分 与、離婚に伴う慰謝料請求、離婚に伴う親権者指定があります。渉外離婚事件の場 合、各請求ごとに準拠法決定基準で準拠法を1つずつ決定していかなければなりま せん。 4 反致 反致とは、日本の国際私法が指定する準拠法が A 国法である場合、A 国の国際私 法によれば、日本の法律が準拠法として指定される場合に、日本法を準拠法とする ことです。渉外事件特有の概念と言えます。 通則法41条が、この反致のルールを採用していますが、反致の適用を通則法に おいて本国法として準拠法の指定がされる場合に限定しています。そのため、渉外 離婚の実務においては、離婚の成立、効力、財産分与、別居中の子の監護者指定、 面会交流、離婚に伴う親権者の指定、離婚後の親権者変更、面会交流等いずれにつ いても、準拠法の決定において反致の適用はないことを理解しておけば足ります。
5 5 離婚の準拠法 離婚の成立及び効力の準拠法は、通則法27条が規定します(婚姻に関する25 条を準用)。 当事者の本国法が共通であれば共通本国法、共通本国法がない場合で共通常居所 地法がある場合は共通常居所地法によります。それもない場合は、夫婦に最も密接 な関係がある地の法によります。ただし、当時者の一方が日本に常居所地を有する 日本人の場合は日本法によります。 6 子の親権 かつては、離婚の準拠法によるとの見解もありましたが、現在では、夫婦間の利 害の調整ではなく、子の利益保護を中心に決定される親子間の法律関係の問題とし て通則法32条によるというのが判例実務です。 通則法32条による準拠法決定は次のとおり行われます。子の本国法が父又母の 本国法と同一である場合は、子の本国法によります。同一本国法がない場合は、子 の常居所地法によります。 親子間の法律関係の準拠法の適用に含まれる事項の範囲には、親権者指定、監護 権者の指定のほか、面会交流、子の引渡し等が含まれます。 7 財産分与 財産分与は、離婚の効果として、通則法27条によるとする見解と、夫婦財産制 の解消問題として通則法26条によるとする見解がありますが、判例実務は前者に よっています。 なお、外国の法制には、離婚後も夫婦の一方が他方に対し一定期間、扶養料を払 う べ き 義 務 を 定 め る も の が あ り 、 ア リ モ ニ ー (alimony ) や メ ン テ ナ ン ス (maintenance)等と呼ばれます。 8 慰謝料 離婚に付随する問題として、離婚の効力の準拠法による例が多いです。 9 養育費 養育費は、親子関係から生ずる扶養義務の問題として、扶養義務の準拠法に関す る法律によります。なお、別居中の婚姻費用分担も夫婦関係から生ずる扶養義務の 問題として、同法によります。 準拠法は、原則として扶養権利者の常居所地法によりますが、常居所地法により 扶養請求が認められない場合は当事者の共通本国法、当事者の共通本国法によって も扶養を受けることが出来ない場合は、日本法によります(同法2条)。 10 外国法の調査方法 裁判所が行う外国法の調査方法として、最高裁判所図書館からの資料の取り寄せ、 最高裁判所への照会、調査官による調査、研究所への照会、在外公館に対する調査 嘱託の方法等が用いられているようです。
6 二次的な情報として、大学の図書館や、家族法専門の法律事務所のホームページ の利用も有益といえます。 第5 外国判決の承認・執行 1 外国判決の承認・執行が問題となる場合 渉外離婚事件では、外国判決の承認・執行が問題となることがあります。問題と なるのは、次の3つの場合が想定されます。 第1に、外国ですでになされた外国判決に基づき、日本でその承認・執行の可否 を相談される場合 第2に、外国の裁判所に提起された訴訟の訴状が送付されたが、その対応につい て相談される場合 第3に、これから離婚しようという当事者から、外国で離婚判決を得た場合の日 本における効力や届出手続きについて相談された場合。 いずれも、日本における外国判決の効力の問題であり、外国判決の承認要件につ いて、民事訴訟法118条が規定しています。 2 民事訴訟法118条は外国判決の「承認」について定めた規定であり、外国判決 の執行には、民事執行法24条により執行判決が必要とされます。民事執行法24 条は、外国判決が民事訴訟法118条の各号の要件を満たすことを執行判決の要件 としています。 要件1 管轄 第1の要件は、判決をした外国裁判所が当該事件について国際裁判管轄を有して いることです。118条1号がいう「外国裁判所の裁判権が認められること」とは、 日本法の立場から見て、当該外国裁判所が当該事件について国際裁判管轄を有して いることの意味であり、いわゆる間接管轄と呼ばれるものです。 要件2 送達 第2の要件は、敗訴の被告に対し適切な呼出しがなされたことです。 この要件でよく問題となるのが、米国から訴状及び呼出状が被告に直接郵送され た場合にこの要件を満たすかという問題です。 この問題はハーグ送達条約10条 a の条項にも関わる問題であり、有効な送達で はないとされる可能性が高いのですが(東京地裁八王子支部平成9・12・8判タ 976号235頁参照)、結論としては現状不明確な状態にあり、実務上は送達要件 を満たしていないとして争う余地があります。 要件3 公序良俗 要件4 相互の保証 3 外国裁判所の離婚判決の届出 当該外国が離婚後の子どもの親権について共同親権制を採用し、判決の内容とし
7 て共同親権が定められている場合、そのような判決の届出により、戸籍には子の親 権者は両親と記されます。 第6 送達について 1 総論 外国送達は、民訴条約、送達条約、領事条約を締結している国との間ではこれら の条約を根拠として、条約を締結してない国との間では、二国間の取決め・協定が あればそれに基づき、それもない国との間では個別の司法共助の要請に基づき行わ れます。 弁護士としては、裁判所からの指示に従って必要な翻訳文の提出や費用の予納を 行えばよく、外国送達の手続の具体的な詳細や根拠の違いまでを知っている必要は ありませんが、それでも、手続の概要を知っておくことは依頼者に説明をする際に も有益です。 他方、外国の裁判所から日本への送達については、その有効性や応訴の要否につ いて相談を受けた場合などに、外国から日本に対する送達方法についても理解して おくことが有用です。 2 日本から外国への送達の実務(外国送達の種類とその違い) ① 領事送達 実務上、最も多く利用されています。領事送達は、他の送達方法よりも送達が 速く確実であり、かつ、送達の相手方が日本語を解する場合は翻訳文の添付の必 要がありません。しかし、任意の送達しかできないため、送達の相手方が受領を 拒んだ場合は、改めて、強制的な送達の手続をやり直さなければならないという リスクがあります。 ② 指定当局送達 民訴条約に基づく送達方法です。 ③ 中央当局送達 送達条約に基づく送達方法です。 いずれも、領事送達に比べれば時間がかかり、翻訳文の添付が必要です。他方、 相手方が受領を拒んだ場合でも送達が可能です。 ④ 管轄裁判所送達 二国間共助取決めや個別の応諾に基づき行われる送達方法です。 ⑤ 民訴条約に基づく外交上の経路による送達 3 翻訳文の添付と実務上の留意点 外国送達を必要とする事件では、翻訳の費用負担を軽減するために訴状の記載を できるだけ簡潔にする、提出する証拠も必要最低限なものにする等の工夫が必要で す、
8 4 送達に要する期間と実務上の留意点 領事送達は、他の送達方法に比べれば比較的短い期間で送達ができるが、それで も数ヶ月かかる場合が多く、他の方法では半年から1年かかることもあります。 5 外国から日本への送達の実務(外国からの送達の実際) ① 指定当局送達・②中央当局送達 日本では送達は裁判所が実施します。通常は特別送達によって行われます。 ③ 領事送達 在日領事館が送達の相手方の住所で文書を直接交付するか、又は、送達の相手 方を領事館に呼び出して文書を交付する方法により行われます。 領事送達の場合、任意の交付による送達しか許されず、送達の相手方が文書の 受領を拒絶した場合は、送達は不奏功となります。郵便による送達の場合、送達 の相手方が郵便物を受領拒絶することはできますが、開封前に限られます。 6 外国からの送達の効力が問題となる場合 ① 直接交付よる送達 米国を含む多くの国では、送達は私人が名宛人に直接文書を交付する方法によ り行われています。そのため日本にいる被告や相手方に対し、送達が直接交付の 方法によりなされることがあります。このような直接交付による送達の効力につ いて最高裁平成10年4月28日判決は、民訴法118条2号の要件を満たさな い不適法な送達であると判示しました。ただし、すべての直接交付送達が不適法 とされるわけではなく、あくまで事例判断であることに注意が必要です。 ② 郵便による送達 前述。 7 不適法な外国からの送達に関する相談への対応 直接交付による送達や翻訳文の添付のない直接郵便による送達である等、適法な 送達とは認められない場合は、応訴せずに判決が出ても、外国判決の承認のための 送達の要件を欠くとして事後的に当該外国裁判所の判決の日本における効力を争う 方法があることを説明することになります。 直接郵便による送達に送達受領書が同封されている場合、後日、判決の日本にお ける効力を争うことを考えるのであれば、送達受領書に署名して返送すべきではあ りませんが、その場合、公示送達により、判決が出る可能性があることを説明する ことになります。 当事者としては、送達が不適法であっても、積極的に応訴して管轄がないことを 主張して却下を求めることを希望する場合があります。その場合、応訴をすれば後 に外国裁判所の判決の日本における効力を送達の点については争えなくなることを 説明のうえ、当事者の判断に委ねることになります。 以上