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株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2018 年 4 月 27 日 全 5 頁

利上げを躊躇させる英国家計債務の増大

BOE が利上げを見送る理由

ユーロウェイブ@欧州経済・金融市場 Vol.106

ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト 菅野 泰夫

[要約]

 英国中央銀行(BOE)のカーニー総裁は、4 月 19 日の BBC のインタビューにおいて、市 場コンセンサスである 2018 年 5 月中の利上げに関し曖昧な発言に終始した。多くの金 融市場関係者が、5 月 10 日の次回金融政策委員会(MPC)での利上げを予想していた中 での見送り示唆は、大きなサプライズとして受け止められた。  利上げを躊躇する理由のひとつとして、英国の家計債務の急激な増加も挙げられる。 2017 年 11 月に英国の独立財政機関である予算責任局(OBR)が発表した 2017 年英国秋 季経済財政(見通し)報告書は、英国家計債務の急激な増加を指摘している。BOE はク レジットカードや自動車ローンなど住宅ローン以外の消費者信用の急激な拡大に警鐘 を鳴らしている。  足元の貯蓄率の大幅な低下も利上げを躊躇する要因のひとつであろう。今年 3 月に英統 計局(ONS)が発表したデータによると、2017 年の英国の貯蓄率は 1963 年以降の最低 水準となる 4.9%を記録している。BOE は、貯蓄率の低下に伴う、家計債務のさらなる 増大を警戒している。

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利上げ見通しが後退した BOE

英国中央銀行(BOE)のカーニー総裁は、4 月 19 日の BBC のインタビューにおいて、市場コン センサスである 2018 年 5 月中の利上げに関し曖昧な発言に終始した。多くの金融市場関係者が、 5 月 10 日の次回金融政策委員会(MPC)での利上げを予想していた中での見送り示唆は、大きな サプライズとして受け止められた。 カーニー総裁は、2018 年 2 月の MPC で早期追加利上げを示唆していた。足元、利上げに慎重 な姿勢に転じたのは、利上げの影響は時間を掛けて感じられるとしながらも、(昨年 11 月の 10 年ぶりの利上げ以降)足元 2018 年 3 月のインフレ率が 2.5%まで低下したことが挙げられる。 45 年ぶりの水準に低下した失業率や実質賃金の上昇など、いくつかの経済指標の好転を継続さ せたい思惑も、追加利上げに慎重な姿勢に転じた要因とみられている。 図表1 英国の消費者物価指数とBOEの見通し(2018 年 2 月) (出所)ONS、BOE より大和総研作成

英国の家計債務の急激な上昇

ただ追加利上げを早期に実施するかどうかは、BOE 内で議論が紛糾していることは容易に想像 できる。打つ手が限られている中、ブレグジットや財政政策を巡る不確実性という向かい風で、 英国は追加利上げに躊躇する理由が数多くあるのが実情であろう。 特にカーニー総裁が警戒しているのは、家計債務の急激な増加といわれている。2017 年 11 月 に英国の独立財政機関である予算責任局(OBR: Office for Budget Responsibility)が発表し

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た 2017 年英国秋季経済財政(見通し)報告書は、英国家計債務1の今後の見通しを示している。 英国の家計債務は、1990 年代後半から 2008 年のグローバル金融危機まで急増した。同報告書 によると、家計収入(可処分所得)に対する家計債務の割合は、1997 年末の 93%から危機前の 2008 年末には 157%まで急増したという。ただ危機以降の銀行の融資抑制により 2008 年のピー クから順調に債務削減が進み、2015 年末までに 133%までに低下した。とりわけ 2008 年から 2013 年までの 5 年間では家計債務総額は約 1.6 兆ポンド程度で安定し、世界経済の回復に伴う所得 増の恩恵も重なり同割合は順調に低下していたと指摘している。 しかし英国では、2016 年の EU 残留の是非を問う国民投票以降、大幅なポンド安によりインフ レ率が上昇したことで、実質賃金の低下を招き、貯蓄やクレジットカードを利用して日々の支 出をやりくりしている兆候が顕著になっているという。それ故、2015 年末を底にし、家計債務 は増加に転じ、2017 年第 2 四半期には総額 1.9 兆ポンド(同割合 140%)まで急増したことを 指摘している。OBR はこのペースを続けると、同割合は 2023 年までにグローバル金融危機が発 生した 2008 年のピークである 157%に匹敵する水準にまで上昇することを予測している。 図表2 英国の対家計収入費に占める家計債務の割合(左)と家計債務のフロー(右) (出所)OBR、BOE より大和総研作成 また BOE は、クレジットカードや自動車ローンなど住宅ローン以外の消費者信用の急激な拡 大に警鐘を鳴らしている。英国の家計債務フローを確認すると、クレジットカードの債務フロ ーは、(国民投票以降である)2016 年は前年から+40%と大幅な上昇を記録している。とりわけ 住宅ローンの金融機関の貸出厳格化に伴い、家計債務全体のフローが抑制されている中、2017 1 家計債務の定義は、個人が通常金融機関から借りるものであり、住宅ローン、個人ローン、学生ローン、クレ ジットカードによる借入を含む。

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年末のクレジットカード借入額は継続して増加している。BOE は、さらなる利上げ前に、金融機 関の貸出厳格化やリスク管理基準の強化による消費者信用の抑制も求めている。 家計債務の高止まりは、過剰債務を抱える個人はもちろん、幅広く経済全体へも影響が波及 する。債務の支払に追われ消費や住宅投資に向けた支出削減が起こることにより、企業の利益 を圧迫し経済成長を停滞させる要因となる。

英国経済のリスク要因、低貯蓄率が意味するもの

さらに、足元の貯蓄率の大幅な低下も追加利上げを躊躇する要因のひとつであろう。今年 3 月に英統計局(ONS)が発表したデータによると、2017 年の英国の貯蓄率は 1963 年以降の最低 水準となる 4.9%を記録した。2017 年はインフレ率の上昇と賃金の低迷が家計を圧迫し、貯蓄 率の低下を招いたとされる。貯蓄率は過去 55 年間で平均 9.0%を記録してきたが、所得や資産 の増税により可処分所得が急激に減少する中、(ラチェット効果2が働き)それに応じた消費抑制 が行われず、急激に低下したとされている3。国民投票以降に小売売上高は前年比プラス圏を推 移し、足元もほぼ横ばいとなっていることからもその傾向が読み取れる。 図表3 英国の貯蓄率の推移(左)と消費者信頼感および小売売上高(右) (出所)ONS より大和総研作成 このような中、BOE は貯蓄率の低下に伴う、家計債務のさらなる増大を警戒している。とりわ 2 インフレや増税などにより(実質的な)可処分所得が減少したときでも、消費はそれに伴い減少せず、貯蓄を 取り崩すなどにより、一定期間、同じ水準を維持しようとする現象。 3 ただし、貯蓄率は変動するものであり、将来の所得に自信があれば貯蓄せずに消費に回すため、低貯蓄率が即、 過剰消費を意味するわけではない。

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け貯蓄を使い果たし、生活水準を維持するためにさらに借入を増やすことを余儀なくされてい る若年層への警戒を強めているとされる。学生ローンが多額に残っている 20 代後半~30 代前半 は、返済を最小限に抑え、現時点の消費を優先する傾向がある。

利上げ感応度が高い住宅ローンも家計債務問題を深刻にさせる

利上げの最も大きな目的はインフレ率の抑制であるものの、利上げは(通貨高を誘発するな ど)様々なチャネルに影響を与える。借入の多様化が進んでいる英国では、企業や家計にその 影響が及ぶまでに相応の時間を有するといわれている。 一方、英国で利上げ時に即、影響が表れるのは住宅ローンの支払金利の増加であろう。長期 固定の住宅ローンが殆ど利用できない英国では(現実的な固定金利型ローンも 2 年~5 年程度)、 日本と比較して利上げに関して総じて家計への影響が大きい。英国各行が提供する変動金利型 住宅ローンでは、1 回の利上げ(+0.25%)で、平均で月額 10 ポンド~30 ポンド程度利払いが 増加することが指摘されている。また英国では収入対住宅ローン比が高いほど、利上げの有無 によらず債務を懸念して消費を抑えるとの調査結果も示されている。 英国が選択したブレグジットは、これまで進められてきたグローバル化を巻き戻すことを意 味し、持続可能かつ力強い経済拡大にとっては打撃となることには違いない。ただ、国民投票 以降も英国の家計が借入と消費を続けたことから、(ブレグジットという)政治的不安定要素が あったにも拘らず、経済成長が継続したと見る向きも多い。中銀の政策担当者は、これ以上債 務を増やしたくないものの、債務のデレバレッジには慎重にならざるを得ず、打つ手は限られ るのが実情であろう。G7 の内唯一、世界的な景気回復の恩恵を受けていない英国の利上げ判断 は家計債務の増大とともに慎重な舵取りが求められている。 (了)

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