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コムギ赤かび病に対する防除手法の検討

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Academic year: 2021

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植 物 防 疫  第66 巻 第 10 号 (2012 年) ― 34 ― 564 は じ め に コムギ赤かび病は,コムギの収量や品質に大きな影響 を及ぼす重要病害である。現在,我が国では,コムギの 生産子実において,赤かび病菌の一部が産生するかび毒 の一種デオキシニバレノール(以下DON と略)に関す る暫定基準値(1.1 ppm)および赤かび粒の限界混入率 (0.0%)が設定されている。したがって,コムギ栽培現 地(以下栽培現地と略)では本病に対する薬剤防除が必 須となっている。 宮城県では,主要コムギ品種として シラネコムギ お よび ゆきちから が栽培されている。本県では,これま で,コムギ赤かび病に対する薬剤防除回数を品種にかか わらず2 回としてきたが, ゆきちから については,赤 かび病に対する抵抗性が弱く,しばしば多発生が認めら れてきた(大場ら,2006)ことから,現在では,3 回の 薬剤防除を慣行としている。 一方,本県の赤かび病防除は,無人ヘリコプターを用 いた航空防除またはブームスプレーヤを用いた地上防除 (以下,地上防除と略)が広く行われている。このうち, 地上防除では水和剤が広く用いられ,その多くには,10 a 当たりの散布量は 60 ∼ 150 l」,「散布量は作物の 生育段階や栽培形態および散布手法に合わせ調整する」 と記載されている。しかし,ほとんどの栽培現地では, 本病に対する防除の重要性を考慮し,10 a 当たりの散布 量を最大の150 l としており,行政上も同様に指導して いる。しかし,それらの妥当性について検討した事例は ない。加えて,薬剤防除回数が他品種よりも多い ゆき ちから では,生産費に占める薬剤防除費の割合が高く なることから,栽培現地では,同等の効果を保ちながら, さらに効率的で低コスト化された防除手法の確立が強く 求められてきた。そこで,地上防除において,現行の農 薬希釈倍数のままで,単位面積当たりの散布量を低減で きるのか,できる場合にはどの程度まで可能であるかに ついて検討したので紹介する。 他方,本県では,広域でダイズが栽培されており,コ ムギとダイズを栽培している農家も多い。ダイズ栽培現 地の一部では,非選択性除草剤散布用として吊り下げ式 の畦間処理装置(商品名万能散布バー:北海道糖業社 製,以下吊り下げ式処理装置と略)が用いられている。 本装置は,散布部の高さや幅,角度の調整を自由に行う ことができ,作物の生育や栽植密度にかかわらず立体的 かつ効率的な薬剤散布が可能であることから,ダイズ圃 場における除草のみならず,子実病害虫の防除への適応 性があることも報告されている(笹原ら,2008)。そこ で,本装置が赤かび病防除にも利用可能であると考え, コムギ赤かび病防除への適応性を検討したので,その結 果を合わせて紹介する。 I 試 験 方 法 1 耕種概要等 (1 ) 供試コムギ品種 供試品種は ゆきちから を用いた。いずれの年も,宮 城県の標準播種時期に相当する10月15日前後に播種し, 播種方式は条間0.25 m,1 条 6 列の条播とした。基肥や 追肥の量および施用時期は,宮城県慣行に従った。なお, 試験は2009 年と 2010 年の 2 か年実施した。 (2 ) 供試薬剤 メトコナゾール水和剤の2,000 倍液を用いた。 2 地上防除における減量散布の可能性の検討 (1 ) 試験圃場 試験区として,10 a 当たりの散布量を,それぞれ,現 在の指導散布量である150 l のほか,100 l,75 l および 50 l,そして無処理区を設けた。さらに,それぞれの試 験区を3区に分け,すべてに赤かび病菌の接種区(1 m2) を設け,調査区とした(3 反復)。 (2 ) 赤かび病菌の接種 赤かび病の発生を促すため,各調査区に赤かび病菌胞 子懸濁液を接種した。供試菌株には,DON 産生型赤か び病菌(Fusarium graminearum,DON 5)(中島・吉田, 2007 ; SUGA et al., 2008)を用いた。供試菌株をマングビ ーン液体培地で振とう培養し,分生胞子を形成させ,2 ×105/ml に胞子濃度を調製した。展着剤として Tween 20 を 0.02%添加し,背負い式の動力噴霧器を用い,第 1 回目と第2 回目の薬剤散布の間および第 2 回目と第 3 回 目の薬剤散布の間に,10 a 当たり 100 l 換算で噴霧接種

コムギ赤かび病に対する防除手法の検討

大  場  淳  司

宮城県農林水産部農業振興課

Examination of Control Techniques for Fusarium Head Blight of Wheat.  By Atsushi OHBA

(キーワード:防除手法,コムギ,赤かび病,減量散布,吊り下 げ式処理装置)

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コムギ赤かび病に対する防除手法の検討 ― 35 ― 565 した。 (3 ) 薬剤散布 薬剤散布時期や散布回数は慣行に従い,開花始期,開 花始期の約10 日後および約 20 日後の 3 回防除とした。 なお,メトコナゾール剤の使用回数は2 回以内とされて いるが,本試験では,本剤の連用試験とした。散布は, ブームスプレーヤを取り付けた乗用管理機(ノズルはヤ マホSR―1.1)で行った。 なお,試験区ごとの薬剤散布量を調査し,それらを 10 a 当たりの散布量を換算することで,各区に計画通り の薬剤が散布されたか否かを確認した。 (4 ) 薬剤付着量調査 第1 回目の薬剤散布直後に,各区より 50 穂をランダ ムに採取し,冷蔵庫で保管した。その後,抽出溶媒(メ タノール/水= 80/20,v/v)50 ml を加え,振とう抽出 した後,HPLC でメトコナゾール量(有効成分量)を測 定した。 (5 ) 発病調査および DON 濃度調査 開花期から約20日後に各調査区の主茎50穂について, BAN and SUENAGA(2000)の手法に従い,発病穂率と 8 段 階の発病指数を調査し,発病度:Σ(発病穂率×発病指 数)を求めた。また,開花期からおよそ40 日後に調査 区の中央部(長さ約2 m)のコムギを刈り取り,ビニー ルハウス内で約1 週間自然乾燥した後,脱穀調整作業を 行い試験に供試した。なお,脱穀機で脱穀されなかった ものについては,手作業により脱穀し,両者をあわせて 子実とした。DON の分析には,Neogen 社製の ELISA キットを用いた。発色の測定は,Neogen 社製のマイク ロプレートリーダー(Awareness Miclowell reader, Cat, No。9302)を用いた。 3 吊り下げ式処理装置のコムギ赤かび病への適応性 の検討 (1 ) 試験区の構成 ムギ類栽培現地の赤かび病防除に最も一般的に用いら れている殺虫殺菌ノズル(ヤマホ工業株式会社製)を装 着したブームスプレーヤを乗用管理機に取り付けたもの を慣行区とし,同様に殺虫殺菌ノズル(株式会社サンエ ー製)を付けた吊り下げ式処理装置を装着したブームス プレーヤを乗用管理機に取り付けたもの(図―1)を試験 区(以下吊下区と略)とした。また,栽培現地で,強風 時などのドリフトを阻止するために用いられている除草 剤ノズル(ヤマホ工業株式会社製)を用いた区(以下除 草剤ノズル区と略)も設けた。 また,吊り下げ式処理装置は,ソリ型のバーに三つ叉 の散布部を上下2 箇所に配置したものであるが,本試験 では,下部ノズルの噴口は閉じ,上部ノズルのみの散布 とした。そして,上部ノズルをコムギ穂に対し上部斜め 45 度から噴霧されるように高さと角度の調整を行い, 試験に供した(図―2)。 (2 ) その他 赤かび病菌の接種や発病調査法等はいずれも2 と同様 とした。 II 結 果 と 考 察 いずれの試験でも,実散布量はいずれもほぼ計画通り の散布量であった(図略)。 1 地上防除における減量散布の可能性 2009 年は,発病度では,現行の 10 a 当たり 150 l 散布 区に対し,同100 l および 75 l 散布区では高い防除価を 示したが,同50 l 散布では効果が著しく劣った(図―3)。 一方のDON 濃度では,同 75 l 散布以下では防除効果が 乗用管理機 ← 吊り下げ式処理装置 (万能散布バー) (殺虫殺菌ノズル付) 図−1 試験に用いた吊り下げ式処理装置 ノズル開く → ノズル閉じる コムギ穂に上部斜 め45 度から噴霧 できるように高さ と角度を調整 図−2 試験に用いた吊り下げ式処理装置のノズル

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植 物 防 疫  第66 巻 第 10 号 (2012 年) ― 36 ― 566 劣る傾向が認められた(図―4)。2010 年についても,散 布量の減少とともに防除効果の低下が認められたが,発 病度では,10 a 当たり 50 l 散布区でも高い防除価を示し (図―3),DON 濃度でも同 75 l 散布以上で高い防除価を 示した(図―4)。 薬剤(有効成分)付着量は,両年ともに薬液散布量の 減少とともに低下した(図略)。 このように,試験を行った2 か年とも,現在指導して いる10 a 当たり 150 l 散布に対し,発病度,DON 濃度 ともに,同100 l 散布までは安定して高い防除効果が得 られた。そのため,本試験では,同100 l 散布までの散 布量の削減が可能であると結論づけることができた。こ のことから, ゆきちから の赤かび病防除に使用する薬 剤の量は,これまでの10 a 当たり 150 l から 100 l,すな わち2/3 に低減されたこととなり,防除コストを削減す ることが可能となった。 一方,10 a 当たり 75 l 散布以下の場合には,効果が安 定せず,防除効果が低い事例も見受けられた。しかし, 少発生条件下ではあるが,同75 l 散布以下でも高い効果 が得られた事例も認められたことから,使用するノズル なども含め,今後さらなる検討が必要である。 試験で用いたメトコナゾール水和剤,栽培現地で主に 使用されていたテブコナゾール水和剤およびチオファネ ートメチル水和剤は,いずれも浸透移行性を有する薬剤 である。防除体系を確立するうえでは,用いる薬剤の種 類,あるいはそれらの組合せにより効果が異なる可能性 も考えられる。したがって,特に浸透移行性のない,あ るいは同移行性の低い薬剤を用いる場合については,今 後さらなる検討が必要であろう。 2 吊り下げ式処理装置のコムギ赤かび病への汎用性 の検討 薬剤を散布した区では,ノズルの種類にかかわらず, いずれの区でも有意な防除効果が認められたが,吊下区 と慣行区では発病度およびDON 濃度の防除価が比較的 高かったが,除草剤ノズル区では他区よりもやや劣った (図―5,6)。 本試験から,吊り下げ式処理装置はコムギの赤かび病 防除に利用可能であるが,ノズルの目が粗い除草剤ノズ ルは,防除効果がやや劣ることが明らかとなった。通 常,赤かび病に対する薬剤防除は複数回行うのが一般的 であるが,コムギの本病感受性が最も高まるのは開花始 期∼開花期ころであることから(大場ら,2009),同時 期の防除,すなわち第1 回目にあたる防除を適期に行う ことが最も重要である。そのため,同時期の薬剤散布に 関しては,降雨時を避け確実に実施するよう指導するの が一般的であるが,本病の第1 回目防除に関しては,降 雨だけでなく強風時も避けることが重要となる。このこ とから,除草剤ノズルの使用が必要な強風時の防除は回 避し,防除に適した気象条件下で,慣行ノズルまたは吊 り下げ式処理装置を用いて薬剤散布を行う必要性がある と考えられる。 また,ノズル別のコムギ穂における薬剤(有効成分) 付着量は,吊下区で最も多く,除草剤ノズル区と慣行区 における付着量はほぼ同量であった(吊下区の40 ∼ 50%程度,図略)。つまり,慣行区と吊下区では防除効 果が同等であったにもかかわらず,吊下区で薬剤(有効 成分)付着量が多かった。本試験で供試したメトコナゾ ール剤は浸透移行性の高い薬剤であり,コムギ穂の一部 に薬剤が付着すれば,そこから有効成分が植物内に浸 0 20 40 60 80 100 0 3 6 9 12 150 l 100 l 75 l 50 l Cont 150 l 100 l 75 l 50 l 2009 2010 防除価 発病度 発病度 防除価 15 Cont 図−3  薬液散布量と赤かび病発病度の関係 いずれも地上防除,10 a 当たりの散布量(ブームス プレーヤに殺虫殺菌ノズルを装着). 0 20 40 60 80 100 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 150 l 100 l 75 l 50 l Con t 150 l 100 l 75 l 50 l Con t 2009 2010 防除価 DON濃度 (ppm) DON 濃度 防除価 図−4  薬液散布量と DON 濃度の関係 いずれも地上防除,10 a 当たりの散布量(ブームス プレーヤに殺虫殺菌ノズルを装着).

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コムギ赤かび病に対する防除手法の検討 ― 37 ― 567 透,移行して効果が得られる薬剤である。そのため,本 試験において慣行ノズルと吊り下げ式処理装置の効果は 同等であったが,浸透移行性が低い,あるいはない薬剤 を用いる際には,薬剤が植物に均一にかつ十分量散布さ れる必要性が生じることから,同量の薬液散布でも薬剤 付着量のより多い吊り下げ式処理装置を用いることが有 効であると推察できる。 一方,除草剤ノズルと慣行ノズルでは薬剤(有効成分) 付着量が同等であったにもかかわらず,除草剤ノズルで の防除効果が劣った。薬剤の付着状態などの影響が推察 されたが,今後さらにデータを蓄積し,考察したい。 他方,各区における薬剤飛散状況は,いずれのノズル でも,ノズル直下では薬剤の付着が確認されたが,外側 1 m および 2 m では付着は確認されず,今回の試験条件 下では,いずれのノズルでも問題となるような薬剤飛散 (ドリフト)は全く認められなかった。しかし,前述の ように,コムギの穂における薬液の付着量はノズルの種 類で異なったことから,コムギの穂のみに効率よく薬剤 が付着するノズルと,そうではないノズルがあることが 示唆されたが,この点については,さらなる詳細なデー タの蓄積が必要である。 以上,これまでの知見と本試験の結果を合わせると, コムギとダイズを栽培している農家では,本装置を用い ることで,個々のノズルの購入や交換等が不要となり, より効率的かつ省力的な防除が可能になると考えられた。 また,本試験では,いずれの試験区でも10 a 当たり の散布量を一律100 l としたが,吊り下げ処理装置は薬 剤(有効成分)付着量が多かったため,今後は同一濃度 での減量散布について検討する必要があると考えられる。 お わ り に 本試験結果により, ゆきちから の栽培現地では,こ れまでと同等の防除効果を保ちながら,低コストが図れ る防除手法を確立できた。しかし,ノズルの種類や,浸 透移行性等の薬剤特性,あるいはそれらの組合せ,薬剤 付着量と防除効果の関係等,新たな課題も見えてきた。 栽培現地では,昨今のコムギ栽培を取り巻く状況を考 慮し,低コストでより高い効果が得られることに加え, 環境負荷が少ないことも求められており,今後,これら の要望に応えられるよう防除技術開発を進めたい。 引 用 文 献

1) BAN, T. and K. SUENAGA(2000): Euphytica. 113 : 87 ∼ 99. 2) ・吉田めぐみ(2007): 日植病報 73 : 106 ∼ 111. 3) 大場淳司ら(2006): 北日本病虫研報 57 : 218(講要). 4) ら(2009): 日植病報 75 : 93 ∼ 101.

5) 笹原剛志ら(2008): 北日本病害虫研報 59 : 228(講要). 6) SUGA, H. et al.(2008): Phytopathology 98 : 159 ∼ 166. 0 20 40 60 80 100 0 2 4 6 8 10 12 14 吊下 除草 慣行 Cont 吊下 除草 慣行 Cont 防除価 発病度 発病度 防除価 a b a a a b a a 図−5  使用ノズルと赤かび病発病度の関係 慣行:ブームスプレーヤに殺虫殺菌ノズルを装着. 吊下:ブームスプレーヤに殺虫殺菌ノズルを付けた 吊り下げ式処理装置を装着. 除草:ブームスプレーヤに除草剤ノズルを装着. 散布量はいずれも100 l/10 a. 縦バーは標準誤差を示す. 同一品種間の同一英小文字間にはTukey―Kramer の HSD 検定結果. 0 20 40 60 80 100 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 吊下 除草 慣行 Cont 吊下 除草 慣行 Cont 防除価 DON濃度 (ppm) DON 濃度 防除価 a b a a a b a a 図−6  使用ノズルと DON 濃度の関係 慣行:ブームスプレーヤに殺虫殺菌ノズルを装着. 吊下:ブームスプレーヤに殺虫殺菌ノズルを付けた 吊り下げ式処理装置を装着. 除草:ブームスプレーヤに除草剤ノズルを装着. 散布量はいずれも100 l/10 a. 縦バーは標準誤差を示す. 同一品種間の同一英小文字間にはTukey―Kramer の HSD 検定結果.

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