植 物 防 疫 第 64 巻 第 9 号 (2010 年)
め,河川,養殖池等に飛散,流入しないよう注意して使
用することが必要である。
( 1 ) 人畜毒性(原体)
急性経口毒性(ラット): LD
50(雄)984 mg/kg,LD50(雌)1,205 mg/kg
急性経皮毒性(ラット)
:LD50(雄,雌)> 2,000 mg/
kg
急性吸入毒性(ラット)
:LD50(雌)5.1 mg/l
皮膚刺激性(ウサギ)
:刺激性なし
目刺激性(ウサギ)
:軽度の刺激性
皮膚感作性(モルモット)
:感作性なし
( 2 ) 水産動植物に対する影響(製剤)
コイ:LC50(96 時間)1.6 mg/l
オオミジンコ:EC50(48 時間)0.081 mg/l
藻類:EbC50(72 時間)0.28 mg/l
( 3 ) 有用昆虫,天敵に対する影響(製剤)
1) 蚕に対する影響
本乳剤散布(1,000 倍)は 10 日後まで影響があり,
20 日
以降は認められていない。
2) セイヨウミツバチに対する影響
本乳剤散布(1,000 倍)の施設栽培イチゴにおけるミツ
バチへの影響を,訪花活動および死亡個体数により検討
した。その結果,巣箱導入の 1 日前処理は,ミツバチ群
の訪花活動や群の維持に影響をほとんど与えないと推察
された。
3) クロマルハナバチに対する影響
本乳剤散布(1,000 倍)のマルハナバチに与える影響
について,施設栽培ミニトマトにおける訪花活動,巣箱
内部の卵房・幼虫・蛹・働き蜂・女王蜂について調査し
た。その結果,巣箱の散布翌日導入で影響はほとんどな
いと考えられた。
4) 天敵類に対する影響(表― 1)
カブリダニの 3 種,ハモグリコマユバチには直接的な
影響が強いが,影響日数が比較的短い。一方,タイリク
ヒメハナカメムシ,イサエアヒメコバチ,サバクツヤコ
バチ,ショクガタマバエに対しては本乳剤の実用希釈液
の直接処理でもほとんど影響が認められない。以上の結
果から有用昆虫に対する影響が小さいと言える。
は じ め に
レピメクチンは,三井化学アグロ株式会社が開発した
16 員環マクロライド骨格を有する新規殺虫剤で,放線
菌生産物ミルベマイシンを化学修飾して得られる半合成
天然物である。
2001 年よりレピメクチン 1.0%を含有する SI ― 0009 乳
剤が,野菜・柑橘・茶対象に日本植物防疫協会の新農薬
実用化試験で評価され,2010 年 5 月 19 日付けで殺虫剤
レピメクチン乳剤(商品名:アニキ
獏乳剤)として農薬
登録された。
以下に本剤の作用特性,安全性および特徴を紹介し,
今後の作物保護に貢献する一剤としてお役立ていただけ
れば幸いである。
I
有効成分と性状
1
有効成分
一般名:レピメクチン,lepimectin(ISO)
レピメクチンは,L.A3 と L.A4 との混合物である。
L.A3,L.A4 の化学名,物性は本誌第 64 巻第 7 号 76
ページ参照。
構造式:
2
製剤
レピメクチン乳剤(レピメクチン 1.0%含有)
商品名:アニキ
獏乳剤
II
安
全 性
レピメクチン原体およびその製剤の安全性を下記に記
す。人畜に対する安全性は高く,普通物相当に分類され
る。水産動植物(甲殻類)に対する影響が懸念されるた
OHL.A3
NOCH3 O O O O O O O OH H H OHL.A4
NOCH3 O O O O O O O OH H HCharacteristics of Lepimectin, a Novel Insecticide. By Reiji ICHINOSE (キーワード:レピメクチン,アニキ獏乳剤,殺虫剤,IPM)
新規殺虫剤レピメクチン剤の特徴と使い方
一
いちノ
の瀬
せ礼
れい司
じ三井化学アグロ
(株)
新規殺虫剤レピメクチン剤の特徴と使い方
ウでは処理 6 時間後には症状を呈し,その後速やかに死
に至る。速効性は本剤の特長の一つである(図― 2)
。
5
食害防止効果
本乳剤を処理した作物を摂取したハスモンヨトウは速
やかに食害を停止するため,害虫による食害を最小限に
抑える(図― 3)
。
6
温度別殺虫活性
本乳剤処理(1,000 ∼ 4,000 倍)はコナガ・ハスモン
ヨトウ幼虫に対し,10 ∼ 35℃の条件下で,安定した殺
III
レピメクチンの作用特性
1
殺虫スペクトラム
チョウ目害虫に加えて(表― 2)
,一部のハモグリバエ
類(ハエ目)
,コナジラミ類(カメムシ目)
,アザミウマ
類(アザミウマ目),コウチュウ目害虫やダニ目害虫に
も高い殺虫活性を示す(表― 3)
。そのため,複数の重要
害虫(例:チョウ目害虫と微小害虫)を同時防除できる
特性を有する。
2
作用機作
本剤を処理された害虫は,外部からの刺激に対して反
応を示さなくなり,麻痺したかのように動かなくなり,
静かに死に至る(図― 1)
。
害虫の神経―神経あるいは神経―筋の系では,興奮性
と抑制性(興奮を鎮める)の神経系が互いにバランスを
とりつつ機能している。神経生理学実験結果から,レピ
メクチンは抑制性神経系に作用し,神経膜の Cl
−イオン
チャンネルを「不可逆的に “開”」の状態にして,神経
興奮が伝達されないようにすると考えられている。
3
作用経路
本乳剤は,食毒,接触毒のいずれの作用経路でも速効
的に効果を発揮する。
4
効果発現速度(速効性)
本乳剤の害虫に対する効果発現は速く,ハスモンヨト
図 −1 レピメクチン乳剤(2,000 倍)処理したハスモンヨ トウ幼虫の症状(ポット植えキャベツ) 表 −1 レピメクチン乳剤の天敵類に対する影響 昆虫種 ステージ 試験方法(室内) 直接的な影響a) 影響日数の目安b) チリカブリダニ 成虫 寄生葉散布 × 7 日 ククメリスカブリダニ 成虫 寄生葉散布 × 3 日 a)死亡率 ◎:0 ∼ 30 %,○:31 ∼ 80 %,△:81 ∼ 99 %,×:100 %(日本バイオロジカルコントロ ール協議会の判定による). b)温室内ポット植えトマト,ナスにレピメクチン乳剤 1,000 倍希釈液を散布し,経時的にサンプリング し,天敵昆虫を放飼. c)(0 日):影響日数は調べていないが直接的な影響が低いことから影響はないと考えられる. スワルスキーカブリダニ 成虫 寄生葉散布 × 3 日 タイリクヒメハナカメムシ 成虫 ドライフィルム ◎ 0 日 イサエアヒメコバチ 成虫 ドライフィルム ◎ (0 日)c) ハモグリコマユバチ 成虫 ドライフィルム △ 1 日 サバクツヤコバチ 蛹(マミーカード) 薬液浸漬 ◎ (0 日)c) 成虫 ドライフィルム ◎ (0 日)c) コレマンアブラバチ 成虫 ドライフィルム ○ 0 日 ショクガタマバエ 成虫 ドライフィルム ◎ (0 日)c) ナミテントウ 成虫 虫体薬液浸漬 ○ (0 日)c)植 物 防 疫 第 64 巻 第 9 号 (2010 年)
虫効果(100%の死亡率)を示しており,殺虫効果に温
度の影響がない剤と考えられる。
7
ステージ別殺虫活性
チョウ目害虫のコナガ・ハスモンヨトウに対しては若
齢幼虫から老齢幼虫までのすべてのステージに対して高
い殺虫活性を発揮する(表― 4)
。カメムシ目のコナジラ
ミ類に対しては特に一齢幼虫そして成虫に高い殺虫活性
を示す(表― 5)
。
8
作物葉への浸達性
本乳剤をキャベツ葉の表の表面だけに散布し,葉の裏
面に接種したコナガ幼虫にも高い殺虫効果が認められ
反 応 率 ︵ % ︶ 100 80 60 40 20 0 処理後時間 1 2 6 9 24 48 96 苦悶 死亡 図 −2 ハスモンヨトウ 5 齢幼虫に対する作用発現速度 レピメクチン乳剤 2,000 倍希釈液(グラミン S 3,000 倍加用)にキャベツ葉を 10 秒間浸漬し,風乾後ハス モンヨトウ(三井化学アグロ(株)累代飼育・感受性 系統)5 齢幼虫を接種し,経時的に効果発現状況を調 査した.1 区 2 頭,5 反復. 表 −2 レピメクチンの殺虫スペクトラム(チョウ目) 科 害虫名 処理 ステージ 処理方法 LC50 (ppm)a) ハマキガ科 チャノコカクモン ハマキ 4 齢幼虫 人工飼料 浸漬 0.18 リンゴコカクモン ハマキ 4 齢幼虫 人工飼料 浸漬 0.54 a)3 日後の補正死亡率より算出. ミダレカクモンハ マキ 3 齢幼虫 人工飼料 浸漬 0.10 スガ科 コナガ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 0.07 イラガ科 ヒロヘリアオイラガ 5 齢幼虫 サクラ葉 浸漬 < 1 ツトガ科 ハイマダラノメイガ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 < 1.25 アゲハチョ ウ科 アゲハ 4 齢幼虫 ミカン葉 浸漬 0.66 シ ロ チ ョ ウ科 モンシロチョウ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 0.05 ヒトリガ科 アメリカシロヒトリ 3 齢幼虫 ハナミズ キ葉浸漬 < 0.1 ヤガ科 カブラヤガ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 0.10 タマナギンウワバ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 0.11 オオタバコガ 3 齢幼虫 人工飼料 浸漬 0.02 シロイチモジヨトウ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 0.09 ハスモンヨトウ 3 齢幼虫 キャベツ 葉浸漬 0.04 表 −3 レピメクチンの殺虫スペクトラム(アザミウマ・カメム シ・コウチュウ・ハエ・ダニ目害虫) 目 害虫名 処理 ステージ 処理方法 LC50 (ppm) アザミ ウマ目 ミカンキイロアザ ミウマ 1 齢幼虫 寄生インゲン葉 散布 1.30 ミナミキイロアザ ミウマ 1 齢幼虫 寄生キュウリ葉 散布 3.17 カメム シ目 ワタアブラムシ 無翅成虫 寄生キュウリ葉 散布 0.97 モ モ ア カ ア ブ ラ ムシ 無翅成虫 寄生コマツナ葉 散布 0.78 タバココナジラミ (バイオタイプ B) 1 齢幼虫 寄生キャベツ葉 浸漬 0.56 成虫 キャベツ葉散布 < 1.25 タバココナジラミ (バイオタイプ Q) 1 齢幼虫 寄生ピーマン葉 浸漬 0.59 成虫 ピーマン葉散布 < 1.25 オ ン シ ツ コ ナ ジ ラミ 1 齢幼虫 寄生キュウリ葉 散布 1.17 コウチ ュウ目 ニジュウヤホシテ ントウ 2 齢幼虫 トマト葉浸漬 0.13 キスジノミハムシ 成虫 ダイコン葉浸漬 1.03 コロラドハムシ 成虫 馬鈴薯葉浸漬 < 0.30 ハエ目 ト マ ト ハ モ グ リ バエ 卵∼ 1 齢 幼虫期 寄生インゲン葉 散布 < 2.50 成虫 インゲン葉散布 < 2.50 マメハモグリバエ 卵∼ 1 齢 幼虫期 寄生インゲン葉 散布 < 2.50 成虫 インゲン葉散布 < 2.50 ダニ目 チャノホコリダニ 成虫 寄生ナス葉浸漬 < 0.10新規殺虫剤レピメクチン剤の特徴と使い方
9
圃場での効果
本乳剤の圃場における害虫防除効果の一例として,日
本植物防疫協会で行われた新農薬実用化試験成績を図―
4,5 に示す。はくさいのハスモンヨトウに対し,1,000
倍液を散布した場合,
実用性の高い結果が得られている。
同じく,トマトのコナジラミ類(バイオタイプ Q)
る。本乳剤が浸達性を有し,有効成分が葉表から葉内へ
と浸達した結果と判断される。ただ農業の現場で害虫防
除を的確に行うためには,当然のことではあるが葉裏に
薬液が十分にかかるようていねいな散布が肝要である。
なお,本剤には植物体内での浸透移行性はない。
表 −4 チョウ目害虫(コナガ・ハスモンヨトウ)に対する生育 ステージ別殺虫活性(キャベツ葉浸漬試験) コナガa) a)三井化学アグロ(株)累代飼育・感受性系統. b)3 日後の補正死亡率より算出. ハスモンヨトウa) レピメクチン乳剤(1,000 倍) レピメクチン乳剤(2,000 倍) 無処理 図 −3 レピメクチン乳剤の食害防止効果 キャベツ葉を薬液に浸漬後,ハスモンヨトウ(三井 化学アグロ(株)累代飼育・感受性系統)3 齢幼虫を, 1 区当たり 10 頭接種した.3 日後に調査.2 反復. 生育ステージ LC50(ppm)b) 卵 2 齢幼虫 3 齢幼虫 4 齢幼虫 蛹 成虫 > 10 0.032 0.072 0.318 > 10 > 10 生育ステージ LC50(ppm)b) 卵 1 齢幼虫 3 齢幼虫 5 齢幼虫 蛹 成虫 > 10 0.007 0.043 0.071 > 10 > 10 表 −5 レピメクチン乳剤のコナジラミ類に対する 生育ステージ別殺虫活性 希釈倍数 補正死亡率(%) 卵a) 1 齢幼虫b) 4 齢幼虫b) 成虫c) 1,000 7 100 87 100 希釈倍数 補正死亡率(%) 卵a) 1 齢幼虫b) 4 齢幼虫b) 成虫c) 1,000 2 99 71 100 a)ピーマン(タイプ Q),キャベツ(タイプ B) 葉リーフディスクに産卵させた 1 日齢卵に薬液散 布,6 日後調査. b)ピーマン(タイプ Q),キャベツ(タイプ B) 葉リーフディスク上で所定齢期まで成育させた幼虫 に薬液散布,6 日後調査. c)ピーマン(タイプ Q),キャベツ(タイプ B) 葉リーフディスクに薬液を散布後,成虫を放飼し, 5 日後調査. バイオタイプ Q バイオタイプ B 2,000 3 100 59 100 4,000 5 99 21 100 2,000 4 98 40 100 4,000 6 87 2 66植 物 防 疫 第 64 巻 第 9 号 (2010 年)
IV
登 録 内 容
レピメクチン乳剤の登録内容は,表― 6 のとおりであ
る。今後,作物ではだいず・えだまめ・かんしょ・ピー
マン・メロン・ほうれんそう・カリフラワー・非結球ア
ブラナ科葉菜類・非結球レタス・アスパラガス・きゅう
り・さやいんげん・かぶ,害虫ではウワバ類・チャノホ
コリダニ・ネギアザミウマ・キスジノミハムシへの適用
拡大が予定されている。
使用上の注意は本誌第 64 巻第 7 号 76 ページ参照。
に対し,2,000 倍液を散布した場合,蛹数の減少では対
照薬と同等の高い効果が認められた。
10
現地採取害虫に対する効果
2004 年以降主要産地からハスモンヨトウを採取し,
感受性検定を実施した。採取した個体群に対して安定し
た効果を確認した(図― 6)
。
11
作物に対する安全性
本乳剤は,これまで実施された新農薬実用化試験にお
いて薬害の認められた事例はなく,各種作物に対して高
い安全性が確認されている。
表 −6 登録内容(2010 年 5 月 19 日) 作物名 適用害虫名 希釈倍数 使用液量 使用時期 使用回数 使用方法 レピメクチン を含む 農薬の 総使用回数 いちご ハスモンヨトウ 2,000 倍 100 ∼ 300 l/10 a 収穫前日まで 3 回以内 散布 3 回以内 トマト ミニトマト オオタバコガ ハスモンヨトウ ハモグリバエ類 コナジラミ類 ミカンキイロアザミウマ 1,000 ∼ 2,000 倍 なす オオタバコガ ハスモンヨトウ トマトハモグリバエ 2,000 倍 キャベツ コナガ アオムシ ハスモンヨトウ ハイマダラノメイガ タマナギンウワバ 1,000 ∼ 2,000 倍 収穫 3 日前まで はくさい コナガ アオムシ ハスモンヨトウ ハイマダラノメイガ だいこん コナガ アオムシ ハイマダラノメイガ ブロッコリー コナガ レタス オオタバコガ ハスモンヨトウ ねぎ シロイチモジヨトウ 茶 チャノコカクモンハマキ 200 ∼ 400 l/10 a 摘採 7 日前まで 2 回以内 2 回以内 みかん チャノキイロアザミウマ ミカンハモグリガ アゲハ 200 ∼ 700 l/10 a 収穫前日まで 4 回以内 4 回以内 かんきつ (みかんを除く) 収穫 3 日前まで新規殺虫剤レピメクチン剤の特徴と使い方 1 区10株当たり虫数(蛹) 散布前 散布 3 日後 散布 7 日後 散布 16 日後 レピメクチン乳剤 2,000 倍 0 0 0 0 0 0 0 0 5.0 44.0 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 156.5 散布前 散布 3 日後 散布 7 日後 散布 16 日後 M 剤 1,000 倍 散布前 散布 3 日後 散布 7 日後 散布 16 日後 無処理 13.0 図 −5 レピメクチン乳剤のトマトのコナジラミ類(バイオタイプ Q)に対する防除効果(熊本農 研センター,2005) 10 株 当 た り の 幼 虫 数 30 レピメクチン乳剤 (1,000 倍) 103 2 2.6 1 60 90 120 0 A 乳剤 (1,000 倍) 106.6 6.7 2 1.3 無処理 108.7 67.9 67.6 86.4 処理前 3 日後 7 日後 10 日後 図 −4 レピメクチン乳剤のはくさいのハスモンヨトウに対する防除効果(日植 防高知試験場,2005)
植 物 防 疫 第 64 巻 第 9 号 (2010 年)