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焼結部品の精度と強度の両立を可能にするレーザー焼入れ技術

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Academic year: 2021

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50 焼結部品の精度と強度の両立を可能にするレーザー焼き入れ技術

耐摩耗性や疲労強度向上が局所的に必要な部品を焼入れする場合、一般的に高周波焼入れが用いられてきた。しかし、部品形状によっ ては、大きな焼入れ歪の発生や余分な部位に焼きが入ることが避けられなかった。これを解消するための焼入れ技術として、レーザー 焼入れ技術があり、近年レーザー発振器の低価格化が進み、この技術の工業化が可能になってきた。そこで、われわれはレーザー焼入 れの焼結材部品への適用可能性を検証した。

In recent years, industrial application of laser hardening has been made possible due to technological advancements, resulting in lower equipment costs of laser oscillation machines. Laser hardening utilizes surface hardening technology through laser irradiation and generates less heat than induction hardening. Another advantage of laser hardening is its ability to harden local areas that are not accessible by induction hardening. The use of this technology on sintered parts will lead to new applications due to its inherent advantage in near net shape manufacturing. Laser hardening was performed on various types of sintered materials, and the parts were evaluated for process optimization. Laser hardening was also performed on products in various shapes that are difficult to harden with other surface hardening techniques. The application of this technology for a wide range of products was also investigated.

キーワード:焼結材、レーザー焼入れ

焼結部品の精度と強度の両立を可能にする

レーザー焼入れ技術

Application of Laser Hardening Technology to Sintered Parts

佐藤 誠

足立 有起

本山 裕彬

Makoto Satou Yuuki Adachi Hiroaki Motoyama

1. 緒  言

レーザー焼入れとは、加熱源にレーザー光を用いて焼入れ する技術である(1)。従来、レーザー光は加工や溶接には広く 用いられてきた。近年、レーザー発振器のコストの低下によ り、レーザーによる焼入れの工業化が可能になってきた。当 社でも、2014年の3月からレーザー焼入れ設備を導入し、 焼結材部品への適用可能範囲の検証に取り組んだので、その 結果を報告する。

2. レーザー焼入れの原理

レーザー焼入れ設備の基本構成は、レーザー発振器、光 ファイバーおよび光学レンズである(図1)。ビーム形状は強 度分布が均一なトップハット型である。レーザー焼入れにお ける加熱・冷却過程を図2に示す。加熱過程において、レー ザーを照射された部分は0.1秒オーダーの短時間でオーステ ナイト化温度※1まで加熱される。照射が完了すると、部品内 部への熱伝導で急速に温度が下がり、この自己冷却により焼 きが入る(2)。レーザー光を照射された部分のみが発熱するた め、加熱部周辺への熱影響を極めて小さくすることができる。 焼入れ必要部位がスポット光サイズ以内であれば、定置 1点の照射で焼入れする。焼入れ必要部位が広い場合は、ス ポット光を移動させながら焼入れし、所定の焼入れ範囲を得 る(図3)。ビームのスポットサイズは、光学レンズを取り換 えることで、一辺数mm~十数mmまで変更可能である。 コリメーション レンズ フォーカス レンズ 保護ガラス 光ファイバー レーザー発振器 ・半導体レーザー ・940nm, CW ・最大出力3kW ビームプロファイル 光学レンズ トップハット型 図1 レーザー焼入れ設備の基本構成

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2016 年 1 月・S E I テクニカルレビュー・第 188 号 51

3. 適用結果

3-1 各種焼結材料への適用 (1)Fe-2Cu-0.8C 焼結材の組成として一般的なFe-2Cu-0.8C材にレーザー 焼入れを行い、その材質を評価した。評価はスポット焼入れ を行ったサンプルの断面で行った(図4)。組織観察及びビッ カース硬度※2の分布を測定した結果を図5に示す。焼入れ部 は均一なマルテンサイト組織※3で、焼入れ性を向上させる 合金元素を含まない本組成でも、焼入れに必要な急冷が自己 冷却で十分であることを確認できた。また、硬度分布も良好 な焼入れ品質を示した。 (2)Fe-2Cu-0.5C 焼結材は鋼材と比較してミクロ組織が不均一になりやす く、特に0.7C以下の組成の場合、粗大なフェライト粒が点 在する場合がある。短時間加熱であるレーザー焼入れでは、 これらが残留フェライトとして残る懸念があった。そこで、 Fe-2Cu-0.5C材へのレーザー焼入れを行い、材質を評価し た。その結果、均一な表層マルテンサイト組織を得ることが でき、硬度分布も良好な結果を得た(図6)。 (3)Fe-4Ni-0.5Mo-1.5Cu-0.5C 素材に複数の組織相が混在する合金系材料のFe-4Ni-0.5Mo-1.5Cu-0.5C材におけるレーザー焼入れの材質評価を 行った。この結果においても、他の焼入れ方法で得られるも のと同様の焼入れ組織および良好な硬度分布を得た(図7)。 加熱過程 冷却(焼入れ)過程 レーザー光 ワーク 加熱部 (オーステナイト化) レーザー照射 自己冷却部 (マルテンサイト化) 熱伝導(急冷) ワーク内部へ 熱伝導 照射口 硬化層 スポット光 照射位置 移動方向 外観 断面 硬化層 5mm 5m m 5mm 組織観察 硬度分布測定 図2 レーザー焼入れの過熱・冷却過程 図3 レーザー光の照射 図4 スポット焼入れ 均一なマルテンサイト組織 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 硬度分布 ビ ッ カ ー ス 硬 さ (2 00 gf ) 深さ(mm) 50μm 素材組織 (パーライト+フェライト) 焼入れ部組織 (均一なマルテンサイト) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 硬度分布 ビ ッ カ ー ス 硬 さ (2 00 gf ) 深さ(mm) 50μm 50μm レーザー 焼入れ 図5 Fe-2Cu-0.8C材レーザー焼入れ部 図6 Fe-2Cu-0.5C材レーザー焼入れ部 素材組織 (ベイナイト+フェライト+Ni リッチオーステナイト) 焼入れ部組織 (マルテンサイト+Niリッチ オーステナイト) 0 100 200 300 400 500 600 700 800 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 硬度分布 ビッカース硬さ (200gf ) 深さ (mm) 50μm 50μm レーザー 焼入れ マルテンサイト 組織を測定 図7 Fe-4Ni-0.5Mo-1.5Cu-0.5C材レーザー焼入れ部

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52 焼結部品の精度と強度の両立を可能にするレーザー焼き入れ技術 以上の材質評価結果より、レーザー焼入れが焼結材への焼 入れ方法として適用できることを確認した。 3-2 各種形状への適用 レーザー焼入れの、各種形状製品への適用可能性を検証し た。基本的に、レーザー焼入れはスポット光が届く部位であ れば焼入れが可能である。 (1)局所焼入れ 局所部に焼入れした例を図8に示す。このようなスポット 部の焼入れを行う場合、高周波焼入れでは焼入れ不要部分へ の加熱を避けることができなかった。一方レーザー焼入れで は、必要箇所のみにピンポイントに加熱・焼入れができる。 (2)円周状焼入れ 円周状に焼入れを行った例を図9に示す。このような形状 の焼入れを行う場合、円周形状の1点にスポット光を当てな がらワークを回転させて焼入れを行う。フラット面の焼入れ は、従来の高周波焼入れと同様に行うことができる。また、 複雑な曲面は高周波焼入れでは均一な硬化層を得ることが難 しかったが、レーザー焼入れでは容易である。 以上の結果から、レーザー焼入れは部分的に焼入れする必 要のある各種形状の製品に適用できることを確認した。 3-3 レーザー焼入れの利点 (1)品質上の利点 レーザー焼入れを適用することの利点を検証した。レー ザー焼入れは、高周波焼入れと比較しても少ない加熱で焼入 れできるため(図10)、焼入れ歪の低減や、焼割れの防止に 効果的である。レーザー焼入れを行った製品と、高周波焼入 れを行った製品の熱処理変形量の比較を図11に示す。同じ 焼入れ深さを得る焼入れでも、レーザー適用品は高周波のも のより変形量を小さくできる。 また、レーザー焼入れは、焼入れが必要な部分と焼入れ が許容されない部分が隣接した製品の場合にも有効である。 図12のような、後加工(タップ穴加工等)がある付近を焼入 れすることも、レーザー焼入れであれば容易である。従来の 高周波焼入れでは、このような選択的な部分焼入れは困難で あった。 例1(凸部頂点) 例2(穴内面) 外観 断面 外観 断面 硬化層 硬化層 図8 局所部焼入れ例 高周波による加熱 レーザーによる加熱 加熱部 (オーステナイト化) コイル ワーク 加熱部 (オーステナイト化) オーステナイト化 温度以下 図10 加熱範囲の比較 例2(曲面) 例1(フラット面) 断面 外観 外観 断面 硬化層 硬化層 図9 円周部焼入れ例 -0.025 -0.020 -0.015 -0.010 -0.005 0.000 0.005 0.010 0.00 0.01 0.01 0.02 0.02 0.03 0.03 高周波焼入れ レーザー焼入れ 内径真円度 内 径 収 縮 量 (m m ) 焼 入 れ 前 高周波焼入れ後 (焼入れ深さ0.5mm) 内 径 ワーク断面 焼入れ箇所(円周端面) レーザー焼入れ後 (焼入れ深さ0.5mm) 図11 熱処理変形量の比較

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2016 年 1 月・S E I テクニカルレビュー・第 188 号 53 レーザー焼入れは、これまで焼入れ後の寸法精度確保が難 しかった製品や、焼入れ適用が困難だった製品にも利用でき る有効な手段である。 (2)工程上の利点 その他、レーザー焼入れ工程を導入した場合の利点を評価 した。 (a)極めて小さな入熱での焼入れ  ① 焼入れひずみが小さいため、焼もどしや後加工を省略 できる可能性がある。  ② 焼入れの後のワークの残熱が小さく、搬送設備等への 熱によるダメージの心配が少ない。 (b)自己冷却のため水や油の焼入れ剤が不要  ①ワークの汚れがない。  ②作業環境が清浄である。  ③後工程の設備を汚す心配がない。  ④焼入れ剤の冷却能や濃度管理が不要である。  ⑤冷却条件の管理が不要である。 (C)その他  ① 保護ガラスを定期的に洗浄する程度で照射状態を維持 でき、メンテナンスしやすい。  ② 発振器から焼入れ部まで光ファイバーでつなげるた め、設備のレイアウトがしやすい。  ③ 光学レンズの交換でスポットサイズを選択でき、加 熱箇所を選ぶ自由度も高いため、試作リードタイムが 短い。

4. 結  言

今回の検証でレーザー焼入れを焼結材部品にも広く適用で きることを確認した。低歪・局所的に焼入れできるレーザー 焼入れは、焼結材のニアネットシェイプ成形※4の利点を更 に生かすことが可能である。今後のレーザー焼入れ技術の焼 結材部品への適用拡大が期待される。 用 語 集 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※1 オーステナイト化温度 鉄-炭素系材料の焼入れに必要な加熱温度。 ※2 ビッカース硬度 金属材料を評価する際に最も一般的に用いられる硬さの定義。 ※3 マルテンサイト組織 焼入れした部分に現れる鉄の微視組織。 ※4 ニアネットシェイプ成形 原材料を直接最終製品に近い形状品にすること。 参 考 文 献 (1) 丸尾大、宮本勇、石出孝、荒田吉明、「レーザ焼入れの研究」、溶接学 会誌、第50巻、第2号、pp.82-88(1981) (2) 萩野秀樹、山口拓人、「レーザ焼入れおよびレーザ合金化」、スマート プロセス学会誌、第1巻、第6号、pp.262-267(November 2012) 執  筆  者

---佐藤  誠* :住友電工焼結合金㈱ 主任技師 足立 有起 :住友電工焼結合金㈱ 主席技師 本山 裕彬 :住友電工焼結合金㈱

---*主執筆者 外観 断面 硬化層 穴部(後加工あり) 穴部(後加工あり) 図12 後加工のある部位付近の焼入れ

参照

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