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東京女子医科大学学会 第57回総会抄録
〔特別講演〕 熱傷治療の進歩と私達の夢 (形成外科)平山 峻 広範囲重症熱傷ではショック期,感染期,潰瘍期と いう全くphaseの異なった反応を僅か1ヵ月の短期 間内に示すものである.これらの治療に当る医師はま ず患者が現在どのphaseにあるかについて的確な判 断を下し,素早く救急治療を開始すべきであろう. 現代医学の進歩により重症熱傷初期に現われる ショック状態は現今ではほとんど抑制,治療すること が可能となったが,諸種の感染問題,とくにMRSA感 染により患者の一命を失う症例が極めて多い.感染予 防に当っては当然のことではあるが,局所,全身治療 を必要とする.然しながら如何なるすぐれた抗生剤が 使用されても局所に蔓延する細菌群はやがて耐性を示 すものであり,要は細菌と人智との競争といわざるを 得ない. 感染を的確に予防する最強の武器とは生着しうる植 皮術を早期に行うことであり,その点自家,同種植皮 術が最もすぐれている方法といえよう.ごく最近考案 されつつある永久生着を示す人工皮膚の使用は重症熱 傷の感染予防に最も効果的な治療法といえよう. 今回は私達が東京女子医大熱傷ユニットで行ってい るショック,感染の治療法について述べ且つ,人工皮 膚の治験についても言及する.なお,現在東京都熱傷 救急医療の現況も適わせて報告し,来る21世紀の様々 な熱傷治療法についても述べる. 〔シンポジウム〕MRSA感染症と対策
(臨床中央検査部)菊池 賢 Ehlichが“Modern chemotherapy”を提唱した化学 療法の幕開けからかれこれ1世紀が過ぎようとしてい る,この間,次々に発見された抗菌物質により,駆逐 されていった感染症は数知れない.しかし,微生物は “耐性”を獲得することでこれに対応してきた.いわゆ る菌と人間の叡知のいたちごっこがここに始まった. このような耐性菌の歴史の中で絶えず重要な位置を占 め,主役を演じてぎた菌に黄色ブドウ球菌がある.現 在,マスコミにも大きく取り上げられているように, 院内感染源として,多剤耐性菌として,あるいはtoxic shock syndromeのような新しい重篤な感染症を起こ す起因菌として最も問題になっている菌であることは 周知の通りである.今回このシンポジウムではこのMRSAの現状を踏まえ,特に院内感染源としての
MRSAの対処につき自験例を混じえてお話しする予
定である.MRSA感染症の化学療法
(臨床中央検査部)長谷川裕美 Methicillin・resistant s’αρ勿106066%∫ 傭γ6%s (MRSA)感染症の抗菌薬療法として,近年,種々の併 用療法が試みられている.特に,immunocompromisedhostのMRSA感染症の増加が問題となっている現
在,生体にとっては安全で,且つ,より強力な抗菌効 果が期待できる治療法が必要となっており,抗菌薬療 法もその投与方法(投与:量,投与時間,投与順序,投 与間隔など)が注目されている.本シンポジウムでは,vancomycin(VCM)の使用法,またはVCMとβ一ラ
クタム剤との併用投与方法,ならびに,fosfomycinと β・ラクタム剤,minocyclineとβ・ラクタム剤の併用投 与方法について,特に,投与量,投与時間,投与順序を中心に,in vitroおよびin vivo実験の結果を述べて
みたい.また,抗菌効果の判定としては,従来より行
われている殺菌作用の他に,PAE(postantibiotic
effect),すなわち,再増殖抑制効果を考慮した新しい 指標についても検討し,より有効な抗菌薬投与法につ
いて述べてみたい.
Toxic shock syndrome
(消化器内科)春木 宏介 Toddらによって1978年に提唱されたtoxic shock syndromeはブドウ球菌が産生するTSST−1によ.り DIC,ショックなど多彩な症状を示し致命率の高い疾 患である.1980年代にアメリカで生理期間中にタンポ ンより感染し,発症した例が多発して以来,、主に婦人 科領域の疾患であった.しかし近年婦人科以外でも数 多く報告され注目を集めている.起因菌は黄色ブドウ 球菌(S寄藻06006%εσ娩%s)であり,毒素はTSST−1, エンテロトキシンA,B, Cなどが知られている.臨床 一606一