障害者療護施設の入所者を対象として−
著者
相馬 大祐
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
社会福祉学
報告番号
32663甲第384号
学位授与年月日
2015-03-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007159/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja氏 名( 本 籍 地 ) 相 馬 大 祐(埼玉県) 学 位 の 種 類 博士(社会福祉学) 報 告・ 学 位 記 番 号 甲第384号(甲福第51号) 学 位 記 授 与 の 日 付 平成27年3月25日 学 位 記 授 与 の 要 件 本学学位規則第3条第1項該当 学 位 論 文 題 目 障害者入所施設の機能の変化に関する研究 -旧身体障害者療護施設の入所者を対象として- 論 文 審 査 委 員 主査 教授 小 林 良 二 副査 教授 博士(社会福祉学) 秋 元 美 世 副査 教授 博士(社会福祉学) 稲 沢 公 一 副査 元本学教授/西九州大学教授 博士(社会福祉学) 古 川 孝 順 副査 元本学教授/筑波大学大学院教授 博士(保健学) 小 澤 温 【論文の要旨】 2000年代に入って本格的に推進された社会福祉基礎構造改革により、社会福祉サービ スの提供を従来の措置制度から利用制度へと転換して利用者によるサービスの選択を基本 とするシステムに変え、施設中心のサービスから地域サービスを中心とする体制に切り替 える施策が展開されてきた。 障害者福祉の分野では、2003年の支援費制度の導入、2006年の障害者自立支援法の施行、 2013年の障害者総合支援法の施行へとさまざまな改革が行われてきたが、これによって、 長年の入所施設整備の方針を抑制し、入所者を削減して地域生活移行施策を重点的に展開 すること、障害者入所施設については全体を障害者支援施設とし、夜間に「施設入所支援」 を行ない、日中は「生活介護」等を行う施設であるとした。 このような制度改革をふまえ、障害者入所施設がどのような機能を果たしているのかを 実態に即して検討することには重要な意義がある。 相馬大祐氏の学位請求論文『障害者入所施設の機能の変化に関する研究―旧身体障害者 療護施設の入所者を対象として―』は、このような障害者入所施設を取り巻く状況の変化 を念頭に置いて、障害者入所施設がその機能をどのように変化させてきたか、また今後ど のような機能が重要になっているかを明らかにしている。
本論文の構成と内容は次の通りである。 序章 研究背景と目的 1章 入所施設の機能の変化を捉える枠組み 2章 入所施設の機能に関する文献研究 3章 日本の障害者入所施設施策の展開 4章 旧身体障害者療護施設への施設入所に至るまでの経緯 5章 地域生活移行の意向に関する研究 6章 施設入所の経緯と地域生活移行の検討 7章 市区町村・相談支援事業所における入所希望者への対応 終章 入所施設機能の変化と今後の入所施設のあり方 以下、各章の内容を要約する。 序章では、研究の背景、目的及び研究の方法等について述べている。 研究の背景としては、障害者福祉制度の改革に伴い、障害者施設入所者数の削減と地域 生活移行施策が重点的に実施される一方で、入所施設の新規利用や施設生活の継続を選択 する障害者の存在が確認されるなどの状況を踏まえて、近年の入所施設の機能の変化に着 目した研究が必要であるとし、旧身体障害者療護施設入所者への2つのインタビュー調査 と1つのアンケート調査、市町村と市町村が設置している相談支援事業所におけるアン ケート調査を通して、その実態を明らかにするとしている。 1章では、1990年代から2000年にかけての一連の社会福祉基礎構造改革によって、サー ビスの利用が措置方式から利用方式に転換されたことの意義を検討し、社会福祉サービス の利用に関する選択権が保障されるようになったこと、サービスの利用資格について、措 置制度の下での経済要件、家族要件、ニード要件による決定方式から、障害支援区分(以 前は、障害程度区分)という尺度化された判定基準が用いられるようになったこと、これ に伴って、入所施設の性格に大きな変化が見られるようになったとしている。 この点について従来の研究では、障害者入所施設の機能を「家族介護の限界」に対応す る「セーフティネット機能」と位置づけていたが、支援費制度以後の文献では、入所施設 の提供サービス機能として、①自立支援機能、②専門的生活介護機能、③治療・健康管理 機能、④社会リハビリテーション機能、⑤地域生活支援機能、⑥住居提供機能、⑦相談支 援・ケアマネジメント機能とする見解が見られるようになった。本論文では、このような 障害者福祉施設の機能の位置づけの違いを、施設入所者への調査を通して検討するとして いる。 2章では、障害者入所施設の機能の変化に関する文献研究を行った結果、1章で述べた 障害者入所施設の機能の変化をとらえるには、「施設入所に至る過程」の研究だけでなく、
「施設入所期」「地域生活移行期」を視野に入れた縦断的視点による研究が必要であるとし ている。 3章では、入所施設施策が歴史的にどのように展開されてきたのかを、入所施設整備萌 芽期(1945年~1959年)、入所施設法制化期(1960年~1972年)、入所施設整備推進期(1973 年~2002年)、入所施設整備抑制期(2003年~)の4つの時代区分に分けて説明している。 その結果、社会福祉基礎構造改革以前の障害者福祉施策においては、家族介護が重要な 位置を占めていること、措置制度から利用制度に転換した後も施設利用に際して入所調整 が実施されているため入所待機者が存在していること、したがって必ずしもサービス利用 に関する選択権が保障されているわけではないこと、他方で、施設の社会化の方針によっ て入所施設の地域へのサービス提供に変化がうかがえること、地域生活移行の施策化に伴 い入所施設は終の棲家から転換しつつあること、等が確認されている。 4章では、3章までの検討を踏まえ、施設入所に至るプロセスをA県内の旧療護施設X、 Yの入所者20人へのインタビュー調査から明らかにしている。 それによると、施設への入所要因は、入所前の生活の場によって異なる傾向が見られた。 すなわち、自宅で生活していた障害者は、主介護者及び副介護者の身体、健康の変調によっ て施設入所に至っているが、短期入所施設で生活していた障害者は入所施設以外の退院 先・退所先が見当たらず、また1人暮らしに対する周囲の反対によって施設入所に至って いた。また長期入所施設で生活していた者は、自身の体調不良が施設入所に至る要因になっ ていた。さらに、これらの入所者は施設入所に際して、戸惑いながらも「仕方がない」と 思って入所していたこと、施設入所に際して入所者及び家族は行政機関に相談していたが、 多くの入所者は入所施設の情報を提供されただけで、施設入所への戸惑い等については相 談しておらず、結果として仕方がないと諦めながら施設入所に至っていた。 しかし、措置制度下の入所者と利用制度以後の入所者を比較してみると、社会福祉サー ビスの利用状況、相談支援事業所での相談の有無、入所待機期間の長短等いくつかの相違 点があり、利用制度になってからは、選択の余地のない「セーフティネット」を求めてで はなく、「選択」によって施設入所に至っている入所者のあることが確認されたという。 5章では、旧身体障害者療護施設Xの入所者15人に対して、地域生活移行への意向を 中心にインタビュー調査を実施した結果について述べている。それによると、入所者に地 域生活に移行したいか、あるいは、入所施設を継続したいかを聞いたところ、基本的には これまでの施設生活を評価し、地域生活に移行するよりも施設生活の継続を選択する傾向 がみられた。しかし、このような選択をするにあたっては、①家族への意向、②年齢、③ 入所年数、④施設生活の評価など、さまざまな要因が働いていることがうかがえた。 そこで、施設生活の継続を選択した者と地域生活移行を選択した者へのインタビュー結 果を比較したところ、地域生活移行を選択した者は、施設を退所した場合に生活したい地
域を明確に持っていた。他方で、施設生活を選択していても地域生活をしてみたいという 希望を述べる入所者や、地域移行を口にしない入所者であっても、いくつかの具体的な条 件が整えば地域生活を考えると話していた。このことから、「地域生活移行」と「施設生 活継続」のどちらかの選択という質問ではとらえきれない状況が生じていることが確認で きた。 6章では、A県の旧療護施設10施設の入所者78人から得た回答に基づいて、入所に至 る経緯と施設入所後の地域生活移行に関する意向に関するアンケート調査の結果を報告し ている。 それによると、措置制度から利用制度への転換以後も、家族介護の限界及び介護の担い 手の欠如によって施設入所に至っている者がある程度存在していることに変化はみられな かった。しかし、措置制度下の入所者と利用制度下での入所者を比較してみると、後者に は介護能力のある家族はいるが「家族への配慮」によって入所に至っている場合が見られ たり、入所前に何らかのサービスを利用している者が有意に多く、入所待機期間も長い傾 向にあることがうかがえた。これらの結果から、利用制度になってから、家族介護の限界 から止むを得ず入所に至るという流れとはかなり異なる施設入所者の存在がうかがえたと いう。また、5章のインタビュー調査の場合と同様に、地域生活移行を希望するか否かと いう選択ではなく、「地域生活移行に興味あるが、施設生活を希望する」という選択肢を 設定したところ、回答した入所者のうち30人(38.5%)がその回答を選択したという。 7章では、障害者自立支援法施行以降の入所待機者及び入所希望者への対応について、 A県内の40市町村及び37の相談支援事業所から得たアンケートの分析結果を示している。 それによると、相談支援事業所では、入所施設の利用を希望する障害者に対して入所施 設以外の生活の場に関する情報提供を行っているが、多くの相談支援事業所では身体障害 者の入所待機者を把握していない状況が見られた。これに対して市町村は、本人が施設入 所の希望を表明した場合、そのまま入所施設の利用手続きをする傾向のあることが分かっ た。すなわち、市町村の対応では4章で示したように「仕方がない」と諦めて施設入所を 希望した障害者に対し、多様な選択肢の提示や本人の意向の背景を探ること等を行えてい ないことがうかがえた。これらの結果から、本研究の対象となった身体障害者は、「施設 への移行期」においてケアマネジメントを受けにくく、施設サービスと地域サービスの利 用相談が総合的に行われていない状況が明らかになったとされる。 終章では、以上の研究の知見から、入所施設の機能の変化と入所施設のあり方について 次のように考察している。 第1に、これまでの研究によると、障害者入所施設の主な機能は「家族介護の限界」に 対応する「セーフティネット機能」であるとされていたが、この研究によると、「セーフティ ネット機能」と言っても、「家族介護の限界」への対応だけでなく、「家族介護の代替」と
しての「セーフティネット機能」への変化がみられるという。今回の調査結果によると、 障害者の介護を担っていた家族が介護を担えなくなった際の施設入所とともに、そもそも 介護を担える家族がいないという例の見られたことが指摘されている。先行研究では指摘 されていない短期施設(病院や旧入所更生施設等の有期限施設)や長期施設からの直接入 所などがこれにあたる。このことは、家族形態の変化により、「家族介護の限界」ではな く「家族介護の代替」が重要な役割を果たしていることを意味する。 第2に、施設機能が、「セーフティネット機能」から「自立生活支援機能」へと変化し ているという点である。これは、社会福祉基礎構造改革による利用制度の導入以降、地域 のサービス資源が拡充されサービスの選択の範囲が広がったこと、相談支援事業所等の相 談機関における相談においても、施設入所を含めた選択肢を考慮した結果入所に至ってい る者の存在が確認されたことに示されている。これに伴って、施設の機能も、選択肢のな い状況で入所に至る「セーフティネット機能」というよりも、サービス選択における自己 決定が保障され、障害者自身にとってその人らしい生活を実現するという意味での「自立 生活支援機能」へと転換していることがうかがえるという。 このことを踏まえて筆者は、1章で紹介した入所施設の機能分類とされる、自立支援機 能、専門的生活介護機能、治療・健康管理機能、社会リハビリテーション機能、地域生活 支援機能、住居提供機能、相談支援・ケアマネジメント機能のうち、自立支援機能以外の 6つの機能は、支援費制度への転換を契機に、入所施設の機能が多機能化した結果明確に 意識されるようになったとする。そこで、これらの機能を再構成すると、入所施設で生活 する障害者に対するサービスとしては、専門的生活介護、治療・健康管理、社会リハビリ テーション、住居提供が、地域で生活する障害者へのサービスとしては、地域生活支援、 相談支援・ケアマネジメントがあげられることになる。これら入所生活支援機能、地域生 活支援機能を合わせて、自立生活のための生活支援機能とまとめることができる(表1)。 表1 生活支援機能の体系 対象 入所施設のサービス 入所施設の機能 ・ 入所施設で生活する障害者 ・専門的生活介護 ・治療・健康管理 ・社会リハビリテーション ・住居提供 ・ 入所生活支援 機能 ・ 自立生活支援 機能 ・地域で生活する障害者 ・地域生活支援 ・相談支援・ケアマネジメント ・ 地域生活支援 機能 このような入所施設機能の変化は、言い換えれば、入所保護機能しか持たないセーフティ ネット型施設であった入所施設が、入所生活支援機能と地域生活支援機能の2つの機能を
持つようになり、この2つの機能を併せて、自立生活支援型施設へと転換していると言う ことになる。このことはまた、入所施設が入所・退所を障害者自らが選択できる通過型施 設、地域生活を支援する地域生活支援型施設、入所生活支援機能の生活介護や住居を提供 するという意味での住居型施設という多様な面を持つ多機能型施設へと転換しつつあるこ とを意味している。なお、このような施設機能の十分な展開のためには、「入所施設への 移行期」および「地域生活移行期」におけるケアマネジメントによる支援の体制を確保す ることが重要な条件となるとされる。 最後に、相馬氏によると、今回の調査対象は、2003年以降の支援費制度、障害者自立 支援法、障害者総合支援法の変化に積極的に対応してきたA県の先駆的な施設の入所者で あり、こうした施設機能の変化が全国で起こっているとは言えないこと、全体としてみれ ば、まだ家族介護の代替としてのセーフティネット機能が入所施設の中心的な機能である ことが考えられるので、今後、他の都道府県及び他の入所施設を対象とした研究が必要で あるとしている。 以上の相馬論文について評価できる点は次のとおりである。 第1に、障害者福祉制度の改革を受けて、障害者支援施設の機能がどのように変化した かを、措置から利用への転換という観点からとらえ、障害者施設制度の機能の変遷との関 わりでその意義を解明したことである。 第2に、このことを実証的にとらえるために、旧身体障害者療護施設入居者を対象とす るヒアリング調査とアンケート調査を実施するとともに、市町村及び相談支援事業所への アンケート調査を行い、施設入所過程、施設生活、地域生活移行を視野に入れた縦断的な 実証研究を行ったことは、類似の研究がこれまで少なかっただけに貴重な業績となってい る。 第3に、これまでの障害者入所施設に関する研究が、施設が社会に対して持っている機 能、特に、家族介護の限界に対応する「セーフティネット機能」ととらえられていたのに 対して、入所施設の多機能化を踏まえた「自立生活支援機能」として説明したことは、こ れまでの研究に対する新しい視点を提供するものとして高く評価されてよいであろう。ま た、調査の対象となった諸施設においては、地域生活移行事業を前提とすることによって、 入所生活支援機能と地域生活支援機能を含む自立生活支援機能を発揮できるようになりつ つあることを明らかにしたことも評価できる点である。 これに対して、審査委員からは次のような指摘があった。 第1は、相馬論文が調査の対象としたのは、筆者も述べているように、先駆的な取り組 みをしている地域の施設入所者であり、全国的にみれば、やはり「家族介護の限界」への
「セーフティネット機能」が中心であることを強調すべきではないかという指摘である。 第2は、施設入所者の調査からこの地域の施設における新しい機能の展開について論じ たことは理解できるとしても、このような施設機能の説明には、施設サービスの提供に即 したより詳しい実証研究が必要なのではないか、という意見である。 しかし、これらのコメントは、氏の今後の研究への期待としてよいであろう。 【審査結果】 以上、学位審査会における議論を要約したところであるが、本審査委員会は厳正かつ公 平な審査の結果、相馬大祐氏の学位請求論文『障害者入所施設の機能の変化に関する研究 ―旧身体障害者療護施設の入所者を対象として―』は、福祉社会デザイン研究科社会福祉 学専攻の博士学位審査基準に照らしても妥当な研究内容であるとの結論に達した。した がって、本審査委員会は全員一致をもって相馬大祐氏の学位請求論文は、本学博士学位(社 会福祉学)を授与するに相応しいものと判断する。