総 説 〔東女医大誌 第57巻 第10号頁1122∼1128昭和62年10月〕
小児の閉塞型睡眠時無呼吸
東京女子医科大学第二病院 小児科 タ タ ラカツノリ カネコ クニヨ ハ セガワヒサヤ イチカワ多田羅勝義・金子 訓世・良谷川久弥・市川みやぎ
カズマ ノリオ タ タ ラヒロコ ウメヅ リヨゥジ クサカワ サンジ数間 紀夫・多田羅裕子・梅津 亮二・草川 三治
(受付 昭和62年6月18日) Obstructive Sleep Apnea in ChildrenKatsunori TATARA, Kuniyo KANEKO, Hisaya HASEGAWA, Miyagi ICHIKAWA, Norio KAZUMA, Hiroko TATARA, Ryoji UMEZU and Sanji KUSAKAWA
Department of Pediatrics(Director:Prof. Sanji KUSAKAWA) Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital
Thirteen children with sleep apnea syndrome were encoulltered. Obesity was the primary cause of the disease in 3 children and adenotonsillar hypertrophy in 10. Sleep Polygraphy is indispensable for the diagnosis of this syndrome but requires much labor. To evaluate the necessity of standard sleep polygraphy and for screening, simpli丘ed sleep monitoring was performed. Ventilation air currents both in the nasal and oral cavity were recorded using thirmisters and respiratory movements in the chest and abdomen were measured using strain gauges at the bedside. Apnea of 20 seconds or more, consecutive apnea and obstructive apnea were strongly suggestive of morbid sleep apnea. Patients with a113signs require close examina− tion by standard sleep polygraphy. In all the children with adenotonsillar hypertrophy, morbid apnea disappeared after operation. In such patients, it is important to detect apnea before secondary symptoms such as right heart failure develop, and simplified sleep monitoring was
useful for early diagnosis.
緒 言 人はその生涯のほぼ3分の1の時間を眠って過 ごす.すなわち,Ondine’s Curseの例をあげるま でもなく,人は眠らずに生きていくことはできな い.したがって近年,医学的興味の一端が睡眠に 向けられつつあるのも当然といえよう.無呼吸に よる睡眠障害に関する研究も1956年のBurwell らのPickwian syndromeの報告1)以来詳細な検: 討が続けられてきた. 一方,小児においても乳幼児突然死症候群にお ける無呼吸の関与2>などが注目されている.さら に肥満に伴うもの鋤,アデノイド扁桃肥大に関連 した睡眠時無呼吸5>∼7)も決して少なくない.これ ら睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome,
以下SAS)の診断には睡眠ポリグラフィーの実施 が不可欠であるが,これは決して容易に実施でき るものではない.このためか過去の報告例にみる 限り肺性心を呈しているものなど相当重症化して から発見されているものも多い8).そこで今回わ れわれの経験した小児の閉塞型のSASを紹介す るとともに,その診断に対するアブ.ローチについ て述べてみたい.
1.肥満を主因とするSAS, Pickwickian syn−
drome(以下PWS)
当科では3例のPWSを経験している(2例は
すでに報告)9>.小児における本症の頻度は不明で あるが,当科の肥満外来受診者数が約200名である ことからおおよその頻度が推測できる.Burwell らは本症の診断基準として8つの項目をあげた. 後にこれら8項目のうち,最も重要なのは睡眠時 無呼吸であり,他は二次的症状であるとわかった. このような二次的症状の出現までにはある程度の 時間が必要であろう.われおれの3例ではいずれ も肥満,睡眠時無呼吸,傾眠以外の症状は認めら れなかった.しかし従来の報告では小児期でも右 心不全まで呈する例も多く,小児でも発見が遅れ れば典型的PWSとなるものと思われる.むしろ 典型例となって初めて発見された症例が多かった というべきであろうか.したがって早期発見の重 要性はいうまでもない.3例のPWSではいずれもアデノイド,扁桃肥
大が認められた.したがってどちらが睡眠時無呼 吸の主因であるかが問題となったが減量により無 呼吸,傾眠といった臨床症状の著しい改善がみら れたため,肥満が主因であったと判定した.Stool ら10)は慢性気道閉塞,肥満,アデノイド,扁桃肥大を呈した3症例をChubby Puffer syndromeとし て報告したが,これらは手術により症状が軽快し ているので,われわれの症例とはいささか趣が異 る.しかしいずれにせよ小児の場合この二つの因 子の関与を厳密に区別することはできない. 成人の場合と同様小児でもPWSは多くの肥満 例の一部にみられるにすぎない.したがってその 発症には肥満以外に何らかの因子の関与が必要と なる.われわれは減量により臨床症状が消失した 後の睡眠ポリグラフィで,それまで全くみられな かった中枢型睡眠時無呼吸の頻発した例を報告11) した.これはPWS発症のプラスアルファの因子 を示唆する所見ではないかと考えている. 2.アデノイド,扁桃肥大を主因とするSAS 小児では生理的にもアデノイド,扁桃肥大を呈 する例が多い.したがって小児科領域で経験する 睡眠時無呼吸もアデノイド,扁桃肥大を主因とす るものが圧倒的に多い.これは小児のSASの報 告が耳鼻科領域から多いことからもうなずける. われわれは現在までに10例経験している.SASは アデノイド,扁桃肥大の症例の一部にみられるに すぎず7),その発症には,PWSと同様,プラスア ルファの因子の関与が必要であろう. 3.早期診断をめざしてのアプローチ 1)問診
当科で経験したPWSの第1例は初診時小学校
1年生であった.この時すでに高度の傾眠が認め られ,授業中のいねむりも顕著であった.教師は 患児に対してなまけものという評価を下してお り,家族も傾眠が疾患に起因する症状であるとは 思っていなかった.Guilleminaultら2)も8例中5 例が学校で問題児とみなされていたと報告してい る.二次的な傾眠に起因する問題と考えられる. 一般に,SASでは激しいいびきが認められるこ とが多い.いびきはGuilleminaultらの報告2>, Richardsonらの報告7),いずれも全例にみられた としており,SASを疑う最:も重要な症状である. しかし家族は毎日の事として慣れてしまうため か,大部分その異常さに気がついていない.家族 よりもたまたまいびきを聞いた親類の老などに異 常を指摘されることも多い.したがってこれらの 症例が無呼吸(いびき)を主訴に外来を訪れるこ とは少ない.肥満児,あるいはアデノイド,扁桃 肥大の児をみたら医師の側から積極的にいびきの 有無などを質問すべきである.いびきの程度に関 しては表現が主観的になるため,疑わしい場合は まずテープレコーダーで録音してもらう. 他の症状としては,朝の寝起きの悪さ,傾眠, 夜尿症などがあげられる.寝起きの悪さ,傾眠は あくまでも異常ないびきが認められる時重要な意 味をもつ.われわれはPWSの2例,アデノイド,扁桃肥大を主因とするSASの1例で寝起きの悪
さ,傾眠を経験した.やはり重症度に比例する症 状である.夜尿症は教科書1)にも記載があり,先の Guilleminaultら2>は8f U中7例と高頻度に夜尿 が再出現していたと報告している.しかしわれわ れの経験は1例のみである.アデノイド,扁桃肥 大によるSASであったが,術前毎晩みられた夜 尿が術後激減した. 他に起床時の頭痛,体重増加不良などが報告されているが,われわれの症例ではいずれも認めら れなかった. 以上のような問診の結果,疑わしければ睡眠ポ リグラフィをおこなう. 2)睡眠ポリグラフィ 今やSASの診断に睡眠ポリグラフィは欠くこ とのできない検査である.しかしその実施に多大 の労力を必要とすることはいうまでもない.小児 は本来寝相が悪いのが普通であるが,SASの児の 睡眠時の体動の激しさは格別である.その睡眠段 階をみてみると,深睡眠期が減少していると同時 に,途中覚醒がめだつ.無呼吸が激しくなると脳 波上覚醒し,ベッド上で起きあがることすらある. しかしすぐ眠たくて横になり,再び無呼吸をくり かえす.中途覚醒時にはモニターのコードに手を かける.またSASの児はほぼ例外なく睡眠時腹 臥位となる.鼻腔,口腔にセットした換気気流検 知用のthirmisterがずれることもめずらしくな い.このため種々のモニターは現在のところまだ 完全に自動化することは不可能で,どうしても終 夜にわたる医師の立合が不可欠となる. 睡眠ポリグラフィーの記録としては,脳波,筋 電図,眼球運動,呼吸曲線などが標準的である. モニターの数が多くなれぽなるほど被験者への負 担が大きくなり,またその実施に手がかかること は当然のことといえる.これはアメリカでは検査 料金の高額化(標準料金$675),日本では医師への 過剰な肉体的負担としてふりかかってくる.そこ でわれわれは本格的睡眠ポリグラフィの必要性を 決定するために,スクリーニング的意味も込めて 省略睡眠モニターをおこなってきた.これはベッ ドサイドで4チャンネルのレコーダーを用い, thirmisterによる鼻腔,口腔の換気気流, strain gaugeによる胸部,腹部の呼吸運動を記録するも のである.strain gaugeは従来のものでは患児の 姿勢の変化により体の下になると機能しない.そ こで体を半周するようなものを使用している(写 真1).もちろんstrain gaugeによるインピーダ ンス法では体動によるアーチファクトの影響が大 きいのはいうまでもなく,さらに呼吸運動の記録 に改善の余地がある.この点レスピトレースによ 写真1上:従来のstrain gauge, 下:現在使用中のstrain gauge RR/20 soo 7 6 5 4 3 2 1 o 図1 9歳女児.コントロール thirmisterによる呼吸数の記録を20秒毎の呼吸数としてあらわした. 一1124一
るインダクタンス法13)は,少数例の経験ではある が非常に良好な結果が得られており,有望な方法 と思われる. この省略睡眠モニターの有用性はすでに報告14) したが,スクリーニングとして充分役にたつと確 信している. 3)SASを示唆する所見 次にこのスクリーニングモニターで得られた結 果をどのように判定するかが問題になる.図1に コントロール例のthirmisterによる換気気流の 記録を示した.縦軸には20秒毎の呼吸数,横軸に 時間を示した.20秒間の呼吸数がゼロ,すなわち 20秒以上の無呼吸は一度もないのがわかる.しか し無呼吸がまったくみられないわけではなく,図 2に示したように体動にひきつづく10秒前後の中 枢性無呼吸は認められた.これは他のコントロー ルでも同様であった.一方,アデノイド,扁桃肥 囲asal thermistor
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<榊 1漏 図2 コントロールの児でみられた体動にひきつづき おこった約10秒間の中枢性無呼吸. 駐駐ノ20Sε0 6 5 4 3 2 1 o RR/20 SBO 7 6 5 4 3 2 1 o 図3 7歳男児,上:術前の記録.20秒以上の無呼吸が頻発していた.下:術後1週 間での記録.20秒以上の無呼吸が3回認められるが激減しているのがわかる.大によるSASの記録を図3A, Bに示した. Aは 術前,Bは術後の記録である.術前に多発してい た20秒以.との無呼吸が術後減少したのがわかる. 以上のようなコントロール,SASでの検討の結 果,(1)20秒以上の無呼吸,(2)連続しておこる 無呼吸,(3)閉塞型無呼吸,の所見を病的無呼吸 を示唆するポイントとして報告14)した, 一般的に無呼吸とは10秒以上の呼吸停止と定義 されている.しかし健康成人においても無呼吸が みられるとする報告15>ユ6)があいついだ.また健康 小児にも無呼吸が認められるという報告17)もでて おり,これはわれおれのコントロール例におこ なった検討でも同様の結果であった.そこでGul−
1eminaultらはSASとは夜間睡眠中のREM期
およびNREM期に少なくとも30回以上認めら
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塞の際のparadoxical inward chest movement として記載している.閉塞型SASでありながら paradoxical movementのみられなかった症例の 報告12)もあるが,例外と思われるので,少なくとも スクリーニングの所見としては充分有用であると 考えられる.
4.SASの管理
PWSの場合は減量により症状の改善がみられ る.われわれの経験した1例では肥満度40%を境 として臨床症状が消退と出現をくりかえし,その 管理のめやすとなった. アデノイド,扁桃肥大によるSASでは全例術 後全く症状は消失した.アデノイド,扁桃肥大の 幼児では無呼吸までいかなくても,気道狭窄を呈 する例は決して少なくない.このような症例が後 にSASに進展していく可能性があるのは先に述 べた通りである.一方アデノイド,扁桃肥大は通 常5歳頃をピークに以後縮小するため,SASまで 至らず,自然軽快する例も多いと考えられる.し かしどのような症例がSASに進展し,どのよう な症例が自然軽快するか不明である.現在のとこ ろわれわれは手術を実施するか否かは4,5歳の 時点まで待って判定している. 文 献1)Burwell CS, Rob藍n ED, Whaley RD et al:
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