大学生英語学習者によるディクテーション時の処理
方法 : 誤りから見えてくるもの
著者
大田 悦子
雑誌名
白山英米文学 : 東洋大学文学部紀要 英米文学科篇
号
37
ページ
35-65
発行年
2012
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00004152/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止大学生英語学習者による
ディクテーション時の処理方法
―誤りから見えてくるもの
―大 田 悦 子
1.はじめに ディクテーションは、英語の総合的な力を測る(または伸ばす)手段とし て近年再評価されつつあるが、かつては、語彙レベルの機械的な再生作業であ るという批判があった(e.g. Lynch, 2009)。しかしながら、アウトプットを伴 うディクテーションは、単に、一時的に記憶した語や文を言語化する作業では なく、「理解」して聞き取った英文を再構築する作業であると考えられる。 アウトプットを伴うリスニングタスクにシャドーイングがある。Ota(2007) は、英語力が上がるにつれ、音声を音韻レベルだけではなく意味レベルでも処 理しながらシャドーイングするようになるという可能性を示唆している。ただ し、連続した音声を聞くシャドーイングとは異なり、ディクテーションは文単 位での再生となるため、一文の長さによっては記憶力のみで書きとれる可能性 も否めない。この筆記再生のディクテーションに対し、口頭による文単位の再 生活動として sentence repetition1がある。Ota (2010) は、文単位で英語を復唱する行為は、日本人英語学習者にとって、意味処理・文法処理・統語処理を伴う 認知作業であり、理解を伴わない復唱は極めて難しいと結論付けている。1文 ディクテーションは、一定量の言語音声を聞き、その言語音を繰り返す点では、 「口頭」と「筆記」という出力形式の違いはあれ、sentence repetition 時のプロ セスとかなり類似していると考えられる。 本研究では、まず、ディクテーションに関する先行研究の結果を踏まえ、 1 研究者によってはこの活動をリピーティング (repeating) と呼ぶ。例えば、門田 (2007) では、 リピーティングを「一定量の言語音声(文など)を聞いてもらい、その後十分なポーズをあけ、 その間に学習者に聴取した言語音を繰り返すことを求める活動」と定義しており、Ota (2010) で言うところの Sentence repetition と同一の活動を指す。
大学生英語学習者 16 名のディクテーションテストの筆記再生状況と彼らの英 語力との関係を考察する。次に、ディクテーションテストで現れた誤りを分類・ 分析し、学習者のどのような英語力がそこに反映されているのか考察する。 2.先行研究 リスニングの活動例の一つに“intensive listening”(集中的リスニング) (Rost, 2011) がある。音、語、フレーズ、文法的・意味的まとまりを正確に聞 き取るリスニングである。ディクテーションは、sentence repetition、シャドー イング同様、このタイプの活動例の一つである。実際、intensive listening とい う形態は日常生活で頻繁に求められるものではない。しかし、一言一句正確に 聞き取ることができる能力は、高度な理解力とリスニング力を反映するものと 考えられる。 森山 (2009) は、これまでのディクテーションに関する先行研究をまとめ、 指導技術としてのディクテーションに関しては、音素識別、文字の音声化、記 憶、聞き取り、構造(形態)把握など、その目的は多岐にわたるが、どれを中 心に練習する手段なのか研究者によって意見が分かれており断定できないとし ている。一方、評価手段としてのディクテーションについても、研究者の見解 は一致していない。ただその中で、Oller (1979) は、L2(第二言語としての英 語)学習者の総合英語力を測るテストとしての有効性を強調している。また、 Huges (2003) も、それまで批判を浴びてきたディクテーションテストが 1960 年代後半から徐々に見直されるようになったと概観している。Hughes による と、ディクテーションでは、まず学習者は流れてくる連続する音がどのような 語の連なりなのか解読(decode)しなければならない。そして、それらの語を 一時記憶 (store) し、最後に紙面に筆記再生 (recreate) しなければならない。よ って、文脈から語句を特定するこのような能力を測ることで、レベルの異なる 学習者を振り分けることができると述べている。 ただし、武井 (2002) は、ディクテーションと総合英語力、およびディクテ ーションと聴解力との関係については、吉田 (1999) がまとめた先行研究を引 用し、研究によって高い相関がみられる場合と見られない場合があり、学習者 の能力との関係も含め、さらなる研究が必要であると結論付けている。このよ うに、ディクテーションは、多種多様な要素を含み、何を訓練するものなのか、 どのような側面を評価するものなのか、完全な結論には至っていない(森山 , 2009)。
3.研究の目的 日本人大学生英語学習者によるディクテーションと意味処理・文法処理と の関係を、① TOEIC スコア(英語力の指標として使用)、②日本語による内容 再生状況、③誤りの3点から検証することである。 4.研究の方法 4. 1 Research Questions 1.大学生英語学習者 16 名のディクテーションテストの結果と彼らの TOEIC スコアの間には有意な相関がみられるか? 2.ディクテーションテストで現れた誤りにはどのような傾向が見られるか? 4. 2 被験者 本研究の被験者は、千葉県内の私立大学に在籍する英語を専攻する 2 年生 16 名である。調査実施時点で TOEIC IP スコアを保有しており(2010 年 4 月 受験)、Listening セクションの平均が 258.75 点、Reading セクションの平均が 154.38 点、Total が 413.13 点であった2。ただし、700 点台が 1 名、500 点台が 3 名、 400 点台が 5 名、300 点台が 4 名、200 点台が 2 名、100 点台が 1 名と、スコア の分布にはばらつきがあった。 表1.被験者の TOEIC スコア一覧
Listening Reading Total 平均スコア 258.75 154.38 413.13 標準偏差 (SD) 74.53 73.12 139.14 最低点 120 55 175 最高点 385 340 725 4. 3 マテリアル 調査で使用したターゲット文は以下の 11 文である。1文を構成する語数が 一番少ないもので 3 語文である。以後、徐々に増えていき、一番語数が多い もので 9 語文となる。また、6 語以降は、単文と埋め込み文を同じ語数でそれ 2 2010 年度の TOEICIP テストデータ(http://www.toeic.or.jp/toeic/pdf/data/DAA2010.pdf)によ
ると、2010 年度の大学生受験者の平均が Listening 251 点、Reading 194 点、Total 445 点であっ た。
ぞれ1文ずつ(例:単文:4. I made cookies for my father.,埋め込み文:5. The picture he painted was beautiful.)用意し、文の複雑さが筆記再生に与える影響に ついても分析対象とした。
1. They speak Chinese. 2. He doesn’t eat vegetables. 3. She gave her baby milk. 4. I made cookies for my father. 5. The picture he painted was beautiful. 6. She has known him for three years. 7. The girl dancing over there is Mary.
8. It’s easy for some people to learn languages. 9. The pictures taken by Nancy are very nice. 10. The teacher asked the student to move the desk. 11. The dictionary I bought yesterday is useful to me.
注1:Ota (2010) の中で使用したものと同一マテリアルを再利用。 注2:No. 8 の It’s についてはこれを 1 語とカウントする。 4. 4 調査時期と手順 2010 年 9 月、リスニングⅡという授業の 20 分程度を使って調査を実施した。 この授業では、授業担当者(本研究者)が DVD 教材のスクリプトの部分ディ クテーションタスクを毎時間取り入れていた。本研究用のディクテーションテ ストと授業時のディクテーションとの相違点は、授業では音声を何度も聞くこ とができるが、この調査では音声を一度しか聞くことができないという点であ る。 調査の実施手順は以下の通りである。 ① ディクテーションテストの解答用紙(表面は英文書き取り、裏面は日 本語による内容再生のための欄を設けた用紙)を被験者全員に配布する。 (Appendix 参照) ② 被験者に、CD から流れてくる例題用英文を聞かせ、チャイムを聞いた後 で、ディクテーションを開始させる。書き終わったら用紙を裏返しさせる。 英文は1回しか流れない。 ③ 再びチャイムが聞こえたら、今度は、その英文の内容を(覚えている範囲 で)日本語で筆記再生させる。書き終わったら、先ほどと同じく用紙を裏返
しさせる(=表面へ戻る)。 ④ ②③と同じ手順で、本番用の英文 11 文(4.3 参照)のディクテーションと 日本語による内容再生を実施する。 ※ディクテーション、日本語再生のための時間は、事前に実施したパイロット (試行)テストを経て決定した。英文の長さが長くなるにつれて、筆記再生 に費やせる時間も長くなるようにした。 4. 5 採点方法 4. 5. 1 ディクテーション(英文筆記再生)データ 文単位で、正しく認識できている語を総語数で割り、それを百分率に変換し たものを筆記再生率とした。綴り間違いについては、書かれた語が正解の語を 意図して書かれたものと判断できれば再生できたとみなし、減点対象からは除 外した。 筆記再生率 (%) = 正しく認識(再生)できた語 × 100 総語数 なお、全ての語が筆記再生されていても、余分な語が追加され、文法的正確性 が失われた文については、追加された語数分だけ減点措置とした。
e.g. The picture he painted was beautiful. 完全解答 → 6 語 → 筆記再生率 100% The picture is he painted was beautiful. is の追加 → 5 語(1 語分減点)
→ 復元率 83%
4. 5. 2 日本語による内容再生
3段階評価とした。その文が伝えようとするメッセージがほぼ全て再生で きている場合は◯、重要な情報のどれかが欠落している場合は△、それ以外は ☓と判定した。
e.g. She has known him for three years. 彼女は彼と知り合って3年になる ○ 彼女は3年間の知り合いです △ 彼女は3年 ×
5.結果および考察 5. 1 英文別筆記再生率
表2および図1で示す通り、全体的には文が長くなるにつれ、筆記再生率が 下がる傾向が見られた。文の複雑さの影響については、7 語文のみ、単文<埋 め込み文という結果だった。(6. She has known him for three years. < 7. The girl dancing over there is Mary.) それ以外の 6 語文 (4. I made cookies for my father. > 5. The picture he painted was beautiful.)、8 語文 (8. It’s easy for some people to learn languages. > 9. The pictures taken by Nancy are very nice.)、9 語文 (10. The teacher asked the student to move the desk. > 11. The dictionary I bought yesterday is useful to me.) については、単文>埋め込み文という結果だった。出力形態が異なる sentence repetition の実験結果(Ota, 2010)と比較すると、9 語文以外はほぼ同 様の傾向と言える。(Ota (2010) の高校生 11 名を対象とした英文復唱では、9 語文で、単文<埋め込み文という結果だった。) 以上の結果から、文の長さが英文筆記再生に与える影響は確認できた。た だし、文の複雑さの影響(埋め込み文の方が単文より再生が難しいのかどうか) については、今回の結果では明らかにできなかった。 また、各文で何語を正確に再生できたか平均語数を算出してみた。その結果、 3 語文と 4 語文を除いた 5 語文~ 9 語文では、4.19 語~ 5.56 語という結果だっ た。この数値を見る限り、本研究の被験者にとっては、文の長さに関わらず1 回の言語音声で書きとれる語数は 6 語未満であったことがわかる。 表2.英文別平均筆記再生率と平均再生語数 英文 No. 単文(%) 平均語数 英文No. 埋め込み文(%) 平均語数 3 語文 1 89.58 2.69 4 語文 2 93.75 3.75 5 語文 3 85.00 4.25 6 語文 4 89.58 5.38 5 69.79 4.19 7 語文 6 64.29 4.50 7 79.46 5.56 8 語文 8 64.06 5.13 9 54.69 4.38 9 語文 10 59.03 5.31 11 54.86 5.00
5. 2 英文筆記再生率と TOEIC スコアとの関係 本研究の被験者数は 16 名という限られた人数であったため、ノンパラメト リック検定を採用した。その結果、TOEIC のスコア(Listening セクションと Reading セクションをあわせた Total)と英文 11 文の平均筆記再生率との間に、 有意な相関が確認された。また、Listeningセクション, Readingセクションを別々 に比較した場合も、有意な相関関係が確認された。 短い文については、記憶力のみで完璧に再生できた(つまり、意味処理をせ ず音韻処理のみで正しく書き取れた)可能性があるため、全ての英文の平均だ けでなく、5 ~ 9 語文の計 8 文、7 ~ 9 語の計 6 文の平均再生率もそれぞれ算出し、 それらと TOEIC スコアとの相関も見ることにした。その結果、分析対象の文 を 7 ~ 9 語文(11 文中 6 文)に限定した場合、平均筆記再生率と TOEIC スコ アとの相関係数がより高まった。 100.00 90.00 80.00 70.00 60.00 50.00 40.00 30.00 3語文 4語文 5語文 6語文 7語文 8語文 9語文 単文 埋め込み文 図1.英文別平均筆記再生率の推移
表3.英文筆記再生率と TOEIC スコアとの相関
TOEIC (Total) TOEIC (Listening) TOEIC (Reading) 3-9 語文平均 .545* .574* .533* 5-9 語文平均 .542* .539* .553* 7-9 語文平均 .635** .644** .625* **p < .01, *p < .05 5. 3 英文筆記再生率と日本語再生との関係 4. 5. 2 で述べた通り、その文が伝えようとするメッセージがほぼ再生できて いる場合は○、重要な情報のどれかが欠落している場合は△、それ以外は☓と 判定し、大まかではあるが 3 パターンに分類した。そして、延べ 176 文(被験 者 16 名× 11 文)の英文再生状況と日本語による内容再生状況を比較した。 5. 3. 1 英文での完全筆記再生(○)+日本語での内容再生失敗(×)の事例 この事例があるとすれば、文の意味は全く理解していなくても記憶力のみ でディクテーションが成功するということを示す。結果としては、このケース に該当する事例は全くなかった。 5. 3. 2 英文での完全筆記再生(○)+日本語での不完全な内容再生(△)の 事例 全 176 文中、このケースに該当する事例は以下の 6 例見つかった。
2. He doesn’t eat vegetables. 彼は野菜を食べられない
3. She gave her baby milk. 彼女は赤ちゃんにミルクを与える 4. I made cookies for my father. 私は父にクッキーをあげた 5. The picture he painted was beautiful. 彼がかいた絵は美しい 5. The picture he painted was beautiful. 彼のかいた絵は美しい 5. The picture he painted was beautiful. 彼が描いた絵は美しい (注:先頭の番号は英文番号を示す)
上記 6 例の共通点は、日本語の中で述語に相当する部分の再生が不正確で あったという点である。確かに、書き取った英語(正解文)が本来伝えるべき 意味と、彼らが書き取った日本語の意味に多少のずれはあるものの、意味的に
大きな食い違いとは言えない。 ちなみに、母語による再生では、被験者がある内容を「再生しなかった」 ということとその内容が「理解されなかった」ということは必ずしも同義では ない(佐々木,2010)。今回は、理解しているにもかかわらず再生しなかった という可能性をできる限り排除する目的で、被験者には、覚えている範囲で全 て再生するように指示した。
先ほど挙げた 6 例の中で、英文番号 2 の He doesn’t eat vegetables. において、 本来「食べない」と解釈すべき部分を、この被験者は「食べられない」と再生し た。今回はこの日本語の再生データを△と判断したが、この被験者が、文字 通り「食べられない(= cannot eat)」と解釈したのか、「食べない(=doesn’t know)」と解釈しつつも、たまたま「食べられない」という表現を使用しただ けなのかは、厳密には判断できない。 いずれにしても、このケースに該当する事例が圧倒的に少ないという事実、 また、あるにしても、再生された日本語が本来伝えるべき意味から大きく逸脱 しているわけではないという事実を鑑みると、5.3.1 の結果と合わせて、文の 意味をほとんど理解せずにディクテーションに成功する可能性は極めて低いと いえる。 5. 3. 3 日本語での完全な内容再生(○)+英文での不完全な筆記再生(△)の 事例 このケースは、意味はきちんと取れているものの、英語で語法的、文法的 に正確な文を筆記再生できなかった事例を指す。つまり、5. 3. 2 の逆パターン となる。このケースについては、前述の2つのケースとは異なり、多くの事例 が確認された。以下に具体例を挙げる。
英文 No. 2 He doesn’t eat vegetables.
・He doesn’t eat vasitable. 彼は野菜を食べない ・He doesn’t eat vegetable. 彼は野さいを食べない ・He doesn’t eat basitable. 彼は野菜を食べない
以上3例は、全て名詞の単複形の選択、つまり形態素の誤りである。
英文 No. 3 She gave her baby milk.
この英文については上記の1例のみだった。これは、語順が入れ替わった統 語的誤りである。先ほどの形態素の誤りが局所的誤りであるのに対し、統語的 誤りは文構成に関わる全体的誤りと言えるので、深刻度合いで言えば、語順逆 転の誤りは、より深刻度の高い誤りと考えられる。
英文 No. 4 I made cookies for my father.
・I made cokiees for my mother. 私は父のためにクッキーをつくった ・I made cookies for my brother. 私は父にクッキーを作った ・I made cookies for my mother. 私は父にクッキーを作ったあげた
以上3例は、全てパラディグマティックエラー3、つまり語彙選択の誤りであ
る。
英文 No. 6 She has known him for three years.
・She has known (him の脱落 ) her three years. 彼女は3年間彼を知っている ・She has none him for three years. 彼女は彼を3年間知っている ・She has know his for three years. 彼女は彼と知り合って3年になる
最初の事例は目的語の脱落である。残り 2 例は、現在完了形「have (has) + 過去分詞形」の再生に失敗したケースである。この現在完了形のように、被験 者にとって既習である語彙や文法がディクテーションではうまく書きとれなか ったという事実は大変興味深い。
英文 No. 7 The girl dancing over there is Mary. ・The girl dancing (over の脱落 ) there is Mary.
向こうで踊っているのはメアリーだ ・The girl dancing over there (is の脱落) Mary.
そこで踊っている女の子はメアリーです ・The girl dancing was over there with Mary.
向こうで踊っている少女はメアリーです
3 類義語・反意語・関連語(good に対して、nice, bad, excellent など)や上位・下位範疇語(animal
> bird > robin)のように、その語の代わりになるかどうかに関わるつながりのこと。(門田・玉井, 2004)。
・The girl is dancing over there is Mary.
あちらで踊っている女の子はメアリーです
最初の 1 例のみ副詞 over の脱落である。残り 3 例は、現在分詞 dancing を含 む後置修飾句を正しく再生できないという統語的誤りである。
英文 No. 8 It’s easy for some people to learn languages. ・It’s easy for some (people to learn 脱落) languages.
一部の人にとって言葉の勉強は簡単だ ・It is easy to learn language some people.
何人かの人にとっては言語を学ぶことは簡単
これについても、ともに「It + be + 形容詞 + for 目的語 + to do」という、中 学 3 年以降の英語指導の場面では頻繁に登場する構文を正しく再生できなかっ た事例である。
英文 No. 9 The pictures taken by Nancy are very nice. ・The picture taken for Nancy was so nice.
ナンシーが撮った写真はとてもよい ・The picture is taken by Nancy is very nice.
ナンシーが撮った写真はとてもよい ・The pictures were take by Nancy is very nice.
ナンシーがとった写真はよい ・The picture took by Nancy (is) very nice.
ナンシーにとられた写真はとてもよい ・takeing a picture by Nancy (are 脱落) very neice.
写真はナンシーによって撮られ、とてもきれいだ ・The picture took a nacy is very nice.
ナンシーの撮った写真はとてもよい ・The pictures is taken by nancy are very nice.
ナンシーによってとられた写真はとてもよい
最初の例は、正解のターゲット文と異なる部分が数か所あり(斜字になって いる部分)、日本語で再生した内容とも一致しないが、英文そのものは文法的
に成立可能な文である。しかし、それ以外の 6 例は、後置修飾句の再生に失敗 し、文法的にも逸脱した文である。そのうち 3 例は、主部内に誤って be 動詞 が挿入されている。
英文 No. 10 The teacher asked the student to move the desk. ・The teacher asks (the) student (to) move a desk.
先生は生徒に机を向こうに動かすよう頼んだ ・The teacher ask the student to move the desk.
教師はその生徒に机を動かすように言った ・The teacher ask the student (to) move the besk.
先生は生徒に机を移動するように言った ・The teacher asked the student to move (the) desk.
先生は生徒に机を動かすよう頼んだ ・The teacher ask (the) student to move (the) desk.
先生は生徒に机を移動してと言った ・The teacher ask (the) student (to) move (the) desk.
先生は生徒に机を運ぶよう頼んだ ・The teacher asked (the student to) move to (the) student.
先生は生徒に移動するように言った ・The teacher ask to (the) student (to) move ther desk.
先生は生徒に机を動かすように言った ・The teacher ask the student to move the desk.
先生は生徒に机を動かすよう言った
ほとんどは、asked の語尾 -ed の脱落である。加えて、「ask + 目的語 + to do」 の構文を正しく再生できなかった事例、強勢の置かれない機能語4 the や to の
脱落が目立った。
英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. ・The dictionary I bought a yesterday are use.
昨日私が買った辞書は使いやすい
4 冠詞・前置詞・助動詞・接続詞・人称代名詞など,主に,文法的な役割を果たし,単独で
・The dictionary buy yesterday (あとは脱落).
昨日買った辞書はとても役立つ ・The dictionnaaly (I) bought yesterday (is useful) for e.
昨日買った辞書はとても使いやすい ・The dictionary (I) bought yesterday (is) useful for me.
昨日買った辞書は私にとって使いやすい ・The dictionaly (I) bought yesterday is useful for me.
昨日買った辞書は私にとって役に立つ 最初の例以外は、全て後置修飾節の再生失敗によるものである。英文 No. 10 と同じく、やはり強勢の置かれない機能語(人称代名詞の I)の脱落が目立った。 ここまでをまとめると、【英文での完全筆記再生(○)+日本語での内容再 生不可(×)】の事例がないという事実と【英文での完全筆記再生(○)+日 本語での不完全な内容再生(△)】の事例の少なさ(全 176 文中 6 例のみ)が 示す通り、正確な筆記再生には瞬時の意味処理が必要条件であると言える。た だし、3 つ目の【日本語での完全な内容再生(○)+英文での不完全な筆記再 生(△)】の事例に該当する事例(意味処理には成功したものの英文の再構築 に失敗するケース)が多数見られたことから、正確な筆記再生には、意味処理 のみではなく、その場の瞬時の語彙・文法処理も並行して要求されていたと言 える。 5. 4 誤りの傾向 5. 4. 1 内容語5と機能語に分けた場合の再生率比較 文が発話される際は、意味的に重要な箇所に強勢が置かれるものである。文 強勢が置かれるのはふつう内容語であり、特に強調して相手に伝えたい語でな い限り機能語には強勢は置かれない(岡,2010)。つまり、ディクテーション においては、機能語よりも内容語の方が音声的に認識しやすいと考えられる。 ここでは、音声的により認識しやすいと思われる内容語の方が、音声的にはあ まり認識されにくい機能語よりも再生状況がいいのかどうか、各英文の全ての 語を内容語と機能語に分け、比較することにした。 5 名詞・動詞・形容詞・副詞など,事物,動作,機能,状況を表し,単独で使用されても意 味のある語。(岡 , 2011;白畑他 , 2001)
表4.各英文を構成する内容語および機能語
No. ターゲット文 文タイプ 総語数 内容語 機能語 1 They speak Chinese. S 3 They, speak, Chinese (3) - (0) 2 He doesn’t eat vegetables. S 4 eat, vegetables (2) he, doesn’t (2) 3 She gave her baby milk. S 5 gave, baby, milk (3) she, her (2) 4 I made cookies for my father. S 6 m a d e , c o o k i e s , father (3) I, for, my (3) 5 The picture he painted was beautiful. E 6 picture, painted, beautiful (3) the, he, was (3) 6 years.She has known him for three S 7 known, three, years (3) she, has, him, for (4) 7 The girl dancing over there is Mary. E 7 girl, dancing, over, there, Mary (5) the, is (2) 8 It’s easy for some people to learn languages. S 8 easy, some, people, learn, languages (5) it’s, for, to (3) 9 The pictures taken by Nancy are very nice. E 8 p i c t u r e s , t a k e n , Nancy, very, nice (5) the, by, are (3) 10 student to move the desk.T h e t e a c h e r a s k e d t h e S 9 t e a c h e r, a s k e d , student, move, desk
(5)
the, the, to, the (4)
11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. E 9 dictionary, bought, yesterday, useful (4) the, I, is, to, me (5)
合計 72 語 41 語 31 語
注:文タイプ S = a simple sentence(単文),E = an embedded sentence(埋め込み文)
T 検定を行った結果、内容語の平均筆記再生率と機能語の平均筆記再生率に は統計的に有意な差は見られなかった(t(70) = 1.693, n.s.)。表5の標準偏差(SD) が示すように、さらには、表6と表7の数値が示すように、内容語、機能語の それぞれの中で、再生率が特に高い語や特に低い語があった。
表5.内容語・機能語別平均筆記再生率 Mean SD 内容語平均筆記再生率 75.76 22.63 機能語平均筆記再生率 64.51 31.31 内容語 41 語中、再生率が 50%以下であったものを挙げると、以下の 7 語と なる。 英文 No. 6 known 18.75% (13 人が失敗) 英文 No. 8 languages 37.5% (10 人が失敗)
英文 No. 9 pictures 25% (12 名が失敗)、taken 37.5% (10 名が失敗) 英文 No. 10 asked 18.75% (13 名が失敗)
英文 No. 11 bought 50% (8 名が失敗)、useful 43.75% (9 名が失敗)
これらは全て、動詞の活用形、または名詞の単複形の選択という形態素に 関わる誤りであった。また、これらの誤りの傾向は、Ota (2010) の sentence repetition における誤りの傾向とも類似する。この点でも、ディクテーション と sentence repetition の学習者の音声処理方法は、出力形態の違いはあれ、かな り類似していると考えられる。 次に、機能語 31 語中再生率が 50%以下だったのは、以下の 14 語であった。 英文 No. 5 he 50% (8 名が失敗)、was 25% (12 名が失敗) 英文 No. 6 him 12.5% (14 名が失敗)、for 50 % (8 名が失敗) 英文 No. 7 is 50 % (8 名が失敗)
英文 No. 8 to 50 % (8 名が失敗)
英文 No. 9 by 50 %(8 名が失敗)、are 18.75 % (13 名が失敗) 英文 No. 10 the 31.25 %(11 名が失敗)、to 37.5 %(10 名が失敗)、
the 25 %(12 名が失敗)
英文 No. 11 I 25 % (12 名が失敗)、is 37.5 % (10 名が失敗)、 to 18.25 % (13 名が失敗)
は 10% 以上の差があったものの、統計的な有意差は認められなかった。原因 の一つとして、内容語・機能語の中でその再生率に大きなばらつきがあったた めと考えられる。 よって、内容語と機能語をそれぞれ一括りで捉えず、個別に見ることにした。 その結果分かったことは、機能語については、約半数にあたる 14 語が再生率 50%以下であったということである。文頭に来る機能語に限っては全て再生率 が 80%を超えていたが、文頭以外に位置する機能語については、概ね再生状 況が悪いという事実が明らかになった。 英語力が上がると、音韻処理に留まらず、意味処理や文法処理も行うように なる。文脈情報を利用して、きちんと聞き取れなかった曖昧な部分も予測でき るようになると考えられる。もし、今回の被験者よりもさらに英語力の高い集 団が同じディクテーションを行った場合、機能語の再生率は今回の結果よりも 高まることが予想される。
表6.英文・単語別の筆記再生率の比較①(内容語の場合)
内容語
1 They speak Chinese
14 (87.5) 13 (81.25) 16 (100) 2 eat vegetables
16 (100) 12 (75)
3 gave baby milk
14 (87.5) 12 (75) 16 (100) 4 made cookies father 14 (87.5) 14 (87.5) 10 (62.5) 5 picture painted beautiful 15 (93.75) 13 (81.25) 15 (93.75)
6 known three years
3 (18.75) 16 (100) 15 (93.75) 7 girl dancing over there Mary 13 (81.25) 14 (87.5) 12(75) 13 (81.25) 15 (93.75)
8 easy some people learn languages 15 (93.75) 12 (75) 12 (75) 9 (56.25) 6 (37.5)
9 pictures taken Nancy very nice 4 (25) 6 (37.5) 14 (87.5) 12 (75) 12 (75) 10 teacher asked student move desk 16 (100) 3 (18.75) 14 (87.5) 12 (75) 12 (75) 11 dictionary bought yesterday useful 16 (100) 8 (50) 12 (75) 7 (43.75) 注:数字は正しく再生できた人数(カッコ内の数字は再生率 %)
表7 英文・単語別の筆記再生率の比較②(機能語の場合) 機能語 1 なし 2 he doesn't 16 (100) 16 (100) 3 she her 16 (100) 11 (68.75) 4 I for my 16 (100) 16 (100) 16 (100) 5 the he was 14 (87.5) 8 (50) 4 (25)
6 she has him for
16 (100) 12 (75) 2 (12.5) 8 (50) 7 the is 16 (100) 8 (50) 8 it's for to 16 (100) 11 (68.25) 8 (50) 9 the by are 13 (81.25) 8 (50) 3 (18.75)
10 the the to the
15 (93.75) 5 (31.25) 6 (37.5) 4 (25) 11 the I is to me 15 (93.75) 4 (25) 6 (37.5) 3 (18.25) 9 (56.25) 5. 4. 2 再生率が低かった語の解答例(内容語の場合) 次に、前項で明らかになった筆記再生率 50% 以下の内容語を、1 語ずつ詳 細に見ていく。実際にそれらの語がどのように誤って認識されたのか、以下に 解答例を提示する。
1)英文 No. 6 She has known him for three years. (正解 3 名、不正解 13 名) know 3 lonely 1 none 2 ninety 1 脱落 6 「has + 過去分詞」を認識できた被験者は、一文を完全に筆記再生できた1名 を含め、わずか3名にとどまった。今回の被験者の殆どの者が、まだ現在完了 形を運用レベルに引き上げていないことが見て取れる。
2)英文No. 8. It’s easy for some people to learn languages. (正解6名、不正解10名)
language 7 English 1 脱落 2 Languages を language と誤って再生した理由として、語尾の -s を正確に聞き とれなかったという音韻的側面がまず考えられる。加えて、学習者にとって複 数形としての languages よりも単数形としての language の方が親密度(どれだ け見慣れているか、聞きなれているかの度合い)が高いという可能性も考えら れる。
3)英文 No. 9 The pictures taken by Nancy are very nice. (正解 4 名、不正解 12 名)
picture 11
脱落 1
英文 No. 5 で、すでに The picture が登場したため、その語句に影響を受け単 数形を優先してしまった可能性がある。しかし、同時に考えられる可能性は、 先ほどの languages 同様、学習者にとって、複数形の pictures よりも単数形の picture の方が親密度が高いというものである。
4)英文No. 9 The pictures taken by Nancy are very nice. (正解6名、不正解10名) take 2 took 2 taking 3 painted 2 脱落 1
Painted と誤って再生した被験者 2 名は、英文 No. 5 で登場した“picture”と “painted”の組み合わせに影響を受けた可能性が高い。過去分詞 taken の代わ りに、take,took,taking が出た理由としては、既習事項の過去分詞の後置修 飾句が、やはり運用レベルにまでは引き上げられていないためと考えられる。 ちなみに、日本語で「撮られた(とられた)」と受身の概念をきちんと日本語 で再生したのは 16 名中 4 名だった。ただし、受身を表現する過去分詞 taken を書くことができたのはそのうちの 2 名で、残り 2 名は took と taking と書い ていた。
5)英文 No. 10 The teacher asked the student to move the desk. (正解 3 名、不正解 13 名) ask 10 asks 3 asked の -ed は音声的にそれほどはっきりとは認識できない部分である。そ のような場合、聞き手は文の意味の整合性も考慮して動詞の時制を選択するこ とになる。今回は「机を動かすように頼む」という現在形の文より「机を動か すよう頼んだ」と過去形で解釈する方が違和感がなかったに違いない。実際、 16 名中 10 名は「言った」または「頼んだ」と過去形で日本語再生した。(残 り 6 名のうち 3 名は、asked の訳を「たずねた」「聞いた」と誤訳したものの、 過去形で日本語再生していた。) 一方、ディクテーションでは 8 割の被験者が asked とは再生せず、ask また は asks という現在形で再生してしまった。トップダウン処理で文の意味はう まく推測できたものの、英文再生の段階で文法処理が追いつかなかったと考え られる。白畑 (2004) によると、日本人英語学習者の文法形態素の習得順序を 1 番目から 10 番目まで並べた場合、一般動詞過去形の規則変化(-ed 形)は 9 番目である。学校での導入は中学 1 年と早いものの、その定着はかなり後にな
ってからということになる。今回の被験者について言えば、一般動詞過去形の 規則変化を意識せず自由に使いこなすレベルにはまだ到達していないようであ る。
6)英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. (正解 8 名、不正解 8 名)
buy 2
borrow 2
ipod 1
脱落 3
Bought が buy の過去形の bought であると判断するためには、現在形 buy [bai] とは音の響きが異なる過去形 bought [bɔ:t / ba:t] の音を確実に聞きとりさ えすればよい。仮にその音の認識に失敗したとしても、次に来る yesterday と いう語が新たなヒントとなり、直前の動詞は過去形だと判断できる。ところが、 yesterday と書けたにもかかわらず直前の動詞を過去形 bought と書けなかった 被験者は実際 3 名いた。そのうち 1 名が buy と再生し、2 名が borrow と再生した。 これもまた、瞬時に文法処理が追いつかなかった例だと考えられる。
7)英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. (正解 7 名、不正解 9 名) use 2 脱落 7 内容語の中では、最も脱落件数が多かった語である。これは、文を構成する 語数の多さ(9 語)と埋め込み文という文の複雑さの2つの要因が重なった結 果だと考えられる。日本語で「使いやすい」「役立つ」と再生しながら、英語 で useful と書けなかった被験者は 3 名いた。一方、useful と英語で書けた被験 者は全員日本語でも正しく再生できていた。やはり、ディクテーションの成功 は、意味処理の後にいかに素早く語彙選択・文法処理ができるかどうかに関わ っていると言える。Use と誤って筆記再生した 2 名のうち、1 名はその部分に 相当する日本語を特に再生しておらず、もう 1 名は「使いやすい」と再生して いた。
以上をまとめると、内容語は筆記再生率 50%以下が全 41 語中 7 語のみであ り、次に述べる機能語と比較すると、別の語に置き換える例が多く、脱落する 例はそれほど多くなかった。強勢が置かれて読まれる語であるということと、 文の内容に直接関わる語であるということで、再生状況は概ねよかった。 5. 4. 3 再生率が低かった語の解答例(機能語の場合) 次に、筆記再生率 50% 以下の機能語を挙げる。1 語ずつ解答例を提示する。
1)英文 No. 5 The picture he painted was beautiful. (正解 8 名、不正解 8 名)
脱落 8
2)英文 No. 5 The picture he painted was beautiful. (正解 4 名、不正解 12 名)
is 2
for 1
脱落 9
3)英文 No. 6 She has known him for three years. (正解 2 名、不正解 14 名)
her 1
his 1
脱落 12
4)英文 No. 6 She has known him for three years. (正解 8 名、不正解 8 名)
脱落 8
5)英文 No. 7 The girl dancing over there is Mary. (正解 8 名、不正解 8 名)
with 1
6)英文 No. 8 It’s easy for some people to learn languages.(正解 8 名、不正解 8 名) 語順が入れ替わっているケースが多かったため、置き換えたとすればどの語 に置き換えたのか、または単純に聞き落としただけなのか、判断することがで きなかった。(表なし)
7)英文 No. 9 The pictures taken by Nancy are very nice. (正解 8 名、不正解 8 名)
for 1
脱落 7
8)英文No. 9 The pictures taken by Nancy are very nice. (正解3名、不正解13名)
is 5
was 2
were 1
脱落 5
9)英文 No. 10 The teacher asked the student to move the desk. (正解 5 名、不正解 11 名)
脱落 11
10)英文 No. 10 The teacher asked the student to move the desk. (正解 6 名、不正解 10 名)
脱落 10
11)英文 No. 10 The teacher asked the student to move the desk. (正解 4 名、不正解 12 名)
a 2
ther* 1
12)英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. (正解 4 名、不正解 12 名)
脱落 12
13)英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. (正解 6 名、不正解 10 名)
are 1
脱落 9
14)英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. (正解 3 名、不正解 13 名)
for 7
脱落 6
15)英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. (正解 9 名、不正解 7 名) 脱落 7 先ほどの内容語とは対照的に、機能語は、別の語に置き換える事例よりも、 その語そのものを聞き落とし、筆記再生に失敗する事例の方が圧倒的に多かっ た。機能語は全部で 31 語あり、そのうちの約半数にあたる 15 語が筆記再生率 50% 以下だった。やはり、ディクテーションでは、内容語のほうが機能語よ りも音声的に認識されやすいと言える。 5. 5 TOEIC スコア上位者と下位者のディクテーションパフォーマンスの比較 次に、TOEIC スコアの 500 点以上 4 名(以下グループ A)と 350 点以下の 7 名(以下グループ B)とでディクテーションの筆記再生に違いがあるかどうか 比較することにした。5. 2 で述べた通り、語単位で正しく認識できたかどうか を判断基準にした筆記再生率と TOEIC スコアとの関係には、統計的に強い相 関関係が確認された。今回は、語彙レベルを超えた統語レベルにおいてもグル
ープ A がグループ B に勝るのかどうか、再生した英文を全て比較してみるこ とにした。
その結果、全体的には、統語レベルで 2 グループの間に顕著な差は見られな かった。しかし、英語力をある程度反映していると考えられる解答傾向がぼん やりと見えてきたので、それらを以下に紹介する。
1.英文 No. 3 She gave her baby milk. グループ A
3. She gave her baby milk. 完全再生 3. She gave her baby milk. 完全再生 3. She gave her baby milk. 完全再生 3. She gave her baby milk. 完全再生 グループ B
3. She gave baby milk.
3. She gave her baby milk. 完全再生 3. She gave he (baby) milk.
3. She gave her bady* milk. 3. She gave my baby milk. 3. She have her (baby) milk.
3. She gave her (baby) milk.
* おそらくは baby と書こうとしたが、誤って bady と書いてしまったのではないかと考えられる。
A は全員が完全再生をしているのに対し、B は 7 名中 3 名が baby を落とし ている。間接目的語の baby は強勢がおかれる内容語であり、聞き取りづらい 語ではない。それにもかかわらず筆記再生できなかったのは統語知識の不足に よるものと考えられる。
2.英文 No. 8 It’s easy for some people to learn languages. グループ A
8. It is easy to learn some languages.
8. It’s easy for some people to learn languages. 完全再生 8. It’s easy for some … languages.
グループ B 8. It is some people
8. It’s easy to some people learn a language. 8. It’s easy people for languages.
8. It’s easy for learn someone learn language. 8. It’s easy for people to some lang
8. It’s easy for people some laguages. 8. It is easy for some people learn English.
A の全員が完全再生したわけではないが、4 名中 3 名は「It is + 形容詞 + to 不定詞」の構文を認識し、英語で再生できた。一方 B では誰もこの構文を再 生できなかった。ここでも、ディクテーションにおける文法知識・統語知識の 重要性が浮き彫りになった。
3.英文 No. 9 The pictures taken by Nancy are very nice. グループ A
9. The picture painted by Nancy is very nice. 9. The picture is taken by Nancy is very nice. 9. The pictures were take by Nancy is very nice.
9. The pictures taken by Nancy are very nice. 完全再生 グループ B
9. The picture was painted Nancee was very nice. 9. The picture was taken by Nancy.
9. takeing a picture by Nancy very neice. 9. The picture took a nacy is very nice. 9. … take a picture
9. The pictures were taken
9. The pictures is taken by nancy are very nice.
この文は過去分詞 taken を使った後置修飾句が埋め込まれた文である。A で は 4 名中 2 名が主語の The pictures の直後に be 動詞を誤って挿入し、残り 2 名 は be 動詞を挿入することなく後置修飾句を正しく再生できた。(そのうち 1 人 は taken ではなく painted と再生してしまったが、日本語でも「ナンシーによ ってかかれた絵」と再生し、一応文としての体裁は整っている。)一方、B で
はほぼ全員が、過去分詞を書くことは出来ても主語 The pictures の直後に be 動 詞を挿入したか、もしくは分詞を含めた後置修飾句を認識できなかったかのど ちらかで、文法的・統語的な逸脱度合いがより深刻なものとなっている。
4.英文 No. 11 The dictionary I bought yesterday is useful to me. グループ A
11. The dictionary is useful for me.
11. The dictionary I bought yesterday is useful to me. 完全再生 11. The dictionary I bought yesterday is useful for me.
11. The dictionary in ipod is useful for me. グループ B
11. The dictionary … dictionary.
11. The dictionary … easy for me yesterday. 11. The dictionnaly bought yesterday for e. 11. The dictionary bought yesterday useful for me. 11. dictionary buy
11. The dictionary borrow yesterday use to me.
11. The dictionary I bought yesterday is useful to me. 完全再生
この文については、元の文を完全に再生できたかどうかという観点ではなく、 文法的に正しい文を作れたかどうかという観点で比較する。 先に B に注目すると、完全再生に成功した 1 名以外は皆、英文 No. 9 の埋め 込み文と同様、この文に埋め込まれている後置修飾節を認識できなかった。特 に、統語上大切な役割を持つ述語動詞の is と修飾節内の主語の I を、殆ど全員 が脱落させてしまった。 それに対し、A では正解文と全く同じ完全再生者は 1 名しかいないものの、 他の3名も文法的には正しい文を作っている。特に注目すべきは、4 番目の 英文である。この文は上位 5 名の中で最も高い 700 点台のスコアを保持する 被験者の再生文である。元の文とは修飾節の部分が大きく異なる(I bought yesterday → in ipod)にもかかわらず、自分なりに語句を当てはめて、文法的 には遜色のない文を何とか間に合わせて作ることができたわけである。(日本 語でも「ipod の辞書」と再生していた。)1 番目の英文にしても、修飾節の部 分は完全に落ちてしまったものの、肝心の主語と述部は再生されている。この 点から、英語力がある程度上がってくると、どれくらいの分量を書けるかは別
として、文法的に逸脱していない文が書けるようになる(または文法的に逸脱 した文を再生することに違和感を覚えるようになる)のではないかと考えられ る。 6.結 論 本研究では、まず、大学生英語学習者のディクテーションテストでの筆記 再生状況と彼らの英語力との関係を考察した。その結果、今回の被験者 16 名のディクテーションテストでの筆記再生率と英語力の指標として採用した TOEIC スコアとの間に、統計的に有意な相関関係が認められた。さらに、デ ィクテーションの再生率を日本語による内容再生データと照らし合わせた結 果、Ota (2010) の sentence repetition 同様、今回のディクテーションにおいても、 理解できない文を正確に再生することは極めて難しいことが再確認された。 本研究の被験者は、中・高の 6 年の学校英語教育を含め、最低でも 7 年の英 語学習を経験してきた大学生である。つまり、ターゲット文に使用されている 構文は彼らにとっては全て既習項目である。スクリプトを読めば、容易に理解 できる英語力は保持している。(事実、調査終了後ターゲット文を全て提示し たが、読めば全て理解できるという回答だった。)それにも関わらず、ディク テーションという音声のみのインプットの場合、文の意味すら掴めない被験者 がいた。この、「読めば分かるが、聞くと分からない」原因は複数考えられる。 英語の音素や音変化に関する知識が不足している、発話のスピードについてい くことができない、話題や内容に関する知識(背景知識・スキーマ)が不足し ている、さらには、語彙・文法力が足りない、などが挙げられるだろう。 今回の調査でも、音声の知覚とその後の意味処理に失敗した被験者は数多く いた。ただし、誤り分析をする上でより興味を引いたのは、むしろ、瞬時の意 味処理には成功したものの、英語で正確に再現することに失敗した被験者の方 である。このタイプの被験者がいたという事実は、語彙に受容語彙 (receptive vocabulary) と発表語彙 (productive vocabulary) という 2 種類があるように、文 法知識にも「見て(聞いて)分かる」レベルと「使える」レベルがあるという ことを示している。 正確な再生のためには、まず英文の意味を理解するのが前提となる。ただし、 それで全てではなく、「使える」レベルの文法、つまり、瞬時に英文を再構築 する「自動化」された文法も必要となる。 今回の調査結果から、ディクテーションの出来栄えは英語力をある程度反映 するものであるということを再確認した。さらには、ディクテーションは、単
なる音韻処理のみで成功する作業ではないということ、認識した語をつなぎ合 わせて意味処理に成功したとしても、その先の瞬時の文法処理に失敗すると正 確な英文再生にはつながらないということも明らかになった。以上の結果から、 学習者の大まかな英語力を把握する手段として、ディクテーションを指導や評 価の場面で使用することは有効であると言える。 参考文献
Hughes, A. (2003). Testing for Language Teachers. (2nd Ed.) Cambridge: Cambridge University
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岡秀夫. (2011). 『グローバル時代の英語教育 ‐ 新しい英語科教育法 ‐ 』. 成美堂. 門田修平他. (2007). 『シャドーイングと音読の科学』. コスモピア. 佐々木嘉則. (2010). 『今さら訊けない・・・第二言語習得再入門』. 凡人社. 白畑知彦. (2004). 『英語習得の「常識」「非常識」‐ 第二言語習得研究からの検証』. 大修館書店 白畑知彦他. (2001). 『英語教育用語辞典』. 大修館書店. 武井昭江. (2002). 『英語リスニング論』. 河源社. 森山善美. (2009). 『教室におけるリスニング指導』. 大学教育出版 . 吉田一衛. (1999). 『英語リスニングの実験的研究-技能相互の関係および学習効果. モティベーションを中心に』東京書籍.
Appendix Dictation test シート(表面)
Dictation test
・ CDから 1 度だけ英文が流れます。英文が終わった後に「ピー」という発信音 が聞こえますので、それを聞いた後に書き始めてください。英文が流れている 途中で書き始めてはいけません。 ・ いったん書いたら、その後は訂正できません。後で書き足したり、書き直した りしないで下さい。 (English) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 二度目の「ピー」で裏面へDictation test シート(裏面) ★ 先ほど書いた英文の意味を日本語で覚えている範囲で全て書いて下さい。(注: 表面を見てはいけません) 書き終わったら、速やかに表面に戻って下さい。 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. アンケート 文の内容(意味)はどの時点でイメージしましたか?(該当するものに☑を入れ てください) □ 最初に英文を聞いている時 □ 英文を文字に書き起こしている時 □ 日本語を書く直前 □ 全く考える余裕はなかった □ その他(具体的に: )