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次
序 論 1 一 テ ク ス ト 論 研 究 の 意 義 2 二 研 究 史 と そ の 課 題 9 三 本 研 究 の 目 的 26 四 本 研 究 の 方 法 28 五 本 研 究 の 構 成 35 第 一 章 奥 書 か ら み る 『 教 行 信 証 』 の 生 成 53 第 一 節 『 教 行 信 証 』 の 成 立 と 周 辺 55 第 一 項 親 鸞 の 撰 述 と 書 写 55 第 二 項 親 鸞 示 寂 後 の 百 年 60 第 三 項 本 願 寺 聖 教 の 書 写 と 伝 授 63 第 二 節 真 筆 と 撰 述 ・ 書 写 67第 一 項 親 鸞 と 真 筆 67 第 二 項 親 鸞 の 撰 述 ・ 書 写 と 門 弟 74 第 三 項 『 教 行 信 証 』 の 書 写 80 第 三 節 西 本 願 寺 本 奥 書 の 諸 問 題 86 第 一 項 西 本 願 寺 本 奥 書 の 課 題 87 第 二 項 朱 書 箇 所 の 問 題 88 第 三 項 墨 書 箇 所 の 検 討 91 小 結 97 第 二 章 『 教 行 信 証 』 の 引 用 と 書 写 113 第 一 節 引 用 体 系 再 考 114 第 一 項 引 用 書 目 と そ の 分 類 115 第 二 項 親 鸞 に よ る 典 籍 群 の 把 握 120 第 三 項 引 用 導 入 の 方 法 125 第 二 節 法 位 『 無 量 寿 経 義 疏 』 に つ い て 135 第 一 項 『 無 量 寿 経 』 註 釈 書 と 法 位 136
第 二 項 諸 目 録 と 法 位 『 無 量 寿 経 義 疏 』 139 第 三 項 親 鸞 と 存 覚 の 引 用 143 第 三 節 憬 興 『 無 量 寿 経 連 義 述 文 賛 』 に つ い て 152 第 一 項 『 教 行 信 証 』 に お け る 割 註 153 第 二 項 『 聞 持 記 』 『 述 文 賛 』 の 割 註 化 161 第 三 項 『 述 文 賛 』 の 書 写 法 170 小 結 175 第 三 章 坂 東 本 の 初 期 改 訂 193 第 一 節 初 期 改 訂 の 概 要 194 第 一 項 前 期 筆 跡 時 の 改 訂 箇 所 195 第 二 項 「 行 巻 」 ・ 「 信 巻 」 の 初 期 改 訂 197 第 三 項 「 真 仏 土 巻 」 の 初 期 改 訂 199 第 四 項 「 化 身 土 巻 本 」 の 初 期 改 訂 201 第 五 項 「 化 身 土 巻 末 」 の 初 期 改 訂 203 第 二 節 貼 紙 に よ る 改 訂 204
第 一 項 「 真 仏 土 巻 」 『 讃 阿 弥 陀 仏 偈 』 に つ い て 205 第 二 項 『 論 註 』 『 讃 阿 弥 陀 仏 偈 』 間 206 第 三 項 『 讃 阿 弥 陀 仏 偈 』 「 玄 義 分 」 間 209 第 四 項 諸 テ ク ス ト か ら の 検 討 212 第 三 節 裏 書 に よ る 改 訂 215 第 一 項 「 真 仏 土 巻 」 『 述 文 賛 』 の 現 状 215 第 二 項 改 訂 の 内 容 と 時 期 218 第 三 項 『 述 文 賛 』 裏 書 の 意 義 221 第 四 節 「 真 仏 土 巻 」 の 構 成 変 化 試 論 222 第 一 項 「 真 仏 土 巻 」 の 内 容 分 類 224 第 二 項 初 期 改 訂 と 現 状 227 第 三 項 「 真 仏 土 巻 」 の 構 成 変 化 229 小 結 232 第 四 章 西 本 願 寺 本 の 体 裁 と 本 文 241 第 一 節 西 本 願 寺 本 の 書 誌 242
第 一 項 研 究 課 題 243 第 二 項 形 状 と 内 容 244 第 三 項 書 式 248 第 二 節 改 行 と 註 記 253 第 一 項 改 行 254 第 二 項 註 記 に よ る 構 造 把 握 256 第 三 項 親 鸞 真 蹟 と の 関 連 266 第 三 節 本 文 と 異 本 268 第 一 項 補 訂 と 異 本 268 第 二 項 訂 記 と 註 記 273 第 三 項 異 本 の 註 記 280 第 四 項 音 訓 の 附 加 290 小 結 293 第 五 章 西 本 願 寺 本 の 偈 頌 体 と 句 点 303 第 一 節 偈 頌 体 と 散 文 304
第 一 項 坂 東 本 ・ 専 修 寺 本 の 偈 頌 体 305 第 二 項 西 本 願 寺 本 の 偈 頌 体 306 第 三 項 『 讃 阿 弥 陀 仏 偈 』 307 第 四 項 『 華 厳 経 』 313 第 二 節 『 無 量 寿 経 』 と 句 点 320 第 一 項 西 本 願 寺 本 の 句 点 320 第 二 項 諸 本 比 較 ( 一 ) 䢣 願 文 ・ 願 成 就 文 䢣 322 第 三 項 諸 本 比 較 ( 二 ) 䢣 そ の 他 䢣 326 第 三 節 『 無 量 寿 経 』 と 偈 頌 体 328 第 一 項 第 十 八 願 成 就 文 329 第 二 項 散 文 の 偈 頌 体 化 331 第 三 項 「 大 本 」 と 偈 頌 体 335 小 結 340 第 六 章 本 願 寺 と 『 教 行 信 証 』 347 第 一 節 本 願 寺 聖 教 と 『 教 行 信 証 』 348
第 一 項 聖 教 の 伝 授 と 目 録 349 第 二 項 『 教 行 信 証 』 の 諸 形 態 357 第 三 項 抄 出 ・ 引 用 箇 所 の 変 遷 359 第 四 項 寺 院 形 成 に お け る 『 教 行 信 証 』 テ ク ス ト 366 第 二 節 存 如 授 与 本 の 書 誌 371 第 一 項 本 願 寺 系 八 冊 本 と 存 如 授 与 本 371 第 二 項 存 如 授 与 本 と 改 行 380 第 三 項 存 如 授 与 本 と 異 本 390 第 三 節 存 如 授 与 本 と 諸 本 393 第 一 項 関 連 諸 本 に つ い て 393 第 二 項 本 山 宝 庫 本 校 合 本 394 第 三 項 文 明 本 398 小 結 406 第 七 章 標 挙 ・ 標 列 の 変 遷 䢣 鎌 倉 三 本 か ら の 展 開 䢣 415 第 一 節 標 挙 ・ 標 列 と そ の 例 417
第 一 項 標 挙 ・ 標 列 の 実 例 417 第 二 項 標 挙 ・ 標 列 の 前 例 420 第 三 項 『 教 行 信 証 』 の 標 挙 ・ 標 列 424 第 二 節 「 教 巻 」 に お け る 標 挙 ・ 標 列 428 第 一 項 「 教 巻 」 標 挙 の 問 題 点 428 第 二 項 題 後 文 前 の 意 義 439 第 三 項 古 写 本 と 諸 本 の 異 同 445 第 三 節 「 化 身 土 巻 」 に お け る 標 挙 448 第 一 項 坂 東 本 ・ 専 修 寺 本 の 標 挙 448 第 二 項 漢 文 ・ 延 書 諸 本 の 標 挙 450 第 三 項 標 列 ・ 標 挙 か ら み る 本 願 寺 系 『 教 行 信 証 』 454 小 結 458 結 論 467 一 『 教 行 信 証 』 テ ク ス ト の 生 成 468 二 『 教 行 信 証 』 テ ク ス ト の 展 開 470
三 テ ク ス ト 環 境 の 差 異 473 四 〈 作 者 〉 と 〈 読 者 〉 476 附 表 一 『 教 行 信 証 』 坂 東 本 ・ 西 本 願 寺 本 ・ 存 如 授 与 本 関 連 略 年 表 482 附 表 二 『 教 行 信 証 』 引 用 文 分 類 表 486 参 考 文 献 一 覧 496
〈 凡 例 〉 一 、 聖 教 ・ 史 資 料 の 引 用 文 の 漢 字 等 は 、 『 聖 典 全 』 の 用 字 に 準 じ た が 、 適 宜 原 本 の 字 体 に 近 い も の を 用 い た 箇 所 が あ る 。 二 、 引 用 典 籍 の 略 称 は 以 下 の よ う に 統 一 し た 。 『 大 正 新 脩 大 蔵 経 』 䢪 『 大 正 蔵 』 、『 真 宗 聖 教 全 書 』 䢪 『 真 聖 全 』 、『 浄 土 真 宗 聖 典 全 書 』 䢪 『 聖 典 全 』 、『 浄 土 真 宗 聖 典 原 典 版 』 䢪 『 原 典 版 』 、『 浄 土 真 宗 聖 典 原 典 版 七 祖 篇 』 䢪 『 原 典 版 七 祖 篇 』 、『 浄 土 宗 全 書 』 䢪 『 浄 全 』 、 『 真 宗 史 料 集 成 』 䢪 『 史 料 集 成 』 、 『 増 補 親 鸞 聖 人 真 蹟 集 成 』 䢪 『 真 蹟 集 成 』 、 『 専 修 寺 本 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 䢪 『 専 修 寺 本 』 、『 本 願 寺 蔵 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 縮 刷 本 』 䢪 『 縮 刷 本 』 三 、 『 教 行 信 証 』 の 頁 数 表 記 に つ い て 原 本 の 丁 数 を 示 す 場 合 、 真 宗 大 谷 派 蔵 親 鸞 真 筆 本 ( 坂 東 本 ) は 『 真 蹟 集 成 』 の 巻 数 と 『 教 行 信 証 』 の 通 頁 、 真 宗 高 田 派 専 修 寺 蔵 真 仏 書 写 本 ( 専 修 寺 本 ) は 『 専 修 寺 本 』 の 通 頁 数 、 本 派 本 願 寺 蔵 鎌 倉 時 代 書 写 本 は 『 縮 刷 本 』 の 通 頁 数 を 示 し た 。 そ の 他 の 『 教 行 信 証 』 や 『 無 量 寿 経 』 に つ い て は 、 原 本 の 巻 数 と 丁 数 ・ 表 ( 「 オ 」) 裏 ( 「 ウ 」) を 示 し た 。 な お 、 こ の 三 本 の 状 態 を 示 す 際 に は 、 返 点 や 右 左 訓 な ど は 原 本 の ま ま 表 記 し て い る 。
序
序
論
一 テ ク ス ト 論 研 究 の 意 義 本 研 究 は 、 中 世 に お け る 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』( 『 教 行 信 証 』) を 主 た る 研 究 対 象 と し 、 そ の テ ク ス ト の (1) 生 成 と 展 開 に つ い て 、 書 写 者 の 違 い に 着 目 し て 論 じ る も の で あ る 。 『 教 行 信 証 』 は 親 鸞 の 主 著 で あ り 、 浄 土 真 宗 の 根 本 聖 典 と 位 置 づ け ら れ て い る 。 親 鸞 は 、「 化 身 土 巻 」 に お い て 仏 滅 年 時 を 計 算 す る が 、「 按 三 時 敎 者 、 勘 如 來 般 涅 槃 時 代 、 當 周 第 五 主 穆 王 五 十 一 年 壬 申 。 從 其 壬 申 至 我 元 仁 元 年 元 仁 者 後 堀 川 院 諱 茂 仁 聖 代 也 甲 申 、 二 千 一 百 八 十 三 歲 也 。 又 依 賢 劫 經 ・ 仁 王 經 ・ 涅 槃 等 說 、 已 以 入 末 法 六 百 八 十 三 歲 也 」( 『 聖 典 全 』 二 ・二 一 三 ) と 、 具 体 的 な 年 時 を 示 す こ と で 今 時 の 年 代 を 勘 案 し て い る 。 親 鸞 が 年 時 と し て 記 す 元 仁 元 年 ( 一 二 二 四 ) に つ い て は 、 江 戸 期 以 来 、『 教 行 信 証 』 撰 述 の 年 と 考 え ら れ る 場 合 が 多 く 見 ら れ 、 ま (2) た 、 親 鸞 生 誕 七 百 年 に あ た る 大 正 十 二 年 ( 一 九 二 三 ) に は 、 真 宗 各 派 に お い て 立 教 開 宗 の 年 と し て 慶 讃 法 要 が 修 さ れ た 。 そ の 親 鸞 生 誕 七 百 年 に 前 後 し て 、『 教 行 信 証 』 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 が 本 格 化 し 、 以 後 、 『 教 行 信 証 』 の 成 立 過 程 や 諸 本 系 統 に つ い て の 議 論 が 積 み 重 ね ら れ る こ と と な っ た 。 鎌 倉 三 本 と も い わ れ る 真 宗 大 谷 派 蔵 親 鸞 自 筆 本 ( 坂 東 本 ) や 高 田 派 専 修 寺 蔵 真 仏 書 写 本 ( 専 修 寺 本 )、 本 派 本 願 寺 蔵 鎌 倉 時 代 書 写 本 ( 西 本 願 寺 本 ) に つ い て は 、 親 鸞 の 真 筆 で あ る か 否 か に つ い て 、 字 体 の 変 化 を 分 析 す る 筆 跡 研 究 を 中 心 に 、諸 本 が ど の よ う な 経 過 で 成 立 し た の か が 議 論 さ れ て き た 。 そ の 結 果 、「 草 稿 本 」 あ る い は 「 中 清 書 本 」 と 位 置 づ け ら れ て き た 坂 東 本 は 、 親 鸞 が 生 涯 に わ た っ て 増 補 ・ 改 訂 を 繰 り 返 し て 成 立 し た こ と が 明 ら か と さ れ 、 後 者 二 本 に つ い て は 親 鸞 真 筆 で は な い と 考 え ら れ る 現 況 で あ る 。 現 在 、『 教 行 信 証 』 研 究 の 基 準 と な っ て い る の が 、 重 見 一 行 の 著 書 、 『 教 行 信 証 の 研 究 䢣 そ の 成 立 過 程 の 文 献 学 的 考 察 』( 法 藏 館 、 一 九 八 一 ) で あ る 。 重 見 に よ る 研 究 成 果 に つ い て は 、 本 論 で も た び た び 触 れ る こ と に な る が 、『 教 行 信 証 』 に 対 す る 文 献 学 と い う 方 法 論 、 諸 本 を 用 い た 坂 東 本 成 立 過 程 の 解 明 、 そ の 検 証 の 中 で 明 ら か に さ れ た 正 応 版 本 の 存 在 証 明 や 周 辺 諸 本 の 特 徴 、 延 書 本 を 視 野 に 入 れ た 諸 本 系 統 分 類 の 試 み な ど は 、 同 書 刊 行 か ら 三 十 年 以 上 を 経 過 し た 現 在 で も 、『 教 行 信 証 』 諸 本 研 究 に 大 き な 影 響 を 有 し て い る 。 重 見 以 降 も 『 教 行 信 証 』 研 究 は 着 実 に 進 歩 を 遂 げ て き た が 、 従 来 の 研 究 は 、 坂 東 本 を 中 心 に 諸 本 を 比 較 検 討 す る こ と で 、 伝 存 写 本 ・ 版 本 等 の 系 統 分 類 を 試 み る こ と に 議 論 が 集 中 し て い る 。 言 い 換 え れ ば 、〈 作 者 〉 親 鸞 の 視 点 か ら 、『 教 行 信 証 』 の 正 し い テ ク ス ト は 何 か を 探 る 研 究 が 主 流 で あ っ た 。 そ の よ う な 中 で 、 本 研 究 で は 、『 教 行 信 証 』 に は 、 坂 東 本 だ け で な く 、 そ れ ぞ れ の 来 歴 を 有 す る 諸 本 が 多 く 伝 え ら れ て い る こ と を 大 切 に し た い 。 一 つ の 書 物 で あ る 『 教 行 信 証 』 が 、 な ぜ 様 々 な 形 態 で 展 開 し た の か 、 そ の 内 実 に つ い て は 必 ず し も 明 ら か で な い 。 こ の こ と が 現 状 の 研 究 課 題 で あ る 。 と い う の も 、 昨 今 、 あ る 典 籍 や 作 品 に 対 す る 〈 作 者 〉 と 〈 読 者 〉 と い う 視 点 で の 研 究 が 、 諸 分 野 に お い て 注 目 さ れ て き て い る 。 た と え ば 、 片 桐 洋 一 『 平 安 文 学 の 本 文 は 動 く 䢣 写 本 の 書 誌 学 序 説 』 ( 和 泉 書 院 、 二 〇 一 五 )、 横 田 冬 彦 編 『 シ リ ー ズ
本 の 文 化 史 ① 読 者 と 読 書 』( 平 凡 社 、 二 〇 一 五 ) な ど で あ る 。 諸 本 が 成 立 す る プ ロ セ ス に は 、〈 作 者 〉 に よ る 主 体 的 な 書 く 行 為 が 欠 か せ な い 。 同 一 書 物 で あ っ て も 、 様 々 な 周 辺 テ ク ス ト が 介 在 す る こ と に よ り 、 原 本 と は 異 な る 文 や 形 態 を 有 す る も の が 数 多 く 生 成 さ れ て い く 。 諸 本 の 制 作 者 た る 〈 読 者 〉 た ち が 、 そ れ ぞ れ の 歴 史 的 ・ 社 会 的 背 景 の 中 で 生 成 し て き た の が 、 個 々 の テ ク ス ト で あ る と 位 置 づ け る こ と が で き る 。 こ う し た 〈 作 者 〉 と 〈 読 者 〉 と い う 視 点 を 『 教 行 信 証 』 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 に 導 入 し た と き 、 変 動 す る テ ク ス ト の 関 係 性 の 中 で 『 教 行 信 証 』 諸 本 を 捉 え 直 す こ と が 可 能 と な り 、〈 作 者 〉 親 鸞 に よ る 生 成 の み な ら ず 、 ど の 時 代 に も 必 ず 存 在 し て い た で あ ろ う 親 鸞 の 主 著 『 教 行 信 証 』 を 読 み 解 く 〈 読 者 〉 の 立 場 に よ る テ ク ス ト の 変 化 ・ 変 容 に つ い て 明 ら か に で き る と 考 え ら れ る 。 こ う し て 両 者 の 立 場 を 以 て 研 究 す る こ と に よ っ て 、 こ れ ま で の 坂 東 本 を 中 心 と す る 『 教 行 信 証 』 の 原 初 形 態 、 あ る い は 完 成 さ れ た テ ク ス ト の 探 求 と い う 、 従 来 の 研 究 方 針 や 成 果 を 乗 り 越 え 、 親 鸞 在 世 時 か ら 行 わ れ て い た 『 教 行 信 証 』 を 書 写 す る と い う 行 為 に よ っ て 、 様 々 な 形 態 や 異 文 が 生 み 出 さ れ て き た と い う 事 実 を 、『 教 行 信 証 』 に お け る テ ク ス ト 変 化 と 位 置 づ け て み た い の で あ る 。〈 作 者 〉 に よ る 生 成 と 〈 読 者 〉 に よ る 変 化 、 そ の 両 面 を 的 確 に 捉 え る こ と が で き た と き 、 初 め て 『 教 行 信 証 』 と い う 書 物 の 成 立 と 展 開 の 歴 史 像 が 明 ら か に な る の で は な い だ ろ う か 。 『 教 行 信 証 』 を 書 物 と し て の 展 開 の 中 で 相 対 視 し て み れ ば 、〈 読 者 〉 か ら み る 『 教 行 信 証 』 と い う の は 、 実 は 親 鸞 以 後 の 長 い 伝 来 の 歴 史 の 中 で 培 わ れ て き た も う 一 つ の 『 教 行 信 証 』 の 在 り 方 で あ っ た 。 そ の 示 唆 を 与 え て く れ る の が 、『 教 行 信 証 』 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 の 黎 明 期 に な さ れ た 、 中 井 玄 道 に よ る 一 連 の 研 究
で あ る 。 中 井 は 、「 明 治 式 」 の 善 本 を 作 成 す る こ と を 企 図 し て 『 教 行 信 証 』 諸 本 の 研 究 を 開 始 し 、 本 文 に 対 し (3) て 一 々 の 校 異 を 示 す こ と で 、 諸 本 を 包 括 し た テ ク ス ト の 翻 刻 を 実 現 し た 。 (4) 中 井 は 、 自 身 の 研 究 に つ い て 、 『 教 行 信 証 』 の 「 外 形 即 ち 書 物 と し て の 形 態 に 関 す る 研 究 」 と い い 、「 書 史 学 ( B i b r i o g r a p hy )」 と 位 置 づ け 、 そ の 方 法 を 書 物 の 外 形 と 内 容 と の 二 面 に 分 け て 説 明 し て い る 。 ま ず 、 外 形 (5) か ら の 研 究 題 目 と し て 、「 形 状 、 装 幀 、 巻 帙 、 紙 質 、 書 写 又 は 印 刷 の 年 時 及 場 所 、 書 写 又 は 印 刷 せ る 人 物 、 伝 来 又 は 流 布 の 歴 史 、 現 存 部 数 の 多 少 」 を 挙 げ て い る 。 こ の 点 は 現 在 の 書 誌 学 と い う 研 究 分 野 の 課 題 に 通 ず る も の で あ る 。 次 に 、 内 容 か ら の 研 究 題 目 と し て 、「 書 物 の 真 偽 を 鑑 別 し 、 無 数 の 書 物 を そ の 内 容 に よ り て 分 類 し 、 又 或 る 題 目 の 下 に 関 係 の 書 物 を 列 挙 す る こ と 等 」 と 述 べ て い る 。 こ れ は 一 見 、 個 別 著 書 の 内 容 解 明 を 行 う 教 義 学 的 研 究 に も 見 え る が 、 中 井 は そ の 方 面 の 研 究 を 対 象 と し て は い な い こ と を 明 言 し て い る 。 中 井 の そ れ は 、「 列 挙 的 書 誌 学 」 と い う 書 誌 学 の 一 法 で あ り 、 書 誌 文 献 の 目 録 作 成 を 目 的 と す る 研 究 を 指 し て い る の で あ る 。 明 治 四 十 四 年 ( 一 九 一 一 ) に は 、『 六 条 学 報 』 第 一 一 四 号 に 「 教 行 信 証 校 訂 改 刻 批 議 」 が 発 表 さ れ た 。 そ こ で 中 井 は 、『 教 行 信 証 』 の 「 御 真 本 」 は 一 種 と も 限 ら な い と い い 、 そ れ に つ い て で さ え 錯 誤 の 可 能 性 が あ る こ と 、 後 人 が 転 々 と 伝 写 す る 過 程 で 錯 誤 が 生 じ た 例 は 枚 挙 に 遑 が な い こ と を 述 べ 、 原 本 ・ 書 写 本 双 方 に 問 題 が 存 す る こ と を 指 摘 し て い る 。 先 述 の よ う に 、 こ の 論 文 自 体 は 、 明 治 時 代 当 時 に 『 教 行 信 証 』 の 改 刻 が 必 要 で あ る 旨 を 示 す こ と を 主 眼 と し て お り 、 時 代 に 適 応 し た 書 き 下 し 文 の 必 要 性 を 説 く も の で あ っ た が 、 そ の 過 程
で 、 伝 存 す る 書 写 本 に 共 通 す る 問 題 点 が 描 き 出 さ れ て い た 。 明 治 四 十 五 年 ( 一 九 一 二 ) か ら 大 正 三 年 ( 一 九 一 四 ) に か け て は 、『 教 行 信 証 』 諸 本 の 校 異 内 容 を 順 次 発 表 し 、 そ の 総 数 は 全 十 八 回 で 千 百 三 十 八 条 を 数 え る 。 (6) さ ら に 大 正 六 年 ( 一 九 一 七 ) に は 「 教 行 信 証 引 文 の 体 例 」( 『 六 条 学 報 』 第 一 八 七 ~ 一 九 三 号 ) を 全 五 回 に わ た っ て 発 表 し た 。 こ れ ら を 元 に 纏 め ら れ た の が 、 大 正 七 年 ( 一 九 一 八 ) の 『 本 典 諸 本 校 異 』、 大 正 九 年 ( 一 九 二 〇 ) の 中 井 玄 道 校 訂 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』・ 『 教 行 信 証 附 録 』( 仏 教 大 学 出 版 部 、 一 九 二 〇 ) で あ り 、 大 正 十 二 年 ( 一 九 二 三 ) に は 『 教 行 信 証 解 説 』 と 題 し て 諸 本 の 紹 介 と 内 容 の 解 説 を 発 表 し た 。 (7) 中 井 校 訂 本 に お い て は 、 対 校 本 と 参 考 本 に 分 け て 諸 本 校 異 が 示 さ れ て い る 。 対 校 本 に は 、 ⑴ 寛 永 版 、 ⑵ 正 保 版 、 ⑶ 明 暦 版 、 ⑷ 寛 文 版 、 ⑸ 仏 光 寺 派 本 山 蔵 版 、 ⑹ 縮 刷 蔵 本 、 ⑺ 高 田 派 本 山 蔵 版 の 七 本 、 参 考 本 に は ⑴ 坂 東 本 、 ⑵ 西 本 願 寺 本 、 ⑶ 存 覚 元 亨 本 、 ⑷ 存 覚 延 書 本 、 ⑸ 六 要 鈔 所 釈 本 、 ⑹ 存 如 授 与 本 、 ⑺ 寂 如 校 訂 本 、 ⑻ 智 暹 本 、 ⑼ 六 要 鈔 会 本 、 ⑽ 悟 澄 本 、 ⑾ 本 山 蔵 版 小 本 本 典 追 加 校 異 、 ⑿ 文 明 本 の 十 二 本 を 用 い 、 対 校 本 に つ い て は 全 文 、 参 考 本 に つ い て は 重 要 箇 所 に つ い て の 校 異 を 示 し て い る 。 さ ら に 、 附 録 で は 、 異 本 解 説 と し て 、 坂 東 本 、 西 本 願 寺 本 、 存 覚 元 亨 本 、 存 覚 延 書 本 、 六 要 鈔 所 釈 本 、 存 如 授 与 本 、 寛 永 版 、 正 保 版 、 明 暦 版 、 寛 文 版 、 寂 如 校 訂 本 、 智 暹 校 訂 本 、 六 要 鈔 会 本 、 悟 澄 校 刻 本 、 仏 光 寺 派 本 山 蔵 版 、 縮 刷 蔵 本 、 高 田 派 本 山 蔵 版 の 十 七 本 を 挙 げ 、 さ ら に 「 校 正 標 異 」「 引 文 体 例 」 「 引 文 一 覧 」 「 索 引 」「 教 行 信 証 校 刻 縁 起 」 を 収 め て い る 。 こ う し て 中 井 は 、 諸 本 を 前 に し て そ れ ぞ れ の 概 説 を 示 し 、 本 文 に 対 し て 設 け た 一 々 の 校 異 を 以 て 、 多 く の 系 統 を 包 括 し た テ ク ス ト の 翻 刻 を 実 現 し た 。 公 表 さ れ た 校 訂 本 は 、 既 存 の 刊 本 を 元 と し た も の で あ る 点 が 、 近 年
の 重 要 古 写 本 を 基 底 と し た 諸 翻 刻 と は 異 な る が 、 の ち の 『 教 行 信 証 』 諸 翻 刻 の 校 異 と 比 し て も 最 も 多 い 部 類 の 対 校 本 数 を 有 し 、『 教 行 信 証 』 諸 本 に お け る 異 文 の 拡 が り を 示 す た め の 模 式 を 提 示 し た こ と に 大 き な 意 義 が 認 め ら れ る 。 こ の 校 訂 本 と そ の 編 集 方 針 は 、 今 日 に 至 る ま で の 諸 翻 刻 、 あ る い は 教 義 学 ・ 解 釈 学 に も 大 き く 影 響 し て お り 、 た と え ば 、『 真 宗 の 世 界 』 臨 時 増 刊 第 三 巻 第 五 号 「 教 行 信 証 新 研 究 号 」 所 収 本 や 『 本 典 研 鑽 集 (8) 記 』 の 本 文 は 、 こ の 校 訂 本 に 大 き く 依 拠 し て い る 。 (9) 中 井 の 研 究 方 針 に 照 ら し 合 わ せ れ ば 、『 教 行 信 証 』 を 対 象 と す る 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 の 目 的 と い う の は 、 諸 本 の 書 誌 情 報 を 明 示 す る こ と だ け で な く 、 そ れ ら を 目 録 化 す る こ と に も あ る 。『 教 行 信 証 』 に 関 す る そ れ は 、『 教 行 信 証 』 現 存 目 録 、 あ る い は 真 宗 典 籍 目 録 を 作 成 す る 中 で 把 握 さ れ 、 所 蔵 者 や 系 統 な ど に よ っ て 分 類 し て 示 さ れ て い る 。 た だ し 、『 教 行 信 証 』 の 諸 本 そ れ ぞ れ に 個 性 を 認 め る と す る な ら ば 、 諸 本 の 書 誌 情 報 を (10) 列 挙 し た り 、 成 立 年 代 順 に 並 べ 替 え た だ け で は 、 そ の 目 的 が 達 せ ら れ た と は 到 底 い う こ と は で き な い 。 諸 本 の 関 係 性 を 構 造 的 に 捉 え て 可 視 化 す る こ と が 求 め ら れ る の で あ る 。 お お よ そ テ ク ス ト を 作 成 す る と き に は 、 依 拠 す る テ ク ス ト を 機 械 的 に 模 す に 留 ま ら ず 、 置 か れ た 環 境 に よ っ て 様 々 に 変 化 を 見 せ る 。 中 井 の 指 摘 に も あ る よ う に 、「 後 人 が 転 々 と 伝 写 す る 過 程 で 錯 誤 が 生 じ た 例 は 枚 挙 に 遑 が な い 」 の で あ る 。 ま た 、 中 井 自 身 の 校 訂 本 の 形 成 と そ の 影 響 に も み ら れ る よ う に 、『 教 行 信 証 』 テ ク ス ト は 絶 え ず 変 化 し て い る 。 諸 本 の 本 文 や 書 誌 情 報 を 収 集 し 、 時 代 に 即 応 し た テ ク ス ト の 作 成 を 目 指 す と い う 中 井 の 研 究 志 向 か ら す れ ば 、『 教 行 信 証 』 の 諸 本 と は 、 そ れ ぞ れ が 各 時 代 の 要 請 に よ っ て 作 成 さ れ た 側 面 が あ
っ た こ と が 思 い 起 こ さ れ る 。〈 作 者 〉 の 意 図 し な い 改 変 が 〈 読 者 〉 に よ っ て も た ら さ れ て き た と い う 事 実 に 目 を 向 け る こ と に こ そ 、 テ ク ス ト 論 を 用 い る 意 義 が 認 め ら れ る 。 本 研 究 は 、『 教 行 信 証 』 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 史 上 に 位 置 づ け る と す る な ら ば 、 真 宗 聖 教 ・ 典 籍 を 対 象 と し て 真 宗 書 誌 学 ・ 真 宗 文 献 学 ・ 真 宗 典 籍 学 ・ 真 宗 聖 典 学 と 様 々 に 呼 ば れ て き た 枠 組 み の 延 長 線 上 に あ る 。 『 教 行 信 証 』 の 原 典 あ る い は 完 成 稿 の テ ク ス ト を 特 定 し 、 原 典 遡 及 を 成 し 遂 げ よ う と す る 基 礎 的 研 究 を 引 き 継 ぎ つ つ 、〈 作 者 〉 と 〈 読 者 〉 両 面 か ら の 視 点 を 以 て 、 諸 本 そ れ ぞ れ に お け る 歴 史 的 経 過 と 当 時 の 社 会 的 環 境 に 注 意 し て 諸 本 の 制 作 と 伝 来 の 意 義 を 明 ら か に し よ う と す る 点 に お い て 、 個 々 に 存 在 す る テ ク ス ト の 有 機 的 な 関 係 性 を 現 代 的 視 点 か ら 見 い だ そ う と す る 新 た な 試 み と い え よ う 。 こ の 試 み に よ っ て 、 テ ク ス ト の 生 成 と 展 開 に つ い て 明 ら か に し よ う と す る 『 教 行 信 証 』 テ ク ス ト 関 係 論 の 構 築 を 目 指 す 。 こ の テ ク ス ト 関 係 論 は 、『 教 行 信 証 』 に 限 ら ず 、 豊 富 な 数 量 が 伝 存 す る 他 の 親 鸞 の 著 作 を は じ め 、 多 種 多 様 な 真 宗 聖 教 に 適 用 し う る も の で あ る 。 そ う し た 意 味 に お い て 、『 教 行 信 証 』 の 生 成 と 展 開 を 明 ら か に す る の み な ら ず 、 真 宗 教 義 学 や 各 種 真 宗 聖 教 ・ 典 籍 の 解 釈 学 に 大 き く 貢 献 す る こ と が 期 待 さ れ る 。
二 研 究 史 と そ の 課 題 こ れ ま で の 『 教 行 信 証 』 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 で は ど の よ う な 議 論 が 繰 り 広 げ ら れ 、 現 在 ど の よ う な 到 達 点 に あ る の か 。『 教 行 信 証 』 現 存 諸 本 の う ち 、 重 要 な 古 写 本 と 目 さ れ る 、 い わ ゆ る 坂 東 本 ・ 専 修 寺 本 ・ 西 本 願 寺 本 の 研 究 史 を ま と め る こ と で 、 本 研 究 に 関 す る 研 究 課 題 に つ い て 詳 述 し て お き た い 。 ⑴ 真 宗 大 谷 派 蔵 親 鸞 真 筆 本 ( 坂 東 本 、 報 恩 寺 本 ) 坂 東 本 は 、 鎌 倉 期 以 降 の 来 歴 は 定 か で 無 く 、 鳥 越 正 道 の 推 定 に よ れ ば 、 室 町 時 代 以 降 の 錯 乱 期 を 経 て 、 江 戸 期 に 五 本 の 模 写 本 が 作 成 さ れ た と い う 。 さ ら に 、 大 正 期 、 昭 和 期 、 平 成 期 に は そ れ ぞ れ 次 の よ う な 影 印 本 (11) が 公 刊 さ れ て い る 。 大 正 期 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 六 冊 ( 大 谷 派 本 願 寺 編 纂 課 、 一 九 二 二 ) 昭 和 期 『 親 鸞 聖 人 真 蹟 国 宝 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 影 印 本 』( 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 、 一 九 五 六 ) 『 親 鸞 聖 人 真 蹟 国 宝 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 影 印 本 』( 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 、 一 九 七 一 再 刊 ) 『 親 鸞 聖 人 真 蹟 宝 国 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 六 冊 ( 教 行 信 証 刊 行 会 、 美 乃 美 、 一 九 八 六 ) 平 成 期 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 ( 坂 東 本 ) 影 印 本 』 六 冊 ( 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 、 二 〇 〇 五 ) こ れ ら に 加 え 、 『 親 鸞 聖 人 真 蹟 集 成 』 ( 法 藏 館 、 一 九 七 三 ~ 一 九 七 四 ) が 刊 行 さ れ て い る が 、 そ の 第 一 ・ 二
巻 に 『 教 行 信 証 』 坂 東 本 の 縮 小 版 ( 二 色 刷 ) が 収 め ら れ て お り 、 丁 数 を 示 す た め に 便 利 で あ る 。 平 成 期 に は 内 容 ・ 解 説 等 が 充 実 し た 『 増 補 親 鸞 聖 人 真 蹟 集 成 』( 法 藏 館 、 二 〇 〇 五 ~ 二 〇 〇 七 ) が 刊 行 さ れ て い る 。 坂 東 本 は 、 江 戸 期 あ る い は 明 治 初 期 に は 度 々 展 覧 さ れ て い た と い わ れ る 。 明 治 末 期 、 佐 々 木 月 樵 が 坂 東 本 を 披 見 し た こ と を 紹 介 し て お り 、 当 時 の 様 子 が 伝 え ら れ て い る 。 そ の 研 究 が 本 格 化 す る の は 大 正 期 以 降 で あ (12) る ( 主 要 事 項 に つ い て は 、 適 宜 巻 末 の 附 表 一 「 『 教 行 信 証 』 坂 東 本 ・ 西 本 願 寺 本 ・ 存 如 授 与 本 関 連 略 年 表 」 を 参 照 さ れ た い )。 近 代 以 降 の 動 向 と し て は 、 大 正 期 、 昭 和 期 、 平 成 期 の 坂 東 本 修 理 事 業 が 契 機 と な り 、 そ れ に 付 随 し て 行 わ れ た 影 印 本 刊 行 と そ の 解 説 が 研 究 の 基 礎 と な っ た 。 そ れ に 加 え 、 後 に 大 き な 影 響 を 及 ぼ し た 山 田 文 昭 、 赤 松 俊 秀 、 重 見 一 行 の 三 氏 と そ の 前 後 の 研 究 推 移 に 焦 点 を あ て 、 こ れ ま で の 坂 東 本 研 究 を 概 観 し た い 。 坂 東 本 研 究 の 初 め に 挙 げ ら れ る の が 、 山 田 文 昭 の 発 表 で あ る 。 山 田 は 真 蹟 本 と 伝 え ら れ て き た 坂 東 本 ・ 専 修 寺 本 ・ 西 本 願 寺 本 の う ち 、 主 に 坂 東 本 に つ い て 「 著 者 自 筆 の 原 本 」 で あ る こ と を 立 証 す る た め に 、 書 誌 情 報 を 提 示 し 、 諸 記 録 か ら 来 歴 を 述 べ た 。 真 筆 で あ る こ と の 根 拠 と し て は 、 紙 質 ・ 紙 形 の 雑 多 さ 、 行 間 ・ 文 字 (13) の 不 統 一 、 文 字 の 訂 正 、 空 白 の 多 さ な ど を 挙 げ 、 こ れ ら は 著 者 自 身 に よ る も の と し か 考 え ら れ な い 状 況 と し て い る 。 こ の 論 考 で は 、 坂 東 本 各 部 の 増 補 改 訂 跡 の い く つ か と 、 撰 者 名 、 筆 跡 な ど を 挙 げ て 、 坂 東 本 が 著 者 自 身 の 原 本 で あ る こ と の 根 拠 と し て い る 。 た だ 山 田 は 、 親 鸞 の 書 で あ る こ と を 「 愚 禿 釈 親 鸞 」 と い う 撰 号 の み に 依 っ て い る 。 具 体 的 に 親 鸞 の 真 筆 で あ る こ と を 論 証 す る に は 、 量 的 に 判 断 材 料 が 豊 富 と な る 後 の 研 究 を
待 つ 必 要 が あ る が 、 そ れ で も な お 、『 教 行 信 証 』 真 蹟 本 研 究 の 嚆 矢 と 位 置 づ け る こ と が で き 、 こ の 分 野 を 開 拓 し た こ と の 意 義 は 大 き い 。 事 実 、 そ の 後 の 研 究 は 山 田 の 論 述 や 推 定 を 踏 襲 す る も の も 多 く 見 受 け ら れ る 。 大 正 十 二 年 ( 一 九 二 三 ) の 立 教 開 宗 七 百 年 を 迎 え る 前 後 、 辻 善 之 助 、 中 井 玄 道 な ど に よ っ て 研 究 が 進 展 し 、 親 鸞 真 蹟 に 関 し て 活 発 に 議 論 が 交 わ さ れ る よ う に な っ た 。 そ の よ う な 中 で 、 大 正 十 一 年 ( 一 九 二 二 ) に 坂 東 (14) 本 の 影 印 本 が 公 刊 さ れ た 。 鳥 越 に よ れ ば 、 日 下 無 倫 が 発 見 し た 『 平 等 覚 経 』 断 簡 ( 別 表 具 ) を 「 教 巻 」 に 復 (15) 元 し て 撮 影 さ れ た こ と を 指 し て 大 正 期 修 復 と い う 。 そ の 際 に 制 作 さ れ た の が 大 正 期 影 印 本 で あ る が 、 発 刊 直 (16) 後 に 関 東 大 震 災 が 起 こ っ て お り 、 そ れ 以 前 の 様 相 を 伝 え る も の と し て 貴 重 で あ る 。 大 正 期 影 印 本 の 公 刊 に よ っ て 広 く 学 問 と し て の 門 戸 が 広 が り 、 鈴 木 宗 忠 、 藤 田 海 龍 な ど の 真 蹟 本 研 究 に 結 び つ い た 。 ま た 、『 教 行 信 証 』 (17) の 成 立 に 関 わ る 研 究 と し て 、 結 城 令 聞 に よ る 信 巻 別 撰 説 に 関 す る 議 論 、 禿 氏 祐 祥 や 小 川 貫 弌 に よ る 自 筆 草 稿 本 の 成 立 に 関 す る 論 述 が あ り 、 そ れ ら を 一 冊 に ま と め た 慶 華 文 化 研 究 会 編 『 教 行 信 証 撰 述 の 研 究 』( 百 華 苑 、 一 九 五 四 ) が 刊 行 さ れ た 。 ま た 、 日 野 環 に よ っ て 、 異 筆 箇 所 の 問 題 が 提 起 さ れ た 。 (18) (19) 昭 和 三 十 六 年 ( 一 九 六 一 ) に 迎 え る 親 鸞 七 百 回 忌 の 慶 讃 記 念 の 事 業 と し て 、 昭 和 期 修 復 が な さ れ た 。 大 正 期 影 印 本 出 版 の 翌 年 、 大 谷 派 本 願 寺 浅 草 別 院 経 蔵 の 金 庫 に 保 管 さ れ て い た 坂 東 本 は 、 大 正 十 二 年 ( 一 九 二 三 ) 九 月 一 日 の 関 東 大 震 災 に よ っ て 火 災 に 遇 い 、 表 紙 な ど に 損 傷 が あ っ た 。 昭 和 期 修 理 は 、 震 災 で 損 傷 を 受 け た (20) 坂 東 本 保 存 の た め の 「 根 本 修 理 」 と い う 目 的 が あ っ た が 、 大 正 期 影 印 本 の 不 備 等 も あ っ て 坂 東 本 研 究 に つ い て は な お 課 題 が あ っ た こ と か ら も 、 新 た な 影 印 本 が 要 請 さ れ る 状 況 で あ っ た 。 そ こ で 、 赤 松 俊 秀 ・ 藤 島 達 朗 (21)
・ 名 畑 応 順 ら に よ っ て 修 理 さ れ 、 新 た な 影 印 本 が 作 成 さ れ る こ と に な っ た 。 こ う し て 、 昭 和 三 十 一 年 ( 一 九 五 六 ) 十 一 月 、 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 よ り 『 親 鸞 聖 人 真 蹟 国 宝 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 影 印 本 』( 以 下 、 昭 和 期 影 印 本 ) が 公 刊 さ れ た 。 そ の 解 説 と し て 、 赤 松 俊 秀 「 教 行 信 証 の 成 立 と 改 訂 」、 藤 島 達 朗 「 教 行 信 証 の 書 誌 」、 名 畑 応 順 「 教 行 信 証 の 教 義 」 の 三 本 が 附 さ れ た 。 そ れ ぞ れ 、 坂 東 本 、 諸 本 、 教 義 学 に 関 す る 基 盤 的 研 究 で あ る 。 そ の う ち 赤 松 に よ る 報 告 は 、 現 在 で も 研 究 の 基 準 と い い う る 豊 富 な 情 報 を 有 し て い る 。 赤 松 は 撮 影 の 監 修 に あ た る 傍 ら 、 本 紙 の 一 々 に つ い て 調 査 し 、 幾 多 の 問 題 に つ い て 詳 細 に 検 討 し た 結 果 を 同 解 説 に 報 告 し た 。 坂 東 本 の 「 教 」 ・ 「 行 」・ 「 信 」・ 「 証 」・ 「 真 仏 土 」・ 「 化 身 土 本 」・ 「 化 身 土 末 」 の 各 巻 そ れ ぞ れ を 、 先 頭 の 料 紙 か ら 順 に 並 べ 、 料 紙 の 状 況 や 筆 致 の 判 断 を 克 明 に 記 し て い き 、 紙 面 の 状 態 か ら み る 本 文 成 立 の 推 移 と 、 各 部 の 筆 致 の 異 な り 、 各 種 書 き 入 れ な ど に よ る 改 訂 を 指 摘 し た 。 そ こ で は 、 各 巻 が ど の よ う な 組 み 合 わ せ で 成 り 立 っ て い る の か に つ い て 、 主 た る 事 項 を 本 文 の 続 き 方 を 基 準 に 並 べ て 各 巻 の 改 訂 状 況 の 推 定 を 行 い 、 そ れ ぞ れ の 巻 の 特 徴 が 際 立 つ よ う 配 慮 さ れ て い る 。 赤 松 は 、 真 蹟 本 の 各 巻 を 詳 述 し 終 え た の ち に 総 括 を 行 い 、 第 一 に 、 親 鸞 六 三 歳 前 後 に 書 写 さ れ た こ と 、 第 二 に 初 稿 本 の 存 在 が 想 定 さ れ る こ と を 述 べ て い る 。 坂 東 本 の 状 態 を 鮮 明 に 示 し た 赤 松 の 報 告 は 、 坂 東 本 を 語 る 上 で 基 礎 的 な 事 項 を 記 し た 貴 重 な 報 告 と 位 置 づ け る こ と が で き る 。 な お 、 同 解 説 は 、 昭 和 四 十 八 年 ( 一 九 七 三 ) に 迎 え る 親 鸞 生 誕 八 百 年 ・ 立 教 開 宗 七 百 五 十 年 の 慶 讃 記 念 と し て 、 昭 和 四 十 六 年 ( 一 九 七 一 ) に 再 版 さ れ た 影 印 本 に も 附 さ れ た 。 昭 和 期 影 印 本 刊 行 以 降 は 、 古 田 武 彦 に よ っ て 史 料 論 的 研 究 が な さ れ る な ど 、 着 実 に 進 展 を 見 せ た 。 (22)
こ う し た 研 究 の 変 遷 を 経 て 、 重 見 一 行 が 坂 東 本 研 究 の 集 大 成 と も い え る 一 連 の 研 究 を 発 表 し 、 そ の 成 果 は 『 教 行 信 証 の 研 究 䢣 そ の 成 立 過 程 の 文 献 学 的 考 察 』( 法 藏 館 、 一 九 八 一 ) に 纏 め て 刊 行 さ れ た 。 重 見 は 、 糸 偏 等 の 坂 東 本 に お け る 字 形 や 異 体 字 を 他 の 親 鸞 真 蹟 や 大 蔵 経 等 と 比 較 す る こ と に よ っ て 筆 跡 の 変 遷 を 詳 細 に 検 証 し 、 坂 東 本 各 部 の 染 筆 時 期 を 明 ら か に し た 。 方 法 論 と し て は 、 古 典 文 学 を 対 象 と し た 文 献 学 的 研 究 が 専 門 の 池 田 亀 鑑 に よ る 古 典 に 対 す る 批 判 的 処 置 と い う 方 法 を 見 直 し た 上 で 自 ら の 研 究 を 「 文 献 学 的 研 究 」 と 位 置 づ け 、 諸 本 を 多 角 的 に 論 じ る も の で あ っ た 。 重 見 の 功 績 は 、 親 鸞 の 筆 跡 変 遷 を 具 体 的 な 事 例 を 交 え て 明 ら か に し 、 料 紙 の 状 態 、 正 応 版 本 の 存 在 証 明 な ど を 指 摘 、 諸 本 の 特 徴 と 坂 東 本 の 関 連 を 探 る こ と で 坂 東 本 の 成 立 過 程 を 明 ら か に す る と と も に 、 延 書 本 の 異 文 を 検 討 し 、 そ の 祖 型 を 探 る こ と で 諸 本 系 統 に 見 通 し を つ け た こ と で あ る 。 こ の 論 考 が 、 坂 東 本 の み な ら ず 現 在 の 『 教 行 信 証 』 研 究 の 基 礎 と な っ て い る こ と は 疑 う べ く も な い 。 (23) こ う し て 一 つ の 到 達 点 を 迎 え た 坂 東 本 研 究 は 、 さ ら に 、 鳥 越 正 道 に よ っ て 坂 東 本 江 戸 期 模 写 本 の 比 較 が 行 わ れ 、 最 終 稿 本 の 復 元 と 真 本 の 探 求 が 試 み ら れ て い る 。 ま た 、 か ね て よ り 坂 東 本 を 鎌 倉 時 代 の 訓 点 語 資 料 と (24) し て 用 い る 国 語 学 的 研 究 も 盛 ん に 行 わ れ て き た 。 こ れ ら の 成 果 は 、『 教 行 信 証 』 各 部 解 釈 の 基 礎 に 援 用 さ れ る (25) こ と に も 繋 が っ て い る 。 最 後 に 、 平 成 十 五 年 ( 二 〇 〇 三 ) か ら 八 ヶ 月 に 及 ぶ 平 成 期 修 復 は 、 平 成 二 十 三 年 ( 二 〇 一 一 ) に 迎 え た 親 鸞 七 百 五 十 回 忌 の 記 念 事 業 で あ り 、 赤 松 に よ る 昭 和 期 修 復 の 報 告 を 承 け て 行 わ れ た 。 平 成 十 七 年 ( 二 〇 〇 五 )
七 月 に 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 よ り 影 印 本 が 公 刊 さ れ た 。 ま た 平 成 二 十 四 年 ( 二 〇 一 二 ) に は 、 大 谷 大 学 編 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 翻 刻 篇 ・ 附 録 篇 一 ・ 附 録 篇 二 ( 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 、 二 〇 一 二 ) の 三 冊 が 刊 行 さ れ た 。 本 文 は 坂 東 本 の 丁 別 に 翻 刻 さ れ 、 書 誌 事 項 の 解 説 が 必 要 な 箇 所 に は 補 註 を 付 し て い る 。 附 録 編 一 ・ 附 録 編 二 に は 、 声 点 ・ 右 左 訓 ・ 字 体 ・ 合 点 等 の 一 覧 が 纏 め ら れ て い る 。 な お 、 平 成 期 修 復 作 業 の 最 終 段 階 で 赤 尾 栄 慶 に よ り 発 見 さ れ た の が 角 点 ( 角 筆 点 ) で あ る 。 坂 東 本 の 角 点 に つ い て は 、 平 成 十 九 年 ( 二 〇 〇 七 )『 毎 日 新 聞 』 朝 刊 に て 報 道 さ れ た 。 ま た 、 平 成 二 十 年 ( 二 〇 〇 八 ) 四 月 に は 「 教 行 信 証 ( 坂 東 本 ) の 角 筆 点 に つ い て 」( 真 宗 大 谷 派 宗 務 所 『 真 宗 』 一 二 四 九 号 ) と 題 し て 角 点 発 見 の 経 緯 と 概 要 が 報 告 さ れ た が 、 平 成 二 十 七 年 ( 二 〇 (26) 一 五 ) 、 赤 尾 栄 慶 ・ 宇 都 宮 啓 吾 監 修 ・ 執 筆 『 坂 東 本 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 角 点 の 研 究 』( 東 本 願 寺 出 版 、 二 〇 一 五 ) が 刊 行 さ れ 、 そ の 全 貌 が 示 さ れ た 。 こ こ ま で が 平 成 期 修 復 に 伴 っ て 進 展 し た 研 究 成 果 と い え る 。 (27) こ こ で 、 赤 松 や 重 見 、 鳥 越 ら の 所 論 を も と に 、 坂 東 本 の 成 立 過 程 や 筆 跡 変 遷 に つ い て 確 認 し て お こ う 。 坂 (28) 東 本 は 、 筆 跡 の 変 遷 に 応 じ て 前 期 ・ 中 期 ・ 後 期 に 大 き く 分 け ら れ る と 考 え ら れ て い る 。 坂 東 本 前 期 筆 跡 は 、 一 行 八 字 書 き の 本 文 で あ り 、 専 修 寺 に 蔵 さ れ る 『 般 舟 讃 』 や 『 涅 槃 経 』 抄 出 文 な ど を 含 む 『 見 聞 集 』 、 『 唯 信 鈔 』 ( 平 仮 名 本 ) が 書 写 さ れ た と 考 え ら れ る 文 暦 二 年 ( 一 二 三 五 )、 親 鸞 六 三 歳 頃 の 筆 跡 と 同 時 期 と 推 定 さ れ て い る 。「 化 身 土 巻 末 」 の 『 大 集 経 』 部 分 を 主 体 と す る 親 鸞 七 〇 歳 代 前 半 の 中 期 筆 跡 や 、 (29) 一 行 七 字 書 き 本 文 を 主 体 と す る 親 鸞 八 〇 歳 以 降 の 後 期 筆 跡 と の 区 別 は 、 重 見 ま で に 指 摘 さ れ た 二 十 八 種 の 字 体 ・ 字 画 の 異 な り 、 料 紙 ご と の 行 数 の 違 い な ど か ら 判 断 さ れ て い る 。 (30)
〈 表 0 -1 〉 坂 東 本 の 書 写 と 改 訂 年 号 西 暦 主 要 事 項 筆 跡 変 遷 〈 草 稿 〉 八 行 書 き 本 文 清 書 前 期 筆 跡 「 行 巻 」 そ の 他 の 訂 正 書 改 ( 五 八 ~ 六 三 歳 頃 ) 〈 第 一 次 改 訂 〉 「化 身 土 巻 末 」 『 大 集 経 』 切 り 入 れ 中 期 筆 跡 「真 仏 土 巻 」貼 紙 ( 七 〇 ~ 七 五 歳 頃 ) 寛 元 五 一 二 四 七 ※ 尊 蓮 本 書 写 ( 『 教 行 信 証 』 一 応 の 完 成 ) 〈 第 二 次 改 訂 〉 「 真 仏 土 巻 」 書 改 ・ 異 筆 「証 巻 」「真 仏 土 巻 」等 標 挙 記 入 「教 巻 」 「信 巻 」 「 化 身 土 巻 」 七 行 書 き 本 文 書 改 後 期 筆 跡 建 長 七 一 二 五 五 ※ 専 信 本 書 写 ( 八 〇 歳 以 降 ) ※ 真 仏 本 転 写 ( 専 修 寺 本 ) 〈 第 三 次 改 訂 〉 「 行 巻 」 書 改 ・ 標 挙 訂 正 「証 巻 」 「 真 仏 土 巻 」 表 紙 外 題 ・ 袖 書 ( 蓮 位 に 授 与 ) 弘 長 二 一 二 六 二 ※ 親 鸞 示 寂 ( 最 終 稿 本 成 立 ) 坂 東 本 中 期 筆 跡 に つ い て は 、 寛 元 元 年 ( 一 二 四 七 ) 尊 蓮 書 写 以 前 と 考 え ら れ て い る 。 そ の 内 容 は 、『 大 集 経 』 六 十 巻 の う ち 後 半 に あ た る 「 日 蔵 分 」 や 「 月 蔵 分 」 の 抄 出 文 で あ っ た 巻 子 状 の ノ ー ト を 折 り 込 ん で 「 化 身 土 巻 」( 『 真 蹟 集 成 』 二 ・ 五 八 五 ~ 六 三 一 ) に 差 し 込 ん だ も の が 主 で あ る が 、「 真 仏 土 巻 」( 同 二 ・ 四 三 二 ) に 『 涅
槃 経 』 二 行 分 貼 紙 の 増 補 も あ る 。 坂 東 本 後 期 筆 跡 に つ い て は 、 専 信 本 書 写 の 前 後 で 行 わ れ て い る 。 内 容 と し て は 、 経 典 中 で 最 も 多 く 引 用 さ れ る 『 涅 槃 経 』 に つ い て の も の を 主 と す る 。「 信 巻 」 の 書 改 に は 宿 紙 が 用 い ら れ て い る と い わ れ 、「 真 仏 土 巻 」 に お け る そ れ は 、『 涅 槃 経 』 後 半 部 ( 第 八 ~ 一 三 文 ) の 追 加 ・ 書 改 が 主 体 で あ る 。 こ れ ら は 諸 文 の 整 理 と 位 置 (31) づ け ら れ 、 他 の 細 部 の 修 正 ・ 加 筆 も 含 め て 、 引 用 文 の 構 成 自 体 に 何 ら か の 変 化 を も た ら し た も の と は い え な い 。 そ こ で 、 前 期 筆 跡 時 の 改 訂 が 引 用 文 の 構 成 ・ 配 置 に 大 き く 関 与 し 、 本 文 内 容 を 充 足 さ せ る 作 業 が 中 期 筆 跡 時 ま で に 行 わ れ 、 そ れ を 完 成 さ せ る た め の 作 業 が 後 期 筆 跡 時 の 改 訂 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 以 上 の よ う に 展 開 し て き た 坂 東 本 に つ い て 、 本 研 究 の 目 的 に 即 し て 課 題 を 挙 げ る と す る な ら ば 、 坂 東 本 に 関 す る テ ク ス ト 生 成 に 関 し て 論 じ る べ き は 、 坂 東 本 に お け る 引 用 文 の 構 成 や 、 そ れ を 決 定 づ け た 改 訂 の 意 義 に つ い て で あ ろ う 。 注 目 す べ き は 、 従 来 は 「 草 稿 本 」、 今 日 で は 「 中 清 書 本 」 と 位 置 づ け ら れ な が ら 、 料 紙 の 切 り 継 ぎ を 含 む 紙 面 の 改 訂 を 、〈 表 0 -1 〉 の 「 「 行 巻 」 そ の 他 の 訂 正 書 改 」 と し た 時 期 、 つ ま り 坂 東 本 初 期 と い え る 前 期 筆 跡 改 訂 時 に 既 に 行 っ て い る こ と で あ る 。 し か し 、『 教 行 信 証 』 の 主 体 と な る 引 用 文 の 位 置 づ け に 変 化 が 見 ら れ る こ と に は 、 こ れ ま で あ ま り 注 目 さ れ て こ な か っ た 。 さ ら に い え ば 、『 教 行 信 証 』 被 引 用 文 献 を 体 系 化 す る 試 み は な さ れ て き た が 、 そ れ が 、 親 鸞 が 坂 東 本 に 長 い 期 間 を か け て 改 訂 を 加 え 続 け た と い う 事 情 の 中 で 、 一 切 経 や 経 論 章 疏 か ら ど の よ う に 取 捨 選 択 し た の か と い う 非 引 用 文 献 も 含 ん だ テ ク ス ト 理 解 の 変 遷 と い っ た 事 項 に は 必 ず し も 論 考 が 進 ん で い な い 。
そ こ で 、 親 鸞 に よ る テ ク ス ト の 選 定 、 書 写 、 改 訂 と い う 、 坂 東 本 の テ ク ス ト が 生 成 さ れ る 中 で 生 じ た 三 つ の 事 態 に 着 目 し て 、『 教 行 信 証 』 の 生 成 と い う 事 態 を 捉 え る 必 要 が あ る 。 テ ク ス ト の 選 定 と 書 写 に つ い て は 第 二 章 、 改 訂 に つ い て は 第 三 章 で 述 べ る 。 ⑵ 高 田 派 専 修 寺 蔵 真 仏 書 写 本 ( 専 修 寺 本 、 高 田 本 ) 専 修 寺 に は 多 く の 親 鸞 真 蹟 が 伝 え ら れ て お り 、 大 正 期 に は 辻 善 之 助 が 三 十 五 、 六 点 を 真 蹟 認 定 し た 。 そ れ ら は 親 鸞 よ り 高 田 の 門 弟 で あ る 覚 信 、 専 信 、 慶 信 、 信 証 、 覚 然 、 信 性 、 顕 智 、 髙 田 入 道 に 授 与 さ れ た も の で あ り 、「 高 田 專 修 寺 」 の 黒 印 が 押 さ れ て い る こ と が 特 徴 で あ る 。 そ の う ち 、 親 鸞 真 蹟 と 伝 え ら れ て い た も の の (32) 一 つ が 専 修 寺 本 『 教 行 信 証 』 で あ る 。 専 修 寺 本 の 本 文 は 、 明 治 四 十 五 年 ( 一 九 一 二 ) 親 鸞 六 百 五 十 回 忌 の 際 に 高 田 派 専 修 寺 蔵 版 『 教 行 信 証 』 四 冊 ( 活 版 ) が 刊 行 さ れ 、 さ ら に 常 磐 井 堯 祺 に よ っ て 専 修 寺 本 を 底 本 と し た 校 訂 本 文 が 公 開 さ れ た こ と で 世 に 知 ら れ て い た が 、 影 印 本 や 写 真 版 に つ い て は 長 ら く 公 開 さ れ な か っ た 。 し か し 、 立 教 開 宗 七 百 五 十 年 ・ 親 鸞 (33) 生 誕 八 百 年 の 記 念 と し て 写 真 版 が 初 め て 公 開 さ れ 、 次 い で 影 印 本 も 作 成 さ れ て い る 。 『 専 修 寺 本 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 上 ・ 下 ( 法 藏 館 、 一 九 七 五 、 刊 記 は 「 高 田 専 修 寺 本 教 行 信 証 」) 『 重 要 文 化 財 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 六 冊 ( 便 利 堂 、 一 九 八 六 )
専 修 寺 所 蔵 の 『 教 行 信 証 』 は 、 古 く か ら 親 鸞 真 蹟 と 伝 え ら れ 、 辻 も 真 蹟 と 認 め て い た が 、 当 時 か ら 疑 念 を 抱 く 学 者 も あ っ た と さ れ る 。 大 正 十 一 年 ( 一 九 二 二 ) 六 月 に は 京 大 の 吉 澤 義 則 が 来 訪 し て 、『 教 行 信 証 』 な ど を 調 査 し た と い い 、 そ の と き は 松 山 忍 明 が 紹 介 役 、 三 井 淳 辯 が 陪 席 し た と い う 。 昭 和 八 年 ( 一 九 三 三 ) に は 、 親 鸞 筆 跡 に 関 す る 座 談 会 が 開 催 さ れ 、『 高 田 学 報 』 第 五 輯 に は 、 多 く の 図 版 と と も に そ の 速 記 録 が 掲 載 さ れ て い る 。 こ の 「 親 鸞 聖 人 筆 蹟 に 関 す る 座 談 会 」 に は 、 生 桑 完 明 、 川 瀬 良 琛 、 竹 内 宜 啓 、 染 野 光 海 、 中 澤 見 明 、 藤 源 真 量 、 小 妻 隆 文 、 三 井 淳 辯 、 清 水 智 乗 が 出 席 し 、 東 西 本 願 寺 、 専 修 寺 、 そ の 他 寺 院 所 蔵 の 伝 真 蹟 資 料 の 特 徴 が 提 議 さ れ 、 親 鸞 真 蹟 の 基 準 に つ い て 一 定 の 提 案 が な さ れ た 。 こ の 座 談 会 は 、 辻 の 真 蹟 説 を 承 け て の も の で あ っ た が 、 専 修 寺 蔵 の 『 教 行 信 証 』 は 積 極 的 に 議 論 の 俎 上 に 取 り 上 げ ら れ る こ と は 無 か っ た 。 た だ 、 三 井 が 示 し た 「 専 修 寺 所 蔵 親 鸞 聖 人 筆 蹟 目 録 」( 七 三 頁 以 降 ) で は 、 真 筆 類 を 選 述 本 、 書 写 本 、 経 釈 要 文 、 御 消 息 、 讃 銘 文 、 断 簡 文 の 六 つ に 分 類 し て い る が 、『 教 行 信 証 』 に つ い て は 、( イ ) 選 述 本 の 第 一 と し て 、 次 の よ う に 示 さ れ て い る 。 一 、 敎 行 信 證 六 冊 内 容 、 本 山 の 明 治 四 十 五 年 の 出 版 本 に 同 じ 、 但 し 敎 卷 、 信 卷 、 眞 佛 土 卷 の 終 り に 「 親 鸞 御 入 滅 弘 長 二 歲 壬 戌 十 一 月 廿 八 日 午 時 御 年 九 十 歲 也 、 同 廿 九 日 專 信 顯 智 御 舍 利 藏 」 と あ り 。 遠 江 國 池 田 住 僧 下 野 國 高 田 住 僧 奥 書 な し 傳 持 、 顯 正 流 義 鈔 に 「 敎 行 證 一 部 六 卷 マ タ 眞 筆 ニ 書 シ 建 長 七 年 乙 卯 冬 ノ コ ロ 高 田 開 山 眞 佛 上 人 顯 智
上 人 ニ ナ ラ ヘ ア タ ヘ タ マ フ 、 マ コ ト ニ 付 法 相 承 ノ 義 顯 ナ リ 」 と あ り 。 こ の 座 談 会 の 対 談 者 た る 生 桑 完 明 は 、 座 談 会 か ら 約 二 十 年 が 経 過 し た 昭 和 三 十 一 年 ( 一 九 五 六 ) 専 信 書 写 本 と 推 定 す べ き こ と を 発 表 し た 。 こ れ は 、『 宝 暦 十 二 壬 午 年 六 月 三 日 御 目 録 』 に よ っ て 推 定 さ れ 、 「 以 彼 六 卷 (34) 草 本 寫 書 之 、 筆 師 專 信 之 、 建 長 七 歲 乙 卯 六 月 廿 二 日 午 時 畢 書 之 」 と い う 専 信 房 専 海 の 奥 書 が 、 現 存 す る 親 鸞 入 滅 記 事 の 前 に あ っ た こ と を 理 由 と し て い た 。 そ の 後 、 重 見 は 、 坂 東 本 の 書 写 本 か ら 中 間 写 本 一 本 を 介 し た 転 写 本 で あ り 、 一 三 〇 〇 年 以 前 の 成 立 で あ ろ う と 推 定 し た 。 重 見 の 論 を 承 け た 平 松 令 三 は 、 影 印 本 解 説 に お (35) い て 真 仏 に よ る 転 写 本 と 推 定 し た 。 現 在 で は 真 仏 書 写 と 考 え ら れ て い る が 、 そ れ に 対 す る 疑 義 も あ る 。 な お 、 (36) (37) 門 川 徹 真 が 現 存 諸 本 の 本 文 や 訓 点 を 比 較 す る 中 で 、 専 修 寺 本 は 初 稿 本 か ら 尊 蓮 ・ 専 海 ・ 真 仏 書 写 に 連 な る 系 統 の 書 写 本 で あ る と い う 見 解 を 発 表 し て い る が 、 そ の 議 論 に は 首 肯 で き な い 部 分 が あ る 。 専 修 寺 本 の 書 写 者 (38) や 祖 本 に つ い て は 課 題 が 残 さ れ て い る と い え よ う 。 専 修 寺 本 に は 坂 東 本 に も 先 行 す る と 推 定 さ れ る 情 報 が 残 さ れ て お り 、 親 鸞 在 世 時 に 坂 東 本 を 書 写 し た と 思 わ れ る 専 信 本 系 の 情 報 を 伝 え て い る た め 、 大 変 貴 重 な 資 料 で あ ろ う 。 さ ら に 、 専 信 房 専 海 に つ い て は 、「 安 城 御 影 」 と の 関 連 が 指 摘 さ れ て い る 。『 教 行 信 証 』 の 伝 授 に つ い て 考 え る 上 で も 、 貴 重 な 位 置 に あ る の が 専 修 寺 (39) 本 で あ る 。 た だ し 、 本 研 究 で は 、 本 願 寺 と い う 場 に お い て 『 教 行 信 証 』 が い か に 生 成 さ れ 受 け 継 が れ て き た の か を 考 察 す る こ と を 睨 ん で 、 坂 東 本 、 西 本 願 寺 本 、 存 如 授 与 本 に 着 目 し て 議 論 を 進 め て い く こ と に な る 。 そ う し た
意 味 で 、 真 宗 教 団 に お け る 本 山 の 一 つ と し て 専 修 寺 に 伝 来 し た 専 修 寺 本 『 教 行 信 証 』 に つ い て は 、 単 独 の 章 節 を 立 て て 議 論 す る こ と は し な い 。 坂 東 本 や 西 本 願 寺 本 の 特 徴 と 比 較 対 照 す る こ と に 特 化 し 、 現 存 す る 『 教 行 信 証 』 の 中 で 最 も 古 い 情 報 を 有 す る 重 要 古 写 本 の 一 つ と し て 、 坂 東 本 や 西 本 願 寺 本 等 の 特 徴 の 背 景 を 根 拠 づ け る た め に 積 極 的 に 使 用 し て い く こ と を 、 こ こ で 断 っ て お き た い 。 ⑶ 本 派 本 願 寺 蔵 鎌 倉 時 代 書 写 本 ( 西 本 願 寺 本 、 本 願 寺 本 ) 西 本 願 寺 本 は 、 本 願 寺 に お い て 相 伝 ・ 伝 授 と い う 面 で 一 定 の 役 割 を 果 た し て き た と 考 え ら れ る 。 応 長 元 年 ( 一 三 一 一 ) 本 願 寺 第 三 代 覚 如 が 存 覚 と と も に 大 町 如 道 へ 『 教 行 信 証 』 の 講 義 を 行 っ た 際 に 用 い た 本 、 あ る い は 第 八 代 蓮 如 時 代 の 本 向 房 了 顕 「 腹 籠 り の 聖 教 」「 肉 附 き の 聖 教 」 の 伝 説 も 西 本 願 寺 本 と い わ れ て い る こ と で 知 ら れ る 。 さ ら に 、 本 願 寺 第 六 代 巧 如 の 頃 ま で の 伝 授 本 の 校 訂 に 用 い ら れ た 本 と さ れ 、 本 願 寺 に お け る 「 相 (40) (41) 伝 の 聖 教 」 と し て の 地 位 に あ る 。 江 戸 期 以 降 は 、 親 鸞 自 筆 の 「 御 真 本 」 と 伝 え ら れ 、「 清 書 本 」 と し て 知 ら れ (42) て き た 。 大 正 期 以 降 は 、 坂 東 本 と 同 様 、 立 教 開 宗 や 親 鸞 の 遠 忌 法 要 の 記 念 事 業 と し て 次 の よ う な 影 印 本 や 写 真 版 の 制 作 ・ 刊 行 な ど が 行 わ れ 、 そ れ ら を 基 に 研 究 が 進 展 し て き た 。 大 正 期 『 教 行 信 証 』 四 冊 ( 本 派 本 願 寺 立 教 開 宗 七 百 年 記 念 慶 讃 事 務 所 文 書 部 、 一 九 二 三 )
昭 和 期 『 重 要 文 化 財 教 行 信 証 』 六 冊 ( 講 談 社 、 一 九 七 六 ) 平 成 期 『 『 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 』 復 刻 ( 西 本 願 寺 本 )』 六 冊 ( 浄 土 真 宗 本 願 寺 派 宗 務 所 、 二 〇 一 二 ) 『 本 願 寺 蔵 顕 浄 土 真 実 教 行 証 文 類 縮 刷 本 』 上 ・ 下 ( 『 教 行 信 証 の 研 究 』 第 三 ・ 四 巻 所 収 、 浄 土 真 宗 本 願 寺 派 宗 務 所 、 二 〇 一 二 ) 大 正 期 影 印 本 に は 禿 氏 祐 祥 に よ る 解 説 『 教 行 信 証 考 証 』、 昭 和 期 影 印 本 に は 宮 崎 圓 遵 に よ る 解 説 『 教 行 信 証 考 証 』 が そ れ ぞ れ 附 さ れ 、「 本 願 寺 本 の 性 質 」 と い う 項 目 を 立 て て 当 本 の 解 説 が な さ れ て い る が 、 両 書 は 『 教 行 信 証 』 全 般 の 概 説 に 主 眼 が あ る と 思 わ せ る 内 容 を 主 と し て い る 。 平 成 期 の 復 刻 本 に は 、 梯 實 圓 「 『 教 行 証 文 類 』 成 立 の 思 想 的 背 景 」、 内 藤 知 康 「 『 教 行 信 証 』 の 概 説 」、 本 願 寺 教 学 伝 道 研 究 所 聖 典 編 纂 部 門 「 西 本 願 寺 本 の 書 誌 に つ い て 」、 縮 刷 本 に は 、 解 説 「 西 本 願 寺 本 『 教 行 信 証 』 の 特 色 に つ い て 」 が 附 さ れ て い る 。 書 誌 事 項 に つ い て 述 べ た 平 成 期 の 解 説 二 本 で は 、 重 見 一 行 に よ る 研 究 成 果 を 踏 ま え た 上 で 、 西 本 願 寺 本 の 書 誌 的 特 徴 の 概 要 が 述 べ ら れ て い る 。 西 本 願 寺 本 の 研 究 に つ い て は 、 大 正 三 年 ( 一 九 一 四 ) に 発 表 さ れ た 山 田 文 昭 に よ る 論 考 が 嚆 矢 と な る 。 山 (43) 田 は 、 文 永 写 本 の 存 在 を 伝 え る 石 川 県 弘 願 寺 蔵 本 ( 弘 願 寺 本 ) を 紹 介 し 、 こ れ が の ち に 西 本 願 寺 本 の 奥 書 と 結 び つ け ら れ る 原 点 と な っ た 。 弘 願 寺 本 は 焼 失 し て 現 存 し な い が 、 大 谷 大 学 図 書 館 蔵 の 明 治 十 二 年 ( 一 八 七 九 ) 校 合 本 に よ れ ば 、「 弘 長 二 歲 壬 戌 十 一 月 廿 八 日 / 未 尅 親 鸞 聖 人 御 入 滅 也 / 御 歲 九 十 歲 同 廿 九 日 戌 時 / 東 山 御 葬 送 同 卅 日 御 舍 利 藏 / 佛 滅 後 至 二 千 百 三 十 五 歲 入 末 法 後 七 百 三 十 五 歲 當 文 永 十 二 歲 乙 亥 也 / 依 賢 劫 經 仁 王 經 涅 槃 經 等 說 言 」 ヰ
( 「 / 」 は 改 行 位 置 、 以 下 同 様 ) と い う 奥 書 が あ っ た よ う で あ る 。 ま た 、 西 本 願 寺 本 と 同 系 統 の 書 写 本 と 考 え (44) ら れ る 福 井 県 浄 得 寺 蔵 本 ( 浄 得 寺 本 ) に も 、「 弘 長 二 歲 壬 戌 十 一 月 廿 八 日 牛 剋 親 鸞 聖 / 人 御 入 滅 也 御 歲 九 十 歲 同 廿 九 日 戌 時 東 / 山 御 葬 送 同 卅 日 御 舍 利 藏 / 佛 滅 後 二 千 二 百 三 十 五 歲 入 末 法 後 七 百 三 十 五 歲 當 文 永 十 二 / 乙 亥 也 依 賢 劫 經 仁 王 經 涅 槃 經 等 說 言 」 と い う 奥 書 が あ り 、 こ れ ら が 西 本 願 寺 本 奥 書 の 原 形 と 比 定 さ れ て い る 。 (45) そ の 後 、 中 井 玄 道 に よ る 諸 本 研 究 、 辻 善 之 助 ・ 八 代 国 治 に よ る 東 西 本 願 寺 や 専 修 寺 の 史 料 調 査 、 立 教 開 宗 (46) (47) 七 百 年 を 機 縁 と し た 坂 東 本 や 西 本 願 寺 本 の 影 印 本 の 公 刊 な ど に よ っ て 、 真 蹟 本 を 中 心 と す る 『 教 行 信 証 』 諸 (48) 本 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 が 盛 ん と な っ た が 、 そ の 過 程 で 西 本 願 寺 本 の 研 究 も 進 展 し た 。 山 田 に よ っ て 文 永 十 二 年 ( 一 二 七 五 ) 奥 書 の 存 在 が 知 ら れ て い た が 、 辻 は 奥 書 を 本 文 と は 別 筆 と す る こ と で 、 本 文 部 分 の 真 筆 を 認 定 す る に 至 っ た 。 妻 木 直 良 は 、 辻 の 真 筆 説 に 全 面 的 に 依 拠 し て い る 。 (49) こ れ に 反 す る 立 場 を と っ た の が 、 中 井 玄 道 や 橋 川 正 で あ る 。 中 井 は 『 教 行 信 証 附 録 』「 異 本 解 説 」 の 第 二 に 「 本 願 寺 本 」 の 項 を 設 け て い る 。 そ こ で は 、 西 本 願 寺 本 の 奥 書 に つ い て 、 本 願 寺 本 に 於 て 切 取 ら れ た る 部 分 に は 、 尚 奥 書 四 行 を 存 し た り し を 知 る べ し 。 此 本 は 文 永 十 二 年 に 書 写 を 了 し た る も の な れ ば 、 正 し く 宗 祖 聖 人 の 滅 後 十 三 年 に 当 れ り 。 弘 願 寺 本 は 不 幸 に も 今 よ り 三 十 年 前 に 焼 失 せ り と の こ と な れ ば 、 僅 か に 校 合 本 に 依 り て 知 る の 外 な き も 、 之 を 同 本 な り と 信 ず べ き 本 願 寺 本 は 、 幸 い に も 今 日 ま で 安 全 に 保 存 せ ら れ た れ ば 、 本 願 寺 本 は 今 日 知 ら れ た る 古 写 本 の 中 、 最 も 宗 祖 の 年 代 に 近 き も の に し て 、 頗 る 珍 重 す べ き も の な り と す 。 又 は 文 永 写 本 を 転 写 せ る も の な る か は 、 古 文 書 学 の 研
究 を 待 っ て 後 決 す べ き な り 。 弘 願 寺 本 が 本 願 寺 本 と 同 じ く 蓮 如 上 人 の 所 伝 な り と 称 せ ら る る よ り 察 す る に 、 当 時 本 願 寺 所 伝 の 秘 本 が 間 々 特 別 の 恩 許 を 以 て 書 写 せ し め ら る る の 例 あ り し な ら ん か 。 と 述 べ て い る 。 中 井 は 、 文 永 十 二 年 ( 一 二 七 五 ) の 写 本 で あ る か 、 そ の 転 写 本 で あ る か の 判 断 は 保 留 し て い (50) る が 、 親 鸞 示 寂 後 の 近 い 時 期 の 書 写 本 と 考 え 、 親 鸞 真 筆 説 に 疑 義 を 呈 し て い る 。 ま た 、 橋 川 正 「 辻 博 士 の 親 鸞 聖 人 筆 跡 之 研 究 」( 『 親 鸞 と 祖 国 』 二 -一 二 、 一 九 二 〇 ) に は 、 辻 の 坂 東 本 真 筆 説 に は 賛 同 、 専 修 寺 本 も こ れ に 準 ず る も の と し て い る が 、 西 本 願 寺 本 に つ い て は な お 保 留 す べ き 点 が あ る と し て い る 。 妻 木 が 肯 定 し て い る こ と に つ い て も 疑 問 を 呈 し 、 中 井 と 同 じ く 、 進 ん で 肯 定 で き な い と 述 べ て い る 。 こ う し て 真 蹟 説 と 非 真 蹟 説 が 提 示 さ れ る こ と と な っ た 。 (51) そ の 後 、 吉 澤 義 則 は 訓 点 別 筆 説 を 提 示 、 梅 原 真 隆 は 頭 註 ・ 本 文 別 筆 説 を 提 示 、 鈴 木 宗 忠 は 中 井 の 説 に 賛 同 、 (52) (53) (54) 藤 田 海 龍 は 辻 に よ る 本 文 真 蹟 奥 書 別 筆 説 ・ 吉 澤 に よ る 点 注 別 筆 説 ・ 梅 原 に よ る 頭 註 別 筆 説 を 承 け て 頭 註 ・ 本 文 非 真 蹟 説 を 示 し 、 潟 岡 孝 昭 は 本 文 文 永 十 二 年 書 写 ・ 奥 書 別 筆 説 を 提 示 し た 。 こ う し て 本 文 と 奥 書 、 訓 点 、 (55) (56) 註 記 等 と の 関 係 が 検 証 さ れ て い き 、 真 蹟 説 は 次 第 に 薄 れ て い っ た 。 こ れ ら を 承 け て 、 現 在 の 西 本 願 寺 本 の 位 置 づ け を 確 定 さ せ た の が 、 重 見 に よ る 文 永 十 二 年 坂 東 本 臨 写 説 で あ る 。 重 見 は 、 西 本 願 寺 本 の 字 種 や 異 文 、 註 記 、 補 訂 等 を 検 討 し 、 奥 書 を 本 文 と 同 筆 と み な し 、 西 本 願 寺 本 (57) は 文 永 十 二 年 ( 一 二 七 五 ) に 坂 東 本 を 臨 写 し た 画 期 的 な 写 本 で あ る こ と を 論 証 し た 。 (58)
さ ら に 近 年 、 親 鸞 七 百 五 十 回 忌 を 記 念 し て 西 本 願 寺 本 の 復 刻 本 や 縮 刷 本 が 公 刊 さ れ た 。 復 刻 本 解 説 に は 、 西 本 願 寺 本 は 、 こ れ ら と 同 じ く 古 来 よ り 親 鸞 聖 人 の 真 筆 と し て 伝 来 し て き た も の で 、 坂 東 本 が 「 草 稿 本 」 と 称 さ れ る の に 対 し て 「 清 書 本 」 と 呼 ば れ て い る 。 そ れ は 経 論 釈 の 引 文 や 御 自 釈 の 箇 所 に 適 宜 、 改 行 が 施 さ れ 、 整 然 と し た 体 裁 を 保 っ て い る こ と に よ る 。 こ れ ほ ど 内 容 を 悉 知 し た 上 で 長 行 や 偈 文 の 区 別 を み て 、 分 か り や す い よ う に 改 行 が 施 さ れ て い る の は 、 鎌 倉 三 本 の う ち で も 西 本 願 寺 本 だ け で あ る 。 こ の 西 本 願 寺 本 も 親 鸞 聖 人 の 筆 跡 の 研 究 が 進 み 、 切 り 取 ら れ た 奥 書 な ど か ら 、 聖 人 十 三 回 忌 の 翌 年 に あ た る 文 永 十 二 年 ( 一 二 七 五 ) の 書 写 本 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 さ ら に 西 本 願 寺 本 は 、 坂 東 本 の 前 後 期 の 筆 跡 を 忠 実 に 書 写 し 編 輯 し た も の で あ る こ と が 分 か っ て き て い て 、 こ れ は 法 義 が 相 伝 さ れ て い く 過 程 を 探 る 上 で 重 要 な 意 味 を 含 ん で お り 、 正 応 四 年 ( 一 二 九 一 ) の 『 教 行 信 証 』 開 版 の 底 本 を 探 る 上 で も 注 目 さ れ る 一 本 で あ る 。 ま た 極 め て 良 好 な 保 存 状 態 で あ る こ と か ら 、 坂 東 本 に お い て 大 き く 消 失 し て い る 総 序 や 教 巻 の 冒 頭 部 分 を は じ め 、 真 仏 土 巻 、 化 身 土 巻 の 欠 落 箇 所 を 確 認 す る こ と が で き 、 現 行 の 「 正 信 偈 」 の 本 文 を 確 認 出 来 る 鎌 倉 期 唯 一 の 書 写 本 と し て も 重 要 視 さ れ て い る 。 と あ り 、 縮 刷 本 解 説 に は 、 (59) 「 坂 東 本 」 で は 「 教 巻 」 に 欠 失 部 分 や 「 真 仏 土 巻 」「 化 身 土 巻 」 に 欠 落 部 分 が あ り 、「 行 巻 」 と 「 真 仏 土 巻 」 に は 弟 子 の 筆 と み ら れ る 他 筆 が 存 在 す る の に 対 し 、「 西 本 願 寺 本 」 で は 現 行 に み ら れ る 『 教 行 信 証 』
の 全 て の 文 が 存 在 し 、 し か も 謹 厳 な 筆 で 一 筆 で 書 か れ て い る 。 そ の 大 き な 特 徴 は 、 本 文 は 墨 で 書 い て い る が 、 右 左 の 仮 名 や 返 点 、 頭 註 等 の 註 記 ・ 補 記 、 四 声 点 等 は そ の ほ と ん ど が 朱 筆 で あ り 、 御 自 釈 や 経 論 釈 の 引 用 文 に は 適 宜 改 行 を 施 し 、 長 行 と 偈 頌 の 区 別 を し て 整 備 さ れ た 体 裁 を も っ て い る と こ ろ に あ る 。 ま た 「 総 序 」 の 前 に 「 大 阿 弥 陀 経 友 謙 三 蔵 訳 / 平 等 覚 経 帛 延 三 蔵 訳 」 と 記 さ れ 、「 教 巻 」 に あ る 標 挙 ・ 標 列 は 通 常 に み ら れ る よ う に 「 教 巻 」 の 内 題 前 に あ る が 、 さ ら に 最 終 紙 の 裏 に も 標 挙 ・ 標 列 が あ る 。 こ れ は 本 願 寺 系 の 書 写 本 で あ る 浄 興 寺 本 や 存 如 上 人 授 与 本 等 に も 影 響 を 与 え 、 同 様 の 文 が あ る の が 本 願 寺 系 『 教 行 信 証 』 の 特 色 と な っ て い る 。 ち な み に 最 終 紙 の 裏 に あ る 標 挙 ・ 標 列 に は 、「 顕 真 仏 土 五 」 が 「 顕 真 実 仏 土 五 」 と な っ て い る の で 書 き 損 ね た 紙 を 再 利 用 し た と も 考 え ら れ る 。 と あ る 。 こ れ ら の 研 究 に よ っ て 、 西 本 願 寺 本 に は 次 の よ う な 特 徴 が あ る こ と が 知 ら れ る 。 (60) ① 一 筆 で 書 さ れ 、 坂 東 本 の 前 後 期 筆 跡 を 忠 実 に 書 写 す る 。 ② 現 行 の 全 て の 文 を 備 え 、 独 自 の 標 挙 も 存 在 す る 。 ③ 整 然 と し た 体 裁 を 保 ち 、 経 典 ・ 論 書 ・ 釈 書 の 引 用 や 御 自 釈 に 適 宜 改 行 を 施 し 、 内 容 を 悉 知 し て 長 行 や 偈 文 を 区 別 す る 。 ④ 本 文 は 墨 、 右 左 の 仮 名 や 返 点 、 頭 註 等 の 註 記 ・ 補 記 、 四 声 点 等 の ほ と ん ど を 朱 筆 で 記 入 す る 。 ⑤ 正 応 四 年 出 版 本 の 手 掛 か り を 探 る 貴 重 な 書 で あ る 。
西 本 願 寺 本 に つ い て は 、 古 く か ら い く つ か の 影 印 や 翻 刻 が 公 刊 さ れ て い る 一 方 で 、 近 代 以 降 は 真 蹟 ・ 非 真 蹟 の 議 論 が 繰 り 広 げ ら れ 、 現 在 で は 親 鸞 自 筆 で は な い と 考 え ら れ て い る 。『 教 行 信 証 』 諸 本 の 研 究 史 上 に お い て は 、 坂 東 本 ほ ど 盛 ん に 論 じ ら れ て い る わ け で は な く 、 平 成 の 復 刻 本 ・ 翻 刻 本 を 活 用 し た 論 考 も 少 な い 。 現 在 は 、 絶 え 間 な く 塗 り 替 え ら れ る 『 教 行 信 証 』 の 書 誌 学 的 乃 至 文 献 学 的 研 究 の 中 で 、 新 た な 方 法 を 模 索 し て い る 最 中 に あ り 、『 教 行 信 証 』 研 究 の 基 礎 を 構 築 し 直 す と と も に 複 数 の 視 点 か ら そ の 成 立 と 展 開 に つ い て 論 じ て い く こ と が 求 め ら れ る が 、 親 鸞 示 寂 後 の き わ め て 近 い 時 期 に 坂 東 本 を 臨 写 し た 写 本 と し て 、 往 時 の 坂 東 本 の 姿 を 知 る 上 で も 重 要 な 一 本 で あ る 。 坂 東 本 ・ 専 修 寺 本 の 影 印 本 や 写 真 版 と と も に 眼 前 に お い て 研 究 す る こ と が 可 能 と な っ た 今 、 西 本 願 寺 本 自 身 の さ ら な る 研 究 の 進 展 が 待 た れ る 。 三 本 研 究 の 目 的 『 教 行 信 証 』 に つ い て は 、 坂 東 本 ・ 専 修 寺 本 ・ 西 本 願 寺 本 な ど を 底 本 と し て 、 諸 本 対 校 に よ っ て 精 査 さ れ た 翻 刻 テ ク ス ト が 次 々 と 制 作 さ れ て き た 。 現 在 で は 、 複 製 本 ・ 影 印 本 ・ 写 真 版 、 校 訂 本 ・ 諸 翻 刻 、 本 文 テ ク ス ト や 古 典 籍 ・ 史 資 料 の 画 像 と い っ た 各 種 デ ー タ ベ ー ス な ど 、 求 め れ ば 多 種 多 様 な 形 態 の 『 教 行 信 証 』 を 享