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場環境の監視 漁村社会の維持など 多面的な機能を有しており これらがバランス良く達成されることが今後とも重要な課題である 改革を実施するにあたって この側面にも十分留意することが必要である なお 今回の法案策定過程では 現場関係者への説明不足という指摘も多い 現場の理解がない制度は 多大な執行コスト

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「水産政策の改革」に関する日本水産学会の意見 公益社団法人日本水産学会 会長 佐藤秀一 平成 30 年 12 月 1 日 はじめに 水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させ漁業者の所得向上と年齢バ ランスのとれた漁業就業構造の確立を目的として、水産庁は「水産政策の改革」につい て具体的内容を「農林水産業・地域の活力創造プラン(改定)」の中に位置付けた。必 要な法制化を急ぐとされてきたが、資源管理措置及び漁業許可制度等の漁業生産に関す る基本的制度を一体的に見直す漁業法の一部改正が国会で審議されている。 我が国の総人口が減少に転じ、さらに漁業生産の減少、水産物消費の減少、漁業就業 者の減少と高齢化などが進む中、厳しい現状を打開し持続可能な水産業を構築する上で 水産資源の適切な管理と漁業者の所得向上への取り組みが必要なことは疑いようのな いことである。また、科学的知見の強化や、新技術の積極的な導入、操業に関する各種 報告の義務化などについても、重要な方向性と考えられる。ただし、「水産政策の改革」 で取り上げられた事柄には、今改革しなければ将来がないと考えられるものが含まれる 一方で、事実の積み上げによる検証が不十分で実態にそぐわない事柄、効果的な改革に 必要と考えられるが検討から抜け落ちている事柄が散見される。 例えば、日本では水産業の長い歴史の中で津々浦々の漁業者自らが創意工夫を発揮し、 水産資源の管理を担ってきた。資源利用者が持続可能性を達成するために時間とエネル ギーを投入する(Ostrom, 2009) 「共同管理(コ・マネジメント)」は漁業が直面する課 題解決に有効な管理方策(Gutierrez ら, 2011)として世界的にも評価されている。今 後、自然生態系や社会環境の変動による不確実性がますます高まるなか、共同管理によ る地域の適応能力(Adaptive Capacity)の強化は特に重要である。しかし、漁業法の 第 1 条の「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用」が削除され、資源 管理方策が IQ による管理へとシフトする中で資源管理における共同管理の活用は漁業 法案では軽視されている懸念がある。また、沖合資源・国際資源を対象とした管理方策 が、ともすれば沿岸資源に影響し漁場紛争を惹起する恐れも危惧されるものの、その解 消に向けた事柄は「水産政策の改革」にも漁業法案にもほとんど盛り込まれていない。 更には、水産業は経済活動という側面だけでなく、国境監視の役割や、海難救助、漁

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場環境の監視、漁村社会の維持など、多面的な機能を有しており、これらがバランス良 く達成されることが今後とも重要な課題である。改革を実施するにあたって、この側面 にも十分留意することが必要である。 なお、今回の法案策定過程では、現場関係者への説明不足という指摘も多い。現場の 理解がない制度は、多大な執行コストをかけてトップダウン的に強制しない限り、実効 性が無い。今後は丁寧な説明で現場の理解を得るとともに、現場の意見の制度への反映 が大切となる。 現行漁業法は、第二次世界大戦後連合国による占領下で成立した法律である。本改革 は、いわゆる「戦後レジームからの脱却」の一環として、水産分野における戦後最大の 制度・政策改革との呼び声が高い。日本水産学会は本改革が水産業と浜の活性化にとっ て実りあるものとなることを期待し、今後の法制化や政令または省令を検討する際にぜ ひ検討していただきたい課題をアカデミアの立場から洗い出し、指摘すべく意見を取り まとめた。

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目次 ページ 1. 新たな資源管理システムの構築 4 1-1. 資源評価及び資源管理 4 1-2. 資源管理目標の設定 4 1-3. 出口規制/IQ 5 1-4. 栽培漁業 6 2. 漁業者の所得向上に資する流通構造の改革 6 2-1. 品質・衛生管理の強化等 7 2-2. 市場の重点化等 7 2-3. 輸出の課題 8 3. 生産性の向上に資する漁業許可制度の見直し 8 3-1. 漁業許可制度の変更と出口管理の導入 8 3-2. 許可対象者からの報告等 9 4. 養殖・沿岸漁業の発展に資する海面利用制度の見直し 9 4-1. 養殖・沿岸漁業に係る制度の考え方 9 4-2. 漁場計画の策定プロセスの透明化と漁業権の内容の明確化 10 4-3. 海洋保護区 11 4-4. 公的な漁業管理を委ねる制度の創設 11 4-5. 養殖業発展のための基盤整備、ほか 12 4-6. 漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構に関して 12 5. 水産政策の方向性に合わせた漁協制度の見直し 13 5-1. 漁協の在り方 13 5-2. 地域社会と所得向上 13 引用文献 13

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1.新たな資源管理システムの構築 「水産政策の改革」では、漁業の成長産業化の基礎となる資源の維持・回復と適切な 管理が必須であり、国際水準の科学的・効果的な評価及び管理方法とするために見直す とした。これを受け、水産資源の管理は出口管理を基本とし、資源評価に基づき漁獲可 能量(TAC)による管理を基礎として最大持続生産量(MSY)を実現できる資源水準を維 持・回復させること、TAC 管理は漁獲割り当て(IQ)による管理を基本とすること、漁 船の譲渡等と併せて IQ の移転を可能とすることが漁業法案に書き込まれた。なお、IQ の準備が整っていない場合は管理区分における漁獲量の合計で、さらに漁法の特性等か らそれが適当でないと認められる時には漁獲努力量により管理(入口管理)することが 定められた。 1-1.資源評価及び資源管理 日本の資源評価対象種は、50 魚種 84 系群であり、うち7魚種 19 系群を TAC 対象種 としている。これに対し EU の TAC 対象種は 38 種、アイスランド 27 種、ノルウエー16 種、アメリカでは約 500 系群、ニュージーランドに至っては 628 系群に上る。「水産政 策の改革」では、国際水準の科学的・効果的な評価及び管理方法とするため、有用資源 全体をカバーするように評価対象種の拡大を目指すこと、そのために調査船調査を拡充 し、情報収集体制の強化、人工衛星情報や漁業操業時の各種情報をビッグデータとして 活用する仕組みの整備等を行うこととし、これらの内容は漁業法案に反映されている。 科学に基づき資源管理を高度化するという基本的方向性は評価できるが、評価対象種 の拡大により水産研究・教育機構や都道府県の調査や各種データの集約に関わる負担が これまでよりもはるかに大きくなると予測される。都道府県が資源評価事業に安定的に 携われるように国は予算措置も含めて持続的に実施できる環境を整備することが重要 である。漁業者および水揚市場関係者は漁業操業時の各種データをはじめ資源評価に必 要なデータを取得することとなる。「無報告」とならないように、漁業者に作業的にも 経済的にも大きな負担を強いることなく効率的にデータを取得する技術や取得データ の品質管理技術が必要となる。学協会が有する専門的な知見や民間のもつ技術も活用し て進めてほしい。 1-2.資源管理目標の設定 「水産政策の改革」では、MSY は最新の科学的知見に基づいて求め、それをもとに MSY が得られる資源水準としての目標管理基準と乱獲を防止するために資源管理を強化す

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る水準としての限界管理基準を設定することが示された。 ここでいう MSY とは、「その資源にとっての現状の生物学的・非生物学的環境条件の もとで持続的に達成できる最大の漁獲量」(http://abchan.fra.go.jp/yougo/yougo. html)と説明されるものである。MSY の推定に用いられる再生産モデルへの当てはまり が資源管理の効果に影響するが、多くの魚種でモデルへのあてはまりが悪いために再生 産関係が明らかでなく資源管理の効果が薄いとの指摘がある。完全な管理方策などなく、 適応的な管理にならざるをえない場合も多いと予測され、用いた手法の妥当性を検証で きるようにデータの整備と手法の記録を適切に行って資源管理の PDCA を回せるように しておく必要がある。併せて環境変動や生態系変動のメカニズムに係る研究を行って科 学的知見を充実させ、それに基づいて資源管理理論の再構築を図ることが効果的な資源 管理に重要と考える。 特に MSY は単一の漁業種だけに注目した古典的な管理手法であり、生態系の食物連鎖 の中での魚種間における捕食・被捕食関係などを取り込めていない。このため、不確実 性を持つ生態系の動態に対応する生態系アプローチに基づく水産資源管理に拡張すべ きである点を、日本学術会議も提言している(日本学術会議,2017)。 以上の通り、科学的知見を重視した資源管理といっても、現段階では科学理論が実態 を反映しきれていない側面や、データも完全ではない側面がある。このような場合は、 科学が万能であるから科学に人間が従うべきとの強引な対応よりも、むしろ人間が管理 目標を定めて、科学を一つの道具として利用する対応の方が望ましい点を、科学者とし て改めて注意喚起したい。 1-3.出口規制/IQ 「水産政策の改革」のポイントの一つは、資源管理の方法について入口規制から出口 規制へと舵を切ったことである。日本の海域と隣接する公海域で外国漁船による漁獲の 増加と資源を巡る競争の激化が顕在化し、国際資源と沖合資源の間の線引きが難しくな っている。このような状況のもとでは、沖合漁業の規制緩和・大型化を進めることによ り国際競争力を高めると同時に、資源管理の方向性を国際的に説明しやすい出口規制へ と変更することに一定の理解を示す。 一方で、クロマグロのように大臣許可の沖合漁業と定置網のような漁業権漁業や知事 許可漁業の両方で重要な漁獲対象となる場合、沖合漁業と沿岸漁業間の配分調整が非常 に難しくなる可能性がある。また、同じ沿岸漁業の中で、都道府県間の調整が容易でな い場合も生じうる。定置網漁業のように様々な魚種が漁獲される漁法では、資源量が多

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く TAC も多い魚種と資源量が少なく TAC が少ない魚種を同時に漁獲するケースがあり、 資源量が少ない方の魚種の TAC を使い果たすと、別の魚は TAC が残っているのにもかか わらず漁業操業が停止になり(八木,2018)、本来利用できる資源が利用できなくなるば かりか、これが続くとしだいに漁村の活力が奪われていくことが危惧される。沿岸資源 では、国際的な管理が必要な沖合資源・国際資源と同じ生産性という一つの切り口だけ ではなく漁村の維持と地域の活性化をもう一つの目的として位置付けることが重要で ある。漁業者を含む地域のステークホルダーが参加して、各地域の社会的・生態的状況 に適したきめ細やかな管理方針を検討する場の設定を行うことで地域の創意工夫を促 すことにより、世界的にも高い評価を受けている日本の沿岸漁業管理の根幹的な部分を 後世に伝えていくことが重要であろう。 また漁船の譲渡等と併せて IQ の移転を可能とした点については、効率性の高い漁船 に漁獲枠が集まることを通じて経済合理性が高まることが期待される。一方、デメリッ トを伴う可能性に留意が必要である。IQ の移転では特定魚種の漁獲枠が特定漁業者に 集まる結果、ある魚種の不漁を他の魚種の漁獲でカバーできず漁業者の所得変動リスク が高まる可能性、新たに漁獲枠を得た漁船が水揚げする漁港は発展する一方で漁獲枠を 手放した漁船が利用していた漁港は衰退し地域間格差が生じる可能性などが議論され ている(大石,2016)。拙速な導入ではなく、先行導入国で得られている知見を注視し、 漁村間の地域間格差の抑制や漁業者のリスクヘッジのための仕組みなどを十分に検討 することが必要であろう。 1-4.栽培漁業 「水産政策の改革」では栽培漁業が資源管理の一方策として位置づけられ、実施にあ たって「資源造成効果を検証」し、「効果の認められないものは実施しない」ことと記 載された。このこと自体は妥当であると考えるが、効果の検証に多くの困難を伴うなか で、都道府県がこれを担うことになる。現場の混乱を防ぐために、検証の実施を可能に する施策が必要である。なお、栽培漁業は 50 年以上にわたって国の施策として推進さ れてきたものであり、飼育技術を向上・発展させてきた現場組織や技術者・研究者が技 術と知見の積み上げを担ってきた。養殖種苗の生産、中間育成をはじめ、その高い知識 と技術が活用され受け継がれるような施策が求められる。 2.漁業者の所得向上に資する流通構造の改革 「水産政策の改革」では、その目的の一つである漁業の成長産業化を図るために、マ

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ーケットインの発想に基づいた物流の効率化、取引の電子化ならびに AI や ICT を活用 した情報通信技術の活用、新たな鮮度保持技術の導入などの品質・衛生管理の強化、国 内外の需要への対応等を進め、輸出を視野に入れた流通構造の改革を進めるとしている。 2-1.品質・衛生管理の強化等 新しい技術を積極的に導入し、水産業の革新を促す方向性は評価できる。また、提示 された流通構造の改革は、養殖などの品質や量を比較的揃えやすい水産物を対象として 輸出を目指す場合には適合する。対する既存の流通構造では、複雑で生産者が価格形成 を主導しにくいなどの問題はある。しかし、日本の様々な場所で様々な漁法を用いて獲 られる多品種の魚介類は、産地では質と量が安定しない中で、産地卸売市場がこれらを 大きなロットとして統合し、質と量をある程度平準化させて消費者に向けて流通させる 役割を担ってきた。現実には卸売市場を経由する割合が減少傾向にあるのも事実だが、 流通構造を画一的な方向に限定するのではなく、沿岸漁業者による多品種少量の漁獲物 をどう流通させていくのかを漁協や市場が自ら考え、「選択」できることが望ましい。 なお、取引の電子化や AI、ICT の導入はすでに少しずつ広がりを見せている。しかし、 改革後の流通構造をどのように想定するか、集まった電子データを大容量のサーバーに 集約して一括管理するのか、基本的なデータ構造を同じにして地域ごとに分散管理する のかでデータの利活用方法やシステムの運用方法も異なる。諸外国や先行する農業での 状況とも比較しながら、国は早急に方針を検討すべきである。またその際は、個人デー タや経営データが不用意に外部に漏洩しないよう、データ取扱者の守秘義務規定や知的 財産権の規定などを含めて情報セキュリティーの対策が求められることは言うまでも ない。 2-2.市場の重点化等 流通改革として産地市場や水揚げ漁港の重点化を図るとしている。重点化されなかっ た市場や漁港も、自ら工夫して活路を見出していくことがこれまで以上に重要となる。 重点化の有無に関わらず、スマ-トフォンやタブレット端末などを用いて流通経営と関 わる様々な情報の収集と活用ができるようなシステムの開発と導入が期待される。特に、 水産政策の改革では、TAC 対象魚種全てについて水揚げ後の速やかな漁獲量報告が義務 付けられるが、重点化されなかった漁港・市場であっても、「無報告」とならないよう な環境整備が必要となる。

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2-3.輸出の課題 HACCP とトレーサビリティシステムの導入は輸出拡大の鍵である。2018 年 6 月の食品 衛生法の改正によって、すべての食品事業者に HACCP が義務化されることになった。一 方のトレーサビリティシステムについては、水産物の流通構造の複雑さに伴う導入の困 難さと相まって必ずしも業界の理解が進んでいないが、このシステムの導入は輸出だけ ではなく市場外流通をはじめ国内流通もより簡略化した構造へと大きな変革をもたら す可能性がある。ただし、漁獲物の商品価値をあげる工夫を自ら独自に行っている漁業 者には、流通の川下の評価を直接聞きたいという希望がある。現場関係者が気軽に活用 できるシステム及び環境を構築すること、その維持と運用に際して多大な経済的負担が 生じないこと、さらに具体的な成功事例を積み上げて現場関係者の理解を得るとともに 自ら将来展望を描けるように啓発活動を行うこと、などが導入要件となるだろう。 これまで、養殖のブリ、マグロ、ウナギなどのように大手スーパーマーケットの定番 という位置付けを得たために、少品種大量消費に応えることを求められ、価格が低く抑 えられて生産現場が苦境に陥った例がある。その一方で相対取引が中心ではあるが、特 定の市場を狙う、供給側に価格決定の主導権を維持した多品種少量の水産物の市場外流 通も広がりを見せつつある。輸出についても、量の拡大だけではなく、「和食」の普及 とインバウンド効果の促進などを念頭に水産物の季節性や漁獲量の増減に対応する多 品種少量の流通を対象とした新たな戦略を、産学とともに練る必要がある。 3.生産性の向上に資する漁業許可制度の見直し 「水産政策の改革」では、沖合・遠洋漁業の生産性の向上・国際競争力の強化につな がるよう、①許可区分の見直し、②IQ の導入、③漁船譲渡時の IQ 移転、④漁業許可を 受けた者の資源管理の状況・生産データの報告義務、⑤生産性の低い漁業者への勧告・ 許可取り消し、⑥大臣許可漁業の一斉更新の廃止、等の漁業許可制度の見直しを行うと した。 3-1.漁業許可制度の変更と出口管理の導入 「水産政策の改革」を受けた漁業法案では、まず、現行の漁業許可の四区分を大臣許 可漁業と知事許可漁業の二区分へと変更した。その上で、沖合・遠洋漁業の生産性の向 上と国際競争力強化、さらに漁船の居住性を改善して若手漁業者を呼び込むために、IQ 導入の条件が整った漁業種類についてトン数制限などの漁船の大型化を阻害する規制 を撤廃するとした。

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沖合漁業の大型化・効率化から期待される政策効果としては、労働環境の改善や、国 際資源(サバやサンマも含む)の利用における国益確保、そして特定魚種を水産加工業 に大量・安定供給する役割などである。課題は、見直しの起点を沖合・遠洋漁業に置い ていて、沖合漁業が「生産性」を追求した場合に影響を受ける可能性がある沿岸漁業へ の視点が抜け落ちている点である。沖合・遠洋漁業において資源量に見合った漁業経営 を確立していくため、隻数をはじめ生産体制の全体構造について国は将来展望を描くこ とが重要であり、それに合わせて減船措置などの施策を打ち出すことが肝要である。こ の基本的方向性を明確にして沖合と沿岸の共通理解を図り、沖合漁業の大型化が沿岸と の紛争を引き起こさないように留意されたい。 漁業者の約 8 割が従事し、生産額の約 6 割を占める沿岸漁業の目的として、上述した 通り「漁村の維持と地域の活性化」を位置付けることが重要である。なお、IQ だけで カバーしきれない資源管理上の規制は、必要に応じて活用することが示されているが、 省令やガイドライン等の検討の際にもそのことを担保し手続き等を明確化する必要が ある。 3-2.許可対象者からの報告等 漁業許可を受けた者は、資源管理の状況・生産データ等の報告ならびに漁獲報告の電 子化・VMS の備え付けが義務づけられることになる。報告されるデータが水産資源の持 続的利用の基礎となることへの理解を進め、具体的なデータの公表方法等についてのコ ンセンサスを漁業者から得ておくことが、これらをスムーズに実施するための鍵となる。 併せて、国は、データ取得、転送、蓄積について作業的にも経済的にも漁業者に過度の 負担を生じさせない技術の開発やしくみの整備に係る施策にも取り組むことが重要で ある。 4.養殖・沿岸漁業の発展に資する海面利用制度の見直し 「水産政策の改革」では、資源管理の適切化とトラブル回避の観点から今後とも漁業 権制度を維持する一方で、養殖業の規模拡大や新規参入の円滑化のために漁業権付与の 過程を透明化するとの方針を示した。また、沿岸漁場管理の業務を漁協等に委ねること ができる制度を創設することとした。 4-1.養殖・沿岸漁業に係る制度の考え方 元々、特定区画漁業権や共同漁業権を漁協に免許したのは、個人の独占的な利用を排

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除して漁村内の漁業者全体に不公平感無く漁場を利用させるためであった。漁村維持の 観点から漁村の構成員が漁業権行使の主体となることの意義は大きく、これまでの都道 府県による漁業権付与の優先順位がそこに一定の役割を果たしてきたことは否めない。 しかし、人口が減少し、漁業者の所得が伸び悩む中で、これまでの制度だけで漁村社会 を維持する機能を発揮出来るかについては難しいと言わざるをえない。 本改革では、大企業の養殖業への新規参入が水産業の成長産業化の手立てとして位置 付けられている。しかし、大手の民間企業が新規の養殖業でめざす将来像や水産業の「成 長産業化」への展望が明確ではなく、さらにそれらが漁村社会の維持と地域活性化にど のように結びつくのかも明確でない。そもそも民間企業の経営戦略は、数ヶ月から数年 程度の短期利潤を重視する傾向が強いと思われる。一方で漁村社会の維持や地域活性化 は 10 年、20 年といった長期の視点が必要である。養殖業などを中心に外部の資本や技 術等の導入をすすめていく際には、そこで生み出される富が適切に地域内に循環する仕 組みや、短期的経営戦略による収奪的・環境破壊的な漁場利用を防ぐ仕組みが不可欠で あろう。また、万が一外部民間企業が経営破綻した場合の、養殖施設の撤去を含む原状 回復の仕組みなども重要である。 国はこうした中で、今回の改革の先にある漁村社会と地域の水産業の将来展望をどう 描くのかを、漁業者をはじめとするステークホルダーに示すことが課題である。 4-2.漁場計画の策定プロセスの透明化と漁業権の内容の明確化 「水産施策の改革」でこれまでと大きな変更点となるのが、「漁業権の優先順位の廃 止」とそれに関わる仕組みの変更である。ただし、「既存の漁業権者が水域を適切かつ 有効に活用している場合は、その継続利用を優先する。」という方針も示された。個別 漁業者に免許する場合の調整を含め、これまでの漁場利用調整における漁協の役割を認 識し、記載されている「既存の漁業権者が水域を適切かつ有効に活用している場合は、 その継続利用を優先する」考え方を維持していくことが重要である。また、適切かつ有 効に活用している「がんばっている人」のやる気をそがない仕組みや、将来への不安(知 事の交代や政治信条如何で海面の利用方式が変化する、など)を拭い去る仕組みをつく ることが大切である。 漁業法案では海面を総合的に利用するため、都道府県知事は海区漁場計画を定めると し、海区漁場計画の要件の一番目として、「海面の総合的な利用について、漁業調整そ の他公益に支障を及ぼさないように漁業権が設定されていること」と記載された。漁業 法と同日に「海洋再生可能エネルギー発電設備に係る海域の利用の促進に関する法律案」

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が閣議決定されたが、例えば、免許切り替え時に洋上の発電設備を「公益」と認めてそ の海域を外して海区漁場計画を作成するといった都道府県の判断が生じる可能性を、漁 業者は危惧するかもしれない。水産業とは異なる分野との調整の際に、有効活用されて いる漁場の扱いがどうなるかをまず注視したい。 4-3.海洋保護区 海洋保護区を 2020 年までに 10%とすることが生物多様性条約の締約国会合で「愛知 目標」として合意され、日本も生物多様性国家戦略にこの目標を取り入れた。日本では 共同漁業権区域も海洋保護区として位置付けており、また、創設された「保全沿岸漁場」 も海洋保護区に該当すると思われる。環境省とも協力しながら国際的な取り決めとの齟 齬が生じない対応が必要となる点を注意喚起したい。 4-4.公的な漁場管理を委ねる制度の創設 「水産施策の改革」では、沿岸水域の良好な漁場の維持と漁業生産力の維持・向上の ための漁場管理を都道府県の責務として法定した上で漁場管理の業務を漁協等にルー ルを定めて委ねることができる制度を創設するとした。漁業法では、漁業協同組合等で 一定の基準に適合するものを沿岸漁場管理団体として都道府県知事が指定できるよう にし、これが知事の認可を受け、受益者負担で保全活動を行うこととした。沿岸漁場の 管理団体は、環境保全や改善の目標、活動内容、円滑実施の確保に関わる事項、費用の 見込みなどを管理規定で定め、知事の認可を受けることになる。 そもそも沿岸漁場の管理運営は、これまで漁協が中心となり行ってきた経緯がある。 本来このような活動は公益性が高いものであり、漁協は国や地方自治体に代わってこの ような活動を無償で担ってきたと解釈して良いだろう。今回の改革でこの部分が制度化 され、一般から認知される仕組みとしたことには一定の評価を与えたい。ただし、法案 では漁協・漁連以外に一般社団・一般財団も沿岸漁場管理団体に指定しうることと書き 込まれた。しかし、資源利用者が持続可能性を達成するために時間とエネルギーを投入 する(Ostrom, 2009) 「共同管理」は漁業が直面する課題解決に有効な管理方策 (Gutierrez ら, 2011)と世界的にも評価されており、漁業権免許を受けている漁協・ 漁連のみが管理団体となることを基本とすることが重要である。今後とも、漁協を中心 とした共同管理の仕組みを活用し、津々浦々の社会的生態的特徴に即した実効的な漁場 管理を、地域住民が自ら創意工夫して持続可能な取り組みとすることが重要である。

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4-5.養殖業の発展のための環境整備、ほか 「水産政策の改革」では国が「戦略的養殖品目」を設定して、生産から販売・輸出に いたる総合戦略を立てて養殖業の振興に本格的に取り組むこととし、魚類養殖経営のボ トルネックとなる優良種苗・低コスト飼料等に関する技術開発・供給体制の整備の強化、 国際競争力のある養殖を育成するための実証試験等の支援、養殖適地拡大のための事業 の重点実施などを盛り込んだ。国の養殖戦略に位置付けられた大規模養殖に積極的な資 金投入することを示したことになる。養殖戦略は国内外の需給状況をよく考慮して立て るとしている。戦略を練る際には既存の養殖業への影響を適切に評価し、既存の沿岸養 殖に供給過剰による価格低下などの悪影響を及ぼさないように配慮する必要がある。 なお、沖合等に新区画を設定することが適当と考えられる時には、国が都道府県に指 示等を行うこととしている。これまでは、「沿岸」漁業、「沖合」漁業というように漁法 との関係で「沿岸」と「沖合」が論じられることが多かったが、ここでは水域として「沖 合」という言葉が出てくる。都道府県の管轄となるように読めるが、どこを沖合といい 沿岸がどこを指すのか、さらに「新区画」が何を指すのか不明である。都道府県が実施 すべきことが増すとともに透明性が問われるケースも増えることが予想される中、言葉 の定義と「沿岸」はどこまでを指し県境をどこにするのかなどの範囲の明確化は重要な 課題である。 4-6.漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構に関して 漁業法第 1 条に掲げられているように、我が国では、水域の特定水産資源、漁場ある いは漁法に関し、漁業権や漁業許可などにより特定された関係者がお互いに意見を述べ、 全体的な見地から操業を調整することにより、水面を総合的に利用し、漁業生産力の発 展を実現するため、水域の利用規模に応じた階層的な漁業調整機構が機能している(牧 野, 2013)。その中核的な組織として、漁業法第 84 条に基づいて海区漁業調整委員会が 各都道府県レベルで設置されてきた。海区漁業調整委員会の委員は選挙により選ばれる 漁業者が過半数を占めてきた。海区漁業調整委員会は、都道府県が漁場計画を立案する 場合や漁業調整規則の策定に対する意見、操業に関する制限等の漁業が関与した漁業調 整を行ってきた。しかし、本改革に基づいて提案されている漁業法案では、委員の公選制 を廃止し、都道府県知事が議会の同意を得て任命するとしている。海区漁場計画を都道 府県知事が策定することとされ、計画案に意見する立場である海区漁業調整委員会も都 道府県知事によって任命された委員のみで構成されることとなる。これまでのような漁 業者や漁業従事者主体による漁業調整機能が失われ、漁業者による現場の声を水産制度

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に反映させる場を奪うこととなりかねないと危惧する。 5.水産政策の方向性に合わせた漁協制度の見直し 漁協制度・組織における見直しについては、「漁業者の所得向上」を漁協の目的とし て位置づけ、役員に販売のプロ等を入れることとともに法制化することが明示された。 5-1.漁協の在り方 漁協はその財政健全化のためにこれまでもさまざまな取り組みを行ってきたところ であるが、さらに「販売」に力を入れて個々の組合員の所得向上につなげるように国よ り示されたことになる。しかし、限られた数の漁協役員に、新たに販売のプロを入れる ことがコスト面や人材の確保の面で難しい場合や、どのような人材を販売の「プロ」と 呼ぶのか不明瞭という問題もある。これについてはある程度弾力性を持たせた運用がで きる必要があるだろう。 5-2.地域社会と所得向上 「浜プラン」の成功例についての情報共有や、中央水産研究所が公表している「浜の 道具箱(http://nrifs.fra.affrc.go.jp/ResearchCenter/1_FEBA/toolbox/index.html)」 を用いた自らの状況分析と所得向上や組織体制の強化に向けた方向性を検討するなど、 漁業者が知恵を出し合って所得向上を目指す活動も広がりつつある。これらの中で一定 の成果をあげてきた事柄についても、「所得向上策」として位置付け、さらなる推進を 今後の施策に積極的に取り入れることも有効と考える。ぜひご検討いただきたい。 引用文献

Gutierrez, N. L., Hilborn, R., & Defeo, O. (2011) Leadership, social capital and incentives promote successful fisheries. Nature, 470, 386-389.

牧野光琢(2013)日本漁業の制度分析―漁業管理と生態系保全―,恒星社厚生閣. 日本学術会議(2017)「提言 わが国における持続可能な水産業のあり方 ―生態系ア プローチに基づく水産資源管理―」,平成 29 年(2017 年)8 月 17 日付け、日本学術会 議食料科学委員会水産学分科会. 大石太郎(2016)「北米の研究者達による ITQ の現状評価~北米漁業経済学会に見た動 向~」,日本水産学会誌, 82(2), pp.196-198.

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social-ecological systems. Science, 325, 419-422.

八木信行(2018)「水産改革をどう評価したらよいのか」,日刊水産経済新聞 2018 年 8 月 31 日号.

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