37-1
中・大規模建築物の木材利用における設計プロセスに関する研究
ー九州地域に着目してー
宇都宮 明翔
1, 研究の背景と目的
1-1. 研究の背景と目的
近年、中・大規模建築物
註 1)
の木材利用(以下 , 木材
利用)は我が国の木材需要の拡大において喫緊の課題
となっている。H22 年には、公共建築物木材利用促進
法(以下 , 促進法)が制定され、公共建築物の「木造化」
註 2)
及び「木質化」
註 3)
を図るとともに、民間への波及効
果が期待されるなど、一層、建築物への木材利用の機
運が高まっている。しかし、木材利用における設計プ
ロセスは、高度な構造計算や法規制のクリアなど設計
業務が煩雑化するのみならず、使用する木材に関する
与条件によっては、地域木材産業の実情により困難さ
を極めることが予想される。これまで、木材利用の設
計に関する諸問題の関係性については論じられている
ものの
文1)
、良質な建築物の設計を実現するには、地
域の実情に即した設計支援体制の確立により設計プロ
セスを円滑にする環境の実現が重要である。
そこで、本研究では、九州地域における木材利用事
例を多角的に考察し、それらをもとに今後の建築物の
木材利用の促進に向けて知見を得ることを目的とする。
1-2. 研究方法
本研究の木材利用における調査概要と目的を表 1,2
に示す。
2. 中・大規模建築物における木材利用の動向
2-1. 木材利用促進の意義と効果
木材利用の意義とその効果について、主に公益的機
能として「環境保全」
、主に地域ごとの木材需要として
「地域性」
、主に利用者に対する利益として「心理的効
果」
、主に他構造形式に対する比較的優位性として「材
料特性」
以上の 4 つの視点からまとめた(表 3)
。
2-2. 木材利用に関する史的動向
促進法の制定により、公共建築物の木造率は H25 年
時点で 9%と H22 年時点より 0.7% 増加し上昇傾向にあ
る。低層公共建築物の木造率については 20.8% となっ
ているが、依然として中高層公共建築物の木造率は低
位であるのが現状である(表 4)。
2-3. 木造建築物に関する技術開発の動向
H12 年の法改正により可能となった耐火木造は、H25
調査方法
予備調査
本調査
ヒアリング調査
事例視察
調査対象
調査時期
調査概要
2000年6月以降に確認申
請が提出された作品
ヒアリング調査対象事例
調査対象とした木材利用
作品の担当設計者
ヒアリング調査から特徴
的な結果が得られた事例 都市部における木材事例における木材利用箇所及び空間への影響の視察
木材利用経験のある設計者を対象とした実態把握
①設計者の木材利用の意識
②木材利用における技術的及び組織的工夫
中・大規模建築物における木材利用の現状及び
課題や手法の把握及びヒアリング対象の抽出
ヒアリング対象事例の基本設計書、設計図書に
よる設計プロセスの把握
2014.6-10
2014.12
2014.12
2015.1
資料調査
表1 調査概要
表4 公共建築物の木造化の動向及び現状
註 4)註 5)
(
「建築着工統計(平成 25 年度)
」より作成)
0
10
20
30
40
50
H7
6.9 6.7 7.2 7.58.3 8.3 8.4 9.0 9.0
5.1
36.736.1
34.134.135.836.143.1 43.241.641.041.8
5.3
H12 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25
木造率(
%
)
建築物全体
公共建築物
(国、地方公共団
体、民間事業者が
整備する学校、老
人ホーム、病院等
の建築物 )
新築・増築・
改築に係る床
面積の合計
うち、木造
のものの床
面積の合計
(万㎡) (万㎡)
木造率
(%)
41.8
9.0
※H22 年
度時点では
8.3%
20.8
6,200
178
146
14,846
1,978
702
うち低層の建築物
全建築物
公共建築物
凡例
表3 木材利用意義及び効果
※3 (資料「木材は環境と健康を守る」産調出版(株), 有馬 孝禮著 1998)より作成
※1 (資料 森林・林業白書-p.79 資料Ⅲ-12 平成24年度)より引用
※2 (資料 木材工業 46 127~131 中島・大熊 1991)より引用
※6 (資料 学校建築における子どもの学びと木の役割、浅田茂裕 文教施設2009 夏号、(社)文教施設協会)より引用
※7 (資料 木材学会における居住性・感性研究の動向と雑感 増田稔 木材学会誌 vol.51,No 1,p.22-24 2005)より引用
※8 (資料 木net (財)日本木材総合センター http://www.jawic.or.jp/)より作成
※4 (資料 こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」 林野庁 平成22年)より作成
※5 (資料 「学校校舎における木材利用の現状」長南 あずさ 尾﨑 啓子 浅田 茂裕 平成23年度林野庁補助事業より作成
【参考】
広告性・批評性 市場拡大性
地域経済活性化※4※5
森林資源保全※4※9
加工性 運搬性※4
伝統・文化伝承※4
材料選択性※8
心理的効果
環境保全
地域性
材料特性
¥
地場木材を利用すること
で地域産業に利益を還元
する
生物多様性
土砂災害防止
土壌保全
水源涵養機能
環境資財として多くの
機能と恵みを与える 木材利用の価値や効果がより多くの人々に伝達・
評価される
建築需要から、今後木
材を消費するための市
場がある
伐採
植林
育林
再生可能資源※3
適切な循環を行うことで
、永続的に資源として再
生利用が可能
木材チップ
燃料
炭素
ストック 廃材
利用
リサイクル可能資源※3
建築資材としての役割を
終えた後も、バイオマス
燃料としても利用可能
二酸化炭素固定※1
木材は腐って分解される
か、燃焼したとき初めて
二酸化炭素に戻る
木組み 伝統構法
長い歴史をかけて継承さ
れた伝統技法、文化が基
盤として残っている
運 搬
各種材料と比べて軽いた
め運搬性能が高く工期の
短縮が可能
加工が容易であるため様
々なものに木材利用が可
能
樹種により、生物性能が
異なるため様々な要素を
組み合わせた選択が可能
耐久性
防蟻性
強度
価格
防腐性
針葉樹
広葉樹
ヒノキ、スギ、ヒバ、
ツガ、ベイマツ、イチ
ョウ、カラマツなど
クリ、ケヤキ、サクラ、
キリ、シラカバ、カツラ
、ブナなど
リラックス効果※4
居住性※5※7
広さ感※6
居場所創出※5
内装木質化された空間は
非木質化と比べて広々と
感じる
木質化
非木質化
広々と感じる
凡例
どちらでもない
広々と感じない
72.2
28.9 39.4 36.7
12
15.8
衝撃吸収効果
紫外線吸収効果
生物材料としての温かみ
や柔らかさが居心地の良
さを生み出す
柔らかさ 親しみ
温かみ
低熱伝導率
調湿効果
≒
木質空間の行動可能性が
活動や他者との距離など
の調節につながる
座る 這う
寝転ぶ
もたれる
木材の物理的特性が人の
感覚にほどよい刺激を与
える
嗅覚
視覚
触覚
聴覚
刺
激
①
②
③
0
低炭素排出(製造時)※2
消費エネルギー(炭素放
出量)を各種材料で比較
すると炭素排出が少ない
①人工乾燥製材
②コンクリート
③鋼材
4
1.39
4.80
266
264 268
(単位:千MJ/㎥)
表2 ヒアリング対象者概要
web・雑誌名(出典)
木造建築設計情報プラット
(http://www.kiwoikasu-plat.jp/)
木造建築技術先導事業
(国土交通省)
木材利用優良施設
(木材利用推進中央協議会)
新建築 2013.6,2014.3
(新建築社)
事例数
86件
64件
15件
32件
197計
件
資料調査対象条件
条件1. 個人住宅を除く、混構造を含む建築物
条件2. 所在地が日本国内の作品
条件3. 2000年6月以降に確認申請が提出された作品
条件4. 仮設建築物でない作品
ヒアリング対象条件
条件1. 資料調査対象条件を満たす建築作品
条件2. 九州地域における木材利用の事例
条件3. 基本設計-実施設計までを一貫して担当した設計者
※ただし出典毎に重複した事例を含む
木材利用
経験(件)
N
設計
N
設計 事務所S 事務所S 事務所T設計
所属
設計者側の
提案(件)
発注者側の
提案(件)
7 3 2 6 12
3 1 4 1
1 1 2 2
3
4
37-2
年時点で 10 種類の工法が大臣認定を受けているが、採
用事例は依然として少ない。主要構造部の耐火性能を
個別に検証する「耐火性能検証法」という設計手法によ
り認可を受けることで、独自の手法で木材利用が展開
しているのが現状である
文 2)
。
3. 九州地域における木材産業の現状
統計情報を元に、①建築需要と製材生産の関係、②
国産材需給率、③製材国産材比重、④国産材製材需要
量、⑤自県材供給率、⑥認定工場率の 6 種類の指標を
作成し、九州地域の木材利用に関する特徴及び傾向を
把握する(表 5, 表 6)。
①について、福岡県に関しては、着工建築物数が高
く、建築用材出荷量が高いため消費生産共存傾向であ
ることがわかる。熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
に関しては、着工建築物数が低い一方、建築用材出荷
量が高いため生産先行傾向であることがわかる。
② , ③について、大分県、宮崎県、鹿児島県に関し
ては、国産材素材生産先行傾向でることがわかる。特
に福岡県は生産量に対して需要量が 3 倍近くあり、国
産材需給率が極めて高い。
④ , ⑤について、九州地域では 4 県に関して、国産
材製材入荷率が高く製材重視傾向であることがわかる。
うち 3 県は、国産材素材需要量が全国平均と比較して
大きく上回る中で、国産材製材需要率が 9 割を超える
値をとっているのが特徴である。また、福岡県は 4 分
の 3 以上の国産材素材需要量を他県材に依存している
ことが特徴である。
⑥について、広域自治体で見ても JAS 認定工場は 1
割程度にすぎず、JAS 製材の供給体制が十分に機能し
ているとは言えないのが現状である。
以上より、九州地域内でも素材生産力、製材力及び
消費力に大きな傾向の違いが存在していることがわ
かった。建築物における木材利用の今後は、地域内外
の需要と供給、木材流通の状況を考慮した制度運営や
整備方針のシステム構築により、地域特性に適した木
材利用の展開が望まれる。
4. 九州地域の木材利用実態
4-1. 設計者の木材利用意識
これまでに木材利用経験のある設計者の意識を、①
促進法以前の発注者側の傾向、②促進法以降の発注者
側の傾向、③設計者側が木材利用を提案した理由、④
発注者側が木材利用を提案した理由、⑤木材利用の意
義、⑥木材利用における現状課題、⑦木材利用におけ
る今後の展望の 7 項目に関して、設計者を対象とした
ヒアリング調査により把握した ( 表 7)。
促進法を境に、発注者からの木材利用の指定が増加
したとの回答が多くあった。さらに、建物用途による
木材利用意識の違いがあることがわかった。また、現
状の課題として、法規制の整備、十分な事業スケジュー
ルの確保、木材流通及び木材生産システムの整備、木
材に対する正しい知識を深めることが挙げられた。
4-2. 九州地域における木材利用事例
ヒアリング対象事例の概要及び回答内容を表 8,9 に
※表中の網かけは、該当項目における全国平均以上の数値である。
「素材」:用材(薪炭材及びしいたけ原木を除く。)に供される丸太及びそま角をいい、輸入木材にあっては、大中角、盤及びその他の半製品を含める。
「製材」:製材機を用いて、素材から板類、ひき割類又はひき角類を生産することをいう。
「素材生産量」:森林から木を伐採して丸太を運び出す量。(徳島県公式 HP より)
「素材消費量」:製材機にかけた素材の量をいう。
「素材需要量」:製材工場、合単板工場及び木材チップ工場への素材の入荷量をいう。
「製材需要量」:素材需要量のうち、製材として製材工場に入荷した素材量をいう。
「製材品出荷量」:手持ち材による製材品で販売したもの及び自家業務用に消費したもの並びに賃びき材による製材品の総量をいう。
「建築用材出荷量」:製材品出荷量のうち、土台、柱、桁、板等建築用に仕向けられる材の出荷量をいう。
【参考】「平成 25 年木材統計 , 農林水産省 ,2013 年 4 月、建築着工統計調査報告 2013 年 1 月 国土交通省、徳島県公式 HP」より引用、参照
66
72.5
8.1
60
20
21
45
18
26
43
41
60
20
21
45
18
26
43
41
3
16
6
23
12
13
21
31
20
10
42
18
26
43
1
5.1
0
11.9
7.5
20.1
11.7
25,459
542
100
1,127
466
336
589
348
410
486
396
6,607
141
312
162
110
186
106
138
153
1
27.3 12.7
(高)
(低)
(低)
27.7
34.8
32.7
31.6
30.5
33.7
31.5
0.3
① ② ③ ④ ⑤ ⑥
100.0
38.5
作成率
作成数
市町
村数 市町村数 作成数作成率
…(ⅰ)
…(ⅱ)
…(ⅲ)
…(ⅳ)
…(ⅴ)
…(ⅵ)
…(ⅶ)
…(ⅷ)
…(ⅸ)
…(ⅹ) …(ⅺ)
◎ :非常にあてはまる ○ :あてはまる :算定不可能。引用した統計情報上で算出されなかった数値が含まれるもの。
:あてはまらない :判断不可能。割合を用いる指標で、絶対量が少なく、判断材料として妥当でないもの。
表6 統計情報からみた九州7県の木材利用に関する傾向一覧
建築用材
出荷率
(%)
国産材
需給率
(%)
自県材
供給率
(%)
認定工場率
(%)
国産材
製材需要率
(%)
着工公共建
築物木造率
(%)
H25
製材品
出荷量
(千㎥)
H25
建築用材
出荷量
(千㎥)
H25
着工公共
建築物数
(棟)
H25
着工木造公共建
築物数
(棟)
H25
製材工場数
(棟)
H26
製材JAS認定
工場数
(棟)
H25
製材需要量
(千㎥)
H25
国産材
素材生産量
(千㎥)
H25
国産材製材
需要量
(千㎥)
H25
国産材素材
需要量
(千㎥)
H25
自県材
需要量
(千㎥)
平成24年
3月末時点
地方公共団体の方針
策定状況
平成25年
3月末時点
地方公共団体の方針
策定状況
消費
先行 生産先行 消費生産共存
国産材
素材
需要先行
国産材
素材
生産先行
国産材
製材重視製材重視外材 製材重視 自県材重視 他県材重視
凡
例
「消費先行傾向」:建築需要は高いが、製材品の出荷力は低い
「生産先行傾向」:建築需要は低いが、製材品の出荷力は高い
「消費生産共存傾向」:○(高)建築需要が高く、製材品出荷力も高い,○(低)建築需要が低く、製材品出荷力も低い
「国産材素材需要先行傾向」:国産材の素材生産量に対して国産材素材需要(入荷)量が高い
「国産材素材生産先行傾向」:国産材の素材生産量に対して国産材素材需要(入荷)量が低い
「国産材製材重視傾向」:国産材製材入荷率が大きい
「外材製材重視傾向」:国産材製材入荷率が小さい
「製材重視傾向」:国産材製材需要率が高い
「自県材重視傾向」:自県材出荷率が高い
「他県材重視傾向」:自県材出荷率が低い
「認定工場整備傾向」:認定工場率が高い
建築需要と製材生産の関係 国産材需給率 製材国産材比重 自県材供給率 認定
工場率
認定工場
整備傾向
国産材製材
需要率
83.8
107.6
111.7
122.4
109.4
100.0
92.6
-- -
--
-(ⅱ)
(ⅰ)×
100
(ⅳ)(ⅲ)×
100
(ⅷ)(ⅹ)×
100
(ⅳ)(ⅹ)×
100
(ⅺ)(ⅹ)×
100
(ⅵ)(ⅴ)×
100
表5 九州地域における木材産業傾向表
37-3
示す。回答内容を踏まえて、建物用途 , 事業主体 , 地
域による木材生産及び木材性質の差異 , 設計手法の点
から各事例の分析を行った。
case 01. K 教育センター / 佐賀県
この事例の設計プロセスにおける特徴は、講堂部分
の木材屋根架構を、設計段階ではベイマツの集成材で
あったが、施工の段階で地元木材加工販売会社からの
提案により、独自に開発した規格材の合わせ梁に変更
している点である。これにより、地元産材の利活用が
可能となった。こうした木質化技術は集成材加工場を
有していない地域では地域経済の活性化の面で一手法
となりうる。
case 02. K 総合療育センター / 熊本県
県産材の利活用が事前に指定されたが、具体的な木
材使用量の指定はなかった。設計の初期段階から、設
備設計及び構造設計担当者との連携を意識した組織体
制で取組んでいる点が特徴である。建物用途を考慮し
て、木造化及び木材を現しにするため、OM ソーラーシ
ステムの設備システムを提案している。
case 03. A 小学校・中学校 / 大分県
発注者からは学校有林の利活用が事前に指定され、
設計者は、木材発注や学校有林の材積量の調査を基本
構想・設計の段階から手探りで行わなければならな
かった。また、木材管理者の経験不足により材料に損
失が出たため、不足分を他地域より調達することにな
るなど、木材生産能力及び材質など地域の現状が品質
に大きな影響を与えることから、木材の供給側と設計
者との関係構築、情報共有が重要であることがわかる。
case 04.H 図書館 / 長崎県
発注者側からの木材利用指定はなく、設計者側から
屋根架構の木造の提案を行っている。長崎県は木材生
質問項目
発生した課題
木材利用選択理由 課題の解決方法 技術面及び組織体制の工夫
木材利用事例
K総合療育
センター
K教育センター
A小学校・中学校
H図書館
Iゲストハウス
・発注者側から精神修行ができる
純和風の建物を指定されたため、
設計者側が木材利用を提案
①周囲の研修施設の建物が高く、設計対象の屋根面の処
理を考えなければならない
②純木造とするとコスト・意匠的にも課題が多い
③講堂では360°全てから光を入れ、講堂全周を
1500mm屋根を張り出す
①舗水タイルではコストに見合わなかったので鍋田
石(凝灰岩)を採用することで見栄えも意識
②躯体:RC、屋根:木造、内装:木質としたRCと
木造の立面混構造及び内装木質
③木造でのキャンチレバーが厳しいところでは部分
的に(鉄骨)鉄板で支えている
・講堂部分は元々ベイマツの集成材で設計をし
ていたが、木材加工販売会社からの勧めで現場
段階で規格材の合わせ梁に変更
・木材を合わせた際にかなりの本数のボルトが
露出してしまうため、鉄板を簡略化してボルト
を見せないように工夫
・木造に精通した設計者を指名しチームを編成
・構造決定と同時にOMソーラーシステムの提案
があったため、設備設計及び構造設計者との連
携を意識した
・構造別で比較すると筋交いの取り合いや設備
計画(室外機の設置場所)で違いがある
・木造の場合は特に雨漏りに対するディテール
(屋根やバルコニーなど)を考えるのに最も気
を遣う
①天井材を貼らず設備部分を地上付近で処理した
②県産材指定がなかったため木材輸入により調達 ・躯体をRC、屋根を木造とした混構造で構成・屋根架構現しのため照明及び空調設備計画を工夫
①建物全体を床下に沈めることでGLからフラット
なフロアレベルを実現
②OMソーラーシステムにより、屋根集熱空気を床
下に送ることで自然エネルギーを空調利用
③中断面集成材の在来工法によって筋交いのない空
間を実現し、樹種を使い分けることでコストコント
ロール
①医療福祉施設として段差を失くしたバリアフリーな
空間を木造で実現が必要
②空調方式…医療福祉施設に通う子供たちを想定する
と床下空調が必要
③大断面集成材の加工場が県内に存在しない
・発注者側から県産材利用の指定
が与条件(木材利用量の指定なし)
・建物用途から「家のような」療
育センターをコンセプトとして、
設計者側が木造を選択
・発注者側から保有している学校林
利活用の指定が与条件としてあった
(木材利用量の指定なし)
・建て替えではなく新築での事例、
3つの小学校と既存不適格の中学校
の統廃合により町の文化の継承をコ
ンセプトに設計者側が木造を選択
①木材を外壁へ現しで利用するための工夫
②県内に乾燥釜や製材所が不足していた
③林業組合のフォローがなかったため基本構想・基本設
計の段階で材の発注や材積量の調査などを設計者が行わ
なければならなかった
④林業組合の知識・経験不足により、適切な葉枯らし乾
燥が行われておらず町有林の材質に問題があった
①利用者にメンテナンス方法の指導を行うことで維
持管理を促し(基本設計説明書など)、建物では外
壁に雨が当たらないように軒の出を工夫した
②県外(熊本)の製材所を利用
③設計者を現場に常駐させて、町有林の伐採や調査
を手探りで行った
④製材を工程の途中で追加発注し、図書館や多目的
スペースの構造的に強度が求められる部分には、集
成材及び他県産木材(吉野スギ丸太)を使用
・校舎棟に関しては、シンプルな木架構(洋小屋)で
構成し、シンボルとしての図書館に木材を使用したチ
ューブ構造を採用した
・当初体育館の木材架構は集成材を予定していたが、
丸太に変更(なるべく集成材を使わず製材を合わせ・
重ねることで対応)
・コストと材積量を考慮し運動場の空いたスペースに
加工場を設置
・金物やボルト接合はなるべく避け、大工職人による
継ぎ手・仕口の仕様を採用した
・設計者側から、親しみのある居
間のような空間を作るために木造
を提案
①大空間の屋根架構の木材を現しで使う
②県の木材生産が少ない
①コスト:かなり厳しかったので序盤からのコストコント
ロールが必要
②認定外の工法を採用したので、特定行政庁との協議が
必要
③外観:周りがRC、SRCなので周辺環境との調和が重要
①初期段階からのコストコントロール、特に主体構
造のコストを管理
②事前に工法について建築主事と協議を重ね了解を
得た
③木造でありながら屋根勾配をおさえ、和風になり
すぎないようにした
・発注者側からの与条件により、県
の木材利用補助を活用して木造で計
画された
・60%の県産木材の使用及び木造化
が、補助を受ける上での与条件
case 0
1
case 0
2
case 03
case 04
case 0
5
表9 ヒアリング回答内容
表8 ヒアリング対象事例概要
発注者側の傾向
(H22年促進法以前)
質問内容 回答内容
・コスト高や維持管理の難しさにより敬遠される傾向
・建物用途に対する要望(福祉関係)
・県産材の有効活用
・木材利用を指定されることが増えた気がする
・木材利用が与条件として加えられたことがある
【建物用途による違い】
・医療福祉系施設からの発注は少ない,一方で学校・教育施設からの発注は多い
・蓄積された文化・技術の継承
・利用者に親しみを持ってもらえる居住性の創出
・林業振興への啓蒙効果
・話題性や視覚的魅力による広告効果
・ゼネコン、工務店などに木造に精通した技術者が増えること
・積算方式の確立
・木材、製材の工業化
・木材の加工性によりインテリア(家具等)から建築物までに利活用できる
・木材の生物材料としての不均質さなど新たな価値観の追求
・建物用途に対する提案(福祉施設、教育施設)
・地方案件の場合、地域材の積極的利活用はプロセスのストーリーを提案する
ことができる
・木材を通じたライフスタイルの提案
・木材の地域循環
・木材を適材適所に使用する
【法規制】
・法律(構造、耐火要求、耐久性)による制限
【工程】
・審査期間が十分でないため木材工法の選択肢が限定される
【流通システム】
・大断面集成材の加工場を保持した都道府県が限られるため、コスト、工法に
影響する
・材料供給側のシステム整備
【木材利用意識】
・発注者の木材への理解、関係性の構築
・ユーザーにメンテナンスの意識を促す
発注者側の傾向
(H22年促進法以降)
木材利用理由
(設計者側)
木材利用理由
(発注者側)
木材利用の意義
現状の課題
今後の展望
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
表 7 中・大規模建築物における設計者木材利用意識
K総合療育
センター
K教育センター
木材利用事例 設計期間,竣工時期 用途 構造 延床面積
484.02㎡
8,061㎡
6,263㎡
1713㎡
2,110㎡
事業主
民間
公共
公共
公共
公共
木材利用
産地指定
なし
県産材
県産材
(町有林)
なし
県産材
木材利用
提案者
設計者
発注者
発注者
設計者
発注者
都市計画区域/用途地域/防火地域
市街化区域/準工業地域/指定なし RC造一部W造 地上1階
内外装木質化等
RC造 地上2階
塔屋1階
木造一部RC造
地下1階、地上2階
RC造一部W造
地上2階
木造 3階建て
無指定地域
無指定地域
無指定地域
都市計画区域/第一種住居地域
第一種中高層住居専用地域/指定なし
研修施設
病院・児童福祉施設
小学校・中学校
図書館
寄宿舎
H23,8~H23,12
H24,10
H12,4~H13,3
H17,9
H14,4~H15,3
H16,3
H16,4~H16,8
H17,11
H23,3~H23,7
H24,3
所属
case
01
02
03
04
05
所在地
佐賀県
三陽基郡
熊本県
下益城郡
大分県
豊後市
長崎県
南島原市
福岡県
福岡市
A小学校・中学校
H図書館
Iゲストハウス
N設計
N設計
S事務所
S事務所
T設計事務所
37-4
産力が小さいため、木材輸入により対応した。しかし、
発注者側からの木材指定等がなかったため、設計者が
木材産地、品質等を提案に見合ったものを選択するこ
とができ、結果としては、木材調達等のプロセスに関
する課題は聞かれなかった。
case 05.I ゲストハウス / 福岡県
発注者側から県の木材利用補助を活用し、60% 以上
の県産木材の使用及び木造であることが事前に指定さ
れていた。この事例の特徴は、下層部に講堂を有する
ため、在来工法では構造的に不利であり、また、自治
体内で木材流通、確保が比較的なサイズの木材を使用
するため拡張樹脂アンカー工法でつなぎ合わせ大断面
の柱、梁を採用することで実現した点である。
以上より、木材の物理的特性を生かした屋根架構や
内装木質化が手法として多く見られた。どちらも、木
材の可視化を重要としている傾向があるが、木材架構
を現しにするために、照明及び空調設備計画の工夫が
他構造形式と比べて特異な点として挙げられる。
また、木材利用が、あらかじめ与条件として発注者
から掲示されていた事例では、木材生産及び製材能力
が中・大規模建築物に対応できず、結果として、設計
手法の選択肢を狭めているものも見られた。
4-3. 市街地における木材利用に向けて
4-3-1. 自治体間連携モデルの可能性
近年では、みなとモデル二酸化炭素固定認証制度
註 6)
や川崎市・宮崎県自治体連携モデル
註 7)
に代表されるよ
うに、素材生産力、製材力のある自治体と消費力のあ
る自治体同士が、互いの持つ資源や特性、強みを生か
しながら連携を図る制度が展開されている。これらの
モデルのように都市部での木材利用が供給側に利益と
して還元される「地産都消」の仕組みは、新たな木材製
品の市場形成の可能性を秘めている。
4-3-2. 建築物事例 /M 会館
市街地に建つ木材利用の参考事例として M 会館があ
る。この事例の特徴は、木材を写真①内装、写真②外装、
写真③構造の 3 箇所を不燃処理なしの一般流通材で利
用した点である。① , ②に関しては、避難安全検証法、
耐火検証など H12 年に制定された性能規定により木材
利用を可能としている。③に関しては、最上階に木造
のホールを有し、一般流通材による合わせ梁にて屋根
架構を形成している。CNC 加工機を使用することで正
確な加工が可能となり、伝統構法の選択が可能となっ
たことも特徴である。
5. 中・大規模建築物における木材利用の課題と展望
■安定的木材供給に向けて
地域経済活性化の観点から、地域材利用促進の重要
性は当然高いことに変わりはないが、4-3 で示した自
治体間連携モデルのように、他地域での木材利用によ
り生産地側に利益として還元される仕組みは、木材製
品を安定的に供給する体制の構築に向けて期待される。
■情報共有システムの一元化
木材利用は、建築 , 構造 , 設備との早期設計段階か
らの連携が重要となる。施主や施工業者、さらには、
木材供給者など他分野との情報共有が不可欠である木
材利用では、これらを結びつける総合プラットホーム
としての情報共有システムの開発及び整備が今後求め
られる。
■製材加工技術による構法の一般化
中・大規模建築物の木造化は、依然として制限が厳
しいため木質化や一部木造化など柔軟な視点が重要で
ある。地域性に左右されず、一定の品質を大量に供給
できる製材加工システムは、今後の木材利用において
重要と思われる。これにより、高精度の製材が可能で、
構造材として必要な断面寸法の確保が容易になること
から、設計手法の選択肢の拡大が期待される。
6. まとめ
本研究では九州地域における木材産業の実態から地
域性を把握するとともに、担当設計者の木材利用意識、
また、事例の設計プロセスに関するヒアリング調査を
行うことで課題を抽出し、今後の展望として、都市間
連携の木材供給、関係者間情報共有、製材主体の工法
の推進の重要性を指摘した。
【謝辞】
本研究におけるヒアリング調査の遂行にあたっては、各設計事務所の方々、並びに各設計担
当者の方に多大なるご協力を頂きました。記して心より感謝致します。
【参考文献】
文 1)「公共支給における木造公共建築物の事業スケジュールに関する研究」日本建築学会九州
支部研究報告 2012 正木哲 堂脇吉典 志波文彦 竹下輝和 著
文 2)「官庁施設における木造耐火建築物の整備指針 資料編第3章」
国土交通省
【註釈】
註 1) 中・大規模建築物とは、スパン 10 〜 12m 程度の中規模空間の建築物として、集会場、保
育園等のプレイルーム、学校の中教室などがある。中規模空間を超える大規模空間の例として
は、体育館、武道場、交流施設等がある。
註 2)「木造化」
とは、建築物の新築、増築又は改築に当たり、構造耐力上主要な部分である壁、柱、
梁、けた、小屋組み等の全部又は一部に木材を利用すること。
註 3)「木質化」とは、建築物の新築、増築、改築又は模様替に当たり、天井、床、壁、窓枠等
の室内に面する部分及び外壁等の屋外に面する部分に木材を利用すること。
註 4) 木造とは、建築基準法第 2 条第 5 号の主要構造部(壁、柱、床、梁、屋根又は階段)が木造
のものである。
註5) 公共建築物とは、国が整備する公共(一般共同使用)
・公用(国・地方公共団体の事務・
事業又は職員の住居の用)に供する建築物に加えて、国等以外の者が整備する学校、社会福祉
施設(老人ホーム、保育所等)
、病院・診療所、運動施設(体育館、水泳場等)
、社会教育施設(図
書館、青年の家等)
、公共交通機関の旅客施設、高速道路の休憩所等も含むものとする文 4)。
註 6)
みなとモデル二酸化炭素固定認証制度とは、港区内で建てられる建築物等に同区と協定を
結んだ自治体の木材使用を促すことで、区内での二酸化炭素(CO2)固定量の増加と国内の森林
整備の促進による CO2 吸収量の増加を図り、地球温暖化防止に貢献する制度である「みなとモ
デル二酸化炭素固定認証制度(http://www.uni4m.or.jp/)
」
註 7) 川崎市・宮崎県の自治体連携モデルとは、互いの持つ資源や特性、強みを生かしながら、
都市と地方の連携・協力によるこれからの新しい価値の創造モデルを確立していくことを目的
とした自治体連携モデル
※筆者撮影(上) ※設計者ヒアリング回答より記述(下)
東京都江東区
所在地
写真①内装(会議室) 写真③構造(ホール)
合わせ梁
写真②
外装(外壁)
設計期間
構造
用途
民間
7,582.09㎡
H17,3~H18,12
SRC造一部S造一部木造
事務所等
延床面積
事業主
①基準法の規定(階数≧3,延べ面
積>500㎡)により内装制限を受
けるため内装不燃の仕様が必要
②バルコニーを設けたため、火の
燃え移りなどの安全性を確認しな
ければいけなかった
③耐火建築物にしないといけない
ため、耐火検証法あるいは認定部
材を使用しなければならない
①H12年に定められた性能規定に
より、避難安全検証法を用いて内
装不燃の緩和を行った
②木材を仕上材として扱い、外装
として躯体(RC)を設ける混構造
とし、バルコニーに関しては耐火
検証などで確認
③ホールを最上部に設計し、合わ
せ梁に関しては耐火性能検証法の
大臣認定を行った
課
題
解
決
手
法
表 9 市街地木材利用事例及びヒアリング回答内容