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雑誌名 鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要

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自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導 に関する開発的研究

著者 福留 忠洋, 永田 佑

雑誌名 鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要

巻 26

ページ 445‑451

発行年 2017‑03‑30

別言語のタイトル A development study on method of instilling life's moral lessons

URL http://hdl.handle.net/10232/00029668

(2)

Bulletin of the Educational Reseach and Development, faculty of Education, Kagoshima University

2017Vol.2600-00

報告

自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導に関する開発的研究

福 留 忠 洋〔鹿児島大学教育学部附属小学校〕

永 田 佑〔鹿児島大学教育学部附属小学校〕

A development study on method of instilling life's moral lessons FUKUDOME tadahiro・NAGATA yu

キーワード:豊かな人間性,自己の生き方についての考えを深める、6 年間のつながりを明確にした学習内容、

子どもの学習活動を充実させる指導方法 1. 研究の背景

生きる力を育むことは,知識基盤社会といわれるこれからの社会やグローバル化がますます激しくなる時代にお いても重要視されている。改めて,時代を超えて変わらない,調和のとれた人間形成の必要性が強調されたといえ る。その中でも,「豊かな人間性」は,生きる力における重要な要素であり,そのような豊かな人間性をもった人 を育成することが求められている。それは,これからの変化の激しい社会において,人と協調しつつ自律的に社会 生活を送ることができるようになるために必要な要素であるからである。「豊かな人間性」は,美しいものや自然 に感動する心などの柔らかな感性,正義感や公正さを重んじる心,生命を大切にし,人権を尊重する子などの基本 的な倫理観,他人を思いやる心や社会貢献の精神,自立心,自己抑制力,責任感,他者との共生や異なるものへの 寛容などの感性及び道徳的価値を大切にする心であると学習指導要領解説に定義付けられている。

このような豊かな心を育成し,基盤となる道徳性を養うのが道徳教育である。学校の教育活動全体を通じて行わ れる道徳教育は,これからの社会に重要視される道徳性を育む上で,大切な役割を担っている。そして,道徳教育 の「要の時間」として位置付けられている道徳の時間は,道徳性を育成する上で,重要な存在である。それは,道 徳の時間において,教育活動全体で行われている道徳教育が調和的に生かされ,計画的,発展的な指導によって,

子どもたちの道徳性は一層豊かに育まれていくからである。

そのような道徳の時間は,「教育活動全体で学習した道徳的価値を自分のものとしてとらえ,発展させていこう とする子ども」「将来,出会うであろう様々な場面,状況において,道徳的価値を実現するための適切な行為を主 体的に選択し,実践することができるような子ども」を育む時間であると私たちは考える。私たちが育んでいきた い子どもは,「人としてよりよく生きようとする子ども」とも言える。なぜなら,人間は本来,「人としてよりよく 生きたい」という願いをもっている存在であり,上に述べた子どもの姿は,まさに,その願いを実現させるために 必要となる態度や資質・能力を備えていると考えるからである。人としてよりよく生きたいと願う子どもは,豊か な人間性をもち,これからの社会において,人と協調しつつ,自律的に社会生活を送り続けることができるように なると考える。

そのような考えの下,豊かな人間性を育成していくという立場から,本校のこれまでの子どもの様子を全体的な 視点で見た時,さらに充実させたり,高めさせたりする必要があることが明らかになり,その要因から,本校の子 どもたちの豊かな人間性の基盤となる道徳性を十分に育てていくために,教師の指導を改善したり充実したりする 必要があるのではないかという考えに至った。つまり,子どもたちの道徳性を育むために,道徳教育の要である道 Bulletin of the Educational Research and Development, Faculty of Education, Kagoshima University

2017, Vol.26, 445-451

報 告

自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導に関する開発的研究

福 留 忠 洋[鹿児島大学教育学部附属小学校]

永 田   佑[鹿児島大学教育学部附属小学校]

A development study on method of instilling life's moral lessons FUKUDOME Tadahiro NAGATA Yu

キーワード:豊かな人間性、自己の生き方についての考えを深める、6 年間のつながりを明確にした学 習内容、子どもの学習活動を充実させる指導方法

(3)

鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要 第26巻

2

徳の時間の指導について,新たな視点を加えて見つめ直し,要因の解決となるものを見出すとともに,これからの 道徳授業の在り方を創造していく必要があると考えた。そして,そのことを踏まえた学習指導が計画的,発展的に 行われることによって,自己の生き方についての考えを深めることとなり,,道徳性が着実に育まれていくのでは ないかと考えた。さらに,そのことが,豊かな人間性を育んでいくことにつながり,これからの変化の激しいこれ からの社会に改めて必要とされる,生きる力を育んでいくこととなると考えた。

2. 研究の方向

前述した子どもたちの姿の要因を解決していくために,道徳性はどのように発達していき,どのような点に留意 して育成していくかを改めて考えなければならない。

人間は,人間が生まれてきた時から道徳性を身に付けているのではなく,その萌芽をもって生まれてくる。社会 における様々な体験を通して開花し,それぞれが固有のものを形成していく。そのように形成されていく道徳性を よりよく育むためには,人間が生まれながらにもっている,よりよく生きたいという力を引きだしていくことが大 切である。その際には,道徳性は様々な体験を通して開花していくという考えから,体験の中でのかかわりを豊か にしていくことや道徳的価値に対して,自分の生き方の指針として捉えるために,道徳的価値への自覚を深めてい くことが必要である。

つまり,道徳性を育む道徳教育の要である道徳の時間は,これまでの自分の生き方を道徳的価値に照らし合わせ ながら思考させることで,自己の生き方についての考えを深め,子どもたちにとって,道徳的価値が自分にとって 意味のあるものであり,それを大切にしながら,これからの自分の生き方を豊かなものにし続けたいという思いを もたせることになると考える。

上記のことを踏まえ,道徳の時間を充実・改善していく観点として,「よりよく生きる力を引き出すこと」「かか わりを豊かにすること」「道徳的価値の自覚を深めること」の3つを設定していくことにする。この3つの観点が 相互に作用した道徳の時間によって,子どもたちは,これまでの様々なかかわりの中で見つめてきた道徳的価値を 自分のものとして捉え,自分の生き方をよりよくし,豊かなものにしていこうとするであろうと考える。そして,

充実・改善された道徳の時間を計画的,発展的に指導していくことで,子どもたちは,自己の生き方への考えを深 める力をもち,人としてよりよく生きようとする子どもの姿へと近づいていくものと考える。

そこで本研究では,道徳の時間の充実・改善の3つの観点を,さらに実際の授業レベルで具体化することで,道 徳の時間を改善・充実していく必要な力や態度を明らかにしていく。そして,それらが表出された道徳授業はどの ようなものかを意図的・計画的に位置付けると共に,学習内容の設定や指導方法の考え方を見出し,具体化してい く。

3. 研究の内容

3.1.自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導の基本的な考え方

⑴ 6年間のつながりを明確にした学習内容設定における基本的な考え

道徳の時間において,学習内容を設定することは,何を学ばせるかを明確にすることであり,教師側がねらい に迫っていく過程において明確にしなければならないことである。それは,指導方法を具体化していく際の基盤 となるものである。学習内容を設定するためには,指導内容の解釈や分析を基に,各学年の発達段階を踏まえた 指導内容の要素,児童の実態分析及び資料分析,指導の発展性及び他教育活動との関連を図ることを要件とする。

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鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要 第 26 巻(2017)

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福留 忠洋・永田 佑:自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導に関する開発的研究

そして,実際に指導する子どもたちの実態を踏まえ,道徳的価値はなぜ大切にされているのかを中心に追究し ていくか,誰もがある人間的な心の弱さや心の葛藤を乗り越える喜びや楽しさを味わっていくかを中心に追究し ていくかを明らかにした上で,計画的・発展的に学習内容を設定することも必要となる。そうすることで学習内 容は,子どもたちにとってよりよい生き方を考える上で価値あるものとなると考える。

⑵ 6年間のつながりを明確にした学習内容設定の具体的な流れ

学習内容設定までの流れを3-(3)敬虔にかかわる内容で述べる。学習指導要領では,低学年「美しいもの に触れ,すがすがしい心をもつ」,中学年「美しいものや気高いものに感動する心をもつ」,高学年「美しいもの に感動する心や人間の力を超えたものに対する畏敬の念をもつ」と示されている。以上の指導内容における指導 上の留意点から,まず共通点(感動する心)や差異点(対象の違い等)を見出し,それぞれの段階における要素 を位置付ける。次に,意義や心構え,心の弱さの3つの観点から具体的に分析する。それらを基に,実態として 子どもたちがどのような体験をしているかを分析したり,資料のどこを中心に扱うかを分析したりする。さらに,

遠足や半成人式,宿泊行事などのかかわりのある教育活動を洗い出したり,これらを踏まえて指導の発展性を考 慮したりすることで,低学年の「すがすがしい心をもつ」といった一見感覚的になりがちな内容を,何を対象と して,どのように育むかを中学年・高学年と比較しながら明確にする。それらを受け,子どもの実態に応じて追 究のさせ方を具体的に位置付け, 6 年間のつながりの中で学習内容を明確にしていく(図1)。

【図1:6 年間のつながりを明確にした学習内容設定の具体的な流れ】

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福留 忠洋・永田 佑:自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導に関する開発的研究

表1 一単位時間だけでなく,6年間のつながりを明確にした学習内容設定の実際

3.3 自己の生き方についての考えを深める道徳学習の実際

⑴ ここでは,敬けんにかかわる内容について,学習内容設定と指導方法との関連を具体化する(表 1,図 4,図 5)

ねらい

【低学年】3-⑶ 美しいものに触れ,すがすがしい心をもつ。

指導内容の要素:気持ちのよさ,素直な感動,すがすがしい心 1学年の

実態 好奇心旺盛で,身の回りの様々なことに関心をもち,自然の美しさや心地よい音楽などを素直に感じることが できる。しかし,自己中心的な考えなどなから,その美しさに気付けないこともある。

実施月 重点的に扱う内容(意義,心構え,心の弱さ) 主題名・資料名 学習内容 関連する教育活動 6月 弱:自己中心,楽観的な考え ○見ていなくても

おつきさまがみている 心の葛藤 生活:楽しい学校特活:係活動 2学年の

実態 自然の美しさや心地よい音楽,名作物語などに触れて素直に感動し,自分の心がすがすがしくなることを感じている。しかし,

そのように感じられる自分の心の美しさや人の心の美しさについては,あまり感じることが少ない。

6月 心:美しさは,人の心にもある ○うつくしい心

ひかりのほし 価値理解に

重点 生活:散歩② 特活:係活動

【中学年】3-⑶ 美しいものや気高いものに感動する心をもつ。

指導内容の要素:美しいものを美しいと感じる快さ,気高さへの気付き,素直な感動

3学年の実態 自然の美しさや人の心の美しさに触れて,自分の心が感動することを体験してきている。しかし,自分には関係ないと感じた り,そのものの意味や価値を実感できなかったりして,感動する心を大切にしたいと感じないこともある。

実施月 重点的に扱う内容(意義,心構え,心の弱さ) 主題名・資料名 学習内容 関連する教育活動 12 月 心:人のことを思える自分の心を大切に

する ○心のうつくしさ

花さき山 価値理解に

重点 学校行事:宿泊学習 特活:係活動 4学年の実態 自然の美しさや人の心の美しさに触れて感動し,それらを感じる心を大切にしようとしてきている。しかし,

そのものの意味や価値が分からずに深く感動できず,そのよさを実感しないこともある。

12 月 意:快い感情,自分の成長

心:自分の想像を超える美しさがある ○ことばにできない

十才のプレゼント 価値理解に

重点 学校行事:春の一日遠足 特活:半成人式

【高学年】3-⑶ 美しいものに感動する心や人間の力を超えたものに対する畏敬の念をもつ。

指導内容の要素:人間の心のすばらしさ,自然の偉大さ,人間の業を超える偉大さ

5学年の実態 壮大で神秘的な自然に感動したり,人の心のもつ美しさや力強さに心を打たれたりすることを体験してきている。しかし,自 己保身などから,美しいものや素晴らしいものを素直に感じられないこともある。

実施月 重点的に扱う内容(意義,心構え,心の弱さ) 主題名・資料名 学習内容 関連する教育活動 1 月 弱:自己保身,利害損得 ○本当の美しさ

美しいお面 心の葛藤 社会:わたしたちのくらしと環境 学校行事:祖父母参観 6学年の実態 壮大で神秘的な自然に感動したり,人間の偉業に触れてその偉大さを感じたりして,自分自身の成長に気付くことがあ

る。しかし,その偉大さと自分の存在を比較して,より深く捉えるまでには至っていない。

12 月 意:自分の成長,他者の尊重,信頼関係

心:人の心の偉大さに触れ,自分を省みる ○通い合う心

青のどう門 価値理解に重

点 総合:「NEXTステージ」(キャリア教育) 学校行事:修学旅行

○ 美しいものや気高いものに感動する心をもつことにかかわる自分自身の生き方を見つめ,美しさを感じ取ることのできる自 分の心を大切にしようとする気持ちを高めることができる。

○ 美しいものや気高いものに感動する心をもつことにかかわる見方・考え方・感じ方を自らの体験場面での内面と関係付けて 考え,表現することができる。

○ 美しいものや気高いものに感動する心をもつことにかかわることについて,「美しさを感じ取る自分の心を大切にする」「自 分の想像を超える美しさがある」といった考えを自分の生き方のかかわりを通して理解することができる。

【学び合いの目的】 自然の美しさに対す る捉えを多様に表出さ せ,「自分の想像を超え る美しさに,快い感情を 抱く」といったよさや心 構えを深く追究させる。

【学び合いでの子どもの思考】 【働きかけ】

発問①

「主人公は,プレゼントをもら えたのだろうか。

発問②

「物でなくても,もらえたこと になるのだろうか。 初めて見る美しい景色

が,プレゼントだったと思 うよ。

プレゼントは,形に残ら ないと意味がないのでは ないかな。

わたしは,物でなくてもプレゼントをもらえたことになると 思うよ。だって,自分の想像を超える美しさは,いつまでも心 に残ると思うから。あなたは,どうですか?

児童の実態

【内容について】

共通体験が少なく,感動した経験を想起しにくかったり,共感で きなかったりすることがある。

意味や価値がよく分からなかったり,自分には関係ないと思った りして,美しいものに触れても深く感動しなかったり,そのよさを あまり意識しなかったりする。

【学び方について】

話合いの際に,主人公と自分の体験とを関係付け ながら考えたり,語ったりすることが思うようにで きないことがある。

論点や立場が明確でなく,人任せにして参加でき ない子どもがいる。

【図4:ねらいと学習指導方法の具体】 鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要 第26巻

4

【図2 学習内容の設定から教師の具体的な働きかけまでの流れ】

3.2. 自己の生き方への考えを深める指導方法について

⑴ 多面的・多角的に考え,議論させる多様な指導方法の基本的な考え方

これまでに設定した学習内容をよりよく学び取らせるためには,自己の生き方への考えを深めさせるためには,

子どもたちが切実感をもって自分の生活と関係付けて学び取る必要があると考える。

そこで,道徳的価値について,多様な価値観があることを前提として多面的・多角的に考えさせる学び合いを 通して,自分自身の道徳的価値観を再構成していくことが重要であると考える。

その際は,自分の道徳的価値観を互いに比較・関係付けして追究しよう(コミュケーションを行う力)とする 子どもたちが,資料中の人物の生き方や友達の道徳的価値観に共感したり(多面的・総合的に考える力),批判 的に捉えたり(考えを吟味する力)しながら考えることを通して,新たな見方・考え方・感じ方に気付かせてい く。また,資料中の人物の生き方を自分自身に置き換え,自分自身の生活場面とつなげて考えさせていく。その ために,順位や共通性を問うといった子どもたちの多様な道徳的価値観を表出させる発問や,道徳の時間の中で 問うたことを日常生活の中でも改めて自分自身に問うといった日常生活の中で自問自答できる発問,自分の立場 や姿を明確にさせる役割演技などの場の設定など,教師がどのような手立てを講じていくかを明確にすることが 必要であると考える(図 2)。

⑵ 多面的・多角的に考え,議論させる多様な指導方法の具体例

多面的・多角的に考え,議論させる指導方法として,主題名「通い合う心」資料名「青の洞門」では,次のよ うな指導方法が効果的であると考えた。

人間のもつ心の崇高さや偉大さについて,子どもたちの多様な道徳的価値観を表出させるために,「すごい,真似で きないと思う人は誰ですか。」と問う。この問いから,「何十年も人のためにやり続ける了海の偉大さ」と「積年の恨 みを許した吉之介の偉大さ」に共感する見方等を表出させ,それらを基に共感的・批判的に捉えさせながら「自分が 吉之介だったら許すことができるだろうか。」といった課題を明確にし,共有させる(図3)。

主題名「通い合う心」資料名「青の洞門」(学研教育みらい)

【学び合いの目的】 【学び合いでの子どもの思考】

人間のもつ心の崇 高さや偉大さについ ての捉えを多様に表 出させ,課題を明確 にさせる。

罪を償うために洞 窟を掘り続けるなん てすごいと思うな。で も自分とはちがう考 えの人もいるなあ。

【教師の働きかけ】

発問

「すごい,真似できないと思う人は誰で すか。」

場の設定

① それぞれの見方等を対照的に板書 する。

② 表情を見ながらそれぞれの見方等 の違いを話し合えるように,机を配置 する。

確かそれぞれの考えは分かるなあ。で も,他の人は,どうなのかな?

何年もかけて見 つけたのに仇を討 たず了海のことを 許した吉之介の方 がすごいのではな いか。

など

学び合い

比較・関係付けさせる

教師の働きかけ 友達が考えている大切なこ

とも,納得できるな。

多面的・総合的に考え る力

自分が大切にしてきたこと は,本当にこれでよいのかな。

考えを吟味する力

発 問

・多様な道徳的価値観を表出させる発問

・日常生活の中で自問自答できる発問 場の設定

・役割演技 ・座席配置

・話合いの人数構成 など 資料提示 振り返り

友達は,どんなことを考えているのだろ う。聞いてみたいな。

コミュニケーションを行う力

【図 3:教師の具体的な働きかけの具体例】

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鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要 第 26 巻(2017)

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福留 忠洋・永田 佑:自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導に関する開発的研究

表1 一単位時間だけでなく,6年間のつながりを明確にした学習内容設定の実際

3.3自己の生き方についての考えを深める道徳学習の実際

⑴ ここでは,敬けんにかかわる内容について,学習内容設定と指導方法との関連を具体化する(表1,図4,図5)

ねらい

【低学年】3-⑶ 美しいものに触れ,すがすがしい心をもつ。

指導内容の要素:気持ちのよさ,素直な感動,すがすがしい心 1学年の

実態 好奇心旺盛で,身の回りの様々なことに関心をもち,自然の美しさや心地よい音楽などを素直に感じることが できる。しかし,自己中心的な考えなどなから,その美しさに気付けないこともある。

実施月 重点的に扱う内容(意義,心構え,心の弱さ) 主題名・資料名 学習内容 関連する教育活動 6月 弱:自己中心,楽観的な考え ○見ていなくても

おつきさまがみている 心の葛藤 生活:楽しい学校 特活:係活動 2学年の

実態 自然の美しさや心地よい音楽,名作物語などに触れて素直に感動し,自分の心がすがすがしくなることを感じている。しかし,

そのように感じられる自分の心の美しさや人の心の美しさについては,あまり感じることが少ない。

6月 心:美しさは,人の心にもある ○うつくしい心

ひかりのほし 価値理解に

重点 生活:散歩② 特活:係活動

【中学年】3-⑶ 美しいものや気高いものに感動する心をもつ。

指導内容の要素:美しいものを美しいと感じる快さ,気高さへの気付き,素直な感動

3学年の実態 自然の美しさや人の心の美しさに触れて,自分の心が感動することを体験してきている。しかし,自分には関係ないと感じた り,そのものの意味や価値を実感できなかったりして,感動する心を大切にしたいと感じないこともある。

実施月 重点的に扱う内容(意義,心構え,心の弱さ) 主題名・資料名 学習内容 関連する教育活動 12月 心:人のことを思える自分の心を大切に

する ○心のうつくしさ

花さき山 価値理解に

重点 学校行事:宿泊学習 特活:係活動 4学年の実態 自然の美しさや人の心の美しさに触れて感動し,それらを感じる心を大切にしようとしてきている。しかし,

そのものの意味や価値が分からずに深く感動できず,そのよさを実感しないこともある。

12月 意:快い感情,自分の成長

心:自分の想像を超える美しさがある ○ことばにできない

十才のプレゼント 価値理解に

重点 学校行事:春の一日遠足 特活:半成人式

【高学年】3-⑶ 美しいものに感動する心や人間の力を超えたものに対する畏敬の念をもつ。

指導内容の要素:人間の心のすばらしさ,自然の偉大さ,人間の業を超える偉大さ

5学年の実態 壮大で神秘的な自然に感動したり,人の心のもつ美しさや力強さに心を打たれたりすることを体験してきている。しかし,自 己保身などから,美しいものや素晴らしいものを素直に感じられないこともある。

実施月 重点的に扱う内容(意義,心構え,心の弱さ) 主題名・資料名 学習内容 関連する教育活動 1月 弱:自己保身,利害損得 ○本当の美しさ

美しいお面 心の葛藤 社会:わたしたちのくらしと環境 学校行事:祖父母参観 6学年の実態 壮大で神秘的な自然に感動したり,人間の偉業に触れてその偉大さを感じたりして,自分自身の成長に気付くことがあ

る。しかし,その偉大さと自分の存在を比較して,より深く捉えるまでには至っていない。

12月 意:自分の成長,他者の尊重,信頼関係

心:人の心の偉大さに触れ,自分を省みる ○通い合う心

青のどう門 価値理解に重

点 総合:「NEXTステージ」(キャリア教育)

学校行事:修学旅行

美しいものや気高いものに感動する心をもつことにかかわる自分自身の生き方を見つめ,美しさを感じ取ることのできる自 分の心を大切にしようとする気持ちを高めることができる。

美しいものや気高いものに感動する心をもつことにかかわる見方・考え方・感じ方を自らの体験場面での内面と関係付けて 考え,表現することができる。

美しいものや気高いものに感動する心をもつことにかかわることについて,「美しさを感じ取る自分の心を大切にする」「自 分の想像を超える美しさがある」といった考えを自分の生き方のかかわりを通して理解することができる。

【学び合いの目的】

自然の美しさに対す る捉えを多様に表出さ せ,「自分の想像を超え る美しさに,快い感情を 抱く」といったよさや心 構えを深く追究させる。

【学び合いでの子どもの思考】 【働きかけ】

発問①

「主人公は,プレゼントをもら えたのだろうか。

発問②

「物でなくても,もらえたこと になるのだろうか。 初めて見る美しい景色

が,プレゼントだったと思 うよ。

プレゼントは,形に残ら ないと意味がないのでは ないかな。

わたしは,物でなくてもプレゼントをもらえたことになると 思うよ。だって,自分の想像を超える美しさは,いつまでも心 に残ると思うから。あなたは,どうですか?

児童の実態

【内容について】

共通体験が少なく,感動した経験を想起しにくかったり,共感で きなかったりすることがある。

意味や価値がよく分からなかったり,自分には関係ないと思った りして,美しいものに触れても深く感動しなかったり,そのよさを あまり意識しなかったりする。

【学び方について】

話合いの際に,主人公と自分の体験とを関係付け ながら考えたり,語ったりすることが思うようにで きないことがある。

論点や立場が明確でなく,人任せにして参加でき ない子どもがいる。

【図4:ねらいと学習指導方法の具体】

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鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要 第26巻

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⑵ 第4学年 主題名「ことばにできない」におけるねらいと学習指導方法について(図4)

⑶ 授業の実際 資料名「十才のプレゼント」光文書院(図5)

あやさんは,プレゼントをもらえたのかな。 【多様な道徳的価値観を表出させる発問】

だって,プレゼントは感動するものだよね。

もらった

ほしい物ではなかったし,形に残らないよ。

もらっていない

① 自分の立場を決定し,その 理由や考えを表出する子ど もの姿が見られた。

ぼくも,みんなで行った白鳥山登山のときに感動したのを覚えているよ。み んなで登り切ったあとに見た頂上からの景色は自分が思っていた以上にきれい だったな。すごく疲れていたのに,不思議と元気が出たよ。

私は桜島の夕焼けを見て,す ごいなあ,きれいだなあと感動 したことがあるよ。自分たちの 身近なところにも,美しい自然 や景色があるんだな。そんな美 しさを感じる心を大切にしたい な。

ぼくはまだ,美し い景色を見て感動し た経験がないな。言 葉にできないくらい 感動する美しい景色 を見てみたいな。

② 話合いを進めていく中 で,友達の多様な考えに触 れ,自分の考えを深めたり 広げたりしていきながら,

新たな問いが生まれた。

どちらも分かる気がするなあ。

わからない

やっぱり,もらった ことになるよ。自分の 想像を超えるほど美 しい景色だったと思 うよ。

感動した気持ち は,いつまでも残る なあ。初めて見るき れいさだったんだ よ。

なるほど。それほど きれいで感動したんだ ね。物でなくてももら ったことになるという のも分かる気がしてき たよ。

物でなくてももら ったことになるんだ ね。それほど感動す るきれいな景色だっ たんだ。

美しい景色を見て,何 だかやる気が出たよ。自 然やきれいな景色に感動 する気持ちを大切にした いな。

そういえば,ぼくも 初めて登山をしたとき の景色を今でも覚えて いるよ。確かにきれい だったし,感動したな。

感動したことは,い つまでも心に残ると思 うけどなあ。

心に残るほど見た ことがないくらい,

きれいな景色だった んだよ。

心には残るけど。そ れだったら,写真とか に撮って残しておき たいよね。

忘れないために は,どうにかしたい もんなあ。

みんなの話を聞いていると,お父さんと 見た朝日は,プレゼントになるということ だなあ。ということは…

残したいというのは,分かるなあ。

自分の強く感じた気持ちや考えをまとめてみましょう。

物ではなくても,もらったことになるのかな。 【日常生活の中で自問自答できる発問】

【図5:発問と児童の思考の流れ】

③ 友達の考えや主人公の気持 ちを基に,これまでの自分自 身の体験を想起しながら考え たり,これまでの自分自身の 考え方と比較して考えたりす る子どもの姿が見られた。

− 456 −

− 450 −

鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要 第 26 巻(2017)

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福留 忠洋・永田 佑:自己の生き方についての考えを深める道徳学習指導に関する開発的研究

⑷ 実践のまとめ

一単位時間だけでなく,6年間のつながりを明確にした学習内容設定により,本時で学び取らせたい内容がよ り明確になり,それぞれの立場を基に多様な道徳的価値観を表出させたり,自分自身の生活とつなげて考えたり させる発問を設定するなど,効果的な手立てを講じることができた。それにより,子どもたちが,主人公と自分 自身を関係付けて考え,美しい自然に感動する心について主体的に追究する姿が見られた。このことは,敬けん にかかわる内容について,子ども自身が自己の生き方への考えを深めることにつながったと考える。

4.研究のまとめ 4.1.成果

○ 学習内容を明確にし,子どもたちが考え,議論している様相を想定した上で,発問や場の工夫をした。そのこ とにより,互いの道徳的価値観に基づいた考えを比較・関係付けしたりしながら,道徳的価値への見方・感じ方・

考え方を深めたり広げたりする学習指導ができ,子どもが主体的に道徳的価値観を再構成していこうとする姿が 見られた。

4.2 課題

○「特別の教科道徳(道徳科)」となる上で,新設された指導内容については,学習内容を6年間のつながりを明 確にして設定していく必要がある。

○ 子どもたちが主体的に,道徳的価値について多面的・多角的に考え,議論し,それぞれの道徳的価値観を再 構成していけるように,学習過程の柔軟な取り扱いや読み物資料のみを中心教材としない授業展開の在り方な ど,さらに研究を深めていく必要がある。

付記

本報告は,鹿児島大学教育学部附属小学校平成2528年度研究紀要で発表した研究内容等に基づき,その研究 成果をまとめたものである。

参考文献

・文部科学省「小学校学習指導要領解説 道徳編」(東洋館出版社 平成20年)

・新道徳教育事典(第一法規出版社 昭和55年)

・假屋園昭彦著「教師と児童とが対話をとおして道徳的価値を発見する授業デザインの開発(Ⅱ)」(鹿児島大学 教育学部研究紀要 第652014年)

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参照

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