【原著論文】
エココントロール研究の現状と課題
―サーベイ研究を分析対象にして―
The Current Status and Issues of Eco-control Research:
Analyzing questionnaire surveys
金 宰弘
1)・東田 明
2)1) 会計学研究室
2) 名城大学経営学部教授
Jaehong KIM
1)・Akira HIGASIDA
2)1) Accounting
2) Professor, Faculty of Business Administration, Meijo University
Abstract
This study aims to review the previous literature on eco-control and clarify the current status and issues of eco-control research. The previous literature on eco-control was categorized into three research themes:
components, antecedents, and consequences of eco-control. Findings of this study suggest different avenues for future research: (1) researches on the various configuration of eco-control and the effects of them, (2) the impact of institutional factors and managers’ commitment on eco-control based on the institutional theory and contingency theory, (3) questionnaire surveys measuring the environmental and economic performance using objective data.
キーワード:マネジメントコントロールシステム,エココントロール,サーベイ研究,文献レビュー
1.はじめに
企業の社会的責任に関連して環境問題への対応は事業活動の重要な課題として提示されてきた。環 境規制の強化,製品や製造プロセスにおける環境影響,ステイクホルダーの圧力などの要因により,
環境戦略の策定や遂行は企業経営において不可欠なものとなっている。2010年にISO26000の発行,
2015年にSDGs(Sustainable Development Goals)とパリ協定の採択など,環境問題,社会問題に対す
る企業の社会的責任がより強く求められている。特に,日本やドイツなどの国では,温室効果ガス排 出量実質ゼロを目標に掲げているため,その影響でこれらの企業は新しい環境目標を設定したり,既
存の目標を変更することが必要になった。今日の企業は環境問題に適切に対応しながら,企業の収益 性とどのように調和させるかが重要な課題となっている。環境戦略を遂行するためのマネジメントの 仕組みは,「エココントロール(eco-control)(1)」として理解することができる。ここで,エココント ロールとは,環境活動の様式を維持または変更するために,財務情報と環境情報を利用する公式かつ 非公式的な手続およびシステムである。
管理会計分野の「マネジメントコントロールシステム(以下,MCS)(2)」研究では,企業は事業目 標を達成するために,予算管理,業績評価,報酬システムなど,複数のコントロール手段を適切に組 み合わせて活用し,それが組織ケイパビリティや組織パフォーマンスを向上させることを示している
(Bedford, 2015; Bedford and Malmi, 2015; Henri, 2006; Widener, 2007)。この議論を企業の環境経営に拡 張して,環境戦略の遂行や環境目標の達成にも MCSの活用が役立つことが多くの研究から示されて いる(Guenther et al, 2016; Lueg and Radlach, 2016)。環境戦略の遂行に活用されるパッケージとしての MCSをエココントロールとし,これを分析対象にした経験的研究が多様に展開されてきている。
特に,Henri and Journeault(2010)がサーベイ研究でエココントロールを分析した以降,従来の事例
研究ベースの制約されていた研究結果を拡張させ,エココントロールのサーベイ研究が増加する傾向 にある。エココントロールのサーベイ研究では,Simons(1995),Malmi and Brown(2008),Merchant
and Van der Stede(2017)が提示したMCSフレームワークを採用しているため,測定したエココント
ロールの構成要素は各研究が採用した MCS フレームワークによって異なっている。また,事業戦略 の遂行手段であるMCSへの環境的側面の統合程度でエココントロールを測定するか,MCSと独立し た形態で環境戦略の遂行手段であるエココントロールを測定するかのように,エココントロールは 様々な方法で測定されている。サーベイ研究においてエココントロールの多様な測定は分析結果に影 響を与えるだろう。この点を踏まえると,エココントロールのサーベイ研究にはどのような課題があ るかについて十分に議論されていないと言える。そこで,本稿では,サーベイ研究でエココントロー ルを分析対象にした先行研究のレビューを通じて,エココントロールのサーベイ研究の現状を明らか にし,将来の研究課題を提示することを目的とする。
本稿の構成は以下の通りである。次節では,本稿の分析対象であるエココントロール研究がどのよ うに展開されてきたのかについて概観する。第3節では,分析対象となる文献の選定と分析方法につ いて説明する。第4節では,エココントロールのサーベイ研究を,エココントロールの構成要素,影 響要因,従属要因のテーマ別に分析を行う。第5節では,分析結果を踏まえて,今後の研究課題を提 示する。
2.MCS 研究からエココントロール研究へ
本節では,MCSをパッケージとして捉えている研究からエココントロール研究への展開について検 討し,エココントロールのサーベイ研究に注目した背景を説明する。
まず,管理会計分野でマネジメントコントロールを独立の研究対象として議論したのは,Anthony
(1965)である(Otley, 1994)。Anthony(1965)は,マネジメントコントロールを「マネジャーが組 織目標を達成するために,効果的かつ効率的に資源を取得して使用することを確実にするためのプロ セス」として定義し(p.17),予算システムを例に挙げ,会計によるコントロールを重視していた。こ れに対して,Ouchi (1979),Otley (1980),Flamholtz (1983)は,会計によるコントロールは組織のMCS を構成する 1 つの要素であり,組織の価値観および規範を共有するクラン(clan)や組織構造などの 非会計的なコントロールと合わせて使用されているため,これらのコントロール手段は相互に関連し ながらパッケージとして機能していることを主張した。これらの MCS研究を背景に,マネジメント コントロールの概念を拡張して,MCSを分析するためのフレームワークを提示する研究が行われてき た(Simons, 1995; Malmi and Brown, 2008; Merchant and Van der Stede, 2017)。このようなMCSフレーム ワークが事例研究やサーベイ研究などに用いられ,コンティンジェンシー理論に基づく研究では,複 数のコントロール手段によって構成されるMCSに影響を与える要因が分析され(Chenhall, 2007),ま た,リソースベースドビューを用いた研究では,MCSが企業のケイパビリティやパフォーマンスに与 える影響が分析されている(Henri, 2006; Widener, 2007)。
同様に,環境管理会計分野のエココントロールの研究においても,個々のコントロール手段の研究 から,パッケージのエココントロール研究へ展開されてきている。Ditillo and Lisi(2014)が示したよ うに,従来までの環境管理会計分野では,環境予算,環境管理システム,マテリアルフローコスト会 計,環境パフォーマンス評価,環境投資評価,多次元パフォーマンスに基づく報酬システムなど,個々 のコントロール手段が分析されていた。しかし,これらは主に会計によるコントロール手段であり,
また,環境予算と環境パフォーマンス評価などのように,各々のコントロール手段が相互に関係し合 っているにもかかわらず,コントロール手段間の関係性を考慮していないという先行研究の限界から,
パッケージのエココントロールに注目する必要があった(Berry et al., 2009; Ditillo and Lisi, 2014)。 Norris and O’ Dwyer(2004),Durden(2008),Riccaboni and Leone(2010)は,事例企業の分析から,
会計による公式的コントロール手段と,価値観や信念のような非公式的コントロール手段が相互に機 能して,環境を含む企業のサステナビリティ経営を可能にすることを主張した。その後,Henri and
Journeault(2010)をはじめ,Simons(1995)が提示したMCSの定義と様々なMCSフレームワークが
用いられ,複数のコントロール手段によって構成されるエココントロールを分析対象にした研究が多 く行われるようになった。特に,エココントロールのサーベイ研究では,環境戦略を遂行するために,
環境計画,環境予算,環境パフォーマンス指標の使用,環境インセンティブなど,複数のコントロー ル手段を同時に活用することが,企業の環境や財務パフォーマンスを向上させるという分析結果を提 示して,企業パフォーマンスへの因果関係を明確に示してこなかった従来までの事例研究の研究結果 を拡張させた(Henri and Journeault, 2010; Journeault, 2016; Kokubu et al., 2019)。
しかし,複数のコントロール手段によって構成されるエココントロールには多様な構成概念が含ま れるため,サーベイ研究ではエココントロールの測定が重要な課題として考えられる。実際にサーベ イ研究では,独自で開発したフレームワークを用いたり,既存の MCS分析フレームワークを採用し
たりして,エココントロールが様々な方法で測定されていることがみられる(Henri and Journeault, 2010; Journeault, 2016; Kokubu et al., 2019)。これに加えて,エココントロールの影響要因と従属要因に ついてどのような変数を選定するかも重要である。なぜならば,エココントロールをどのように測定 するか,またどのような変数をエココントロールの影響要因と従属要因にするかなどは,分析結果に 影響を与えるからである。このように,分析結果の一般化を目指すサーベイ研究では,事例研究でみ られない新しい知見や研究課題が確認できるため,本稿では,エココントロールを分析対象にしたサ ーベイ研究のレビューを通じて,エココントロールの現状を明らかにし,今後の研究課題を提示する。
次節では,分析対象になった文献の選定プロセスと,レビュー方法について説明する。
3.分析方法
本稿の目的は,エココントロールに関する全ての研究を集めて幅広くレビューするのではなく,比 較的に新しい研究領域であるエココントロールのサーベイ研究に焦点を当てて,サーベイ研究から得 られる知見や,今後の課題を提示することである。以下のプロセスで対象とするエココントロールの サーベイ研究の選定方法について説明する。
まず,エココントロールのサーベイ研究を収集するために,Business Source Premier(EBSCO),Science Direct(ELSEVIER)の2つのデータベースから,①「environmental」と「management control」,②「eco-control」 と「management control」といった2つのキーワード組み合わせを設定して,総173本の文献を検索し た(3)。しかし,検索された文献の中には,エココントロールと関係ない文献が多く含まれていたため,
次に,検索された173本の各文献のアブストラクトを確認して,パッケージとしてのエココントロー ルを分析対象にしていない研究,概念的研究や事例研究ベースのエココントロール研究を除外し,18 本の文献を選別した。また,18本の中には,Business Source PremierとScience Directの両方から重複 して検索された文献が6本含まれていたため,重複して検索された文献を除外して,12本のエココン トロールのサーベイ研究を選別した。最後に,特定のキーワードを入力する方法で検索可能な文献は 限定的であるため,12本の文献の参考文献に記載されている研究の中で,本稿の分析対象に該当する 4本の文献を追加した。その結果,最終的に16本の文献をレビュー対象に選定した。
上記のプロセスを経て選定した 16 本の文献のレビュー方法については,まず,記述統計により,
16本の文献の全体的な特徴を検討する。その後,研究テーマを①エココントロールの構成要素,②エ ココントロールの影響要因,③エココントロールの従属要因に分類して,サーベイ研究におけるエコ コントロールの測定,影響要因,役割,組織への効果などを総合的に分析する。
4.分析結果
4.1.記述統計の結果
本稿ではエココントロールの研究テーマに,サーベイ研究を用いた16本の文献を分析対象に選定し た。まず,レビュー対象の文献を年度別に分類すると,2019年(4本),2021年(4本),2016年(3
本)に発行された文献が多くなっており,Henri and Journeault(2010)がエココントロールを分析して 以降,サーベイベースの研究が継続的に増えていることが分かる。
次に,サーベイ調査を実施した国別に分類すると,カナダ(5 本),オーストラリア(2 本),アラ ブ首長国連邦(1本),イギリス(1本),インドネシア(1本),タイ(1本),ドイツ(1本),ベトナ ム(1本),ベルギー(1本),パキスタン(1本),その他(4)(1本)になっている。Henri and Journeault
(2010)をはじめ,カナダの製造企業を対象にした研究が最も多いのは,同じ研究グループに所属し ている研究者らが,エココントロールについて多角的に分析したからである。一方で,多様な国でエ ココントロールの活用実態が分析されていることも確認できた。
また,サーベイ調査の対象になった組織をみると,製造企業(8 本),産業全体の企業(6 本),ホ テル(1本),病院(1本)の順に多くなっており,環境管理が非製造業においても重要性が高まって いるため,サーベイ研究では,環境に敏感な製造業だけでなく,ホテルや病院のように非製造業の組 織を対象にした研究も行われている。
エココントロールサーベイ研究では,Simons(1995),Malmi and Brown(2008),Merchant and Van der
Stede(2017)が提示したMCSフレームワークがよく採用されている。そのため,レビュー対象にな
った文献を,採用したMCSフレームワーク別に分類すると,Simons(1995),Malmi and Brown(2008), Merchant and Van der Stede(2017)のMCSフレームワークを採用している文献はそれぞれ4本,3本,
2本になっており,MCSフレームワークを採用しないでエココントロールを測定した文献7本も確認 された。
最後に,分析対象とした文献が発行されたジャーナル別に分類すると,Journal of Accounting &
Organizational Change(2本),Management Accounting Research(2本),The British Accounting Review(2 本),Accounting Forum(1本),Accounting, Organizations and Society(1本),Accounting Perspectives(1 本),Energies(1本),Journal of Environmental Management(1本),Journal of Management Accounting Research(1本),International Journal of Energy Economics and Policy(1本),International Journal of Hospitality Management(1本),International Journal of Productivity and Performance Management(1本), Sustainability Management and Business Strategy in Asia(1本)になっており,多くの文献が会計分野お よび環境管理分野のジャーナルから発行されている。
4.2.研究テーマ別の分析結果
分析対象になった16本の文献を,①エココントロールの構成要素,②エココントロール影響要因,
③エココントロールの従属要因といった3つの研究テーマを基準にしてレビューを行った。以下では,
研究テーマ別の分析結果を述べる。
表1. サーベイ研究におけるエココントロールの測定
研究 分析データ MCSフレームワーク エココントロールの構成要素 尺度
Henri and Journeault (2010) カナダの製造業(303社)
・ 環境パフォーマンス指標の使用(4項目),環境予算(2 項目),環境インセンティブ(3項目)
7段階の
リッカート尺度
Pondeville et al. (2013) ベルギーの製造業(256社)
・ 公式的エココントロール(6項目),非公式的エココン トロール(5項目),環境情報システム(4項目)
5段階の
リッカート尺度 Abdel-Maksoud et al. (2016) アラブ首長国連邦,
ドバイのホテル(150軒) ・ 環境パフォーマンス指標の使用(4項目),環境予算(3 項目),環境インセンティブ(3項目)
5段階の
リッカート尺度
Journeault (2016) カナダの製造業(249社) Malmi and Brown(2008) 環境ミッション(4項目),環境ポリシー(4項目),環
境戦略的計画(4項目),環境予算(2項目),環境イン センティブ(3項目),環境パフォーマンス指標(13項 目)
7段階の
リッカート尺度
Journeault et al. (2016) カナダの製造業(249社) Simons(1995) 信条システム(4項目),境界システム(4項目),診断
型コントロールシステム(11項目),双方向型 コントロールシステム(3項目)
7段階の
リッカート尺度
Henri et al. (2017) カナダの製造業(78社)
・
戦略的計画に環境イシューの統合(4項目),環境パフ ォーマンス指標の使用(4項目),環境パフォーマンス のデザイン(13項目),環境予算(3項目),環境イン センティブ(3項目)
7段階の
リッカート尺度
Henri and Journeault (2018) カナダの製造業(249社) Malmi and Brown(2008) 環境ミッション,環境ポリシー,環境戦略的計画,環
境予算,環境インセンティブ,環境パフォーマンス指 標(測定項目の詳細な記述は行っていない)
7段階の
リッカート尺度
Heggen (2019) オーストラリアの企業(221社) Simons(1995) 信条システム(4項目),境界システム(4項目),内部
の環境的志向(4項目)
7段階の
リッカート尺度
Kokubu et al. (2019) タイの企業(101社) Merchant and Van der Stede(2017) 行動コントロール(5項目),結果コントロール
(4項目),文化コントロール(4項目),人事コントロ ール(3項目)
5段階の
リッカート尺度
Ong et al. (2019) パキスタンの製造業(314社)
・ 公式的エココントロール(8項目),非公式的エココン トロール(8項目)
7段階の
リッカート尺度
Rötzel et al. (2019) ドイツの企業(218社) Malmi and Brown(2008) 計画(2項目),サイバネティクコントロール
(4項目),報酬と給与(2項目),管理的コントロール
(2項目),文化コントロール(3項目)
7段階の
リッカート尺度
Sisdyani et al. (2020) インドネシアの病院(125施設) Simons(1995) 信条システム(4項目),境界システム(4項目),診断
型コントロールシステム(6項目),双方向型 コントロールシステム(5項目)
7段階の
リッカート尺度
Abdel-Maksoud et al. (2021) イギリスの製造業(93社)
・ 環境パフォーマンス指標の使用(4項目),環境予算(3 項目),環境インセンティブ(3項目)
7段階の
リッカート尺度
Heggen and Sridharan (2021) オーストラリアの企業(221社) Simons(1995) 信条システム(4項目),境界システム(4項目),診断
型コントロールシステム(4項目),双方向型 コントロールシステム(6項目)
7段階の
リッカート尺度
Nishitani et al. (2021) ベトナムの企業(153社) Merchant and Van der Stede(2017) 行動コントロール(5項目),結果コントロール
(4項目),文化コントロール(5項目),人事コントロ ール(3項目)
5段階の
リッカート尺度
Petera et al. (2021) チェコ共和国の企業(106社)
スロバキア共和国の企業(49社) ・ 計画とプログラム(7項目),構造とシステム(7項目) 5段階の リッカート尺度
(筆者作成)
4.2.1.エココントロールの構成要素
表1は,16本の文献におけるエココントロールの測定をまとめたものである。特に,エココントロ ールの構成要素はMCSフレームワークに依存することが多いため(5),本稿では,Simons(1995),Malmi and Brown(2008),Merchant and Van der Stede(2017)を採用した研究,MCSフレームワークを採用 していない研究に分けて,サーベイ研究の中でエココントロールをどのように測定しているかを検討
する。
まず,MCS フレームワークを採用しないでエココントロールを測定し分析した研究には,
Abdel-Maksoud et al.(2016; 2021),Henri and Journeault(2010),Henri et al.(2017),Ong et al.(2019), Petera et al.(2021),Pondeville et al.(2013)が挙げられる。既存のMCS研究を環境管理分野へ拡張し て,サーベイ研究で初めてエココントロールを分析したHenri and Journeault(2010)は,Simons(1987;
1990)の MCS定義に基づき,エココントロールを「環境活動の様式を維持または変更するために,
財務情報と環境情報を利用する公式な手続およびシステム」と定義し(p.64),303社のカナダ製造企 業から得られたデータを用いて,管理会計分野でコントロール手段として多く活用されてきた環境パ フォーマンス指標の使用,環境予算,環境インセンティブに構成されるエココントロールを測定した
(6)。Abdel-Maksoud et al.(2016; 2021)も,Henri and Journeault(2010)と同様の測定項目を用いて,環 境パフォーマンス指標の使用,環境予算,環境インセンティブに構成されるエココントロールを測定 した。これに対して,Henri et al.(2017)は,Henri and Journeault(2010)が提示したエココントロー ルに,戦略的計画に環境イシューの統合,環境パフォーマンス指標のデザインといった2つのコント ロール手段を加えて,より広範なエココントロールを測定した(7)。Henri and Journeault(2010)では,
環境予算の測定項目のうち,「材料スクラップまたはリサイクル廃棄物からの収入」という項目は決定 係数(R²)の基準値を満たしていなかったため分析に用いられなかったが,Abdel-Maksoud et al.(2016;
2021),Henri et al.(2017)では全ての測定項目を用いてエココントロールを測定した。
他に,サーベイ調査の対象をチェコ共和国とスロバキア共和国の企業にしたPetera et al.(2021)は,
計画とプログラム,構造とシステムの2つのコントロール手段からなるエココントロールを測定した。
計画とプログラムは,環境目標の策定や実行など,環境目標を達成することを目的に活用するコント ロール手段で,材料の使用,エネルギーの消費,廃棄物,製品の環境負荷評価などの環境活動を,企 業がどの程度計画して実行しているかで測定した。また,構造とシステムは,ISO14001のように公式 化された手段のことで,材料の使用,エネルギーの消費,廃棄物,製品の環境負荷評価などの環境活 動を計画して実行することが,企業内でどの程度公式化されているかで測定した。それで,構成概念 の信頼度および妥当性を満たした14の全ての測定項目でエココントロールが測定された。
公式的エココントロールに加えて,非公式的エココントロールも測定した研究もみられる。
Pondeville et al.(2013)は,エココントロールを「マネジャーが組織パフォーマンスの環境的側面を考
慮して,組織活動の様式を維持または変更するために使用する公式かつ非公式な情報ベースのルーチ ンおよび手順のパッケージ」と定義し(p.318),環境情報システム,公式的エココントロール,非公 式的エココントロールの3つのコントロール手段に構成されるエココントロールを測定した。結果コ ントロールと情報ベースの公式的エココントロールに加えて,環境問題を解決するための従業員の参 加,マネジャーの関与,チームワークに関連すする非公式的エココントロールを同時に測定し,さら に,公式的コントロールと非公式的コントロールのより効率的な活用を可能とする環境情報システム を,エココントロールの1つの構成要素として測定したのが特徴的である。分析には,公式的エココ
ントロールの測定項目のうち,「報酬システムにおける環境パフォーマンス指標の統合」,「環境機能の 詳細な説明」の2項目と,非公式的エココントロールの測定項目のうち,「経営者は環境管理プロセス に実際に関与している」,「環境問題は公式・非公式の定期的な会議で議論される」,「マネジャーは環 境問題を管理するために十分な自由を持っている」の3項目は,構成概念の信頼度と妥当性の基準値 を満たしていなかったため分析に用いられなかった。Ong et al.(2019)は,Pondeville et al.(2013)が 提示した3つの構成要素のうち,公式的エココントロールと非公式的エココントロールの全ての測定 項目を用いて,エココントロールを測定し,組織文化,エココントロール,環境パフォーマンスの関 係を分析した。
これらの研究では,MCS分析フレームワークを採用していないが,管理会計分野やMCS分野の研 究を参考にし,独自の測定項目を開発して,環境パフォーマンス指標,環境予算,環境インセンティ ブなどのような公式的エココントロールに加えて,環境イシューに関する上司部下間のコミュニケー ションやチームワークなどのような非公式コントロールも同時に測定していることが確認できた。
次に,エココントロールのサーベイ研究のうち,Heggen(2019)(8),Heggen and Sridharan(2021), Journeault et al.(2016),Sisdyani et al.(2020)は,Simons(1995)のLOCフレームワーク(9)に基づき,
信条システム,境界システム,診断型コントロールシステム,双方向型コントロールシステムに構成 されるエココントロールを測定した。
Journeault et al.(2016)は,Widener(2007)のMCS測定項目を参考にして,エココントロールを測
定した。信条システムについては,環境に関する価値観が企業理念やビジョンなどにどの程度反映さ れているか,それが従業員にどの程度伝達され,従業員がそれを理解しているかなどの項目を用いて,
境界システムについては,組織が行動規範や回避すべき環境行動を伝達するメカニズムをどの程度活 用しているかなどの項目をそれぞれ用いて測定した。また,診断型コントロールシステムについては,
マネジャーが環境目標の達成の進捗状況を確認しているか、環境目標と環境パフォーマンスを比較し ているか、主要な環境対策をレビューするために、環境パフォーマンス指標にどの程度依存している かなどの項目を用いて,双方向型コントロールシステムについては、マネジャーが環境パフォーマン ス指標に使用にどの程度関与しているか,それにどの程度注意を払っているかなどの項目を用いてそ れぞれ測定した。
一方で,サーベイ調査の対象を 125 施設のインドネシアの病院にした Sisdyani et al.(2020)は,
Journeault et al.(2016)と同様の測定項目を用いて信条システムと境界システムを測定したが,診断的
コントロールシステムの測定項目を減らしたり,双方向型コントロールシステムの測定項目を増やし たりなど,測定項目を操作してエココントロールを測定した。Heggen and Sridharan(2021)も,Journeault
et al.(2016)と同様に,Widener(2007)を参考にして信条システムと境界システムを測定しているが,
診断型コントロールシステムと双方向型コントロールシステムについては,測定範囲がJourneault et al.
(2016)とは異なっている。
Simons(1995)のLOCフレームワークを採用しているエココントロールのサーベイ研究では,Simons
(1995)が提示して4つのコントロール手段を測定しているが,診断的コントロールシステムと双方 向型コントロールシステムの測定についいては,測定項目を操作したため,測定範囲はそれぞれ異な っているが,理論的根拠に基づいて測定項目の操作を行っているため,測定概念は変わっていない。
しかし,Journeault et al.(2016),Sisdyani et al.(2020)は,事業戦略の遂行手段であるMCSへ環境イ シューの統合程度でエココントロールを測定しているが,Heggen and Sridharan(2000)は,MCSへの 統合程度ではなく,MCSと別に独立した形態のエココントロールを測定していることが異なっている。
他に,エココントロールのサーベイ研究のうち,Henri and Journeault(2018),Journeault(2016),
Rötzel et al.(2019)は,文化コントロール,計画,サイバネティックコントロール,報酬・給与,管
理的コントロールの5つのコントロール手段に構成されるMCSフレームワークを提示したMalmi and
Brown(2008)(10)を採用して,エココントロールを測定した。
Journeault(2016),Henri and Journeault(2018)(11)は,Malmi and Brownに基づき,環境ミッション
(文化コントロール),環境戦略的計画(計画),環境予算(サイバネティクコントロール),環境パフ ォーマンス指標(サイバネティクコントロール),環境インセンティブ(報酬・給与),環境ポリシー
(管理的コントロール)のように,6 つのコントロール手段で構成されるエココントロールを測定し た。Journeault(2016)では,環境ミッションと環境ポリシーについて,Heggen and Sridharan(2021), Journeault et al.(2016),Sisdyani et al.(2020)で測定された信条システムと境界システムと同様の測定 項目を用いて測定し,環境戦略的計画,環境パフォーマンス指標(デザイン),環境予算,環境インセ ンティブについては,Henri and Journeault(2010),Henri et al.(2017)と同様の測定項目を用いて測定 した。そのため,Journeault(2016)はHenri and Journeault(2010)と同様に,環境予算の測定におい て,決定係数の基準値を満たしていない「材料スクラップまたはリサイクル廃棄物からの収入」の項 目は分析に用いられていない。しかし,Journeault(2016)は,MCS フレームワークを採用していな いHenri and Journeault(2010)と,Simons(1995)のLOCフレームワークを採用したJourneault et al.
(2016)を統合した形態で,最も広範なエココントロールを測定している。
218社のドイツ企業をサーベイ調査の対象にしたRötzel et al.(2019)も,Henri and Journeault(2010) の測定項目を参考にして,Malmi and Brown(2008)が提示した計画,サイバネティクコントロール,
報酬・給与,管理的コントロール,文化コントロールの側面から,広範なエココントロールを測定し た。これに加えて,Rötzel et al.(2019)は,エココントロールの測定とは別に,サーベイ研究ではあ まり分析されていなかった MCSとエココントロールの統合程度も測定して,それがエココントロー ルと環境パフォーマンスの関係に与える調整効果(moderation effect)を分析した。Malmi and Brown
(2008)は,公式的コントロールに加えて,文化コントロールのような非公式的コントロールまで含 む,MCSフレームワークの中でも最も広範なフレームワークを提示したため,これを採用してエココ ントロール測定した場合,他研究に比べて広い概念のエココントロールが測定されている。
最後に Kokubu et al.(2019)とNishitani et al.(2021)は,結果コントロール,行動コントロール,
人事コントロール,文化コントロールに構成されるMCSを提示したMerchant and Van der Stede(2017)
(12)に基づいてエココントロールを測定した。Kokubu et al.(2019)とNishitani et al.(2021)は,環境パ フォーマンスの目標を設定し,それと実績を比較して評価しているかなどの項目で結果コントロール を,環境活動に従業員の行動をどの程度参加させているのかなどの項目で行動コントロールを測定し た。また,環境に関する価値観をどの程度伝達しているかなどの項目で文化コントロールを,環境パ フォーマンスの達成に従業員のモチベーションをどの程度向上させるか,能力を身に付けさせるかな どの項目で人事コントロールをそれぞれ測定した。しかし,Nishitani et al.(2021)では,人事コント ロールの測定項目のうち,「環境問題に対して従業員の訓練と能力開発は非常に重要である」という項 目は,構成概念の信頼度および妥当性の基準値を満たしていないため,分析に用いられていない。こ れらの研究は,Merchant and Van der Stede(2017)を採用してエココントロールを測定したが,結果コ ントロール,行動コントロール,文化コントロールは,他研究で測定されている信条システム,診断 型コントロールシステム,サイバネティクコントロールなどと類似な概念となっている。
以上により,エココントロールの測定には,多様なMCSフレームワークが用いられ,MCSフレー ムワークが用いられていない場合でも,様々な測定方法があることが確認できた。Henri and Journeault
(2010),Pondeville et al.(2013)など,初期のエココントロールサーベイ研究においては,独自で開
発した測定項目を用いてエココントロールを測定しているため,構成概念の信頼度および妥当性の基 準値を満たしていない一部の測定項目が分析に除外されているが,MCS分析フレームワークを採用し てエココントロールを測定した多くの研究では,全ての測定項目が構成概念の信頼度および妥当性の 基準値を満たしていることが確認された。多くの企業が環境マネジメントを既存の管理システムに統 合しようとしているため,MCSの分析フレームワークを用いてサーベイすることの妥当性が高まって いると考えることができる。
また,多様な測定項目でエココントロールを測定しているが,環境に関する価値観の共有,環境パ フォーマンス指標の使用,環境パフォーマンスの測定などは,多くのサーベイ研究で共通に測定され ている。エココントロールは,環境戦略の遂行に従業員の参加を促進し,環境パフォーマンスを向上 させるために活用されるものなので,多くの研究で共通して測定されているコントロール手段は,エ ココントロールの測定において欠かせない重要な要素として考えられる。
一方で,各サーベイ研究によって,異なる要素も存在する。例えば,Simons(1995)はコントロー ル手段間の関係性を,Merchant and Van der Stede(2017)によるコントロールの目的を基準にしてコン トロール手段を4つに分類しており,Malmi and Brown(2008)は広範なコントロール手段を体系的に 分類しているように,エココントロールの測定は基本的に採用する MCSフレームワークに依存する からである。MCSフレームワークを採用しない場合でも,独自で開発した測定項目を用いてエココン トロールを測定しているため,エココントロールの測定範囲や測定する構成要素がそれぞれ異なって いる。また,エココントロールの構成要素の測定には,事業戦略の遂行手段である MCSを基準に,
MCS の中に環境に関する価値観や環境パフォーマンス指標などの環境的側面がどの程度統合されて いるのかを確認してエココントロールを測定したり(Journeault et al., 2016; Sisdyani et al., 2020),MCS
への統合程度ではなく,独立した形態のエココントロールを測定している(Heggen, 2019; Heggen and
Sridharan, 2000)。しかし,測定したエココントロールは測定概念の信頼度や妥当性などを検証した上
で,影響要因や従属要因との因果関係が分析されるので,構成要素が異なっても,研究目的や理論に 基づく変数間のロジックが説明できるエココントロールの測定がより重要となる。測定されたエココ ントロールがサーベイ研究でどのように分析されているかについて,次節でエココントロールの影響 要因と従属要因についてレビューを行う。
4.2.2.エココントロールの影響要因
分析対象になった16本の文献においては,理論を明確に提示した上で,仮説を構築した研究は少な いが(13),多くの研究でエココントロールの影響要因として,ステイクホルダーの圧力と複数のコンテ ィンジェンシー要因が分析されている。そのため,以下では,エココントロールの影響要因を,ステ イクホルダーの圧力とコンティンジェンシー要因といった2つの側面からレビューしていく。
まず,ステイクホルダーの圧力をエココントロールの影響要因として分析した研究は,ステイクホ ルダーの圧力を 1 つの因子で測定した研究と,複数の因子で測定した研究で分類できる。例えば,
Abdel-Maksoud et al.(2016)は,ホテル・観光分野の先行研究から選定した12項目のステイクホルダ
ーから,構成概念の信頼度を満たしていない従業員,株主,地域の公的機関を除外して,ステイクホ ルダーの圧力を1つの変数に集約し,それがエココントロールの活用に正の影響を与えることを示し た。また,Journeault et al.(2016)はステイクホルダーの圧力がパッケージとしてのエココントロール に正の影響を与えるだけでなく,エココントロールを構成する個々のコントロール手段,すなわち,
信条システム,境界システム,診断型コントロールシステム,双方向型コントロールシステムにも正 の影響を与えることを検証した。Henri and Journeault(2018)は,ステイクホルダーの圧力がエココン トロールに与える影響を分析していないが,分析企業をステイクホルダーの圧力を強く受けている企 業群と,そうではない企業群に分けて,ステイクホルダーの圧力を強く受けている企業群で,環境ミ ッション,環境ポリシー,環境戦略的計画,環境予算,環境インセンティブ,環境パフォーマンス指 標などのコントロール手段がより活用されていることを示した。
これに対して,Kokubu et al.(2019)は,6つの測定項目で多様なステイクホルダーの圧力を測定し,
そのうち,投資家・株主,タイ政府がエココントロールの活用に負の影響を与えることを分析した。
投資家・株主は短期的な利益を求めており,タイ政府もエココントロール活用を求めていないため,
これらのステイクホルダーの圧力はエココントロールに負の影響を与えると指摘した。Nishitani et al.
(2021)も6つの測定項目でステイクホルダーの圧力を測定したが,そのうち,消費者とベトナム政 府からの圧力は企業のエココントロールの活用に正の影響を与えることを示した。
さらに,Abdel-Maksoud et al.(2021)とPondeville et al.(2013)は,ステイクホルダーの圧力を複数 の因子に分類し,それぞれがパッケージとしてのエココントロールではなくエココントロールの構成 要素に与える影響を分析した。まず,Pondeville et al.(2013)は,ステイクホルダーの圧力を4つの因
子に分類し,バイヤー企業や同業他社などのマーケットステイクホルダーは公式的エココントロール に,マネジャーや従業員などの組織ステイクホルダーは公式的,非公式的エココントロールの両方に,
国内立法機関や国際立法機関などの規制ステイクホルダーは環境情報システムに正の影響を与えるこ とを検証した。しかし,地域コミュニティーやメディアなどのコミュニティーステイクホルダーは,
どのコントロール手段にも影響を与えないことが示された。Abdel-Maksoud et al.(2021)は,ステイ クホルダーの圧力をPondeville et al.(2013)とは異なる4つの因子に分類し,そのうち,顧客やサプ ライヤーなどの一次(primary)ステイクホルダーは環境パフォーマンス指標の使用と環境インセンテ ィブに,株主や金融機関などの組織ステイクホルダーは,環境パフォーマンス指標の使用,環境予算,
環境インセンティブなど全てのコントロール手段に,政府や地方公共団体などの規制ステイクホルダ ーは環境インセンティブに正の影響を与えることを検証したが,同業他社やメディアなどの二次
(secondary)ステイクホルダーは,どのコントロール手段にも影響を与えないことが示された。
次に,エココントロールの影響要因として,環境戦略,組織規模のようなコンティンジェンシー要 因が多くの研究で分析されている。環境戦略をエココントロールの影響要因として分析研究は,環境 戦略がパッケージのエココントロールに与える影響を分析した研究と,エココントロールを構成する 個々のコントロール手段に与える影響を分析した研究に分類できる。Petera et al.(2021),Rötzel et al.
(2019)は,企業戦略への環境イシューの統合,製品・プロセスにおける環境イシューの配慮などの 側面から測定した環境戦略が,エココントロールの活用に正の影響を与えることを検証した。これに
対して,Pondeville et al.(2013)は,15項目のプロアクティブ環境活動を用いて企業の環境戦略を測
定し,プロアクティブ環境戦略が,エココントロールの構成要素である環境情報システム,公式的・
非公式的エココントロールに正の影響を与えることと,エココントロールが環境情報システムを媒介 にして公式的エココントロールと非公式的エココントロール両方に間接的に影響を与えることを示し た。また,Journeault et al.(2016)は,環境戦略的志向を,エコ効率性の志向とエコブランディングの 志向に分類し,エコ効率性の志向を重視する企業がエコブランディングの志向を重視する企業よりも,
信条システム,診断型コントロールシステム,双方向型コントロールシステムの活用に正の影響を与 えることと,また4つのコントロール手段に構成されるパッケージとしてのエココントロールにも正 の影響を与えることを示した。
測定に用いられるデータはそれぞれ異なるが,サーベイ研究では組織規模もエココントロールの重 要な影響要因として分析されている。Abdel-Maksoud et al.(2016)は,従業員数(対数)を用いてホ テル規模を測定し,ホテルの規模が大きいほどエココントロールをより活用していることを検証した。
組織規模とエココントロール間の因果関係ではないが,同様にHenri and Journeault(2018)も従業員 数(対数)を用いて組織規模を測定して,規模が大きい企業はそうではない企業に比べて,6 つのコ ントロール手段全てをより活用していることを示した。Kokubu et al.(2019)は,ROAと純資産を用 いてエココントロールへの影響を分析したが,総資産のみがエココントロールの活用に正の影響を与 えることが示された。Petera et al.(2021)は,資産と売上高(turnover)を用いて組織規模を測定した
が,エココントロールに与える影響については有意な結果が示されていない。
これらに加えて,組織文化(Ong et al., 2019),環境不確実性(Pondeville et al., 2013),環境行動の志 向(Sisdyani et al., 2020),競争的・倫理的モチベーション(Henri and Journeault, 2018),環境への露出 程度(Henri and Journeault, 2018),環境情報の報告(Petera et al., 2021)なども,エココントロールの影 響要因として分析され,これらもエココントロールやエココントロールを構成する個々のコントロー ル手段に影響を与えることが示されている。他に,Kokubu et al.(2019),Nishitani et al.(2021)は,
産業を製造業と非製造業に分類して,エココントロールに与える影響を分析したが,有意な結果は示 されていない。
以上により,多くのサーベイ研究においては,測定項目,用いられるデータはそれぞれ異なるが,
ステイクホルダーの圧力,環境戦略,組織規模が,エココントロールの主要影響要因として分析され ていることが確認できた。その中で,特にステイクホルダーの圧力はパッケージとしてのエココント ロールに影響を与えていることが多く示されているが,一方で,個々のコントロール手段への影響を 分析した場合,これらの影響要因は一部のコントロール手段にしか影響を与えていないことが同時に 示されている。これは,エココントロールの中には,ステイクホルダーや環境戦略などに影響を受け やすいコントロール手段があり,影響を受ける程度もそれぞれ異なることを示唆するのである。また,
ステイクホルダーの分類や各ステイクホルダーの構成は研究によって異なるが,多くの研究で政府や 地域公共団体などの規制ステイクホルダーがエココントロールの活用に影響を与えることが共通的に 検証されている。本稿の分析結果により,企業は政府の環境政策や環境法規などに適切に対応して,
エココントロールを設計し活用していると考えられる。
4.2.3.エココントロールの従属要因
エココントロールのサーベイ研究では,従属変数として環境パフォーマンス,財務パフォーマンス が主に分析されている。エココントロールの従属要因については,組織パフォーマンス(環境・財務)
を従属要因にした研究と,他の要因を従属要因にした研究に分類して検討する。
まず,多くのサーベイ研究で,エココントロールが環境パフォーマンスを向上させることが示され た。最初にエココントロールの概念をサーベイ研究で測定したHenri and Journeault(2010)は,エコ コントロールが財務パフォーマンスに直接に影響を与えないが,環境パフォーマンスに正の影響を与 えることを示した。また,エココントロールは環境パフォーマンスの向上を通じて,間接的に財務パ フォーマンスに影響を与えるという仮説は支持されなかったが,将来に多くの環境コストが発生しう る企業,規制機関に多く監視される企業,組織内に環境イシューが統合されている企業,組織規模が 大きい企業のように,一部のコンテクストでは,財務パフォーマンスに対するエココントロールの間 接的効果が示された。同様に,Petera et al.(2021)は,パッケージとしてエココントロールを測定し て,エココントロールが環境パフォーマンスに正の影響を与えることと,環境パフォーマンスの向上 を通じて間接的に財務パフォーマンスにも正の影響を与えることを示した。Rötzel et al.(2019)は,
エココントロールの活用が環境パフォーマンスに正の影響を与える結果とともに,環境戦略の遂行が エココントロールの活用を通じて環境パフォーマンスを向上させるエココントロールの媒介効果を検 証した。特に,Rötzel et al.(2019)はエココントロールに加えて,既存のMCSとエココントロールの 統合程度が強いほど,環境パフォーマンスをより向上させるという新しい結果を示した。
他に,Kokubu et al.(2019)は,環境パフォーマンスを資源効率性と汚染の軽減といった側面に分類
して,エココントロールの活用が資源効率性の向上と汚染の軽減につながるとの結果を示した。
Nishitani et al.(2021)は,Kokubu et al.(2019)が提示した2つの側面に,CO₂エミッション,エネル ギー消費,廃棄物,有害廃棄物,水の使用量の5つの側面を加えて,エココントロールの活用が7つ の環境パフォーマンスに正の影響を与えることを示した。また,Henri et al.(2017)は単年度のエココ ントロールの活用ではなく,エココントロールの変化に焦点を当てて,それが環境パフォーマンスに 与える影響を分析し,エココントロールの変化の方向としては「前向きの変化」が,変化の範囲とし ては「全体的な変化」が,環境パフォーマンスの変化に正の影響を与えるが,変化の規模は環境パフ ォーマンスの変化に影響を与えないことが示された。
一方で,先行研究では,エココントロールが環境パフォーマンスに直接に影響を与えない結果もみ られる。Journeault(2016)は,エココントロールが環境パフォーマンスと財務パフォーマンスには直 接に影響を与えないが,エコラーニング,環境イノベーション,ステイクホルダーの統合,共有され た環境ビションなどの組織ケイパビリティの向上を通じて,間接的に環境パフォーマンスと財務パフ ォーマンスに正の影響を与えることを示した。また,Heggen(2019)も,エココントロールが環境パ フォーマンスに影響を与えないが,環境パフォーマンスの財務パフォーマンスへの正の影響は,エコ コントロールを強調する企業ほど強いことを検証した。これらの研究から分かるように,エココント ロールが環境パフォーマンスに影響を与えない場合でも,間接的に環境・財務パフォーマンスに影響 を与えている。
これらに対して,エココントロールを構成する個々のコントロール手段が組織パフォーマンスに与 える影響を分析した研究もみられる。まず,Ong et al.(2019)は,エココントロールを公式的エココ ントロールと非公式的エココントロールに分類し,組織文化が両方に影響を与え,間接的に環境パフ ォーマンスに正の影響を与えるエココントロールの媒介効果を検証した。次に,Abdel-Maksoud et al.
(2021)は,エココントロールを構成する個々のコントロール手段に焦点を当て,環境パフォーマン スと財務パフォーマンスへの影響を分析した。その結果,個々のコントロール手段は財務パフォーマ ンスに直接に影響を与えないことと,環境インセンティブのみが環境パフォーマンスに正の影響を与 えることを示した。Heggen and Sridharan(2021)は,エココントロールを構成する個々のコントロー ル手段のうち,双方向型コントロールシステムは環境パフォーマンスに正の影響を与えるが,境界シ ステムは環境パフォーマンスに負の影響を与える結果を示した。また,診断型コントロールシステム とイネイブリングアプローチの相互関係(交差項)も環境パフォーマンスに正の影響を与えることを 示した。
最後に,サーベイ研究では,環境パフォーマンス以外の要因も従属要因として分析されている。Henri
and Journeault(2018)は,変数間の因果関係を分析していないが,業務活動に関わる環境行動,管理
活動に関わる環境行動をエココントロールの従属要因とし,エココントロールを積極的に活用してい る企業は,そうではない企業と比較して,業務活動に関わる環境行動,管理活動に関わる環境行動が より強く,環境パフォーマンスと財務パフォーマンスも高いという特徴を明らかにした。Sisadyani et al.
(2020)は,環境行動をエココントロールの従属要因とし,エココントロールを構成する個々のコン トロール手段が環境行動に与える影響を分析した。その結果,境界システムと双方向型コントロール システムが,環境行動に正の影響を与えることと,境界システムのみが環境行動の志向と環境行動間 の関係を媒介することを示した。Journeault et al.(2016)は,エコプロダクションとエコマーケティン グといった環境実務をエココントロールの従属要因とし,エコ効率性の志向が強い企業はエコブラン ディングの志向が強い企業よりも,信条システム,診断型コントロールシステム,双方向型コントロ ールシステム,パッケージとしてのエココントロールを積極的に活用して,エコ効率性の志向が強い 企業のほどエコプロダクションの実務を重視し,エコブランディングの志向が強い企業のほどエコマ ーケティングの実務を重視する結果を示した。
多くの研究では,エココントロールの従属要因として,組織ケイパビリティ,環境パフォーマンス,
財務パフォーマンスを挙げ,エココントロールが環境パフォーマンスに正の影響を与えることと,財 務パフォーマンスには直接に正の影響を与えないが,組織ケイパビリティの強化や,環境パフォーマ ンスの向上を媒介して,間接的に財務パフォーマンスに正の影響を与えることを示している。また,
パッケージのエココントロールに加えて,エココントロールを構成する個々のコントロール手段と従 属要因の因果関係を分析して,組織ケイパビリティ,環境パフォーマンスなどに部分的に正の影響を 与えることも示している。
しかし,エココントロールのサーベイ研究では,環境パフォーマンスと財務パフォーマンスを回答 者の主観的な判断で測定していることが指摘できる。例えば,自社の各環境パフォーマンス指標(測 定項目)がどの程度で評価できるか(Heggen, 2019; Heggen and Sridharan, 2021; Rötzel et al., 2019),あ るいは同業他社(業界平均値)と比較してどの程度で評価するか(Journeault, 2016; Nishitani et al., 2021; Ong et al., 2019; Kokubu et al., 2019)のように,環境パフォーマンスの測定に対する質 問形式が異なっている。また,多くのサーベイ研究では主に環境負荷物質量の減少について複 数の測定項目を評価して環境パフォーマンスを測定しているが,ステイクホルダーとの関係改善 や従業員モラールの向上など,環境負荷物質以外の測定項目を設けて環境パフォーマンスを測定する 研究もある(Abdel-Maksoud et al., 2021; Henri and Journeault, 2010)。組織パフォーマンスの測定も分析 結果に影響を与える可能性があるため,質問票調査ではなく,企業や研究機関などで提供している客 観的なデータを用いた組織パフォーマンスの測定も考えられる。
5.将来の研究課題
最後に,本稿の分析結果に基づき,将来の研究課題を提示する。第1に,エココントロールの構成 要素については,エココントロールを構成するコントロール手段間の関係を検証することである。サ ーベイ研究では,MCSのフレームワークを採用するか,先行研究の測定項目を参考に新しい測定項目 を作成して,エココントロールを測定し,影響要因とエココントロールの関係,エココントロールと 従属要因の関係が分析されている。これらの因果関係はパッケージのエココントロールだけでなく,
個々のコントロール手段との関係も分析されている(Henri, 2006; Widener, 2007)。しかし,個々のコ ントロール手段は,環境予算,環境パフォーマンスの測定,環境インセンティブなどのように,相互 に関係性が強く,シナジー効果を生む場合が多いため,効果的にエココントロールを活用するために は,コントロール手段間の関係を考慮した上で,エココントロールを設計する必要がある。
Simons(1995)は,4 つのコントロール手段は,相互に影響し合いながら作用するため,それぞれ
のコントロール手段を上手く利用することで事業戦略が達成できると主張した。MCS研究においても,
個々のコントロール手段の組み合わせや相互関係が,組織ケイパビリティ,財務パフォーマンスに正 の影響を与えることが示されている(Bedford, 2015; Bedford and Malmi, 2015; Kruis et al., 2016)。これら の先行研究を参考にして,エココントロールのサーベイ研究においても,コントロール手段間の相互 関係が,ケイパビリティやパフォーマンスなど,組織に与える影響を分析することが可能である。
第2に,エココントロールの影響要因については,先行研究で議論されてきた要因以外の影響要因 を,理論に基づいて仮説を設定し検証することである。本稿では,エココントロールのサーベイ研究 を分析対象にして,16本の文献のレビューを行った。そのうち,4本の文献で理論に基づいて仮説が 設定されており,影響要因とエココントロールの分析においては3本の文献のみが理論を提示してい る。そこでは,ステイクホルダーの圧力や環境戦略,組織規模,組織文化,環境不確実性など,主に ステイクホルダー理論とコンティンジェンシー理論で議論されている要因が,パッケージとしてのエ ココントロールまたは個々のコントロール手段に影響を与えることが示されている。
しかし,事業戦略を遂行するために,企業は企業理念および企業文化などの内部要因だけでなく,
同時に法律,規制,規範,文化などの様々な企業外部の制度的環境も考慮しているため,制度的要因 は,企業の戦略策定および戦略実行のプロセスにも影響を与える(Oliver, 1991)。本稿では,政府や地 域公共団体などの規制ステイクホルダーがエココントロールに影響を与えることが分析されたが,政 府や地域公共団体は制度的要因の一部にしか過ぎないため,エココントロールの影響要因として,法 律,規制,法規,文化などを含むより広範な制度的要因が考えられる。また,Lisi(2015)が示した ように,環境問題への経営者やマネジャーのコミットメントなど,組織内のステイクホルダーも環境 戦略を遂行するために不可欠な環境パフォーマンス指標の使用に影響を与える。エココントロールを 設計し活用するのは経営者やマネジャーであり,また,エココントロールを設計する際には,環境規 制や法律などの制度的要因に対応することも必要である。そのため,制度論およびコンティンジェン シー理論で主に主に議論されている制度的要因,経営者やマネジャーのコミットメントなども,エコ