Feature Transfer and Feature Learning in
Universal Grammar : A Comparative Study of the Syntactic Mechanism for Second Language
Acquisition
著者 石野 尚
URL http://hdl.handle.net/10236/10043
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氏 名
学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員 (主査)
(副査)
石 野 尚
Feature Transfer and Feature Learning in Universal Grammar:
A Comparative Study of the Syntactic Mechanism for Second Language Acquisition
博 士(言語学)
甲文第126号(文部科学省への報告番号甲第422号) 学位規則第4条第1項該当
2012年3月16日
楠 本 紀代美 山 本 圭 子
上 紀 子
(龍谷大学特任教授)教 授 教 授
論 文 内 容 の 要 旨
石野尚氏の学位申請論文は、生成文法に基づく第二言語研究の枠組みにおいて、第二言語習得の学習途 上に現れる言語能力の経験的データによる実証、および、第二言語習得の統語的メカニズムの理論の解明 を目的としている。本論の中核をなす提案は、素性転移/素性学習(Feature Transfer/Feature Learning;
FTFL)仮説である。ミニマリスト統語論の枠組みでは、統語操作の対象となるのは、各語彙そのものでは なく当該語彙に内包される形式素性であると規定しているが、本仮説はこれに基づき、言語の習得とは対象 言語の語彙そのものの習得ではなく、語彙内の形式素性の指定の学習によってとらえられるべきであると主 張する。その帰結として、第二言語習得過程においては、母語の素性指定の選択的転移と習得対象語彙の選 択的移入とが有標性条件に従って生じることで、習得過程の言語知識における語彙の素性構成が合成的に形 成されることが導かれる。
本論では、具体的な言語現象として、himself や「自分」などの再帰代名詞の解釈可能性と多重指定部構 文と呼ばれる「彼が妹が美しい」のような構文の文法性の習得を取り扱っている。前者については日本語・
英語・中国語・ドイツ語学習者を対象に、後者については日本語・英語学習者を対象に第二言語習得の広範 な調査実験を行い、本論の主張が正しく実証されることを示している。本論の理論的優位性は、経験的観察 を過不足なく説明することを可能にする必要十分な理論的説明をもたらすことのみならず、その正則性が言 語間に共通する普遍的な言語習得理論として見做せることにある。
より具体的には各章で以下のことが示される。第一章では、本論文が基とするミニマリスト統語論におけ る素性の考え方、および第二言語習得の先行研究とその問題点が示される。第二章では、FTFL 仮説の具体 的なメカニズムが提案される。まず、素性指定に関しては、不完全指定、完全指定、部分指定の三種類があ り、不完全指定のみが有標性を持っていることが示される。次に言語習得過程には母語の素性指定がそのま ま転移する段階と対象言語の素性指定が習得される段階があるが、後者の段階に容易に移行するかどうかは 各素性の有標性に依存することが論じられる。第三章から第五章までは、FTFL 仮説の経験的整合性を再帰 代名詞の習得に関する実験データから証明している。また第六章から第八章までは同様のことを多重指定部 構文について行っている。最後に第九章では、再帰代名詞と多重指定部の有無が相関すると考えられる再帰 代名詞の分裂束縛解釈の習得実験を通じて、FTFL 仮説の優位性を証明している。
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論 文 審 査 結 果 の 要 旨
石野尚氏の学位申請論文は、日本語・英語・中国語・ドイツ語の再帰代名詞と日本語・英語の多重指定部 構文の第二言語学習者による習得過程の文法を、ミニマリスト統語論に基づく素性転移/素性学習(FTFL)
仮説を立てることにより、理論的に解明するものである。
本論文の学問領域は、「第二言語習得」であるが、そのアプローチの仕方が従来の研究とは異なっている。
これまでの言語習得研究は、母語であれ第二言語であれ、その習得過程に現れる対象言語の母語の文法とは 異なる文法(端的に言えば誤用)のあり方を、言語習得実験を通じて観察し、帰納的に習得過程の文法を導 き出すという方法が中心であった。この傾向は、第二言語習得にも普遍文法が関わっており、習得過程の文 法のあり方も普遍文法によって規定されるという考え方が広く支持されるようになってからもあまり変って いない。それに対し、本論文では、普遍文法理論は人間の生得的特性を反映しており、その原則は全ての人 間言語に観察される筈であり、習得過程の(誤用を含む)言語も例外ではないとの考えに基づき、第二言語 学習者の母語の言語と対象言語の文法との差異から、習得過程の言語のあり方を演繹的に導きだす方法を とっている。
このことは単に方法論の違いにとどまらず、人間言語のあり方を予測する上で大きな違いをもたらす結果 となる。具体的には、従来の再帰代名詞の習得研究では、第二言語学習者の母語や対象言語の組み合わせに より様々な相違が生まれるため、その相違幅を包括的統一的に理論化することは困難であった。しかし本論 文では、素性指定の分類とその有標性により可能な習得パターンが分類され、母語や対象言語の語彙の個別 の相違に影響されることはないと予測する。この予測は、日本語・英語・中国語・ドイツ語といった言語の 多様な習得過程を実験調査することによって得られた膨大なデータによって証明されている。
本論文の優れた点は多岐にわたり、上で述べたように第二言語習得研究に新しい方法論を取り入れその優 位性を証明したことに加え、従来の主なる習得理論であるパラメータ再調整仮説や語彙転移仮説よりも経験 的事例の理論的説明として優れている FTFL 仮説を提唱したこと、またその過程で多くの言語習得実験を 行い新たな実験データを提示したこと、そして最後に習得過程の文法を調査することにより、近年の統語理 論で提唱されてきた素性を基にした文法理論の正しさにさらなる証拠を与えたことも挙げられる。また、石 野氏の取り上げた言語現象は、再帰代名詞の解釈と多重指定部構文の二点であるが、本論の帰結として得ら れた知見は、個別の言語現象の解明にとどまらず、人間言語のあり方、普遍文法の考え方に多大な影響を与 えるものだと言える。
以上のように、本論文は第二言語習得という枠組みを超えて言語理論に寄与するものであると言えるが、
問題点や課題も残されていることは否めない。まず日本語・英語・中国語・ドイツ語の四言語を取り上げて いるが、全ての組み合わせで調査実験が行われているわけではなく、理論の予測が証明されていないものも ある。これは例えば日本国内のドイツ語母語話者の中国語学習者の数を考えれば致し方ないこととも言える が、本論文が普遍文法を軸にしていることを考えると、今後より多くの母語および対象言語で被験者を集め ることが必要になるであろう。理論的には、本論文で取り上げた二つの言語現象以外に FTFL 仮説がどの ように応用されうるのかという議論が不足していると思われる。特に FTFL 仮説の優位性を唱えるにあたっ て、従来の言語習得理論で扱われてきた他の現象についての言及が必要であろう。しかし、博士論文で取り 上げることの出来る言語や言語現象には限りのあることは自明であり、これらが本論文の学位申請論文とし ての意義を減じるものでは決してない。
本論の審査員三名は、論文の審査ならびに2012年1月24日に実施した口頭試問の結果から、石野尚氏が本 論文によって博士(言語学)の学位を受けるに値すると判断し、ここに報告する。