中空糸型正浸透膜モジュールにおける 内部流れと浸透性能に関する研究
2017 年 7 月
長崎大学大学院工学研究科
寺嶋 真伍
目次
第1章 序論 1
第2章 浸透膜モジュールの性能評価理論 5
2.1 浸透流量の計算 2.2 塩分漏洩量の計算 2.3 濃度分極理論
2.4 淡水の消失に関する理論
第3章 正浸透試験装置 11
3.1 中空糸膜
3.2 中空糸型膜モジュール 3.3 実験装置の構成と計測器
第4章 中空糸膜モジュール内の流動シミュレーション 16 4.1 数値シミュレーションの概要
4.2 基礎方程式
4.3 ANSYSの設定
4.3.1 Geometryに関する設定
4.3.2 Meshに関する設定
4.3.3 Set-upにおける境界条件の設定
4.3.4 Set-upにおける計算条件の設定
4.3.5 Sub-domainに関する設定
4.3.6 界面長さスケールに関する設定
4.4 数値シミュレーションの評価方法
第5章 中空糸エレメントにおける抵抗特性 28 5.1 半径方向の抵抗特性
5.1.1 小型中空糸集束帯
5.1.2 基礎実験装置の構成と計測器 5.1.3 実験条件と実験内容
5.1.3.1 中空糸の膜面積密度を設定 5.1.3.2 流量と圧力の設定
5.1.3.3 実験内容 5.1.4 実験結果および考察 5.2 軸方向の抵抗特性
5.2.1 中空糸膜外表面における圧力損失に関する理論式の導出 5.2.2 計算結果および考察
第6章 理想状態における透過係数の計測 46
6.1 ミニモジュール用性能試験装置 6.2 実験条件と内容
6.3 実験結果および考察
第7章 中空糸エレメントの抵抗特性と浸透性能の関係 55 7.1 実験条件と内容
7.2 実験結果とシミュレーション結果
7.2.1 半径方向抵抗を変化させた場合
7.2.2 軸方向抵抗を変化させた場合
第8章 塩水流量と浸透性能の関係 61
8.1 実験条件と内容
8.2 実験結果とシミュレーション結果
8.2.1 理論浸透流量と実験浸透流量
8.2.2 淡水側濃度の影響
8.2.3 濃度分極による影響
8.2.4 淡水の消失による影響
8.2.5 偏流による影響
8.3 各要因と浸透性能の関係
第9章 淡水流量と浸透性能の関係 70 9.1 実験条件と内容
9.2 実験結果及び考察
9.2.1 理論浸透流量と実験浸透流量
9.2.2 淡水側濃度の影響
9.2.3 濃度分極による影響
9.2.4 淡水の消失による影響
9.3 各要因と浸透性能の関係
第10章 塩分濃度と浸透性能の関係 77
10.1実験条件と内容
10.2実験結果とシミュレーション結果
10.2.1 理論浸透流量と実験浸透流量
10.2.2 淡水側濃度の影響
10.2.3 濃度分極による影響
10.2.4 淡水の消失による影響
10.2.5 偏流による影響
10.3各要因と浸透性能の関係
第11章 結論 87
参考文献 90
謝辞 92
記号表 93
1
第1章 序論
現在,世界的な地球温暖化が深刻化している.2015 年 9 月には記録的な豪雨が東日本を襲っ た.インドでは熱波の影響もあり,6日間連続で45℃が続き2300人以上が犠牲となった.アメ リカのカリフォルニアでは 2012年から 4年連続で干ばつに見舞われ,1万人以上の農業従事者 が失業した.将来的にはマラリアによる大規模な犠牲が心配される.これらを受け,2015 年 11 月にフランスのパリで開催された COP21では,先進国も途上国も合わせて温室効果ガスを削減 することで合意に至った.途上国では,石炭使用から石油使用へのシフト,省電力技術の適用な ど,未開発の部分が多く残されているため,削減は比較的容易であると考えられるものの,先進 国での温室効果ガス削減は非常に難題である.このような状況下,再生可能エネルギーを利用し た発電は,COP21 で提起された課題に対して大きく貢献できることで期待されている.そのた め,太陽光発電,風力発電,海洋エネルギー発電の分野では研究開発が急ピッチで進められてい る.その中でも,1975年にLoeb氏らにより提案された,浸透圧を利用する「浸透圧発電」が多 くの注目を集めている[1].ここで浸透圧について説明を加えておく.いま,図1.1-(a)に示すよう に,半透膜を介して塩水と淡水が充填されたU字管内の現象を考える.十分時間経過後,図1.1-(b) のように淡水が塩水側へ移動し,塩水側のヘッドが上昇する.これを浸透現象と言い,淡水側と 塩水側のヘッドの差を浸透圧と言う.また,図1.1-(c)のように塩水側へ浸透圧より大きな圧力を かけ,塩水側の水分子を淡水側へ押し出すことを逆浸透(Reverse Osmosis, RO)と言う.高濃度 溶液側から低濃度溶液側への移動を「逆」としているため,上記の低濃度溶液側から高濃度溶液 側への浸透を「正」の向きと考えて正浸透(Forward Osmosis, FO)と呼ぶことが多い.浸透圧発 電では淡水側から塩水側への浸透が生じるが,塩水側へ浸透圧の約半分程度の圧力をかけている ため,単に正浸透ではなく,圧力遅延浸透(Pressure Retarded Osmosis, PRO)と呼ぶ.その名の とおり,塩水側へ圧力をかけ,浸透を遅延させているわけである.浸透圧発電とは,浸透現象に より増加する水量に圧力を加えることで電気を得る手法である.発電プロセスは図 1.2にあると おりで,はじめに海水と淡水を,浸透膜と海水流路,淡水流路を一体とした膜モジュールへ供給 する.膜モジュール内では浸透膜を介して淡水が海水側へ浸透する.透過した淡水と混合した海 水はタービンを介して電気エネルギーへ変換される.浸透圧発電の発電量を数式で表した場合,
下式のEgenが発電量となる.式中のEfは淡水側ポンプの電力消費量,Esは塩水側の電力消費量を 示している.すなわち,発電量 Egenとは,タービンでの発電量EPROから,Efと Esを差し引いた 正味の発電量を表すものである.
𝐸𝑔𝑒𝑛= 𝐸𝑃𝑅𝑂− 𝐸𝑓− 𝐸𝑠
また,浸透圧発電が注目される理由は,そのデメリットの少なさにある.太陽光発電では,発 電量が天候に大きくされる,膨大なパネル設置面積が必要となるといったデメリットがある.風 力発電では,天候に左右されることは勿論,台風のような異常な強風への強度対策が未完成であ ったり,設置コストが膨大で,騒音被害による人体への健康被害まで報告されている.これらの ような問題が顕在化するなかで,浸透圧発電は,天候に影響を受けることもなく,設置面積も狭
2
小で,騒音も無いためデメリットが非常に少ない.ただし1981年にLee氏らが具体的な問題を 提言しているように,発電コストがやや高く,海水や淡水を送水する電力の割に,浸透流量が少 ないといった問題がある[2].膜レベルで浸透流束を増大させること,送水に必要な動力の低減化,
膜モジュールの性能向上が求められる.
膜レベルでは,これまでに多くの研究がなされている.2015年にSagiv氏らがCFD解析を用 いて内部濃度分極(Internal Concentration Polarization, ICP)と外部濃度分極(External Concentration Polarization, ECP)が浸透性能へ及ぼす影響について評価している[3].Lonsdale 氏らは,膜近傍における溶質の輸送現象について研究している[4].Ng 氏らは,塩の漏洩による ICP を軽減できる膜の開発に取り組んだ[5].Chung 氏らは,酢酸を混合媒体とした浸透膜を合 成し,浸透流束を6.5倍も向上させている[6].Chen 氏らも同様に,複数の膜素材を混合するこ とで,空隙率が大きく機械的強度の高い膜を合成し,FO膜の高性能化に成功している[7].
膜モジュール規模の分野では,1990年には本多らにより新たに提案された海底設置型浸透圧発 電設備とタンク切り替え型浸透圧発電設備の出力特性を検討するため,中空糸膜を用いた二分割 型浸透装置を用いた発電模擬実験が行われている[8].安ヶ平らは,濃度分極を考慮した場合と考 慮しない場合の浸透圧発電性能の差異に関して研究している[9].2008 年には,Tan氏と Ng氏 によって,浸透流量の予測モデルが構築されている[10].
一方,膜モジュールにおける「内部流れ」が浸透性能に及ぼす影響についてはほとんど研究が なされていない.本研究で対象とする膜モジュールは,平膜または中空糸膜の各々を浸透膜とし て利用した,図 1.3,1.4 に示すような,スパイラル型モジュールと中空糸膜モジュールのいずれ かが考えられる.スパイラル型膜モジュールは,軸心部分に取り付けられている湧き出し用の穴 が開いた流路に,平膜が巻き寿司のように巻きつけられた構造をとっており,中空糸膜モジュー ルは,軸心部分に取り付けられている湧き出し用の穴が開いた流路に,図1.5に示しているよう な中空糸膜が編み込まれながら巻かれている.現在では,中空糸膜モジュールの方が,格段に膜 面積を多くすることができるため,中空糸膜が多く利用されている.中空糸膜モジュールの詳し い構造や内部フローについては第三章で説明する.PROでは,塩水への淡水の浸透は,膜モジュ ール各所での塩水の塩分濃度と密接に関係し,それは,塩水の流動状況で大きく左右される.し たがって,膜モジュール内部では,均一な流れで全体が一様な浸透性能を発揮しているとは限ら ない.場所によって流れやすい所や,浸透が大きい所など,ばらつきが存在すると言われている.
本研究ではまず,このような流れのばらつき,すなわち偏流を把握する必要がある.偏流を把握 する手段として,数値シミュレーションを用いた膜モジュール内部の可視化を採用した.そこで 本研究では,PROにとって最適な流動状況をつくりだすPROモジュールを,流動特性と浸透性 能の面から提案することを最も大きな研究目的として設定した.ここでの浸透性能とは,供給し た海水流量と淡水流量に対して,どれ程多くの浸透流量を稼ぐことができているかという効率を 指している.
上記の「内部流れを考慮した最適化設計手法」として,具体的にどのようなものを想定してい るのかを簡単に説明しておく.本手法は大きく三つのステップに分けれる.以降に,各ステップ の内容を記す.
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【ステップ1:運転条件および膜モジュール本数を仮定】
はじめに,設計仕様として使用塩水と発電量を得る.これより使用塩水の塩分濃度と,全膜モ ジュールからの塩水出口流量を得る.次に理想透過係数から,膜モジュール1本における浸透流 量を求める.これにより,膜モジュール本数を仮定できる.また,浸透流量と淡水流量が等量で あると仮定することで必要最低淡水流量を仮定できる.塩水流量は淡水流量と同量であるとする.
本ステップにおいて,中空糸膜の理想的な透過係数が未だに明らかとなっていないため,理想的 な透過係数値の把握について取り組む必要がある.
【ステップ2:理論計算および初期シミュレーションを実行】
ステップ1で仮定した運転条件を基準に,淡水側の濃度上昇,濃度分極,淡水の消失が浸透性 能へ及ぼす影響を,理論計算により明らかとする.また塩水の偏流については数値シミュレーシ ョンにより明らかとする.本ステップでは,数値シミュレーションでの中空糸エレメント領域に おける抵抗特性を把握できていない状態であるため,抵抗特性の解明について取り組む必要があ る.
【ステップ3:理論計算およびシミュレーション結果からモジュール形状と運転条件を修正】
ステップ2による「理論計算結果および数値シミュレーション結果」と,「塩水流量,淡水流量 塩分濃度といった運転条件とモジュール形状,浸透性能の関係」を照らし合わせることにより,
モジュール形状および運転条件を修正する.しかしながら,本ステップにおいても,「運転条件と モジュール形状,浸透性能の関係」が明らかとできていない状態であるため把握する必要がある.
以上より本稿では,最適化設計手法の各ステップで挙げられた未解明である下記6つの研究項 目について記す.
1. 中空糸エレメントにおける抵抗特性 2. 理想状態における透過係数の計測
3. 中空糸エレメントの抵抗特性と浸透性能の関係 4. 塩水流量と浸透性能の関係
5. 淡水流量と浸透性能の関係 6. 塩分濃度と浸透性能の関係
4
(a) Before osmosis (b) After osmosis (c) Reverse Osmosis Fig.1.1 Principle of Forward Osmosis and Reverse Osmosis
Fig.1.2 Conceptual diagram of Pressure Retarded Osmosis power generation system
FO, PRO RO
5
Fig.1.3 Membrane module composed of sheet membrane (Ref. Nitto Denko)
Fig.1.4 Membrane module composed of hollow fiber (Ref. TOYOBO HOLLOSEP)
Fig.1.5 Hollow fiber (Ref.TOYOBO)
6
第2章 性能計算理論
本研究では塩水流量,淡水流量,塩分濃度に変化を与えて性能試験を行う.これらの性能試験 結果のデータを用いて,膜性能を表す指標である水に関する透過係数,及び塩に関する透過係数 を導出する.これに加えて,浸透流量の低下要因となる塩分の漏洩,濃度分極,淡水の消失と浸 透性能に関する計算も行っている.したがって上記の理論について詳細を以下で説明する.ここ での淡水の消失とは,中空糸膜内部において淡水が無くなることを指す.
2.1 浸透流量の計算
膜を介した淡水の浸透流束は式(2.1.1)のように定義されている.尚,本実験では低濃度溶液と して RO 水を使用しているため,淡水側浸透圧の値πfをゼロとして扱う.
𝐽𝑊= 𝐴(∆𝜋 − ∆𝑃) = 𝐴{(𝜋𝑑− 𝜋𝑓) − (𝑃𝑑− 𝑃𝑓)} ⋯ (2.1.1)
ここでA[m3/(m2 MPa s)]は水に関する透過係数,Pd [MPa] は塩水側の圧力,Pf [MPa]は淡水 側の圧力である.水に関する透過係数は,その単位のとおり,単位面積当たりの浸透流量,つま り浸透流束を表しているので,膜の性能と言い換えることもできる.また πd[MPa]は塩水の浸透
圧,πf[MPa]は淡水の浸透圧を表しており,浸透圧 π[Pa]は,ファント・ホッフの式(2.1.2)から求
めることができる.
𝜋 = 𝑖𝐶𝑅𝑇 [Pa] ⋯ (2.1.2)
ここで,i [-]はファント・ホッフ定数,C [mol/m3]はモル濃度,R [kg m2 /(s2 mol K])は気体定
数,T [K]は絶対温度である.このときのiは,塩水中の溶質である塩分NaClが,イオン化する
ことでNa+とCl-となるため2となる.また,気体定数が式に組み込まれているが,本式中での 意味は,対象とする分子の「動き易さ」を意味すると考えてもらいたい.塩分のモル濃度 C [mol/m3]は,NaClの分子量が58.5[kg/mol]であることより,式(2.1.3)で計算できる.
𝐶 = 𝑀
58.5 [mol/m3] ⋯ (2.1.3)
上式(2.1.3)におけるM [kg/m3]は質量濃度であり,N [-]を塩分濃度(質量パーセント濃度)とし て式(2.1.4)で表せる.
𝑀 =1000 × 𝑁
1 − 𝑁 [kg /m3] ⋯ (2.1.4)
7
上式(2.1.4)は,塩水の密度をおよそ1000[kg/m3]と仮定した場合,塩分濃度N [-]が式(2.1.5)で 表せることに由来して成り立つものである.
𝑁 = 𝑀
1000 + 𝑀 [−] ⋯ (2.1.5)
以上の式(2.1.2) – (2.1.5)から計算できる浸透圧差Δπ[Pa]を用いて,式(2.1.1)に代入することに より浸透流量Jw [m3/s]を計算できる.
2.2 塩分漏洩量の計算
膜を介した場合,図 2.1 のように塩の流束JS[kg/(m2 s)]と浸透流束JW[m/s]が生じ,その結果と して赤い実線のような濃度勾配をもたらす.半透膜である中空糸膜は,理想的には溶質を透過しな い.しかし実際には,微量の塩が塩水側から淡水側へ透過する.このとき,高濃度溶液側から低濃 度溶液側へ漏洩する塩の流束は式(2.2.1)のように定義されている.この式中における B[m3/(m2 s)]
は塩に関する透過係数であり,「塩の通りやすさ」を表すと言い換えることもできる.式中の⊿C [kg/m3]は塩分濃度差を表しており,活性層における塩分濃度Cd,m [kg/m3],および活性層と支持層の インターフェースにおける塩分濃度Cf,i[kg/m3]との差に相当する.
𝐽𝑆 = 𝐵(∆𝐶) = 𝐵(𝐶𝑑,𝑚− 𝐶𝑓,𝑖) ⋯ (2.2.1)
塩に関する透過係数B[m3/(m2 s)]は下式(2.2.2)で定義される.ここでRmem[-]は塩分阻止率であり,
式(2.2.3)により求められる.ここで Cd,b[kg/m3]は塩水側のバルクにおける塩分濃度,Cp[kg/m3]は 透過した塩水の濃度を示す.
𝐵 =1 − 𝑅𝑚𝑒𝑚
𝑅𝑚𝑒𝑚 𝐽𝑊 ⋯ (2.2.2)
𝑅𝑚𝑒𝑚= 1 − 𝐶𝑝
𝐶𝑑,𝑏 ⋯ (2.2.3)
2.3 濃度分極理論
濃度分極は,活性層表面および支持層表面において濃度勾配が生じる外部濃度分極(ECP) ,及び支 持層内部で濃度勾配が生じる内部濃度分極 (ICP)に分けられる.ICP と ECP が浸透流量へ及ぼす影響 に関してはMcCutcheonとElimelechによって提案されている[11].濃度分極を考慮した低濃度溶液の 浸透流束は式(2.3.1)に示される. ここでKは拡散抵抗であり式(2.3.2)のように表される.尚,膜 の配向が AL-DS(活性層が高濃度溶液側に向いている)であるか,AL-FS(活性層が低濃度溶液側に 向いている)であるかによって異なるが,本実験では膜の配向が AL-DS であるため,式(2.3.1)は
8 AL-DS の場合における理論式である.
𝐽𝑊= 1
𝐾ln𝐵 − 𝐽𝑊+ 𝜋𝑑,𝑚
𝐵 + 𝐴𝜋𝑓,𝑚 ⋯ (2.3.1)
𝐾 =𝑆
𝐷=𝜏𝑚∙ 𝑡𝑚 𝐷𝜀𝑚
⋯ (2.3.2)
πd,m[MPa]は活性層表面における浸透圧,πf,m[MPa]は支持層表面における浸透圧である.ECP は塩 水側と淡水側の膜表面において生じ得る.淡水側においては,淡水内部にある溶質が膜表面に濃縮 されることで浸透圧が上昇することに対応する.濃縮型の外部濃度分極である.したがって淡水側 の浸透圧は上昇し,実効となる浸透圧差は低下する.バルクの浸透圧に対する膜表面における浸透 圧は式(2.3.3)の濃縮型外部濃度分極率によって表される.
𝜋𝑓,𝑚
𝜋𝑓,𝑏 = exp (𝐽𝑊
𝑘𝑑) ⋯ (2.3.3)
塩水側においては,浸透してきた淡水が膜表面において塩水を希釈しているため,実効となる浸 透圧は低下する.希釈型の外部濃度分極である.バルクに対する膜表面浸透圧は下式(2.3.4)の希釈 型外部濃度分極率によって計算される.
𝜋𝑑,𝑚
𝜋𝑑,𝑏 = exp (−𝐽𝑊
𝑘𝑑) ⋯ (2.3.4)
上式(2.3.3)と(2.3.4)における物質輸送係数 kd [m/s] は,下式(2.3.5)のようにシャーウッド数 Shと拡散係数 D[m2/s],及び流体力学的長さdhによって表現され,「溶質の移動し易さ」を示す.
𝑘𝑑=𝑆ℎ × 𝐷
𝑑ℎ ⋯ (2.3.5)
シャーウッド数は流体の流れ状態に依り表式が変わる.層流状態におけるシャーウッド数 Sh は 下式(2.3.6)により定義されている.
𝑆ℎ = 1.85 (𝑅𝑒 ∙ 𝑆𝑐 ∙𝑑ℎ 𝐿)
0.33
⋯ (2.3.6)
ここでdh[m]は代表長さであり,淡水側においては中空糸膜の内径,塩水側においては水力直径に
より算出する.
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2.4 淡水の消失に関する理論
図 2.2 のように,中空糸膜内における淡水の流れをモデル化した場合を考える.中空糸膜内では,
長さ方向出口側に向かうにつれて,浸透により淡水流量は減少する.すなわち質量保存を考えた場 合,中空糸膜の微小長さ dx に対して,淡水流量q[m3/s]の変化率 dq/dx は浸透流量 Jw を用いて下 式(2.4.1)のように表現できる.ここで円周率と浸透圧の記号を区別するため,円周率をπ0と表記し ている.
𝑑𝑞
𝑑𝑥= −𝐽𝑊𝜋0𝑑𝑖𝑙 ⋯ (2.4.1)
中空糸膜内圧力の変化率 dP/dx に関しては式(2.4.2)に示している Darcy-Weisbach を適用する ことにより得られる.l[m]は中空糸膜の長さ,di[m]は中空糸膜の内径を示している.λは管摩擦係数 であるが,中空糸膜内部の流れは層流であるため式(2.4.3)のように表すことができる.式(2.4.3) を式(2.4.2)へ代入し,淡水流速を淡水流量で表すことで式(2.4.4)が得られる.ここで浸透流量は 淡水流量に比べて十分に少量であるため,圧力損失への影響は考慮していない.
∆𝑃𝑓= 𝜆 𝑙 𝑑𝑖
∙𝜌
2𝑉𝑓2 ⋯ (2.4.2) λ =64
𝑅𝑒= 64 𝑉𝑓× 𝑑𝑖
𝜐
= 64𝜐
𝑉𝑓× 𝑑𝑖 ⋯ (2.4.3) 𝑑𝑃𝑓
𝑑𝑥 =128𝜈𝜌
𝜋0𝑑𝑖4 𝑞 ⋯ (2.4.4)
以上の式におけるν[Pa s]は動粘度,ρ[kg/m3]は淡水の密度を表している.式(2.4.1), (2.4.4)を用いて,
淡水流量と圧力の中空糸の位置 x に対する表現を下式(2.4.5), (2.4.6)のように得ることができる.
𝑃𝑓= 𝑃0+ √128𝜈𝜌
𝐴𝜋02𝑑𝑖5{1 − 𝑒𝑥𝑝 (√128𝜈𝜌𝐴
𝑑𝑖3 𝑥)} 𝑞0 ⋯ (2.4.5)
𝑞 = 𝑞0𝑒𝑥𝑝 (√128𝜈𝜌𝐴
𝑑𝑖3 𝑥) − 𝐴𝜋0𝑑𝑖{𝑃0+ (∆𝜋 − 𝑃𝑠) + √128𝜈𝜌
𝐴𝜋02𝑑𝑖5𝑞0} 𝑥 ⋯ (2.4.6)
式(2.1.1)で表される浸透の式を用いるのではなく,上式を用いることで淡水の消失を考慮するこ とができる.加えて,これらの式における浸透圧差⊿πと中空糸膜有効長さであるが,膜モジュール 半径方向へ変化することを考慮して計算を行うこととしている.
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Fig.2.1 Concentration graduation through the hollow fiber
Fig.2.2 Flow and permeation model of fresh water in hollow fiber
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第3章 FO 試験装置
本研究では,塩水流量,淡水流量及び塩分濃度を変化させる場合の膜モジュールの性能試験を 行う際に,FO 試験装置を用いる.本章では,FO 試験装置を構成している中空糸膜と膜モジュール,
さらに装置内部における圧力や流量,塩分濃度などの計測について説明する.第 3.1 節では,中 空糸膜について,第 3.2 節では,膜モジュールについて説明する.第 3.3 節では,FO 試験装置の 構造と計測器について説明する.
3.1 中空糸膜
本実験では,浸透を生じさせるための装置として図 3.1 に示しているような中空糸膜を用いる.
本実験で用いる中空糸膜は,ストロー状の形状をした三酢酸セルロース(Cellulose Tri-Acetate, CTA)
からなる半透膜である.浸透膜の性能は通常,透過係数A,塩分阻止率Rmem及び構造パラメータ ーSの三つで評価される.膜を介した浸透流束は式(2.1.1)のように定義されている.この式中に おける A が透過係数であるため,「水分子の通りやすさ」を表すものであると言い換えることも できる.一方で,その単位を考えた場合,低濃度溶液側から高濃度溶液側へ浸透する水分子の流 束を表していることがわかる.
膜を介して,高濃度溶液側から低濃度溶液側へ漏洩する塩の流束は式(2.2.1)のように定義され ている.この式中におけるBが塩に関する透過係数であるため,「塩の通りやすさ」を表すもの であると言い換えることもできる.
膜処理分野において膜内部の構造を数値化したものを,構造パラメーターS[m]と呼び式(3.1.1)
で定義され,支持層において片端面から他端面までの最短距離を表している.構造パラメーター の小さい膜ほど,内部濃度分極が生じにくいと言える.すなわち,空孔率ε[-]が大きく,膜厚t[m]
及び屈曲率τ[-]が小さい程,内部濃度分極が生じにくい.屈曲率τとは,支持層の複雑さを数値 化したものである.
𝑆 =𝜏𝑚∙ 𝑡𝑚
𝜀𝑚 ⋯ (3.1.1)
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3.2 中空糸型膜モジュール
中空糸型膜モジュール(以下,膜モジュール)とは,中空糸膜の巻き付けられた領域,つまり 中空糸エレメントに,塩水・淡水・混合水・未浸透水流路を設けたものを指し,本実験では図 3.2 の写真に示す東洋紡製逆浸透用5インチ4方口膜モジュール(HB5255)を使用している.本実験 時には,FO 専用の膜モジュールが市販されていないため,3 方口 RO 膜モジュールに塩水出口を加 え,4 方口膜モジュールとしたものを用いた.また,購入時の膜モジュールは,ベッセル部分が 不透明の繊維強化硝子(Fiber Reinforced Plastic, FRP)が使用されていたが,流動可視化実験を行 った過去の実験に際して,ベッセル部分を透明のアクリル円筒で差し替え,内部での色の変化具 合を観察可能としている.このアクリル製ベッセルの肉厚は20[mm]であり,膜モジュール外径と ベッセル内径の隙間は約5[mm]である.
浸透膜モジュールには,プリーツ型膜モジュールやモノリス型膜モジュール,スパイラル型膜 モジュール等がある[18].本研究で中空糸型膜モジュールに着目した理由は,微細な口径を有す るファイバー状の浸透膜が利用されているため膜面積が平膜を利用したものより大きく,浸透流 量を劇的に増大させることができるためである.
また,中空糸膜内外の流れは,図 3.2 の外景写真及び図 3.3 の中空糸膜モジュール断面図に示 すように,中空の流路を淡水が流れ,外側を塩水が流れるようになっており,中空糸膜の肉厚部 分を介して淡水が塩水側へ浸み出す浸透が生じる.一方で塩水は軸心部分にあるパイプへ流入し,
中空糸膜の領域へ塩水流路に設けられた穴から湧き出し,その後,中空糸膜間で浸透を起こし,
混合水となって図のように左上部の混合水出口より排水される.また,本稿にはデータを紹介し ていないが,図 3.3 にあるように,アクリル製のベッセルには穴が開けられており,その箇所で 溶液をサンプリングできるようになっている.表(3.2.1)に本膜モジュールの主な仕様を示す.
Table3.2.1 Specification of TOYOBO RO membrane module HB5255
Volume [l] 9.07
Area of membrane [m2] 70
Length [mm] 683
Effective length [mm] 563
Mean effective hollow fiber length [mm] 641
The number of hollow fiber 180000
The outer diameter of hollow fiber [μm] 161
The inner diameter of hollow fiber [μm] 62
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3.3 実験装置の構成と計測器
図 3.4 に本実験で使用した FO 試験装置の外観写真を示す.写真中央には膜モジュールが設置さ れており,膜モジュールの下には計測機器及び送水ポンプが設置されている.FO 試験装置の構成 は図 3.5 に示す通りで,膜モジュール内へは塩水・淡水が,タンク→ポンプ→流量計→圧力計の 順で通った後に,それぞれが個別に膜モジュールへ供給される.一方で,混合水は,圧力計→流 量計→電気伝導度計→排水タンクの順で流出し,未浸透水は電気伝導度計のみを通過して排水タ ンクに至る.したがって,浸透流量の計算は,混合水系統における流量計の値から,塩水系統に おける流量計の値を引いたものとなる.また,塩水系統と淡水系統のポンプ直後に,分岐して取 り付けられて各タンクへ至る流路は,低流量運転の場合に用いる.低流量でポンプを使用する際 は,ポンプの吐出流量が不安定となることが,一般的なポンプの特性としてある.したがって,
ポンプ吐出量の安定化を図るため,運転条件よりも多くポンプに吐出させ,一部の流量を戻し設 定流量とする用途で,この流路が取り付けられている.さらに,洗浄水タンクと,そこから塩水 側ポンプへ伸びる流路は,実験後の洗浄,および薬液通水の際に利用する.ここでの薬液には,
亜硫酸水素ナトリウムを使用し,中空糸膜での微生物の繁殖を抑えるために用いた.電気伝導度 から塩分濃度への変換は,ポータブル電気伝導度計の検定実験により得られた,電気伝導度と塩 分濃度の関係式を用いている.
14
Fig.3.1 Hollow fiber in membrane module
Fig.3.2 Membrane module using actually
Fig.3.3 Cross section of membrane module Mixed water
Flow direction
Salt water flow
Fresh water flow
Permeation flow of fresh water
15
Fig.3.4 Outward appearance of experimental device for FO
Fig.3.5 Flow system diagram of experimental device for FO
Membrane module (5inch)
Flow meter
Electrical conductivity meter at outlet of salt water Electrical conductivity meter
at outlet of fresh water Control console
P : Pump
FIR : Flow meter PIR : Pressure meter CIR : Concentration meter Fresh water tank
Salt water tank Wash water tank
16
第4章 中空糸膜モジュール内の流動シミュレーション
膜モジュール内部における塩水の流動解析を行う際には数値シミュレーションを用いる.はじ めに数値シミュレーションの概要,計算理論,モデル形状やメッシュ設定を説明し,最後にサブ ドメインと界面長さスケールについての説明を加える.本シミュレーション最大の特徴は,中空 糸膜エレメントを 1 つの抵抗体,つまりサブドメインとして考えている点である.一般的には,
計算対象をそのまま3次元として描き,計算領域とする.しかし本研究で取り扱う膜モジュール
には180000本もの中空糸膜が計算領域に存在しており,それらを個別に設定を行うことは無理
が伴う.更に,浸透現象という二相流体を取り扱う計算において,欠落し兼ねない重大な要素と して,一方の流体相から他方の流体相へどれほど移動するのかを表す「界面長さスケール」とい うものがある.したがって,サブドメイン設定と界面長さスケールについては,個別に詳細説明 を加えている.
4.1 数値シミュレーション概要
今回使用する数値シミュレーションソフトウェアは三次元粘性解析コード ANSYS-CFX13.0 である.ANSYS-CFXはCFD(computational fluid dynamics:数値流体力学)ソフトウェアで,
極めて高度な解析結果,安定した解,高い並列処理効率を有している.そのため大幅に計算時間 が短縮され,十分な情報に基づいた設計上の決定を可能とする現実的な結果を得ることができる.
本ソフトウェアはANSYS workbenchインターフェースから利用できる.ANSYS-CFXの大ま かな処理工程は下図のような解析フローとなる.計算領域を構成するプロセスGeometryに関す る設定,計算格子を生成するMeshに関する設定,境界条件や初期条件を設定するSet up,計算 を実行し,残差の推移をモニタリングできるSolver,計算結果を観察するPostから成る.
Geometry •モデルの形状設定
Mesh •計算格子(メッシュ)を切る
Set up •境界条件と計算条件を設定
Solver •計算を実行する
Post •計算結果を見る
17 4.2 基礎方程式
膜モジュール内部での流体の運動は,流体の質量保存則を表す連続方程式(4.2.1),運動量保存 則を表すナビエ・ストークス方程式(4.2.2)で表される.
連続方程式
𝜕𝜌
𝜕𝑡 + 𝜕
𝜕𝑥𝑗(𝜌𝑈𝑗)=𝐽𝑊∙ 𝑆𝑎𝑟𝑒𝑎 ⋯ (4.2.1) ナビエ・ストークス方程式
𝜕𝜌𝑈𝑖
𝜕𝑡 + 𝜕
𝜕𝑥𝑗(𝜌𝑈𝑖𝑈𝑗) = −𝜕𝑝
𝜕𝑥𝑖+ 𝜕
𝜕𝑥𝑗(𝜏𝑖𝑗− 𝜌𝑢𝑖𝑢𝑗) + 𝑆𝑀 ⋯ (4.2.2)
ここで,ρは密度[kg/m3],Uは流体速度ベクトル[m/s],Pは圧力[Pa],τは分子応力テンソル(応 力の法線成分とせん断成分を含む)[kg/m s2 ],𝜌𝑢𝑖𝑢𝑗 はレイノルズ応力[kg/m s2 ],SMは運動量ソ ース[kg/m2 s2]を表している.連続方程式(4.2.1)においては右辺が淡水の浸透流量に相当している.
また,膜モジュール内部において中空糸膜が巻き付けられている領域は,流体の流れを妨げる 抵抗となっている.そこでより現実に近い数値シミュレーションを行うためにナビエ・ストーク ス方程式へ,下式(4.2.3)で表される運動量損失分とし運動量ソースSMを代入する.
𝑆𝑀,𝑥= − 𝜇 𝐾𝑝𝑒𝑟𝑚
𝑈𝑥− 𝐾𝑙𝑜𝑠𝑠𝜌 2𝑈𝑥|𝑈𝑥|
𝑆𝑀,𝑦= − 𝜇 𝐾𝑝𝑒𝑟𝑚
𝑈𝑦− 𝐾𝑙𝑜𝑠𝑠𝜌 2𝑈𝑦|𝑈𝑦|
𝑆𝑀,𝑧 = − 𝜇 𝐾𝑝𝑒𝑟𝑚
𝑈𝑧− 𝐾𝑙𝑜𝑠𝑠𝜌 2𝑈𝑧|𝑈𝑧|
…(4.2.3)
ここで,μは粘性係数[kg/m s],Κpermは透過係数[m2],Κlossは損失係数[1/m],Ux ,Uy ,Uzは各 方向速度成分[m/s],|U|は速度の大きさ[m/s]を表す.透過係数 Κperm[m2]と損失係数 Κloss [1/m]
の計測については第5章で説明している.
4.3 ANSYSの設定
数値シミュレーション概要で述べた Geometry,Mesh,Set up のプロセスについて,以下に 設定の詳細を記す.但し,Set upの項目については,サブドメインに関する設定や界面長さスケ ールの設定といった一般的な数値シミュレーションでは扱うことがない部分を含むため,これら の詳細を付け加えている.
18
4.3.1 Geometryに関する設定
形状の設定は ANSYS Workbench の Geometry 機能を使って作成した.ここで ANSYS
WorkbenchのGeometryを利用する理由として以下を挙げておく.
CAD環境が無い場合でもシミュレーション用のモデル作成が可能
2次元スケッチングツールと3次元フィーチャ作成ツールを使うことで容易にモデル作成可 能
メッシュ作成および物理解析をより簡単化するため,物体表面および物体そのものに名前を 与えることが可能
Geometryでは主に三次元で,流体が流れる領域の形状を作成する.図4.1に示しているように,
作成したモデルは,軸心部分に設置され塩水が流入する流路である「Center pipe」,多数の中空 糸膜が巻き付けられている領域である「中空糸エレメント」,浸透した淡水と塩水からなる混合水 が流れ,圧力容器の役割となる「ベッセル」といった3つの領域に分割している.中空糸エレメ ントの領域においては,中空糸膜を全本数作成することは非常に困難で,作成できた場合でも境 界条件を1本1本設定する必要があるため,全本数についてシミュレーションすることは考えな い.そこで本シミュレーションでは,中空糸エレメントを1体の抵抗体として考えることとした.
この場合に課題として挙げられる事項は,実際の中空糸エレメントが指向性抵抗を有する可能性 があるということである.つまり,式(4.2.3)で説明した,慣性損失と粘性損失で構成される運動 量損失項を,中空糸エレメントの領域において設定する必要がある.また,Geometry 作成時に おける注意点であるが,上記3つのドメインを1つの物体であるとみなす必要があるため,3つ のパーツを全て選択した後にForm New Partを選択し,3つに分割されている物体ではなく,
膜モジュールという1つの物体であるという設定を行う必要がある.更に,次の段階のメッシュ を切る際にドメイン間のメッシュの繋ぎ目を一致させるために,シェアトポロジーを設定してい る.
4.3.2 Meshに関する設定
ANSYS のメッシュ作成技術は,ジオメトリ表現と密接に関連しており,非構造四面体要素メ
ッシュを作成し,複雑な形状に対しても高質なメッシュを高速に作成することが可能である.本 計算モデルの形状は複雑ではないため,一般的に考えた場合は構造格子により計算精度の向上を 図ることが考えられるが,ANSYS-CFXに標準で装填されているメッシュ機能では非構造格子を 扱っていたため,非構造格子でメッシュを採用した.また,メッシュサイズへの依存性であるが,
乱流解析を行わないため,細かなメッシュを作成する必要はない.境界面近傍におけるインフレ ーション設定についても同様のことが言える.結果として図4.2, 4.3, 4.4に示しているようなメ ッシュを得た.各々の図は,センターパイプのメッシュ,中空糸エレメントのメッシュ,モジュ ール全体のメッシュに相当している.また,図4.5にあるように各インターフェース,つまりセ
19
ンターパイプと中空糸エレメント間の面,及び中空糸エレメントとベッセル間の面におけるメッ シュの格子点が一致していることを確認できる.
4.3.3 Set-upにおける境界条件の設定
ANSYS Set-upでは,シミュレーションの細かい境界条件を設定する.塩水はInletより各パ
ターンの設定速度で流入し,センターパイプを通り中空糸エレメントの領域では運動量損失を受 けながら流れ,ベッセルを通り,outletから各計算パターンの設定出口圧力で流出される.Inlet
およびOutletにおいて設定すべき項目は,表4.3.3.1および4.3.3.2にあるとおりである.また,
ドメイン間のインターフェース,及び壁面において設定すべき項目を表 4.3.3.3および表4.3.3.4 にまとめている.インターフェースの設定におけるConservative Interface Fluxとは,物体間の インターフェースにおいて,流束を同様に表現するということである.例えば,中空糸エレメン トとベッセルのインターフェースを考える.中空糸エレメント側の,ある局所のインターフェー ス⊿Sにおいて流速が[Va, Vb, Vc]であったとする.そのときベッセル側の,同じインターフェー ス⊿Sにおける流速は[Va, Vb, Vc]で表されるということである.
Table 4.3.3.1 Setup of inlet
Tub Setting selected item
Boundary Details Mass And Momentum Normal Speed
Normal Speed (*4.3.3.1)
(*4.3.3.1)…流速は,各パターンで変化するため,計算条件に合わせて各々の値を代入することと なる.
Table 4.3.3.2 Setup of outlet
Tub Setting selected item
Boundary Details Mass And Momentum Average Static Pressure Average Static Pressure (*4.3.3.2)
(*4.3.3.2)…膜モジュール出口圧力は,各パターンで変化するため,計算条件に合わせて各々の値 を代入することとなる.
Table 4.3.3.3 Setup of interface
Tub Setting selected item
Basic Setting Interface Model General Connection
Sources Mass And Momentum Conservative Interface Flux
Table 4.3.3.4 Setup of wall
Tub Setting selected item
Boundary Details Mass And Momentum No Slip Wall
20
4.3.4 計算条件の設定
ANSYS Set-upでは計算条件についても設定することができる.Residual TypeはRMSに設
定している.残差のターゲットは 1.0×10-4 としており,最大計算回数については各計算パター ンで収束状況が異なるため一定値ではないが,残差が 1.0×10-4 を下回った場合,もしくは最大 計算回数に達した場合に計算を終了するよう設定している.ANSYS では,離散化した方程式群 を解くために,加速ILU分解法(不完全LU分解法)を使用している.これは,複数の反復計算 の過程において方程式の厳密解が求められる反復ソルバーである.反復ソルバーの大まかなプロ セスを下図フローチャートに示している.離散化した方程式群を一般的な行列形式で記述すると 下式のようになる.
[𝐴][𝜑] = [𝑏] ⋯ (4.3.4.1)
[A]は係数行列,[φ]は解ベクトルである.上式は近似解 φnから開始した後,反復計算により解く
ことができる.近似解φ0は初期条件であり境界条件である.この近似解は,より良い解φn+1を得 るために係数φ’ により修正され次式(4.3.4.2)のように表される.
𝜑𝑛+1= 𝜑𝑛+ 𝜑′ ⋯ (4.3.4.2)
このψ’は残差ではなく,下式の解である.
𝐴𝜑′ = 𝑟𝑛 ⋯ (4.3.4.3)
ここでの
r
nが残差であり,下式から得られる.𝑟𝑛 = 𝑏 − 𝐴𝜑𝑛 ⋯ (4.3.4.4)
Convergence ControlでのFluid Time Scale ControlはLocal Timescale FactorでValueを 15としている.Local Timescale Factorは,シミュレーション内で広範囲にわたる速度スケール が存在する場合に非常に有効となる.本計算では,中空糸エレメントの領域において,流速が大 変遅いと考えられるため,15を代入し1回の計算での時間スケールを長くとっている.
21 スタート
ストップ
各計算格子点における配列を設ける
各計算格子点へ初期条件と境界条件を与える
基礎方程式を解く
式4.2.1および4.2.2が塩水と淡水についてそれぞれ解かれる
収束条件または
最大反復回数を満たしている?
体積分率を計算
(体積分率:単位体積中に塩水および淡水が含まれる割合)
疑似時間ステップを 1つ進める
Yes
No
22
4.3.5 サブドメインの設定
本シミュレーションにおいて中空糸エレメントの領域(図4.1中のHollow fiber element area)
は他のドメインとは違い,サブドメインとして設定している.サブドメインに設定することで,
ドメイン領域に抵抗を設定する際にはナビエ・ストークス方程式の運動量ソースに値を代入でき る.この代入可能な値が上記している浸透率Kpermと損失係数Klossである.
サブドメインにおける抵抗の設定には,等方性損失モデル,異方性損失モデル,汎用運動量損 失モデルの三種類があるが,今回の計算では,中空糸エレメントでの抵抗には指向性があるとし て異方性損失モデルを採用する.異方性損失モデルで設定する浸透率 Kpermと損失係数 Klossは,
実験および理論解析により得られた浸透率 Kpermと損失係数 Klossを代入する.実験と理論解析に ついては第5章で述べる.補足説明として,この数値シミュレーションでは,実際の膜モジュー ル内部でも言えることだが,中空糸エレメント領域での速度が非常に遅いために式(4.2.3)におい て,流速の二乗で表される慣性損失項よりも,流速に関して線形性をもつ粘性損失項による損失 が非常に大きい.したがって,損失係数Klossの値は,抵抗にあまり寄与しないものであるという ことを,ここに補足しておく.以上の設定項目を,ANSYS-CFXの設定画面に則って表にすると 表4.3.5.1となる.
また,淡水は非常に口径の小さい中空糸膜内を流れる.そのため,淡水側については入口から 出口にかけて圧力が変化することを考慮する必要がある.線形的に圧力が低下すると仮定すると 下式(4.3.5.1)のように淡水側圧力をおくことができる.中空糸膜内腔における淡水の消失を考慮 し,式(2.4.5)を用いるべきであるが,シミュレーションでは淡水が「流れている」のではなく,
局所の塩分濃度に応じて「発生する」と設定しているため,淡水流量の履歴を定義できない.し たがって式(4.3.5.1)で近似している.
𝑃𝑓= 𝑃0−𝑥 − 80
613 𝑃0 ⋯ (4.3.5.1)
この式において 80[mm]とは,図 4.1に寸法として示しているように,膜モジュール入口から 中空糸膜エレメント端面までの距離を意味している.613[mm]とは中空糸膜エレメントの長さで ある.
Table 4.3.5.1 Setup of subdomain 『Hollow fiber element area』
Tub Setting Selected item
Sources
Loss Model > Option Directional Loss Directional Loss > Option Permeability and
Loss Coeffiicient
Permeability (*1)
Resistance Loss Coefficient (*2) (*1)(*2) 設定対象が軸方向であるか半径方向であるかによって変化する.
23
4.3.6 界面長さスケールに関する設定
本シミュレーションのように混相流を計算対象とする場合,サブドメインにおいて「Interface Length Scale」を設定する必要がある.ANSYS では,混相流に対して式(4.3.6.1)で表される連続方 程式が解かれている.
𝜕
𝜕𝑡(𝑟𝛼𝜌𝛼) + 𝛻 ∙ (𝑟𝛼𝜌𝛼𝑈𝛼) = 𝐽𝑀𝑎𝑠𝑠+ 𝛤𝛼 ⋯ (4.3.6.1)
左辺第一項は質量の時間的変化を,第二項は質量の空間的変化を表す項を意味している.右辺第 一項は単位体積当たりの質量流量を,第二項は計算対象である作動流体が二相以上の混相流であ る場合のみ計算されるもので,他の流体相から流体相αへ移動する単位体積当たりの質量流量を 示している.したがって,式自体の意味するところは,質量の時間的・空間的変化は,浸透流束 と相間移動によって生じるということである.いま,この右辺第二項である Γα に着目する.Γα は下式(4.3.6.2)で表されるように,「流体相βから流体相αへ移動する単位体積当たりの質量流 量Γαβの総和」で求められる.ここでNPは流体相αを除く流体相の数を表す.
𝛤𝛼= ∑ 𝛤𝛼𝛽
𝑁𝑝
𝛽=1
⋯ (4.3.6.2)
さらに,Γαβは質量流量mαβ [kg/(m2・s)]と,界面面積密度Aαβ [m2/m3]を用いて下式のように表され る。
𝛤𝛼𝛽= 𝑚𝛼𝛽∙ 𝐴𝛼𝛽 ⋯ (4.3.6.3)
ここで界面面積密度Aαβは,流体相αの体積分率rαと流体相βの体積分率rβを用いて下式のよう に表される.
𝐴𝛼𝛽=𝑟𝛼∙ 𝑟𝛽
𝑑𝛼𝛽 ⋯ (4.3.6.4)
この式におけるdαβが界面長さスケール(Interface Length Scale)を表している.したがって今回 のシミュレーション結果のように,浸透流量が少なくなると,流体相βを淡水流体相とした場合 の体積分率rβが小さくなり,界面面積密度Aαβが小さくなる.結果として淡水流体相から塩水流 体相へ移動する単位体積当たりの質量流量を表す Γα の値が小さくなる.すなわち,湧き出した 淡水がその場に留まるという現象を作り出すこととなり得る.実際に図 4.6 のような断続的な塩 分濃度分布となった例がある.ゆえに,Γαの値を大きくするため,界面長さスケールdαβを小さ く採ることとし,下のように修正した.
𝑑𝛼𝛽 = 1𝐸 − 10 → 𝑑𝛼𝛽 = 1𝐸 − 12
24
4.4 数値シミュレーションの評価方法
計算したシミュレーション結果の妥当性を検証する際に用いた基準について説明する.ここで の妥当性とは,「シミュレーション結果のみを検証する」ものと,「シミュレーション結果と実験 結果を比較することで検証する」ものの2つに大別される.後者に関しては,実験で得られた浸 透流量,塩分濃度分布を評価基準として検証した.前者である「シミュレーション結果のみを検 証する」については,以下の基準を満たすよう評価・修正した.この基準をクリアした時点で「妥 当性の検証」という研究項目は完了となる.
【評価基準】
① 膜モジュール出入口での質量保存則が成立 ② 各インターフェースでの質量保存則が成立
③ 非現実的な流れの発生が無い(流速ベクトルのチェック)
④ 連続した塩分濃度分布が得られる ⑤ 圧力損失が設定した通りとなっている
基準①は,計算対象である膜モジュールの Inlet における流入流量と Outlet における流出流量 との差が浸透流量に合致しているかを調べるものである.基準②は,センターパイプと中空糸エ レメント領域を介する面,中空糸エレメント領域とベッセルを介する面といった各インターフェ ースにおける流出流量もしくは流入流量が合致しているかを調べるもの.基準③は,本研究中に 膜モジュール内部の全領域において上下方向下向きのみの流れが存在していた事象があったため 設けた.これは塩水が流入するのみで,流出流量が存在しないことに相当し,現実の現象として 生じ得ない.この基準により初期条件に関する誤りを見つけることができる.基準④は,図 4.6 に示すような断続的な塩分濃度分布がシミュレーションの結果として得られたことがあったため 設けた.これに対して第 4.3.6 項で述べたとおりの界面長さスケールを採用し,数値シミュレー ションを行い,上記評価基準を検証したが問題は見当たらなかった.したがって上記界面長さス ケールの値は適切であると判断した.基準⑤は,シミュレーション結果からわかる軸方向圧力損 失と半径方向圧力損失を,理論計算からわかる軸方向圧力損失と半径方向圧力損失と比較し,合 致しているかを調べるものである.
25
Fig.4.1 Geometry model for simulation
Fig.4.2 The mesh of the center pipe
Inlet
Outlet
Hollow fiber element area
Center pipe
613
80
115
130 Vessel
Inlet
26
Fig.4.3 The mesh of the center pipe and hollow fiber element area
Fig.4.4 The mesh of the center pipe, hollow fiber element area, and vessel Inlet Inlet
Outlet
27
Fig.4.5 The mesh of cross section for radial direction
Fig.4.6 Salt concentration distribution on cross section
Inlet Outlet
Outlet
Vessel
Hollow fiber element area
Center pipe
28
第5章 中空糸エレメントにおける抵抗特性
本研究における過去の数値シミュレーションでは,膜モジュール内部にある中空糸が巻き付け られている領域,つまり中空糸エレメント領域での圧力損失が未知であった.ゆえに以前までは 抵抗に関係するパラメーターを任意の値で与え,等方性を有する抵抗体であると設定していた.
しかし先行研究から図5.1に示すように,数値シミュレーションの結果と実験結果では塩分濃度 分布が大きく異なるという課題があった.数値シミュレーションにおけるデータの取得位置は図 5.2 に示すとおりである.そこで本実験により,抵抗特性を明らかとし,数値シミュレーション の精度向上を目指す.
現行の数値シミュレーションでは,質量保存則の式である連続の式,運動量保存則の式である ナビエ・ストークスの式により塩水の流れを計算している.ナビエ・ストークスの式は式(5.1)で 表され,膜モジュール内の中空糸エレメント領域での圧力損失を考慮する項として運動量ソース SMが挿入されている.この運動量ソースSMは,塩水流速Uの関数として式(5.2)のように表され る.つまり現状では,式(5.2)中の浸透率 Kpermと損失係数Klossを任意に設定しているということ になる.これらの値を,中空糸膜に沿って塩水が流れた場合,中空糸膜に垂直方向へ塩水が流れ た場合に分けて把握する.
ナビエ・ストークスの式
𝜕𝜌𝑈𝑖
𝜕𝑡 + 𝜕
𝜕𝑥𝑗(𝜌𝑈𝑖𝑈𝑗) = −𝜕𝑝
𝜕𝑥𝑖+ 𝜕
𝜕𝑥𝑗(𝜏𝑖𝑗− 𝜌𝑢𝑖𝑢𝑗) + 𝑆𝑀 ⋯ (5.1)
運動量ソースの式
𝑆𝑀,𝑥= − 𝜇
𝐾𝑝𝑒𝑟𝑚𝑆 𝑈𝑥− 𝐾𝑙𝑜𝑠𝑠𝑆 𝜌 2𝑈𝑥|𝑈𝑥|
𝑆𝑀,𝑦= − 𝜇
𝐾𝑝𝑒𝑟𝑚𝑇 𝑈𝑦− 𝐾𝑙𝑜𝑠𝑠𝑇 𝜌 2𝑈𝑦|𝑈𝑦|
𝑆𝑀,𝑧 = − 𝜇
𝐾𝑝𝑒𝑟𝑚𝑇 𝑈𝑧− 𝐾𝑙𝑜𝑠𝑠𝑇 𝜌 2𝑈𝑧|𝑈𝑧|
…(5.2)
中空糸膜に垂直方向へ塩水が流れる場合には,浸透率 Kpermと損失係数 Klossを小型中空糸集束 帯を用いて実験的に把握する.一方,中空糸膜に沿って塩水が流れる場合には,運動方程式から 理論的に浸透率Kpermと損失係数Klossを把握する.5.1節では,中空糸膜に垂直方向へ塩水が流れ る場合の実験で使用する小型中空糸集束帯の設定膜面積密度や,設定流量,設定圧力などの実験 条件,また実験内容,実験結果に関して記した.5.2 節では,中空糸膜に沿って塩水が流れる場 合の圧力損失と塩水流速の関係理論,および計算結果について記した.
29
5.1 半径方向の抵抗特性
中空糸膜に垂直方向へ塩水が流れる場合の抵抗,つまり小型中空糸集束帯の抵抗を計測する実 験についての詳細を記す.第 5.1.1 節では,抵抗を計測できるよう,中空糸膜を樹脂とアクリル 板で固定して作製した小型中空糸集束帯について紹介した.第 5.1.2 節では,基礎実験装置の構 成,フローや計測器について,第 5.1.3 節では,実験条件と実験内容について,第 5.1.4 節では,
実験結果および考察について記した.
5.1.1 小型中空糸集束帯
膜モジュール内部の中空糸エレメント領域での抵抗を計測するため,中空糸エレメントを見立 てて,小型の中空糸集束帯を作製した.図 5.3 に示してあるように,小型中空糸集束帯は中空糸 膜とアクリル板のみで構成されている.この中空糸集束帯は,エポキシ樹脂を用いてアクリル板 の間に中空糸膜を挟んだのみで,本研究での実験では,水漏れの問題から,中空糸内部への淡水 の供給は無く,図 5.3 中に赤枠で示す上下の面は同エポキシ樹脂で固めている.つまり浸透を考 えずに,中空糸集束帯の抵抗を計測している.完成時の写真を図 5.4 へ示す(中空糸総本数 3000 本の場合).小型中空糸集束帯の抵抗を計測する際には,フランジに小型中空糸集束帯を挟み,マ ノメーターで圧力損失を計測する.
5.1.2 基礎実験装置の構成と計測器
本実験装置の構成は簡単で,図 5.5 および図 5.6 の写真に示す通りであるが,流量調節バルブ,
小型中空糸集束帯,流量計(ばね秤),圧力計(マノメーター)により構成されている.フローは,
図 5.6 にあるように,タンク→ポンプ→流量調節バルブ→マノメーター→小型中空糸集束帯→ば ね秤→タンクという循環したフローとなっている.ポンプは小型のものをタンク内に設置してい る.小型中空糸集束帯を挟んだ流路系は,内部の空気溜りが外へ出やすいよう,出口側をやや上 に傾けてある.流量調節バルブは,図 5.7-(b)にあるように,ボールバルブと分度器で簡易的に 構成した.流量計は,図5.7-(a)にあるように,ばね秤とバケツで構成した.この流量計は,常に 使用するわけではなく,1 分間での流量を測る検定のときのみ使用し,通常運転時には,ホース を取り換え,循環系統を構成する.
5.1.3 実験条件と実験内容
本実験を行うにあたって,小型モジュールにおける膜面積密度と流量,圧力を設定する必要が ある.ここでの膜面積密度とは,中空糸膜が固定されている領域に占める中空糸膜の断面積であ ると定義しておく.中空糸膜の断面積には内腔の面積も含めている.第 5.1.3.1 項では,現状の 膜モジュールにおける膜面積密度を基準とした,小型中空糸集束帯での膜面積密度を設定し,第
5.1.3.2項では,流量と圧力の設定について,第5.1.3.3項では,実験内容について説明する.
30
5.1.3.1 中空糸の膜面積密度を設定
本節では,小型中空糸集束帯に充填する中空糸の本数,すなわち膜面積密度を設定する.設定 する膜面積密度は,現行の膜モジュールと膜面積密度を基準として設定することとした.そのた めにはまず,現状の膜モジュールにおける中空糸の膜面積密度𝜌𝐻𝐹𝑀 を計算する必要がある.現行 の膜モジュールでは,内径20[mm],外径117[mm]の円筒形状を有する中空糸エレメント領域へ,
平均外径 161[μm]の中空糸が 180000本巻きつけられている.したがって現状の膜モジュールに
おける中空糸エレメント領域での膜面積密度は式(5.1.3.1.1)に示すとおり𝜌𝐻𝐹𝑀=35.1[%]と計算で きる.
𝜌𝐻𝐹𝑀 = 𝜋0
4 ∙(161 × 10−6)2× 180000 𝜋0
4 (0.1172− 0.022) =0.0036645
0.0104372≅ 0.351 ⋯ (5.1.3.1.1)
本実験では,小型中空糸集束帯に中空糸膜を充填するが,充填する領域の断面積は 4mm×
30mmである.ここでの断面積とは,図5.3中の青枠の領域を指す.今回の実験で使用する中空 糸膜は平均外径 122.3[μm]のものを用いる.断面積で割ることで下のように充填率を求めること ができた.
𝜌𝐻𝐹3000𝑆 = 𝜋0
4 ∙(0.1223)2∙ 3000
4 × 30 ≅ 0.294 ⋯ (5.1.3.1.2)
𝜌𝐻𝐹4000𝑆 = 𝜋0
4 ∙(0.1223)2∙ 4000
4 × 30 ≅ 0.392 ⋯ (5.1.3.1.3)
𝜌𝐻𝐹5000𝑆 = 𝜋0
4 ∙(0.1223)2∙ 5000
4 × 30 ≅ 0.489 ⋯ (5.1.3.1.4)
式(5.1.3.1.2)~(5.1.3.1.4)に示しているように,現状の膜モジュールの膜面積密度0.351を挟む形 で中空糸の本数を3000本,4000本,5000本と決定した.
5.1.3.2 流量と圧力の設定
塩水流量については,福岡県の奈多にある海水淡水化施設での淡水造水量と回収率を基に実験 条件を出すと,今回使用するマノメーターでのヘッドがあまりに小さく計測不可能であった.そ のため,下記二つの条件を満たすよう決定した.
① マノメーターでヘッドを視覚的に計測できること.
② 使用するポンプの運転可能範囲であること.
したがって,この流量を含む流量範囲 1[l/min]~4[l/min]で本実験を行うこととする.