岡山大学教育実践総合センター紀要,第6巻 (2006), pp.79‑88
原 著
日本 の伝統的 な歌唱授業の試 み に関す る考察
虫 明 異砂 子 (岡 山大 学教 育学 部 )
岡 山大学 教 育学部 音 楽教 育講座 で は,伝 統 的 な 歌唱 (民謡 )授 業 に外 部 か ら講 師 を招 き,学生 たち が 生 の邦楽 に触 れ , ま た 自 らが体 験 で き る よ うな授 業 を行 って い る。 現在 ま で3年 間 にわた って実施 した 外 部 講 師 に よる民謡 の授 業 を受 講 した学生 に対 して行 った3回 の ア ンケー ト調 査 を基 に,授 業 の 問題 点 と課 題 を検討 し, 「日本 の伝 統 的 な歌 唱 」授 業 の今 後 の あ り方 につ い て考 察 を行 った。 そ の結 果 , 1.教 員 養 成機 関 で は,技術 習 得 を 中心 とす るの で な く体 験 と して学ぶ こ とが重 要 で あ る こ と
,2.
学校 教 育 に お け る伝 統 音 楽 の学 習 には,生 の音 を体 験 し,児童 生 徒各 々が発 声 の違 いや 特徴 を感 じ取 り,それ を 自 分 の声 で 自由に表 現 す る こ とが重 要 で あ る こ と,3.
従 来 の頭 声 的 な発 声 を重 視す る と共 に, 「邦楽 的 な 発 声 」を認 識 す る こ とに よって ,多様 な民族 の 音 楽 を理 解 す る こ とが重 要 で あ る こ とが 明 らか とな ったOキー ワー ド :伝 統的 な歌唱 地声 民謡 頭 声 的 な発声 邦楽的 な発声
I.は じめに
平成
1 0
年 に新 中学校学習指導要領 が告示 され , 改善の基本 方針 が示 され た。そ こでは,音楽科 で重 視すべ き観 点の一つ が,「各学校 段階の特質 に応 じて, 我 が国や諸外 国の音楽 文化 についての関心や理解 を 一層深 める表現活動及 び鑑 賞活動 の充実 を図る とと もに,国歌 『君 が代』 の指導 の一層 の充実 を図 る。」こととされ た 。 これ に関す る 「改善の具体的事項」
として,r我 が国の伝統的 な音楽文化 の よさに気付 き, 尊重 しよ うとす る態度 を育成す る観 点 か ら,和重器 な どを活用 した表現や鑑賞の活動 を通 して,我 が国 や郷 土の伝統音楽 を体験 できるよ うにす る」 ことが 提示 され たQ この方針 に従 って,学校 現場では音楽 の授業 に積極 的 に伝統音楽 を取 り入れ る とか,和楽 器 の活用 を重視す る とい った取 り組 み が実施 され て い る。具体的 には,琴や尺八,三味線 ,和太鼓等 を 授業 に取 り入れ た り,邦楽の専門家 を学校 に招いて 直接指導 を受 けた りす るな ど,様 々な試 みが行 われ てい る。
この様 な学習指導要領 の変化 に対応 して..教員養 成 のカ リキ ュラムが平成
1
3年度 に改訂 された。その 中で, 中学校及 び高等学校 の音楽 の教員免許取得 に 必要な 「教科 に関す る科 目」の一つ で ある 「声楽」の内容 も変更 され た。 そ こでの主要 な変更点 は,従 来の 「合唱 を含む」が新 たに 「合 唱お よび 日本 の伝 統的な歌唱 を含む」となった ことで ある。「改善の具 体的事項」に基づ けば,教員養成機 関では伝統的な
歌唱 を体験す ることが必要条件 となる。
ところで,学校教育‑ の 日本 の伝 統音楽の導入 は, 今 回初 めて行 われ たわ けで はない。既 に,昭和
2 2
年 の学習指導要領試案 において学校教 育‑の導入が 提示 され てい る。 そ こでは, 日本音階の理解等が求 め られ,教材 と して民謡 ,長 唄,雅楽 な どが示 され てい る。 昭和2 2
年 以降の学習指導要領 において も, わ らべ歌, 日本古詩 の歌唱教材 が導入 され た。そ こ では,郷 土の音楽や わが国お よび諸外 国の民謡,氏 族音楽, 日本 の音楽 に関心 を持 たせ る とい う方針 が 一貫 してい る。 平成1 0
年度告示学習指導要領 で も, 小学校 では唱歌,わ らべ歌や民謡 な ど 日本 の歌 を とりあげ, 中学校 では,音楽 の多様性 を理解す る観 点 か ら, 日本 の伝統音楽や諸民族の音楽 を取 り上げる よ う明記 され てい る。今 回の教員養成 カ リキュラム の変更に よ り,学校教 育にお ける伝統音楽の 占める 比重が大きい もの となった。
伝統的歌唱 を実践す る場合 ,避 けて通れ ない問題 として,「発 声法 」を どの よ うに考 え,またカ リキュ ラムの中で どの よ うな位置づ けを与 えるか とい う問 題 が生 じる。 これ に隣接す る問題 として,音楽授業 の歌唱で 「発声法」 を どの よ うに扱 うかがある。 平 成10年度告示学習指導要領 では,「内容 『表現』」に おいて,歌唱指導 にお け る発声 の記述 が,従来の 「頭 声的発声」か ら小学校 では 「自然 で無理のない声」
に,中学校 では 「曲種 に応 じた発声」に変更 され た。
歌唱にお ける この発 声指導の変化 は了伝統音楽の発
‑ 7 9‑
声 」い わゆ る 「邦楽的 な発声 」 とも関連 をもってい る と考 え られ る。 しか し, これ までの学習指導要領 等 を見 る と,民謡や長 唄等 の発声法 につ いては,明 確 な指導法 の提示 はな く,単 に鑑 賞教材 として扱 わ れ てい るのみである。 邦楽 の声楽 は, 日本語特有 の 地声 を用 いた ものであ り,その 「発声 」 は,各伝挽 芸能 の継 承者等 が長 い年 月 をかけて 「伝承」に よっ て獲得 して きた ものであ る。 この よ うな伝統的 な発 声法 を学校教育の 中で実践す る場合 ,検討す る課題 も多い と思われ る。 例 えば,長 い歴 史 をかけて培 わ れ て きた邦楽 の発声等 の技術 を児童生 徒 に どの程度 まで習得 させ るべ きなのか, またそ の必要性 はある のか,頭 声的な発声 との関連性 ,児童生徒 の声 の健 康 面,邦楽の発声 が 日本 歌 曲の 自然 な歌唱にはた し て有効 で あるのか等々であるO これ らの課題 を学校 教 育の現場で検討 し, 日本 の伝統音楽 の歌唱分野で の発声 の扱 い方 につ いての方針 を確 立す ることが急 がれ る。
岡 山大学教育学部音楽教育講座 では,本学部 のカ リキュラムの変更に伴 い,平成
1 4
年度 よ り合唱の1
セ メスター内の1時間 を使 い,邦楽 の授業 を外部講 師 に よ り行 ってい る。14
年度 は等 曲地歌 を,平成1 5
年度,16
年度,1 7
年度 は民謡 の授業 を行 った。これらの授業 に対 しては受講 した学生 にア ンケー ト調査 を実施 してい る。本稿 では,まず ,平成
1 5
年度 か ら1 7年 度 にか けて行 った民謡 の授 業 に対す るア ンケ
ー ト調 査 を取 り上 げ,調査結果 に基づ いて授業の問 題 点 と課題 を検討す る。次 に,
「日本 の伝統的な歌唱」授業の今後のあ り方 について考察す る。
Ⅱ.邦楽の声 に関す るア ンケー ト結果一 民謡の授業 実践 を通 して く3回の記録)
1.
授業の概要①第
1
回平成1 5
年6
月1
3日実施教材 :新相馬節1)(堀 内秀之進編 曲 吟詠民謡) 講師 2)の新相馬節 歌唱 の後 ,民謡 の特徴 である裏声
とこぶ しの付 け方が説 明 され た。次 に,講師の出身 地で ある青森 県民謡津軽 のホ‑ハイ節 が,裏声 を特 徴付 けた民謡 の一例 と して歌われ た。 この時間の仕 上 げ と して設 定 され た各人 の発 表 では,新相馬節 の はや しと歌の部分 の どち らか を学生 に 自由に選択 さ せ る こととした。音 の と り方 として,次 の よ うな注 意事項があった。
I.調 の制限を しない こと
2.こぶ しの付 け方 は 自由であ ること (
ター ン,崩 し方,装飾音の説明)
3.四分音符 を大事 にす ること 4.声の出 し方,歌い方については,
・ は りのあるいい声 を 目指す
・ まっす ぐに歌 う
・ 格式の高い歌い方 をす る
・ 物足 りない部分 はこぶ Lで補 う
・ メ リハ リをつける
・ 旋律 が下 降す る時や長 い音 の直前 で こぶ Lを入 れ る
・ 強い音,長い音 を大切 に歌 うこと
・ 音 を崩す ことを楽 しむ こと
・ 民謡の素朴 さを大切 にす ること
まず全員 で,講師の歌い方 を部分的 に真似 なが ら繰 り返 し歌 った。次 に,各 グループに分 かれ,それぞ れ に指定 され た部分 を練習 し,講師に よ り各 グルー プの メンバー一人一人 に細かい指導が行 われ た。最 後 に仕 上 げ として,各 グループか ら l名ずつ ,計
4
名 に よる新相馬節 が発表 された。学生 たちには長 い 音や強い音 に こぶ Lをつ けるのが困難 であった よ う である。講師 は, フランス歌 曲を専門 とした声楽家 であ り,ベル カ ン ト唱の声 と民謡 の地声 を用いた声 を使 い分 けるこ とが可能 であった。 民謡 で歌われ た 地声 は,決 して張上 げた声ではな く,咽頭腔 が適度 に保 たれ た よく響 き通 る声質 であった。学生 たちが 民謡や西洋 的 な発声 の声の使い分 けを講師の生 の声 を聴 いて真似 てい く方法は,非常に効果 が上が るも のであるが,短時間で仕 上 げることは難 しい ことも 見受 け られた。初 めての体験,合唱の発声 との違 い で戸惑 う学生 も多 く見 られ,発声が うま くいかない 学生 が多 く見 られ た。 しか し,仕 上 げの演奏発表で は,技術的 には未完成 であるが,各 々の個性 が発揮 され た発表 となった。 講師は, 「教員養成機 関では, 民謡 のプ ロ的な訓練 よ りも,学生が楽 しく,いい気 持 ちで取 り組 む こ と,各人の音域や個性 等 に合 わせ た方法 が適 してい ること,装飾音 を付 けやすい調性 を考 え 自分 の声で 自分 の民謡 を歌 う気 持 ちを持つ こ とが大切である。」 と助言 している。②第
2
回平成1 6
年1
1月2 6日実施
教材 :新相馬節 (堀 内秀之進作曲 吟詠民謡) 秋 田音頭3)(秋 田県民謡)
授業 の1週 間前 に,宿題 として秋 田音頭 の歌詞 を作 詞す るこ とを指示 され た。条件 は次の
3
点であった。l)詞型 は 「七,八,九,七,八,九」 とす る こと。
日本 の伝統的な歌唱授業の試みに関す る考察
2)この詞 の最後 にオチ を入れ てあること。
3)地元 を題材 に し,方言 を入れ ること。
授 業の 冒頭 に,講師 に よる民謡 (新相 馬節) が歌わ れ た。 講師 は,幼少期 に獅 子舞や祭 り,盆踊 りな ど の体験 を持 ってい る。 民謡 は地元 の 「歌」であ り, 言葉 の調 子 (方言) が大切 で ある。 今 回の秋 田音頭 は,音程 を とらず言葉 を リズムに乗せ てい く歌で あ る,等々が説 明 され た。
次 に,秋 田音頭 の歌い方 について以下 の説 明があ った。
・ 民謡 には尺八,三味線 を付 ける場合 もある。
・ 調子や抑揚,テ ンポ,音程,調性 は 自由に。
・ 民謡 は発 音 にほ とん ど唇 を使 ってい ない,狭い ドイ ツ語 の発最 で歌 うと丁度 よい,明 るい音色 で歌わない。
・ 下 降音形 で こぶ Lを入れ る。 音 が下が る ときの 圧 力を使 って 自然 に入れ る。
・ 民謡 の方言や なま りは, その地域 の者 でない と 本来の味が出ない。
・ 言葉 の最後 にオチがつ くと,聞き手が喜ぶ。
学生の作詞例の一部 は以下の とお りである。
コラ秋 田名物/八森鯉榊 々 (‑ タハ タ)/男鹿 で は男 鹿 プ リコ 能代春慶 (しゆん けい)/桧 山納 豆/大館 曲わっぱ (秋 田音頭歌詞)
コラみかん愛媛 の/名物 なん じや け/日本 で一番 じゃ み ん な に聞 くけ ど/蛇 口ひ ね っ て も/ボ ンジ ュー ス でんけんね (学生 K.K)
コラ岡 山大学/い ち ょ う並木 がノとって もきれ いです 授 業 の あ る 日 /自転 車 だ らけだ/ま るで 北 京 なみ
(学生M.Y)
コラ岡 山名物/ままか り料理 を/い っぺん食 べ てみ い 白米 み てて/隣 の人 か ら /借 りてお か わ り じゃ (学 生S.N)
コラ後楽 園 のノきれ い な庭 には/毎年鶴 が来 る 鶴 も くるけ ど/それ よ り多いの/外国人 の客 (学生S.D) コラ香川名物/讃 岐 うどんや で/コネ コネ こね あげ ろ ま あ食 べ てみ い/つ や めん魅 惑 に/あん た もほれ ぼ れや (学生 K.M)
講師 の個別指導 の後 , 聞き手が,お輝 子 と掛 け声 を 入れ なが ら,学生 は 自作 の詞 を全員連続 演奏 した。
今 回の授業 は,民謡 の声 の出 し方 よ りも,民謡 の楽 しさにポイ ン トをおい た もので, 自作 の歌詞 で表現 す る とい う方法 で あった。全員 の手拍 子 とお堀子 の も と,学生 は次 々 と発表 した。講師 は,「日本 の民謡 に してはテ ンポが よい。 有名 な ソー ラ ン節 だけでな く,台詞 が多い民謡 だ と子 どもは大喜 びす る。 ほ ぐ れやす い小学生 の場 合 ,その よ うな曲 を教材や レパ ー トリーにす る とよい。 大発 表会や講 習会 でス トリ
‑ トダンス をつ けてや った りで きる。」と助言 があっ た。児童生徒 が楽 しく取 り組 みやすい民謡教材 の選 択方法 を示 してい る。
③第
3
回平成1 7
年6
月1 7日実施
教材 :ソー ラン節 (北海道 民謡)全員 で講師 と一緒 に歌 いなが ら,細 かい節 まわ し, 合 いの手の入れ方 ,言葉 の意 味等の説 明 を受 けた。
講師 の生 の声 で, ソー ラン節 の説 明 を加 えなが ら, 学生 に歌わせ てい く方 法 で,真似 か ら民謡 に入 るた め非常にわか りやす くかった と思 う。
次 に,民謡 の唱法 の特徴 について, ソー ラン節 を 例 に様 々な説 明が行 われ た。
・ 自分 が歌いやすい音程,調,テ ンポで よい。
・ 音質,音程 , リズ ム を均一 にす るので はな く, 音 をゆ ら し,押 した り, 引いた り, ター ン させ
る。
・ こぶ し (装飾 音) の付 け方 は 自由であ る。 こぶ Lは 自分 の歌の個 性 にな り,聞 き手に は,次 に どんな こ とをや るのか期待 させ る こ とができ る。
・ 1小節増や して歌 った り, リズ ムや音 をず らし て歌 った りす る こ とも歌い手の個性 で あ り, 自 己表現 である。
その後,ベル カ ン トと地声 について講 師の考 えが述 べ られ た。「民謡 の プ ロは,上の音 にな るほ ど音色 を 変 えず共鳴 を使 わない で,地声 の色 のまま発声す る ことができ る。 西洋 的 な胸声や頭声 は,上に行 くほ ど息のス ピー ドを上 げて音程 を上 げてい く。 民謡 の お も しろ さは,頭声 の響 き を重視 したベル カ ン トの 歌い方 ではでないが, クラシックも民謡 も,裏声 で も地声 で も音色 を統一 させ る とい う点 は同 じ。 しか し,民謡 は裏 声 で は こぶ Lをか けに くい。 しゃがれ た声で裏声 を出せ る と地声 と一致 し,音色 が統一 で きるO そのた め,咽喉 を何度 もつぶ してわ ざと優れ 声 を作 る民謡歌手 もい る。」
講師 は,民謡 の個性 的 で華や かな表現方法 につい て,生 の声 で多 くの実例 を示 しなが ら指導 を行 った。
授業後半の演奏発 表 で は,全員 の手拍 子 とお磯子 の も と,学生 が一人一人挑戦 してい った。 しか し,秦 声 のまま歌 う学生 が多 く, こぶ しがなかなかで きな い,音符 どお りの歌い方 にな って しま う等,民謡 の 自由で開放 的 な雰 囲気 まではなかかなか味わ うこと が出来なか った と感 じた。 民謡や 邦楽 に慣 れ ていな い学生 は蹄謄 す る様 子 も見 られたが,全体 にいい雰 囲気 で演奏 が行 われ , そ の結果,学生 は この課題 に
‑ 81‑
熱心に取 り組む ことができた。
2.調査方法
①調査 日的 :受講生の邦楽 (民謡) に対す る意識や 問題点 を探 る。
②調査時期 :第
1
回平成1 5
年6月 1
3日,第2回平
成1 6
年1
1月26日,第 3回平成 1 7
年6
月1 7日
③調 査対象 :「合 唱」の受講生。内訳 は表 1に示す通 りである。
表1回答者の内訳 (人数)
男 女
15 18 6 1 12ー学校 教育教員養成課 1年生 2
午 程 7 2年生 8
度 総合教育課程 生涯 教 3年 生4
育 コー ス S
他学部 3 4年生4
16 25 3 22 学校 教育教員養成課 1年 生ll
午 梅 17 2年生 7
度 総合 教育課程 生涯教 3年 生7
育 コー ス .6
他学部 2 4年生 o
17 35 5 30 学校 教育教具養成課 1年 生23
午 程 18 2年 生7
皮 総合教 育課程 生涯教 3年 生2
④方 法 :選択方式 と記述方式 による質問紙法
⑤調査 内容 :1)日本 の伝統音楽 のイ メー ジ と授業‑
の期待,2)邦楽 の声楽 と邦楽発声 につ いて,3)邦楽 の声楽や発声 の導入 につ いて,4)邦楽 に対す る学生 の意識 につ いて,5)技能の習得 について
3.集計結果 と考察
① 日本 の伝統音楽のイ メー ジ と授業‑の胡待
各
3
回の授業前 に取 った集計 では, 日本 の伝統音 楽 に対 して持 ってい るイ メー ジは,"古い",̀くな じみ が ないH,H日本 人 の音楽",そ して"魅 力 的 な音 楽"0 10 20 30 40 50 図1「日本の伝統音楽」のイメージ
とい うのが平均的な回答 であった。 しか し第
3
回 目 のアンケー トは調査では, 日本人の音楽 とイ メー ジ してい る学生 が44.4% と非常に高 くなってい る。近 年 の 日本 の伝統音楽 の関心の高ま りとともに, 日本 人の音楽 とい う意識 が広 く浸透 してきた もの と考 え る (図 1)0次 に,授業‑ の期待す る内容では,"邦楽の知識 を 得 るH,"邦楽 の声楽 を体験す る","発声 を体験す る", 西洋的な発声 との違 い を知 る砧の
4項 目にわた って,
平均的に関心 を持 ってい ることがわか る (図2)
0邦 楽的な 発声を身に 付ける 西洋的fcL‑発声との 違いを知る 邦 楽的な 発声を体験する 邦 兼の 知 誰を 得る 邦楽の 声兼を体験する
3245 ー.̲9̲22214
9■第E}第2【3E司 0
粥‑ LLl
llJ‑1l E)第1[司 8.
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 図2授業への期待内容
②邦楽の声楽 と邦楽発声について
次 に各
3
回の授業後 に行 ったア ンケー トを考察す る。 民謡 の感想 について, 「お も しろい」が約60%
と高 く,第
2回では,8 2. 8%
と非常に高い数値 とな った (図3)。 これ は,第2回 目の授業の内容が, 自 作の歌詞 を定型 の リズ ムでラ ップ調 に歌 うことであ り,学生 同士 で内容 を注意深 く聞き合 えた こと,氏 謡 の声質 よ りも体験 を重視 した内容で あった こ とで 取 り組みやすかったのではないか と考 え られ る。邦楽 の声 につ い て は,"西洋 的 な発 声 とは全 く違 う" とい う感想 をもった学生が比較的多かった (図 4)。続 いて,"魅 力的な声","自然な声"とい う認識
を持 ってい る。一方∴̀咽喉 を痛 める'',"自分 に合 わ
その 他 無味がない E]本人の 音楽と痛感 民話 以外のものも知りたい おもしろい
0 20 40 60 80 100 図3「民謡」の感想
ない"な ど,否 定的な感想 は
1 0%以下 と低 くなって
い る。 第2回 目で "咽喉 を痛 める'
'が1 0. 8%
とな っ てい るが,授業で詞 を朗詞するよ うな大きな声が必日本の伝統的な歌唱授業の試みに関す る考察
そ の他 西洋的T.IT失声と連う尭丁 自分に合わない F qqtを L暮め る声 本人にとって 白熱 F 魅 力的TZ声
0 10 20 30 40 50
図4r弗条の声」の感想
要 とされたため と考 え られ る。邦楽の声で困難 と感 じる点については,第
1
に発声の難 しさを感 じ た者が過半数 を占めてい ることがわか った。(図5)
。 その こ とに追随 して,̀̀どん●な声 を出 していいのかわ か らない''が3 0%弱 となっている。
その 他 とん1'ZTかわ からflい 邦 兼の 先事に肱 托あり 発声が #しい
0 1ロ 20 30 40 50 60 70
図5声で日韓を感じる点
民謡の授業第 1回では,講師 の範唱の後学生が歌 うとい う反復練習 を し, こぶ Lや うな りな どの技術 を身に付 ける とい う授 業であった。初 めて経験す る 学生 が大半であ り,慣れ るまでに相 当の時間 を要 し た ことが,発声 に関 して若干高い数値 となった と原 因ではないか と考 え られ る。 次に,発声で困難 な点 は,"咽喉 に力が入 りやすい"が全体の 中で高い数値 となってい る (図
6)
。特 に第2
回は5 6. 3%と過半数
を超 え,第3
回は46. 3%
と高い。 第2回の教材秋 田
音頭 では しゃべ りの要素が強 く,張 り上げて声 を出 した学生 が多 く見 られた ことに よる と考 え られ る。また,民謡 を魅力的 な声 と感 じる学生が多かった反 面 (図
4)
,発声の困難 さを指摘 した者 が60%前後 あ
その 他 .t、が牧かTJ‑い 咽 qE【こ力が 入りや すい 古い 7Fが 出しにくい 低い 声か出 ̲.にくい
0 10 20 30 40 50 60
回6発声で困難な点
った (図 5)。 そ の理 由は低 い声 が出 しに くい (約
45%)
‥息が続 かない (約27%),咽喉 に力が入 る (
約45%)であった。 学生 は授 業で講師の範唱に よ り声
の出 し方 ,こぶ しの付 け方等直接 に指導 を受 けたが, 発声面で多数 の者 が困難 を感 じてい ることがわか る。これ ら発声 に関す る問題点は, これ まで邦楽の声楽 がスムーズに導入 され なかった原 因にあるのではな いか と考 えられ る。
③邦楽に対す る学生の意識 について
第
2
回の "邦楽 を身近に感 じる"の数値 が過 半数 を超 えたのは,定型 の詞型 に 自作の歌詞 をはめて表 現す る楽 しさを前面に置いた授業であったため と考 え られ る (図 7)Qまた,第 1回の "邦楽の発声 を学その他 わ からfjい E]本の 伝統 青蕪について考える 弗兼を■近に感じることが 出 来た 邦兼の 先■モ事Ii',ことが 出来た 事8事の 声兼を手.iこ とが 出 果た
0 10 20 30 40 50 60
回7授業で身についたと感じる点 ぶ"が
3 4. 8%
と他 に比べ高かった理 由は,民謡の発 声 を中心においた授 業 であったため と考 えられ る。他方.第
1
回では,"日本 の伝統音楽'',"邦楽 を身近 に感 じる''の数値 が全3回の中では,一番高い数値 となってい るC この こ とか ら, 日本 の伝統音楽 に対 す る意識 を高めるためには,必ず しも第 1回授業の よ うに邦楽 の発 声 を中心す る必要はな く,声 よ りも 民謡 の楽 しさを追求 した, よ り自分の身近に感 じる 内容が適 してい るのではないか と考 え られ る。今後 に活か したい点では,"日本 の伝統音楽 に触れ る機 会 を持 ちたい"と考 える学生 は40%
を越 えてい る。一 九 邦楽 の発声 は20%以下であ り了 ̀
邦楽の習得 にその 他 わ か らfiい 事古井モ 何か ,eliIlLたし、
他 民族 古井にt,〜れ る烏 合を 持ちT=い 8本の 伝統 書 兼に触Tl.る洩会を 持ちたい 那 兼の 発声もできるようにしたい
C
l(】 20 30 40 50図8今後に活かしたい点
‑ 83 ‑
関心が ある"学生 は
,1 0%
前後 に とどまった。 これ よ り, 日本 の伝統音楽 を 「機 会」 として考 える傾 向 が うかが える (図8 )
0④邦楽声楽の技術の習得 について
第 3回は, ソー ラン節 の こぶ Lについ ての実践で あった。 第3回受講学生の こぶ し習得 の 自己評価 で は.で きた と実感 した者 は
0%
,「できなか った」 と 実感 している者 は約43 %
であった (図 9)04
86171 86
0
図9「こぶし」の習得
その理 由について,咽頭‑力が入 る,短時間では習 得 できない, こぶ しのや り方 がわか らない (数名) 等 の指摘がな され た。 邦楽 の中では身近 に考 え られ る民謡 であるが, こぶ L等 の声楽技法 を習得す るに は, ある程度 の練習期 間 を要す る と考 え られ る。学 校 教育では, こぶ しの方法や なぜ ここで こぶ Lを使 わせ るのかを理解 させ ,教師の範唱等 に よって音づ くりの認識 ができれ ばよいのではないか。
最後 に児童生徒‑ の邦楽発 声 の必要性 を尋 ねた と ころ
,73%
が必要 と考 えてい る ことがわか った。必思わ ない あ まり思わ ない 少し思う
思う
0 25
88 14
0 10 20 30 40 50 60 70
図 10児童生徒の邦楽的な発声習得の必要性 要 がない と考 えてい る学生 は
0%
であった (図1 0)
。 その理 由を表 之に示す。「思 う」,
「少 し思 う」と回答した理 由は, 日本 の伝 統や 日本 人 を意識 した内容 と 様 々な声の出 し方 を意識 した内容 が多数 あった。学 生 たちの多 くは,邦楽的な発声 を取 り入れ るべ き と い う意識 を強 く持 ってい るこ とがわか る。一方
,
「あ ま り必要 と感 じていない」 と回答 した学生 は26. 5%
見 られ た。 その理 由 と しては,喉頭‑ の負担や習得 の難 しさの指摘 があった。 また,専門的な発声技術
の習得 に対 して消極的 な意見 も見 られ た。伝統的な 歌唱授 業 で民謡 を体験 した学生 の約
60%
は邦楽発 声 の困難 さを感 じていた ことか ら (図5),児童生徒‑ の取 り入れ方 の 中で,発声に重点 を置 くとな る と 指導 しづ らい とい う問題 を抱 えることが予想 され る。
発声面では
,
「民謡 の歌い方 は,ある程度大人 になっ てか らの方 が分 か りやすい と思 った。 小 さい ときか ら邦楽発声 を していた ら咽喉 を痛 め,西洋音楽 の発 声の方 に移 りに くい と思 ったか ら。」とい う意見 も見 られ た。 平成1
0年 中学校学習指導要領 で示 され た「曲種 に応 じた発声」 は民謡等の邦楽的な発声 も含 んでい る。 しか し,その到達度や必要性 の程度 につ いては,慎重 に検討すべ きであろ う。
表2 児童生徒の邦楽発声習得 について
回答 理 由 (自由記 述 )
忠う た くさんの声 を出す必 要 があ るか ら日本 の特徴 をつ かむ必 要 が あ る
*
色 々な発 声 が出来 た方 が いい と思 う △
日本 人 だ か ら
*
日本 の伝 統 的 音 楽 で知 ってお くべ き だか らQ葬 りな
*
どで よ く聞 くはず だか らo
少し すぼ ら しい音 楽 で あ るか ら日本 の文 化 だ か ら
*
忠 日本 の伝 統 に触れ るこ とは大切 だか ら
*
う せ っか く 日本 に生 きてい るか ら
*
日本文化 を知 るた めに も必 要 だ と思 うか ら
*
色 々な声 の 出 し方 に触 れ る といいか ら △ 日本 人 だ か ら知 って い た ほ うが い い ,合唱 をす る と
*
難 しい点 が で るか も しれ ない
お も しろか つたか ら楽 しめ ると思 うの で △
*
西 洋 の 発 声 も 邦 楽 的 な 発 声 も ど ち ら も で き る と 色 々な歌 が歌 えて いい と思 つたか ら
日本 の音 楽 も知 るべ きだか ら
い い声 を出 す よ うに言 われ るが,それ だ けでは な いとい うこ とを知 らせ るた め △
*
日本独 特 の音 楽 は途植 えて欲 しくな いか ら
あ 自分 た ちの よ うな年 齢 で も難 しい の で,小 さい子 に ▼
▼
ま は無理 だ と感 じた
り 伝統音 楽 の道 を進 む人 ばか りでないか ら 忠 発 声 がで きな くて もいい と思 うか ら
わ 将 来 的 に音 楽 を勉 強 す る人 に つ い て は も ち ろん だ な が ,普 段 よ く按 す る西洋 に対 す る自分 の 国 の音 楽 を
レ ヽ
知 って欲 しい 咽喉 を痛 め るか ら民謡 の 歌 い方 は ,あ る程 度 大 人 にな っ て か らの方 が 分 か りやす い と思 ったo小 さい ときか ら邦 楽発 声 を してい た ら咽喉 を痛 め,
▼
西洋 の方 に移 りに くい とお もつたか ら
い らな い
▼
難 しいか ら
や りたい人 はやれ ばい い と思 うか ら 違 い を意故 ▼喉 頭 の負担 ・斉 しさを指摘
⑤アンケー ト調査ま とめ
まず,講師 の授業の意 図は,次の よ うにま とめる ことができる。
第
1
回 :民謡 では, 自分の音域や個性 に合わせ て, こぶ し(装飾音)を付 けやすい調性 を考 える。 それ に よって,各人 が 自分の民謡 として 自由に演奏 し,莱 しく取 り組む ことができることが示 された。第2回 :民謡 を七,八,九の詞型で しゃべ りの よ う
日本の伝統的な歌唱授業の試みに関す る考察
に歌 うことで,歌唱の声や発声技術 とは関係 な く, 民謡 を楽 しめることが示 された。
第3回 :民謡 は発声技術 でな く,歌い手の 自由な表 現が個性 とな り,それ が聞 き手の期待感や満 足感 に つなが ることが示 された。
学生 に対す る伝統的な歌唱のア ンケー ト調査 は,以 下の よ うに集約す ることができる。
I) 日本 の伝統 音楽のイ メー ジは,̀̀古い",̀̀な じ み がない'',"日本 人 の音楽",そ して "魅 力的 な音楽''と平均 的 に捉 えてい る。 また学生 は, 邦楽 の知識 や 邦楽 声楽 の体験 ‑ の関心持 って い る。
2)
特 に発声 に こだわ らない授 業 内容の場合 (第2
回), 民謡 に対 して 「お も しろい」 とい う評価 を多数得た。3)
民謡 の発声 については,西洋 的な発声 とは全 く 違 うとい う認識 を持 っている。4)
民謡 の声で困難 と感 じる点は,第1
に 「発声」の問題 であることがわかった。
5)
民謡 の 「体験 」は,邦楽 を身近 に感 じ,他 民族 音 楽 や伝 統 音 楽 ‑ の興 味関 心 の 向上 につ なが った一方,発声‑ の関心が薄い ことがわかった。6)
児 童 生 徒 ‑ の邦楽発 声 の必 要性 を考 え る学 生 が多数 い ることがわか った。一方,民轟 の体験 を通 して,邦楽発声の習得 の難 しさも多数感 じ てい ることがわかった。受講生 の感想 では,講師の意 図が学生 に反映 され, 全
3
回を通 して,面 白かった,楽 しか った とい う肯 定的 な感想 が大多数 であった。授業開始時では民謡 に対 して戸惑いや抵抗感 があった学生 も,体験す る ことに よって,親 しみや興味が増 した こ とが分 か る。また,地声 を発声す る ことが気持 ち よい と捉 えてい る者 も見受 け られ た。一方,発声や歌い方 について よ り詳 しく指導 を求 め る学生 も数名 見 られ た。民謡 は, 日本 の伝統音楽 の 中では, もっ とも地域 に密着 したわれ われの身近 にある音楽 である。教員養成機 関で伝統音楽の声楽 に取 り組 む場合, まず各人の地 域の方言や仕事, 自然 に根 ざ した民謡 を持 ってい る ことを認識す ることが必要である。 そ して,邦楽 の 発声技術 が未熟 で も,各人 が 自由に開放 的な気持 ち を持 って歌 ってみ るこ とが重要 ではないか と考 え ら れ る。 これ らア ンケー ト結果で得 られ た問題 点,邦 楽の体験 と発 声技術 の習得の関連性 についてⅢ章で 考察す る。
Ⅲ.
伝統的な歌唱に関す る考察1.
中学校学習指導要領 に見 られ る伝統音楽の扱い 伝統音楽の ジャンル は非常に広い。伝統音楽の捉 え方 も様 々であ り,伝 統音楽, 日本音楽,邦楽,伝 統芸能等 呼称 も様 々で ある。平井澄子 の 「日本人 が 作 り出 し,演奏 し, これ まで伝 えてきたすべての音 楽が 日本 の伝統音楽 で あ る」との考 え 4)に基づ けば, 能,狂言,義太夫,長 唄,等 曲地唄等 の古典邦楽から現代 まで歌い継 がれ てい るわ らべ うた,唱歌,氏 謡等 まで これ ら幅広 くすべ ての ものが伝統音楽に含 まれ るべ きであろ う。 邦楽的な発声 とい って も,伝 統音楽の多様 な ジャンル に応 じた発声 は様 々であ り, それぞれ の声 の出 し方 を習得す ることは不可能であ る。学習指導要領 に示 され た昭和33年以降の 「内容
『表現
』
」を見 る と次 の よ うに記載 されてい る (表3)
0「目標」では,昭和
33
年 か ら昭和5 2
年告示で示 さ れていた 「郷 土の音楽や 日本及 び諸外 国の民謡」が 平成元年 以降 「多様 な音楽」とい う文言 に変化 して い るのがわか る。歌唱指導 にお ける発 声 として提示 され ていた 「頭 声的発声 」が平成1 0
年度告示で 「曲 種 に応 じた発声 」に変更 され てい る ことも,
「多様 な音楽」 と深 い関わ りを示 してい る。 また,平成元年 以降は
,
「目標 」に 「幅広 い鑑 賞の能 力」が加 わった ことも特徴 である。次 に,
「内容 『表現』
」を見 る と,「我 が国及 び諸外国の民謡並びに古典 か ら現代の作 品」の記述 は昭和
33
年 か ら現在 までほぼ同様 の内容 となってい る。昭和22
年 の指導要領 で鑑 賞教材 に邦 莱 :民謡 と提示 されて以来,継続 して民謡 を伝統音 楽の入 門的な位 置づ け を した ことがわか る。特 に, 昭和44年 では,民謡 の共通教材 が指 定 され てい ると
ころか ら,昭和40
年代 か ら5 0
年代 にかけて学校教 育で民謡 の授業 が頻繁 に扱 われていた ことがわか る。当時の中学校教師の意 見 として了民謡 はわれわれ の 日本人の生活や感情 が もっ とも強 く表現 されてい る。
そのため伝統音楽 に親 しみ を持 たせ ,理解‑の手が か りとしては,もっ とも効果 のある ものである。」と 民謡 の教材 としての有効性 が述べ られ てい るOまた, その当時の 3年 生共通教材 「か りぼ し切 り歌」の難
しさも指摘 してい る。この曲を全体で斉唱す る場合, 自由 リズムに馴染 めず 大変難 しい と指摘 してい る 5)0 この ことは,教材 を選択す る際には,各々がいかに 感 じるかが大切 であ り,民謡 の技術的 な習得 に終始 すべ きではない ことを示唆 してい る。
次 に,平成元年告示学習指導要領 で示 され た 「多 様な音楽」 とは,郷土 を含 めたわが国及び世界の音
‑
8 5 ‑表 3 中学校学習指導要領における伝統音楽関連妃述 下線部は筆者による
昭和33年告示 昭和44年告示 昭和52年告示 平成元年告示 平成10年告示
目 1年 :郷土の音楽やわが国お 1年:郷土の青菜やわが 1年 :我が国及び諸 1年 : 様な音 1年 :重畳を量里 に興 味関心
よび 界の有名な民謡 .民俗 および諸外国の民謡, の民謡並びに古 に を ,幅広 くiE る b
音楽を取り扱い,それらの養 民俗青菜に親しみを持 典から現代の作品ま 芯を持たせ る を育てるQ (荘貫帯域 )
市守共通性を感じさせるO 町 でのうち,平易で親 とともに,幅広 2.3 学年 :音楽 に対 す る総
2年 :郷土の音楽,各種の民 2年:郷土の音楽やわが しみのもてるもので い鑑賞 の 寵7f 合的な理解 を深 め,幅 広 く官
謡及び民族音楽などについて,それぞれの音楽の特色ある美しさを味わわせるQ 3年 :時代別および民族別に立てを理解させ,特に日本のよる音楽の特徴や音楽の組み
音楽に対する関心を高めるD 万官有:3年:石膏m音楽の動向に関心を持国および諸外国の民謡,民俗音楽の特色を味わ国および諸外国の 百氏"たせるO、音楽の特色を郷土の音楽やわがもに,日本のL, あること○ を養 う○ 夏至亘置夏を高め る丁‑
1年 :わが国や世界の明るく
親しみ すい有名な歌 ,氏 1年:※曲種は,わが国や諸外国の民謡及び古 諸1年 :※我 が国及び外 国の百雷肝 1年 :※我 が国及 び 諸 ∠町圏 面 1年 :※わが 国青 菜及 び世界の古典 か ら現代 まで の作 品,
詣およてメ郷土の歌
2年 :わが国や世界の親しみ
やすい有名な歌曲や民謡 典の歌曲から現代の歌 古
典
か ら現代 の作品 民 謡 並 び に 古 郷 土 の民謡 な ど我 が 国及 び) tみのあるものとする勺 ま曲までのうち,平易で 親しみの
での
うち,平易 でもて るもの ゝ 世界の民謡 の うち,平易 で親t罰 ㌻もて る もの で あ る こ ロロ で の つこきりこ節 (富山県民 で
あるこ
とQ ち丁平 易 で親し と○蘇) 2
年 :※,
親 しみ の み の も て る も ・我 が国 で長 く歌 われ 親 しま2年 :1年と同様 も
てるもので
あ る こ のであ る ことo れ てい るもの斉太郎節 (宮崎県民謡) と
Qま
た,郷土
の民 2.3年 :わが国 ・我 が国の 自然や 四季 の美 し3年:※,平易で芸術的 謡を取り上げるよう 音 楽及 ※ ,親 し さを感 じ取れ るもの
なものとするQ に
すること○
一一み の も て る も ・我 が 国の文化や 日本語 の もかりぽし切り歌(宮崎県 3
年 : 2年と同様
の であ る ことQ つ 美 し さ を 味 わ え る も の民謡) けき日と
本民謡の旋律にお る装飾的な音の動 して) ( 理解させる事項 o
2.3年 :栄,生 徒 の意 欲 を高 め,親 しみ の もて る もの であること(1‑3年)B楽 を示す ものである。 これ を歌唱領域 で実践す るた めには,「曲種 に応 じた発声 で」歌 える ことを意味す る。 また,今 回の教員養成機 関で提示 され た 「伝統 的 な歌唱 を含む」 によって,伝統音楽 を多様 な音楽 の一部 を捉 えてい る と考 え られ る。即 ち,邦楽的な 発声 を世界 の多様 な発 声 の一つ とみな してい るのが わか る。伝統音楽 の発声 の種類 は,前述 した よ うに, 多岐 にわたってい る。平成
1
0年 度告示 中学校学習指 導要領解説一 音楽編 に よる と,学校教 育で押 さえて お くべ き視 点は,わが国や諸外 国の様 々な歌唱曲に は様 々な発声法がある とい う認識 をもっ こと (発声 の多様性 の認識) であ り,本来 の持 ち味が よ り的確 に表現でき る発声 に気づ かせ ること (曲種 にふ さわしい声 の理解) としてい る6)0
従来の学校教育 での発 声 「頭声的発声 」 と 「邦楽 的な発声」 を比較す ることに よって, この両者 の特 徴 を よ り深 く捉 えるこ とがで き,それ に よって多様 な民族 の多様 な音楽感 覚 を呼び覚 ます ことができる のではなかろ うか。
2.
「曲種 に応 じた発声」実践上の課題7)今 回行 ったアンケー ト調査 では,伝統音楽 に対す る意識 は高い こ とがわか った (図
7,8)
。今や伝統 音楽 は特殊 な音楽で はな く,世界 の様 々な民族音楽 の一つ である とい う認識 が広 が り, クラシ ック音楽 や一般 的な流行 の音楽 では味わ えない音楽観 を培 っ てい る。 この歌唱分野 での指導方法 について,筆者 が 米 国hdi a na
州 立 大 学 音 楽 学 部 で 参 加 した「 ht e ma t i o na lⅥ) G a lEns e 血b l e」( Ⅰ VE)」の授業事例
は,有効な一方法 と考 え られ る。授業 では,世界 の 様 々な地域 の伝統的 な歌唱 をVTR (視覚申 導入) とCD
や録音等 (聴覚 的導入) によって,繰 り返 し 視聴 し,声 を模倣 してい く方法 を とってい る。Ⅰ VE
の合唱 クラスは,様 々な民族 の音 を再現す ることに 成功 した。 この クラスは,いわゆる西洋 的な合 唱 と は異 な る合唱 を 目指 してお り,様 々な発声法 を実践 演奏 してい る。筆者 は 1セ メスター毎 回授業 に参加 し,学生の状態や指導者 の授業 内容 を体験 した結果, ある程度 までは声 を民族特有の音色や 歌い方 を再現 す るこ とができることがわかった。 これ を 日本 の伝 統音楽 の声楽授業 に置 き換 える と,長 唄や民謡等の 発声 もこの方法 である程度まで習得で きるもの と推 察できる。 児童生徒 に取 り組 みやす く,興味関心が 湧 きやすい伝 統音楽 を選択 し,その映像 と音声 を繰 り返 し視聴 し,各人が音楽や演奏者 の雰 囲気や発声 を感 じ取 りなが ら歌 うとい う方法であ る。模倣す る こ とで,伝統音楽その ものを自分 自身 で体感できる のではないか。しか し, 日本 の学校 教育‑ この実践法 を取 り入れ るためには,い くつかの問題 が予測 され る。 1つ に は,時間的 に
Ⅰ V
E クラスの よ うな繰 り返 し学習 が 日 本 の音楽授業 では行 うことが困難 であ ること。2つ には,大 スク リー ンを何箇所 か琴置 し,質 の高い映 像や音声 を体感 できる環境設 定が難 しい こと。3つ めは,学校教員 には,ⅠV
E の指導者 の よ うに フィー ル ドワー クができ,実 際 に教員 自身 が伝統音楽の演日本の伝統的な歌唱授業の試みに関す る考察
奏技術や知識 を習得 してい る実践研究 してい る者 が 少 ない ことである。 日本 の学校教育では,まず,梶 聴覚教材 を十分 に活用す ることによって,個 々の生 徒が曲や声 の特徴 に気づ き,模倣す るこ とか ら始 め る必要 があろ う。 さらに,邦楽 の場合 には,地域の 伝統音楽 の伝承者等 を招 くことによって,生徒 にそ れぞれ の 自然 な感覚 で歌い方や声の出 し方 を感 じ取
らせ ることが必要であろ う。
3.「
伝統的な歌唱」の発声上の課題邦楽的な発声 について,一方 では,習得すべ きで ある とい う考 え方 があ り,他方では,習得す る必要 がない とい う考 え方が ある。長坂 は, 日本 の伝統音 楽の発声について次の
3
点を示 してい る8)0表4 長坂幸子の示 した伝統音楽の発声
l)西洋音楽 のベル カ ン ト唱法 を主 とすべ き とす る もの で,特 に子 どもに対 して は 「軽 い頭 声 的発声」 を用 い るべ きであ る。
2)日本 の音楽 を歌 わせ る場合 には,「日本 的発声 (いわ ゆ る地 声 )」 を用 いて 日本 の伝 統 等 的 な味 をそ の ま ま生 かすべ きで ある‥.とす るもので, 日本 音楽 の発 声 を一応 「地声 」 を主 と し,「裏声 」 は技 巧 的 な発 声, または高音‑ の逃 げ声 として用い る。
3)内面 的に 日本 音楽 の精神 が生 か され るな らば,発声 そ の もの は新 しい 「現代発 声」 を用 い るべ きで あ る 即 ち, 日本 的発声 には生理的 に無理 な点 が あ る とい う理 由か ら,新 しい西洋音楽 の発声 ,す なわ ちベル カ ン ト唱法や ドイ ツ式 発声等 を経 て,感 覚的 な もの に科 学 的 実験 等 を加 えて 出来 つ つ あ る発 声 を用 い るべ きで ある。
これ らの考 え方 は,現在 で も論議 され てい る ところ である。1)の よ うに 日本音楽 を頭声発 声 で歌わせ る のは,曲種 に対応 していない とい う点で無理 が ある。
また,2)の よ うに 「地声」と 「裏声」を用い る場合,
「地声」が硬起声 中心 の咽喉 を締 め付 けた声 にな る 可能性 が高 く,児童 には技術面で困難 ではないだ ろ うか。3)では,西洋音楽 の発声 と日本 (邦楽)的発 声の融合 を指摘 され てい る。 これ につ いて,近年 , 多 くの研究者 が,2者 を比較す ることで,明確 な 日 本語 唱法や伝統的な発 声の確 立に向けて科学的実験 等 を試みてい る9)。腹式呼吸で 口腔 内の共鳴 を使 っ た 「よい地声」 も存在 し,例 えば,長 唄や民謡 な ど の よ うに上咽頭 や 鼻腔 の共 鳴 を用 い る場合 もあ る
10)。 しか し,西洋的 な発声 と邦楽的 な発声 の相違 点 や共通点 は見出せ て も,実際 に発 声 を使 い分 ける方 法 を具体的 に声 で表現 できる指導者 はそれぞれ のプ ロの領域 に属す る者 でなけれ ば困難 で あ る。伝統音 楽の歌唱 を体験 とい う視点か ら捉 える と
,
「発 声」はで きる限 り生 の音声 に よって各 々が感 じ取 ることが 大切で あ り,その音声 は 自分 の声 で 自然 に発す る声 が よいのではないか。
ここで,着 目すべ き点 は,西洋的な発声 (咽喉 に 負担の少 ないベル カ ン ト発声) をどの よ うに位 置づ けるかであろ う。
hdi a na
大学では,先 に述べた曲種 に 応 じ た 世 界 の 様 々 な 声 を 実 践 し て い る「 ht e ma t i o na lⅥ) G a lEns e mbl e」 ( Ⅰ VE)
, ゴスペ ル「
A m e r ic a nAf hc a nVo c a lEns e mbl e」( Mul t i ‑ c ul t ur a l )
, ミュー ジカル「 Shg i ngHoos i e r s 」( Sho wChoi r )の合
唱 クラスで も,授業 の冒頭 に毎回2 0
分程度行 われ る 基礎 的な発声練習 は,ベル カン トの発声 であった。この ことは,伝 統音楽 の歌唱 を行 う場合 に も,頭 声 的発声 を大切 にすべ きで あることを示唆 してい る。
各 クラスの指導教授‑ のイ ンタ ビュー の中で も,咽 喉 を酷使 しない頭声発 声やベルカ ン ト発声 の重要性 が述べ られ ていた。筆者 は,彼 らの演奏会等で,美 しい響 きで歌われ るス ピ リチ ュアルや古典の合唱音 楽か ら地声や胸声 で高音域 を歌 うミュー ジカルや ゴ スペル まで,開放的 で 自由な表現 を聴 くことがで き た。
これ らの経験及 び本論 での考察 を通 して, 「伝 統 的な歌唱」の発声 を ど う考 えるべ きか とい う大 きな 課題 につい て,筆者 は次 のよ うに考 える。戦後
6 0
年 間学校教 育で培 われ てきた 「頭声発 声及び頭声的 発声」に よって児童生徒 は,無理 のない 自然 な声 の 響 きを学習 してきた。 日本 国内では,戦後ひば り児 童合唱団,東京放送児童合唱団,西六郷少年少女合 唱団等数 々の少年少女合 唱団が設立 され,また,港 外か らは昭和30
年 の ウィー ン少年合 唱 団,昭和40
年 のハ ンガ リー少年少女合唱団等の来 日によ り,頭 声発声 を主に した発声指導 の大切 さが一層強調 され るよ うになった11)。これ まで学校教育で培 ってきた この発声 を,伝統音楽や 曲種 に応 じた発声 に適応 さ せ るた めに捨 て去 るべ きであ る とい う考 え方 12)も ある。 しか し,響 きや美 しい声 を 目指 した この発声 法 は,グローバル ス タンダー ドな発声 であ り,「歌唱 芸術 の基礎 」 とい える。それ を伝 える ことができる のが学校 教育の現場 で ある。筆者 は, この発声 を歌 唱の基本 的な発声 として大切 に扱 うこ とで,伝統的 な歌唱の発声 との相違 が明確 にな り,学習効果が上 がるのではないか と思 う。西洋音楽 と邦楽の発声の 特徴 を比較 し,融合的 に捉 え発展 させ てい くこ とで, 伝統音楽の歌唱法, 曲種 に対応 した発 声, さらに,自然 で明確 な 日本語 唱法 が確 立 してい くのではない
‑ 8 7 ‑
だろ うか。
Ⅳ.
おわ りに
教員養成 のカ リキュラム改訂 に伴 う 「伝統音楽の 歌唱」授業 について, アンケー ト調 査 ,学習指導要 領 での位置づ け,
hdi a na
大学 で■の授業経験 に基づい て考察 を行 った。その結果 をま とめる と,次の よ う になる。(1)教員養成機 関では,技術習得 を中心 とす るのでな く体験 として学ぶ ことが重要であること。
( 2)
学校教育にお ける伝 統音楽 の学習 には,生 の音 を 体験 し,模倣す ることに よって,児童 生徒各 々が 発声 の違 いや特徴 を感 じと り,それ を 自分の声 で自由に表現す ることが重要であること。
( 3)
伝統的な発声 を学ぶ 際,従来の頭声 的な発声 を重 視す る とともに,大切 に取 り扱 い , 「邦楽 的な発 声」 を認識す ることに よって,多様 な民族の音楽 や発声が理解 できること。注及び引用文献
l )
戦後,初代鈴木政夫( 1 9 00‑ 1 9 61
)が唄い,福 島県 の代表的民謡 とな る。 鈴木の師匠 ・相 馬市 中村 の 堀 内秀之進( 1 8 76 ‑ 1 9 5 7)が作った新民謡。
2)
奈 良教育大学教授福 田清美氏 を講師 に迎 えた。氏 は,青森県中津軽郡相馬村 で生まれ育った。3)
三味線 ,笛,太鼓 摺鉦 (す りがね) を伴奏に社 会風刺や 滑稽 な表現 の地 口を軽 妙 に展 開 させ る。西馬音内の盆踊 りや角館祭礼の桟敷蹄にも歌わ れ,秋 田音頭 の名 で全 国的 に知れ わた ってい る。
4)
平井澄子,教材 としての伝統音楽,音楽教育研究沌4 0 ,p.3 7,1 9 69.
5)
肥後嘉昭, 日本伝統音楽の指導上の問題息 音楽 教育研究油.65,音楽之友社,p.98‑99,19 7
1.6)
中学校学習指導要領解説音楽編,文部省,p22
,23,1 9 9 5.を参照。
7)
この項 目につ いては,虫明鼻砂子,「世界の様 々な 声」に関す る考察 (Ⅰ),岡山大学教育学部研究 収録第1 27
号,2004.を参照 されたい。
8)
長坂幸子, 日本伝統音楽の発声に関す る考察.弘 前大学教育学部紀要第28
号,p. 8 0,1 9 7 2.
9)
例 えば,研究代表者 中山一郎,文部省重点領域研 究 「日本語音声 における韻律的特徴 の実態 とその 教育 に関す る総合 的研究」 にお ける研 究成果報告 書 「伝統芸能 にお ける 日本語音声の音響的特徴」一洋楽的歌唱 との比較研究‑
,1 9 9
1.小林範子, 東倉洋一他 , 日本 の伝 統歌唱 における生成 面の特 徴,電子情報通信学会,19 9 0.等。
10)加藤友康 ,声 とことばの トレー ニ ング,桐書房 ,
p.1 47,1 9 98.
ll )
岩崎洋一,小学生の発声指導 を見直す ,音楽之友 社,19 9 7.よ り第 2
章 を参照 した。1 2)
降矢美浦子,豊かな新 しい歌の世界 を手 に入れ る た めに,教育音楽別 冊 「これ が新 しい歌唱表現 だ」音楽之友社