一 節 問 題 の 所 在 社会 保障 の財 源を どの よう にし て調 達す るか につ いて は、 国民 に主 に事 前の 負担 を求 める 拠出 制と
、特 別の 負担 を求 め な い 無拠 出制 が ある
( 途 上国 では 国 際社 会の 財 政的 支援 も あり 得 る)
。 わ が国 を含 め 先進 国で は 拠出 制を 社 会保 障 財源 調 達 の中 心と する 国も 多く
、こ れら は「 社会 保険
」と 呼ば れる 制度 が中 核を しめ る。 社会 保障 の財 源調 達に 関し て、 拠出 制と する か無 拠出 制と する かは
、公 的扶 助を 除け ば、 政治 的選 択、 国民 的合 意の 問 題 であ る。 それ は技 術の 選択 の問 題で ある ので
、目 的に 適合 する と判 断さ れ、 国民 的理 解が 得ら れる とさ れた もの が選 択 さ れ
そ の選 択は また 時代 状況 など の多 様な 要素 によ り決 定さ れ、 変更 され る。 わが 国の 高齢 者の 介護 保障 のよ うに 無 拠 出制
(老 人福 祉法
)が 拠出 制( 介護 保険 法) に変 更さ れた り、 イギ リス の医 療保 障の よう に拠 出制 が無 拠出 制に 変更 さ れ るこ とが ある
。 しか し この よう な 技術 的 選択 の結 果 に過 ぎ ない もの が
、 何か 重 大な 意 味を 持つ も のと み なさ れ、
「社 会保 険 の優 位 や「 社会 保険 によ る権 利性
」が 論じ られ るこ とも 少な くな い。
( 1
る)
。
( 2
性)
」
─ ─
(
)
─ ─ 49
一 九 世 紀 ヨ ー ロ ッ パ 大 陸 に お け る 社 会 保 険 の 浸 潤
山 田 晋
三 一 八 三 一 八
「 社会 保険
」は 技術 であ る
。し た がっ て合 目的 で あれ ば、 あと は選 択の 問題 で ある
。所 得 保障 に つい て「 優位 な」 技 術が
、 社会 福祉 サ ービ ス給 付 に
「優 位な
」 技 術で ある と はい えな い 場合 もあ る。
「優 位 性」 と いう 言 葉の みが 現 実か ら浮 遊 して 独り 歩き する 傾向 は正 当と は言 い難 い。 ま た拠 出と 給付 の関 連性 をも つ点 で「 社会 保険
」は
、給 付の
「権 利性
」が 高い と言 われ るし
、現 実問 題と して その よう な実 態が 生じ てい るこ とを 否定 でき ない
。し かし 拠出 と給 付の 関連 性は
、数 理的 なも のか ら相 対的 なも のへ と変 化し てお り、 拠出 がな くて も一 定の 給付 がな され たり
、拠 出が ある のに 約定 され た給 付が 一方 的に 減ら され るこ とも ある
。ま た社 会実 態と して みて も、 拠出 がな いか ら権 利性 が低 いと いう こと もな い( 例え ば、 義務 教育 のよ うに
、国 家の 上位 規範 に国 家の 義務 で ある と定 めれ ば
、無 拠 出で あっ ても 権 利性 は高 い)
。こ れは 要す るに
「 権利
」と いう
「共 同幻 想」 の 問題 で ある
。
「 社会 保険 の 物神 性」 が 発生
(錯 認) し
、 し ばし ば研 究者 さ えも がそ れに 拝 跪す るこ とも あ る。 そ こで は
「 社会 保障
」 よ りも
「社 会保 険」 とよ ばれ る拠 出制 の制 度そ れ自 体を 維持 する こと に力 点が 置か れ、 その 範囲 内で しか 生活 保障 の実 現 は 不可 能で ある とす る思 考に 陥っ てい る。 逆に
「社 会保 険」 であ れば 自動 的に 高い
「権 利性
」が 構築 され ると 想定 され る。 こ ん にち 社会 保 障を 取り 巻 く環 境は 厳 しさ を増 し
、 多様 な 解決 が模 索 され ねば な らな いに も かか わら ず
、「 社会 保険
」 の みで 問題 に対 応し よう とす るこ とは 本来 無理 であ る。
「 社会 保 険の 物神 性」 は、 二 つの 現 象に 起因 す る。 一 つ は社 会保 険制 度 が私 法的 経 験・ 感 性と 全 く反 する こ とな しに
、 市 民法 が省 みな かっ た生 活保 障を 実現 する 点で ある
。た だ「 約束 を守 る」 とい うこ とさ え実 現す れば
、支 配層 も被 支配 層 も 生活 保障 が実 現す ると いう
「共 同幻 想」 を確 固た るも のと して 抱く こと がで きる
。二 つめ は、 社会 保険 制度 の地 域的 普 遍 的存 在と
、歴 史的 継続 性で ある
。ド イツ 帝国 で「 発明
」さ れた 制度 は、 いま や世 界を 覆い 尽く し、 しか もそ れは 一世 紀
<
論 説
>
修 道 法 学 三 九 巻 一 号
(
)
─ ─ 50
三 一 七 三 一 七
を 越え て存 在し 続け てい る。 ここ にも
「共 同幻 想」 を揺 るぎ なき もの とす る現 象が 存在 する ので ある
。 本稿 はわ れわ れが
「社 会保 険」 と呼 ぶ制 度が そも そも どこ から やっ てき たの かを 先行 研究 に依 拠し なが ら検 討す るこ と を 目 的と する
。 こ んに ち、
「社 会保 険」 制度 はヨ ー ロッ パの みな ら ず南 北ア メリ カ
、 アジ ア、 アフ リカ など ほ ぼ全 世界 に 存 在し 普及 して いる
。そ れゆ え普 遍的 価値 を有 する もの と考 えら れな くも ない が、 その 普及
、展 開は
「社 会保 険」 制度 が も つ普 遍的 有効 性や 価値 を示 すこ とな のか
。そ れを もう 一度 検討 する 必要 性が ある
。本 稿で は「 社会 保険
」制 度が 誕生 し た とい われ る一 九世 紀の ヨー ロッ パ大 陸に 限定 し、 その 浸潤 につ いて 検討 する
。 なお 本稿 では 筆者 の研 究能 力の 限界 から 以下 のよ うな 欠陥 と限 界を 持つ もの であ る。 第一 に、 言語 的能 力の 限界 から
、 ヨ ーロ ッパ 大陸 の対 象国 のす べて につ いて
、原 典を 精査 する こと がで きな かっ た。 第二 に、 仮に 言語 的能 力の 限界 を克 服 し たと して も、 時間 の経 過に より 一九 世紀 末の 原史 料に アク セス でき なか った
。第 三に
、当 該国 の社 会保 障制 度の すべ て を 検討 した うえ でな けれ ば個 別制 度の 意義 は検 討で きな いが
、本 稿で はい くつ かの 国に つい ての み、 救貧 法の みと の関 連 に 言及 でき るの みで ある
。第 四に
、当 該制 度の 給付 内容 を検 討せ ずに
、制 度の 名称
・立 法年 のみ を見 ても 何事 も明 らか に な らな いが
、本 稿で は極 めて 限定 され た国 につ いて のみ
、給 付内 容ま で踏 み込 めた のみ であ る。 なお
「社 会保 険」 は単 なる 技術 では ない とす る長 沼建 一郎
・法 政大 学教 授の 見
つ いて は、 稿を 改め て詳 細に 検討 し な けれ ばな らな い。
( 1
) 荒 木 誠 之
『 社 会 保 障 の 法 的 構 造
』 有 斐 閣
( 一 九 八 三 年
)。
( 2
) 例 え ば
、 菊 池 馨 実 編『 社 会 保 険 の 法 原 理
』 法 律 文 化 社( 二
〇 一 二 年
) 所 収 の 諸 論 文 に は
─ 品 田 充 儀「 社 会 保 険 制 度 の 特 質 と 意 義
」、 福 田 素 生
「 社 会 保 険 方 式 と 社 会 扶 助 方 式
( い わ ゆ る 税 方 式
)─
─ 老 齢 基 礎 年 金 の 社 会 扶 助 方 式 を 中 心 に
」、 稲 森 公 嘉
「 公 的
( 3
解)
に
─ ─
一九 世 紀 ヨ ー ロ ッ パ 大 陸 に お け る 社 会 保 険 の 浸 潤
( 山 田
)
(
)
─ ─ 51
三一 六 三 一 六
医 療 保 険 に お け る 保 険 原 理 と 社 会 原 理 の 均 衡 点
」─ そ の 傾 向 が 見 て と れ る
。 な お 菊 池 馨 実
「 社 会 保 険 の 現 代 的 意 義 と 将 来 像
」 は
、
「 扶 助 の 原 理 の 強 化 に よ っ て 社 会 保 険 の
「 社 会
」 的 性 格 を よ り 一 層 強 め
、 実 質 的 な 意 味 で の 皆 保 険
・ 皆 年 金 の 実 現 を 図 る の か
、 そ れ と も「 社 会
」 性 実 現 の 限 界 を 認 め
、社 会 保 障 制 度 全 体 の 改 革 に 踏 み 込 む べ き か
、今 ま さ に 日 本 の 社 会 保 障 制 度 は 岐 路 に 立 っ て い る
」( 二 五
〇 頁
) と 指 摘 す る
。
( 3
) 長 沼 建 一 郎
「 キ リ ス ト 教 と 社 会 保 険
─
─ 保 険 は 技 術 に 過 ぎ な い か
」週 刊
・社 会 保 障 二 七 六 四 号
( 二
〇 一 四 年
)四 八 頁 以 下
。 長 沼 建 一 郎
『 図 解 テ キ ス ト
・ 社 会 保 険 の 基 礎
』 弘 文 堂
( 二
〇 一 五 年
) も 参 照
。
二 節 社 会 保 険 を 検 討 す る 視 角 社会 保障 は、 従来 放任 され てき た私 的領 域へ の国 家に よる 介入 であ る。 その 財源 を拠 出に よる か無 拠出 とす るか にか か わ らず
、国 家の 介入 がな けれ ばそ れは 社会 保障 制度 とは いえ ない
。社 会保 障の 形成 過程 ある いは 原型 であ ると 評さ れる 労 働 者保 険に もそ の端 緒な いし 萌芽 が見 出さ れる
。 国家 の介 入が 何に 対し てな され るか が問 題で ある
。 産 業革 命以 降、 工 場 制生 産が 本格 的 に展 開さ れて ゆ くな かで
「 労働 者
」 が登 場し
、「 労働 問 題」 あ るい は
「 社会 問題
」 が
「 発 見」 さ れる
。 貧 困救 済の 社会 制度 と して は、 救 貧法 が 既に 存在 して おり
、「 労働 問 題」 に 対応 する も のと して
「 労 働 者」 の相 互扶 助 組織 であ る共 済 組合
( 共済 金 庫) が 存在 し た。 社 会保 険 制度 が存 在す る 以前 の社 会 にあ って
、「 労働 問 題
」あ るい は「 社会 問題
」へ の対 応が この 二つ の制 度に 委ね られ てい たと いっ てよ い。 救貧 法が 寛容 であ り、 受給 に際 して なん らの ステ ィグ マが 存在 しな けれ ば、 困難 に直 面し た「 労働 者」 はそ れに 依存 し、
「労 働問 題」 は救 貧法 に吸 収 され たで あ ろう
。 事実 と して は救 貧法 は
「 労働 者」 を保 護す るほ ど 寛容 では なか っ た。 貧 困
<
論 説
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修 道 法 学 三 九 巻 一 号
(
)
─ ─ 52
三 一 五 三 一 五
救 済に つい ての 直接 的国 家介 入は
、最 低限 度あ るい は治 安対 策と して 既に 存在 して いた
。そ れが 更に 拡大 して ゆく とい う こ とは この 時代 には なか った
。貧 困者 を代 弁す る勢 力が 存在 しな かっ たか らで ある
。 した がっ て、
「労 働 問題
」へ の対 応と し て、 結局 は共 済組 合 とい った 労働 者 の相 互 扶助 組織 に 国家 が 介入 する こ とに な る。 老 獪な 政治 家ビ スマ ルク
(OttovonBismarck
)の 社会 保険 はこ のよ うに して 生ま れた
。 した がっ て社 会保 険の 浸潤 を検 討す る本 稿で は、 救貧 法の あり 方、 共済 組合
(共 済金 庫) の在 り方
[た だし それ は「 労 働 者
」 の共 済組 織 であ り、 それ 以前 の ツン フト
、 ギ ルド 的特 権 的相 互扶 助 組織 を含 まな い
]、 それ を支 える 労 働運 動と そ の思 想潮 流
( 社会 主義 思 想の 展開 な ど)
、 対 抗勢 力で あ る使 用者
、 法 制化 の担 い 手で ある 政 治家 ない し 政党
、 参政 権 など の多 様な 諸要 素を 検討 せね ばな らな いこ とに なる
。た だし スカ ンデ ィナ ビ ア諸 国を 視野 にお いた とき
、産 業化 と社 会保 険 の 発展 関係 のリ ンク は明 確で はな い。 ドイ ツに 社会 保険 が導 入さ れた とき
、ド イツ は最 も発 展し た産 業化 国で はな かっ た。 し かし 産業 化が 進ん でい ない 国で は社 会保 険の 議論 がな かっ たの も事 実で あ なお 本稿 で論 じる 相互 扶助 組織 はあ くま でも ビス マル クの
「社 会保 険」 がヨ ーロ ッパ 大陸 で各 地域 に浸 潤し てゆ く時 期 の それ であ り、 社会 保障 制度 のも とで 展開 され
、あ る種 の役 割を 担う
(そ の意 味で 現代 的な
)共 済組 合で はな
( 1
)
Ma tti A le st al o , S ve uE . O. Ho rt , S te inK u h n le , T h e No rd icM od el : C on d iti on s, Or ig in s, Ou tc ome s, L es so n s He rt ieS ch oo l o f
G ov er n a n ceW or ki n gP a pe rs , N o. 4
1 , 20 09 , at p . 9.
( 2
) 現 代 的 な 共 済 組 合 に つ き
、
P o lic y D ep ar tm en t A : E co n o m ica n dS c ie n tif icP o lic yo f E u ro p ea nP ar lia m e n t, T h eR ol e of M u tu a l
S ci eti es int h e2 1C en tu ra
y , E MP L , 20 11 .
ま た 共 済 組 合 の 歴 史 に つ き
、
Ma rc el va nd er L in d ene d ., S oc ia l S ec u rit y Mu tu a lis m — T h e
C omp a ra tiv eH ist or y of Mu tu a l B en efi ts S oc ie tie
s , P et er L an g , 19 96 .
( 1
る)
。
( 2
い)
。
─ ─
一九 世 紀 ヨ ー ロ ッ パ 大 陸 に お け る 社 会 保 険 の 浸 潤
( 山 田
)
(
)
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三一 四 三 一 四