氏 名 ・(本籍) 富樫 嘉津恵(秋田県)
専 攻 分 野 の 名 称 博士(医学)
学 位 記 番 号 医博甲第 898 号 学 位 授 与 の 日 付 平成 27 年 9 月 24 日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研 究 科 ・ 専 攻 医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名
Dysfunction in gap junction intercellular communication induces aberrant behavior of the inner cell mass and frequent collapses of expandedblastocysts in mouse embryos
(ギャップジャンクション阻害剤はマウス受精胚の内細胞塊の発育挙動に影響 し,胚盤胞の虚脱と再膨張を頻回にする)
論 文 審 査 委 員 (主査) 教授 羽渕 友則
(副査) 教授 髙橋 勉 教授 佐々木 雄彦
Akita University学 位 論 文 内 容 要 旨
論 文 題 目
Dysfunction in gap junction intercellular communication induces aberrant behavior of the inner cell mass and frequent collapses of expanded blastocysts in mouse embryos( 論 文 題 目 の 和 訳 ) ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 は マ ウ ス 受 精 胚 の 内 細 胞 塊 の 発 育 挙 動 に 影 響 し , 胚 盤 胞 の 虚 脱 と 再 膨 張 を 頻 回 に す る .
申 請 者 氏 名 富 樫 嘉 津 恵
研 究 目 的
日 本 初 の 体 外 受 精 児 の 誕 生 か ら 30 年 経 ち , 晩 婚 化 や 女 性 の 社 会 進 出 に 伴 い 生 殖 補 助 医 療 に よ る 生 児 は 2011 年 に は 32 人 に 1 人 ま で 増 加 し た . し か し , 体 外 受 精-胚 移 植 が 胚 に 与 え る 影 響 ・ 現 象 に 関 し て は 詳 細 が 十 分 に は 明 ら か に な っ て い な い .
近 年 , 継 時 的 か つ 非 侵 襲 的 に 胚 の 培 養 を 観 察 す る タ イ ム ラ プ ス 解 析 が 胚 培 養 に 活 用 さ れ , タ イ ム ラ プ ス 解 析 に よ る 胚 の 発 育 挙 動 に 関 し て , 様 々 な 現 象 が 報 告 さ れ た .
一 方 で ,コ ネ キ シ ン 43 と 多 能 性 マ ー カ ー で あ る Nanogの 発 現 に 関 連 性 が 報 告 さ れ ,ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン に よ る 割 球 間 の 直 接 連 絡 は 胚 発 育 に 影 響 す る と 推 察 さ れ る も の の , ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 が 胚 に 与 え る 動 的 影 響 に つ い て は 結 論 が 出 て い な い .
今 回 我 々 は , タ イ ム ラ プ ス 観 察 シ ス テ ム を 導 入 す る こ と で , 胚 培 養 中 の ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 添 加 が 胚 発 育 挙 動 に 与 え る 影 響 を 動 的 に 解 析 し た .
研 究 方 法
当 施 設 の 動 物 実 験 倫 理 委 員 会 の 規 則 に 則 っ て ,8-12週 齢 の ICRマ ウ ス に PMSG/hCG 刺 激 の 上 で 自 然 交 配 し ,腟 栓 を 確 認 し た 雌 個 体 の 卵 管 を 潅 流 し て 2細 胞 期 胚 を 採 取 し た .CZB 培 地 を 基 本 培 地 と し て DMSO0.1%添 加 培 地( 対 照 群 )と DMSO0.1% で 溶 解 し た ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 oleamide 培 地 (5, 10, 20, 50μM),DMSO0.1% で 溶 解 し た ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 1-heptanol 培 地(0.1, 1, 5, 10mM)の 3系 ,計 10 群 を 用 い て 発 育 試 験 を 行 っ た. 次 に , 同 3 系 の 発 育 挙 動 に つ い て , そ れ ぞ れ タ イ ム ラ プ ス イ ン キ ュ ベ ー タ ー を 用 い て 発 生 の 様 子 を 3 分 毎 に 撮 影 し , 観 察 し た . タ イ ム ラ プ ス 解 析 か ら 胞 胚 腔 形 成 後 に 胞 胚 腔 が 虚 脱 す る 回 数 を 計 測 し ,3 系 を 比 較 し た . 胚 の 内 細 胞 塊 の 分 離 を 伴 う 現 象 に 関 し て も 解 析 し 比 較 し た .
比 較 と し て 当 院 で 体 外 受 精 胚 移 植 を 施 行 し た 患 者 よ り 同 意 を 得 た 廃 棄 胚 を , 当 院 倫 理 委 員
会 の 承 認 と 日 本 産 婦 人 科 内 科 学 会 の 承 認 の も と に 実 験 試 料 と し て タ イ ム ラ プ ス 解 析 し た . 蛍 光 免 疫 染 色 を 用 い て 胚 の タ ン パ ク 発 現 を 評 価 し た . 統 計 処 理 は SPSS を 用 い て 行 っ た .
研 究 成 績
胚 培 養 72時 間 と 96時 間 で 比 較 し た 胚 盤 胞 到 達 率 ( 胞 胚 腔 形 成 率 ) は , 対 照 群 87.5% vs.
90.9%, オ レ ア ミ ド 添 加 群 で 各 88.9% vs. 100%,84.8% vs. 90.9%,81.3% vs. 90.9%,7-5.0%
vs. 72.7%(p=0.0223) と 、 オ レ ア ミ ド 50μM 添 加 群 で 有 意 に 胚 盤 胞 到 達 率 が 低 下 し た . 1
−ヘ プ タ ノ ー ル 添 加 群 で 91.8% vs. 100%,87.5% vs. 90%,83.7% vs. 100%,66.0% vs. 100%
(p=0.00125)で ,ヘ プ タ ノ ー ル 10mM 添 加 群 で は 有 意 に 胚 盤 胞 到 達 率 が 低 下 し た 。ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 添 加 に よ る 濃 度 依 存 性 の 低 下 傾 向 を 認 め た . し か し 培 養 時 間 の 延 長 に よ っ て 対 照 群 と 同 等 の 胚 盤 胞 到 達 率 を 得 た .
ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 添 加 群 で は ,対 照 群 に 比 べ て 第 2 割 か ら 第 3 割 ま で の 時 間 胞 胚 腔 形 成 ま で の 時 間 , 透 明 帯 脱 出 ま で の 時 間 が 有 意 に 延 長 し た .
ヒ ト で 報 告 さ れ て い る strand 現 象 が 、 ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 を 添 加 し た 体 外 培 養 マ ウ ス 胚 に お い て も 観 察 さ れ た . 胞 胚 腔 形 成 後 に 胞 胚 腔 の 30% を 超 え る 虚 脱 は DMSO0.1%添 加 培 地 で 平 均 1.6 回 , DMSO0.1% で 溶 解 し た oleamide50μM培 地 で 平 均 4.5 回 ,1-heptanol 培 地 で 5.5回 で あ っ た .胞 胚 腔 の 完 全 虚 脱 は DMSO0.1%添 加 培 地 で 平 均 0.35 回 , DMSO0.1% で 溶 解 し た oleamide50μM 培 地 で 平 均 0.52 回 ,1-heptanol 培 地 で 0.75 回 で あ っ た .ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 添 加 群 で は 胞 胚 腔 形 成 後 に 胞 胚 腔 の 30% を 超 え る 虚 脱 が 有 意 に 増 加 し, 完 全 虚 脱 も 有 意 に 増 加 し た .
結 論
今 回 の 検 討 で 特 筆 す べ き は 、見 尾 ら が ヒ ト 凍 結 融 解 胚 に お い て 報 告 し た‘strand 現 象 ’と 内 細 胞 塊 の 分 離 を 、 マ ウ ス 胚 に て 有 意 に 高 頻 度 に 観 察 し た こ と で あ る 。 こ れ ま で に‘strand 現 象 ’は ヒ ト 凍 結 融 解 胚 の 体 外 培 養 に お い て 、 内 細 胞 塊 の 奇 異 な 挙 動 と 分 離 に 伴 っ て 報 告 さ れ 、 一 卵 性 双 胎 の 発 生 機 序 の 1 つ の 可 能 性 と し て 示 唆 さ れ て い る (Y.Mio, et al. 2014)
ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 阻 害 剤 の 添 加 培 養 が 胚 の 発 育 挙 動 に 与 え る 影 響 に 関 す る 先 行 報 告 は な い . 胚 の 発 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 機 能 に つ い て 様 々 な 知 見 が 報 告 さ れ て い る が , 今 回 我 々 が 実 施 し た 動 的 解 析 か ら , ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン と 内 細 胞 塊 の 分 離 , そ し て 胞 胚 腔 虚 脱 の 関 連 性 が 示 唆 さ れ た .
発 育 遅 延 に は 多 数 の 原 因 が 挙 げ ら れ る が 、ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン の 障 害 が 発 育 遅 延 の 一 因 で あ る と の 仮 説 か ら 、 胚 の ギ ャ ッ プ ジ ャ ン ク シ ョ ン 機 能 の 改 善 に よ っ て 妊 娠 予 後 の 改 善 に つ な が る 可 能 性 が あ る 。
Akita University
学位論文 (博士 -甲)審査結果 の要 旨
主査: 羽渕 友則 申請者:富樫
嘉津恵
論 文 題 名 : Dysfunction in gap junction intercellular communication induces aberrant behavior of the inner cell mass and frequent collapses of expanded blastocysts in mouse embryos
(ギャップジャンクション阻害剤はマウス受精胚の内細胞塊の発育挙動に影響し、
胚盤胞の虚脱と再膨張を頻回にする)
要旨
晩婚化や女性の社会進出に伴い生殖補助医療は一般化したが、体外受精-胚移植が胚に与え る影響・現象に関しては詳細が十分には明らかになっていない。ギャップジャンクションによ る割球間の直接連絡は胚発育に影響すると推察されるものの、ギャップジャンクション阻害剤 が胚に与える動的影響については結論が出ていない。
本研究では、タイムラプス観察システムを導入することで、胚培養中のギャップジャンクシ ョン阻害剤添加が胚発育挙動に与える影響を動的に解析した。
ギャップジャンクション阻害剤として、oleamideと1-heptanol を用いた。oleamide培地
(5、 10、 20、 50μM)、ギャップジャンクション阻害剤 1-heptanol 培地(0.1、 1、 5、
10mM)の3系、計10 群を用いて発育試験を行った。 次に、同3系の発育挙動について、
それぞれタイムラプスインキュベーターを用いて発生の様子を観察した。E4.5(embryonic day 4.5)とE5.5(embryonic day 5)で比較した。
E5.5に比較して、E4.5において、上記のギャップジャンクション阻害剤によりembryonic blastocyst 形成は阻害された。 Oleamide 投与によって、2nd cleavage から embryonic blastocyst形成までの時間は有意に延長した(P=0.013)。 Oleamide投与によって、expanded blastocystsの虚脱が頻回に認められた(P=0.0001)。免疫組織学的検討により、Nanog陽性 細胞はinner cell massに分布していた。
結論として、ギャップジャンクションは、blastocyst形成、expanded blastocystsの虚脱、inner cell massの形成に重要な役割を果たすと考えられた。
Akita University
1)斬新さ
① 世界に先駆けて、タイムラプス観察システムを導入することで、胚培養中のギャップ ジャンクション阻害剤添加が胚発育挙動に与える影響を動的に解析した。
② ギャップジャンクション阻害剤投与によって、embryonic blastocyst形成までの時 間が延長すること(阻害)、embryonic blastocyst形成までの時間は有意に延長する ことを示した。
③ ギャップジャンクションは、blastocyst形成、expanded blastocystsの虚脱、inner
cell massの形成に重要な役割を果たすことを示した。
2)重要性
胚の発育に関するギャップジャンクション機能について様々な知見が報告されている が、本研究で施行された動的解析から、ギャップジャンクションとinner cell massの分 離、そしてexpanded blastocystsの虚脱の関連性が示唆された。
胚の発育遅延には多数の原因が挙げられるが、ギャップジャンクションの障害が発育 遅延の一因であるとの仮説から、胚のギャップジャンクション機能の改善によって妊娠予 後の改善につながる可能性があり、今後の生殖医療や生殖補助医療に重要な知見を与えた。
3)研究方法の正確性
本研究は、マウスの胚細胞採取、胚培養、タイムプラス解析、蛍光免疫染色、ヒトblastocysts の培養観察、等、標準的で確固とした方法に準じて行われており、正確性や妥当性に問題は無 いと判断される。
4)表現の明瞭さ
抄録、背景、対象と方法、結果、考察、結論、表、図など簡潔で明瞭に記載されている。さらに、
すでに学術雑誌に英文論文として掲載受理されており、学位論文として校正、表現など問題な い。
以上、本論文は学位を授与するに十分値する内容と判定された。
Akita University