簿記学説史における損益勘定の理論的展開
―20
世紀初頭アメリカ会計学との整合性について
桑 原 正 行
I .
は じ め に
ーこれまでの簿記学説史研究のアプローチー
これまでの簿記史研究,そのなかでも実際の会計帳簿ではなく会計文献にも とづく研究においては,次のような関心を持って研究が行われてきたといえ る。すなわち,①複式簿記の説明上何に重点が置かれていたかというアプロー チの問題,②期末評価の問題が伴う商品勘定の歴史的展開,そして③期間損益 計算の概念とも関わる帳簿の締め切りの問題,である。
個別廂品勘定から一般廂品勘定へと移行してきた②や期間損益計算を定義づ けることが困難である③については,ここでは明言することはできない。ただ
③については,帳簿の締め切りが主人の死亡時や帳簿の更新時といった不定期 であったのか,あるいは半年や
1年であったのかということがこれまで論じら れてきた。
①についていえば,時代や国の異なる会計文献がどのようなアプローチのも
とで理論的説明が行われてきたかについては,
Littletonによって説明されて
おり,簿記会計史を研究するものにとっては周知の通りである。すなわち,仕
訳帳アプローチから元帳アプローチヘ,そして貸借対照表アプローチヘという
簿記教授法の変化で示されている。中世イタリアの実務を反映していたといわ
れる
Pacioliの
Summa (1494)に見られるような仕訳帳アプローチは,元帳ア
プローチが主流となる
19世紀後半まで採用され,人名勘定・物財勘定・名目
勘定という三勘定分類を中心とする元帳アプローチは,
20世紀以降貸借対照
1102
表アプローチに取って代わられることになった。
20世紀初頭に元板中心から 貸借対照表アプローチヘと移行した要因としては,〈資産一負債=資本主持分〉
という資本等式,あるいは〈資産=持分〉という貸借対照表等式が挙げられる。
すなわち,勘定の性質による分類から,会計の理論的フレームワークという全 体構造の説明を中心とするように変化したのである。
本論文は,貸借対照表アプローチが主流となった
20世紀の初期の段階にお いて,当時の論者が複式簿記の原理や損益項目に対して,どのような説明を行っ ていたかに焦点をあててその特徴について述べることにしたい。ただし,議論 の前提として始めに触れておかなければならないことは,複式簿記から会計学 への移行段階にあったと考えられる
20軋紀初頭では,様々な論者が特徴ある
自説を展開していたために,当時の一般的特徴といえるような共通性はあまり なかったといえることである。ましてや,何世紀にもわたる複式簿記の通史で あるならともかく,
1900年から
1930年頃までというきわめて短い期間ではそ の変化を見いだすことは難しい。
しかしながら,このような短期間においても損益計算書重視という会計学の 流れに移行するような変化が若干ながら見られていたのである。そのような変 化は次のような段階を経ていたと考えられる。
( 1 ) 複式簿記においては,その構造上損益概念があまり説明されず,その性質 が不明確であった時期ー
1900年代の特徴ー
( 2 ) 実務上の損益計算書を念頭に置きながら,複式簿記においても説明上の変 化が見られるようになった時期ー
1910年代(特に前半)の特徴一
( 3 ) 複式簿記と会計学の整合性が図られ,それ以降簿記にはあまり注目されな くなった時期ー
1920年代(特に後半)以降一
そこで,
20世紀初頭の複式簿記における損益の説明について,会計学と関
連させながら,次のことを結論として述べることにしたい。すなわち,貸借対 照表中心という見解から,それ以前の
19世紀と同様に損益は資本主持分の一 項目(下位勘定)として認識されていたが,その中で少しずつ変化していたと
い う こ と で あ る 。 こ の こ と に つ い て は , 先 に 挙 げ た ( 1 ) を
Cole,そして ( 2 ) を
Esquerreを用いて説明することにしたい。そして,彼らの説明では,複式簿 記における損益の説明と財務諸表としての損益計算書の説明に,若干ながら理 論的整合性が伴わないことが指摘されるのである。
II .
複式簿記における損益の性質が不明確で あった
1900年代
‑Cole
の
Accounts: Their Construction and Interpretation (1908) を例として一1. Cole
の業績と
Accounts: Their Construction and Interpretation (1908)の構成
1900
年 代 に お け る ア メ リ カ の 代 表 的 文 献 と し て は ,
Spragueの
The Philosophy of Accounts (1908), Coleの
Accounts: Their Construction and Interpretation (1908)(以下
Accounts(1908)とする),そして
Hatfieldの
Modern Accounting (1909)が挙げられる。本章では,
Spragueや
Hatfieldについて
は若干の言及にとどめ,
Coleの文献を中心に論じることにしたい。
Cole
はハーバード大学の教員であり,彼の
Accounts (1908)は学生のため のテキストであった。同書の目的は,彼が明示しているように単に簿記の概要 を示すことではなく,簿記の原理に関する詳細な議論を示すことにあった。そ
して,この著書を使用する学生が単なる規則といった知識の習得に留まらず,
更に自分自身で判断することができるようになることを
Coleは望んでいたの である。また,この著書は
1915年に改訂されているが,これに対する書評に
(1) 1954年
7月の
The Accounting Reviewには,会計の発達において重要である日付を年 代順に掲示している,
"Historical Dates in Accounting"というタイトルの論文がある。
この論文は,
Spragueの
ThePhilosophy of Accountsと同様に,
Coleのこの著書を
1908年に生じた
2つの傑出した事象の
1つであるということに注目している。
香川大学経済論叢
1104よると,
Coleはアメリカの鉄道会計がいかなるその他の会計よりもより良い
(4)
と考えており,かなりの紙面をそれらの考察に費やしていたようである。
Cole
の
Accounts( 1 9 0 8 ) の構成は 2 部構成となっている。第 1 部が簿記原 理(第 2 章から第 6 章)であり,第 2 部が会計原理(第 7 章 か ら 第 2 2 章)で ある。簿記実務およびそれが依拠している理論的基礎の両者をすでに知ってい る人は,日常的な問題を扱っている第
1部の簿記原理を読まずに,第
2部の会 計原理から読み始めることができている。最初に簿記に関する目次を示すと次 のとおりである。
第
1章 イントロダクション
(Introduction)第
1部 簿 記 原 理
(ThePrinciples of Bookkeeping)第
2章 借 方 と 貸 方
(Debitand Credit)第
3章 基 本 的 な 帳 簿
(TheFundamental Books)第
4章 特 定 勘 定 の 重 要 性
(TheSignificance of Particular Accounts)第
5章 試算表,計算書,および貸借対照表
(TheTrial Balance, The Statement, and The Balance)第
6章 効 率 的 工 夫
(Labor‑SavingDevices)第
1章のイントロダクションと
5章構成である第
1部簿記原理の第
2章は,
用語や借方・貸方の説明であり,たとえ簿記の経験をまったく有していない人 でも,平均的な人が根底にある原理を理解するのにまったく支障はきたさない ような様式を通じて論じられている。次の第 3 章では,基本的な帳簿の問題が 取り上げられ,簿記で使用される 3 つの原初帳簿,すなわち日記帳,仕訳帳,
元帳が企業の取引を記録するのにどのくらい十分であるかが示されている。そ
(2) Cole
の教歴は,
1890年から
1893年までのハーバード大学における政治経済学の講師 から始まった。そして
1899 (1900)から
1908年まで同大学において会計学原理の講師 として仕え,
1908年に助教授,
1913年に准教授,そして
1916年に正教授になった。
1933年以降は,彼は,ハーバード大学において経済学および社会哲学
(Social Philosophy)の名誉教授の地位にあった。公認会計士としては活動的ではなかったが,
Coleは実務家 との関係を維持し,マサチューセッツ
1'1‑1公認会計士協会の名誉会員でもあった
(Kahle[1993] pp. 17‑18: Previts [1980] p. 16)
。
(3) Cole [1908] p. 5.(4) Cf. Steele [1915] p. 242.
して第
4章では,特定勘定として,外部勘定と内部勘定,さらには人的勘定と 非人的勘定が説明されており,この章が複式簿記の解説の中心となっている。
一方,第
2部の会計原理の章構成は以下のとおりである。
第
2部 会 計 原 理
(ThePrinciples of Accounting)第
7章 資 本 と 収 益 の 区 別
(TheDistinction between Capital and Revenue)第
8章 減価(償却)の一般的原理
(TheGeneral Principles of Depreciation)第
9章 貸借対照表の一般的性質と解釈
(TheGeneral Characteristics and The Interpre‑ tation of Balance Sheets)第
10章 原価会計の一般的原理
(TheGeneral Principles of Cost Accounting)第
11章 会計における統計の立場
(ThePlace of Statistics in Accounting)第
12章 評価における元本と利息の関係
(TheRelation of Principal and Interest in Valu‑ at10ns)第
13章 資本化の一般的原理
(TheGeneral Principles of Capitalization)第
14章 鉄道会計において示される一般的原理
(SomeGeneral Principles Illustrated in Railroad Accounting)第
15章 再編成における会計
(Accountingin Reorganizations)第
16章 銀行会計において示される一般的原理
(SomeGeneral Principles Illustrated in Bank Accounting)第
17章 信託会計において示される一般的原理
(SomeGeneral Principles Illustrated in Trust Accounting)第
18章 保険会社および終身土地保有会社に対する会計的特徴
(Some Peculiarities of Accounting for Insurance and for Life Tenures)第
19章 工場会計において示される一般的原理
(SomeGeneral Principles Illustrated in Factory Accounting)第
20章 自治体会計において示される一般的原理
(SomeGeneral Principles Illustrated in Municipal Accounting)第
21章 一 般 的 原 理 の 誤 っ た 適 用
(Some Miscellaneous Applications of General Principles)1 . 商業割引の処理
(TheTreatment of Commercial Discounts) 2.資本主利益の重要性
(TheSignificance of Proprietorship Profits) 3.合併の基礎
(ABasis for Consolidations)第
22章 監 査
(Auditing)全
16章から構成されている第
2部は,会計のより高度な原理を扱っており,
一般的原理をそれらを最もよく示すことの出来る多様な業種(鉄道会社,銀行,
保険会社,工場等)の企業問題に適用させることによって,より具体的にする
という見解が見られる。さらに,資本と収益の区別,減価(償却),比較貸借
香川大学経済論叢
1106(5)
対照表など会計の分析的側面にも議論が向けられている。
Cole
の特徴としてしばしば挙げられるのが,
"WhereGot‑Where Gone"計
(6)
算書である。この
"Where Got‑Where Gone"計算書は,すべての貸借対照 表勘定における変化を要約することを意図されたものである。
Coleは,負債勘定における減少が債務が支払われたことを示すのに対して,資産残高におけ る純増加は財産を獲得するために支出がなされたということを示していると理 由づけた。同様に,負債の増加は会社が借入によって源泉を獲得したというこ とを示しているのに対して,資産における純減少は,その年度の間に資産勘定 から取り出され,他のところで費消されるなんらかを示していると説明してい た。そして,負債の増加と資産の減少を
"Where‑got(or Receipts or Credits)"と名付け,負債の減少と資産の増加を
"Where‑gone (or Expenditures or Debits)"と名付けた。そして,貸借対照表項目の期首と期末を比較すること
によって,
Coleは,内的取引の効果を示し,特に換金性 (liquidity)におけ
(7)
る変動を表示することを望んでいたようである。
このように彼の関心が貸借対照表面に向けられていたこと,また,同著に は損益計算書というタイトルの章は存在しておらず,これだけでも損益に対す る関心は貸借対照表よりも低かったといえる。翌年の
1909年に
Modern Ac‑counting
を出版した
Hatfieldにおいても「利益」という章は存在したが,その内容はもっぱら裁判所の判例を引用しているにすぎず,
Hatfield自身による損益計算書の雛形も示されてはいなかったのである。第
21章
2.の「資本主利 益の重要性」では,投下資本利子に言及して所有主あるいは個人企業といった 観点を反映している。
(5) Cf. Kahle [1993] p.19; Phillips [1909] p. 244.
(6)
この他にも,売上および仕入の純額
(salesand purchase net)を設定すること,そ して仕入割引や売上割引
(discountslost and gained)を示すことを主張したというこ とが特徴として挙げられている
(Cf.Abs (eds.) [1954] p. 490; Kahle [1993] p.18.)。
(7) Cf. Cole [1908] pp. 97‑102.Chatfield and Vangermeersch (eds.)
によると,貸借対照表勘定における純変化を
一本化
(cumulating)する上で,
Coleは,換金的変化の源泉を孤立化させることに失
敗し,それによって受取と支出の最終的な効果を表すことに失敗したようである
(Cf. Chatfield and Vangermeersch (eds.) [1996] p. 131)。
2 . Cole における複式簿記の原理と勘定ー外部勘定・内部勘定一
Cole
は,簿記を記録するプロセスは,基本的な代数学と同じくらいきわめ て単純であると述べている。そして,取引
(business)の記録簿の最も単純な 種類は日記帳であり,これは現在
(1908年当時)は取って代わられている古 い形式であるが,その原理は永続的であり理解しなければならないとして,ま ず最初に,日記帳・仕訳帳・元帳の基本的原理を簡単に示している。そこでは,
日記帳は原初文書であるので法的証拠として非常に価値があるということや,
日記帳項目の単なる並び替えである元帳は,企業それ自体の簡便性のために,
記録ではなく概要であるということが述べられている。
借方・貸方については「責任
(responsibility)」という概念を用いた非常に 特徴のある説明を行っている。つまり,借方記入および貸方記入の目的は,唯
‑ (solely)
責任を記録することであると述べ,さらに「ある勘定が責任を持 っとき(すなわち,何らかに対して責任があるとき)それを借方記入する。あ る勘定が責任を他のどこかにおくときには,(…)それを貸方記入する」と述 べている。これは,借方・貸方を債権債務関係のみで説明することはできない と考えていたために,借方・貸方の説明手段として「責任」という用語を用い たのである。さらに,「責任」は,負債を示す「責任」と単なる「会計責任」
とを区別する注意が常に払われなければならない多くの方法で解除されると述
(IO)
べている。これは,
Wildmanが主張した等式と考えられている〈資産=負債
+会計責任〉と同じものと考えられるかもしれないが,
Cole自身は会計等式
(8) Cole [1908] pp. 15‑17.(9) Cole [1908] p. 10.
その他の箇所でも,借方とは,単に何かが所有されているということではなく,ある 特定の人が何らかの価値に対して責任があるということを意味しており,貸方は,ある 特定の人が何らかの一定の価値を保証しているということを意味すると述べられている
(Cole [1908] p. 9)
。
(10) Cole [1908] p. 13;
c f . P
revits [1980] p. xi.Cole [1921]
では,貸借対照表貸方側を「所有主持分請求権
(ownership‑claim)」と 名付けており,すべての取引を,資産の増加・減少とこの所有主持分請求権の増加・減 少の
4つであると説明している。ただし,この所有主請求権も資本主の統制しない所有 主請求権と資本主の統制する所有主請求権の 2つに分けられており,負債と資本を区別
している
(Cf.Cole [1921] pp. 7, 12, 31, 33)。
香川大学経済論叢
1108を明示してはいない。
Cole
は
Accounts (1908)第
4章で,勘定を内部勘定
(internal)と外部勘定
(external)
という
2種類に分類して説明を行っている。彼によると,外部勘 定と内部勘定と呼ばれているものは, しばしば人名勘定と非人名勘定と呼ばれ ているが,外部勘定が常に人を表し,内部勘定が常に非人的なものを表すとい うことは偶然であるために,前者のほうがより論理的であると述べている。外 部勘定は,個人,パートナーシップ,社団
(associations),株式会社および同 様の組織体で記録される勘定であり,この勘定は,そのような人あるいは組織 体に対する企業の責任,そして,企業に対するそのような人あるいは組織体の 責任を示していると述べている。これに対して内部勘定は,企業外部者の誰一 人として,あるいは資本主とでさえ直接関連を有してはいないものである。財 産の異なる価格と,企業そのものを示す勘定はまったく記録されないが,企業 の異なる部分あるいは局面を示すための多くの勘定が,記録されている,ある いは記録されるべき勘定であると
Coleは定義し,その例として商品勘定,現
(11)
金勘定,利息勘定,賃金勘定を挙げている。しかしながら,このような抽象的・
概念的な説明だけでは外部勘定と内部勘定の意味するものがわかりにくい。そ こで他の箇所を参照すると,内部勘定を理解する上で非常に重要な説明文があ る。それは,「理論的には,
1つの内部勘定も有さずに企業の記録を行うこと は可能であろう。しかし,そのような記録は,利益の源泉あるいは損失の原因 を示すことができないだろうし,せいぜい,財産と負債とを比較する手段によっ
(12)
てのみ,利益あるいは損失の総額を示すだけだろう」という説明である。この ことから,内部勘定は利益の源泉あるいは損失の原因を示す,いわゆる損益に 関わるものと考えられる。
また,勘定が具体的にどのように分類されているのかを最も端的に示してい るのが,「外部勘定は常に,資産
(resources)あるいは負債のどちらかを示し ている。内部勘定は
2つの種類がある。財産勘定すなわち実在勘定と,説明的
(11) Cole [1908] p. 21. (12) Cole [1908] p. 22.
あるいは理由
(explanation or force)勘定すなわち名目勘定である。実在勘 定の借方残高は資産を示し,貸方残高である場合には負債を示す。そして,名
(13)
目勘定の借方残高は損失を示し,貸方残高は利得を示す」という説明である。
以下の[表
2・1]は,これを簡単にまとめたものである。
[ 表
2・1] Coleにおける勘定の性質による分類
外部勘定
l□実在勘定(資産あるいは負債)…現金勘定
内部勘定
l名目勘定(損失あるいは利得)…利息勘定,賃金勘定
(商品勘定は両者を含む)
Cole
は,商品勘定を従来の論者と同様に混合勘定であると説明している。
商品勘定は,現金あるいは受取手形と異なり単に財産を示すのではなく,また 利息や費用と異なり,単なる理由だけを示すものでもなく,それは財産勘定と 理由勘定
(aforce account),すなわち実在勘定と名
H勘定の両方であると述 べられている。つまり,商品は,購入価格で財貨に対して借方記入され,販売 価格でそれらに対して貸方記入されるためにその差額が利益を表すといういわ ゆる総記法的な考えである。これを式で表すと,〈商品利益=売上高+未売却 商品一購入された商品の原価〉であり,今日的には〈売上総利益=売上高+期
(14)
末棚卸商品一当期仕入高〉と同じ説明である。このような説明は当時において は極めて一般的であった。
ただし,[表
2・1]が示すように,商品勘定や現金勘定が内部勘定である ことからも,
Spragueが主張した〈外部勘定=資産・負債項目〉,〈内部勘定
(13) Cole [1908] p. 38. (14) Cole [1908] pp. 92‑93.
香川大学経済論叢
1110=費用・収益項目〉という明確な分類ではないことには注意すべきである。さ らに,[表
2・1]の説明では,外部勘定と内部勘定,実在勘定と名目勘定,
そして,商品勘定の説明で見られる財産勘定と理由勘定という用語が厳密に区 別されることなく使用されており,また,これらの勘定の関係が単なる言い換 えなのか,それとも違うものなのかも明確ではないという点が欠点である。ま た,先に示したように,財産の一種と考えられる現金勘定が内部勘定に含まれ
(15)
るのはなぜかという説明も見られない。以下では,損益面についてさらに具体 的に考察することにしたい。
3 . Cole簿記論における損益の分類と簿記観
Cole は,通常は若干の記入しか有さないが,非常に重要な勘定は損失• 利 得(勘定)
(Loss and Gain) ,あるいは損益(勘定)
(Profit and Loss)であ
り,これは保有される財産の価値の増加あるいは減少を測定する説明(名目)
勘定であると述べている。
Hatfieldの説明では,損益勘定は資本主持分勘定の 増減と位置づけられているが,ここでは財産という用語が使用されている。こ の財産が正味財産を意味するのであれば
Hatfieldと同じであるが,資産とし
(16)
ての財産であると解釈することもできる。
さらに,利息勘定の説明において
Coleは,「企業において我々が利息と呼
(17)
ぶ理由勘定は,損失
(loss)に対して責任があるからである」と述べているよ
(15) Cole [1921]
では外部勘定と内部勘定という説明は行われていない。また,名目勘定 と実在勘定については,このような名目および実在という用語は,会計文献においてほ とんど統一的に使用されており,説明上重要な役割を果たしていると認めている。実在 勘定は,その残高が資産あるいは認識できる所有主請求権を表し,名目勘定はこれらを 表してはいないものと説明されている。しかしながら,これらの用語は,一般にも使用 されていることから初心者を混乱させてしまう危険があるために,この用語の使用を極 力控えている
(Cf.Cole [1921] pp. 77‑79)。
(16)
ただし,この他の箇所の説明で,利益は名目勘定によってのみ示されるということが
当然ながら示されている。その理由として,名目勘定が貸方残高すなわち利益を表すな
らば,財産勘定が借方残高すなわち財産の超過分を示さなければならないが,財産勘定
は作り出される利益を包含するにもかかわらず,それらは利益の金額を記録しておら
ず,利益は投資や貸付金に混入されているということが挙げられている
(Cf.Cole [1908] pp. 27‑29)。
うに,費用
(expense)と損失の用語上の分類はなされていない。しかし他方 では,郵便料金,電話代,事務所賃借料,給料,保険料といった普遍的な性質 を持つ勘定として費用を挙げ,この勘定に対する借方は,そのような支出を必 要とする企業における効果
(force)が,その支出
(outgo)に対して責任があ るということを示していると述べている。そのために,上記でいう損失• 利得 勘定と損益勘定は同一のものであるのか,区別されているのかを理解すること が困難なのである。さらに,
Coleは以下のような説明を行っているために,
損失• 利得勘定と損益勘定は同一であるのかどうかということ,そして,損益 勘定にはどのような性質のものが含まれるのかが一層明確ではなくなってしま
うのである。
すなわち,「どのような簿記システムも,収益の源泉あるいは損失の原因
(all sources of income or causes of loss)すべてに対する勘定を提供しそうもな
い 。 事 実 , 損 失 あ る い は 利 得 の 日 常 的 な 原 因 と 例 外 的 な 原 因
(trivial and exceptional causes of loss or gain)を区別する価値はほとんどない。それら
は
1つによくまとめられている。もし,異なる収益
(income)の源泉あるいは 異なる損失
(loss)の原因を区別する試みがそれほど多く行われていないので あれば,破産による損失といったものは,損失• 利得勘定
(Lossand Gain)に 計上されそうである。にもかかわらず,通常,一年の期間の間で,例外的な日 常的なもの
(exceptionaltrivial things)に対してのみ,この勘定に記入され
る。しかしながら,年度末時点では,その他の元帳勘定から,どのような種類 の,そしてどのような大きさの損失あるいは利得すべても,この勘定に転記す
(18)
ることが通常である」という説明である。
最初の文は,あらかじめ帳簿上にすべての勘定を個別に設定することはでき ないということであり理解できる。その後に続く
2つの文章も,今日の集計勘 定としての損益勘定と同じものと解釈することができるだろう。また,破産に よる損失は,厳密にその性質によって区別するならば,損失• 利得勘定には計
(17) Cole [1908] p. 25. (18) Cole [1908] p.29.
1112
上されないと判断することができる。この破産による損失は,特別損失と考え られるために,損失• 利得勘定は損益勘定と等しいものと考えられる。しかし ながら,ここで「例外的な日常的なもの」の「例外的」という説明が何である のかがここだけでは理解しにくいのである。さらに,
Coleは,会計年度末に 損失あるいは利得を示すすべての勘定を締め切ることが通常望ましく,配当金 を支払おうと考えている株式会社の場合には,これは実務的に必要であると述 べている。そして,それらの勘定の残高を損益勘定
(profitand loss)に転記 し,最終的には損益勘定の残高を資本主(持分)勘定,配当金勘定,あるいは 未処分利益勘定に転記すると説明している。ここでは,損失や利得という説明 が特別損益を含んだすべての要素を示しているのに対して,それとは区別され
(19)
るものとして損益勘定という用語が用いられているのである。
このように,複式簿記における損益については,費用と損失の区別も明確で はないのである。しかしながら,彼の著書の「第 7章資本と利益の区別」の箇 所で幾分解釈の手助けとなる説明が行われている。そこでは,一般損益計算書
に対する補足書として次のような 3 つの計算書が例示されている。
(;20)
[ 表
2・2]損 益 計 算 書 に 対 す る 補 足 書 営 業 計 算 書
(tradingaccount)商 品 借 方 賃 借 料 賃 金 広 告 費 雑費
残 高
8,500商 品 貸 方 手 数 料
(19) Cole [1908] p. 46. (20) Cole [1908] p. 78.