【特別講演】
新たなグローバル経済の
アーキテクチャーと保険業界
チャールズ
D・レイクⅡ
■アブストラクト
米国発の世界的な金融危機を受けて構築されてきた新たなグローバル経済 のアーキテクチャーの中で,国際金融規制や国際保険監督規制は大きく変容 しようとしている。各国は,このグローバルガバナンスが進化する背景にあ る世界の四つの大きな潮流に対応しながら,国家戦略に基づく経済政策・対 外経済政策の展開,さらにはこれらと整合的な金融行政の実行を進めようと している。日本の経済政策の重要な基盤である金融行政を担う世界有数の洗 練された金融当局である金融庁は, ベターレギュレーション を掲げ,金 融・資本市場の国際競争力強化に向けた金融行政の進化の方向性を明確にし ており,国際社会の評価・期待も大きい。保険行政でも ベターレギュレー ション の更なる展開を通じた,透明性の高い自己責任原則と法に基づく行 政の実行が,日本経済の国際競争力強化にとって不可欠であり,持続的な経 済成長の実現をめざす アベノミクス の成功の鍵を握るベンチマークとし て国際社会が注視している分野である。
■キーワード
国際金融規制,ベターレギュレーション,現地法人化
*平成24年10月20日の日本保険学会大会(日本大学)特別講演による。
/平成25年2月6日原稿受領。
特別講演のため、
見出しをイレジ ュラー処理して い ま す。次 回 使 用しないこと
Ⅰ.世界の四つの潮流
米国発の世界的な金融危機を受け,国際金融規制や国際保険監督規制の枠 組みは大きく変容した。この変化を深く理解し適切に対応していくためには,
まずその背景,すなわち,世界情勢を塗り替えグローバルガバナンスの枠組 みを大きく変化させようとしている世界の大きな潮流を的確に受け止めるこ とが必要である。まず,この四つの潮流とは何かを洞察しよう。
⑴ 新興国の台頭とアジア・太平洋地域での地政学的リスクの増大
一つ目の潮流は, 新興国の台頭とアジア・太平洋地域での地政学的リス クの増大 である。国連は,2030年の世界人口が,現在の69億人から83億人 へ14億人増加すると予測している。人口増加の内訳は,インドや中国などの 新興国が中心であり,世界的な人口増加や経済成長は,食料,水,エネルギ ーといった戦略性の高い資源の需給逼迫をもたらし,これら資源を巡る世界 的な争奪戦が激しさを増すことを意味する。
人口増加が続く新興国の経済規模が拡大する一方,先進国は少子高齢化が 進展,労働人口の減少によって従来の成長率の維持が困難になる。経済成長 著しい中国,インド,ロシアといったアジアを中心とする新興国が台頭し,
政治的影響力をより一層強めることが新たな世界秩序の構築を必要とし,そ れへの移行過程において,新しい地政学的なリスクが増大する時期が続く。
日本,米国,欧州などはこのリスクに対応し,新たな世界秩序の構築に戦略 的に関与することが必要になる。昨今の米国のアジア・太平洋地域への軸足 の転換(pivot)も,こうした世界情勢を踏まえた国家戦略が背景となって いる。
⑵ 資本主義のあり方を巡る議論の深化
二つ目の潮流は, 資本主義のあり方を巡る議論の深化 である。世界の 経済発展は,実際には主要国も新興国も,その成長を市場経済に依存してき
た。東西冷戦終結後の経済モデルを取り巻く議論は, 資本主義
vs社会主
義 ではなく,資本主義の姿かたち,例えば, 市場型資本主義vs
国家資本 主義 に関する議論へと進化した。今後も,この議論の対立軸は継続し,論争は深化する。過去もそうであったように,今後もこの論争は資本主義の 姿を変化させて行く。なぜなら,グローバル社会での普遍的な認識として,
市場経済は完璧ではないが,人類が知り得た最も成功した繁栄のメカニズム であるとの考えが,世界の知識人の多くに共有されているからだ。勿論,市 場経済の要素は多面的であり,市場機能との関係で,金融,企業統治,財政 政策やマクロ経済運営(中央銀行の役割等)の議論も資本主義の形に大きく 関係し,その論争も続いていく。
ただ,今後深化するこの議論は, 市場の失敗 と 政府の失敗 に対す る先進国や新興国での評価の相違や理念,政策のバトルになる。 市場の失 敗 とはリーマンショックに代表される市場の行き過ぎがもたらす失敗だ。
市場の失敗を適切にコントロールする政府の介入は絶えず必要だが,政府も 失敗する。 政府の失敗 ,つまり政府が経済に介入する際に,政治家,官僚,
利益団体がそれぞれの思惑で政策立案過程に介入し,非効率を発生させる状 況も課題であり続ける。市場経済は変化し続けてきたし,今後も変化してい くなかで,市場と政府の役割に関する適切なバランスとは何かが更に問われ ていくのである。
⑶ 経済のグローバル化の更なる進展
三つ目の潮流は, 経済のグローバル化の更なる進展 である。経済のグ ローバル化が更に進展するする第一の要因は,新たなグローバル金融ルール の構築とマクロ経済の調整メカニズムの強化である。米国発の金融危機が世 界的な景気後退危機へと発展する中,首脳会議に格上げされた
G20サミット
の第一回目が,2008年11月にワシントンで開催された。これは,日米欧の先1) 国家資本主義とは国家が経済主体として支配的な役割を果たし政治面の利益 を得る為に市場を利用するシステム
進国を中心に構築されていたグローバルガバナンスの枠組みが,必ずしも基 本的価値観を共有しているわけではない,より多くの国が参加する形へと変 容を遂げたという意味で,グローバル経済のガバナンスの転換点として位置 づけられる歴史に残るサミットであった。G20の意義を考える上で忘れては ならない重要な論点は,金融危機を受けてもなお,自由資本市場経済やグロ ーバル経済の意義は決して否定されなかったことだ。金融危機の主たる要因 となった投資銀行のビジネスモデル,規制の不備と当局のリスク対応力の不 足,そして,グローバルインバランスなどに対応する必要性を認識しつつも,
自由資本市場経済の意義を否定することなく,新たなグローバル経済のアー キテクチャーの構築に向けた活動が推進されているのである。
G20サミットはその後,2009年11月に開催されたピッツバーグ・サミット
において, 国際経済協力に関する第一のフォーラム として公式に認知さ れ,このG20が指令塔になる形で,金融安定理事会(Financial Stability Board :FSB) が中心となって,そのメンバーであるバーゼル銀行監督委員
会(Basel Committee on Banking Supervision :BCBS),保 険 監 督 者 国 際機構(International Association of Insurance Supervisors:IAIS),証 券 監 督 者 国 際 機 構(International Organization of Securities Commis-
sions:IOSCO
)といった国際基準設定機関とともに,包括的なグローバル 金融規制改革を進めてきた。その結果,各国の利害が調整された形で様々な 国際基準が策定され,G20やFSB
の参加国のみならず,世界中のあらゆる 国々で,これら国際基準と整合的な国内規制を導入することが求められるよ うになってきている。こうした動きは,金融市場における 市場 と 政 府 の役割にリバランスを確立し公正な競争を促し,それが金融イノベーシ ョンを推進し,経済のグローバル化を更に進展させる原動力になっていくと 考えられる。2) 2009年4月に開催されたロンドン・サミットにて,従来の金融安定化フォー ラム(Financial Stability Forum :FSF)が金融安定理事会(Financial Sta- bility Board :FSB)としてより機能強化された形に再構成された。
第二の要因は,前述のような新たな国際金融ルールと共に,世界各地で経 済 連 携 協 定(Economic Partnership Agreement :EPA),自 由 貿 易 協 定
(Free Trade Agreement :FTA)の締結が進み,国境を越えたヒト,モノ,
カネ,情報の流れが更に拡大,企業と人材の国境を越えた活動が一層活発化 していることである。各国は今後,2010年に横浜で開催されたアジア太平洋 経済協力会議(Asia‑
Pacific Economic Cooperation :APEC
)で合意され た 2020年までにアジア太平洋自由貿易圏(Free Trade Area of Asia‑Pacific:FTAAP)を構築する という目標に向け,環太平洋経済連携協定
(Trans
‑Pacific Partnership Trade Agreement :TPP
)や東南アジア諸国 連 合(Association of South‑East Asian Nations :ASEAN)+3,ASEAN +6(東ア ジ ア 地 域 包 括 的 経 済 連 携,Regional Comprehensive Economic Partnership :RCEP)を始めとする複数の経済連携の枠組みを
模索することになろう。こうしたグローバル化の進展は,新興国の台頭とも 相まって,企業間のグローバル競争が更に激しさを増すことを意味すると同 出典:各種資料をもとに筆者作成。
時に,日本にとって,世界市場で代替不可能な技能職や,国内市場で提供さ れる貿易不可能なサービス分野の雇用を更に確保することが,より一層重要 になることをも意味する。
⑷ グローバルガバナンスの多極化,複雑化
四つ目の潮流は, グローバルガバナンスの多極化,複雑化 である。中 国,インド,ロシア,ブラジルといった新興国が急速に台頭し,これらに米 国,欧州を加えた,経済力,軍事力,人口,資源を有する巨大国家,巨大国 家連合が,世界のメインプレーヤーとして存在感を高めることで,グローバ ルガバナンスの枠組みがより多極化,複雑化していく。
米国が単独のスーパーパワーでなくなることが米国の完全な低迷を意味す ると考えるのは間違いである。米国は,移民の増加によって先進国の中で例 外的に高齢化を回避することが可能と予想される一方,長期的には経済規模 シェアが低下するとの予測もあるが,中長期的にはシェールガスの開発がも 出典:各種資料をもとに筆者作成。
たらす効果は大きい。中東諸国等からの石油の輸入が減少し貿易赤字が縮小 するだけではなく,エネルギーコストの軽減を通じて米国経済の競争力強化 に繫がる。圧倒的なスーパーパワーの立場を前提とした外交戦略は変容縮小
(retrenchment)するものの,今後も経済大国であり続け,軍事力において も最強の地位を維持しつつ,アジア・太平洋地域に軸足を転換(pivot)し た形で,新たな戦略的連携に基づく外交戦略を展開することになろう。そし て,新しい形の世界的なリーダーシップを米国は発揮する。ヨーロッパは過 去における危機の連続を克服しつつ推進してきた欧州の統合を,更に前進さ せる。目下の債務危機も最終的には克服し,大規模な財政共同体へと移行す る。これらの変化はつまり,各国一票が原則の国際機関による世界秩序を形 成する態勢が進化し,一極や二極ではなく,複数の巨大国家,巨大国家連合 の間での交渉,調整による決定の影響を大きく受ける,新しい形の国際機関 によるガバナンスへと変容することを意味する。各国は,こうした複雑なグ ローバルガバナンスの中で,どのようにして自国の国益を守るためのアジェ ンダセッティングを行っていくのか,どのようにして基本的価値観の異なる 国々の間で合意形成をしていくのかが問われており,それは日本も例外では ないのである。
Ⅱ.新たな国際金融規制の枠組みと国際保険監督規制
続いて,米国発金融危機後に大きく変容した国際金融規制の枠組みや,そ れをベースとした国際保険監督規制の現状について整理していきたい。
⑴ 新たな国際金融規制の枠組みと IAIS
前述のように,米国発の金融危機が世界的な経済危機へと発展する中,
2008年11月,首脳会議に格上げされた
G20サミットの第1回目がワシントン
で開催され,危機への対抗策が議論された。その後,現在に至るまで,このG20が指令塔になる形で,FSB
が中心となり,そのメンバーであるBCBS,
IAIS,IOSCO
といった国際基準設定機関らと共に,新たな国際金融規制が検討されている。
IAIS
は保険分野における国際基準の設定を主導する役割を担っており,実効的でグローバルに整合的な保険監督の推進やグローバルな金融安定への 貢献を主たる使命として,1994年に設立された。約140ヶ国,約190の法管轄 地域の規制・監督当局がメンバーとなっており,日本については金融庁がメ ンバーとして参加している。メンバー以外にも,保険会社や業界団体,コン サルティングファーム等がオブザーバーとして参加することが可能であり,
私が日本における代表者・会長を務めるアフラック(以後,当社)もオブザ ーバーとして複数の国際会合に出席している。組織構成については,意思決 定機関たる総会及び執行委員会の下に,規制・基準の策定を担う専門委員会 や,基準の実施や実施状況の評価などを担う実施委員会の他,予算委員会,
監査委員,上級監督者フォーラム,金融安定委員会が設置されている。専門 員会の下にはさらに,会計・監査,ガバナンス,ソルベンシー規制などを担 当する複数の小委員会が設置されている。
出典:IAIS資料等をもとに筆者作成。
⑵ IAIS の三段階の規制体系
IAIS
は大きく三段階の規制体系の構築を目指している。第一段階は,国 際規制・基準の根幹をなす 保険基本原則(Insurance Core Principles:ICP
) ,第二段階は,システミックリスクを引き起こしうる保険会社に対す る規制・監督として, グローバルなシステム上重要な保険会社(GlobalSystemically Important Insurers:G‑ SIIs
) 規制,第三段階は,国際的に活動する保険会社に対する規制・監督として, 国際的に活動する保険会社 グループの共通の評価枠組み(Common Framework for the Supervision
of Internationally Active Insurance Group :ComFrame
) である。三つの規制それぞれについて以下で説明する。
①保険基本原則(ICP)
ICP
は,健全な保険セクターの促進と適切な保険契約者保護の実現に向 けた,監督者が保険監督を行うに当たっての基本原則などを定めたIAIS
の 監督文書であり,IAISの国際基準の根幹をなす。IAISのメンバー国は,ICP
に則った監督を実施することを推奨されており,世界銀行及びIMF
の 金融セクター評価プログラム(Financial Sector Assessment Program :FSAP
) においても,評価対象国の保険監督制度が国際水準を満たしてい るかを評価する基準として採用されている。ICP
は2003年に策定されたが,米国発金融危機やAIG
の破綻がもたらし た課題,保険会社のグローバル化の進展などを踏まえ,監督の質と量の強化(グループ監督,リスク管理,企業統治の強化),マクロプルデンシャル監視 の強化,リスクベースの監督,プロポーショナリティの原則(保険会社・グ ループの規模・性質・複雑性に応じた柔軟な対応)の導入などを掲げ,これ らを従来の
ICP
に織り込む方向で改定作業を進め,2011年10月にソウルで 開催されたIAIS
年次総会にて,26項目からなる改定ICP
を採択した。見出しが行末に来てしまうため、アキを作成しています
②グローバルなシステム上重要な保険会社に対する規制(G‑
SIIs規制)
米投資銀行・リーマンブラザーズの破綻は,金融システムに混乱をもたら し,実体経済に重大な影響を及ぼした。こうした巨大金融機関の破綻がもた らすシステミックリスクの大きさを踏まえ,銀行規制に関して進められてい る議論を後追いする形で,前述のようなICP
の改定に加え,システミック リスクを引き起こしうる グローバルなシステム上重要な保険会社(G‑SIIs
) の選定,またそれらに対する政策措置の策定が進められている。G‑ SIIs選定の基準案は IAIS
より2012年5月に示されており,すでにバ ーゼル委員会より示されてい た グ ロ ー バ ル な シ ス テ ム 上 重 要 な 銀 行(Global Systemically Important Banks:G‑
SIBs
) の選定基準をベース に,保険独自の特性を考慮しながら策定された。5つの指標(規模,グロー バル活動,相互関連性,非保険・非伝統的保険ビジネス,代替可能性)をベ ースに判定され,各指標の母集団における個社占率を算出し,各指標に割り 当てられたウエイトに応じて加重評価する形となっている。5つの指標の中 でも,非保険・非伝統的保険ビジネスが40〜50%と,突出して大きくなって いるが,これは,システミックリスクが大きいのは,例えばクレジットデフ ォルトスワップのような非保険・非伝統的保険ビジネスであり,伝統的な保 険ビジネスのシステミックリスクは限定的とする考え方が一般的となってお り,こうした考え方が反映されているためと考えられる。当選定基準による 評価の後,監督判断及び検証を経て,IAISがG‑ SIIsのリストを提案し,
2013年上半期に
FSB
が最終的な決定をする予定となっている。足切りライ ンやウエイトなどの詳細については,現時点では決まっていない。G‑ SIIsに対する政策措置については,2012年10月に市中協議文書が公表
され,実効的な破綻処理やより高い損失吸収能力(Higher Loss Absorp-tion Capacity:HLA)などの措置についての提案がなされ,G‑ SIIsに対し,
再建・破綻処理計画(Recovery and Resolution Plans:RRPs)や,シス テミックリスク削減計画(Systemic Risk Reduction Plan:SRRP)の策 定・履行を求めることなどが示された。SRRPには,非保険・非伝統的保険
ビジネスを伝統的な保険ビジネスから分離する計画などが含まれる。G‑
SIIsに対する資本規制については,具体的な基準等は示されていないもの
の,資本規制を強化する方法として,まず非保険・非伝統的保険ビジネスを 分離し,それに対して追加的な資本規制を課し,その上で,グループ全体へ の追加的な資本規制を導入するといった二段階のアプローチが示されている。追加的な資本規制については,2013 年末までに詳細が決定する予定となっ ており,破綻処理関連規制は最速で2013年中,その他規制は最速で2019年か ら適用される可能性がある。
③国際的に活動する保険会社グループの共通の評価枠組み(ComFrame)
IAIS
は,金融危機時にAIG
のような国際的に非保険・非伝統的保険ビジ ネス分野で活動する保険会社に対する効果的な規制・監督が行われなかった という反省(AIGは保険事業以外の事業であるイギリスの金融子会社が行 ったクレジットデフォルトスワップによる損失が経営破綻を招いたとされ る)を踏まえ,国際的に活動する保険グループ(Internationally ActiveInsurance Group :IAIG)のリスクに対処する包括的な枠組みと,監督者間
の国際的な協力の基盤の整備を目指し,ComFrameの策定を進めている。
金融危機時の
AIG
が現在も存在していれば,明確に グローバルなシス テ ム 上 重 要 な 保 険 会 社(G‑SIIs
) に 認 定 さ れ る は ず で あ ろ う か ら,ComFrameは必ずしも必要とはならないが,その教訓を生かすという意味
でも議論が進められている。ComFrameは,四つのモジュールとそれぞれのモジュールに対応するエ
レメントから構成されている。IAIGの認定基準については,モジュール1 で言及されており,直近のコンセプトペーパーにおいて,国際活動基準とし て, 三つ以上の管轄区域から保険料収入を得ており かつ グループの総 保険料収入の10%以上を本国外で獲得 ,かつ,規模基準として, 総資産が 500億ドル以上 または 総保険料収入が100億ドル以上 と定められている。単 英 語が き 別 れ し 泣
←
ー 処 理 を し て い ま す
て し ま う の で,イ レ ジ ュ ラ
脚注が入らないため、アキを作成しています
当基準をもとに,各国の監督者や監督カレッジ が
IAIG
を認定することに なるが,当認定基準に合致しなくとも,監督者の裁量でIAIG
として認定さ れることもあるとされている。グループの資本十分性評価など,定量項目に ついてはモジュール2で規定されるが,当項目については,特に欧米間にお ける意見の隔たりが大きく,基本的な論点について引き続き議論が必要な状 況となっている。ComFrameは現在,三年間の開発フェーズの最終年に入 っており,2013年7月に最終案が公表され,2014年以降,複数年にわたる影 響度評価などを経て,正式に導入される予定となっている。Ⅲ.日本の保険行政と国際社会
これまでの議論を前提に,新たなグローバルガバナンスの枠組みの中で,
日本の保険行政がどのように国際社会から評価されているかを確認した上で,
金融・資本市場の国際競争力強化の観点を踏まえつつ,今後の進むべき方向 性について考察していきたい。
⑴ 金融行政の三大政策目標と ベターレギュレーション
佐藤隆文・元金融庁長官が説明しているように ,国際社会は共通して,
資本主義経済が適切に機能する上で重要な要因の一つである合理的で効果的 な金融行政が,三大政策目標,⑴金融システムの安定,⑵利用者の保護,⑶ 市場の透明性・公正性,を確保するために実行されているかどうかを重視し ている。そして,各国の金融・資本市場の国際競争力を評価する上で重要な ベンチマークになるのが,これらの政策目標を達成する為に導入されている 関連法案や当局の権限や行政手段の適応状況であり,これは, 金融規制の 質的評価 と呼ばれることもある。
日本の金融行政は1990年代の金融危機の経験を踏まえ大きく改革が進めら
3) 多国籍で事業展開する大手金融機関に対し関係する国の金融当局が連携して 監督を実施する機関
4) 佐藤隆文 金融行政の座標軸 (東洋経済新報社)
れ,護送船団方式は自己責任原則へと移行し, 金融規制の質的評価 の向 上を企図した ベターレギュレーション 等の,金融・資本市場の国際競争 力の強化に向けた金融行政の進化の方向性が,歴代金融庁長官によって示さ れている。 ベターレギュレーション の場合,具体的には規制の実効性,
効率性,一貫性,透明性,時代適合性などを評価基準として行われている取 り組みであり,この方針の内容は国際社会も大いに歓迎している。私自身も,
金融庁は世界有数の洗練された金融当局の水準にあると考えており,米国生 命保険協会国際委員長や米日経済協議会会長・日米財界人会議米側議長など の立場で参加している,国際金融規制の枠組みや経済連携協定の交渉に関わ る官民国際会議などの場において,繰り返しそういった趣旨のコメントをし てきた。
金融庁は,こうした ベターレギュレーション の方針を,現在において も何ら変更していない。しかしながら,昨今,特に民主党政権下の 政治主 導 の影響なのか,こうした方針と矛盾しかねない金融行政が実体経済の現 場では実行され,国際社会から様々な懸念が示されていることもまた事実で ある。その様な国際社会の評価があること自体が,米国発金融危機を受け,
米国や英国の金融センターが足踏みする中,日本が金融・資本市場の競争力 強化を前進させる千載一遇のチャンスを逃してしまったと見る関係者も多い。
⑵ ケーススタディ: 平成24事務年度 保険会社等向け監督方針
昨今,市場関係者が 異例な例 として注目したのが,2012年8月に金融 庁が公表した 平成24事務年度 保険会社等向け監督方針 における外国保 険会社等への対応に関する記載である。特に注目されたのが,監督方針の中 で 拠点の規模や業務内容等によっては,支店の現地法人化を行うことが適 当 とされた部分である。日本経済新聞社も含め,市場関係者が着目したの は,日本市場で 拠点の規模 が大きい外国保険会社が少数となっている中 で,この記載は限られた外国企業を当局がターゲットにしたものなのではと いう推測からである。
当社は,日本拠点の規模が大きい事例となるが,日本社の現地法人化につ いて,主に三つの理由,すなわち,⑴保険業法が支店形態での営業を認めて おり,既に法令の厳格な規制(ソルベンシーマージンの適用,日本国内の資 産保有義務,契約者保護機構への加入義務,など)のもとに保険業を遂行し ていること,⑵実質的に現地法人と同等又はそれ以上の水準のコーポーレー トガバナンスを確保していること,⑶現地法人化によって米国における莫大 な税負担が発生することを総合的に勘案した上で,日本の契約者,日米の株 主,投資家など当社のステークホルダーの利益保護に鑑み,日本社の現地法 人化を行わないことが合理的であるという経営判断をしている。三つの理由 それぞれについて,以下で詳述したい。
一つ目の理由は,保険業法が支店形態での営業を認めており,既に法令の 厳格な規制のもとに保険業を遂行していることである。保険業法上,外国保 険会社等の支店形態による営業は,その拠点の規模や業務内容等にかかわら ず認められており,現地法人化を強制するものではない。保険業法は,日本 の保険契約者保護の観点から,外国保険会社に対し, ソルベンシーマージ ン比率規制 , 資産の国内保有義務 , 保険契約者保護機構への加入義務 を課しており,これら規制は,決済業務を担うが故にシステミックリスクを も内包している 外国銀行支店 に対する規制(自己資本比率基準の不存在,
資産の国内保有義務の範囲の限定など)よりも極めて厳格なものとなってい る。当社は,外国保険会社として,上記のような法の定める厳格な規制を受 け,かつ,これを遵守している。
二つ目の理由は,実質的に現地法人又はそれ以上の水準のコーポ⎜レート ガバナンスを確保していることである。当社は,日本市場での規模や業務内 容を前提に日本における経営の統括管理が十分かつ適切に機能し,日本社の 経営陣に十分な権限と責任が与えられるよう,自己責任原則に基づき,法令 が要求する基準を超えた経営管理態勢及び内部管理態勢を日本国内で構築し ている。具体的には,主に四つの仕組み,1.
Aflac Japan
マネジメント ガイド にもとづく日本社の主体性確保,2. 日本における代表者を頂点とする完結した経営管理態勢及び内部管理態勢,3. 日本における代表者の独 断専行の牽制・抑止機能,4. 最上位の審議機関での十分な審議を確保する ことによって,実質的に現地法人又はそれ以上の水準のコーポ⎜レートガバ ナンスを実現していると自負している。
三つ目の理由は,現地法人化によって追加的に莫大な経済コストが発生す ることである。当社日本社の現地法人化は,米国会社の無形資産の米国外へ の移転を伴う結果,当該移転に対して米国税務上の
Super Royalty
が課 税されるなど,推定で,初年度だけでも800億円から2,000億円の米国におけ る税負担が発生し,さらにそれらに加え,毎年継続的に多額の付帯費用とマ ネジメントリソースの投入が必要となる見込みである。このような複数年に わたり新たに生じる莫大な経済コストは,それだけでも現地法人化をしない という経営上の判断を支えるに十分な合理的理由であるし,日本における適 切な事業形態を考慮するに際して,重大な関心が払われるべき事由であると 出典:各種資料をもとに筆者作成。いえる。これら費用は,究極的には日本の契約者が支払った保険料により賄 われることになるが,前述のように,現地法人化を行う実質的な理由はない にもかかわらず,これらの費用支出を伴う現地法人化を行うことは,日本の 契約者保護という観点からも適切でないと考えている。
現地法人化を実施しないという当社の経営方針の背景は上述の通りである が,金融庁の幹部に確認したところ,当該監督方針は当社のような個別の企 業をターゲットにしたものではないと明言していることも,ここで付言して おきたい。
⑶ 国際社会から沸き起こる素朴な疑問
しかし,当監督方針の内容や策定プロセスについては,国際社会からも疑 問の声が継続してあがっている。特によく聞かれるのは,当監督方針の内容 や策定プロセスが, ベターレギュレーション と照らし合わせて, 総論賛 成・各論反対 となっているのではないかといった疑問である。 総論賛 成・各論反対 とはつまり, 総論 では ベターレギュレーション の重 要性に誰も異論を唱えないが, 各論 ,つまり日々行われる行政の実務の段 階に入ると,その 総論で賛成 していることを無視した対応を当局の現場 の担当者が行っている実態である。当監督方針について,国際社会から 総 論賛成,各論反対 の事例と受け止められているポイントは具体的に三つあ る。
一つ目は, ベターレギュレーション では, ルールベースの監督とプリ ンシプルベースの監督の最適な組合せ を第一の柱として掲げ, ルールベ ースの監督 と,いくつかの主要な原則を示し,それに沿った金融機関の自 主的な取組みを促す プリンシプルベースの監督 を最適な形で組み合わせ ることによって全体としての金融規制の実効性を確保していくことが重要と しながら,この監督方針では,法律が支店形態を認めているにもかかわらず 現地法人化という個社の個別具体的な経営判断の領域に立ち入る姿勢を見せ ている点である。
←イレジュラー 処理をしていま す。訂正時注意
二つ目は, ベターレギュレーション では,金融機関等から見た行政対 応の予測可能性の向上に資するとして 金融機関等との対話の充実 を当面 の具体策として掲げながら,実際は,当監督方針を策定するにあたり,金融 審議会や国会での議論,パブリックコメント制度の活用はおろか,直接的な 影響を受ける支店形態の外国生命保険会社との事前の実質的な対話さえも行 わずに突然この監督方針が発表された点である。
三つ目は, ベターレギュレーション では, 海外当局との連携強化 を 当面の具体策として掲げ,金融のグローバル化に対応し,規制・監督の国際 的な整合性を確保するとしているが,もし実際に日本市場で展開する外国保 険会社に関して経営形態に関わる監督上の懸念がある場合,それらの金融機 関を本国で監督している海外の規制当局と具体的な問題に関する意見交換や 連携を行うのが国際的な当局間の礼儀(comity)だが,その様な連携がま だ行われていないにも関わらず, 支店の現地法人化を行うことが適当 と いう結論を発表した点である。
更に,国際社会が注目する重要な論点として,世界貿易機関(WTO)の サ ー ビ ス の 貿 易 に 関 す る 一 般 協 定(GATS)や,OECDの 自 由 化 規 約 (
“CODE OF LIBERALISATION OF CURRENT INVISIBLE OPERA-
TIONS”
)において,各国が 信用秩序維持のための措置 をとることが許容されているものの,保険会社が支店形態でクロスボーダーの事業展開を行 うことが明確に認められており,国際法上の問題も発生する可能性があるこ とを指摘しておきたい。昨今,IAISが支店監督に関する作業グループを設 立し論点整理を進めていることが話題になっているが,世界で31の保険協会 が加盟し世界の保険ビジネス の87% を 占 め る グ ロ ー バ ル 保 険 協 会 連 盟
(GFIA)が,当作業グループによる論点整理ペーパー(ドラフト版)につ いて,実証的研究の裏付けのないままで結論を導いていること,支店形態に 対する明らかな偏見があること,通商上の義務やその他法的拘束力のある義 務を考慮していないこと,支店形態が持つ保険契約者,保険会社,監督者に 対する恩恵を無視していることなどを指摘している。今後の
IAIS
での議論では,WTOへの参加国が議会で承認した条約やその他国際法との整合性,
特に,前述の適用除外規定としての 信用秩序維持のための措置 の基準を 明確化する必要性が出てくる可能性もある。また,WTOの新多角的貿易交 渉(ドーハラウンド)が休止状態に陥る中,約20年前に発効した
GATS
の 更なる高度化を目指す国際サービス協定(International Services Agree-ment :ISA)の交渉が,日本や欧米を含む有志の21カ国・地域の間で,2013
年春にも開始されようとしているが,このIAIS
での議論が国際サービス協 定の交渉に様々な意味で大きな影響を与える可能性が高まっている点にも言 及しておこう。⑷ アベノミクスと日本の保険行政に対する国際社会の期待
第二次安倍内閣は,大胆な金融政策,機動的な財政政策,民間投資を喚起 する成長戦略の 三本の矢 を掲げ,長引く円高やデフレからの脱却に向け,
いわゆる アベノミクス を本格始動させている。私は,人々の 期待 に 訴えかける大胆な金融緩和や,中長期の財政健全化の道筋を示した上での積 極的な財政出動は,短期的に大きな効果をもたらすであろうと考える。ただ し,重要なのはその効果の持続性である。多くの有識者が異口同音に主張す るのと同様,私も, アベノミクス の成否,すなわち,放った二本の矢が 本質的な効果を発揮し,量的に拡大した資本が効率的に実体経済に配分され 企業の資金調達に貢献し,日本経済の持続可能な成長を実現できるかどうか は,三本目の矢である成長戦略の内容と実行にかかっていると言っても過言 ではないと考えている。2013年1月11日に閣議決定された 日本経済再生に 向けた緊急経済対策 の中で,成長戦略の方向性として, 世界で一番企業 が活動しやすい国 , 個人の可能性が最大限発揮され雇用と所得が拡大する 国 , 貿易立国 と 産業投資立国 が相乗効果を発揮する ハイブリッド 経済立国 を目指し,イノベーション促進,規制改革,税制改正などを進め るとともに,アジア
No.
1市場の構築に向け,市場の利便性向上や国際競争 力の向上等を通じた金融・資本市場の活性化に取り組むことが謳われているのは周知のことであろう。では,成長戦略としての金融・資本市場の活性化 を成功させるために重要な要素とは一体何であろうか?私は,国際法の遵守 と,前述の ベターレギュレーション の更なる展開を通じ,国際社会にと っても透明性の高い,自己責任原則と法律に基づいた金融行政,つまり裁量 行政による 政府の失敗 に対する適切なチェックが可能な金融行政を実行 することが鍵になると考えている。
競争力のある金融・資本市場は,世界経済のグローバル化・フラット化の 進展により,人・モノ・情報だけでなく,資本の国際移動も活発化する中で,
効率的な資本配分や企業の効率的な資金調達に貢献するだけでなく,対内直 接投資を増加させるといった意味においても,経済の持続的成長に欠くこと のできない重要な要素と考えられる。世界では,こうした共通認識のもと,
対内直接投資の獲得・引き留めに向けた国家間競争が活発に行われているの 5) UNCTAD World Investment Report2011
出典:UNCTAD World Investment Report2011
である。そういった世界情勢の中で,日本の対内直接投資は,2010年の世界 のストックベースの平均値が名目
GDP
比で30.3パーセントであるのに対し,3.9パーセントに留まっており ,大きく遅れをとっていると言わざるを得 ない。 アベノミクス もこうした実態を踏まえた上で策定されたものと認 識しているが,当監督方針の例のように,国際社会が懸念するような内容の 方針を不透明なプロセスで採用するなど,自ら掲げる ベターレギュレーシ ョン と矛盾し,国際社会から 総論賛成・各論反対 と受け止められるよ うな事例が多く見られれば,それは アベノミクス に関するネガティブな 評価へとつながることが懸念される。日本が今後,金融・資本市場の競争力 をより一層強化し,対内直接投資を増加させ,経済の持続的成長を達成する には,こうした国際社会の声を前提に,国際社会における議論の実態を踏ま えた適切な対応を行っていくことが肝要であろう。私は,前述の通り,世界 有数の洗練された金融当局たる金融庁は,国際社会から高く評価される金融 行政を実行するポテンシャルを十分に有していると信じているし,国際社会 の経済大国・日本に対する期待は大きいと考えている。
米国発金融危機を受けて構築されてきた新たなグローバル経済のアーキテ クチャーの中で,各国は,国家戦略に基づく経済政策・対外経済政策の展開,
さらにはこれらと整合的な金融行政の執行が求められている。私はイギリス 系米国人の父と日本人の母の子として米国で生まれ,東京で育った。つまり,
私にとって日本は愛する故郷である。日本を愛する一人として,日本が,独 自の基本的価値観に根ざしたグローバル化時代の国家戦略に基づいた経済政 策,そしてそれらと整合的な利用者保護と信用秩序の維持を前提とした金融 行政を展開することによって,グローバル経済の中で大きな役割を果たし,
世界のために,アジア・太平洋地域のために貢献することを願っている。
(筆者はアフラック 日本における代表者・会長)