サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪 : オウム真理教「サリン生成用化学プラント建設事件
」控訴審判決(東京高裁平成10年6月4日判決)の検討
著者名(日) 安里 全勝
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 44
ページ 43‑59
発行年 1999‑12‑25
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000831/
判例研究
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
オウム真理教﹁サリン生成用化学プラント建設事件﹂
控訴審判決︵東京高裁平成一〇年六月四日判決︶の検討
43サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
﹇轍礎鱗霧鑑灘墾
安 里 全 勝
︿事実の概要﹀
オウム真理教団に所属する被告人は︑不特定多数の者を殺害する目的で︑教団代表者A及び教団所属の者多数と
共謀の上︑平成五年一一月ころから平成六年一二月下旬ころまでの間︑山梨県西八代郡上九一色村所在のオウム真
理教団施設第七サティアン及びその周辺の教団施設等において︑同サティアン内に設置するサリン生成用の化学プ
ラントの工程等の設計図書類の作成︑プラントに用いる資材︑器材及び部品類の調達︑その据付け及び組立て並び 判例研究
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
ーーーオウム真理教﹁サリン生成用化学プラント建設事件﹂ 控訴審判決(東京高裁平成一 O 年六月四日判決)の検討│││
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
﹁殺人予備被告事件︑東京高裁平成九ゆ一五五五号︑平日・ 一 4 刑二部判決︑控訴棄却(確定)(一審東京地裁平七刑制=二
一 二
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H判 決 ( 公 刊 物 未 登 載 ) ) ︒ 判 例 時 報
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概要
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オウム真理教団に所属する被告人は︑不特定多数の者を殺害する目的で︑教団代表者 A 及び教団所属の者多数と
共謀の上︑平成五年一一月ころから平成六年一二月下旬ころまでの問︑山梨県西八代郡上九一色村所在のオウム真
理教団施設第七サティアン及びその周辺の教団施設等において︑同サティアン内に設置するサリン生成用の化学プ
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ラントの工程等の設計図書類の作成︑プラントに用いる資材︑器材及び部品類の調達︑その据付け及び組立て並び
法学論集 44〔山梨学院大学〕44
に配管︑配電作業を行うなどして本件プラントを完成させ︑さらに︑サリン生成に要する原料のフッ化ナトリウ
ム︑イソプロピルアルコール等の化学薬品を調達し︑これらをサリンの生成工程に応じて本体プラントに投入し︑
これを作動させてサリンの生成を企てたというものである︵尚︑同教団のサリン生成計画は平成五年夏頃までにな
された︒即ち︑教団代表者Aが幹部Bらと共謀して大量殺人を企て︑有機リン系の神経ガスでごく少量でも生命に
危険がある猛毒のサリン七〇トンを生成することを計画した︒そして︑その実現に向け︑Cらが︑サリン生成工場
となる第七サティアンの建築を行い︑同年九月ころに完成させた︒また︑Dが効率的で量産可能な五工程から成る
サリン生成方法を考案し︑同年一一月に︑第七サティアンに近接するクシテイガルバ棟でサリンの生成に成功し
た︒︶︒右事実につき︑東京地方裁判所は︑殺人予備罪の成立を認めた︵東京地裁平成九・七・一四判決︹公刊物未
登載︺︶︒
これに対し︑被告人側から事実誤認︑法令適用の誤り等を理由に控訴が申し立てられた︒弁護人の主張は次の通
りである︒eいまだ本件プラントの建設にも着工していない時期から殺人予備罪が成立するとした原審の判断は誤
りである︒◎本件プラントの最終工程は全く稼働しておらず︑プラントは未完成であったから殺人予備罪は成立し
ない︒e被告人には本件プラントの最終生成物が毒ガスであるとの認識が全くなく︑殺人予備の犯意が認められな
い︒⑳殺人予備罪は自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であるから︑大量殺人の目的を有していない
被告人に殺人予備罪は成立しない︒㊧自らが関与するより前の他の者らによる行為については責任を負わないとい
うものである︒
これに対して︑本件東京高裁平成一〇年六月四日判決は︑原審の認定した事実を肯定し︑右の弁護人の主張をい
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に配管︑配電作業を行うなどして本件プラントを完成させ︑さらに︑ サリン生成に要する原料のフッ化ナトリウ
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(山梨学院大学〕
ム︑イソプロピルアルコール等の化学薬品を調達し︑これらをサリンの生成工程に応じて本体プラントに投入し︑
これを作動させてサリンの生成を企てたというものである(尚︑同教団のサリン生成計画は平成五年夏頃までにな
された︒即ち︑教団代表者 A が幹部 B らと共謀して大量殺人を企て︑有機リン系の神経ガスでごく少量でも生命に
危険がある猛毒のサリン七 0 トンを生成することを計画した︒そして︑その実現に向け︑ C
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︑
サリン生成工場
となる第七サティアンの建築を行い︑同年九月ころに完成させた︒また︑ D が効率的で量産可能な五工程から成る
法学論集
サリン生成方法を考案し︑同年一一月に︑第七サティアンに近接するクシティガルパ棟でサリンの生成に成功し
た︒)︒右事実につき︑東京地方裁判所は︑殺人予備罪の成立を認めた (東京地裁平成九・七・一四判決︹公刊物未
登 載
︺ )
︒
これに対し︑被告人側から事実誤認︑法令適用の誤り等を理由に控訴が申し立てられた︒弁護人の主張は次の通
り で
あ る
︒
θ いまだ本件プラントの建設にも着工していない時期から殺人予備罪が成立するとした原審の判断は誤
り で
あ る
︒
O 本件プラントの最終工程は全く稼働しておらず︑プラントは未完成であったから殺人予備罪は成立し
ない︒②被告人には本件プラントの最終生成物が毒ガスであるとの認識が全くなく︑殺人予備の犯意が認められな
い︒⑮殺人予備罪は自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であるから︑大量殺人の目的を有していない
被告人に殺人予備罪は成立しない︒⑤自らが関与するより前の他の者らによる行為については責任を負わないとい
う も
の で
あ る
︒
これに対して︑本件東京高裁平成一 O 年六月四日判決は︑原審の認定した事実を肯定し︑右の弁護人の主張をい
ずれも排斥した︒
45サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
︿判旨﹀
e 事実誤認の主張については次のように判示する︒
○ 原審が平成五年一一月頃から殺人予備罪が成立するとした点に誤りがあるという所論について︒﹁平成五年
二月ころの段階では︑既にサリン生成工場としての第七サティアンが完成していたこと︑効率的で量産可能な五
工程から成るサリン生成方法が考案されてその生成に成功していたこと︑七〇トンのサリンの生成に向けて必要な
大量の原材料の購入が始まっていたことの諸事情が存するのであって︑Aらが企図した殺人の実行行為に不可決な
サリンにつき︑その生成工程がほぼ確立され︑量産へ向けて態勢に入ったものといえるから︑同時点以降のサリン
の大量生産に向けてされた諸行為は︑大量殺人の実行のために必要であるとともにその実行の危険性を顕在化させ
る準備行為として殺人予備罪に該当すると解される︒このような観点からして︑原判決が殺人予備行為の始期を平
成五年一一月ころと認定したことに問題はないといえる︒﹂
◎ 本件プラントの第四工程が稼働したのは一回だけであり︑しかも同工程に構造上の欠陥があったため生成さ
れたジフロが回収されず︑また︑第五工程は全く稼働していないということを挙げて︑本件プラントは未完成であ
ったから殺人予備罪が成立しないという所論について︒﹁平成五年一一月ころ以降のサリンの大量生産に向けてさ
れた諸行為が殺人予備行為と評価されるのであって︑所論指摘のような事情は殺人予備罪の成否に影響を与えな
い︒⁝⁝原判決は︑罪となるべき事実としては︑サリンを生成したとの事実までは認定していない︒その上︑実際 ずれも排斥した︒
︿判
旨﹀
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事実誤認の主張については次のように判示する︒
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原審が平成五年一一月頃から殺人予備罪が成立するとした点に誤りがあるという所論について︒﹁平成五年
一一月ころの段階では︑既にサリン生成工場としての第七サティアンが完成していたこと︑効率的で量産可能な五
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
工程から成るサリン生成方法が考案されてその生成に成功していたこと︑七 0 トンのサリンの生成に向けて必要な
大量の原材料の購入が始まっていたことの諸事情が存するのであって︑ A らが企図した殺人の実行行為に不可決な
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その生成工程がほぼ確立され︑量産へ向けて態勢に入ったものといえるから︑同時点以降のサリン
の大量生産に向けてされた諸行為は︑大量殺人の実行のために必要であるとともにその実行の危険性を顕在化させ
る準備行為として殺人予備罪に該当すると解される︒このような観点からして︑原判決が殺人予備行為の始期を平
成五年一一月ころと認定したことに問題はないといえるよ
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本件プラントの第四工程が稼働したのは一回だけであり︑しかも同工程に構造上の欠陥があったため生成さ
れたジフロが回収されず︑ また︑第五工程は全く稼働していないということを挙げて︑本件プラントは未完成であ
ったから殺人予備罪が成立しないという所論について︒﹁平成五年一一月ころ以降のサリンの大量生産に向けてさ
れた諸行為が殺人予備行為と評価されるのであって︑所論指摘のような事情は殺人予備罪の成否に影響を与えな
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い︒:::原判決は︑罪となるべき事実としては︑ サリンを生成したとの事実までは認定していない︒その上︑実際
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に本件プラントからサリンが生成されたかどうかもまた殺人予備罪の成否を左右しないというべきであるから︑仮
にサリン生成の事実がなかったとしても︑そのことは判決に影響を及ぼさない﹂︒
㊤被告人には本件プラントの最終生成物が毒ガスであることの認識が全くなく︑殺人予備の犯意が認められな
いという所論について︒
被告人は︑教祖Aから教団が毒ガス攻撃を受けていること等の説法を聞いた後︑すぐにプラントの電気関係設計
担当者に指名され︑本件プラントの建設作業に加担することになり︑Fから五工程の作動手順︑薬品の流れなどに
ついての説明も受けていたものであることからして︑この段階から︑﹁本件プラントの最終生成物が人を死亡させ
るような危険物であることの認識を持っていたとの推認が可能である﹂︒その後本件プラントの稼働要員に指名さ
れ︑Aから︑最終生成物は無色無臭のため吸入しても分からない︒最終的には呼吸ができなくなって死に至るなど
と説明を受けるに至った段階では︑﹁本件プラントの最終生成物がサリンであるとその名称まで知っていたかどう
かは別にして︑一挙に大量殺人ができる毒ガスのような極めて危険な化学薬品であることの十分な認識があったと
認められる﹂︒
口 法令適用の誤りの主張については次のように判示する︒
⑳殺人予備罪が成立するためには予備行為を行った者が自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であ
るから︑大量殺人の目的を有しない被告人に殺人予備罪の成立を認めることはできないという所論について︒
﹁殺人予備罪の成立には︑自己の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り︑その殺人が自ら企図し
たものであるか共犯者である他の者が企図したものであるかは︑その成否を分ける要件ではないと解される︒した
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に本件プラントからサリンが生成されたかどうかもまた殺人予備罪の成否を左右しないというべきであるから︑仮
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(山梨学院大学〕
にサリン生成の事実がなかったとしても︑ そのことは判決に影響を及ぼさない﹂︒
e 被告人には本件プラントの最終生成物が毒ガスであることの認識が全くなく︑殺人予備の犯意が認められな
いという所論について︒
被告人は︑教祖
Aから教団が毒ガス攻撃を受けていること等の説法を聞いた後︑すぐにプラントの電気関係設計
担当者に指名され︑本件プラントの建設作業に加担することになり︑
Fから五工程の作動手順︑薬品の流れなどに
法学論集
ついての説明も受げていたものであることからして︑この段階から︑﹁本件プラントの最終生成物が人を死亡させ
るような危険物であることの認識を持っていたとの推認が可能である﹂︒その後本件プラントの稼働要員に指名さ
れ ︑
A から︑最終生成物は無色無臭のため吸入しても分からない︒最終的には呼吸ができなくなって死に至るなど
と説明を受けるに至った段階では︑﹁本件プラントの最終生成物がサリンであるとその名称まで知っていたかどう
か は
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︑
一挙に大量殺人ができる毒ガスのような極めて危険な化学薬品であることの十分な認識があったと
認 め
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︒ 仁)
法令適用の誤りの主張については次のように判示する︒
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殺人予備罪が成立するためには予備行為を行った者が自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であ
るから︑大量殺人の目的を有しない被告人に殺人予備罪の成立を認めることはできないという所論について︒
﹁殺人予備罪の成立には︑自己の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り︑ その殺人が自ら企図し
たものであるか共犯者である他の者が企図したものであるかは︑その成否を分げる要件ではないと解される︒した
がって︑被告人自身に大量殺人の意図がなくても︑自己の行為がAらの企図する殺人の準備行為であることの認識
がある以上︑殺人予備罪が成立するといわなければならない﹂︒
㊨自らが関与するより前の他の者らによる行為について責任を負わせることはできないの所論について︒
﹁被告人が他の者らにより殺人予備が行われていることを認識して共謀に加わった以上︑︑それ以前の予備行為
についても共同正犯としての責任を免れないというべきである﹂︒
47サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
研究
世界を震憾させたオウム真理教による松本・地下鉄両サリン事件は︑同教団によってサリンが生成されたという
事実においても我々を震憾させた︒それは同教団が化学装置を駆使し︑サリン生成用化学プラントを建設し︑現実
にサリンが生成されたという事実である︒そしてそのサリンが松本・地下鉄サリン事件を引き起し︑多数の死傷者
を出したことは我々の記憶に新しい︒余りにも残酷な事件であった︒また︑地下鉄サリン事件についての裁判は現
在も進行中である︒裁判の早期解決を望むが︑しかしそれは厳格な刑事手続のもとになされなければならない︒
ところで本件は︑オウム真理教による松本・地下鉄両サリン事件へと結びつくサリンの生成という点において極
めて関心が持たれた事案である︒それはオウム真理教によるサリンの生成がどの時期から行われたかという点にお
いて︑また同教団の組織的なサリン生成がどのようになされたかという点において我々の関心を集め︑それを解明
する上で重要な事案である︒そして本判決は︑組織的になされた殺人予備行為の一部に関与した者の行為に対する がって︑被告人自身に大量殺人の意図がなくても︑自己の行為が A らの企図する殺人の準備行為であることの認識
がある以上︑殺人予備罪が成立するといわなければならない﹂︒
⑤
自らが関与するより前の他の者らによる行為について責任を負わせることはできないの所論について︒
﹁被告人が他の者らにより殺人予備が行われていることを認識して共謀に加わった以上︑︑ それ以前の予備行為
についても共同正犯としての責任を免れないというべきである﹂︒
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
研
りh 7l.
世界を震憾させたオウム真理教による松本・地下鉄両サリン事件は︑同教団によってサリンが生成されたという
事実においても我々を震憾させた︒それは同教団が化学装置を駆使し︑ サリン生成用化学プラントを建設し︑現実
にサリンが生成されたという事実である︒そしてそのサリンが松本・地下鉄サリン事件を引き起し︑多数の死傷者
を出したことは我々の記憶に新しい︒余りにも残酷な事件であった︒また︑地下鉄サリン事件についての裁判は現
在も進行中である︒裁判の早期解決を望むが︑しかしそれは厳格な刑事手続のもとになされなければならない︒
と こ
ろ で
本 件
は ︑
オウム真理教による松本・地下鉄両サリン事件へと結びつくサリンの生成という点において極
めて関心が持たれた事案である︒それはオウム真理教によるサリンの生成がどの時期から行われたかという点にお
いて︑また同教団の組織的なサリン生成がどのようになされたかという点において我々の関心を集め︑それを解明
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する上で重要な事案である︒そして本判決は︑組織的になされた殺人予備行為の一部に関与した者の行為に対する
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高裁判決として︑また殺人予備罪を考察する上で極めて重要な判例である︒本件における弁護人の主張は前述の通
りであるが︑そこには予備罪の重要な論点である○予備罪の始期︵成立時期︶O予備罪の共犯︑他人予備e予備罪
の承継的共同正犯の問題がある︒そこで以下においては︑これらの論点を考察しながら本判決を検討することにす
る︒先ずは︑本件における予備行為の始期から見ていくことにしよう︒
予備罪の始期
予備は︑構成要件該当の実行行為にいたらない段階での犯罪を実現するための準備行為である︵神山敏雄﹁予
備﹂中義勝他編・刑法−総論二六三頁︶︒刑法典上︑予備は原則として処罰されないが︑重大な犯罪にかぎって可
罰的であるとされる︒ところで︑予備が犯罪を実現するための準備行為であるとされるものの︑予備罪の規定は一
般的に行為内容が無定型・無限定であるため︑どの時点からその準備行為があったとされるかは明確でなく︑具体
的事案においてそれぞれ判断されなければならない︒本件事案における予備行為の始期の判断についても本件事案
を全体的に考察するなかから判断されなければならない︒
本件事案において︑弁護人は先ず殺人予備行為の認定に誤りがあると主張した︒それは︑いまだ本件プラントの
建設にも着工していない時期から殺人予備罪が成立するとした原審の判断は誤りであり︑また本件プラントの最終
工程は全く稼働しておらず︑プラントは未完成であったから殺人予備罪は成立しないというものである︒本件事案
はサリンの生成という極めて特殊な事案である︒それは︑従来の予備罪に関する事案からは到底予測し得ない事案
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高裁判決として︑また殺人予備罪を考察する上で極めて重要な判例である︒本件における弁護人の主張は前述の通
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りであるが︑そこには予備罪の重要な論点である θ 予備罪の始期(成立時期)②予備罪の共犯︑他人予備⑤予備罪
の承継的共同正犯の問題がある︒そこで以下においては︑これらの論点を考察しながら本判決を検討することにす
る︒先︑ずは︑本件における予備行為の始期から見ていくことにしよう︒
予備罪の始期
法学論集
予備は︑構成要件該当の実行行為にいたらない段階での犯罪を実現するための準備行為である(神山敏雄﹁予
備﹂中義勝他編・刑法 I 総論二六三頁)︒刑法典上︑予備は原則として処罰されないが︑重大な犯罪にかぎって可
罰的であるとされる︒ところで︑予備が犯罪を実現するための準備行為であるとされるものの︑予備罪の規定は一
般的に行為内容が無定型・無限定であるため︑どの時点からその準備行為があったとされるかは明確でなく︑具体
的事案においてそれぞれ判断されなければならない︒本件事案における予備行為の始期の判断についても本件事案
を全体的に考察するなかから判断されなければならない︒
本件事案において︑弁護人は先ず殺人予備行為の認定に誤りがあると主張した︒それは︑ いまだ本件プラントの
建設にも着工していない時期から殺人予備罪が成立するとした原審の判断は誤りであり︑また本件プラントの最終
工程は全く稼働しておらず︑プラントは未完成であったから殺人予備罪は成立しないというものである︒本件事案
はサリンの生成という極めて特殊な事案である︒それは︑従来の予備罪に関する事案からは到底予測し得ない事案
49サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
であるといえる︒そこで本件における殺人予備行為の始期を見る前に︑これまで判例で予備罪の始期がどのように
把えられているかを二つの判例を通して見ていくことにする︒
先ずは︑殺人予備罪の始期が問題となった三無事件がある︒そこでは破壊活動防止法三九条・四〇条にいう政治
目的のための殺人罪および騒乱罪の﹁予備罪﹂の成立が問題となった︒特別法上の事案であるが︑予備一般につい
て言及しているのでここで見ることにしよう︒事案は次のようなものである︒被告人等一二名は︑共産主義に反対
し︑三無主義︵無税︑無失業︑無戦争︶による諸政策を推進する目的をもって︑昭和三六年九月上旬頃から同年一
二月上旬までの間︑昭和三七年三月と予想される共産主義革命の機先を制して決起し︑武器をとって国会を襲撃
し︑国会附近を騒乱状態におとし入れ︑非常事態の宣言を発し︑閣僚︑議員等を殺害する等の非常手段による政界
一新の謀議を重ね︑その実行準備として︑国防色作業服︑ヘルメット︑防毒マスク︑トラック︑ジープ︑移動無線
車等二〇〇名位を動員するための宿舎を予約し︑国会やその周辺を偵察し︑自衛隊員三〇余名に働きかけて︑自衛
隊の動向打診または協力要請をなし︑三無塾生数名と射撃訓練を行なうなどをしたというものである︵下刑集六巻
五ロ六号六九四頁︑田中二郎月佐藤功H野村二郎編・戦後政治裁判史録三巻三七五頁以下︑なお安里全勝﹁破壊活
動防止法の考察﹂山梨学院大学法学論集三六号八四頁以下参照V︒本事案においては政治目的のための殺人罪およ
び騒乱罪の各予備罪の成立は否定されたが︑しかし︑被告人四名に対しては政治目的のための殺人および騒乱の陰
謀を認め︑他の被告人四名に対しては陰謀に加わったことの証明が十分でないとした︒因に本事案は破防法が適用
された最初の事案である︒また判決は︑一・二審ともに︑﹁政治上の主義﹂︑﹁予備﹂の範囲を同様に解している︒
そして︑破防法上の﹁予備・陰謀﹂は︑刑法上の予備・陰謀よりも︑より厳格に制限的に解するのが相当であると
であるといえる︒そこで本件における殺人予備行為の始期を見る前に︑これまで判例で予備罪の始期がどのように把えられているかをこつの判例を通して見ていくことにする︒先ずは︑殺人予備罪の始期が問題となった三無事件がある︒そこでは破壊活動防止法三九条・四
O
条にいう政治目的のための殺人罪および騒乱罪の﹁予備罪﹂の成立が問題となった︒特別法上の事案であるが︑予備一般につい
て言及しているのでここで見ることにしよう︒事案は次のようなものである︒被告人等二一名は︑共産主義に反対
し︑三無主義(無税︑無失業︑無戦争)による諸政策を推進する目的をもって︑昭和三六年九月上旬頃から同年一
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
一一月上旬までの問︑昭和三七年三月と予想される共産主義革命の機先を制して決起し︑武器をとって国会を襲撃
し︑国会附近を騒乱状態におとし入れ︑非常事態の宣言を発し︑閣僚︑議員等を殺害する等の非常手段による政界
一新の謀議を重ね︑その実行準備として︑国防色作業服︑ヘルメット︑防毒マスク︑トラック︑ジ
l
プ︑移動無線車等
二
OO
名位を動員するための宿舎を予約し︑国会やその周辺を偵察し︑自衛隊員一ニO
余名に働きかけて︑自衛隊の動向打診または協力要請をなし︑一ニ無塾生数名と射撃訓練を行なうなどをしたというものである(下刑集六巻
五日六号六九四頁︑田中二郎リ佐藤功
H
野村二郎編・戦後政治裁判史録三巻三七五頁以下︑なお安里全勝﹁破壊活動防止法の考察﹂山梨学院大学法学論集三六号八四頁以下参照)︒本事案においては政治目的のための殺人罪およ
び騒乱罪の各予備罪の成立は否定されたが︑しかし︑被告人四名に対しては政治目的のための殺人および騒乱の陰
謀を認め︑他の被告人四名に対しては陰謀に加わったことの証明が十分でないとした︒因に本事案は破防法が適用
された最初の事案である︒また判決は︑一・二審ともに︑﹁政治上の主義﹂︑﹁予備﹂の範囲を同様に解している︒
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そして︑破防法上の﹁予備・陰謀﹂は︑刑法上の予備・陰謀よりも︑より厳格に制限的に解するのが相当であると
法学論集 44〔山梨学院大学〕 50
している︒
東京地方裁判所昭和三九年五月三〇日判決は︑予備について次のように判示する︒﹁どの程度の準備が整えられ
たとき主に﹃予備﹄となるかについては︑判例は必ずしも明瞭でなく︑学説もわかれており⁝準備の方法︑態様に
ついても制限はないが︑いやしくも﹃予備﹄を処罰の対象とする以上は︑罪刑法定主義の建前等からいっても︑予
備行為自体に︑その達成しようとする目的︵いわば︑本来の犯罪の実現︶との関連において︑相当の危険性が認め
られる場合でなければならないと考える︒詳言すると︑各犯罪類型に応じ︑その実現に﹃重要な意義をもつ﹄ある
いは﹃直接に役立つ﹄と客観的にも認められる物的その他の準備が整えられたとき︑すなわち︑その犯罪の実行に
著手しようと思えばいつでもそれを利用して実行に著手しうる程度の準備が整えられたときに︑予備罪が成立する
と解するのが相当である︒⁝⁝
破防法第三九条︑第四〇条にいう﹃予備﹄の概念は︑刑法で用いられている﹃予備﹄の概念を基礎に規定された
ものと解されるが︑刑法上の予備の概念についての判例の見解が明確を欠き︑学説がわかれている現状において
は︑破防法成立の過程︑同法第二条の趣旨等にかんがみ︑同法にいう﹃予備﹄については︑その範囲をできるだけ
厳格に解するべきである︒したがって︑同法の適用にあたっては︑特に︑予備罪の成否についての前記の判断基準
を堅持し︑具体的事案に則し︑真に妥当な結論を導くように配慮する必要があると思われる︒﹂︵下刑集六・五H
六・六九頁︶とする︒そして︑予備罪についてはその成立を否定した︵本判決が予備罪の成立を否定したのは妥当
と解するが︑本判決については疑問とする指摘がある︹藤永幸治﹁破壊活動防止法﹂西原春夫他編・判例刑法研究
八巻三二四頁︺︶︒控訴審判決︵東京高判昭和四二・六・六︶も︑原審判決を支持し︑予備罪の成立について﹁当該 し
て い
る ︒
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(山梨学院大学〕
東京地方裁判所昭和三九年五月三 O 日判決は︑予備について次のように判示する︒﹁どの程度の準備が整えられ
たとき主に﹃予備﹄となるかについては︑判例は必ずしも明瞭でなく︑学説もわかれており:・準備の方法︑態様に
つ い て も 制 限 は な い が ︑ いやしくも﹃予備﹂を処罰の対象とする以上は︑罪刑法定主義の建前等からいっても︑予
備 行
為 自
体 に
︑
その達成しようとする目的(いわば︑本来の犯罪の実現) との関連において︑相当の危険性が認め
られる場合でなければならないと考える︒詳言すると︑各犯罪類型に応じ︑ その実現に﹃重要な意義をもっ﹄ある
法学論集
いは﹃直接に役立つ﹄と客観的にも認められる物的その他の準備が整えられたとき︑すなわち︑ その犯罪の実行に
著手しようと思えばいつでもそれを利用して実行に著手しうる程度の準備が整えられたときに︑予備罪が成立する
と解するのが相当である︒:::
破防法第三九条︑第四 O 条にいう﹃予備﹄の概念は︑刑法で用いられている﹃予備﹄の概念を基礎に規定された
ものと解されるが︑刑法上の予備の概念についての判例の見解が明確を欠き︑学説がわかれている現状において
は︑破防法成立の過程︑同法第二条の趣旨等にかんがみ︑同法にいう﹃予備﹄については︑ その範囲をできるだけ
厳格に解するべきである︒したがって︑同法の適用にあたっては︑特に︑予備罪の成否についての前記の判断基準
を堅持し︑具体的事案に則し︑真に妥当な結論を導くように配慮する必要があると思われる︒﹂(下刑集六・五 H
六・六九頁)とする︒そして︑予備罪についてはその成立を否定した(本判決が予備罪の成立を否定したのは妥当
と解するが︑本判決については疑問とする指摘がある︹藤永幸治﹁破壊活動防止法﹂西原春夫他編・判例刑法研究
八巻三二四頁︺)︒控訴審判決(東京高判昭和四二・六・六)も︑原審判決を支持し︑予備罪の成立について﹁当該
51サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
構成要件実現︵実行の着手もふくめて︶のための客観的な危険性という観点からみて︑実質的に重要な意義を持
ち︑客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合たることを要する﹂とし︑また計画・準備工
作等が︑﹁近く︑所期の目的の達成を目指す実行着手の域にまで至りうる程度に危険性が具体化しているかどうか
を基準として︑これを判定するのが相当であろう﹂︵高刑集二〇巻三号三五一頁︶とする︒被告人等は破防法三九
条・四〇条は犯罪構成要件として不明確であることなどを理由に上告したが︑検察官は上告しなかった︒そのた
め︑本法上の予備・陰謀の解釈についての最高裁の判断は示されなかった︒
次に︑強盗予備罪についての大阪高裁昭和四三年一一月二八日判決がある︒事案は︑夜間外で飲食して起居して
いる飯場に帰ったものの︑まだ飲み足りないのに金がなく︑気がくしゃくしゃするので︑強盗でもして金を作って
やろうということから飯場の炊事場においてあった菜切包丁を窃取し︑その三〇分後にタクシーに乗りこんで料金
強取の機会を窺ったというものである︒包丁窃取の段階ではまだ︑強盗の方法︑手段︑場所等について確たる企図
があったわけではなかった︒そこで︑右包丁の窃取の段階で強盗予備罪が成立するかが問題となった︒本件は刑法
犯であり︑特別法犯である右の三無事件との比較が問題となるが︑判決はコ般に強盗予備罪の成立には︑強盗実
行の意思の存在と︑それが単なる内心の決意に止まらず該決意の存在を外部的に認識しうるような客観的事実とを
必要とする﹂として︑包丁の窃取のみでは強盗予備罪に当たらないとした︵大阪高裁刑事裁判速報昭和四四年五号
四二頁以下︑なお︑木村栄作﹁強盗予備罪の成立時期﹂研修二五七号四九頁以下︶︒ここでも︑予備罪の成立はか
なり限定的に解されているといえる︒
それでは︑右の二つの事案についての判例を見ながら本件事案における予備行為の始期について見ることにしよ 構成要件実現(実行の着手もふくめて) のための客観的な危険性という観点からみて︑実質的に重要な意義を持
ち︑客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合たることを要する﹂とし︑ また計画・準備工
作等が︑﹁近く︑所期の目的の達成を目指す実行着手の域にまで至りうる程度に危険性が具体化しているかどうか
を基準として︑これを判定するのが相当であろう﹂(高刑集二 O
巻 三
号 三
五 一
一 貝
)
とする︒被告人等は破防法三九
条・四 O 条は犯罪構成要件として不明確であることなどを理由に上告したが︑検察官は上告しなかった︒そのた
め︑本法上の予備・陰謀の解釈についての最高裁の判断は示されなかった︒
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
次に︑強盗予備罪についての大阪高裁昭和四三年一一月二八日判決がある︒事案は︑夜間外で飲食して起居して
いる飯場に帰ったものの︑ まだ飲み足りないのに金がなく︑気がくしゃくしゃするので︑強盗でもして金を作って
やろうということから飯場の炊事場においであった菜切包丁を窃取し︑その三 O 分後にタクシーに乗りこんで料金
強取の機会を窺ったというものである︒包丁窃取の段階ではまだ︑強盗の方法︑手段︑場所等について確たる企図
があったわけではなかった︒そこで︑右包丁の窃取の段階で強盗予備罪が成立するかが問題となった︒本件は刑法
犯であり︑特別法犯である右の三無事件との比較が問題となるが︑判決は﹁一般に強盗予備罪の成立には︑強盗実
行 の 意 思 の 存 在 と ︑ それが単なる内心の決意に止まらず該決意の存在を外部的に認識しうるような客観的事実とを
必要とする﹂として︑包丁の窃取のみでは強盗予備罪に当たらないとした (大阪高裁刑事裁判速報昭和四四年五号
四二頁以下︑なお︑木村栄作﹁強盗予備罪の成立時期﹂研修二五七号四九頁以下)︒ここでも︑予備罪の成立はか
なり限定的に解されているといえる︒
51
それでは︑右の二つの事案についての判例を見ながら本件事案における予備行為の始期について見ることにしよ
法学論集 44〔山梨学院大学〕52
う︒
右三無事件における第一・二審判決は︑予備罪成立のための予備行為を︑客観的な危険の存在がなければなら
ず︑さらに︑その危険が具体化しているかどうかが基準とされるとする︒また︑強盗予備罪についての大阪高裁昭
和四三年二月二八日判決も︑予備罪の成立につき︑単なる内心の決意があるだけではなくそれが客観的事実とし
て存在しなければならないとする︒そのような観点から本件事案を見た場合どうであろうか︒
前述のように︑本件事案において弁護人は︑本件プラントの建設に着工していない時期から殺人予備罪が成立す
るとした点は誤りであり︑また︑本件プラントは未完成であったから殺人予備罪は成立しないと主張した︒弁護人
の前者の主張は︑平成五年一一月頃を指すが︑第一審判決はその頃からサリンの生成工程がほぼ確立され︑量産へ
向けての態勢に入ったと認定し︑それは控訴審においても支持された︒弁護人の後者の主張についても︑第一審︑
控訴審ともに︑平成五年一一月頃以降のサリンの大量生産に向けてされた諸行為が殺人予備行為と評価されるとし
た︒本件における殺人予備行為の始期については︑当該行為の危険性︑即ち︑犯罪の実行に着手しようと思えばい
つでもそれを利用して実行に着手しうる程度の準備が整えられていたかという点に置き換えて判断されなければな
らない︒その観点からすれば︑本判決が︑本件プラントが未完成であって殺人の実行に着手することが不可能であ
っても殺人予備罪の成否を左右しないとしている点は︑予備罪成立の右の要件を要求していないともいえる︵山中
敬一﹁サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪﹂平成一〇年度重要判例解説一四五頁︶︒予備罪の始期につ
いては客観的事実が存在しなければならないとする観点からすれば︑本判決がプラントが未完成であっても殺人予
備が成立するとする点は疑問である︒本件における予備行為の始期について重要な基準となるのは︑本件プラント
フ
o52 44
(山梨学院大学〕
右三無事件における第一・二審判決は︑予備罪成立のための予備行為を︑客観的な危険の存在がなければなら
ず ︑
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その危険が具体化しているかどうかが基準とされるとする︒また︑強盗予備罪についての大阪高裁昭
和四三年一一月二八日判決も︑予備罪の成立につき︑単なる内心の決意があるだけではなくそれが客観的事実とし
て存在しなければならないとする︒そのような観点から本件事案を見た場合どうであろうか︒
前述のように︑本件事案において弁護人は︑本件プラントの建設に着工していない時期から殺人予備罪が成立す
法学論集
るとした点は誤りであり︑ また︑本件プラントは未完成であったから殺人予備罪は成立しないと主張した︒弁護人
の前者の主張は︑平成五年一一月頃を指すが︑第一審判決はその頃からサリンの生成工程がほぼ確立され︑量産へ
向けての態勢に入ったと認定し︑ それは控訴審においても支持された︒弁護人の後者の主張についても︑第一審︑
控訴審ともに︑平成五年一一月噴以降のサリンの大量生産に向けてされた諸行為が殺人予備行為と評価されるとし
た︒本件における殺人予備行為の始期については︑当該行為の危険性︑即ち︑犯罪の実行に着手しようと思えばい
つでもそれを利用して実行に着手しうる程度の準備が整えられていたかという点に置き換えて判断されなければな
らない︒その観点からすれば︑本判決が︑本件プラントが未完成であって殺人の実行に着手することが不可能であ
っても殺人予備罪の成否を左右しないとしている点は︑予備罪成立の右の要件を要求していないともいえる
(山
中
敬
﹁サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪﹂平成一 0 年度重要判例解説一四五頁)︒予備罪の始期につ
いては客観的事実が存在しなければならないとする観点からすれば︑本判決がプラントが未完成であっても殺人予
備が成立するとする点は疑問である︒本件におげる予備行為の始期について重要な基準となるのは︑本件プラント
53 サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
建設に伴いその結果としてサリンが生成され︑そのサリンがいつ使用されたかということである︒松本サリン事件
が発生したのは平成六年六月二七日であり︑地下鉄サリン事件の発生は平成七年三月二〇日である︒ここではサリ
ンが始めて使用された松本サリン事件の発生時期が問題となる︒本件プラント建設に伴いサリンが生成されたのは
平成五年一一月と認定されている︒そのことからすれば︑サリン生成から七ケ月後に松本サリン事件が発生し︑サ
リンが使用されたことになる︒この七ヶ月という期間をどう見るかが問題ともなるが︑通常であれば七ヶ月という
期間は予備行為としては長すぎるであろう︒しかし︑本件の考察においては︑本件が組織的になされ︑しかも特殊
的組織体における行為である点が考慮されなければならない︒本件においてはサリンの生成工程が完成し結果的に
サリンが生成されたと認定されていることからすれば殺人予備行為を肯定することができる︒蓋し︑生成工程が完
成している以上システムによってサリンの生成は確実になされるからである︒即ち︑完成を前提にした予備行為と
言えるからである︒従って︑本件における殺人予備罪の成立期についての第一審︑控訴審の認定は肯定できる︵結
論的に本判決が殺人予備罪の成立を肯定したのは妥当とするものとして︑山中敬一・前掲一四五頁︒因に︑本件と
同様の事案についての東京地判平成八・三二一二判時一五六八号三五頁も︑予備罪の成立時期を平成五年二月頃
とする︒本件では︑被告人三名に殺人予備罪の共同正犯が認められている︒本判決について︑河上和雄・判例時報
一六〇〇号一七二頁以下︶︒
建設に伴いその結果としてサリンが生成され︑そのサリンがいつ使用されたかということである︒松本サリン事件が発生したのは平成六年六月二七日であり︑地下鉄サリン事件の発生は平成七年三月二O
日である︒ここではサリンが始めて使用された松本サリン事件の発生時期が問題となる︒本件プラント建設に伴いサリンが生成されたのは
平成五年一一月と認定されている︒そのことからすれば︑サリン生成から七ヶ月後に松本サリン事件が発生し︑
リンが使用されたことになる︒この七ヶ月という期間をどう見るかが問題ともなるが︑通常であれば七ヶ月という
期間は予備行為としては長すぎるであろう︒しかし︑本件の考察においては︑本件が組織的になされ︑しかも特殊
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
的組織体における行為である点が考慮されなければならない︒本件においてはサリンの生成工程が完成し結果的に
サリンが生成されたと認定されていることからすれば殺人予備行為を肯定することができる︒蓋し︑生成工程が完
成している以上システムによってサリンの生成は確実になされるからである︒即ち︑完成を前提にした予備行為と
言えるからである︒従って︑本件におげる殺人予備罪の成立期についての第一審︑控訴審の認定は肯定できる(結
論的に本判決が殺人予備罪の成立を肯定したのは妥当とするものとして︑山中敬一・前掲一四五頁︒因に︑本件と
同様の事案についての東京地判平成八・三・ニニ判時一五六八号三五頁も︑予備罪の成立時期を平成五年一一月頃
とする︒本件では︑被告人三名に殺人予備罪の共同正犯が認められている︒本判決について︑河上和雄・判例時報
一 六
OO
号一
七二
頁以
下)
︒ 53
法学論集 44〔山梨学院大学〕 54
二 予備罪の共犯︑他人予備
本件事案において弁護人は︑殺人予備罪は自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であるから︑大量殺
人の目的を有していない被告人に殺人予備罪は成立しないとする︒本件において被告人はサリン生成のプラント建
設に関与したものの殺人の実行行為は他の者がなすことになっており︑被告人は殺人の実行行為に関与することは
なく︑サリン生成のみに止まっている︒そこで︑本件被告人がサリン生成プラント建設において殺人の目的を有し
ていないとすれば︑殺人予備罪が成立するかが問題となる︒蓋し︑予備はみずから一定の犯罪を実現するための一
環として位置づけられる︵神山・前掲二六四頁︶からである︒ところで︑本判決は︑殺人予備罪の成立には︑自己
の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り︑その殺人が自ら企図したものであるか共犯者である他の
者が企図したものであるかは︑その成否を分ける要件ではないとして︑殺人予備罪の成立を認める︒そこで︑本判
決が肯定する予備罪の共犯︑他人予備につきその当否を見ていくことにする︒
予備罪について共同正犯・教唆・幣助が認められるかが問題となる︒最高裁昭和三七年一一月八日決定は︑Bが
AからCを殺害するための青酸ソーダの入手を頼まれそれをAに渡したが︑Aば睡眠薬を飲ませ絞殺してその目的
を果たし︑青酸ソーダは使用されなかったという事案に対して︑殺人予備罪の共同正犯を認めた︵刑集一六巻一一
号一五二二頁︑本決定につき︑西川潔・最判解刑事篇昭和三七年度二一三頁以下︑斉藤誠二・予備罪の研究六三一
頁以下︑野村稔・研修五三三号三頁以下等︶︒この決定は︑予備罪の実行行為を観念できるとした上で︑他人予備
54 44
(山梨学院大学〕
予備罪の共犯︑他人予備
本件事案において弁護人は︑殺人予備罪は自ら殺人を実行する目的を有していることが必要であるから︑大量殺
人の目的を有していない被告人に殺人予備罪は成立しないとする︒本件において被告人はサリン生成のプラント建
設に関与したものの殺人の実行行為は他の者がなすことになっており︑被告人は殺人の実行行為に関与することは
法学論集
な く
︑
サリン生成のみに止まっている︒そこで︑本件被告人がサリン生成プラント建設において殺人の目的を有し
ていないとすれば︑殺人予備罪が成立するかが問題となる︒蓋し︑予備はみずから一定の犯罪を実現するための一
環として位置づげられる(神山・前掲二六四頁) からである︒ところで︑本判決は︑殺人予備罪の成立には︑自己
の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り︑ その殺人が自ら企図したものであるか共犯者である他の
者が企図したものであるかは︑ その成否を分ける要件ではないとして︑殺人予備罪の成立を認める︒そこで︑本判
決が肯定する予備罪の共犯︑他人予備につきその当否を見ていくことにする︒
予備罪について共同正犯・教唆・帯助が認められるかが問題となる︒最高裁昭和三七年一一月八日決定は︑
B カ ぎ
A
か ら
C を殺害するための青酸ソ
lダの入手を頼まれそれを A
に 渡
し た
が ︑
A ば睡眠薬を飲ませ絞殺してその目的
を果たし︑青酸ソ 1 ︑グは使用されなかったという事案に対して︑殺人予備罪の共同正犯を認めた
(刑
集工
ハ巻
号一五二二頁︑本決定につき︑西川潔・最判解刑事篇昭和三七年度一二三頁以下︑斉藤誠二・予備罪の研究六三一
頁以下︑野村稔・研修五三三号三頁以下等)︒この決定は︑予備罪の実行行為を観念できるとした上で︑他人予備
55 サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
を肯認することを前提としているということになる︵神山・前掲二六五頁︶︒まさに︑予備の共犯については予備
罪に実行行為が認められるかが問題となるが︑学説は次のように主張する︒先ず︑予備の実行行為を考えるべきで
あるとして共同正犯や箒助を肯定する立場︵平野龍一・刑法総論H三五一頁︑植田重正・共犯論上の諸問題一二六
頁︑内田文昭・改訂刑法−総論二六二頁︑大谷実・刑法講義総論︵第四版補訂版︶四四〇頁︑川端博・刑法総論講
義五五〇頁︑西田典之・香川古稀記念三五〇頁以下︶︑第二は︑修正形式としての予備と独立罪としての予備とを
分けて︑前者においては一切の共犯は否定されるが︑後者においては一個の独立した実行行為と考えられるから共
同正犯および従犯も可能であるとする立場︵福田平・全訂刑法総論︵第三版︶二五二頁︑西原春夫・刑法総論二七
四頁︶があり︑第三は︑予備行為には基本犯におけると同様の意味での﹁実行行為﹂を観念することはできないと
して︑共同正犯︑教唆︑幣助という一切の共犯は認められないとする立場︵植松正・再訂刑法概論−総論三八三
頁︑大塚仁・刑法概説︵総論︶︹第三版︺二九二−三頁︑香川達夫・刑法講義︵総論︶︵第三版︶二八六頁︑神山・
前掲二六五頁︑前野育三・中山研一他編現代刑法講座第三巻一五四頁︑曽根威彦・刑法総論︵新版︶二九一頁︶で
ある︒ 思うに︑刑法六〇条以下の共犯規定は︑直接的な法益侵害の危険をもたらす︑基本構成要件の実行行為を前提と
しているものと解すべきである︵神山・前掲二六五頁︶から第三の立場が妥当であると解する︒刑法はみずから一
定の犯罪を実現するための予備行為までをせいぜい処罰しているのであり︑その範囲を突破して処罰しようとする
考え方は罪刑法定主義に反すると言わなければならない︵神山・前掲二六五頁︶︒従って︑本判決が殺人予備罪の
共同正犯についてその成立を肯定することができるとするのは疑問である︒ を肯認することを前提としているということになる(神山・前掲二六五頁)︒まさに︑予備の共犯については予備 罪に実行行為が認められるかが問題となるが︑学説は次のように主張する︒先︑ず︑予備の実行行為を考えるべきで あるとして共同正犯や智助を肯定する立場(平野龍一・刑法総論
H一 二
五 一
頁 ︑
植 田
重 正
・ 共
犯 論
上 の
諸 問
題
頁︑内田文昭・改訂刑法 I 総論二六二頁︑大谷実・刑法講義総論(第四版補訂版)四四 O 頁︑川端博・刑法総論講
義五五 O 頁︑西国典之・香川古稀記念三五 O 頁以下)︑第二は︑修正形式としての予備と独立罪としての予備とを
分けて︑前者においては一切の共犯は否定されるが︑後者においては一個の独立した実行行為と考えられるから共
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
同正犯および従犯も可能であるとする立場(福田平・全訂刑法総論(第三版)二五二頁︑西原春夫・刑法総論二七
四頁)があり︑第三は︑予備行為には基本犯におけると同様の意味での﹁実行行為﹂を観念することはできないと
して︑共同正犯︑教唆︑智助という一切の共犯は認められないとする立場(植松正・再訂刑法概論 I 総論三八三
頁︑大塚仁・刑法概説(総論)︹第三版︺二九二ー三頁︑香川達夫・刑法講義(総論)(第三版)二八六頁︑神山・
前掲二六五頁︑前野育三・中山研一他編現代刑法講座第三巻一五四頁︑曽根威彦・刑法総論(新版)二九一頁)
あ る
O 思うに︑刑法六 条以下の共犯規定は︑直接的な法益侵害の危険をもたらす︑基本構成要件の実行行為を前提と ︒
しているものと解すべきである(神山・前掲二六五頁)から第三の立場が妥当であると解する
b刑法はみずから一
定の犯罪を実現するための予備行為までをせいぜい処罰しているのであり︑その範囲を突破して処罰しようとする
考え方は罪刑法定主義に反すると言わなければならない (神山・前掲二六五頁)︒従って︑本判決が殺人予備罪の
55
共同正犯についてその成立を肯定することができるとするのは疑問である︒
法学論集 44〔山梨学院大学〕56
次に︑本判決は他人予備を認めるがその当否はどうであろうか︒予備罪の成立に他人予備行為を含むか否かにつ
いて学説は対立する︒積極説は︑法が予備を予備として︑刑法各則において特別構成要件として規定したのは︑予
備犯の独自性の必要を考慮したがゆえであると解すべきであり︑そう解する以上︑これを自己予備にかぎる合理的
理由はないとする︵大判大正五年一二月一二日刑録二二輯一九二五頁︑前掲最決昭和三七年一一月八日︑正田満三
郎﹁予備犯について﹂刑法における犯罪論の批判的考察二二頁等︶︒消極説は︑予備は特定の既遂犯をめざす実行
の準備的行為であるので︑行為者は自己の犯罪を実行する目的でその準備をすることが必要であるとする︵植松・
前掲書三八三頁︑西原・前掲書二七三頁︑香川・前掲四五一頁︑神山・前掲二六四頁︶︒このように︑他人予備行
為の成否につき積極説と消極説が対立するが︑どのように解すべきであろうか︒思うに︑神山敏雄教授が指摘する
が如く︑予備はみずから一定の犯罪を実現するための一環として位置づけられるために︑法益侵害への危険性がか
なり高い︒これに対して︑他人が法益侵害行為をすることを前提とした予備は︑他人に左右されるため法益侵害に
向けての予備としてはその蓋然性がかなり低い上に︑他人のための予備といっても︑他人の実行行為を容易にする
ことを狙って︑将来の他人の実行行為を条件として給付した手段等が現実に因果的役割を果たしたかによって幕助
犯の成否が決まる︒予備を認めるべきではない︵神山・前掲二六四頁︶︒
それでは本判決が他入予備を肯定するが︑この点の当否はどうであろうか︒右に見たように︑予備はみずから一
定の犯罪を実現するための一環として位置づけられるために︑法益侵害への危険性がかなり高いといえる︒これに
対して︑他人予備は他人が法益侵害行為をすることを前提としたものであり︑その法益侵害は他人に左右され︑法
益侵害に向けての予備としてはその蓋然性がかなり低い︒従って︑他人予備は認めるべきでなく︑幣助を認めるべ
56
次に︑本判決は他人予備を認めるがその当否はどうであろうか︒予備罪の成立に他人予備行為を含むか否かにつ
44
(山梨学院大学〕
いて学説は対立する︒積極説は︑法が予備を予備として︑刑法各則において特別構成要件として規定したのは︑予
備犯の独自性の必要を考慮したがゆえであると解すべきであり︑そう解する以上︑これを自己予備にかぎる合理的
理由はないとする(大判大正五年一二月一二日刑録二二輯一九二五頁︑前掲最決昭和三七年一一月八日︑正田満三
郎﹁予備犯について﹂刑法における犯罪論の批判的考察二二頁等)︒消極説は︑予備は特定の既遂犯をめざす実行
の準備的行為であるので︑行為者は自己の犯罪を実行する目的でその準備をすることが必要であるとする(植松・
法学論集
前掲書三八三頁︑西原・前掲書二七三頁︑香川・前掲四五一頁︑神山・前掲二六四頁)︒このように︑他人予備行
為の成否につき積極説と消極説が対立するが︑どのように解すべきであろうか︒思うに︑神山敏雄教授が指摘する
が知く︑予備はみ︑すから一定の犯罪を実現するための一環として位置づけられるために︑法益侵害への危険性がか
なり高い︒これに対して︑他人が法益侵害行為をすることを前提とした予備は︑他人に左右されるため法益侵害に
向けての予備としてはその蓋然性がかなり低い上に︑他人のための予備といっても︑他人の実行行為を容易にする
ことを狙って︑将来の他人の実行行為を条件として給付した手段等が現実に因果的役割を果たしたかによって智助
犯の成否が決まる︒予備を認めるべきではない
( 神
山 ・
前 掲
二 六
四 頁
) ︒
それでは本判決が他人予備を肯定するが︑この点の当否はどうであろうか︒右に見たように︑予備はみずから一
定の犯罪を実現するための一環として位置づけられるために︑法益侵害への危険性がかなり高いといえる︒これに
対して︑他人予備は他人が法益侵害行為をすることを前提としたものであり︑その法益侵害は他人に左右され︑法
益侵害に向けての予備としてはその蓋然性がかなり低い︒従って︑他人予備は認めるべきでなく︑智助を認めるべ
57 サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
きである︒蓋し︑その行為は他人の実行行為を前提としているからである︒
ところで︑本判決は︑﹁殺人予備罪の成立には自己の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り︑そ
の殺人が自ら企図したものであるか共犯者である他の者が企図したものであるかは︑その成否を分ける要件ではな
いと解される︒したがって︑被告人自身に大量殺人の意図がなくても︑自己の行為がAらの企図する殺人の準備行
為であることの認識がある以上︑殺人予備罪が成立するといわなければならない﹂︵判例時報一六五〇号一五九頁︶
として︑殺人予備罪の成立を認める︒本判決は︑﹁殺人予備罪の成立には︑自己の行為が殺人の準備行為であるこ
との認識があれば足り﹂るとする︒この点をどう解するかが問題となるが︑このことの意味について︑﹁第一九九
条の罪を犯す目的﹂を他人が殺人を実行する目的を含むと解することもできるが︑﹁予備の故意﹂と同視してよい
と解しているものと読むこともできるとの指摘がある︵山中・前掲一四六頁︶︒本判決が︑﹁目的﹂を﹁故意﹂に還
元するものであれば︑目的犯概念を不要とするものであり不当ということになる︵山中・前掲一四六頁︶︒前述の
東京地裁平成八年三月二二日判決︵判例タイムズ九二三号九八頁︑判例時報一五六八号三五頁︶は︑同様の事件に
おいて︑﹁殺人の目的﹂を他人によって殺害されることの認識・認容であると解してよいとし︑他人が殺人を犯す
目的をもつものであることを含むとする︒そのことは︑他人予備を認めるもので問題がないとは言えないが︑そこ
には本判決との間に目的の把握につき違いがある︒本判決が﹁目的﹂を故意に還元するものであるとすれば︑目的
概念を不要とするものであり︑それは犯罪の成立を拡大する結果を招くことになる︒その点不当だと言えよう︒他
人予備の共同正犯はありえず︑そういわれている行為形態は予備罪の寄助の性質を有するので︑不処罰とすべきで
ある︒
きであ
る︒
蓋し
︑
その行為は他人の実行行為を前提としているからである︒
ところで︑本判決は︑﹁殺人予備罪の成立には自己の行為が殺人の準備行為であることの認識があれば足り︑
の殺人が自ら企図したものであるか共犯者である他の者が企図したものであるかは︑その成否を分ける要件ではな
いと解される︒したがって︑被告人自身に大量殺人の意図がなくても︑自己の行為が
A
らの企図する殺人の準備行為であることの認識がある以上︑殺人予備罪が成立するといわなければならない﹂(判例時報二ハ五
O
号一五九頁)として︑殺人予備罪の成立を認める︒本判決は︑﹁殺人予備罪の成立には︑自己の行為が殺人の準備行為であるこ
サリン生成用化学プラントの建設と殺人予備罪
との認識があれば足り﹂るとする︒この点をどう解するかが問題となるが︑このことの意味について︑﹁第一九九
条の罪を犯す目的﹂を他人が殺人を実行する目的を含むと解することもできるが︑﹁予備の故意﹂と同視してよい
と解しているものと読むこともできるとの指摘がある(山中・前掲一四六頁)︒本判決が︑﹁目的﹂を﹁故意﹂に還
元するものであれば︑目的犯概念を不要とするものであり不当ということになる(山中・前掲一四六頁)︒前述の
東京地裁平成八年三月二二日判決(判例タイムズ九二三号九八頁︑判例時報一五六八号三五頁)は︑同様の事件に
おいて︑﹁殺人の目的﹂を他人によって殺害されることの認識・認容であると解してよいとし︑他人が殺人を犯す
目的をもつものであることを含むとする︒そのことは︑他人予備を認めるもので問題がないとは言えないが︑
には本判決との聞に目的の把握につき違いがある︒本判決が﹁目的﹂を故意に還元するものであるとすれば︑目的
概念を不要とするものであり︑それは犯罪の成立を拡大する結果を招くことになる︒その点不当だと言えよう︒他
人予備の共同正犯はありえず︑そういわれている行為形態は予備罪の暫助の性質を有するので︑不処罰とすべきで
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ある
︒