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東名高速あおり運転事件第一審判決

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Academic year: 2022

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(1)

判例評釈(松原)  

Ⅰ 事 案

 被告人 X は、平成29年 6 月 5 日午後 9 時29分頃、助手席に交際相手 Y を乗 せ、片側 3 車線の東名高速道路下り線を F インターチェンジ方面から G インタ ーチェンジ方面に向かって走行中、H パーキングエリア売店南側出入口前の身 体障害者用スロープ付近の道幅4.6m の通路左側に X 車両を駐車し、歩道で喫煙 していた。B は、前記 H パーキングエリアで A と運転を交代して、助手席に C、2 列目助手席側に A、3 列目に D が乗車する B 車両の運転を始め、通路上に 駐車していた X 車両の右側を低速で通過した。その際、A は、B 車両左側スラ イドドアを開けて X に対し、「邪魔だ、ボケ。」と怒鳴って駐車方法を非難した。

 X は、A から非難されたことに憤慨し、B 車両を停止させて文句を言おうと 考え、X 車両を運転して B 車両を追跡し、東名高速道路下り54.1キロポスト付近 で第 2 車両通行帯を走行中の B 車両の後方に追いつき、パッシングしたり蛇行 したりした。X 車両は、午後 9 時33分37秒頃から、54.1キロポスト先道路におい て、第 2 車両通行帯を走行中の B 車両を時速約100km で第 1 車両通行帯から追 い越して、B 車両の直前の第 2 車両通行帯に車線変更した後、減速して著しく接 近した。B 車両が X 車両との衝突を回避するために第 3 車両通行帯に車線変更 すると、X 車両は、午後 9 時33分43秒頃から、B 車両の直前に第 2 車両通行帯か ら時速約100km で車線変更した後、減速して著しく接近し、B 車両が衝突を回 避するために第 2 車両通行帯に車線変更すると、午後 9 時33分47秒頃から、B 車 両の直前に第 3 車両通行帯から時速約100km で車線変更した後、減速して著し く接近した。さらに、X 車両は、午後 9 時33分56秒頃から、X 車両との衝突を 判例評釈

東名高速あおり運転事件第一審判決

横浜地裁平成30年12月14日判決

平成29年(わ)1680号/平成29年(わ)1924号/平成30年(わ)86号 危険運転致死傷、暴行(予備的訴因 監禁致死傷)、器物損壊、強要未遂被告事件

D1─Law.com28271614 LEX/DB 25570337

松 原 芳 博

(2)

  早法 95 巻 2 号(2020)

避けるために第 3 車両通行帯に車線変更した B 車両の直前に第 2 車両通行帯か ら時速約63km で車線変更した後、午後 9 時34分00秒には時速約29km まで減速 して著しく接近した(以下、上記 X の一連の運転を「 4 度の妨害運転」という。)。X 車両は、その後も減速して、午後 9 時34分 9 秒頃、54.8キロポスト先道路の第 3 車両通行帯上で停止し、その後方約2.2m 地点に B 車両が停止した。両車両と も、エンジンをかけていたが、ハザードランプを点滅させず、テールランプを点 灯させていただけであった。

 X は、両車両が停車した後、X 車両から降車し、スライドドアが開いていた B 車両 2 列目助手席側付近へ歩いて行き、A に対し、「けんか売ってんのか。」「海 に沈めるぞ。」「車の方に投げるぞ。」「高速道路上に投げてやろうか。」「殺された いのか。」などと怒鳴りながら、A の胸ぐらをつかんで車外に引っ張り出そうと したり、B 車両内に上半身を乗り入れて A を車内に押し倒したりした。これに 対し、A は、「けんか売ってません。すみません。」などと謝罪し、車外に引き ずり出されないように、車内にしがみついたり踏ん張ったりし、B や C は、座 っていた席から、A が車外に引きずり出されないように、A の腕や手をつかみ、

X に対し、謝罪し、やめるように言うなどした。Y は、X 車両から降りて B 車 両付近にいた X に近づき、X の腰を両手で引っ張ったり、やめるように言った りした後、泣き出した C をなだめ、子供がいるからやめるよう X に言った。す ると、X は、A から手を離し、X 車両に歩いて戻ろうとし、Y も後から付いて 行った。

 E は、大型貨物自動車(以下、E 車両という。)を運転し、前方の大型トラック に追従して、第 3 車両通行帯を進行していたところ、前方の大型貨物自動車が急 に左に車線変更し始めた。その後方最大約24m を走行していた E は、時速約 91km で走行中、B 車両の後方最大約53.8m 地点で同車両に気付き、急ブレーキ をかけると同時に左にハンドルを切ったが、午後 9 時36分 7 秒頃、E 車両を B 車両後部に衝突させ、さらに同車両を X 車両の後部に衝突させ、いずれかの車 両が B 車両付近にいた A および B に衝突した。なお、E 車両は、B 車両を発見 した地点において、制動距離が不足するため B 車両と衝突せずに停止すること は不可能であったうえ、第 2 車両通行帯では大型貨物自動車が並走していたた め、第 2 車両通行帯に車線変更することも不可能であった。この事故により、A および B が死亡し、C および D が負傷し、X および Y も負傷した。

 警察は、X を自動車運転死傷行為処罰法 5 条の過失運転致死傷罪の容疑で逮捕 したが、検察官は、より刑の重い同法 2 条 4 号の危険運転致死傷罪(妨害運転類 型)で起訴した。その後、検察官は、予備的訴因として監禁致死傷罪を追加して いる。

(3)

判例評釈(松原)  

Ⅱ 判 旨

 横浜地裁は、以上の事実につき危険運転致死傷罪の成立を認め、暴行罪 1 件、

強要未遂罪 2 件、器物損壊罪 1 件と併せて X に懲役18年(求刑懲役23年)を言い 渡した。

 横浜地裁は、以下のような「罪となるべき事実」を認定した。

 X は、「同車〔B 車両〕の通行を妨害する目的で、第 2 車両通行帯を走行する 同車を重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約100km の速度で左側か ら追い越して同車直前の同車両通行帯上に車線変更した上、減速して自車を B 運転車両に著しく接近させ、自車との衝突を避けるために第 3 車両通行帯に車線 変更した B 運転車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速 度である前記速度で車線変更した上、減速して自車を B 運転車両に著しく接近 させ、自車との衝突を避けるために第 2 車両通行帯に車線変更した B 運転車両 直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度で車 線変更した上、減速して自車を B 運転車両に著しく接近させ、さらに、自車と の衝突を避けるために第 3 車両通行帯に車線変更した B 運転車両直前の同車両 通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約63km の速度で車線 変更した上、時速約29km まで減速して自車を B 運転車両に著しく接近させたこ とにより…… B をして、……同車を停止することを余儀なくさせ、同日午後 9 時 36分頃、同所において、同車の後方から進行してきた大型貨物自動車前部を C

……及び D……が乗車していた B 運転車両後部に衝突させて同車を押し出させ、

同車左側部をその前方で停止していた自車右後部に衝突させるなどするととも に、これらいずれかの車両を B 運転車両付近にいた A 及び B に衝突させ、よっ て…… A 及び B をそれぞれ死亡させるとともに、C 及び D にそれぞれ傷害を負 わせた」ものである。

 さらに、横浜地裁は、危険運転致死傷罪の成否に関する争点を「〈 1 〉被告人 が B 車両の直前で自車を停止した行為(以下「直前停止行為」という。)について、

重大な交通の危険を生じさせる速度で運転したといえるか否か」および「〈 2 〉 被告人の運転行為と A らの死傷結果との間の因果関係の有無」に求めたうえで、

以下のように事実認定の補足説明を行っている。

 「争点〈 1 〉(直前停止行為の構成要件該当性)について

 ア 検察官は、被告人が、被告人車両を運転中、B 車両を停止させようと企 て、 4 度の妨害運転後に更に減速して直前停止行為に及んだという一連一体の運 転行為が危険運転致死傷罪の実行行為であると主張するが、当裁判所は、被告人 の 4 度の妨害運転は同罪の実行行為に該当するものの、直前停止行為は同罪の実 行行為には該当しないと判断したので、その理由について説明する。

(4)

  早法 95 巻 2 号(2020)

 イ 危険運転致死傷罪が、単に重大な死傷事故を惹起する危険性が高い行為に より死傷の結果を生じさせた場合の全てを処罰対象としているわけではなく、そ のうちそのような危険性の高い類型の運転行為を実行行為として抽出した上、こ れに該当する運転行為により人を死傷させた場合に限って特に重く処罰する趣旨 であることは、同罪の制定経緯及びその規定の形式から明らかである。

 そして、自動車運転処罰法 2 条 4 号所定の重大な交通の危険を生じさせる速度

(以下「速度要件」という。)とは、通行を妨害する目的で特定の相手方に著しく接 近した場合に、自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認 められる速度又は相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になる ことを回避することが困難であると一般的に認められる速度をいい、その下限は 概ね時速約20km ないし30km 程度である。こうした速度要件は、重大な交通の 危険を生じさせる速度に至らない速度で割込み運転を行った場合のように重大な 死傷の結果を発生させる危険が類型的に高いとまではいえない運転行為を本罪の 処罰対象から除外し、本罪の重い処罰に値する程度の当罰性を有する行為を限定 する趣旨で設けられている。

 そうすると、直前停止行為、すなわち、時速 0 km で停止することが、一般 的・類型的に衝突により大きな事故が生じる速度又は大きな事故になることを回 避することが困難な速度であると認められないことは明らかである。

 ウ これに対し、検察官は、最低速度が法定され(道路交通法75条の 4 )、停車 又は駐車が禁止されている(同法75条の 8 )という高速道路の特質を考慮すれば、

高速道路上においては低速走行や停止行為も速度要件を充たすと主張する。

 しかしながら、自動車運転処罰法 2 条 4 号の「重大な交通の危険を生じさせる 速度で自動車を運転する行為」との文言によれば、運転行為として、自動車を進 行させることが要求されると解され、そこに停止まで含まれると読み取ること は、文言の解釈上無理がある。そして、速度要件を求めた自動車運転処罰法の趣 旨及び立法経緯からも、停止させることまで含むとする検察官の主張を採用する ことはできない。よって、被告人の直前停止行為は同条号の実行行為には当たら ない。」

 「争点〈 2 〉(因果関係の有無)について

 ア 危険運転致死傷罪は、自動車運転処罰法 2 条各号所定の運転行為により人 の死傷結果が生じた場合に成立する結果的加重犯であるところ、その制定経緯や 同条の文言に照らせば、運転行為と死亡結果との間に通常の因果関係があれば足 り、刑法上の因果関係と別異に解する理由はない。

 イ ところで、弁護人は、直前停止行為が実行行為に含まれないとしても、本 件では被告人の 4 度の妨害運転に内在する危険が A らの死傷結果に現実化した

(5)

判例評釈(松原)  

とはいえないから因果関係は認められないと主張するので、以下検討する。

 ウ まず、H パーキングエリアから54.8キロポスト付近に至るまでの被告人車 両の動きをみると、被告人は、同パーキングエリアで A から非難されたことに 憤慨し、B 車両を停止させて A に文句を言いたいとの一貫した意思のもとで、

それ自体 B 車両及びその他の車両の衝突等による重大な人身事故につながる重 大な危険性を有する 4 度の妨害運転に及んだ。そして、被告人は、 4 度目の妨害 運転後にも減速を続けて自車を停止させたものであるから、直前停止行為は 4 度 の妨害運転と密接に関連する行為といえる。

 次に、B 車両の動きをみると、被告人車両の短時間での 4 回にわたる妨害運転 に対し、車線変更するなどして逃れようとするも逃れることができなかったこ と、被告人の 4 度目の妨害運転の際の被告人車両の進入・接近状況、減速状況や 当時の交通量からすると、前方の被告人車両の減速に対して回避行動をとること は困難であったといえ、被告人の 4 度の妨害運転により、B 車両は停止せざるを 得なかったというべきである。さらに、両車両の停車状態からすれば、B 車両が 被告人車両を避けて前方に逃れるのは困難であり、被告人車両が B 車両の前方 に停止したために B 車両は停止し続けることを余儀なくされたということがで きる。また、被告人の妨害運転により、B 車両を運転する B は恐怖や焦り等か ら冷静な判断が困難になっていたと認められることからすれば、B 車両が 4 度の 妨害運転によって第 3 車両通行帯上に停止し、かつ、停止を継続したことが、不 自然、不相当であるとはいえない。

 そして、両車両が停車した後、被告人が B 車両に近づき A に対して胸ぐらを つかむ暴行を加えたり文句を言ったりしたことも、B 車両を停止させて A に文 句を言いたいとの被告人の妨害運転行為開始当初からの一貫した意思に基づくも のと認められるから、やはり 4 度の妨害運転と密接に関連する行為といえる。

 さらに、本件事故現場は、片側 3 車線の高速道路の追越車線に当たる第 3 車両 通行帯で、本件事故現場には照明灯が設置されているとはいえ当時は夜間であっ たこと、本件事故現場付近は相応の交通量があったことを踏まえれば、高速道路 を走行する車両は、通常、車線上に停止車両がないことを前提に走行しているの であるから、B 車両の後続車は停止車両の確認が遅れがちとなり、その結果、後 続車が衝突を回避する措置をとることが遅れて追突する可能性は高く、かつ、一 旦そのような事故が発生した場合の A らの生命身体に対する危険性は極めて高 かったと認められる。

 また、本件事故は、被告人車両及び B 車両が停止してから 2 分後、被告人が A に暴行を加えるなどした後、被告人車両に戻る際に発生したもので、前記の 追突可能性が何ら解消していない状況下のものであった。

(6)

  早法 95 巻 2 号(2020)

 エ 以上によれば、本件事故は、被告人の 4 度の妨害運転及びこれと密接に関 連した直前停止行為、A に対する暴行等に誘発されて生じたものといえる。そ うすると、B らの死傷結果は、被告人が B 車両に対し妨害運転に及んだことに よって生じた事故発生の危険性が現実化したにすぎず、被告人の妨害運転と B らの死傷結果との間の因果関係が認められる。弁護人の主張は採用できない。」

Ⅲ 評 釈(1)(2)

1  危険運転致死傷罪(妨害運転類型)の実行行為

 自動車運転処罰法 2 条 4 号は、危険運転行為のうち、「人又は車の通行を妨害 する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく 接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」に よって、人を負傷させた場合を懲役 1 月〜15年、人を死亡させた場合を懲役 1 年

〜20年に処する旨規定するところ、本件では、X の直前停止行為が同条号の実 行行為に当たるかが争点となった。

 検察官は、最低速度が法定され(道路交通法75条の 4 )、停車または駐車が禁止 されている(同法75条の 8 )という高速道路の特質を考慮すれば、高速道路上に おいては低速走行や停止行為(すなわち時速 0 km の運転)も重大な交通の危険を 生じさせる速度(危険速度)の要件を充たすと主張した。

 しかし、「重大な交通の危険を生じさせる速度」に時速 0 km での運転を含む というのは、通常の言語理解の範囲外といわざるをえないであろう。また、「運 転」という文言は、それを単独で取り上げれば発進・走行のほか停止を包含する 余地があるとしても、「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する 行為」を全体として読めば、自動車を走行させる行為を意味するのは明らかであ ろう。こうして、自車を停止させる行為を自動車運転死傷行為処罰法 2 条 4 号の 実行行為とみるのは同条号の類推適用であって、罪刑法定主義に反する疑いがあ る。直前停止行為を 4 度の妨害運転行為と「一連一体の行為」とみることで本罪 の実行行為に組み込もうとすることも、危険速度を含めた法文上の行為態様の限 定を潜脱するものであって許されないであろう。X の直前停止行為を危険運転 致死傷罪(妨害運転類型)の実行行為から除外した本判決の判断は、罪刑法定主

( 1 ) 私は、新聞報道の段階で本判決を素材とする「あおり運転裁判からみる罪刑法定主義」

と題する記事を法学セミナー64巻 5 号(2019年)49頁以下に執筆したが、このたび判決文が 公表されたことから、同記事を基礎としつつ改めて判例評釈の形式で本判決を取り上げるこ とにした。

( 2 ) 本判決につき、古川伸彦「あおり運転と危険運転致死傷罪」刑事法ジャーナル60号

(2019年)17頁以下、成瀬幸典「判批」法学教室470号(2019年)138頁。

(7)

判例評釈(松原)  

義の見地から支持されるべきである(3)

2  因果関係

 本判決が出される前は、直前停止行為を危険運転致死傷罪の実行行為から除外 した場合には、本件において同罪の成立は否定される、というのが多くの法律専 門家の理解であったように思われる(4)。検察官が控訴事実において直前停止行為を 同罪の実行行為に含めたのも、このような理解を前提としたからであった(5)。これ に対して、本判決は、直前停止行為を同罪の実行行為から除外しつつ、先行する 割込み運転行為や減速行為と被害者らの死傷結果との間の因果関係を肯定するこ とによって同罪の成立を肯定した点で、予想に反するものであった。

 ところで、本件類似の事案で、被告人の行為と被害者の死傷との間の因果関係 を肯定して、業務上過失致死傷罪の成立を認めた判例として、最決平成16年10月 19日(刑集58巻 7 号645号(6)=平成16年決定)がある。事案は次のとおりである。

 被告人 X は、平成14年 1 月12日、高速道路である常磐自動車道を走行中に A の運転態度に立腹し、走行中の A の自動車(A 車)の前に割り込み、減速・停 車して、自車の後方に A 車を停止させた。降車した X は、A 車のところまで行 って「謝れ」などと怒鳴り、A 車のエンジンキーに手を伸ばしたり、A の顔面 を殴打したりした。その間、A 車を避けようとした B 車と C 車が衝突し、両車 両は A 車の前方に停止した。その後、X は自車で走り去ったが、A はキーが見 つからず周囲を探したり、B、C に進路を空けるよう言いに行ったりしていたと ころ、A 車の停止から20数分後(X の立去りから 7 〜 8 分後)に D の運転する自 動車が A 車に追突し、D および同乗者らが死傷した。

 最高裁は、以下のように判示した。「A に文句を言い謝罪させるため、夜明け

( 3 ) 本件報道における法律専門家のコメントにおいても、直前停止行為は本罪の実行行為に 当たらないとする見解が有力であった(井田良・読売新聞2018年12月15日朝刊11頁など参 照)。

( 4 ) 井田・前掲(注 3 )11頁など参照。

( 5 ) 検察官が予備的訴因として監禁致死傷罪を追加したのも、危険運転致死傷罪の実行行為 から直前停止行為が除外された場合には同罪の成立が否定されるという理解を前提としたか らにほかならない。

( 6 ) 本件につき、上田哲「判解」ジュリスト1299号(2009年)121頁以下、同「判解」『最高 裁判所判例解説 刑事篇 平成16年度』(2007年)454頁以下、豊田兼彦「判批」法学セミナー 601号(2005年)121頁、大塚裕史「判批」法学教室300号(2005年)178頁、伊東研祐「判 批」刑事法ジャーナル 1 号(2005年)160頁、山中敬一「判批」『平成16年度重要判例解説』

(2005年)153頁以下、杉本一敏「判批」法学教室306号別冊付録・判例セレクト2005(2006 年)29頁、松宮孝明「判批」判例時報1934号(2006年)210頁以下、深町晋也「判批」ジュ リスト1347号(2007年)454頁以下など参照。

(8)

  早法 95 巻 2 号(2020)

前の暗い高速道路の第 3 通行帯上に自車及び A 車を停止させたという X の本件 過失行為は、それ自体において後続車の追突等による人身事故につながる重大な 危険性を有していたというべきである。そして、本件事故は、X の上記過失行 為の後、A が、自らエンジンキーをズボンのポケットに入れたことを失念し周 囲を捜すなどして、X 車が本件現場を走り去ってから 7 、 8 分後まで、危険な本 件現場に自車を停止させ続けたことなど、少なからぬ他人の行動等が介在して発 生したものであるが、それらは X の上記過失行為及びこれと密接に関連してさ れた一連の暴行等に誘発されたものであったといえる。そうすると、X の過失 行為と被害者らの死傷との間には因果関係があるというべきである……。」

 今回の横浜地裁判決は、因果関係の判断において実行行為と密接に関連する行 為に言及する点などにおいて、本決定を意識している。しかし、両者の判断の内 容には、因果関係の起点となるべき実行行為をどこに求めるかという点で決定的 な相違があることに留意すべきであろう。平成16年決定は直前停止行為を実行行 為に含めているのに対して、今回の横浜地裁判決は直前停止行為を実行行為から 除外しているのである。

 検察官の主張のように、本件においても、平成16年決定と同様に、直前停止行 為を実行行為に含めることができれば、因果関係を肯定することに大きな障害は ないであろう。本件においては、X の直前停止行為によって B 車両は停止を余 儀なくされたのであって、停止場所の状況からして、B 車両への追突事故が起こ ることは経験的に予測可能であり、追突事故は直前停止行為に含まれていた危険 の実現といえるからである。しかも、本件は、車両の停止から事故発生までの時 間が短い点で平成16年決定の事案よりも因果関係を肯定しやすい事案であったと いえよう。しかし、直前停止行為は、業務上過失致死傷罪や過失運転致死傷罪の 実行行為となりえても、罪刑法定主義の要請からして、危険運転致死傷罪(妨害 運転類型)の実行行為となりえないことは前述のとおりである。

 横浜地裁判決は、 4 度にわたる割込み・減速行為を危険運転致死傷罪の実行行 為とした。この実行行為には、直前停止行為 9 秒前の時速29km までの減速行為 も含まれている。時速29km までの減速行為を実行行為に取り込み、以後の減速 行為を実行行為から除外したのは、危険速度要件を考慮したからであろう。しか し、B 車両が第 3 通行帯上に停止したのは X 車両が減速したからではなく停止 したからにほかならない。X 車両が29km に減速したまま走行していたとすれ ば、追突事故は起こらなかったのである。

 そこで、横浜地裁判決は、直前停止行為および暴行行為を 4 度の妨害運転と密 接に関連する行為であるとして因果関係の判断要素に取り込んだ。もっとも、本 判決が、因果関係の起点を密接関連行為にまで拡張する趣旨であるのか、それと

(9)

判例評釈(松原)  

も密接関連行為を因果経過上の介在事情として考慮しているのかは必ずしも明ら かではない。

 判例・学説上、因果関係の起点に取り込む趣旨で実行行為と密接に関連する行 為を考慮していると考えられる場面は、強盗致死傷罪である。同罪の成立範囲に つき、判例は、強盗の機会に人の死傷結果が生じれば足りるとし(最判昭和24年 5 月28日刑集 3 巻 6 号873頁)、有力説は、強盗の遂行に密接に関連し強盗目的の達 成に直接・間接に役立つ行為から人の死傷結果が生じたことを要する(7)とするが、

いずれも強盗罪の実行行為である暴行・脅迫以外の行為にまで、因果関係の起点 となる行為を拡張するものといえる。刑法240条は、「強盗が、人を負傷させたと き……、死亡させたとき……」と規定していることから、同罪の成立範囲を暴 行・脅迫から死傷結果が生じた場合に限定する文言上の必然性はないであろう。

これに対して、自動車運転死傷行為処罰法 2 条は、「次に掲げる行為を行い、よ4 って4 4、人を負傷させた者……、人を死亡させた者……」(圏点は筆者)と規定して いることから、文言上、「次に掲げる行為」が死傷結果の原因でなければならな いはずであり、妨害運転行為に密接に関連する行為にまで因果関係の起点を拡張 することは罪刑法定主義に違背する。本判決には、直前停止行為を表向きは実行 行為から除外しながら、密接関連行為という形で裏から実行行為に取り込んでい るのではないかという疑いがある(8)

 一方、直前停止行為を因果経過上の介在事情として考慮するのであれば、直前 停止行為を媒介としたものであるとしても、あくまで妨害運転行為(割込み運転 行為および時速29km までの減速行為)の危険が被害者らの死傷結果に実現したも のといえなければならないはずである。しかし、本判決は、妨害運転行為と直前 停止行為との関連について、「 4 度目の妨害運転後にも減速を続けて自車を停止 させたものであるから、直前停止行為は 4 度の妨害運転と密接に関連する行為で ある」と述べるのみで、妨害運転行為と追突事故による死傷結果との間の因果的 機序を示しえていない。

 本罪の実行行為は、「走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は 車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転す る行為」であり、この「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、「自車が相

( 7 ) 井田良「強盗致死傷罪」阿部純二ほか編『刑法基本講座第 5 巻』(1993年、法学書院)

131頁参照。

( 8 ) 本判決が、本罪の実行行為に当たらない停止行為によって被害者の生命・身体の危険 の創出を基礎づけている点を批判するものとして、内田浩「最近の危険運転致死傷罪に関す る裁判例の概観─その客観的構成要件該当性に関する問題を中心に─」刑事法ジャーナ ル60号(2019年) 9 頁。

(10)

  早法 95 巻 2 号(2020)

手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般に認められる速度又は相手方の 動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難 であると一般に認められる速度」を意味するものと解されている。ここで想定さ れている危険は、相手方との接触や相手方の咄嗟の行動による危険である。しか し、停止後の追突事故による死傷は、そのような危険の実現とはいえない。ま た、本件では、時速10km で割り込んだうえで被害車両の直前で自車を停止させ た場合であっても、時速100km で割り込んだうえで被害車両の直前で自車を停 止させた場合であっても、停止後の追突事故によって人の死傷の結果が生ずる危 険に有意な違いはないと考えられることから、本件結果を危険速度での4 4 4 4 4 4妨害運転 の危険の実現とみることもできないであろう。

 本件と類似する事案を扱った平成16年決定では、事故の時点で既に危険運転致 死傷罪の処罰規定が施行されていたにもかかわらず、業務上過失致死罪が適用さ れた。このことを問題視する声は聞かれなかったように思う。そうであるとすれ ば、本件においても、危険運転致死傷罪ではなく、過失運転致死傷罪(自動車運 転死傷行為処罰法 5 条)が適用されるべきではないだろうか。同罪の実行行為に は、妨害運転および危険速度という限定がないことから、直前停止行為に実行行 為(注意義務違反)を見出したうえで、平成16年決定のように、被害者らの死傷 結果を直前停止行為の危険の実現とみることで因果関係を肯定しうるであろう(9)

 〔追記 1 〕

 校正段階で、本件の控訴審判決(東京高判令和 1 年12月 6 日 LEX/DB25570641)

が出された。同判決は、①原判決が妨害運転行為と被害者の死傷結果との間の因 果関係を肯定したことに法令適用の誤りはないとしつつ、②原裁判所が、公判前 手続において因果関係が認められない旨の見解を表明したにもかかわらず、その 見解の変更を前提とする主張・立証の機会を訴訟当事者に与えることのないまま 因果関係を認定し、被告人を有罪とする判決を宣告した訴訟手続には、判決に影 響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとして、原判決を破棄し、本件を原裁 判所に差し戻したものである。

 同判決は、①の判断を示すに際して、原判決が、直前停止行為を妨害運転と密 接に関連する行為として実質的に本件の実行行為に取り込むかのように説示した

( 9 ) もっとも、同罪は「自動車の運転上必要な注意」を怠ることを要件としているので、停 止行為は「運転」に含まれないと解するなら、直前停止行為を同罪の実行行為(注意義務違 反)とすることはできないようにも思われる。このような理解によれば、本件には業務上過 失致死傷罪を適用すべきことになる。しかし、「運転」の語義には、発進、走行、停止の操 作を含むと解しうるように思われる。

(11)

判例評釈(松原)  

ことを批判して、直前停止行為はあくまで実行行為後結果発生に至るまでの介在 事情の 1 つと位置づけられるべきであると指摘し、また、原判決が、直前停止行 為を、被告人の「一貫した意思」に基づく実行行為に密接に関連する行為と位置 づけたことを批判して、実行行為に内在する危険性が具体的結果に現実化したと いえるかを客観的に検討すべきであると指摘しているものの、次のように述べ て、因果関係を肯定した原判決の判断を是認した。「高速道路上で執拗に被害車 両の直前への進入等を繰り返す行為は、被害車両の運転者に対し、強引に停止を 求める強固な意思を示威するものであって、同人らに多大な恐怖心を覚えさせ、

焦燥あるいは狼狽させるものであるから、このような一連の本件妨害運転は、そ れ自体同人にハンドル操作等の運転方法を誤らせる行為を惹起する危険性を有す るにとどまらず、上記のとおり停止を求める被告人車両を振り切ってこれに応じ ないことが、不可能ではないとしても、著しく困難であることから、高速道路の 第 3 車両通行帯上に自車を停止させるという、極めて危険な行為以外に他に採る べき手段がないと判断することを余儀なくさせるものといえる。・・・被害車両 の停止は・・・直前停止行為を契機とするものではあるが、本件妨害運転自体が 有する被害車両の運転者に与える上記の影響が直接に作用して生じた結果とみる ことができる。」

 しかし、このような被害車両運転者の心理に対する作用によって因果関係を肯 定することには、無理があるように思われる。直前停止行為さえあれば、先行す る妨害運転行為の存否にかかわりなく(あるいは先行する妨害運転行為が被害車両 運転者に対して心理的影響を及ぼしたか否かにかかわりなく)、被害車両は高度の蓋 然性をもって停止したと考えられるからである。

 また、本判決は、本件における「因果関係の有無及びこれが肯定される場合の 量刑」を裁判員の参加する合議体において改めて審理・評議させるため本件を原 裁判所に差し戻したものであるから、本件の事実関係に即して因果関係の存在を 肯定した①の判断は明らかに傍論であるが、このような傍論を述べることが差戻 審の裁判員裁判における審理・評議に対して不当な影響を及ぼさないかも検討を 要するところである。

 控訴審判決については、別稿で、より詳細に検討したい。

 〔追記 2 〕

 2020年 1 月15日、法務大臣は、以下の要綱を示して、直前停止行為等を危険運 転致死傷罪の実行行為に加えることを法制審議会に対して諮問した。

 「次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処 し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処するものとすること。

(12)

  早法 95 巻 2 号(2020)

 一 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることと なる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近する こととなる方法で自動車を運転する行為

 二 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目 的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる 方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行 為」

参照

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