内外,上下,前後の関係を示す ゴート語の前置詞,副詞,動詞接頭辞
高橋輝和
Die gotischen Prapositionen, Adverbien
und Verbalprafixe zur Bezeichnung von Intra‑Extra‑, Supra‑Infra‑ und Ante‑Post‑VerhaItnissen
TERUKAZU TAKAHASI
ゴート語では,空間関係を示す前置詞が副詞として,あるいは動詞接頭辞として用いられた り,また副詞が前置詞として,あるいは動詞接頭辞として用いられる場合がしばしば見られる が,その際文法的な意味が異なっていても,語嚢的な意味は同一であるのが一般的である.と いうことは,このような空間関係を示す語辞の語嚢的な意味分析の際には,品詞の違いをあま り問題にしなくてもよい.香,むしろ品詞別に扱うと,言語事象の実態認識を不当に限定しか ねないということであるから,以下では,内外,上下,前後の関係を示すゴート語の凡ての言 語手段をまとめて検討してみたい1).なお,前後関係の所では時間的な関係もいっしょに考慮 する.
内外,上下,前後の空間関係を示す言語手段を考察する際に当初から予期される問題は,壁 間そのものの種類の他に,その空間に対する過程(動作,状態)の関係である.この関係には 不変と変動とがあるが,不変関係は合致であり,変動関係はさらに二分され,それぞれ接近, 分離と呼ばれる.
I.内外関係
この関係を示す手段はin, inn, inna, innana, innapro, us, ut, uta, utana, utapro である.
IN
1.対格形支配の前置詞として「内‑の接近」を示す.
126 高橋輝和
マタ6, 6 il? >u bidjais, gagg in hejrjon J?eina祈る時は,あなたの部屋に入りなさ い.
ただしinと結びつく物体の内部空間は必ずしも上部まで閉ざされた空間である必要はな い.また平面の内であってもよい.
ヨ‑6, 24 gastigun in skipa彼らは舟に乗り込んだ.
2・与格形支配の前置詞として「内での合致」を示す.
ヨ‑10, 23 hノarboda Iesus in alh in ubizwai Saulaumonisイエスは神殿の中でソロ モンの柱廊を歩いていた.
マル1, 4 was Iohannes daupjands in aujフidai洗礼者ヨ‑ネは荒野の中にいた.
3・接頭辞in‑を持つ合成動詞は27例記録されている.その中にはinbrannjan 「火の車に入 れる,焼やす」のようにinの空間的な意味がかろうじて感じられるものもあるが,ほとん どはingramjan 「怒らせる」 , indrobnan 「うろたえる」のように抽象的な意味で用いら れている.これは前置詞inにいろいろな抽象的な用法があることと関連している.ここで
とにかく注意しなければならないのはin一合成動詞の中に運動動詞が含まれていないこと である.従って接頭辞in・は空間関係を表示する機能を持っていないとみなして差し支えな い.
INN
1.副詞として「内への接近」を示す.
マル15, 43 anananfcjands gajaijフinn du Peilatau彼は勇気を出してビラトの所‑入 った.
2.接頭辞として「内への接近」を示す.
inngaggan 「入る」 , inngaleiI)an 「入る」 , innatbairan 「運び入れて来る」, innwairpan
「投げ入れる」等.ゴート語ではドイツ語のhereinとhineinとのような区別はなされない.
INNA
副詞として「内での合致」を示す.
2コリ6, 16 baua in im jah innagagga私は彼らの中に住んでいて,中を歩いている.
INNANA
1.属格形支配の前置詞として「内への接近」を示す.
マル15, 16 gadrauhteis gatauhun ina innana gardis兵士達は彼を家数の中‑連れ て行った.
2.副詞として「内での合致」を示す.
内外,上下,前後の関係を示すゴート語の前置詞,副詞,動詞接頭辞 127
2コリ7,5 jah auk qimandam unsis in Makaidonjai ni waiht habaida gahノeilainais
leik unsar, ak in allamma anapragganai, utana waihjons, innana agisaというの は,我々がマケドニアにやって来た時も我々の体に安らぎはなく,我々はあらゆる点で苦 しめられていて,外には戦いが,内には不安があった.
副詞としてのinnanaはこの個所にのみ記録されていて,このinnanaをほとんどの文法 書や辞書は「内(中)から」を意味すると説明している(同様にutanaを「外から」と説明 している).その根拠としてmnanaは原典のodsvに(utanaはe&a>'dsvに)対応して おり,そしてさらに接尾辞・naが分離を意味することが挙げられている.しかしながら iacouEvは「内(中)から」だけでなく, 「内(中)で」をも(gcodsvは「外から」だけでな く, 「外で」をも)意味することができ,さらに・naが分離の意味を示しているのは前置詞の hmdana 「後ろから」だけであってsamana 「いっしょに」やmpana 「新たに」のように
・naがもはや分離の意味を持っていない例があるのでinnana (とutana)を分離の空間副 詞とみなす根拠は弱い.むしろ,他にinnana (とutana)が分離を意味している確実な例が ないこと,分離を明白に示す場合にはinnaj?ro (とutaprO)が用いられていること,そして 前置詞のinnana (とutana)が接近を意味しているので,もし副詞のinnana (とutana) が正反対の分離を意味するのであるならば,言語伝達上で混乱が生じることから,副詞の innana (とutana)が分離の意味を持っているとは考えられない.しかし接近と合致が同一語 で表現されても伝達上の混乱は生じないし,事実そのような例は他にもいくつか見られる.な おW. Bauerの新約ギリシャ語辞典では2コリ7, 5のeacoOEv (と%a>6」v)は合致を示すも のとして説明されている.
INNATHRO
1.副詞として「内からの分離」を示す.
マル7, 21 innajフro auk us hairtin manne mitoneis ubilos usgaggandというのは,
人々の心の中から悪い考えが出て来るのです.
2.副詞として「内での合致」を示す.
マタ7, 15 atsailvijフswej?auh faura liugnapraufetum Jフaim izei qimand at izwis in
wastjom lambe, ijフinna]?ro sind wulfos wilwandans Lかしにせの予言者には気をつ けなさい.彼らは羊の衣をつけてお前達の所にやって来るが,中は強奪する狼です.
US
1.与格形支配の前置詞として「内からの分離」を示す.
mna]?roのlの例文中のusを参照.
2・接頭辞として「内からの分離」を示す.
128 高橋輝和
usgaggan 「出る」 , usleij?an 「出る」 , usbairan 「運び出す」 , ustiuhan 「連れ出す」等・
しかしusqiman 「殺す」のような場合のuS・は空間的な意味を持たない.
UT
1.副詞として「外への接近」を示す.
ヨハ18, 29 J?aruh atiddja ut Peilatus du imそこでビラトが彼らの方に出て来た・
2.接頭辞として「外‑の接近」を示す.
utgaggan 「外に出る」一例だけ.普通ゴ丁ト語の辞書ではusgaggan 「中から出る」との 区別があいまいである. utgagganはinngaggan 「中に入る」に直接対立する動詞として usgagganとは区別されている.
ヨ‑10, 9 inngaggi]? jah utgaggij?出入りする.
なおゴート語ではドイツ語のherausとhinausのような区別はなされない.
UTA
副詞として「外での合致」を示す.
ヨ‑18, 16 Paitrus stojフat daurora utaペテロは外で入口の所に立っていた.
UTANA
1.属格形支配の前置詞として「外への接近」を示す.
マルustauh ina utana weihsis彼を村の外に連れ出した.
2.属格形支配の前置詞として「外での合致」を示す.
ヨハ解3 c azgon kalbons gabrannidaizos utana bibaurgeinais宿営地の外で焼かれ た雌中年の灰を.
3.副詞として「外での合致」を示す.
副詞としての用例はmnanaの2で挙げたものの他にもう一例ある.
2コリ4, 16 Jフauhjabai sa utana unsar manna frawardjada, ai帥au sa minima
ananiujada daga jah daga例え我々の外なる人が滅ぼされても,内なる人は日々に新 しくされる.
ここでは副詞のutanaに形容詞のinnumaが対立している.
UTATHRO
1.属格形支配の前置詞として「外からの分離」を示す.
マル7,15 ni waihts ist utaj?ro mans inngaggando in ina Jフatei magi ina gamainjan
人の外からその人の中に入るもので,その人を汚すことができるものは何もない.
内外,上下,前後の関係を示すゴ‑ト語の前置詞,副詞,動詞接頭辞 129
2.副詞として「外からの分離」を示す.
マル7, 18 all J>ata utaj?ro inngaggando in mannan ni mag ina gamainjan凡て 外から人の中に入るものはその人を汚すことができない.
以上の考察に基づいて,内外関係を示す手段は次のようにまとめられる.
表1
外
Ⅲ.上下関係
ここで問題になるのはaf, ana, dalajフ, dalaj^a, dalaj?ro, iup, mpa, iupana, mpa}フrO, uf, ufar, ufaro, undar, undaroである.
AF
1.与格形支配の前置詞として「上面と下面を含む表面からの分離」を示す.
afで問題になる空間は表面であって,ここでは「上面からの分離」や「下面からの分離」
は「側面からの分離」と表現上区別されない.
ルカ16, 21 gairnida sa}? itan drauhsno Jフizo driusandeino af biuda J?is gabeigins
その金持ちの食卓から落ちるパンくずを腹一杯食べたいと願った.
ルカ5 mulda af fotum izwaraimafhrisjaijフお前達の足からチリを払い落しなさい.
2. af一合成動詞は51例記録されているが,その中にaf‑が特に「上面からの分離」または
「下面からの分離」を意味するような例はないafhrisjan 「払い落とす」 , afslahan
「切り落とす」 , afhamon 「脱ぐ」のaf‑はやはり「表面からの分離」を示している.
ANA
1.対格形支配の前置詞として「上面を含む表面への接近」を示す.
anaで問題になる空間はafでの空間と同じように表面であるが,この場合下面は含まれな い.
マタ10, 29 ains ize ni gadriusij? ana air)フa inuh attins izwaris wiljanそれらの
m¥ 高橋輝和 どれもあなた達の父の意志がなければ地上に落ちない.
2.与格形支配の前置詞として「上面を含む表面での合致」を示す.
ヨハ6, 19 gasaihノand Iesugaggandan ana marein彼らはイエスが湖の上を歩いてい るのを見た.
3.副詞として「上面を含む表面‑の接近」を示す.
マルatlagjands ana handuns seinos frah ina ga‑u‑lva‑setvi?自分の両手を上 にかけて何か見えるかと彼に尋ねた.
4・副詞として「上面を含む表面での合致」を示す.
マタ27, 7 usbauhtedun us Jフaim J?ana akr kasjins, du usfilhan ana gastim彼ら はそれでもって陶器師のその畑を,上で異国人を埋葬するために,買い入れた.
5.接頭辞として「上面を含む表面‑の接近」を示す.
anahnaiwjan 「上に置く」 , analagjan 「上に置く」等.
6.接頭辞として「上面を含む表面での合致」を示す.
anatimrjan 「上で建てる」
DAI‑ATH
副詞として「下‑の接近」を示す.
ルカ4, 9 jabai sunus sijais gujフs, wairp Jフuk IフaIフro dalajフもしお前が神の息子なら, ここから飛び降りろ.
DALATHA
副詞として「下での合致」を示す.
マル14, 66 wisandin Paitrau in rohsnai dala]?a 〔jah〕 atiddja aina J>iujo Jフis
auhumistins gudjinsペテロが下の中庭にいると,大祭司の女中の一人がやって来た.
DA1‑ ATHRO
副詞として「下での合致」を示す.
ヨ‑ jus us t?aim dala}フro sijuj?あなた達は下のものから出ている.
ここでいう「下のもの」とは「この世,または地上の人々」の意味である. dalaj?roはこの 一例しか記録されていないが,接尾辞‑J?roを持つ他の副詞には例外なく第‑に分離の意味が あるので, dala)?roに「下から」という意味も認めてよい.
IUP
副詞として「上‑の接近」を示す.
内外,上下,前後の関係を示すゴ‑卜語の前置詞,副詞,動詞接頭辞 m¥
ロマ10, 7 J?at‑ist Xristu us daujフaim iup ustiuhanそれはキリストを死者の中から引 き上げることです.
IUPA
副詞として「上での合致」を示す.
コロ3, 2 1フaimei iupa sind fralフjail), ni J?aim ¥フoei ana airjフai sind上にあるものを
思い,地上にあるものを思ってはいけない.
IUPANA
この副詞は,どの文法書にも「上からの分離」を意味すると説明されているが,記録されて いる唯一の例は空間的ではなく,時間的・様態的な用法である: 「新たに」ガラ4, 9.従って ここでは取り上げない.
IUPA THRO
1.副詞として「上からの分離」を示す.
マル15, 38 faurahah als disskritnoda in twa iupajフro und dalaj?神殿の幕が上か ら下にこっに裂けた.
2.副詞として「上での合致」を示す.
ヨ‑ JUS US Iフaim dalaj?ro sijuj), ip ik us Jフaim iupajフro im; jus us fフamma
fairrvau sijuj), iIフik ni ira us J?amma fairh;auあなた達は下のものから出ているが, しかし私は上のものから出ている.あなた達はこの世の出だが,しかし私はこの世の出で はない.
iup‑dalaf)系の副詞が表わす上下関係は絶対的な上下関係であって,これは高低関係とも呼 びかえることができる.従ってiup‑dalal?系の副詞は前置詞としては用いられない.これに 対して,ある特定の物体に関与する,相対的な上下関係はana, af等の手段によって表現さ れる.故にiupでは「下(低)から上(高)へ」の一方向でしかあり得ないがanaでは
「下からある物体の上へ」 , 「上(高)からある物体の上‑」 , 「横からある物体の上‑」の 三方向が考えられる.
UF
1.与格形支配の前置詞として「下での合致」を示す.
ここで問題になる空間は接触した下面であっても,離れた下部であってもかまわない.
1テモ6,1くびきの下にいる奴隷は皆.
マル12, 1 usgrof dal uf mesa台の下に溝を掘った.
132 高橋輝和 2.対格形支配の前置詞として「下への接近」を示す.
ルカ16 ni manna lukarn tandjands dishuljij? ita kasa aiJ?J?au uf ligr Cga〕・
satjij), ak ana lukarnastajnnくga)satjij?だれも明かりをつけてそれを器で被い隠した り,寝台の下に置いたりはしないで,燭台の上に置く.
1コリ15, 25 skal auk is Hudanon und J?atei galagjijフ〔gulフ〕 allans fijands is
uf fotuns immaというのは彼は,神がその凡ての敵を足の下に置くまで,支配すべきで ある.
3.接頭辞として「下での合致」を示す.
ufgraban 「下を掘る」 , ufhaban 「下で支える」等.
4.接頭辞として「下への接近」を示す.
ufhnaiwjan 「下に置く」 , ufstraujan 「下に拡げる」等.
UFAR
1.与格形支配の前置詞として「上での合致」を示す.
マタ27, 45 fram saihston J?an hノeilai war> riqis ufar allai airj?ai und hノeila
niundonその時第6時から第9時まで全地の上に暗黒が生じた.
ufarで問題になる空間はある物体から離れたその上部であっても,ある物体に接触したそ の上面であってもかまわない.従って上面はufarでもanaでも把握されることになるが,
しかし,その場合ufarは面的な接触を表現するので,点的な接触のanaとは区別される.
2.対格形支配の前置詞として「上への接近」を示す.
エペ4, 10 saei atstaig, sa ist jah saei usstaig ufar allans himinans降りて来た 方,その方がまた凡ての天の上へ昇った方です.
横になっている人の頭の所に立つ場合にもufarが用いられる.
ルカ4, 39 atstandands ufar ija gasok J?izai brinnon彼女の枕元に立ってその熟を しかった.
3・対格形支配の前置詞ufarにはさらに「上での越過」の意味があるが,これはここでは問 題外である.
4.接頭辞として「上での合致」を示す.
ufarhlei}フrjan 「テントを上で拡げる」
5・接頭辞として「上‑の接近」を示す.
ufarlagjan 「上に置く」 , ufarskadwjan 「被う」 , ufarsteigan 「上に伸びる」等.
UFARO
1.与格形支配の前置詞として「上での合致」を示す.
内外,上下,前後の関係を示すゴート語の前置詞,副詞,動詞接頭辞 133
ヨハ解4b sa iupajπo qimands ufaro allaim ist上から来る方は凡ての人々の上にい る.
2.属格形支配の前置詞として「上‑の接近」を示す.
ルカ10, 19 atgaf izwis waldufni trudan ufaro waurme jah skaurpjono jah ana allai mahtai fijandis私はお前達に,蛇やさそり,また敵の凡ての力を踏みつける権威 を授けた.
ufaroもufarも関係する空間自体は同一であるが,方向の点で二つは区別される. ufaro では「上(高)からある物体の上へ」が強調されるのに対してufarでは普通「下(低)か らある物体の上へ」が問題になる.つまりufaroでは下降がufarでは上昇が意図される.
また上例に見られるようにufaroとanaとの違いはufaroでは下になる物体が上に来る 物体よりも小さいのに対してanaでは逆に下の物体の方が大きいことである.このことは ufaroが面的接触をanaは点的接触を表現することとも関連している.
3.副詞として「上での合致」を示す.
ヨハ解4b ni Jフatei ufaro wisandan sware kannidedi彼が理由なく,上に存在する 方を知らせたというのではない.
4.副詞として「上‑の接近」を示す.
ヨ‑ll, 38 wasuh ¥フan hulundi jah staina ufarlagida was ufaroそしてそれ(塞) は洞穴であって,上に石が置かれていた.
この例に見られるようにufaroに対応する接頭辞はufar‑である.つまり接頭辞ufar‑
では前置詞ufaroとufarとの対立が中和されている.
UNDAR
対格形支配の前置詞として「下‑の接近」を示す.
マル4, 21 ibai lukarn qimijフdu]?e ei uf melam satjaidau ai抄au undar ligr?
ますの下,あるいは寝台の下に置かれるために,明かりが来るのですか.
undarはufとは区別されていない.
UNDARO
与格形支配の前置詞として「下での合致」を示す.
ここでの下は接触した下面でも,離れた下部でもかまわない.
マル6, ll ushrisjaijフmulda po undaro fotum izwaraim du weitwodij?ai im彼ら に対する証しのために,お前達の足の下(寡)のチリを払い落としなさい.
マル7, 28 jah auk hundos undaro biuda matjand af drauhsnom barneというの は,食卓の下の犬も子供達のパンくずの一部を食べる.
iJ銅 高橋輝和 undaroもufとは区別されていない.
以上から上下関係を示す手段は次の表2にまとめられる.
表2
上下 棉 対
的
上
面 低
Ⅲ.前後関係
ここではafar, afta, aftana, aftaro, aftra, faur, faura, hindana, hindarが扱わ れる.
AFAR
1.対格形支配の前置詞として「時間上の後続」を示す.
対格形としては期間,または時点を示す語が用いられる.
マル2, 1 galaij? aftra in Kafarnaum afar dagans数日後彼は再びカペjjゥムへ行っ im
マタ27, 53 usgaggandans us hlaiwasnom afar urrist is彼の復活後(死者達が)墓 から出て.
2.与格形支配の前置詞として「後ろでの合致」を示す.
マル1, 17 hirjats afar mis私の後ろについて来なさい.
3.与格形支配の前置詞として「後ろへの接近」を示す.
ルカ15, 4 niu bileij?it? J?o niuntehund jah niun ana aujフidai jah gaggijフafar
J?amma fralusanin, unte bigiti]? pata?その99頭を荒野に残しておいて,その失わ れた一頭を,見つけるまで,追い求めませんか.
4.与格形支配の前置詞として「時間上の後続」を示す.
内外,上下,前後の関係を示すゴート語の前置詞,副詞,動詞接頭辞 135
W. StreitbergやE. Schulzeの辞書はこの場合の時間的な用法を認めていないが, faura との対応関係上afar十与格形にも時間的な用法を認める必要がある.与格形には人または物 を表わす語が用いられる.
マル1, 7 qimijフswmjフoza mis sa afar mis私よりも強い方が私の後に来る.
実際のところ,このような例は空間的用法との接点である.
5.副詞として「時間上の後続」を示す.
ヨ‑解3c azgon kalbons gabrannidaizos utana bibaurgeinais, afaruh J?an JフO in
wato wairpandans hrain宿営地の外で焼かれた雌中年の灰,これをその後清らかな水 の中に投げ入れて.
6.接頭辞として「後ろでの合致」を示す.
afargaggan 「後ろについて行く」 , afarlaistjan 「後ろについて行く」
7.接頭辞として「後ろ‑の接近」を示す.
afargaggan 「跡を追う」
AFTA
副詞として「後ろでの合致」を示す.
ピリ3, 14(B) J?aim afta ufarmunnonds, ij? du Jフaim Jフoei faura sind mik ufj?an‑
jands後ろのものを忘れ,前にあるものに手を伸ばして.
AFTANA
副詞として「後ろへの接近」を示す.
この語をどの文法書や辞書も「後ろから」と訳しているが,しかし「後ろから前へ」という 運動線上にあるのではなくて, 「ある人の後方からその人の背後‑」の運動線上にあるもので ある.
マル5, 27 atgaggandei in managein aftana attaitok wastjai is群衆にまじって背 後に近づき,彼の着物に触った.
AFTARO
1.副詞として「後ろへの接近」を示す.
ルカ8, 44 atgaggandei du aftaro attaitok skauta wastjos is背後に近づいて来て, 彼の着物の端に触った.
2.副詞として「後ろでの合致」を示す.
ルカ7, 38 standandei faura fotum is aftaro greitandei背後で彼の足元に立って, 泣きながら.
136 高橋輝和
AFTRA
1.副詞として「後ろからの分離」を示す.
この場合は「ある人の背後からその人の後方へ」の運動線が考えられる.
ルカ2, 43 mij?]?ane gawandidedun sik aftra彼らが引き返した時.
2.副詞として「後ろでの合致」を示す.
ピリ3, 14(A) J?aim aftra ufarmunnonds, if? du J?aim Jフoei faura sind mik uf‑
J?anjands後ろのものを忘れ,前にあるものに手を伸ばして.
同じ個所に,写本Bではaftaが,しかし写本Aではaftraが用いられている.
FAUR
1.対格形支配の前置詞として「前への接近」を示す.
この場合は「ある物体の前方,または側方,または内部からその前‑」の運動線が問題である.
マル8, 6 atlagidedun faur po managein彼らはその群衆の前に置いた.
マル14, 68 galaijフfaur gard彼は家敷の(中から)前へ行った.
2.対格形支配の前置詞として「時間上の先行」を示す.
この場合,期間または時点を示す語が対格形で置かれる.
2コリ12, 2(B) wait mannan in Xristau faur jera fidwortaihun ‑ frawulwanana
pana swaleikana und Jフridjan himin私は,キリストにあって14年前に第3の天にまで 引き上げられた人を知っている.
マタ5, 75 faur hamns hruk Jフrim sinjフam afaikis mikにわとりが鳴く前に3度お 前は私を否認するだろう.
3. 「近辺での合致」または「近辺への接近」を示す前置詞faurはここでは問題外である.
4.副詞として「前‑の接近」を示す.
ルカ19, 4 bitフragjands faur usstaig ana smakkabagm急いで前方に走って行って, いちぢくの木に登った.
この例では,自分の前への接近運動が繰り返されている.
5.接頭辞として「前‑の接近」を示す.
faurlagjan 「前に置く」 , faurwalwjan 「前‑転がす」等.
6.接頭辞として「前での合致」を示す.
faurbigaggan 「前を行く̲ら faurrinnan 「前を走る」等.しかしfaurgagganは「傍ら を行く」.
7.接頭辞として「時間上の先行」を示す.
faurbigaggan 「先に行く」 , faurrinnan 「先に走る」 faurbisniwan 「先に行く」等.
内外,上下,前後の関係を示すゴ‑ト語の前置詞,副詞,動詞接頭辞 I的
FAURA
1.与格形支配の前置詞として「前での合致」を示す.
マタ27, ll Iesus stob faura kindinaイエスは総督の前に立っていた.
ヨハ10, 4 J?an po swesonaくIamba) ustiuhi]?, faura im gaggi]?, jah Jx> lamba
ina laistjand彼は自分の羊を連れ出すと,彼らの先頭を行く,そして羊は彼について行く.
2.与格形支配の前置詞として「時間上の先行」を示す.
この場合の与格形は人を表わす語であって, afar+人,物の与格形に対応している.
ネ‑ 5, 15 fauramajフIjos Jフaiei weisun faura mis私の前にいた総督達.
3.与格形支配の前置詞として「前からの分離」を示す.
ここでは「ある物体の直前からその前方へ」の運動線が問題である.
マル14, 52 is bileijフands J?amma leina naqa}フs ga}フIauh faura im彼はその亜麻布
を残して,裸で彼らの前から逃げた.
4. 「近辺での合致」を示す前置詞fauraはここでは問題外である.
5.副詞として「前での合致」を示す.
aftaとaftraの2の例文中のfauraを参照.
6.副詞として「時間上の先行」を示す.
1テモ1, 13 ikei faura was wajamerjands私は以前神を汚す者だった.
7.接頭辞として「前での合致」を示す.
fauragaggan 「前を行く」 , fauraqiman 「前を(歩いて)やって来る」等.
8.接頭辞として「時間上の先行」を示す.
fauramanwjan 「先に用意する」 , fauraqi]:プan 「予言する」 , fauragasandjan 「先に派 遣する」等.時間関係を示す副詞のfaura (faurはこの場合用いられない) ,接頭辞の faur‑とfaura‑には,前置詞のfaurとfauraとの間に見られるような違いはない.
HINDANA
属格形支配の前置詞として「後ろからの分離」を示す.
マル3, 8 jah hindana Iaurdanaus ‑ qemun at immaそしてヨルダン川の後ろ(向 こう)からも彼の所に(人々が)やって来た.
HINDAR
1.与格形支配の前置詞として「後ろでの合致」を示す.
ヨ‑6, 22 managei sei stojフhindar marein湖の後ろ(向こう)に立っていた群衆.
2.対格形支配の前置詞として「後ろへの接近」を示す.
138 高橋輝和
マルgagg hindar mik, Satana悪魔よ,私の背後へ行け.
aftana‑aftraで表現される運動がある物体の背後でのみなされるのに対して, hindar‑
hindanaでの運動はある物体の前と後ろとにまたがる空間でなされる.
3・接頭辞として「後ろ‑の接近」を示す.
hindarleijフan 「級ろ(向こう) ‑行く」.
以上の前後関係をまとめると次のようになる.
表3
前
級
注1格形によっても空間関係は表現されることがあるが,本論で扱われる空間関係の表示には,どの格 形も関与しない.
2 af, anaで問題になるのはあくまでも「表面」であって,これはむしろ直接には「近辺」と対立す る.
参考文献は通常の辞書と文法書であるので,紙面の都合により省略する.
(昭和52年9月19日受理)