学校における「ボランティア教育」の実態と課題
−奈良県下の中・高・盲・ろう・養護学校悉皆調査 を基に−
著者 石岡 隆, 八尾坂 修
雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要
巻 8
ページ 41‑55
発行年 1999‑03‑31
その他のタイトル The Actual Condition and Problems on Education for Volunteer Learning at School
URL http://hdl.handle.net/10105/4234
〜奈良県下の中・高・盲・ろう・養護学校悉皆調査を基に〜
石 岡 隆
(奈良教育大学大学院学校教育専攻)
八尾坂 修
(奈良教育大学教育経営学研究室)
TheActualConditionand ProblemsonEducationforVoIunteerLearnlngatSchooI
TakashiISHIOKA
(GraduateStudentofSchooIEducation,.NaraUniversityofEducation)
Osamu YAOSAKA
(DepartmentofEducationalAdministration,NaraUniversityofEducation)
要旨:学校における「ボランティア教育」の実態と課題を探るため、県下全域の中・高・盲・ろ う・養護学校を対象にアンケート調査を行った。その結果、「ボランティア」の定義の解釈の個々 人による微妙な違いが学校導入への賛否になっていることが分かった。また、実施場面や形態、
分野に多様性を持たせることが課題であるといえる。さらには、生徒相互の「ディスカッション」
や相互評価の導入など、生徒相互の「かかわりあい」を生む事前・事後指導の開発も必要である。
盲・ろう・養護学校では、生徒の障害の重度化・重複化の状況を踏まえつつ「交流教育」や「生 徒会」などで行っており、今後もさらなる研究開発の必要性があるといえる。
キーワード:ボランティア教育、かかわりあいの力
1.研究目的と方法
「不登校」「いじめ」「対教師暴力」「家庭の教育力の低下」など、今の教育を語る言葉には深 刻なものばかりが目立つ。しかし、その中にあって1995(平成7)年の「阪神大震災」後にボラ
ンティアで活躍した、多くの若者の姿には、それらの言葉を払拭するものがあり、無力感を感じ ていた、多くの教育関係者が希望を呼び戻された。それは、あまりにも多くの犠牲を生んだ「震 災」の残した、唯一の灯である。以後、その灯に教育の可能性を兄いだし、より大きな展望に膨 らませるため、全国各地の学校でも「ボランティア教育」と「ボランティア学習」を取り入れ、
実践する動きがより活発化している。事実、奈良県内の中・高・盲・ろう・養護学校を対象にし た本調査結果においても、回答のあった学校の内、全体で86.8%が行っており、行っていない学 校の内、35.3%が今後、行うための予定あり、と回答している(教頭)。このことからも、今後
の関心のより一層の高まりが予想される。
だが、学校での子どもによる「ボランティア教育」に関する研究は、わが国ではまだ、本格的
に行われていない。調査報告書についても、学校や教師の働きかけに焦点を当てたものは、青森 県総合社会教育センターの「ボランティア活動に関する調査報告書」l)(1994、9月調査)と東 京都立教育研究所の「青少年のボランティア活動の振興に関する研究」2)(1995、11.12月調査)
とがあるのみである。青森県の調査は、「ボランティア」の評価や子どものボランティア活動の 振興方策についての教員の意識を明らかにしている点については、評価できる。だが、調査時期 が阪神大震災以前であり、以後の社会における、新たな「ボランティア」意識を背景にしていな い点と事前・事後指導などの、具体的な実践方法にまで踏み込んでいない点において必ずしも充 分ではない。一方、東京都の調査は都内の学校やボランティアセンターによる取り組みの実態と 課題を明らかにしている点は評価できる。だが、その名の示すように、学校が取り組む主目的を ボランティア活動そのものの振興に力点を置いている点において、必ずしも充分ではない。そこ で本研究では、それらを踏まえた上で奈良県内の学校の悉皆調査を行った。
本稿では、その結果を基に、「ボランティア教育」の学校導入への反対者の主張する、学校が かかわることで「ボランティア」本来の性格の「自主性」が損なわれる、とする見解にあると思 われる矛盾点を次の視点から指摘し、今後の課題を探る。
(1)「分野」や「学習形態」など、プログラムの設定内容について
(2)具体的な授業・実践方法について
(3)盲・ろう・養護学校における実践について
なお本調査は、奈良県下全域の中学・高校・盲・ろう・養護学校の教頭192名(中学120名、高 校61名、盲・ろう・養11名)と「ボランティア教育」または、それに準ずる教育の担当教員192 名(中学120名、高校61名、盲・ろう・養11名)との悉皆調査で郵便留置法(個別に発送)によ り、平成10年11月下旬に実施した。回収票は、教頭109名(中学67名、高校38名、盲・ろう・養 4名)、担当教員109名(中学69名、高校37名、盲・ろう・養3名)であった。
調査にかかわる用語の定義に関しては、我が国ではその統一見解が末だ、定まっていないため、
調査の実施にあたっては、その意図に最も近い、次の定義を使用した。そして本稿では、その調 査結果に基づき定義の再構築を試みた。
・「ボランティア学習」については、㈱「日本青年奉仕協会」において「人とのふれあいや自 然とのふれあいを通して、地域社会や地球社会にある多様な課題を知り、その解決のために果 たすべき、公共の社会の一員としての役割を探るための社会体験学習である」3)と定義されて いる。
・「ボランティア教育」については、前述した東京都立教育研究所の調査で、その調査を行う。
にあたって「教育とは学習の支援である」との視点に立ち、「学校等で行われるボランティア 活動を含めて、ボランティア活動の体験学習やボランティア活動につながる学習を支援する教 育活動の総称である」4)と定義している。
2.調査結果と考察
(1)プログラムの設定内容・方法をめぐる実態と課題 2−(1ト①定義の解釈をめぐって
「ボランティア教育」の学校導入をめぐって賛否が分かれている背景には「ボランティア」
の定義自体に関しての解釈の違いが考えられる。そこで、現場の捉え方を探るため、教頭と担
当教員を対象に、賛否を尋ねた上で、その理由を自由記述で求めた。それが次の図である。
【図(1)①−A】学校導入への賛否(教頭)
土中蔓i盛良
学校導入への賛否教
【図(1)①−B】学校導入への賛否(教員)
全体結果が示すように、ほとんどの教頭・担当教員が学校での「ボランティア教育」を「良 い」と考えている。自由記述から、その理由を見ると「ボランティア活動は、多くの人々とか かわりをもつことができるものであり、対人関係を築くことが苦手になっている今の子どもの 人格形成上、有効なものである」との意見、「様々な立場、年齢の人々とコミュニケーション を図り、相手の立場に立って考える必要性が自ずと生じる、ボランティア活動にある性質は、
まさしく学校教育の大切な課題であるから」との意見が多かった。一方、「良くない」と回答 した理由では「学校教育がかかわることで、自主性が大切であるはずのボランティアの性格を 歪めてしまう」との意見と「スリム化が必要な中で時間がとれない」との意見であった。
ここで明らかになったことは、前述したように「ボランティア」の定義自体の解釈のニュア ンスの違いが学校導入への賛否の分かれ目の一つになっていることである。そこで今、「ボラ ンティア」について、できるだけ万人が納得可能な共通の定義、認識を構築する必要がある。
「ボランティア」の元の語源は、ラテン語では「自由意志」(Voluntas)、フランス語では
「喜びの精神」(Volunte)、英語の名詞では「志願者有志者」(Volunteer)とされている。そ して特に第二次大戦後、「ボランティア」は世界の共通理念として広がっていったがその概念 は今、世界において、① 自主性 ② 無償性 ③ 公共性 ④ 先駆性、との四つが共通認
識とされている。
だが、各々の活動をこれら四つに合致するかを細かく点検していては、ボランティアする意 欲さえも阻むことになる。特に学校で行う際には、それがいえる。「ボランティア教育」の学 校導入に否定的な教育関係者の多くが指摘した、概念の中の①の「自主性」については、教育 以外の場面ですら、それのみを優先し、こだわりすぎることの不要論が高まりつつある。その ことについて田中雅文氏は、次のように指摘している。「自主性を強調しすぎると、かえって 多くの人がボランティア活動に参加できる可能性を閉ざしてしまうことにもなる。つまり、は
じめは知人に誘われておつき合いでボランティア活動をはじめたとしても、活動するうちにそ の意義と喜びを理解して自発性が増してくるというケースも少なくない。当初から自発的であ ることが理想とはいえ、ボランティア人口が広がるためにはこのような「途中から」の自発性 もまた重要である。」5)また、概念の②に挙げた「無償性」についても、交通費や資料代など、
必要最小限の経費なら受け取っても良い、とする考えが定着しっっある。
よって、万人に訴えうる「ボランティア」の新たな定義を考えるためには、先に挙げた四つ の性格は性格として踏まえた上で、それらをも包み込み得る、より包括的な視点に立った考え 方をする必要がある。先の四つの性格はいずれも、個々人の活動のあり方・形態に焦点を当て た枠内の表現にとどまっており、学校導入に肯定的な理由の多くに意義として挙げられていた
「人と人とのかかわりあい」との視点からの表現がない。そこで、今後の「ボランティア」と は「他者=仲間意識に基いた、かかわりあい活動」と捉えるのが最もふさわしく、特に教育の 場では、そうした「双方向的なかかわり合い」の持っ意義を第一義的に受け止め「途中からの
自発性」をも引き出し、支えてゆこうと努めるのが妥当な捉え方といえる。
2一(2ト② 実施場面の観点から
学校教育がかかわることで「ボランティア」本来の性格の「自主性」を損ねてしまう、とす る見解への第二の疑問は、その根底にあると思われる、学校教育=拘束的なものとする、考え 方にある。だが、学校教育と一言で言えども、それは実際には、異なる性質の集合体でできて いる。「クラブ」などは比較的、生徒の主体性が生かされる場合が多く、そのような場で実施 すれば「自主性」を引き出しやすいといえる。
【図(1)②一A】実施している場面(教員)
図(1)②−A実施している場面(教員)
□その他 日教科 世道徳 田学級活動 口学年活動 題クラブ活動
【図(1)②−B】実施する場合の場面(教員)
−▼ ̄ ̄ 「
図(1)②−B実施する場合の場面(教員) 騙 ̄書面画「
全体 中学校 高校 盲・ろう・養
0.0% 50.0%100.0%150.0%200.0%250.0%300.0%350.0%
■教科 自クラブ ロ道徳 m学年行事
□学級活動 日総合学習 書学校行事
隼墜」1
そこで、「ボランティア教育」を現在、行っている場面と今後、好ましいと思う実施場面と を尋ねた。それが次の図である。
この結果から、現在は中・高ともに「生徒会」が中心で「教科」での実施率は低いことが分 かる。また、高校では中学に比べ「クラブ」での実施率が高い。そして、今後、望ましいとす る場面についての特徴もほぼ、これと同じである。ただし、【図1②−B】の合計率は、中・
高ともに300%程度であるのに対して、【図I②−A】は、200%程度でしかない。つまり中・
高ともに現状では、「生徒会」を中心に単独か少数の場面でしか行っていないが将来は、より 複数の場面で実施しようとしていることが分かる。
その際に検討すべきは、「教科」や「学校行事」など、全校生徒を対象にした場面への導入 である。「かかわりあい活動」との「ボランティア」の包括的な定義からすれば、「生徒会」や
「クラブ」のみでの実施では不充分といえる。なぜなら、それでは一部の生徒しか「かかわり あい」の楽しさと意義を兄いだせないからである。一般に拘束的であると思われがちな教科指 導なども、その改良の工夫の中で「ボランティア教育」の導入を図ることが課題である。
2−(1ト③ 学習の形態をめぐる観点から
学校がかかわることで「ボランティア」の本来の性格である「自主性」を損ねてしまう、と
【図(1)③−A】実施している学習形態(教員)
【図(1)③一B】好ましいと思う学習形態(教員)
園(1)③−B 好ましいと思う学習形態(教員)
0.0% 100.0% 200.0% 300.0% 400.0%
□その他[
表調査研究 口招待交流 巳募金収集 四施設活動 日行事参加
■地域活動 田訪問 ̄交流
する見解への第三の疑問は、その見解の根底にあると患われる、学校の授業=座学中心の受け 身的な教育、と決めっけている、旧来的な発想にある。確かに「ボランティア教育」をそうし た旧来的な手法で行ったのであれば、そうである。だが、「ボランティア教育」は、生徒の体 験学習の占める部分が多いだけに、旧来的手法は自ずと通用しない。地域で調査を行ったり地 域の人々と交わるなど、様々な形態で行う必要に迫られる。
そこで、現在の学習形態と今後、好ましいと思う学習形態とを調査した。それが次の図であ
る。
本結果から現在は、中・高ともに「訪問交流」「地域活動」「募金収集」が中心であることが 分かる。好ましいと思う形態もこの点では同様だが「招待交流」と「調査研究」の選択率は増 えている。また、複数回答率も実態の35%に比べ、63%と増えている。なお、ここで大切なの は「ボランティア」の性格の一つである「自主性」を引き出すことができるプログラムとする には、多くの形態を用意して生徒の選択を広げることこそが必要である。その意味でも今後の 学習形態についての課題は、特に「招待交流」と「調査研究」の形態の開発にあるといえる。
それは、実践校に見ると、新たなものを付加するよりも、既存の実践同士を組み合わせたり、
内容を深めたりなどの少しの工夫でより、広がりのあるプログラムになる。
2−(1ト④ 実施分野をめぐる視点から
学校教育がかかわることで「ボランティア」本来の性格である「自主性」を損ねる、とする 見解への第四の疑問は、もしそうであるならば本来、主体的に行うべきはずの教科学習も学校 や教師はかかわるべきでない、ということになる。だが教師は、子どもが主体的に教科学習が できるように学習の方法を助言したり、時には励ましたり、褒めたりすることで、子どもの学 習にかかわるのである。また、家庭学習では得られにくい教材や器具を用意・提供し易い点に おいても、生徒の学習に果たす、学校や教師の役割は大きい。さらに元来、「ボランティア」
の概念とかかわりのある分野そのものが今後の時代を生き抜く、実践力となり、教科以上に生 徒の興味・関心に応え得ることができると考えられる。時代の要請する実践力に対応しないな らば、その方がよほど、生徒の主体的学びや知的好奇心に応え得ない学校に陥る危険がある。
よって、分野の設定内容や方法も、その「ボランティア教育」の質を決める重要な要素とな るといえよう。特に、教科のみでは取り扱えないか、網羅しきれない分野であれば、その分野
自体に「ボランティア教育」を学校に導入する意義がある。そこで、
しいと思う分野について尋ねた。それが、次の図である。
【図(1)④−A】実施している分野(教員)
図(1)④−A実施している分野(教員)
0.0% 50.0%100.0150.0 200.0 250.0 300.0
% % % % %
【図(1)④−B】好ましいと思う実施分野(教員)
現在の分野と今後の好ま
m国際交流 器福祉(高齢者)
園(1)④−B好ましいと思う実施分野(教員)
0.0% 100.0% 200.0% 300.0% 400.0%
口その他 錮教育(子ども)
ヨ文化地域 田国際交流 m福祉(高齢者)
車環境リサイクル ロ福祉(障害者)
本結果から、現状も今後の関心も福祉と環境に集中しているといえる。だが「国際交流」や
「教育(子ども)」についても時代の求める分野である。特に「教育(子ども)」の実例には学 年全員で「保育実習」として、近くの幼稚園の園児との遊びや合唱を通じ交流を図っている学 校があった。英国では、「チュ一夕リング」という、プログラムが盛んに行われている。これ は上級生が学校で、下級生の学習の面倒を見るボランティアである。わが国でも、このような 開発を行い、より幅広い分野から子どもが選択できるプログラムの開発が求められる。
2−(5ト⑤ 参加単位の観点から
学校がかかわることで、「ボランティア」の本来の性格である自主性を損ねてしまう、とす る見解への第五の疑問は、参加単位を固定的に捉える必要はない点にある。そこで、現在の参 加単位と今後、望ましいと患う参加単位を尋ねた。それが次の表である。
本結果から、現在においてもまた、将来においても中学、高校ともに有志単位が適切である との現場の捉え方がうかがえるが、高校においてその捉え方が特に顛著である。
2−(6ト⑥ 推進上の課題
全教頭を対象とした自由記述によると、実施有りの学校では「地域との連携」「カリキュラ ム化」の必要性の指摘が多く、実施無しの学校では「時間の確保」の指摘が多かった。だが、
時間については、実践校に見ると、新たなものを付加しようとする捉え方でなく、既存の教科 指導や学校行事、道徳の内容などを「ボランティア教育」という視点から見直し、それらの中 で既に行っている関連事項を再度、系統付けていくことで克服可能である。
【表(1)⑤−A】実施している参加単位(教員)
全 校 有 志 両 方
全 体 23.1 49.5 27.5 中学校 25,0 467 28.3 高 校 16.7 56.7 26.7 盲・ろう・養 100.0 0.0 0.0【表(1)⑤−B】望ましい参加単位(教員)
全 校 有 志 両 方
全 体 32.7中学校 33.8
43,3 24.0 35.4 43.3
高 校 27.8 58.3 13.9 盲・ろう・養 66.7 33.3 0.0
(2)授業・実践方法の実態と課題
3−(2ト① 「ボランティア教育」の目的
「ボランティア教育」の具体的な授業・実践方法を考えるうえで、まず大切なのは、その教 育目的つまり、子どものどのような資質の育成をめざすかに関する明確な目的意識である。勿 論、具体的なレベルでは、各学校の教育目標や地域の実状などを含む、学校を取り巻く状況、
子どもの実態の他、どのような分野の体験活動を取り扱うかなどにより、異なる意識を持っ必 要がある。だが、ボランティアを子どもの育成に生かすことについて、全教員や保護者の理解 を図るには、「ボランティア教育」の大枠について、学校・教師間の共通認識が必要がある。
そこで、そのことについて尋ねた。その結果が次の図である。
【図(2)①】最も育みたい子どもの資質(教員)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
<摘要>ア.手伝いをしたり、奉仕することの意義を分からせること
ィ.個々人のボランティアの対象についての知識と技能を身につけさせること ウ.ボランティアを手段として、他者とかかわりあう楽しさと意義を実感させること 工.その他
本結果から、「ボランティア教育」に関して、多くの教員は必ずしも「ボランティア」その ものを目的としていないことが分かる。「ボランティア」をむしろ、一つの手段・素材に、子 どもの連帯感のある活動を誘発して、他者との「かかわりあい活動」にある意義を実感させ、
そうした「かかわりあい」を日常的に持つことのできる力を育むのに有効な教育活動として、
捉えていることが分かる。すなわち「ボランティア学習」とは、「他者とかかわりあう体験の 中で、その楽しさと意義とを学ぶこと」であると定義できる。そして「教育」とは、「学習者 の意欲を引き出し、支え導くもの」であるとするならば「ボランティア教育」とは、「主体的 に他者とかかわりあう意欲を引き出し、それを支え、導くもの」であると定義できる。多くの 教師がこのように「かかわりあい」とのキーワードを「ボランティア教育」の冒的として捉え ている背景には、「少子化」や「機械化」の進む中で「人とのかかわりあい」を持っことが少 なくなっている社会への現状認識と今後への憂慮が挙げられる。そこで「ボランティア教育」
の具体的な方法の考案は「かかわりあい」の視点を第一目的に出発する必要がある。
2−(2ト② 企画・立案方法
「ボランティア教育」は、体験活動の占める部分が多い元来の性格上、その企画立案方法が 第一に重要な鍵である。それにより、後に続く体験活動の質も自ずと決まると言っても過言で はないからだ。また、子どもの「かかわりあい」の力を身につけることを第一目的にしている のであれば、生徒同士でディスカッションさせるなど、実際の活動者となる生徒相互が「かか わりあい」を持ちながら、プログラムを企画立案することが求められる。
そこで、望ましいと思う企画立案と行っている企画立案法とを尋ねた。それが次の図である。
【図(2)②−A】最も好ましいと恩う企画立案方法(教員)
園(2)④−A 実施している分野(教員)
0.0% 50.0%100.0150.0 200.0 250.0 300.0
% % % % %
本結果から、教員のみによる企画立案は、良くないとの共通認識はあるが、ある程度教師の 企画段階からのかかわりも大切であると捉えていること、生徒同士でディスカッションさせる 習慣とその効果についての認識が低いといえる。だが、まず先に生徒同士でディスカッション させ、それを土台に後で教師がかかわる方法もあり得る。同じ、教師・生徒間の話し合いでも、
それを先に行うか否かで、性質は全く異なるものとなる。生徒同士のディスカションを企画立 案に取り入れた、授業・実践方法の組み立てを考えるのが課題である。
【図(2)②−B】実際に行っている企画立案方法(教員)
図(2)④−B 好ましいと思う実施分野(教員)
冒文化地域 田国際交流 表福祉(高齢者)
■環境リサイクル
100.0% 200.0% 300.0% 400.0%!□
福祉(障害者)2一(2ト③ 事後指導の方法
「ボランティア教育」は、体験活動の占める部分が多いだけに、その活動を成立させるため の事前準備に注意が集まりがちである。また子どもの多くは、体験活動には机上学習よりも元 気に飛びっくだけに大人は往々にして、その姿を見るだけで満足してしまう。だが、それのみ では折角の良い体験も消化・吸収されず、流れ出るのみである。よって、体験活動後のフォロー アップの質をいかに高めることができるかが全体の成否を決める鍵となる。
そこで、その実態と課題を探るため、行っている事後指導法を尋ねた。それが次の図である。
【図(2)③】実践している事後指導の方法(教員)
自二 四一 四
■
□
オ エ ウ イ ア
<摘要>ア.活動に関する生徒間のグループでのディスカッション ィ.個々人に感想やレポートを書かせて提出
ク.学年集会・全校集会などの場面で個人、またはグループで発表 工.学年便りや学級便りで広く知らせる。
オ.みんなの前での表彰
本結果から、次のことがいえる。行っている事後指導の大部分が書き言葉によるものであり 話し言葉ではない。また、それらに共通するのは、体験の再確認やふりかえりが活動者である 生徒同士の直接的な「かかわりあい」の中で行われていない点にある。だが、体験で得たもの
を真に内面に根付かせるためには、体験者同士で互いの異なる体験や感想を再認識しあい、共 有しあうことが大切である。同時に、それでこそ「かかわりあいの力」をつけるという、「ボ ランティア教育」の大きな目的を達成できる。よって、グループでのディスカッションや学級 や学年集会で発表させるなどの面からの事後指導の方法の充実が今後の課題である。
2−(2ト④ 評価の方法
学校における、「ボランティア教育」の評価については、様々な議論が入り乱れている。し かし、その議論の大部分が「評価=教師が行う評価」といったように、限定的な捉え方での単 なる「賛否」にとどまっている。しかるに本来「評価」とは「反省、振り返り、評定、査定」
など、類似の意味を含む、多様性のある言葉なのである。そこで、学校での「ボランティア教 育」についても「だれが・どのように」行う評価は許されるか否かというところまで、踏み込
んだ議論が必要なのである。
そこでまず、今後、好ましいと思う評価方法について尋ねた。それが、次の図である。
【図(2)④−A】好ましいと思う評価方法(教員)
<摘要>ア. 生徒個々人の感想文などによる自己評価 ィ.生徒同士のディスカッションなどによる相互評価 ク.受け入れ施設などによるコメント評価
工.教師による評価 オ.その他
全体結果が示すように、生徒個々人による自己評価をかなり多くの教員が好ましく思ってお り教師による評価を好ましいとしているのは、少数である。
次に、教員による評価を行う場合、どのような手段が好ましいかについて、「好ましいと思 う評価方法」の設問で、「教師による評価」を選んだ教員に尋ねた。それが次の図である。
<摘要>ア.修了書などの交付 ィ.頑張った生徒の表彰 ク.点数評価 工.教師によるコメント評価 オ.その他
全体結果が示すように、コメント評価の支持率が圧倒的に高い。
これらの結果から、教員による評価や点数評価は良くないとする、共通認識はあることが分 かる。だが、特に中学では、それが幅広い評価法への動きには至っておらず、自己評価のみに
片寄っている。ただし、自己評価のみでは、客観性が欠けることと、体験の振り返りが個々人 内においてのみ完結してしまうことの不充分さを指摘できる。他者との協調性を重視する「ボ ランティア教育」の昌的からすれば、活動者である、生徒相互間の話し言葉での直接的なかか わりあいによる「振り返り」と「体験の再共有」が必要である。そうした取り組みの研究・開 発が今後の課題である。
2−(2ト⑤ 入試における評価
入試おける評価の論議が高まる契機となったのは、1992年の生涯学習審議会答申「今後の社 会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」6)である。答申は、ボランティア活動の経 験や成果を資格要件として評価したり、入学試験や官公庁・企業等の採用時における評価の観 点の一つとすることを提言している。
だが、未だに「ボランティア」の入試での評価には多くの戸惑いが見られる。そこで現場の 担当教員に賛否とともに自由記述で、その理由も尋ねた。それが次の図である。
【図(2)⑤】入試の評価材料の一つとすることについて(教員)
全体結果をみると、教員の意識でも賛否が二分されている。だが、覇者な特徴は、中学では、
反対が賛成のほぼ、倍であるのに対し、高校では、賛成が反対の2.6倍に達する点である。高 校入試では否定的に、大学入試では肯定的に捉える教員の多いことがうかがえる。反対の理由 では、打算的な目的意識への危惧が多く、賛成の理由では、体験で得た特定分野の知識が進路
や職業選択に生かされる、とするものが多かった。
例えば、看護や福祉系コースを持っ高校・大学では、「ボランティア」に既に関心を持ち、
実践している子どもの意欲に応え、将来のスペシャリストを発掘できる入試を行うことが必然 的に求められる。これらのことから、入試での評価についても授業での評価と同様、賛否を一 律に決めようとするのではなく、各学校の教育内容の特色や中・高の違いなども考慮に入れ、
多面的な角度から見る必要がある。
3−(2ト⑥ 指導方法における、他教科との関連
学校の教科指導の質を高めるため、「ボランティア教育」のアプローチや指導法の良さを生 かすことが役立っと考えられる。それについて、教員の意識を調査した。それが次の図である。
【図(2)⑥】他教科の指導に最も役立てたい方法(教員)
<摘要>ア.生徒相互のディスカッションを取り入れる。
ィ.新聞や地域の広報紙など、幅のある教材使用に心がける。
ウ.生徒自身の体験活動を取り入れる。
工.その他
全体結果を見ると、教材使用の工夫の必要性を感じている教員の多いことが分かる。中・高 別では、中学において、高校に比べ体験活動の必要性を感じている教員の多いのが特徴である。
2−(2ト⑦ 実践、指導方法についての課題意識
実践、指導方法における課題についての担当教員の意識を調査した。それが次の図である。
<摘要>ア.生徒の関心や興味をっかむこと ィ.生徒の疑問に答えていく点 り.教育活動のプランニングに関する点 工.地域との連携を図る点 オ.保護者の理解を図る点 カ.教員全体の理解を図る点 キ.その他
全体結果を見ると、生徒の関心や興味をつかむことと教育活動のプランニングに関して課題 意識をもっている教員の多い。中・高別では、中学では、プランニングに関するものが高校に 比べて多く、高校では、教員全体の理解を図る点が中学に比べて多い点が特徴である。
【図(2)⑦】指導方法についての課題意識(教員)
(2)盲・ろう・養護学校の生徒が行う「ボランティア教育」
「ボランティア教育」の柱の「かかわりあいの力」を自ら育むことは、障害のある生徒にとっ て、非常に大切な要素である。また、受け身的にかかわってもらうのみでなく、能動的に他者 や周りの世界とかかわりあうことは、自己への自信と他者受容に役立っと考えられる。
そこで、盲・ろう・養護学校の「ボランティア教育」の実態と課題について県内の対象校よ り得られた調査結果を基に考察する。なお、それは県内にある、計9校の対象校の内、回答の あった4校(教頭:4、担当教員:3)の調査結果の自由記述内容に基づくものとする。
2一(2ト① 学校導入への賛否(教頭、教員)
教頭、教員ともに回答のあった全てが導入に賛成している。その理由の自由記述では「互助 の精神、人権感覚の育成になる」「社会性の育成をめざす、交流教育に役立っ」などといった、
「ボランティア」の元来の性格である「かかわりあい」を評価する意見が全てであった。
2−(3ト② 現状における実施の有無
回答のあった、4校の内、3校で実施している。実施無しの理由では「今後もさらに前進さ せるべき課題と考えているが、児童・生徒の障害の重度化の進行で困難な面がある。」として いる。
2一(3ト③ 実践している内容・方法
回答のあった、ある盲学校には、二つの実践がある。一つは、夏休み中に希望を募り、年1 回視覚障害者の老人ホームで治療活動を行うものである。自由記述で、これに関して「同じ状 況を持っ高齢者を治療することで双方の喜びとなっている」とある。あと一つの実践は、それ 以外の数カ所の老人ホームで学校行事として年1回、保健理療科と専攻料理療科2・3年生で 治療活動を行っている。他の養護学校と高等養護学校では、いずれも「生徒会」の行事で通学 路を清掃している。
2−(3ト④ 指導方法についての課題意識(教頭、教員)
教頭の自由記述には、「受け入れ機関との連携」「校務分掌に明確に位置付けること」「ポラ
ンティアの真の意義を教師が正しく認識すること」の必要性に関する指摘があった。また、教 員の自由記述には「交通費や食費などの実費は、受給者側が支給すると良い」「教育活動の中
に組み込み、全員に機会を持たせることで、協調性を養いたい」とした意見・提言があった。
3.おわりに
本調査から、以下のことが明白となった。
①多くの教員が「ボランティア教育」の意義を「ボランティア」の持っ要素の中でも、特に「人 と人とのかかわりあい」に兄いだし、学校教育の果たすべき役割と関連づけていること
②プログラムの設定内容の実態からみると、「招待交流」と「調査研究」の実態、「教育(子ども)」
の分野、全生徒が体験可能な場面での実施が充分でなく、これらの条件を整え、多様性のある
「活動メニュー」を用意することで学校でも、より自主性を引き出しながら「ボランティア教 育」を行えること
このことに関連し、米国における、ある裁判の判決は注目に値する。わが国の「ボランティ ア教育」にあたる、「コミュニティー・サービス」が地元の公立高校の卒業要件に決まったこ とに対し、女子高生が「奴隷及び本人の意に反する労役」を禁じた修正憲法第13条1節に反す る、として訴えた。連邦控訴裁判所は、1992年、合憲の判断を下し、訴えを退けたが、同時に その中で「活動メニュー」を数多く用意することの重要性を指摘している。7)
③授業・実践方法の具体的レベルからみると、子ども同士の「かかわりあい作用」を生かした事 前・事後指導の工夫が今後の課題であること
④盲・ろう・養護学校では、「交流教育」などの場面で子どもの持っ力を生かすことを重視する 方向で実践されており、重度化・重複化にも対応しうる方法の開発が課題であること
最後になりましたが、本研究にご指導・ご協力賜りました奈良県内の各学校の先生方に厚く感 謝の意を表します。
*本稿は、八尾坂修の指導助言のもと石岡隆が執筆したものである。
引用文献・注
1)斉藤功男『ボランティア活動に関する調査報告書』、青森県総合社会教育センター1995 2)高橋哲夫『青少年ゐボランティア活動の振興に関する研究』、東京都立教育研究所1996、
3月
3)JYVA「ボランティア学習ガイドブック」編集委員全 編『ボランティア学習ガイドブック・
地球人になろう』、日本青年奉仕協会(JYVA)、1993、P.22 4)前掲調査報告書、P.4
5)上杉賢士・田中雅文 編著 『小学生にボランティア・スピリットを育てる』、明治図書、
1997、P.15
6)生涯学習審議会答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」、1994、
7月
7)堀田 力『ボランティア活動評価・表彰研究会 中間報告書』、さわやか福祉財団、1994、
3月、P.32