東ドイツにおける管理の科学の生成
その他のタイトル Entwicklung der Leitungswissenschaftlichen Forschung in der DDR
著者 大橋 昭一
雑誌名 關西大學商學論集
巻 22
号 2
ページ 83‑103
発行年 1977‑06‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021013
3 ) 1
東ドイツにおける管理の科学の生成
大 橋 昭
I
は じ め に今日
DDR(
ドイツ民主共和国,東ドイツ)の経済と経営はいろいろな意味 で注目をあびている。現在DDR
経済の最も規定的な要因となっているもの は,1 9 7 0
年代になって強力に推進されている経済の内包化( I n t e n s i v i e r u n g ) ,
(!)
内包的拡大再生産
( i n t e n s i ve r w e i t e r t e R e p r o d u k t i o n )
である。経済の 内包化により,DDR
では,社会的計画化( S o z i a l p l a n u n g )
をはじめ種々 注目される事実が生まれているが, その1
つにいわゆる近代的な管理の科 学,管理研究の生成,発展がある。経済内包化への移行は,すでに
1 9 6 3
年のSED
(ドイツ社会主義統一党)の第
6
回党大会において打ち出されていたが,これが第1
の政治的課題とし て取り上げられたのは,1 9 7 1
年のSED
第8
回党大会においてであって,経 済内包化の重要な手段としてW A O
(科学的労働組織)の全面的な導入・適(1) DDR
における経済の内包化の過程については,拙稿「東ドイツにおける経済の内包的発展について」関西大学商学論集第2
1
巻第4 号昭和 5 1
年10
月参照。2 ( 8 4 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)用が強調された。
WAO
は昨年1 9 7 6
年の第9
回党大会までに一応定着をみた ようで,今や重点は内包化の全面的推進に置かれるようになった。内包化の 一部としてのWAO
から,全面的な内包化への移行である。経済内包化は要するに経済の効率化であり,その中心的柱の
1
つとなって いるのが,管理( L e i t u n g )
の効率化・科学化である。WAO
がいわゆる作業 階層での効率化を主たる対象にするというならば,今や重点はいわゆる管理 階層の効率化に移ったといえる。昨年のSED
第9
回党大会で経済発展の成 功が大きく歌い上げられたが,その基礎となったのはWAO
を中心とする内 包化であったと思われる。今後は管理の効率化・科学化を中心とするいわゆ る高度社会の実現,第 9回党大会での規定によれば共産主義社会への漸次的 移行に,DDR
は邁進しようとしている。このような社会経済的基盤の進展に対応して,
DDR
では1 9 7 0
年代に入っ て管理の科学の育成が強力に推進され,その本質,性格,休系,課題などに ついていくたの議論が展開されている。管理の科学は確かにDDR
では現在 依然として生成の過程にあって,名称すらも1
つのものに完全に統一されて いるとはいいがたいが,しかし最近になって名称や性格などについて1
つの 統一的見解が形成されつつあるように思われる。本稿はこのようなDDR
に おける管理の科学の生成•発展の跡を追及し,本来の管理の科学としての「経済管理科学」の形成される過程を明らかにしようとするものである。
r r
「社会主義的経済指導の理論」の生成社会主義において管理についての研究が最初に生成したのは,やはりソヴ ェトにおいてであった。ソヴェトにおける管理研究の発展にとって大きなき っかけとなったものは,
1 9 6 6
年と1 9 7 2
年の2
回にわたって開催された「社会 主義工業管理の科学的組織の諸問題」を議題とする「全ソヴェト科学技術会 議」である。これには学者,研究者をはじめ企業や政府の関係者など約1 , 0 0 0
名の者が参加して,経済学,法学,社会学,心理学,経済数学,科学技術,東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋) (
8 5 ) 3
計算機導入などの諸側面から管理問題を多角的に検討し,管理の改善の理論(2)
的,実践的諸方向を関係各方面に対する勧告として採択したといわれる。
DDR
においても,ソヴェトにおけると同様,1 9 6 0
年代中葉以後管理の充 実,改善,発展についての関心,議論が,SED
の中央委員会附属「社会主 義的経済指導中央研究所」( Z e n t r a l i n s t i t u tf i l r s o z i a l i s t i s c h e W i r t s c h a f ‑ t s f i l h r u n g beim Zk der SED)
を中心に高まり,「社会主義的経済指導の理 論」( L e h r evon d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t s f i l h r u n g )
という名称のもとに,まず管理の科学の形成が試みられた。
「社会主義的経済指導の理論」は,当時刊行された代表的文献,
G . F r i e d ‑ r i c h • H . K o z i o l e k , E i n f i l h r u n g i n d i e Lehre von d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t s f i l h r u n g , ・ B e r l i n 1 9 6 7
によると,「国民経済,社会主義的経済(3)
諸単位およびその他の経済諸管理機関の管理の合目的々な仕方と様式」を研 究対象とし,いわゆる狭い意味での管理を越え,管理以外に計画化
( P l a n u n g )
と刺激化
( S t i m u l i e r u n g )
をも対象とするものであった。では管理とは何か。経済指導といかなる関連にたつのか。これらの概念に ついて,「社会主義的経済指導中央研究所」所員であるライスィンク
( R . L e i B i n g )
•リントナー (E.L i n d n e r )
は, 「経済指導とはすなわち管理,計 画化および刺激化であり,単に狭義での管理のみならず,それを越えて社会(4)
主義経済の全メカニズムを形成することである」と規定している。
これからみると管理には広狭の
2
義があり,狭義では管理は,計画化と刺 激化から一応区別される, それと並ぶ1
つの領域をさすが,広義では管理 は,計画化や刺激化の上位概念であって,計画化と刺激化および狭義での管(2)
稲村毅「ソヴェト管理科学の動向」大阪市立大学経営研究第2 6
巻第1 号昭和 5 0
年 5
月34
頁。( 3 ) G . F r i e d r i c h u . H . K o z i o l e k , E i n f i i h r u n g ・ i n d i e L e h r e v o n d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t s f i i h r u n g , B e r l i n 1 9 6 7 , S . 2 7 .
(4) R . L e i B i n g u . E . L i n d n e r , L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t u n d V e r v o l l k o m m u n g
v o n L e i t u n g , P l a n u n g u n d S t i m u l i e r u n g , W i r t s c h a f t s w i s s e n s c h a f t , 2 3 .
J g . H e f t 3 , M a r z 1 9 7 5 , S . 3 2 2 .
<
l
( 8 6 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)理を包括するものと理解することができる。従って管理の科学には,管理の 規定いかんにより,一応次の 3つの成立可能性があるものといえる。
(1) 管理を広義に理解して,すなわち計画化と刺激化をも含めたものと理 解して,それを管理の科学の対象とするもの。
(2) 管理概念そのものはこれを狭く規定し,計画化および刺激化とは別の 概念とするが,管理の科学の対象としてはこれら
3
者を取り上げるも の。(3) 管理概念を同じく狭く規定し,計画化および刺激化とは別個の領域と するとともに,管理の科学の対象としてもこの狭義の管理のみを取り 上げるもの。後述の
F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , L e i t u n g d e r S o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t , B e r l i n 1 9 7 6
はこの立場に立つ。経済指導という概念は,既述のごとくライスィンク・リントナーによる と,広義での管理に相当する。従って「社会主義的経済指導の理論」は狭義 の管理のみならず計画化と刺激化をも対象とするが,学問名称としてはとも かく,このように管理を広く解釈し,それに計画化をも含めるものに,
D D R
では前記のフリードリヒ・コチオレクの書以外に,たとえばWeidauer • W e t z e l , S o z i a l i s t i s c h e L e i t u n g im B e t r i e b und Kombinat, 2 . A u f l , B e r l i n 1 9 7 4
があり,SED
中央委員会附属「社会主義的経済指導中央研究 所」や,後述のDDR
科学アカデミー「経済における管理の諸問題のための 科学会議」などもこの立場に立っている。しかしこうしたいわゆる「経済指 導の理論」の立場に立って広く管理を取り上げるものにおいても,最近,本 来の管理の科学と,ともかく管理に関連する科学とを分離しようとする見解 が現われている。ここではその一例としてライスィンク・リントナーの主張(5)
にふれておきたい。
かれらによると「経済指導の理論」が
DDR
において1 9 6 0
年代中葉以後に 生成して以来,この学問の根本的な問題意識となってきたのは,次の2
点で あった。(5)
R.L e i 1 3 i n g u . E . L i n d n e r , a . a . o . S . 3 2 1 f f .
第
1
は,発達した社会主義の建設という条件の下では,経済管理システム の理論的基礎づけとその科学的形成が不可欠であること。第
2
は,すでにさまざまな経済科学的学問が経済管理の特定側面を研究し てきたが,しかし社会主義的経済指導のまさに要請するものは,社会主義再 生産過程の管理を全体において取り上げることである。そしてこの
2
つの課題は今日においても依然として妥当するから,管理の 科学は,一方において管理過程の理論的究明を深めるとともに,他方におい て他の学問との学際的な協カ・統合を強める必要がある。そこでかれらは管 理の科学を2
つの部分に分けて考えようとする。第1
は「経済管理科学」( W i s s e n s c h a f t v o n d e r L e i t u n g d e r W i r t s c h a f t )
である。それは経済科 学の一部をなすものであり,その課題は管理,計画化,剌激化をその全体に おいて究明し,管理システム形成の諸解決案を探究するところにある。この 科学は,人間の実践的行為を社会主義の経済法則の意識的利用にそって導く ために,経済のすべての領域や階層,管理のさまざまな方法,用具,形態の 均衡ある調和的実施を目ざすものであるから,社会主義的経済活動の合法則 性,諸関連,諸関係の総体をば,それが管理システムと管理活動においてい かに働くかについて究明する。もちろんこうした管理の諸問題は,既存の諸経済科学的学問において取り 上げられてきた。かれらによると,しかしその取り上げ方は部分的,一面的 であって,全面的,全体的ではなかった。今やこれを全体的に取り上げ,管 理・計画化・剌激化というシス`テムの内的統一性,内的論理を把握すること が必要であって,ここにこの科学の独自性が存するという。従ってこの科学 は,他の経済科学的学問とは次の
2
点において区別される。第1
は,この科 学が経済的諸範疇を管理過程におけるその総合的作用という観点において取 り上げることであり,第 2は,この科学が社会経済的諸関係や他の諸関係を 対象とするとしても,しかし管理およぴ管理対象を特徴づける諸関係を取り 上げることである。しかしながら,かれらによると管理はきわめて複雑な社会的現象であっ
6 ( 8 8 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)て,経済科学的側面以外に,他の社会科学的側面および自然科学的側面を包 含するものであり,管理機能の遂行すなわち管理活動の実践は,人間の心理 や行動様式を考慮することなしにはこれをなすことができない。それ故今日 では技術科学,サイバネチックス,システム理論,その他の科学の一定の認 識を利用することなしには,管理活動はなすことができないから,管理活動 については種々な科学の成果の統合を必要とし,諸科学との弁証法的交互関 係において把握する必要がある。このような管理者の管理実践の角度からあ らゆる科学の総合を図るものをかれらは「社会主義的管理科学」
( S o z i a l i ‑ s t i s c h e L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t )
と呼ぶ。以上のようなライスィンク・リントナーの主張は,対象とするところが広 義の管理であるとし,管理・計画化・刺激化を含むとする点では旧来の「経 済指導の理論」を引き継ぐものであるが,管理の科学を「経済管理科学」と
「管理科学」に 2分し, 本来の管理科学を経済科学としての「経済管理科 学」として純化しようとする点では,最近における
DDR
の管理の科学の発 展方向を示すものである。しかしそれについて述べる前に,DDR
科学アカデミーにおける管理の科学についての取り組みにふれておく必要がある。
m
「 管 理 の 諸 問 題 に つ い て の 科 学 会 議 」 の 動 向DDR における管理の科学の形成•発展の上で大きな推進機関となってい るのは,
1 9 7 2
年4 月 1 3
日に閣僚会議の決議により,DDR
科学アカデミーの1
機関として設けられた「経済における管理の諸問題のための科学会議」( D a s w i s s e n s c h a f t l i c h e R a t f l i r Fragen d e r L e i t u n g i n d e r W i r t s c h a f t )
である。この会議は最初「経済における管理科学( L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t )
の諸問題のための科学会議」どいう名称で設置されたが,その後単に管理の 諸問題と改称された。そこには「管理科学」という名称をめぐってDDR
に おいて起きた論争が反映しているものと思われる。もともとこの「管理の諸問題のための科学会議」は,管理に関連する諸研
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)
究機関の活動を調整し,管理の科学の課題や成果について広範なる科学者と 協議を行い,今後の研究活動の指針の策定を目的として設置されたものであ るが,議長フリードリヒ
( G . Friedrich)
のもとに3 6
名の構成員から成り,(6)
次の6つの分科会をもって発足した。
( I )
社会主義的経済指導の根本的諸問題。(2) コンビナートおよび経営の管理と計画化。
(3) 社会主義的経済指導の用具としての経済法。
(4) 経済組織および管理組織。
(5) 管理者とグループ。社会的過程の管理と計画化。
( 6 }
情報処理,数学・経済学的モデル構築および管理技術の諸方法。これにより,この科学会議が取り上げようとした問題,従って当時の
D D R
のこの領域における重点的な問題は,大休察知することができる。さらに1 9 7 2
年4
月1 3
日の設立総会を兼ねた第1
回会議において議長フリードリヒが(7)
述べたところによると,この会議の活動の基礎をなすのは,
SED
中央委員 会政治局とDDR
閣僚会議の決議であり,その決議の内容は次の5
点に集約 されうるのであって,これが少なくとも1 9 7 2
年当時におけるDDR
の管理研 究上の最重点的事項とみることができる。(1) 社会主義的経済指導の発展傾向の科学的基礎,勤労者の管理参加に関 する効果的諸形態の発展の科学的基礎,および勤労者の動員と創意の 刺激の科学的基礎の形成。
(2) 勤労者の能力向上およぴ管理対象の質的量的変化という条件のもとに おける個性の発展と管理者の活動スタイルに対する諸要請の科学的基 礎の形成。
(6) E . B a l t r u s c h , K o n s t i t u i e r u n g d e s W i s s e n s c h a f t l i c h e n R a t e s f i i r Fragen d e r L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t i n d e r W i r t s c h a f t ・ ( s o z i a l i s t i s c h e W i r t s c h a f t s ‑ f i i h r u n g ) , W i r t s c h a f t s w i s s e n s c h a f t , 2 0 . J g . H e f t 7 , J u l i 1 9 7 2 , S . 1 0 6 7
ff;3 6
名中9
名は実務家,1 8
名は党や政府などの設置した再教育機関の研究者 である。他は大学教授と推定される。(7) E . B a l t r u s c h , a . a .
0.,ss.1 0 7 0 ‑ 1 0 7 1 .
による。8 ( 9 0 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)(3) コンビナートと経営の管理と計画化の完成化を,とくに生産の集中,
専門化,協同化および結合化の過程を考慮して一層推し進めるための 科学的基礎の形成。
(4) 社会主義的コンビナートとコンビナート所属経営における経営組織と りわけ管理組織の合理性と効率性を,電子的情報処理
(EDV)
を適 用して向上させる諸方法の探究。(5) 経営とコンビナートにおける社会的過程の管理と計画化に関する科学 的基礎の形成。
この科学会議のこれまでの活動状況をバルトルッシュ
( E . BaJtrusch)
が(8)
昨年報告しているところによると,科学会議は前記の
SED
中央委員会政治 局とDDR
閣僚会議の決議5
項目に従って活動を進めてきているが,DDR
における今後の管理を規定する要因は一般的には,第1
に科学技術革命,科 学技術進歩の進展, 第 2に経済内包化の進展に伴う生産力や生産関係の発 展,第3
に社会主義的経済統合の一層の緊密化による国際的規模での分業の 発展,もしくは生産や生産物の国際化の進展であって,これに照応して管理 と計画化について分析的活動を一層充実強化し,経営計画や内包化方針その 他の面において長期的展望にたつ必要が力説されている。この科学会議の活動において,経済諸組織とりわけコンビナートと経営の 管理と計画化の一層の完全化のために当面する最も重要な問題としてとくに 注目されているのは,
EDV
(電子的情報処理)の実用化の問題である。E D V
の実用化の問題に関連して指摘されているのは,まず第一に数学的モデ ル構築の水準の向上,第 2に管理的決定の基礎についての理論的究明,いわ ゆる意思決定過程究明の重要性であり,そしてシステム分析,システム研究 の必要性である。バルトルッシュはこの点に関して,1 9 7 6
年から1 9 8 0
年の5
か年計画の時期およぴ今後におけるこの科学会議の活動として結論的に明ら(8) E
、B a l t r u s c h , Aus d e r A r b e i t d e s W i s s e n s c h a f t l i c h e s R a t e s f i l r F r a g e n
d e r L e i t u n g i n d e r W i r t s c h a f t , W i r t s c h a f t s w i s s e n s c h a f t , 2 4 . J g . H e f t
7 , J u l i 1 9 7 6 , S . 1 0 7 5 f f
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋) (
9 1 ) 9
かになったことは,「社会主義的コンビナートおよび経営における合理性と(9)
効率性向上の方法は,
EDV
の適用である」と述べ,DDR
が今日EDV
の 全面的導入の段階にあり,全面的適用に関して起こる管理の理論的,実際的 諸問題に重点的研究のなされるべきことを示唆している。ところでこの科学会議は,前述のごとく,「管理の諸問題のための科学会 議」と称しているが,その対象とするところはその構成分科会より明らかな ようにきわめて広く,管理といっても計画化と刺激化を含むいわゆる広義の 管理,経済指導全般に関連するが,管理の科学の学問的位置づけに関連し て,バルトルッシュが研究の発展上今日とくに留意すべき点として次の 3点
(10)
をあげていることが注目される。第
1
は,経済科学的研究の領域での協同研 究の一層の深化。第2
は,他の学問分野との学際的協力活動の拡大。第3
は,研究成果の実践への導入,適用の迅速化である。これによると,この科学会議の活動,従って科学会議の推進する管理の科 学がやはり経済科学的研究を中心とすること,それと経済科学以外の分野と の協力が学際的協力として区別されていることが注目される。しかも科学会 議は「社会科学的研究の枠内においてとくに国民経済および社会発展の社会 過程の管理と計画化の根本問題についての一層なる究明に活動を集中するも
(11)
の」であって,これが今日における
DDR
の管理の研究の一般的方向とみる ことができる。w
「 経 済 管 理 科 学 」 の 生 誕以上のように
DDR
における管理研究の現在の一般的方向は,管理実践上 必要とされるあらゆる知識を学際的に総合する分野と,管理そのものの理論 的基礎を相対的独自に究明する分野に一応区分し,後者を本来の管理の科学 として純化発展させようとするところにある。こうした見解は,いうまでも(9) E . B a l t r u s c h , a . a . 0, S . 1 0 7 9 .
( 1 0 ) E . B a l t r u s c h , a . a . 0, S . 1 0 8 2 .
( 1 1 ) E . B a l t r u s c h , a . a : 0, S . 1 0 8 2 .
1 0 ( 9 2 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)なく,すでにソヴェトにおいてボポフらによって主張されてきたものであっ て,
DDR
独自のものではないし,とくに目新しいものでもないが,DDR
においては後者の本来の管理の科学を本格的に取り上げた文献が,昨年後半 において初めて公刊せられるにいたった。F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , L e i t u n g d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t
がそれである。フリードリヒらによると,もともと管理活動は複合的な総合的領域であ り,さまざまな科学の対象となるものであるから,管理活動にあたっては種 種なる学問の知識・能力を必要とする。こうした学問領域をかれらは「社会 主義経済の管理の科学的基礎」
( w i s s e n s c h a f t l i c h eGrundlagen d e r L e i t u n g d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t )
と称し,それらを次のように分類して提示喜 :
(1) マルクス・レーニン主義
(i)
弁証法的唯物論および史的唯物論( i i )
科学的共産主義( i i i )
社会主義政治経済学 (2) 他の経済科学的領域(i)
部門経済学および経営経済学( i i )
国民経済計画化の理論( i i i )
計算およぴ統計 (3) 非経済科学的領域(i)
法律学( i i )
社会学,心理学,教育学 (4) 非社会科学的領域数学,サイパネチックス,自動的情報処理
これらの学問領域は管理活動の実践にとって不可欠のものではあるが,し かし管理活動の特定局面もしくは特定側面あるいは特定分野のみを対象とす
( 1 2 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , L e i t u n g d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t ‑
s c h a f t , B e r l i n 1 9 7 6 , S S . 5 2 ‑ 5 8 .
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)
るか,人間活動についてのごく一般的な理論的基礎を究明するのであって,
(13)
管理そのものを,すなわち「社会経済的生活の相対的に独自な複合的現象」
としての管理そのものを独自に取り上げるものではない。しかし社会主義に おいて
1 9 6 0
年代後半以後において管理の科学的研究を進展させるべきとして 要請せられたものは,直接的には,旧来の学問領域においてそれぞれ特有の 角度から部分的になされる管理についての研究を深化させることではなく て,何よりもまず,相対的に独自な現象としての管理そのものを独自に取り 上げ, 1日来の諸学問分野における管理に関する研究を総合化し休系化する場 合の拠点となりうる科学を形成することであった。フリードリヒらはこの学 問を,これまでの学問名称たとえば「経済指導の理論」あるいは「管理科 学」と明確に区別するため,「社会主義経済管理科学」( D i e Wissenschaft von der Leitung der s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t )
と名づけるのである。管理についての独自の科学であるこの「経済管理科学」は,フリードリヒ らによると,「社会主義における管理システム
(Leitungssystem)
の形成と 発展,管理諸関係の形成と合法則性を究明するものであり,そのために必要(14)
な方法,処理手続および用具の展開と一般化に努めるものである」。ここで 管理システムとは管理主体,管理対象,管理方法,管理課題の遂行に関連し た情報システム,管理技術および管理用具を包括した概念であり,合法則性 とは経済法則や他の社会発展の法則を管理諸関係に関し具体化したものであ る。
「管理の科学的基礎」一般とは区別される,管理そのものについての独自 の科学としての「経済管理科学」の樹立のためには,まず「相対的独自の領 域としての管理」の概念を確立する必要がある。そこでかれらは計画化や刺 激化から区別された厳密な意味での管理概念を設定しようとする。まずかれ らは管理を一般的に規定する。管理は,一般的には,人間の協同的行為の確
(15)
保を目指すものであり,社会的労働過程の本質から生じるが,しかしその性
( 1 3 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . 0, S . 5 8 .
( 1 4 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . 0, S . 6 7 .
( 1 5 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . O, S . 2 1 .
1 2 ( 9 4 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)格,形態,方法はそれぞれの支配的な生産関係によって決定される。社会主 義的経済管理の本質的特徴は,第
1
にそれが,労働者階級の党により指導さ れる社会主義社会の科学的管理の不可欠な一構成要素であることである。第2
には,社会主義的経済管理は計画的全休経済的性格をもつことである。第(16)
3には,経済管理への動労者の参加である。
こうした管理の過程は,フリードリヒらによると,相対的に独自な,サイ
(17)
クル的な関係にある 5つの過程から成る。すなわち,
(1) それぞれの責任領域における問題また課題の認識の過程。
(2) 設定された課題の解決案の決定という意味での決定を行う準備の過 程。
(3) 決定の段階。すなわち,所与の条件のもとで課題の解決に最適な解決 案の選択と確定の過程。
(4) なされた決定の実現の組織化の過程。
(5)結果のコントロールと,課題の解決過程で得られた経験の評価の過程。
このうち決定の準備(2)と決定そのもの(3)とは理論的にも実際的にも直接的 に相関連するので,結局管理過程は次の
4
つの過程から構成されることにな る。(次頁の図参照。)(1) 問題もしくは課題の認識過程 (2) 決定過程
(3) 実現過程 (4) 評価過程
以上は現実における問題の発生が管理機関に情報として認識された以後の プロセスであるが,現実における問題の発生と,それが管理機関に情報とし て認識される時点との間に,若干の時間的間隔のあることが多い。この時間 を未認識時間
( T o t z e i t )
という。この時間は,現実には変化が起こっている にもかかわらず,管理活動のなされていない時間で,これをできる限り小に( 1 6 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . o . S . 2 9 .
( 1 7 ) Friedrich• Richter• Stein• W i t t i c h , a . a . O, S S . 1 2 3 ‑ 1 3 3 .
管理過程の諸段隋
実 現 過 程 評価過程
◄<
決 定 過 程
実 際 の 反 応 時 問 可 能 な 反 応 時 間
活 動 時 間
(注) Friedrich•
Richter• Stein• W i t t i c h , a . a . O . , s . 1 2 8 .
することが,管理の課題の
1
つとなる。管理をどのように規定するかについて,ソヴェトを含めて社会主義ではい まだ統一的見解が形成されていないように思われる。管理と計画化や刺激化 との関連についてはすでに一言したとおりであるが,それ以外においても,
たとえば
1 9 7 4
年刊行されたDDR
科学アカデミー編の論文集O r g a n i s a t i o n i n Leitung und Verwaltung"においてノイマン ( J .Neumann)・ヘヒト ( E . Hecht)
は,管理機能の遂行にはいくつかの異なった過程を必要とする として,それを計画化(Planung), 組 織 ( O r g a n i s a t i o n ) ,
つ`ノトロール(18)
( K o n t r o l l e )
およぴ集団指導(Leitungvon K o l l e k t i v e n )
に分けている。この場合,最後の集団指導は前 3者と性質を異にするものであり,集団指導 においても計画化,組織,コントロールというプロセスが考えられる。
D D R
の一般向きの辞典MyersLexikonでは,管理とは目標設定( Z i e l s e t z u n g ) ,
(19)
組 織 調 整
(Koordinierung)
およぴコントロールとしており,いわゆる資 本主義的管理論による管理概念とほとんど同一の規定となっている。( 1 8 ) J . Neumann u . E . H e c h t , P r a k t i s c h e P r o b l e m e und Wege b e i d e r O r g a n i s a t i o n von P r o z e s s e n i n L e i t u n g und V e r w a l t u n g von B e t r i e b e n und K o m b i n a t e n , ' O r g a n i s a t i o n i n L e i t u n g und V e r w a l t u n g h e r a u s g e g e b e n von Akademie f i i r S t a a t s ‑ u n d R e c h t s w i s s e n s c h a f t d e r DDR, B e r l i n ' ! 9 7 4 , s s . 4 6 ‑ 4 7 .
( 1 9 ) Meyers L e x i k o n , L e i p z i g 1 9 7 4 , S . 5 4 9 .
1 4 ( 9 6 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)これらの管理概念と対比してみると,フリードリヒらの管理概念は,まず 第
1
に,管理を計画化や刺激化から区別されたものとして厳密に規定しよう とするものであり,他方においてそれは,資本主義的経営学では一般に意思 決定過程と管理過程といわれるものの両者を含んでいるものとみることがで きる。もちろん問題の認識は,とくに社会主義の場合,計画化を絶対的な前 提とするので, マネジメント・サイクル的にみれば,問題の認識過程と決定 過程は計画過程に相当するとみることができよう。しかしフリードリヒらの 主張はそれを計画化とはしないで,問題の認識と決定の過程として把握し,意思決定過程の分析を試みんとするところにある。そしてそれは,硯在
DDR
において意思決定過程の分析が当面する研究の重点的領域の1
つとなってい ることに,まさに対応するのである。なお,フリードリヒらは管理を本質的には法則の意識的利用
(bewuBte Ausnutzung o b j e k t i v e r Gesetze)であるとし,管理の科学の課題を法則そ
のものではなくて,「社会主義経済の管理の合法則性( G e s e t z m i i . B i g k e i t e n )
」(20)
の探究にありとするが,この点においても管理それ自体に法則が内在すると いうボポフの見解と,主張のニュアンスを異にする。ボボフによれば管理の 理論
(Theorieder Leitung)
は「管理そのものに,他の既存の科学の対象 にならない法則の内在することが指摘されうる場合にのみ」存在の妥当性を 有するのであり,そして「社会主義的生産の管理のかかる法則は存在するの(21)
である」。
管理にかかる独自の法則が存在するかどうかについてここで即断する余裕 をもたないが, ただフリードリヒらが合法則性として、ノヴェトのシゴフ
( I . Sigow)
に依拠してあげているのが,「管理形態と所有形態との一致」,( 2 0 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . 0~ S . 6 8 .
( 2 1 ) G . P o p o w , Zur L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t , D i e L e i t u n g s o z i a l i s t i s c h e r I n d u ‑ s t r i e v e r e i n i g u n g e n u n d ‑ b e t r i e b e h e r a u s g e g e b e n von I n t e r n a t i o n a l e s A u t o r e n k o l l e k t i v , B e r l i n 1 9 7 5 , S , 6 2 6 .
なおボボフの見解は稲村毅前掲稿および三代川正次「現代ソヴェト管理論の動向—r.x. ボボフの所論を中心に一」
拓殖大学経営経理研究
1 8 号昭和 5 2
年1
月に紹介されている。「管理形態と生産形態との一致」, 「管理と管理対象との一致」, 「管理システ ムの諸要因の一致」,「社会における管理の部分システムの相互作用,それら の結合と調整の必然性」などであることは注目されてよい。
V
「 管 理 科 学 」 を め ぐ っ てDDR
において管理の科学を通常一般的に表示する名称は「管理科学」(Leitungswissenschaft)であるので,ここでこの名称をめぐる論議にふれ
ておきたい。現在DDR
ではこの名称は2
つの様式で用いられているといわ れる。第
1
は,もともとマルクス・レーニン主義そのものが社会過程の一般的な 管理の科学であって,これを社会の個々の領域に適用し具体化したものとし て,管理の特殊科学たとえば社会主義経済の管理の科学といったものが生ま れるが,これらの管理の特殊科学を総括したものが「管理諸科学」(Leitungs‑
wissenschaften)
であるとするものである。第2は,「管理諸科学」をもって, 一般的に管理をとらえその科学的基礎 の究明を課題とするか,もしくは「管理諸科学」に属するいくつかの学問分 野たとえばサイパネチックス,自動的情報処理,経済学数学的諸方法などの
(22)
特定グループをさすものとするものである。
このことは,ソヴエトにおいて「管理科学」が次の3つのアプローチとし
(23)
て生成してきたものと
DDR
で理解されていることと関連している。(1) 社会経済学的アプローチ
(2) サイバネチックス・技術学的アプローチ (3) 数学・経済学的アプローチ
ともあれ「管理科学」という名称は,
DDR
では管理の科学・研究に関す( 2 2 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . 0~ S . 6 2 .
( 2 3 ) G . F r i e d r i c h , L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t und Vervollkommung d e r s o z i a l i s ‑
t i s c h e n W i r t s c h a f t s f i i h r u n g , E i n h e i t , 1 9 7 3 H e f t 5 , S S . 5 7 6 ‑ 5 7 7 .
1 6 ( 9 8 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)る最も一般的な名称として用いられているので,社会主義における管理一般 ではなくて,その中の社会主義経済の管理を対象とする学問,とりわけ管理 を独自的に研究する科学の名称として,他の名称が必要となってくる。「管 理科学」の
DDR
における2
つの用法についていえば,第1
の場合には,経 済の管理の科学としては広すぎる名称となっているし,第2の場合には,社 会科学的性格が否定される,少なくとも不明確となるおそれがある。フリードリヒらの主張する「社会主義経済管理科学」という名称は,
1
つにはこの ような背景において生まれたものである。従って「管理科学」は,今日
DDR
では厳密に規定された名称とはいいが たいが,「管理科学」と経営経済学との関連について,やはりDDR
科学ア カデミーの1
機関である「社会主義的経営経済の諸問題についての科学会 議」( D a sw i s s e n s c h a f t l i c h e R a t f u r F r a g e n d e r s o z i a l i s t i s c h e n B e t r ‑
(24)
i e b s w i r t s c h a f t )
が,1 9 7 4 年 4
月3
日「社会主義経営経済学の対象とマルク ス・レーニン主義経済科学におけるその地位」というテーマのもとに第3回 会議を開催した際に言及されている。そこにおいて同会議の議長クンホイザ‑ ( T a n n h i i u s e r )
自ら「社会主義工業における社会主義経営経済学と管理 科学について」報告を行っている。まずかれは,分業的な社会化された労働は管理を必要とし,経営経済も然 りであって,管理は社会主義経営経済の内在的構成要素をなすと規定した 後,次のごとくいう。「社会主義経営経済の変化と発展は管理を通じてなさ れる。社会主義経営経済学はそれ故,社会主義経営経済のすべての瑛象と過 程をば,管理の観点のもとに研究しなければならない。そうでなければ,社 会主義経営経済学は積極的な形成的な科学たりえず,単に叙述的な科学にと どまるのである。社会主義経済の管理科学は,管理プロセスの形成の仕方と 様式,その基礎に存する諸法則性,諸原則,適用されるべき諸方法,管理者 に必要とされる思考様式・行動様式を一般的に究明する。これらの管理科学 によって得られた認識を,社会主義経営経済学は,管理されるぺき過程の形
( 2 4 )
これは1 9 7 3
年10
月30
日設置された。9 9 ) 1 7
成に際して利用するのである」。そしてかれはつづいて,管理科学が独立し た学問であり,経営経済学によって完成化されるものでないことを強調してぃ 悶
討論においてザントマン(Sandmann)は,社会主義経営経済も社会主義 的経済指導も管理者に志向したものであるから,その限りでは,経営経済学 と管理科学との間にはなんらの相遮はないが,しかし経営経済学は単に管理 者にのみ志向したものではなく,全勤労者に志向しているものであるから,
志向している者の範囲が広いというべきである。逆に管理の問題は経営経済 学では次元を越えた (ii
berdimensioniert)
領域を含むのでないか,と指摘(26)
している。
これらの議論は管理の科学の発展すべき方向がいまだ相対的に不明確な段 階での論議であり,とくに,管理についての相対的独自の科学である「経済 管理科学」と,ともかく管理に関連する分野との分離が未定着の段階での論 議であるから,現在の段階からみれば不適当な面がかなりみられる。しかし 管理の科学に対して一般にどのような期待がもたれていたかは,これにより 十分察知することができる。
VI 本来の管理科学としての「経済管理科学」の諸特徴
—まとめにかえて-——
管理の科学は,それを広義に理解して,管理に関連するあらゆる知識・能 力を含む分野と,狭義に理解して,管理そのものについて相対的独自な理論 的究明を課題とする分野とに分けて考えることができる。
DDR
において今( 2 5 )
次に引用されているところによる。W. K a t z e r , Durch k l a r e Bestimmung
d e s F o r s c h u n g s g e g e n s t a n d s zu h o h e r e r E f f e k t i v i t i i . t d e r b e t r i e b s w i r t s c h ‑ a f t l i c h e n Forsc~ungsarbeit, W i r t s c h a f t s w i s s e n s c h a f t , 2 2 . J g . H e f t 8 , August 1 9 7 4 , S S . 1 2 3 2 ‑ 1 2 3 3 .
( 2 6 ) W. K a t z e r , a . a . 0 . , S . 1 2 3 3 .
による。1 8 ( 1 0 0 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)日,一般に単に「管理科学」と称せられる場合は多くは前者を指すようであ るが,しかし管理の科学として現在焦眉の課題となっているのは,そうした 管理に関連するあらゆる知識の学際的統合の基礎となる,管理そのものの学 問の樹立である。それは,学問名称としては他の名称と区別して「経済管理 科学」とよばれる場合が多いが,この本来の管理の科学としての「経済管理
(279)
科学」は,少なくとも
DDR
では現在まさに生成しつつある学問であって,「経済管理科学」を含めて管理の科学が今後名称や内容やその他の点におい てどのように発展し定着していくか,今日の段階ではまだはっきり断定する ことができない。しかし今日フリードリヒらを中心として進められている
「経済管理科学」としての研究の方向が,管理の研究の中心をなしてゆくで あろうということは十分想像することができる。ここでその特徴的な諸点を フリードリヒらの主張により整理してみると,大休次のようにまとめること ができよう。
第
1
に,この科学はいうまでもなく管理を対象とするが,管理一般ではな くて,経済の管理を対象とする。しかし管理として国民経済の管理と経営経 済の管理を統一的に取り上げるのであって,資本主義経営学のように企業・経営の管理に限定されるのではない。
第2に,経済の管理ではあるが,いわゆる経済的側面のみを抽象的に対象 とするのではなくて,管理をあくまで諸側面の統一として,諸要因の相互依 存的な総合的な複合的な過程として,いわば学際的に取り上げる。
第3に,このような管理の科学として,この学問は硯在まさに生成しつつ ある新しい学問であるが,管理活動についての科学的究明は種々の既存の学 問において早くから行われてきた。この新しい学問が課題とするのは,旧来
( 2 7 )
たとえば,昨年遅く刊行された Friedrich•Richter• Stein• W i t t i c h , L e i t u n g
d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t
の発刊に際し,出版元のV e r l a gd i e W i r t s c h a f t
は,その出版案内において次のように書いている。「本書をもって, 生成しつ つある社会主義経済管理科学の体系的にして相対的にまとまりある研究が,初 めて公刊されるのである。」V e r l a gd i e W i r t s c h a f t , Unser Angebot Winter‑
h a l b j a h r 1 9 7 6 / 7 7 , S . 3 8 .
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)
の学問体系で欠落していた部分を究明することではなくて,管理についての 総合的複合的研究を相対的独自に推進することである。
第4に,この学問は管理について総合的研究を行うのであるが,しかしそ れは管理についての知識のコングロマリット的なものを与えようとするので はなくて,あくまで管理についての相対的独自の,統一的休系的理論の樹立 を目指す。
第
5
に,ただしその理論は,基本的には応用科学としての性格を有するも のであって,政治経済学などとは性格を異にする。法則そのものの究明とい うよりは,法則の具休化,利用に際しての法則性,フリードリヒらの説明に(28)
よれば,法則性の作用において明確に現われているものではなくて,
1
つの 傾向といった性格をもつものとしての法則性の探究である。第6に,この学問は応用科学として強い実践的性格を有するが,しかし個 個のケースについての処方箋を付与する万能薬たるものではなくて,管理幹 部が管理に関する決定で使用しうる理論的土台,基礎を提供しようとするも のであり,要するに幹部の管理に関する理論的水準の向上,実践能力の涵養 に役立とうとするものである。
ところでこのような本来の管理の科学が
DDR
の場合1970年代に入って生 成してきたのはいかなる要因によるのであろうか。1960
年代以降において次 頁の表のごとくDDR
の工業部門では管理要員の増加がみられ,これが少な くとも直接的な要因の1
つであったが,根本的にはやはり次の3
点にその根(29)
拠は求められることができる。
第
1
は科学技術進歩の進展で,科学技術進歩の成果がますます多く実用化 されるために,経済メカニズムや管理方法に根本的変化が生まれていること( 2 8 ) F r i e d r i c h • R i c h t e r • S t e i n • W i t t i c h , a . a . 0 . , S . 6 8 .
( 2 9 )
最近では,たとえばA. Ko h l e r , K r i t i k und B i b l i o g r a p h i e , " A u t o r e n k o l l e ‑ k t i v , L e i t u n g s o r g a n i s a t i o n i n d e n B e t r i e b e n und K o m b i n a t e n " , W i r t s ‑ c h a f t s w i s s e n s c h a f t , 2 4 . J g . H e f t 1 2 , Dezember 1 9 7 6 , S . 1 8 9 2 . 同一趣旨の
規定がすでに1
9 7 3 年 G . F r i e d r i c h , L e i t u n g s w i s s e n s c h a f t und V e r v o l l ‑
kommung d e r s o z i a l i s t i s c h e n W i r t s c h a f t s f U h r u n g , a . a . 0 . , S . 5 7 3
.にある。20 ( 1 0 2 )
東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)DDR
工業部門における生産的労働者と非生産的要員との割合年度
全勤労者数 生者産の的割労働合 非員生の産割的要合1 9 5 5 2 , 5 3 8 , 2 6 2
(人)72.4(%) 27.6(%) 1 9 5 6 2 , 6 8 1 , 2 4 4 68.5 3 1 . 5 1 9 5 7 2 , 6 2 8 , 7 2 3 7 1 . 9 2 8 . 1 1 9 5 8 2 , 6 8 9 , 0 6 9 7 2 . 0 2 8 . 0 1 9 5 9 2 , 7 6 2 , 4 4 1 7 1 . 8 2 8 . 2 1 9 6 0 2 , 7 8 2 , 3 9 4 7 1 . 1 2 8 . 9 1 9 6 1 2 , 7 9 9 , 1 7 7 7 0 . 1 2 9 . 9 1 9 6 2 2 , 7 8 8 , 0 0 5 6 9 . 5 3 0 . 5 1 9 6 3 2 , 7 7 5 , 0 3 1 6 8 . 5 3 1 . 5 1 9 6 4 2 , 7 2 7 , 2 8 4 6 8 . 1 3 1 . 9 1 9 6 5 2 , 7 2 9 , 9 0 6 6 7 . 4 3 2 . 6 1 9 6 6 2 , 7 3 7 , 4 5 5 6 6 . 6 3 3 . 4 1 9 6 7 2 , 7 4 6 , 4 9 3 6 6 . 0 3 4 . 0 1 9 6 8 2 , 8 1 2 , 6 5 3 6 7 . 9 3 2 . 1 1 9 6 9 2 , 8 1 8 , 7 5 6 6 7 . 0 3 3 . 0 1 9 7 0 2 , 8 1 7 , 7 6 7 6 6 . 1 3 3 . 9 1 9 7 1 2 , 8 2 5 , 3 9 7 6 5 . 0 3 5 . 0 1 9 7 2 2 , 9 9 2 , 6 0 0 6 5 . 3 3 4 . 7 1 9 7 3 3 , 0 3 0 , 4 2 1 6 5 . 3 3 4 . 7 1 9 7 4 3 , 0 4 5 , 4 8 1 6 5 . 5 3 4 . 5
(注)
S t a t i s t i s c h e sJahrbuch d e r DDR
による。である。
第
2
にDDR
国民経済内部およびコメコン体制内部で生産の大規模化・集 中化と専門化,分業が一段と進展し,社会的分業,生産の社会化が国内的規 模,国際的規模において深化していることである。東ドイツにおける管理の科学の生成(大橋)
第3に技能の向上,勤労者の意識水準の向上の結果,管理における主体的 要因の役割が高まっていることである。
これらの要因はいうまでもなく,