第 85 回獣医学会講演抄録
【はじめに】
北極に住むシロクマ,キツネ,イヌ等は雪や氷上 でも足先(肉球)は凍傷にならず平気で生活できる。
Henshaw et al.(1971 年)はイヌの足先を− 35 ℃の液 体に浸しても足先は凍り付くことなく常に+ 1 ℃に 保たれていることを発見し,肉球に体温を維持する 特殊な装置があることを示唆した。局所の体温調節 に血管系が深く関わっていることは広く知られてい るので,肉球の組織構造と微細血管構築から,イヌ の肉球の特徴を調べることにした。
【材料と方法】
解剖実習後に供与されたビーグル犬 3 頭・雄(前 後肢 12 本)を使用した。前後肢 2 本をホルマリン固 定後,通常の組織検査用とし,残りの前後肢 10 本を Whole mount(墨汁注入透明標本)用と樹脂鋳型標本 用とした。Whole mount 標本は氷結切片を作成後,
脱水して封入剤で封入した。樹脂鋳型標本はアクリ ル樹脂を注入し血管鋳型標本を作製し,走査型電子 顕微鏡で観察した。
【結 果】
肉球の表面は棘状の突起で構成されており,厚い 角質層が特徴であった。真皮乳頭内では,数本の毛 細血管(径 5–6
µm)が籠状の血管網を形成し,これらが集合して太い細静脈(径 30–40
µm)となり下降枝として乳頭下層の静脈叢に合流していた。乳頭下 層では豊富な動静脈吻合,および静脈と細動脈で構 成される対向流システムを認めた。
【考 察】
イヌの肉球の血管系は,多くの毛細血管とよく発 達した静脈叢,動静脈吻合および対向流システムが 特徴であった。肉球内の脂肪層は断熱材として役立 ち,さらに上記の特徴的な微細血管系を利用して豊 富に血液を送り,寒冷環境で足先を保温しているも のと思われる。
文献:Henshaw et al. Peripheral thermoregulation: foot temperature in two arctic canines. Science, 175. 1971.
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