破壊 され た森林 の原状 回復 に関 す る法 的責任
Di eVe r p f l i c h t u n gd e rWi e d e r h e r s t e l l u n gd e sz e r s t O r t e nWa l d e s
熊 田 裕 之 KUMATA , Hi r oyuki
は じめに
森林には、洪水防止、土砂の流出防止、水資源 の滴養、二酸化炭素の吸収 と酸素の供給、野生生 物の保全、自然体験・レク リエー シ ョンの場 の提 供、縁の景観の保持などの重要な公益的機能 があ る
(I)。自然環境保全 上 こうした重要 な役割 をに なっているにもかかわ らず、森林の破壊が国内外 を問わず生態系を脅かすまでに至 っている。我が 国 においては 1980 年代後半以降の リゾー トブー ム、とりわけ 1987 年 ( 昭和 62 年) に制定 さ れた 「 総合保養地域整備法」 (いわゆ る 「リゾー ト法」 )およびそれに伴 う土地利用規制 の緩和 (2)
や税制 ・金融面での優遇措置 によ るゴル フ場 ・ス キー場・ マ リーナ・ ホテル等の リゾー ト施設の大規 模な開発 によ って森林 の破壊が進んで いる
(3)。 バブル経済華やかな りし 1985 年か ら 1991 年の間にゴルフ場その他の レジャー施設開発のた
めに許可を受 けた林地 は合計 43,123h a に も 達 した
(4)。
ところが同法施行後 12 年経過 した今 日、バ ブ ル経済の崩壊・ 入場者の減少・ 環境問題、そ して ゴ ルフ場の場合には預託金の返還不能が原因 とな っ て開発事業その ものが頓挫 した り、進出企業が リ ゾー ト地か ら撤退す るなどの事態が相次 いで起 き ている
(5)。バ ブル経済崩壊後 の 1991 年か ら 1997 年の間に倒産 したゴルフ場施設経営企業 は 41 件 で 、1997 年 1 年 間 で は 8 件 に達 し た
。 (6) 北海道の リゾー ト法指定地域内 にあ るホテ ル(ゴルフ場 9 ホール造成工事完了) がインターネッ
トを通 して売 りに出されている例 もある。まだ倒 産 に至 っていないものの多額の赤字を抱えてい る
リゾー ト企業 も少な くない
(7)0こうした状況 に鑑み、 リゾー ト法 の廃止 や見直 しを求める声が強 くなっているとともに( 8 ) 、 リゾー ト開発の挫折や事業の放棄により、破壊 されたま ま放置されている環境の回復、 とりわけ森林 の再 生をどのような手段で図 るかが解決 しなければな らない環境問題 として浮上 してきている
(9)。自然 環境 はいったん破壊 されて しまった ら二度 と元 の 状態に戻す ことので きない不可逆的な環境破壊 で あるといわれている。その意味で、自然環境 が破 壊 されないように事前 に規制することが何 よりも 重要であることは異論のない ところである
(10)。
しか し、それ らの規制 と並んで、破壊 された自然 の回復を図 ることも自然環境の保護の重要な手段 である
(ll)。森林には再生能力があるものの限界 がある
(12)。破壊 された森林 を放置 しておいたの では良好な森林を回復することはで きない。人が 積極的に森林回復のための施策を講 じ、実現 して や らなければならない。現在ある自然を保全す る とともに、破壊 された自然を回復 し、将来へ継承 してい くことが環境基本法の理念にもなっている。
国 ・自治体 も縁の回復を図 るために様々な緑化政 策をとってきた。
しか し、環境庁が平成 10 年 に、土地利用変化 に伴 う環境への影響等 について自治体 ( 全都道府 県・ 政令市・ 関東地方の市区)に対 し行 ったアンケー ト調査の結果では、森林 について開発及び手入れ 不足 による陸上生態系の劣化や、景観上の問題、
開発 による水源滴養上の劣化、大気浄化機能 の劣 化が生 じてお り、また市街地 については、約半数 の自治体が無秩序な拡大が進行 していると回答 し、
約 4 分の 1の自治体が森林や農地の減少 により、
ー8 5‑
生態系や水源滴養等の機能が損なわれて きている と回答 している
(13)。 この調査 か ら明 らか なよ う に、自治体 において も森林の破壊 による問題 の発 生が認識 され、その取 り組みが期待 されているの である。
本稿 は、 こうした基本的認識 に立 ったうえで、
リゾー ト施設を建設す るために森林 の伐採工事 に 着手 した企業がその後事業を放棄 した場合 に、 そ の森林を再生すべ き責任の法的根拠 を原状回復義 務 という視点か ら検討す るものである。
原状回復義務 とは、一般 的 ・抽象的 に定義 すれ ば、ある原因に基づ き生 じた現在 の状態 をその発 生前の状態 に戻す義務である。原状回復義務には、
行政法規 または行政行為 によって課せ られ る①行 政上 の義務 と、私法上の義務がある 。 後者は更に、
②物権的請求権の内容 としての原状回復、( 卦契約 上の債権の効力 としての原状回復、④契約解 除 の 効力 としての原状回復、⑤損害賠償の方法 と して の原状回復 に分かれ る。 この法的根拠の違 いに応 じて回復 されるべ き状態 も異 なる。物権的請求権 の場合 には、妨害状態を排除 し物権 の円満な支配 状態を回復す ることであ り、契約上 の債権の場合 には契約 に定 めた内容を履行す ることであ り、解 除の場合には、契約が締結 されなか ったの と同 じ 状態 に戻す ことであ り、損害賠償の方法 としての 原状回復 は、加害行為が行われる前の状態 に現実 に戻す ことである. この中か ら本稿では( 王 XS ) ④⑤ の原状回復義務 について考察を加えようとす る も のではある( 1 4 ) 0
土地 の所有者がその土地上に生育す る樹木 を切 るか否か、また土地 に樹木を植えるか否かは、基 本的には所有者の自由であ り、土地所有権 に含 ま れ る行為である
。しか し土地所有権 といえど も公 共 の福祉 による制限を受 けることは、憲法 29 条 2 項 ・民法 1 条 1 項 により明 らかであ り、土地計 画法や建築基準法等の法律により土地 の利用が規 制 されている。土地 についての基本理念を定 めた 土地基本法 は、土地 については公共 の福祉を優先 させ ると謡 っている (2 条)。国土利用計画法 に も同様の ことが織 り込 まれて いる (2 条)。森林 の回復 について も私的所有権 の尊重 と公共 の福祉 による制限 との兼ね合 いを考慮 して検討 しなけれ ばな らないのはもちろんである 。 しか し我が国で は従来、自然環境 の保全を目的 として土地の利用 を規制す ることは、財産権の尊重 に劣後す る もの
であると考え られて きた。規制す る場合であ って も、人 の生命 ・身体 ・財産 に対す る危険の防止 の 場合 と異 な り、土地 に対す る財産権 の外在的規制 であるか ら、 自然保護のために一定の地域内で木 材を伐採 した り、土地 の形状を変更す る行為 につ いては許可制を取 る一方で、不許可の場合 には損 失を補償すべ き旨が定め られているのはその例 で ある( 都市緑地保全法 7 条 ・自然環境保全法 33
条 ・自然公園法 35 条)
(15)。 しか し、 こうした 私的財産権偏重 に対す る見直 しが、その結果 であ るバ ブル経済崩壊 の爪跡 を埋めるために環境法学 の立場か ら強 く求 め られているので あ る
(16)。本 稿 もこうした認識 に基づ くものである
(17)。
第 Ⅰ章 森林の原状回復義務を定めた行政法規
自然保護 に関す る行政法規 は、開発等 によ って 自然の破壊が生 じないように事前 に規制を加え る ことを主 たる内容 として い るが、、破壊 され た 自 然の回復を内容 とす る規定 も置かれている。森林 ( 樹木)の原状回復 を定 めた規定が以下の通 り存在 す る。
1.自然環境の保全を直接の目的 とする法律 (1 ) 自然環境保全法
原生 自然環境保全地域 (14 条 1 項) においては、
木材を伐採 し、または損傷す る行為を してはな ら ■ ない (17 条 1 項 6 号)。 ただ し、環境庁長官 は 学術研究 その他公益上の事由により特 に必要 と認
める場合には木材の伐採 または損傷 を許可す るこ とがで きるが( 同項但書) 、その許可 には当該原生 自然環境保全地域 における自然環境の保全のため に必要な限度内において、条件 を附す ることがで きる( 同条 2 項) 。環境庁長官 は、無許可 で木材 を 伐採 した者 または許可条件 に遵反 した者に対 して、
原生 自然環境保全地域 における自然環境 の保全 の ために必要があると認めるときは、その行為 の中 止を命 じ、または相当の期限を定 めて、原状 回復 を命 じ、 もしくは原状回復が著 しく困難であ る場 合に、それに代わるべ き必要 な措置をとるべ き旨 を命ず ることがで きる (18 条 1 項) 0
また環境庁長官が自然環境保全地域 (22 条 1
項)において指定 した特別地 区 (25 条 1 項)内で
木材 を伐採す るためには、原則 として環境庁長官
の許可を必要 とす る (25 条 4 項 2 号)。 この許
可 に条件を附す ることもで きる( 同条 5 項) 。許可 を受 けずにまたは条件 に違反 して木材を伐採 した 者 に対 し、環境庁長官 は、原生 自然環境保全地域 の場合 と同様、行為の中止命令 ・原状回復命令 ・ 代替措置命令 を発す ることがで きる (30 条 によ
る