きびしさの中から味わえる楽しさとは・・…・
−3年3組『つなげ!シュートをめざして』の実践から−
高 橋 和 英
1.本教材に込めたもの
本教材は、子どもたちにとって、初めて攻守入り乱れて行うボールゲームである。的が置かれてい る制限エリアは円形であるため、多くの子にシュートをする機会が生まれる。子どもたちは、大きな 的にボールを当てる(シュートする)楽しさを味わいながら、チームの勝利をめざして取り組んでい く。しかし、これまで経験しているゲームとは異なり、ボールを持った際に相手にマークされるため に、思うような動きができないだろう。そこでは、戸惑いとともに、この運動の難しさを感じるに違 いない。それでも、勝敗に強くこだわる子どもたちなので、練習を繰り返したりチームで教え合った りして、自分がシュートすることやチームが勝っことをめざし、夢中になってこの運動に取り組んで
<コート図> <ルール>
・1チーム男女混合10人
(前半5人後判人で、メン′叫け−ムごとに決める)
・的の高さは180皿
・制限エリアは直径4m
・棚毒エリアに臥攻めも守りも入ることができない
・使用するボールはトッジボール2号球
・試合時間は前後半4分ずつ
・ポールが′叩ンドしないで的に当たった時に得点となる
・その他のル叫ま、子どもたちと乱合いながら決めていく
いく。自らの動きを見つめ試行錯誤しながら 個人やチームとしてのよりよい動きを求め、
その子なりに動きを高めていってほしい。
試合を進めていく中では、どの子ももって いる「このゲームを楽しみたい」という思い を大切にしてほしい。この大きな的にボール を当てることは、どの子にとっても魅力的な ことであるはずだ。「自分もシュートをして みたい」という思いをチームメイトに伝えて いくことで、自分だけが活躍しようとしてい た子の動きやチームの作戦を見っめ直すきっ かけとなるだろう。教師は、その思いが語ら れるように、言葉だけでなく動きや表情からその子の思いをとらえ、支えていきたい。
このようにして、チームの勝利だけにとらわれず、互いの思いを出し合うことで、役割を交替した り、シュートにつながるパスを出したりするなど、この子たちなりにこの運動の楽しみを共有してい こうとする姿を期待している。また、互いに声を出し合って試合に臨んだり、うまくキャッチできな いからと教え合ったりする姿も見られるだろう。そのような中で、ひとりひとりの子どもキちが、こ の運動を楽しみたいと思いながら活動する友達の存在を感じることになる。それは、その子自身が運 動の楽しさを広げていくことになるだろう。
2.S子さんのとらえと尊い
S子さんは、何事にもまじめに取り組み、あきらめずに最後までやり遂げようとしている。授業で は自分なりの考えをもち、発言することも多い。グループの活動においても、話し合いの中心となっ て取り組んでいる。しかし、時に自分の思いをもっているものの、友達と活動する時に遠慮をしてい
ると感じられることもあった。
本教材はポートボールに似ているので、彼女はこれまでのチー李ゲームよりもさらに意欲的になっ て取り組むだろう。地域のポートボールチームに所属し、練習や大会に参加している彼女は、ボール 運動の得意な男子の中でも、果敢にシュートをねらったり、自らパスがもらえるように味方を呼んだ
りして、試合に臨んでいく。そゐような申せ、自らの動きに自信を深めていくだろう。
そんな彼女が、チームの話し合いの中でも自分の考えに自信をもち、チームメイトに伝えていく姿 を期待している。また、試合では男子が中心になってしまい、たとえ彼女がよい動きをしても、パス をもらえないことがあるかもしれない。そんな時教師は、彼女が「私だってシュートをしたい」とい
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う思いを伝えていけるように支えていきたい。そうすることで、彼女は、自分の言ったことに耳を傾 けてくれた友達の存在を感じるだろう。そのことが、よりよい動きを求めようとする彼女の取り組み につながり、自らの動きに自信を深めながら、運動の楽しさを広げていくことになると考えた。
3.チームの勝利を願って
試しのゲームで彼女は、味方からのパスを確実にキャッチしたり、相手のボールを奪い取ろうと動 き回ったりして、積極的に取り組んでいた。後半に出場する彼女は、前半のチームを応援しながら、
その子たちの動きもよく見ていた。ボールに固まりがちなゲームの様相を見て、「そっちに行きすぎ だよ」と声をかけてあげる姿も見られた。
試しのゲームの3試合日で、彼女は初めての得点を決める。
しかし、あまり喜ぶ様子は見られなかった。それはその前の試 合で、彼女の緑チームが、水色チームに敗れてしまったことが 要因だったようだ。試合後の話し合いによりメンバーを変えた ことで、「このメンバーだったら負けた水色チームに勝てるか もしれない」とつぶやき、自分の活躍ばかりでなく、チームの 勝利を願う彼女の姿が感じられた。そんな彼女の姿を見て、私 は、積極的に取り組んでいる彼女の動きが、チームの勝利につ
ながり、彼女がさらに自信を深めていくことを願っていた。 〈チームメイトと共に〉
リーグ戦に入ってから、彼女は、さらに積極的に動くようになる。パスを出した後、的の近くへい ち早く走って行き、止まっていることなく動き回る。シュートのチャンスをうかがっているようだ。
そうした中、彼女にシュートチャンスがめぐってきた。得点差もあったために、このシュートは落ち 着いて決めることができた。彼女が、できるだけいいポジションに動いてボールをもらおうとしてい たことが、落ち着いてシュートすることにつながったのだと私は思った。今後彼女がそのことに気づ いていけば、さらに得点を重ねていくことができ、彼女自身が願うようにチームの勝利にもつながっ ていく。このように活躍していく彼女の姿を期待していた。
学習カードには、初めて得点した喜びと、次の試合に臨む意気込みが綴られていた。しかし、試合 後感想を聞いた時に、.「水色チームがちょっと怖い。危ない」と答えていたことから、私は、彼女は 心の中で、試しのゲームで唯一勝てなかった水色チームの存在を気にしているのだと思った。
学習カードより
初めて点を入れてとてもうれしかった。今度はもっともっと点を入れたい。いくら散がいたっ て、あきらめずに入れたい。
4.自らの動きを見つめる
次の時間、水色チームとの対戦である。後半に出場した彼女は、シュートができるようにと必死に なって的の近くに走り込む。ドリブルで的に近づこうとしていき、相手にカットされてしまった場面 では、その後すぐに取り返そうと追いかける。相手の放ったシュートも、的の前で大きく手を広げて そのボールをカットした。また、ボールを持っている時に相手に囲まれてしまうと、ボールを取られ ないようにと左右に激しくボールを振るようにしていた。Ⅴ男君やS男君の活躍もあって、彼女の緑 チームは6−2で水色チームに勝利を収めたが、彼女はこの試合では得点することができなかった。
試合後彼女に感想を聞いてみると、「シュートする前にも相手が集まってくる」と感想を述べ、水 色チームに勝ったということに大きな喜びを見せていなかった。チームも連勝したというのに、私に は意外な姿だった。ここでの彼女は、チームの勝利よりも、自分の思うような動きができなかったこ とで、どこか納得できないでいるようにも感じられた。
次の黄色チームとの対戦。前半5−1と黄色チームに大きくリードされる。後半の試合が始まると
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すぐに、「こっち、こっち」と的の近くで味方を呼ぶ彼女の姿があった。確かに彼女はノーマークに なっている。試合を見ている時に味方を応援する声を出していたことはあったが、試合の中で声を出 している彼女の姿は初めて見た。前の試合で「相手が集まってくる」と感じた彼女は、自分から空い ている所を探して動き、そこでボ丁ルをもらうことができれば、相手に囲まれることはないと考えた のかもしれない。私は、この彼女の動きを認めたいと思った。
しかし、彼女がノーマークになって味方を呼んでいるにもかかわらず、パスが出ない。少しでも得 点差を縮めようと必死になっているために、味方も彼女の声に気づかないようである。辛うじてⅤ男 君が次々に得点を決め追いっいたが、彼女は、この試合でも得点を決めることができなかった。彼女
の中では、どこかすっきりしない試合であったに違いない。
T いっぱい声を出して味方を呼んでいたね。でもパスが来なかったね。
C パスしてくれなかった。
T シュートできるチャンスだと思うから呼ぶんだよね。
C 近くに誰もいないから呼んだ。「ちょうだい」って言ったけど、他の所にパスしちゃった。
T 言ってみるか、みんなに。「私が空いているよ」って。
C うん。(領く)
彼女もこの試合を終えて、自分がチャンスだったのにパスが来なかったと感じていた。私も、彼女 のいた所にパスがっながれば、Ⅴ男君が中心に攻め.ている緑チームの攻撃の幅が広がると思った0彼 女がシュートを決めることができれば、緑チームの得点も増し彼女も自信を深めていくことだろう。
そして何より、チームの勝利を願う彼女にとって、自分の活躍で勝利を収めていくことは、大きな喜 びと自信につながると考えていた。
5.さびしさを乗り越えて
私は、今後彼女にとってきびしい場面が訪れることも構想しながら、彼女がチームメイトに自分の 思いを伝えていけるように支えていくことにした。S子さんは、相手に囲まれてしまった経験から、
空いているスペースを探して動き回っている。そこにパ.スがつながれば、当然ノーマークのシュート チャンスが訪れる。パスをつないだ友達も、彼女がシュートを決めてくれることを期待するだろう。
だからこそ、彼女にとってはきびしい場面なのである。それは、そのシュートを彼女が外した時、彼 女自身が責任を感じてしまったり、彼女に託したチームメイトから問われてしまったりすることがあ
るからだ。
しかし、たとえそのような場面に出会っても、これまで積極的にこの運動に取り組んできた彼女な ら、最後まであきらめずにやり遂げようとしていくだろう。相手に囲まれてしまった試合の後に、自 らの動きを見つめ、空いているスペーえへ動こうと自分なりに工夫した彼女である。も.し、彼女が悩 んでしまった時には、私も共に考えていこうと心に決め、チームメイトに自分の思いを伝えるよう彼 女に関わることにした。
次の時間、彼女はためらっ−ていたのか、私が声をかけるまで十日分にパスをしてはしい」という思 いを、チームメイトには伝えていなかった。
T S子さん、この前のことは言った?
C あとで、後半のメンバーに言う。
T 今、後半のメンバーに集まってもらって言えばいいね。
C 緑チームの後半の人、集まって。(チームメイトに呼びかける)
C 的の近くに私がいて、「ちょうだい」と言ったの。もしもらっていたらシュートできたかも しれないけどくれなかったから、もしシュートができそうな場所で相手があまりいなかった ら、ボールをくれればシュートできて勝てるかもしれないから、ボールをください。
私の声かけにより、後半のメンバーに自ら呼びかけ、彼女は自分の思いを伝えた。
リーグ戦2回戦。前回引き分けだった黄色チームとの対戦である。前半は前回同様、黄色チームが
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5−1と大きくリードした。後半が始まってすぐ、彼女にシュートチャンスが訪れた。いいポジショ ンではあったが、パスがつながると相手も必死に防ごうと動く。素早い相手の動きと相手に早く追い っきたいという気持ちから、慌てて放った彼女のシュートは、惜しくも的を外れていった。しかし、
そのシュートがゴールの裏側で待ち構えていたR子さんへのパスとなり、R子さんがシュートを決め た。シュートを外してしまったその後も、大きな声で味方を呼んでいる彼女は、最後まであきらめな かった。再びチャンスを自らの手でつかもうと、一生懸命であった。
この試合で彼女は、シュートを決めることができなかったが、緑チームは見事に逆転し、7−6で 勝利を収めた。シュートを外してしまったことをどう思うか彼女に聞いてみると、照れ笑いしながら
「うん」と答えた。その表情は、自信を失っているようには感じられなかった。その時間の学習カー ドには、シュートを外したことよりも、その後ボールがあまりもらえなくなってしまった時のことを 振り返っている彼女の言葉があった。自らの動きを見つめ直し、次の試合に向けて自分なりに課題を
もって臨もうとしている、彼女の意欲が感じられた。
学習カード
ボールをあまりもらえなかった。それは、前よりいい場所にいなかったから。もうちょっとい い場所にいたらもらえた。
6.きびしさの中からでも
次の試合、彼女が意識している水色チームとの対戦である。彼女は、思い通りの動きをし、見事に 得点することができた。相手の中心となっているM子さんも必死にマークした。しかし、リーグ戦初 めての敗戦を喫してしまう。試合終了とともに、彼女の目には涙が溢れていた。初めての敗戦。しか も相手は、負けたくなかった水色チーム。「今日初めて負けた。1点入れた時はうれしかったけど、
負けた時は悲しかった。今度は勝っ」と学習カードに書いた彼女は、次の最終戦に向け、自分の気持 ちを切り替えようとしていたのだろう。
最終戦を前にして個々に練習を始めた緑チームのメンバーに、「緑チ一、ム、集まって」と、S子さ んは自ら声をかけた。彼女の声かけによって緑チームは集まり、話し合いを始めた。これまでの試合 では前半にリードされることが多いので、緑チームは前後半のメンバーを変えることになった0そし て、S子さんは前半に出場した。「S子さんに前半に出てもらってシュートしてほしい」という、前 半に出場しているS男君の意見によるものだった。私も彼女のシュートチャンスが増えることを期待 し、その意見を支えた。しかし、この試合で彼女にチャンスは訪れなかった。最終戦も前試合に引き 続き敗れ、緑チームは連敗となってしまった。
緑チームの成績は3勝2敗1分けで、リーグ戦優勝であった。チームの勝利を願い、これまで取り 組んできた彼女にとって、この結果は待ち望んでいたものだったに違いない。しかし、最後に感想を 聞いた時「負けたからぼーっとしている。シュートを決められなかったから……。満足できない優勝 だった」と彼女は力なく語った。リーグ戦1回戦では順調に勝ち進んでいった緑チームであったが、
彼女が「私にパスして」と自分の思いを伝えてからは、思うように試合が進まなかった。そして、彼 女も、得点を重ねていくことができなかった。
試合の後、そんな彼女をチームメイトは責めなかった。そうやって責 めないチームメイトの気持ちが伝わったからこそ、彼女は責任を感じて いたのかもしれない。優勝しても素直に喜べないと言う彼女は、試合中 よりもさびしさを感じていた。チームが優勝したにもかかわらず、自分 自身を見つめていたS子さん。そんな彼女だからこそ、自分の取り組み を振り返った時に、たとえ今は感じられなくても、充実感を味わえるこ とがあるだろう。自分なりに工夫して取り組んできた彼女は、さびしさ の中でも楽しさを味わうことができたのではないかと考える。
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く練習するS子さん〉