長崎大学工学部研 究報告 第32巻 第59号 平成14年7月 179
AdaptiveClusterCovedngMethodを用 いた 水質モデル の検定 に関す る研究
西 田 渉* ・野 口 正人*
DimitriP.Solomatine**・士官 玲***
AutomaticCalibrationofWaterQualitySimulationModel UsingAqaptlVeClusterCovenngMethod
by
WatanlNISHIDA*,MasatoNOGUCHI*
Dimitd P.SOLOMATINE**andAkiraTSUCHITOMI***
Modelcalibration isimportantproceduresforconfirmingaccuracyofpredictedresultsandvalidityofmodeling・
Inthisstudy,adaptiveclustercoveringmethod(ACCO method)wasusedfortheautomaticcalibrationofwaterquality simulationmodel,andapplicabilityofthismethodwasdiscussed.Althoughthetestofmodelcalibrationwasexecuted forlimiteddatasets,Calibration wasprocessed wellby thismethod.Thecalibrated modelsimulatesthetendencyof waterqualitychanges.Accordingly,itcanbenotedthatthisoptimizationmethodisapplicabletoautomaticcalibration ofsimulationmodel.
1. は じめに
数値 シ ミュ レー シ ョンモ デルは,実水域 での量 的, 質的 な変化 を評価 ・予測す る際 に広 く利用 されてお り, 水環境 に関連 した研 究や実務上 の問題解決等 に有用 な
ツールの一つ になっている.その一方で,信頼性 の高 い予 測 ・評価結果 を得 るには,流 れ場 や物 質循環 の素 過程 が妥 当な形 でモデル化 されてお く必 要が あ る.そ れ と併せ て,実際 に観測 された現象 を再現す る ようモ デルパ ラメー タが 同定 されねば な らない.
ここで,パ ラメー タの同定 について言 えば,その手 続 きは手動で な される こ とが多 く,計算結果 と実測結 果 との差 (エ ラー) を要求 され る計算精度の範囲 に収 めるまで に,相 当数の試行計算が必要 とされる. また, 推定 されたパ ラメー タの値 につ いては,感度解析 を行
うこ とで計算結果 に与 える影響 が調査 されるが,場合 によっては,エ ラーは多峰性 の分布 を示す ことがあ り,
エ ラー を最小 にす る値 を推定す るこ とは容易 なこ とで はない.
ところで,モデルパ ラメー タを同定す る手続 きは, ある制約 条件 の下で観測結果 と計算結果 との差 を最小 化 させ る ことに相 当 し,最適化 問題 の一つ と見 なす こ とが で きる.そ こで本研究 では,大域 的最適化手法で あ るAdaptiveClusterCoveringMethodを用 い た水 質モ デルのパ ラメー タの同定が試み られ る と共 に, この手 法 の シ ミュ レー シ ョンモデルの 自動検定‑ の適用性が 検討 され た.
2.浮遊懸濁物 質 モデルの概要
本章で は,先 に水 質 シ ミュ レーシ ョンモデルの概要 を述べ てお く.検定の対象 として取 り上 げ られたモデ ルは,浮遊懸濁物 質(ss)の変化 に関す る ものであ り, 著者 らが これ まで に諌早湾調整池での水 質の変化機構
平成14年4月18日受理
*社会 開発工学科 (Dep叫 mentofCivilEngineering)
**International instituteforInfrastractural,HydraulicandEnvironmentalenglneenng,ME Delft
***大鉄工業㈱ (DaitetsuKogyoco.LTD)
180 西 田 渉 ・野 口 正 人 ・Dimitri P.Solomatine・土盲 玲
Fig・1 Definitionsketchofsedimenttransport.
を解析 す るため に開発 して きた水 質 シ ミュ レー シ ョン モ デルのサ ブ コ ンポー ネ ン トの一つ であ るl)・2)
こ こで は,水 域 内部 のSSの変化 は,模 式 図 (Fig.1) に示 され る よ うに取 り扱 わ れ てお り, そ れ に従 って SSの収 支 が式(1)の とお りに定式 化 され てい る. す な わ ち,水 中のSSの濃 度 は, 移 流 と拡 散 の効 果 や , 河 川か らの供給 をは じめ と して,水底 か らの土粒子 の再 懸濁 ,そ して,懸濁粒 子 の沈 降の効果 に よって変化す る もの とされてい る.
SSの収支式 a(SS・VoL)
at =(SS.Q)..‑(SS・Q)ou,
+p・Ah‑W・SS・Ah+SS.I.・qE" (1) ここで,SS:SSの濃度(mg〟),vol:水 の体積(m3), Qi.,Qou,:ボ ックス 間の流 入 ・流 出水 量(m3/S),ssi.:
流入河川水 のSSの濃度(tng〟),q,・.:流入河川の流量(m3/S), であ る. さらに,水底 か らの土粒子 の再懸濁量 :pは,
Pick‑uprateの評価 式 に類似 した形 で評価 され, また, 土粒 子 の沈 降速度 :Wは,流速 が増加 す る に従 って減 少す る もの とされた.
再懸濁
T・<T・C の時,p=0.0 r・>r・C の時 ,
p=q・vs/as・lo・T・・(1.010.5・T・C/T・)2・' (2) 沈 降
W =wo・expt‑a(u/uc)2) (3) ここに,6:土粒子 の密度(dm3), vs:土粒 子 の体積 (m3),as:土粒 子 の投 影 面積(m2),Ao:再 懸 濁 に関す る係 数, r・:無次元掃流力 ,r・C:水底 の土粒 子 の移 動 限界 時の無次元掃流力, w o :静水 中の土粒子 の沈 降 速度(m/sec),a:沈 降 に関す る係 数,u:水 の平均 流 逮(m/Eec),であ る.
このSSのモデルに含 まれるパ ラメー タは,既 に式(2),
Fig・2 Schematicview oflsahayaRegulationPond.
式(3)中 に記 され てい る ように,再懸濁 に関す る係 数 , 無次 元 限界掃 流力 ,沈 降速度 ,沈 降 に関す る係 数 の4 つであ る.
SSの変化 の計 算 は,Fig.2示 され る諌早 湾調整池 に 対 して行 われた.水 質の計算手法 と しては, ボ ックス モ デルが採 用 されてお り,調整池 は,平均 水深が比較 的浅 い こ とを考慮 して,鉛 直方 向 に単層 と して取 り扱 かわれ,水平方 向 には9つの ボ ックスに分割 されてい る. ボ ックスの分割状 況 は,Fig.2に措 か れ てい る と お りであ る.調整池‑ の流 入河 川 につ いては,本 明川 をは じめ と して,全12本 が考慮 されてい る.各河 川の 流量 につ いて,降雨 の流 出 に伴 う時 間変化 は,諌早地 区で実測 された降雨 デー タを用 いた降雨 一流 出解析 の 結果 を使 って評価 された.各 ボ ックス間の流 入 ・流 出 水 量 の時空 間変化 に関 して は,二次元平面流 の数値 シ ミュ レー シ ョンモデルで算 出 され た結果 を使 って評価 されてい る.
3.最適化手法
一般 に,数値 シ ミュ レー シ ョンモ デルの検定 で は, エ ラーの総和 が最小 となる よう各パ ラメー タの値 を定 め る こ とになる. この手続 きは,各パ ラメー タを決定 変数(軒), また, それ らが現 実 に採 り得 る範 囲 を上 下 限値 の制約 条件 (I.1<V.・<uL,L=1,2,‑ ‑・N ;N :パ ラ メー タの総 数)と した上 で,エ ラー を表す 関数 f(Vi)杏 最小化す ることに相 当す る. この種 の問題 を解 くには, 幾 つかの手法が考 え られ るが ,同定 され るパ ラメー タ の数 が 多 い こ と,I(Vi)が実 行 可 能領 域 内 で連 続 的 に 変化 す る とは限 らない こ と等 の理 由か ら, ここで は, Solomatineに よ っ て 提 案 され て い るAdaptive cluster coveringmethod(ACCO)手法3'・ 4'が適用 された.
AdaptiveClusterCoveringMethod を用いた水 質モデルの検定 に関す る研究
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Fig・3 ACCO intwoparameterscase4)・
ACCO手法は,大域的最適化手法(GlobalOptimization Technique)の一つであ り,基本 的 に Ⅰ)Clustering,
Ⅲ)Covering shrinking sub‑regions, Ⅲ)Adaptation,
Ⅳ)periodicrandomi zationの4つによって構成 される.
最適解 の探索 の手続 きは,Fig.3に示 され る とお りで ある.すなわち,各パ ラメー タについて定義域 を与 え 探索領域 を決定 し,その領域か ら抽 出 された一定個数 のパ ラメー タセ ッ トを用いて シ ミュ レーシ ョンが実施 される.そ して,エ ラー値 を比較 してモデルの適合性 が評価 され ることになる. ここで,単純 には適合性 の 高いパ ラメー タセ ッ トの周辺領域のみで探索 を続行す れば良いが,局所的最小解 に収束 して しまう危険性 を 回避す るため に,エ ラーの分布 を考慮 しなが ら探索領 域 に幾つかの クラス ターを形成 させ ,それぞれの クラ ス ターについて適合性が再評価 されることになってい る. これ ら一連 の手続 きが収束判定の条件 を満足す る まで実施 されることになる.
以下のパ ラメー タの同定計算では,パ ラメー タセ ッ トは探索領域か ら任意 に抽 出 されてお り,適合性 につ いては,エ ラー値 の二乗平方根 (RMSE)の総和 を用 いて評価 されている.
4.ACCOによる同定 と結果の考察
先 に述べ た とお り,検定の対象 とされるSSの シ ミュ レーシ ョンモデルには4つの決定変数があ り,各変数 の初期制約条件 として,Tablelに示 され る上 ・下限 値 が与 え られ た.SSの実測結果 は,諌早干拓事務所 に よって報告 された値 を用 いるこ ととし, 1997年4月 か ら2(X氾年3月 までの期 間に計測 された157個 のデー
Table1 Initialconstraintofeachparameter.
181
m um V maXrmum 0.0005 ん 0.005
0.0173 Wo 0.864
0.0000 α 10.000
夕が シ ミュ レーシ ョン結果 と比較 された.なお,計測 値 は,Fig.2に記 され るSll地点の ものであ り,計算結 果 は,ボ ックス番号6での借 である.
Fig.4には,ACCO手法 によって同定 されたパ ラメー タ値 を用 い て,算 出 されたSSの計 算結果が実測結果 と共 に示 されている. なお, これ らは,探索領域 か ら の抽 出点 の数 , クラス ターの数 をそれぞれ100 点,3 個 として得 られた結果である. また,最適解 の探索 は 大域的探索手法のみで行 われてお り,局所的探索手法 は導入 されていない.
ここで, 図 に示 され た実測結果 を もとに調 整 池 の SSの変化 について述べ ておけば, l00 mm/day以上の降 雨が観測 され た後 に,SSの濃度 は,数 日間,非常 に 高 くなる傾 向 にあ る.一方,晴天 日が比較的長 く続 く 期 間には,数十mgJl程度の濃度で推移す る ようである.
シ ミュ レー シ ョンモデ ルで予測 されたsSの変化 と実 測結果 を比較すれば,両者の値 は常 に一致す る もので は ないが , 降雨 の分布 とssの変化 の関係 は概 ね再現 されてお り,ssの変化 モテリレの検 定 に本手法が適用 可能である と判断 され る.
さて,数値 シ ミュ レー シ ョンモデルの検定計算 は, 最適化手法 を導入 した ことで 自動化 された とはいえ,
182
500
400
′ー 菅3ヽ■■′ 00
∽
乃弓 200
100
0
西 田 渉 ・野 口 正 人 ・Dimitri P.Solomatine・士官 玲
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1997 1998 1999
Fig.4 CalculatedandobservedresultsofSS.
Table2 Evaluatederror(RMSE).
2000
(
QyzuZ
qTTgtZP!t[ 0
10。200
川棚帥Nsmp=2
0 0
Nsmp=100 Nsmp=50 Nsmp=25NumberofEvaluationTime 2189 895 735 318 EVa山atedEm r 12493.6 12485.5 12596.7 13140.0
や は り多数回の試行計 算が必 要 とされ る.そのため, 実用上 ,探索結果 の精度が良い ことと共 に,同定計算 に要す る時間の短縮 の ために,最適解へ の収 束が早 い こ とが望 まれ る.ACCO手法 では,各パ ラメー タが探 索領域 か らラ ンダム に抽 出 され,エ ラーの評価結果 に 応 じて幾 つかの クラス タ‑ を形成 させ るこ とになって い る. こう した方法 は,エ ラーの値 が小 さいパ ラメー タセ ッ トを効率 的 に探索 す るため に採用 された方法 で あ るが,その一方 で,探索 領域 か ら抽 出す る点 の数 に よっては,最適解付 近 で クラス ター を形成 し損 ねる可 能性が あ る.
そ こで以下 では,検 定計算 の条件 と して与 える抽 出 点 の数 (Nsmp)の違 いが シ ミュ レー シ ョンモ デ ルの 検 定 に与 える影響 を調査 した.パ ラメー タの探索領域 は前 出の もの と同一 とされ,抽 出点数の条件 について は4つ の ケ ー ス (Nsmp‑25,50,100,200pts.) が取
り上 げ られ た.
Fig5には, 各計算 条件 の も とで算 出 され たエ ラー の試行計算 回数 に伴 う変化が示 されてい る. これ らの 結果 によれば,計算 開始 の直後 には,エ ラーは比較 的 大 きな値 をとることが多 く,また,試行 されるパ ラメ‑
タセ ッ ト毎 の違 い も大 きい こ とが分 か る.エ ラーが こ の様 な分布 を示すの は,各パ ラメー タが ラ ンダム に探 索領域 か ら抽 出 され,それ に基づ いて水 質 シ ミュ レー シ ョンとエ ラーの評価 とが行 われ るためであ る.平均 的 なエ ラーの値 は,評価 回数 の増加 ,言 い換 える と, 探索領域 の絞込 みが進 むにつ れて,次 第 に減少す る こ とが示 されてい る. シ ミュ レー シ ョンの実行 回数 に対 す るエ ラーの収 束の速 さは,Nsmp‑25pts.と した場 合 が最 も良 い とい え るが ,探 索 領域 の絞込 み はNsmp‑
100,200pts.の場 合 と比べ て数 回多 い. これ は抽 出点 の密度が小 さ く,試行 回数が少 ない段 階で は,形成 さ れ るクラス ターの領域 が必 然 的 に大 き くなるためであ る. ただ,先述 され た最適解探索 の傾 向は,抽 出点の 数 に拘 らず, いずれの ケース について も共通 して考察
される.
つ ぎに,各計算条件 で最終 的 に算 出 されたエ ラー を 記せ ばTable2の とお りであ る. この結 果 か ら,抽 出 個 数が25pts.とされた場 合 ,最終 的 に得 られ たエ ラー の最小値 は,他の結果 と比べ て大 き くなった. これは, 抽 出点 の数が少 な く設定 された ことに伴 って,探索 領 域 内で探索 が十分 にな されず ,結果 的 に局所 的 な最小
Adaptive ClusterCovering Method を用いた水質モデルの検定 に関す る研究
0 50 100 150 200 250 300 EvakJJtionTime暮
(a)Nsmp=25
0 200 400 600 800 EvaJuationTirn●8
(C)Nsmp=100
183
0 100 200 300 400 500 600 700 EvJhationTh ●暮
O))Nsmp==50
0 400 800 1200 1600 2000 Ev■luatbnTine8
(d)Nsmp=200
Fig.5 Evaluated e汀Orbetween calculated and observed results.
値付近 に収束 したため とと考 え られ る.一方,他 の計 算条件では,エ ラーは同程度の値 になっている. ここ には図示 されていないが, これ ら3つの条件 で計算 さ れたssの結 果 を比 較 した ところ,顕 著 な違 いは現 れ てい なか った.以上の結果か ら,エ ラーの値 とシ ミュ レー シ ョンの実行 回数 とを考慮すれば,抽 出点の数 を 50pts.とす るこ とで十分効 果 的 に本水 質モデルのパ ラ
メー タの同定が なされる もの と推察 される.
5.おわ りに
数値 シ ミュ レーシ ョンモデルは非常 に有用 なツール であるが,モデルの堅牢性や信頼性 ,計算結果の精度 をさらに高めるため にもモデルに含 まれるパ ラメー タ の適切 に評価 してお くことが必要 とされる.
本研究 では,浮遊懸濁物質 に関す る数値 モデルを例 に取 り上 げて,そのパ ラメー タの同定 に大域 的最適手 法 を適用 し, 自動検定す ることを試みた.その結果 に ついては,検定 されたモデルが一種類であ り, また限 られ た観 測 結 果 に対 しての み の検 討 で あ っ たが ,
ACCO手法の シ ミュ レー シ ョンモデルの 自動検定 に対 する有効性 は,ある程度が示 された もの と考 えている.
今後 は,別のモデルへの適用 と共 に,パ ラメー タの抽 出方法 に関す る検討 ,局所的探索手法の導入に よる自 動検定の効率化,等 に取 り組みたい と考 えている. ま た, Genetic Algorithmな ど他 の手法 に よる結果 と比較 しなが ら更 にと最適化効率 について も検討 を進める予 定であ る.
謝 辞
本研 究 を遂 行 す る にあ た り,R.K.Price教授 (IHE Delft),JA Cunge教授 (同)か ら物質の流動 シ ミュレー
シ ョン手法 に関 して貴重 なご助 言 を賜 りま した. ここ に記 して深甚 なる謝意 を表 します.
参考文献
1) M・Noguchi and W ・Nishida (1999)Impacts of a constructionofsea‑dykeand reclamation projectOn waterquality atIsahaya Bay,Proc・XXVIIIth Int.
184 西田 渉 ・野 口 正人 ・Dimitri P.Solomatine・士官 玲
Congress of IAHR,pp.344 (CD‑ ROM Y pfd¥ dlO6.p吋).
2) 仁木将人,西 田渉,野 口正 人,橋本篤史(1999)諌 早調整池 における水質変化の予測 とその評価 に関 する研究",水工学論文集,第43巻,pp.1007‑1012.
3) Solomatine,D.P.(1995)Theuseofglobalrandom
searchmethodsformodelcalibration.Proc.XXVIth lnt.CongressofIAHR,γol.1,pp.224‑229‑
4) Solomatine,D.P.(1999)Twostrategiesofadaptive clustercovenng wi山 decentand theircomp∬ison to otheralgorithms.Jour.ofGlobal Optimization
14(1),55‑78.