• 検索結果がありません。

保育者養成におけるソルフェージュ指導法 ―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "保育者養成におけるソルフェージュ指導法 ―"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

はじめに

 ソルフェージュとは,西洋音楽における「楽譜を理 解して読む力」を中心とした音楽学習のことを指す.

現在は読譜力のみならず,聴取力,理論など音楽に関 わる総合的基礎学習を意味する言葉として理解されて いる1).1970年後半頃から,より幅広い観点から音楽を 捉えていくアプローチとして,フランスのフォルマシ オン ・ ミュジカル(formation musicale2))が主流となっ ており,パリ音楽院をはじめ,多くのコンセルヴァト ワール(国立高等音楽院)ではこのソルフェージュ法 が採用されている3)

 しかし,保育者養成課程においては,音楽大学等で 習得する高度な音楽的知識 ・ 技術については求められ ていない.2018年度の幼稚園教育要領には,5領域の ひとつ「表現」の中に,さまざまな音への興味や身体 の動きなどを通して音楽に親しみ,楽しく活動をする ことが提唱されている4).領域「表現」は子どもの豊か な感性を養い,心を開放させ,感じたことを表出させ ていくことが肝要なのである.また,保育者養成に関 しては,ピアノ実技の充実には触れられていないが,

「表現」内容として歌や楽器を扱うことが明示されてい る.子どもの感性,創造力を養うためには,保育者が 習得するピアノ技術を支える音楽的基礎能力の底上げ を図ることが重要であろう.保育士,幼稚園 ・ 小学校 教諭を養成する教育機関では,義務教育で学ぶべき音 楽的基礎知識が学生の中に定着していないことが少な くない.例えば,小学2年生で学習する簡単な音符の 名称とその音価,拍子の違いなどについてである.そ のためには,短期間でわかりやすいソルフェージュ(音

楽的基礎力)の指導法を工夫していく必要がある.

 ソルフェージュにはフォルマシオン ・ ミュジカル以 外にも様々な方法論が存在する.スイスの音楽家ジャッ ク=ダルクローズ(Jaques-Dalcroze, Émile 1865−

1950)によって創案された音楽教育「リトミック」に は独自のソルフェージュ法がある.リトミックは,身 体運動を伴ったアプローチで心身の調和を図る等の幅 広い教育的目的があり,現在も幼児教育や特性のある 子どもの教育,初等教育,教員養成において広く行わ れている.ジャック=ダルクローズは1892年,ジュネー ヴ音楽院の和声学の教授に就任した際に,学生が器楽 演奏の巧みな技術を持っているのにもかかわらず,聴 取力に欠けていることに気付いたことを契機に,聴取 力を向上させるソルフェージュを考案した.それがリ ズム体操 ・ ソルフェージュ ・ 即興演奏の3つを主軸と するリトミック教育法へと構築されていった.ダルク ローズ ・ ソルフェージュの有用性は多くの論文で発表 されており5),保育者養成課程での活用は今後,より所 期できる指導法といえよう.

 しかし,本研究では,リトミックが国際的に認知さ れる以前にジュネーヴを中心にフランス語圏で実践さ れ て い た シ ャ ス ヴ ァ ン ・ メ ソ ー ド(Chassevant Méthode)におけるソルフェージュの音価 ・ 拍節練習 に焦点をあて,このメソードを基に保育者養成課程で のソルフェージュ指導法について検討することを目的 とする.

 シャスヴァン ・ メソードは現在,我が国では管見の 限りほとんど知られていない.このメソードに関して 筆者は,リトミック研究を継続している中で数年前に 初めて認識した.このことにより,シャスヴァン ・ メ

立正大学社会福祉学部非常勤講師

キーワード:シャスヴァン・メソード,保育者養成,ソルフェージュ,ジャック=ダルクローズ

保育者養成におけるソルフェージュ指導法

―シャスヴァン・メソードの分析を通して―

細 川 匡 美

(2)

ソ ー ド が ジ ュ ネ ー ヴ の 心 理 学 者 ク ラ パ レ ー ド

(Claparéde, Edouard 1873−1940)によって設立され た国際的な研究 ・ 教育機関「ジャン=ジャック ・ ルソー 研究所 Institut Jean-Jacques Rousseau」の創立当初

(1912−)に採用され,ベルギー(イクセル高等音楽教 育学校など)においても取り入れられていたことが判 明している6).また,ジャック=ダルクローズとシャス ヴァンは同時期にジュネーヴ音楽院で教鞭を執ってお り,ジャック=ダルクローズは彼女のメソードを理解 していた7).シャスヴァンが幼児教育のための音楽教育 を19世紀後期に考案したことを鑑み,リトミック出現 前の音楽教育として,遊びながら音楽を理解させてい くシャスヴァンの方法論について検討する.

1 .研究方法と先行研究

 シャスヴァン(Chassevant, Marie 1836−1914)は,

3巻からなる『子どものソルフェージュ』を出版して いる.1巻は子どもの音楽的理解力を発達させるため の母親に向けた手引き書であり,あとの2巻は「子ど ものためのソルフェージュ」に関する具体的なメソー ドについて述べられている.本稿ではシャスヴァンの ソルフェージュに関する文献,とりわけ『子どものソ ルフェージュ2巻 Solfège de lenfant(1880)8)』の第1 部を中心に,幼児のためのソルフェージュをどのよう なアプローチで実践しようとしたのかを精査,分析す る.それは,第1部が歌中心のソルフェージュではな く,リズム(音価や拍節)を中心に述べられている点 に注目したからである.また,ジャック=ダルクロー ズの「幼児のソルフェージュLe solfège des petits

(1898)9)」から,彼のシャスヴァンに関する見解につい て検討する.その上で,幼児の音楽教育に焦点をあて たシャスヴァンのソルフェージュが,今日の保育者養 成課程や幼児 ・ 児童の音楽的活動に活用できるかどう か,その可能性を探る.

 シャスヴァン ・ メソードに関する先行研究には,ギ ブ(Marian P.Gibb)による『音楽教育シャスヴァン ・ メソードの手引きA guide to the Chassevant method of musical education(1923)10)』,当時の「教育ジャーナル

(1880)11)」,および我が国においては『おはなしソル フェージュタンタンおばさんと歌の好きな小鳥たち12) がある.これらの著書 ・ 文献に共通することは,シャ スヴァン ・ メソードの特徴のひとつである「物語」形 式によるソルフェージュの概要が紹介されていること

である.しかし,シャスヴァン ・ メソードに対する分 析 ・ 論考はなされていない.一方,「19世紀における ジュネーヴの音楽史13)」には,彼女がジャック=ダルク ローズに影響を与えたことが記されており,またミン ダー=ジャヌレ(Minder-Jeanneret14))の「マリー ・ シャ スヴァン15)」には,女性の音楽家による幼児のための革 新的な方法論であったことが述べられている.しかし,

これらは音楽史の一部としての記述であり,メソード の内容に関しては言及していない.

 そこで本稿では,シャスヴァンの幼児のためのソル フェージュ(2巻,第1部)の内容を精査し,その方 法を援用して現在の保育者養成課程における音楽の基 礎学習,および実践に関する指導法を検討する.ここ に本研究の独自性があると考える.

2 .シャスヴァンとジャック=ダルクローズ

 シャスヴァン(Chassevant, Marie 1836−1914)は フランスのアランソン(Alençon)出身のピアニスト,

音楽教育家である.彼女の父親ジュリアン(Chassevant, Julien 1807−1890)は,アランソン大学の数学と物理 学の教授であった16).父ジュリアンはフランスの初等教 育の先駆者で女性解放の活動家でもあったパプ=カル パンティエ(Marie Pape-Carpantier 1815−78)らと 親交があった.シャスヴァンの自伝的記述が見当たら ないため,父親からの影響があったかどうかは定かで はない.しかし,シャスヴァンはパプ=カルパンティ エの創造的な教育のアプローチの先例に依拠し17),また 世界初の幼稚園を創設したドイツの教育者フレーベル

(Fröbel, Fridrich Wilhelm 1782−1852)から着想を得 18),楽しいゲーム的手法により幼児のための音楽教育 を創案した.

 また,シャスヴァンはジュネーヴ音楽院の音楽理論 の教授を務めていた(1895? −1912)ことから19),ジャッ ク=ダルクローズ(1892−1910就任)と同時期にジュ ネーヴ音楽院に就任していたことは明らかである.彼 女が辞職した1912年には,ジュネーヴ音楽院の彼女の 科目には250名以上の生徒が集まったといわれており20) その教育法の高評を窺うことができる.ジャック=ダ ルクローズは,幼児に対するゲーム的で分かりやすい シャスヴァンの音楽教育について関心を持っていた.

それは,彼のシャスヴァン ・ メソードに関する以下の 記述から読み取ることができる.

(3)

    さらに少したって1871年,彼女は後に 「作曲家」

と呼ばれることになる第2の教具を考案したが,

これは彼女の教育の基盤として役立つに違いない ものだった.それは,光沢のある金属で切り取ら れた,可動式の音楽記号を入れて仕切りをつくっ た箱である.遊びながらすべてのソルフェージュ 課題をこなすことのできるこれらの記号を扱い組 み合わせることに,子どもがどれほどの魅力を見 いだすかは,容易く理解されることである.(抽象 的なやりかたで呈示されるソルフェージュ課題が いかに無味乾燥で,いかに子どもは彼らの理解を こえた説明を聞かされるものであるかは周知のこ とだ.21)

 この記述は,ジャック=ダルクローズが当時のソル フェージュ学習が困難で無味乾燥であったのに対し,

シャスヴァンの「子どもたちが興味をもって楽しんで いるうちにソルフェージュを身に付けられる」方法を 首肯しているものである.彼は,「私たちは授業に参加 する機会を得て,1年足らずで予期せぬ成果を達成し 22)」とも記している.ジャック=ダルクローズは,ス イス出身のフランスの音楽学者リュシー(Lussy, Mathis 1828−1910)の音楽表現の理論から23),また心理 学者のクラパレードから教育心理学を学んでいたこと は明らかとなっている24).しかし,シャスヴァンの授業 に参加して研究をしていたことは看過することのでき ない記述である.シャスヴァンはジャック=ダルクロー ズが革新的なリトミック教育を開拓した一端を担って いた.このことは,シャスヴァン ・ メソードの史的価 値を含めて,その有用性について改めて検討する意味 を持つものと考える.

3 .シャスヴァン・メソードの起源「パ プ=カルパンティエの教育法」

 シャスヴァンは前述の通り,パプ=カルパンティエ

(Pape-Carpantier 1815−78)の教育観,および教育法 から大きな影響を受けている.従って,シャスヴァン ・ メソードを検討する前に,パプ=カルパンティエの教 育の概要について触れておく必要があるだろう.

 彼女は,1835年から出身地フレージュ(Fleche)で 保育所の運営に携わり,パリで唯一の保育所教員養成 所が設置されたとき(1847年)その校長に任命され,

この養成所で約30年に亘り多くの教員を育てた25).パプ

=カルパンティエは,保育所を慈善施設から教育施設 へと導いた19世紀のフランスを代表する教育者の一人 である.

 パプ=カルパンティエの教育観の特徴は,子どもの 活動の要求に応える教育を目指したことにある.まさ に,新教育運動の先駆的な考えの持ち主であったとい えよう.教育法に関して,まず彼女は「音声模倣法」

によって幼児にも学習できるように「読み方」を工夫 した.音声模倣法は,教えようとする言葉を音に分解 し,子どもの良く知っている動物や出来事を意味する 言葉と,それを表現する身振りとを結びつけることに より,言葉を記憶させる方法である26).次に,彼女は「お 話」を重視し,『お話と事物の教育(1858)27)』を出版し ている.それは「幼児は絶えずお話を求める28)」もので あり,それに応える母親のあたたかいおしゃべりは最 も強力な教育法である29),と考えていたからである.彼 女の『お話と事物の教育』に所収されている「煙突の 上の巣」は,生れたばかりの4羽の小鳥が登場する.

内容は異なるが,シャスヴァンはソルフェージュの中 で小鳥たちをモティーフに「物語」を展開させており,

これはパプ=カルパンティエへのオマージュとも読み 取ることができる.さらに,パプ=カルパンティエは

『保護施設の子どものための歌を伴う体操ゲーム

(1864)30)』という著書も執筆している.彼女は「子ども は固有な躍動から,踊り,走る,跳ぶ,動き回るなど の活動的な遊びが必要であり(中略)それらは,彼ら の身体的運動と素朴な創造力の自然な欲求である31)」と 述べている.子どもの潜在する表現力を創造的活動や 身振りによって引き出そうとするシャスヴァンの音楽 的アプローチはこれらに類似しており,この点におい ても彼女はパプ=カルパンティエの教育観を継承して いるといえるだろう.

4 .シャスヴァン・メソードにおけるソ ルフェージュ

4 - 1  第 1 部「メジャー夫人(MmelaMesure)の おはなし」

 シャスヴァンが執筆した『子どものソルフェージュ

(2巻)』は,幼児のための「物語形式」によるソル フェージュ絵本である.内容は「メジャー夫人のおは なし(Histoire de Mme la Mesure)」と「ニュアンスの ジニーのおはなし(Histoire du beau Génie de la Nuance」の2部構成で,登場人物はメジャー夫人(Mme

(4)

la Mesure 拍節夫人),イントネーション夫人(Mme lIntonation 音程夫人),ニュアンスのジニー(Beau Génie de la Nuance 強弱 ・ 抑揚の美しき精)など,音 楽の要素が擬人化され描かれている.

 第1部ではメジャー夫人と小鳥たちを通して,第2 部ではニュアンスのジニーと子どもを登場させて,音 楽の基礎的理解を促しながら物語が展開する.本稿で は,第1部について検討する.まずは第4章まで詳し くメソードの特徴について精査し,その後全体を俯瞰 する.

 第1部は11章で構成されている.以下その章を記す.

  Ⅰ  メジャー夫人のお城にたりないものは何で しょう

  Ⅱ メジャー夫人の小鳥たちの引っ越し   Ⅲ メジャー夫人の最初の動揺(émotions)

  Ⅳ  子どもたちはどうしたら小鳥のように飛ぶま ねができるか

  Ⅴ 退屈な丸ちゃん(全音符)のおはなし   Ⅵ 白ちゃん(2分音符)のおはなし   Ⅶ 退屈な白ちゃん(2分音符)のおはなし   Ⅷ 小さな三連符のおはなし

  Ⅸ メジャー夫人旅に行く   Ⅹ 心残り(Ses regrets)

  Ⅺ  メジャー夫人,イントネーション夫人に会い に行く

 第1部は「音楽」とは何であるかを,小鳥に見立て た「音符」を通して音価や拍節についてイメージさせ,

歌うことへと繋げていく.そして,著書に付いている 幾つかの教材によって,ゲーム感覚で音楽記号などに 親しませながら読譜や記譜へ展開させる.

 第1章は,寂しいメジャー夫人の城に作られた鳥小 屋に,さまざまな小鳥(音符)が飛んで来るところか ら始まる.そして第2章では,シャスヴァンは次のよ うに記している.

    翼のない丸ちゃん[全音符]は最初の枝に行き,

2羽の白ちゃん[2分音符]は鳥小屋に入って2 段目の枝に上がりました.彼らは速く飛んで丸ちゃ んと同じ時間で着きました.さらに,小さい4羽 の黒ちゃんたち[4分音符]は3段目の枝に素早 く上がって,丸ちゃんと[白ちゃんの]2つの枝

と同時に着きました.そして最後に各自曲がった 翼を持つ小さな羽ちゃん[8分音符]8羽が4番 目の枝に着くのに,4羽の黒ちゃんと2羽の白ちゃ ん,大きな丸ちゃんと同じ時間だけかかりました32)

([ ]は筆者の加筆)

 これには物語に伴い,音符が鳥小屋に止まっている 挿絵が描かれている.それは,音価の分割を表すもの であると同時に,「音符の種類と数の相対的関係」(2 分音符2つと4分音符4つの音価が等しいこと等)を

「おはなし」を通して理解させようとしている点に特色 がある.注釈には「この章が終わったとき,母親は彼 女の小さな生徒に2拍子で打たせます.(母親手引書23 頁)33)」とある.また,この著書には鳥小屋と木の挿絵フ リップが4枚(2分割用と3分割用2枚ずつ)付いて いる(図1,234)).その注釈には,「全音符を小屋に入 れる記号は「作曲家(の箱)Composer Musical」の 2,3,4の仕切り部分にあります35)」と記されている.

つまり,これは母親や教師が子どもに物語を聞かせな がら,等しいテンポの拍子の中でリズムを一緒に打つ,

または教具「作曲家」を用いて,実際に自分で記号を 置きながら体験させていく学習法なのである.

 さらに,シャスヴァンはある章を読み理解した後に,

子どもに問いかけるような形で繰り返し行うことを推 奨している.シャスヴァンは物語の理解度を子どもと の対話から見極めようと考えている.そこからは,身 近な母親や教師とのコミュニケーションから緊張のな い,安心した環境で何度でも繰り返し行うことを大切 にしていることが窺える.

 例えば下記の質問と想定される答えが例示されてい 36)

  質問: メジャー夫人はなぜ退屈なのですか.答え

(子ども):彼女には鳥がいなかったから.

  質問: 最初の小屋の鳥の名前を教えてください.

答え:一つの全音符に2つの2分音符.

  質問: 彼らはすべて同じように飛んだのですか.

答え:いいえ,全音符は2分音符の半分の 速さで飛びました.

 上記の3番目の答えは判断しかねる記述である.彼 らはどのように移動したのだろうか.途中から速く追 いつくように飛ぶのであれば,等しい拍は考慮されて

(5)

いないことになる.しかし,シャスヴァンは音楽理論 の教授である.どのような指導がされていたのか今の ところ不明であるが,これを保育者養成に援用するた めには,違う視点からの方法と工夫が必要である.

 また,このソルフェージュの教具には上記の練習用 フリップの他に,Composer Musical(作曲家)と呼 ばれる箱がある(図337)).この箱は金属製の音符や休 符,音部記号など,あらゆる音楽記号が種類別に14の 仕切りの中に収められている.子どもは,これらの可 動式の記号を使って教師が歌うか演奏するために準備 された譜表の上に置く.シャスヴァンは「彼らはこの ように音楽教育の要素を簡単で長続きする方法で学び ます38)」と記している.

 この方法は,子どもが手にした記譜記号のすべてを 感じとることができる利点がある.つまり,おもちゃ

の記号を視覚と触覚,思考,判断を通して自ら手に取 り,あるべき場所に置くことで,子どもたちはゲーム 感覚で自然に音楽記号の知識を身につけられるように なるのである.また使用法は調性にも及び,見て取れ る練習のなかで長調か短調を示すのに必要なシャープ やフラット記号も用意されている.それを自分で確か めながら最後に階名39)で歌う.これらは勉強ではなく,

子どもにとって楽しみのために行われるところにシャ スヴァンの幼児の興味 ・ 関心を引き出そうとする教育 観が表れている.このメソードは子ども本来の自然な 能力に自分を適応させる教育システムなのである.

 第3章では,翌日鳥小屋を見ると,小鳥たちがいな くなっていることに驚くメジャー夫人が,小鳥が帰る べき自分の場所に留守番の印(休符)を残して出かけ たことに気付く話から展開していく.鳥小屋と木の2

図 1 : 2 拍子系の鳥小屋のフリップ

鳥小屋や木の枝の 各段に金型の 音符や休符を 置いていく.

図 2 : 3 拍子系の木のフリップ

図 3 :シャスヴァンが発明した教具 “ComposerMusical(作曲家)”

の箱を机に置き,添えられた五線譜表に音楽記号を置いている子ど もの挿絵.箱を開くと,蓋裏に絵で表示された記号が仕切られた中 に入っている.(音符,休符,音部記号,変化記号,小節線,スラー,

タイ.24×12cm)

(6)

種類のフリップが付いているのは,子どもたちに休符 を理解させるためでもある.第3章と第4章には,小 鳥たちが森の木と鳥小屋の間を行き来する時,どちら か一方にいる時は音符を,不在の時には休符があるこ とを知らせる挿絵が描かれている.これは休符が単に

「無(いない)」を示すものではなく,「時間(居場所)」

を表していることを,子どもたちに感じとらせる彼女 の創意に富む方法である.彼女は,小鳥が止まってい る印(音符),小鳥が出かけている留守番の印(休符)

により,鳥小屋と木の間であらゆるリズムを創り出し 理解させようとしている.また,鳥小屋の挿絵には音 符に音名(Do-o-o-o, Do-o Do-o, etc.)や,休符を言うた めの「しっ,しーっ」を意味する擬音40)が付されている.

ここでは歌うことが(Do-Re)示されているが,物語 を読み進めると,拍を感じながら小鳥の飛ぶまねをす ることも記されている41).この動きを伴ったリズム練習 はリトミックに類似している.

4 - 2  第 1 部の方法論についての概観

 これまで重要な部分と思われる第4章までみてきた が,ここでは第1部の概要とその方法ついて整理をす る.

1) シャスヴァンのソルフェージュは,子どもに絵本 によって音価や拍節をイメージさせ,具体的な教 具の使用や手拍子などの経験を通して,遊びのな かで理解を促すメソードである.

2) 第1章,第2章では,全音符から8分音符までの 音価の分割を幾つかの挿絵の図を活用して学ぶ.

それと同時に,音符が時間の長さを示すことを小 鳥の飛行を通してイメージさせながら理解させる.

具体的には,全音符の鳥は1羽であるのに対し,

2分音符の2羽の鳥と同じ時間であるという,相 対的音価を子どもに把握させる.

3) 第3章,第4章では,同種の音符と休符が同じ時 間を持つことを学ぶ.鳥小屋や森の木に音符や休 符を教具の記号を用いて配置させる.鳥小屋から 木へ音符が移動する時は,必ず留守番役の同じ音 価をもつ休符を交替に据えることで,さまざまな リズムを理解させる.第4章ではメジャー夫人が

「鉛筆でテーブルを叩きますから,試しに小さな鳥 が規則正しく飛ぶまねをしましょう42)」と小鳥のま ねを促す場面があり,注釈には「子どもたちに4 拍子を打たせながら,小屋や木に入る音価と休符

記号を言わせてください43)」と記載されている.こ の章では階名で歌う挿絵も描かれているが,リズ ムの理解から歌へ進む方法にも「ソルフェージュ 2巻」の特色がある.

4) 第5章から第8章では,第3章まで二分割,また は2つずつ収められていた拍節の学習に対し,三 分割,または3つずつ入る拍節について学ぶ.こ れらの2種類が形づくる複合分割の場合は,3連 符を活用して8分の6拍子なども学習できる.シャ スヴァンは,「ある日,退屈な丸ちゃん(全音符)

は,1羽の白ちゃん(2分音符)とリボン(タイ)

で繋がって止まっていました44)」と3分割の拍節に ついて表現している.短い物語のなかにも,バイ ナリーとターナリ―の違いを理解させる要素が組 み込まれており,シャスヴァンがリズムや拍節を 中核としてこの第1部を考えていたことがわかる.

5) 第6章から第10章においては,子どもの理解度が 進んできているため,16分音符,32分音符,8分 音符に入る3連符,64分音符,各休符まで記載さ れており,これらを2拍子 ・ 3拍子に対応させて いる.難しさには,繰り返し「おはなし」を聞か せることでゆっくり段階的に進ませ,挿絵と物語 と教具を使用することにより,子どもは楽しく想 像的で具体的な学びを体験する.それは,シャス ヴァンがパプ=カルパンティエの「子どもの活動 の要求に応える」教育観に影響された側面である と考えられる.

6) 最後の第11章は,いなくなった小鳥たちを探しに,

メジャー夫人が遠くの城に住む歌の好きなイント ネーション夫人を訪れる話である.小鳥たちはイ ントネーション夫人の領地で生まれた彼女の小鳥 であった.小鳥たちはそれまで酷い歌い方をして いたが,メジャー夫人の城での練習により,今ま で一度も見たことのない秩序で美しい歌を歌える ようになる.つまり,シャスヴァンは,心地よい 素敵な歌を歌うには音楽のルールを知ることが大 切であることを示唆している.これは,子どもた ちが自分も小鳥のように美しい歌を歌うようにな りたいと思わせる「おはなし」なのである.

4 - 3  シャスヴァン・ソルフェージュ 2 巻(第 1 部)

の考察

 前述の検討を踏まえ,ソルフェージュ(2巻)第1

(7)

部について考察する.

 シャスヴァンの教育観について第一に挙げられるこ とは,幼児を中心に考えていることである.また,母 親や教師のやさしい語り口により,子どもとの応答的 な関係の中で教育がなされるべきであるという理念が 方法論に散見される.彼女は,一方的な教授や受け身 の学習ではないやり方を模索し,フレーベルやパプ=

カルパンティエの教育法を礎として,それに次ぐ新し いソルフェージュを考案したのである.

 第1部におけるシャスヴァンのソルフェージュは,

絵本と楽しいゲームの手法を用いて,子どもに音楽の 基礎知識を容易に理解させることを目的としている.

その方法論の特徴を次に挙げる項目に集約した.

 ① 「おはなし」の力を利用して子どもの想像力を引 き出すこと,②多くの「挿絵」により音価や拍節 のイメージを膨らませること,③「教具」を使用 して具体的な経験をさせ,子どもの興味を促し感 覚を刺激させること,④リズム打ち,身振り(動 き),発声(歌)を身近な人物(母親や教師)とと もに活動を行うこと(これにより子どもは喜びや 安心感,達成感を一緒に味わうことができ,母親 や教師は子どもの理解度を観察し,学習の進め方 を見極めることができる),⑤理解が進むと,教具 を使用して一人で自由に創作させること,⑥物語

(絵本)であることから,繰り返し読み聞かせるこ とが容易であること,の6つである.

 問題点や課題もあるが,これにはすべて子どもの主 体的な学びに繋げようとする美点がある.現在におけ るアクティブラーニングとは異なるものの,幼児の興 味 ・ 関心を引き出してゲーム的手法を取り入れたシャ スヴァンのソルフェージュには学ぶべきものがある.

スイスや欧州各国で隆盛を極めたシャスヴァン ・ メソー ドは1970年頃まで実践されていたといわれている45).し かし,徐々に衰退に向かった.その背景にはリトミッ クの普及,教具を取り揃える経済的問題,メソードを 指導する教員養成の課題などがあったと考えられる.

彼女は1912年にジュネーヴ音楽院を退いたあと,1914 年に亡くなっている.それを引き継ぐようにジャック

=ダルクローズは1915年,ジュネーヴにリトミックの 研究所(Institut Jaques-Dalcroze)を設立しリトミッ クを世界中に発展させていった.一方,創案者亡き後,

シャスヴァン ・ メソードの発展は困難であったと推測 される.しかし,我が国においてもシャスヴァン ・ ソ

ルフェージュの有用性を認める人々によって,邦訳 ・ 装丁された改訂版が1986年に出版されている46).シャス ヴァンの絵本は,その方法論のみならず躍動感あふれ る文章と挿絵も魅力のひとつである.子どもの興味を 引き出すメソードとして誕生した彼女のソルフェージュ は140年ほど前のメソードであるが,その有用性を探求 することは現在の音楽の基礎を学ぶ学生や子どもの音 楽的活動の一助になるものと考える.次項ではその可 能性について検討する.

5 .シャスヴァン・メソードによる保育 者養成課程におけるソルフェージュ 学習法

5 - 1  保育・教育者を目指す学生への課題

 保育者 ・ 教員養成課程における音楽に関する授業は,

歌唱,器楽(ピアノ実技 ・ 弾き歌い等),音楽理論(基 礎知識),表現など多岐にわたる.他領域との横断的学 習も考慮し,幅広い知識 ・ 技術の習得が望まれるが,

短期間での学習がほとんどである.学生の主体的な学 習,および授業外の積極的な学びへの意欲は,魅力あ る授業内容や教師の指導力,また教師の人格にも左右 されるだろう.音楽への興味はあるが,「幼児のうた」

や初等科の「歌唱教材」には関心を示さないことも少 なくない.また,学生は「知らない」ことを理由に,

「やる気」を「やらない気持ち」へ移すこともある.子 どもも同様に,自分のよく「知っている」歌や曲が好 きであり,それは他者を意識する時期と同じくして自 我の意識(できる,できない)が芽生えることや47),直 ぐに楽しめることを嬉しく感じること等に関係してい ると考えられる.それに比べて,乳幼児期の子どもた ちは,保育者の真似をしながら直ぐに新しい歌を口ず さみ「知っている歌」にしてしまう.生まれながらに して「知っている曲」のレパートリーをもっている子 どもはいないのである.「今日,歌ったから知っている 曲になったよね」と教師が学生に言ったとしても,現 在はインターネット等の普及により情報が直ぐに獲得 できる環境にあるため,楽曲の理解を深めるよりも,

「聴く ・ 真似る ・ 覚える」ことを習得の近道と考える学 生も多い.これも短期間での学習に対応するために,

学生が苦肉の策を講じている姿とも捉えることができ るだろう.しかし,これでは保育 ・ 教育の現場で応用 力を発揮することは難しい.子どもの表現は時により 異なり,即興的である.

(8)

 音楽的知識と技術の自立を目指すことは,歌や曲の 難易度にかかわらず,常に何かに依存するのではなく,

保育者自身が工夫をもって子どもと活動できるように することである.そのためには小学生で学ぶ程度の音 楽的基礎知識の理解と,それを表現 ・ 応用できる技術 の習得が必要である.シャスヴァンのソルフェージュ が幼児のために考案されたものであるという特色を生 かし,その方法論を援用することにより,授業内で行 うことができる理論と実践を繋ぐ方法を検討していく.

5 - 2  シャスヴァンの方法論から考える音楽の基礎 学習

 前項で示したシャスヴァンの教育観は,幼児を中心 に考え,子どもの興味 ・ 関心を引き出し,自ら遊びの 中で主体的な学びを促していくことであった.その方 法論は6つの枠組みに集約したが,これに依拠し学生 へのソルフェージュ学習法を提案する.シャスヴァン は,生徒の感覚(視覚 ・ 触覚 ・ 聴覚など)を通した方 法で学習させている.絵や図などの簡単な教材の使用,

および応答的な「問いと答え」をすることは,保育者 を目指す学生たちを主体的な学習に導く方法のひとつ であると考える.これらの学生たちに音楽の基礎知識 を指導する場合,難しい理論の説明ばかりに終始する のではなく,物語性を活用しながら授業内の短い時間

(例えば毎回5−10分くらい)を使って進めていく.

方法 1 .

 保育士 ・ 教員養成課程の授業では,シャスヴァンの 個人的に行う方法に対してグループによる学習で行う.

これは教具を活用し,グループ内で互いに「問いと答 え」を見つけながら自分たちで考え言葉を交わすこと で,少しずつ音楽の基礎理解 ・ 習得に結びつけること がねらいである.そしてリズム打ちや歌で表現できる ようにしていく.

 昨今,音楽学習用教材として,さまざまなアプリケー ションプログラム等が開発されているが,簡単に準備 できる方法として,絵図を示したフリップ(手書き)

とリズムカード(音楽記号)を使用する.また,パネ ルシアター用の P ペーパーで作成し,台紙に張り付け て行う.今回はシャスヴァンと同様に,小鳥をモティー フに「鳥小屋と森の木」を以下に提示するが,他の動 物や人間を主人公にするなど,2つの場所を行き来す るテーマを決める.(図4)

図 4 方法 2 .

 鳥小屋の下の段から,全音符1つ,2分音符2つ,

4分音符4つ,8分音符8つを置く(16部音符を最上 段に上げるのもよい).このことにより,全音符が上段 に行く度に2/1,4/1,8/1の音価に変化していることを 理解させる.(図5)また,それが音符の名称になって いることを説明する.よく理解している学生に説明さ せることもよい方法である.

 これを確認したあとは,すべての音価の手打ちや階 名唱などをする.可能であればステップを踏むとさら に効果的である.これらを充分に把握したのち数回に わけて体験させることは,分かりやすく習得できる方 法である.実践に戸惑いを感じる学生がいる場合も,

グループ活動の中で声を掛け合いながら「わかる」実 感へと導いていく.

図 5

(9)

方法 3 .

 上記の活動後は,鳥小屋から鳥(音符)を森の木に 移動させ,その「カラ」の場所に同じ音価の休符を置 く.種々の音符や休符を見ながら,鳥小屋と木のリズ ムをそれぞれ打ち,2グループに分かれて,同じ段の リズムを同時に手打ちする(図6 ・ 7).休符の音価を 感じていない時には,2グループのリズムは,はじめ に鳥小屋で叩いた休符のないリズムとずれてしまう.

つまり,自分たちの間違いに気付き易い.図6 ・ 7に 示した2分音符の部分を,同時に(鳥小屋と木)打つ と,2分音符を2回打ったように聞こえるはずである.

 学生は,自由に小鳥(音符)を木の同じ段へ移動さ せ,リズムを作り手打ちをする.4分音符,8分音符 では,音符と休符のリズムの型が多くなるため,回数 を重ねてさまざまなリズム打ち,および発声により経 験を深める.

方法 4 .

 次の段階は,2種類の段を選択し,音符のリズムを 手打ちする.例えば鳥小屋の4分音符と木の8分音符 の段を担当するグループを決め,一緒に手打ちさせる.

この時の指導の留意点は,はじめに単純なリズムフレー ズになるように配置について助言をすることである.

つまり,アンサンブル(複リズム)の練習である.

 また,2つのパートのリズムを叩いた場合,付点の リズム(付点4分音符+8分音符)が生じる可能性が 高い.この時を見逃さずに,あらゆる歌に多く使用さ れている付点のリズムが,2分音符の4/3+4/1である ことを理解させ,さまざまなテンポで行えるようにす ることが肝要である.とりわけ音楽の基礎理解が不十 分な学生には,「ターンタと弾く」などと教師の真似を させるだけに留めないことが肝要であろう.また,付 点8分音符+16分音符のリズム,3連音符についても 学習する.これらのリズムは就学前施設の生活の中で 歌う曲によく使用されている重要なリズムである.

 どのようなテンポで行うのか,ビートの速さは一定

に保たれているか,音符や休符を良く理解して叩いて いるか,グループの仲間と協同する気持ちで行ってい るかなど,学生同士で振り返りをさせることも大切で ある.

方法 5 .

 音価やリズム,リズムフレーズの理解がある程度深 まってきた際には,それを階名唱させる,また,ハー モニーをつけて歌わせる(2分音符は Do,4分音符は Mi,8分音符は So など)ことに挑戦させる.そして,

2分割のリズム(2拍子,4拍子)に加え,3分割の リズム(3拍子)の学習も行う.これ以前に,2拍子 系と3拍子系に関する学習は,リズム打ちや歌,楽器 を通して経験させるべきであるが,シャスヴァンの絵 図のように,タイで2拍子+1拍=3拍子になるとい う例示をし,拍節とリズムの理解を深める.

 さまざまなリズムを自分たちで動かし作り,手打ち や歌で表現していくうちに,自分が何を理解し習得し たのか,何がわからないのかを知ることにより,学生 は自分で創っていく楽しさを味わうのである.

図 6(左)・図 7(右):鳥小屋にある 2 分音 符の 1 羽目( 1 拍目)と,4 分音符の 3 羽 目( 3 拍目)が木に移った図.鳥小屋と森 の木のリズムを叩く,または歌う.

(10)

5 - 3  幼児への活動について

 幼児(または小学校低学年)の場合は,シャスヴァ ンが小鳥の数で表現したのに対して身体表現を通して より比較し易い活動にする.例えば,2分音符が「ふ くろう(ホーホー)」,4分音符は「すずめ(チュンチュ ン),8分音符は「ひよこ(ピヨピヨ)」というように,

鳴き声を擬音で言いながら音楽のリズムに合わせて歩 く.その時重要であるのは,テンポを一定に保つこと である.5−7歳くらいになると,突然早い16分音符 を打つ合図を出し,ひざ打ちさせること,例えば,雷

(ガラガラ ・ ピカッ)を想定して行うことも楽しい活動 である.また,知育的であるが,鳥小屋のフリップと 鳥(裏面は音符)のペープサートを用いて木に移動さ せ,「擬音や拍数を言う ・ 歌う」ことも興味を促す活動 のひとつである.従って,これらはリトミックと同様 の活動であり,そこにシャスヴァンとジャック=ダル クローズの教育法の連係的かつ共通するものがあると 考える.

6 .シャスヴァン・メソードを援用した 指導法の考察

 シャスヴァン ・ ソルフェージュの音価 ・ 拍節 ・ リズ ム等を中心にした『子どものソルフェージュ2巻』第 1部の方法論に関して精査した結果,以下の6つの特 徴に集約することができた.

 ① 「おはなし」の力を利用して子どもの想像力を引 き出すこと

 ② 多くの「挿絵」により音価や拍節のイメージを膨 らませること

 ③ 「教具」を使用した具体的な経験をさせ,子ども の興味を促し感覚を刺激させること

 ④ リズム打ち,身振り(動き),発声(歌)を身近な 人物(母親や教師)と共に活動を行うこと  ⑤ 理解が進むと,教具を使用して一人で自由に創作

させること

 ⑥ 物語(絵本)であることから,繰り返し読み聞か せることが容易であること

 そして,保育者養成課程におけるソルフェージュ学 習として,これらの特徴から短時間で行う指導法を5 つの方法に分け,前項にてその枠組みを提示した.

 シャスヴァン ・ メソードは,鳥小屋にいる小鳥たち

(音符)が森の木との往復により,その視点が二重構造 になっている.そこがさまざまな方法で援用できる有

益な点である.理論として説明するには複雑であるが,

絵図と音楽記号(カード)を自分たちで実際に動かし リズムを作ることは,具体的な経験から音楽の基礎を 分かりやすく理解することができる注目すべき利点が ある.また,その二重構造の学習法は,2つの場所が 示すリズムを,一人で膝打ちする,二人で手合わせ,

グループで手打ちや歌うことを可能にする.また,こ れらはピアノを弾く際の両手分割を容易にさせ,曲の ハーモニーへの傾聴に繋がるものと考える.

 シャスヴァンは,このソルフェージュ2巻において 第1部では音価や拍節の理解を目的にしており,彼女 は「物語」の中で美しい歌を奏でるには音楽のルール を知り習得することの大切さを子どもたちに教えてい る.それは気ままに大声で歌うことが自由で気持ちが よいとは限らないことを示唆している.音楽は歌う人 や楽器を演奏する人と,それを共有する聴衆がいるこ とを忘れてはならないのである.それは,保育者が保 育現場でピアノを弾き,歌を歌う時には目前に子ども たちがいることを忘れずに,子どもに応じた演奏や歌 を心掛けなければならないことと同義である.

 また,共に歌や器楽の演奏を楽しむには,同じルー ルを身に付けておく必要がある.それには,互いにリ ズムや旋律を聴き合わせ,審美的な感性を保育者自身 が磨こうとすることが重要である.この短時間で行う シャスヴァン ・ ソルフェージュの応用法が,音楽の基 礎知識を学生自ら楽しんで研鑚していく先に,シャス ヴァン物語の小鳥たちのように美しい音楽表現 ・ 技術 を習得する一助になるものと考える.

おわりに

 本稿では第1部を検討したが,この絵本は第2部に

「美しいニュアンスの精」という物語が続いており,音 楽のニュアンス(抑揚 ・ 強弱など)について理解をさ せるだけでなく,物語に歌唱練習曲を対応させて学べ るようになっている.今後は『子どものソルフェージュ 2巻』の第2部について検討するとともに,メソード 全3巻の全容を明らかにし,現在の保育 ・ 教育に有益 な方法論 ・ 実践法を研究することが課題である.

注 ・ 引用文献

1) 浅香淳編『標準 音楽辞典』(1966),音楽之友社,p.651 2) 1980年頃からフランスで行われている新しいソルフェージュ

のこと.この内容は,著名な作曲家の作品を教材にして,

(11)

聴音,読譜,リズム,音程,移調,楽曲分析,音楽理論,

音楽史などに触れながら,音楽家が身につけるべき教養を 目指している.

例えば,ミシェル - オディル・ジロー著『シューベルトを 歌いながら学ぼう』(全3巻,舟橋三十子・丸山弓子共訳,

細野孝興監修)などが出版されている.

3) 篠原真・小林直哉・生野裕久・松浦雅真沙(2018),「実作 品を用いたソルフェージュと和声学についての実践の試 み」,『洗足学園音楽大学教職課程年報』1号,p.49 4) 全国保育士会(2017),『保育所保育指針 幼保連携型認定

こども園 教育・保育要領幼稚園教育要領』,全国社会福祉 協議会,pp.119-120

5) 板野晴子・中山裕一郎・内田なおこ・吉田恵・吉田秀美

(2018),「教員養成課程における弾き歌いの指導法―『ダル クローズ・ソルフェージ』の「聴音練習」との関連付 け ―」,『立正社会福祉研究』第33号(第19巻)など.

6) 細川匡美(2017),「ジャック=ダルクローズの教育観の発 展に関する研究 ―ルソー研究所,クラパレード,モンテッ ソーリ,ドクロリーとの関わりを中心に―」,明星大学博士 論文

7) Jaques-Dalcroze(1898), Le solfège des petits, Le Journal musical.Bulletin international critique de bibliographie musicale, France

8) Chassevant,Marie(1880)Solfège de lenfant 2me Volume, Petit, ainè, Libraire-Éditeur, Paris

9) Jaques-Dalcroze(1898), ibid., pp.8-9

10) Marian P.Gibb(1923)A guide to the Chassevant method of musical education, Willam, Heinemann, London

11) Botez,(1880), Solfége de lenfant par Miie Marie Chassev- ant, Journal déducation [afterw.] Bulletin [afterw.] Jour- nal déducation populaire(2018), wentworth press, United Stetes

12) シャスヴァン著,今村佐久子訳(1986)『おはなしソルフェー ジュタンタンおばさんと歌の好きな小鳥たち』,音楽之友社 13) Alex Jullien(1972), La Vie Musicale a Geneve au Dix-

Neuvieme Siècle, 1814-1918, pp.94-95 14) 19世紀のスイスの音楽家で研究家.

15) Siehe Irène Minder-Jeanneret(2005), Marie Chassevant, in: Femmes dans la mémoire de Genève, hrsg. von Erica Deuber Ziegler u. Natalia Tikhonov, Genf, p,124

16) Choisy, Frank(1914), Musique à Genève au XIXme siécle, Des écoles populaires de musique, Genève, p.47

17) Chassevant(1880), ibid.,(表紙に「パーペ=カルパンティ エのメソードに次ぐ」)と記されている.

18) Choisy, Frank(1914), ibid., p.47

19) Annkatrin Babbe, Volker Timmermann(2016), Musikerinnen und ihre Netzwerke im 19. Jahrhundert, BIS-Verlag der Carl von Ossietzky Universität Oldenburg, p.80

20) Tappolet, Claude(1972), La Vie Musicale a Geneve au Dix-Neuvieme Siècle 1814-1918, Alex Jullien,libraire, Genève, pp.94-95

21) Jaques-Dalcroze(1898), ibid., p.9 22) Jaques-Dalcroze(1898), ibid., p.9

23) Jaques-Dalcroze(1920), Jobin & Cie editions musicales,

Lausanne, p.39

24) J-Dalcroze, La correspondence(Lettres à Claparède),

(1912),(Cartre postale du Redbourne Hotel à Londres), Bibliothèque Publique et Universitaire(Genèva), f.187.

25) 藤井穂高(1992)「初等教育の一環としての保育制度の論理 と構造:フランス19世紀保育制度史研究」,筑波大学博士学 位論文,p.108

26) 藤井穂高(1992),前掲,p.113

27) Pape-Carpantier(1858), Histoires et leçons de choses pour les enfants, Gyan Books

28) Pape-Carpantier(1858), ibid., p.2

29) Pape-Carpantier(1858), ibid., p.5(藤井穂高(1992)の邦 訳を引用)

30) Pape-Carpantier(1864), Jeux gymnastiques avec chants pour les enfants des salles d'asile, Hachette et Cie, Paris 31) Pape-Carpantier(1901), Enseignement pratique dans 1es

ecoles maternelles, Libraire Hachette et Cie, Paris, pp.306- 307(藤井穂高(1992)の邦訳を引用)

32) Chassevant(1880), ibid., p.11 33) Chassevant(1880), ibid., p.10

34) Chassevant(1880), ibid., appendice séparé(付録の教材用 フリップの内の2枚)

35) Chassevant(1880), ibid., p.11(教具の使用を意味する)

36) Chassevant(1880), ibid., p.5(以下の問いと答えは全て p.5 に記されている)

37) Chassevant(1880), n.pag.Composer Musical(作曲家) ついてジャック=ダルクローズは,シャスヴァン考案(1871)

の第2の教具と伝えている.また,著書にはパリ国際博覧 会(Exposition Universelle de Paris1878)で賞を授与され たと記されている.(24×12cm)

38) Chassevant(1880), ibid., n.pag.

39) シャスヴァンは,音階の音符の上下に1から7までの数字 を置くというガラン・パリ・シュヴェ法(Pris-Galin-chevé)

の表記法を援用しており,この方法に慣れさせながら普通 の表記法を読めるように慣らしていく.これに関しては別 稿にて示す.

40) Chassevant(1880), ibid., pp.16-17.(原著には「しっ,静か に」という擬音を意味するchut,Chu-u-u-ut,(フランス語)

等が記されている.

41) Chassevant(1880), ibid., p.16 42) Chassevant(1880), ibid., p.16 43) Chassevant(1880), ibid., p.16 44) Chassevant(1880), ibid., p.17

45) A.Babbe &V.Timmermann(2016), Musikerinnen und ihre Netzwerke im 19. Jahrhundert, Carl von Ossietzky Uni- versität Oldenburg, pp.80-81

46) シャスヴァン著,今村佐久子訳・横尾英子絵(1986)『おは なしソルフェージュタンタンおばさんと歌の好きな小鳥た ち』,前掲.

47) 平田智久・小林紀子・砂上史子(2016),『保育内容「表 現」』,ミネルヴァ書房,p.43

(2018年10月31日受理)

参照

関連したドキュメント

 ファミリーホームとは家庭に問題がある子ど

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

学校の PC などにソフトのインストールを禁じていることがある そのため絵本を内蔵した iPad

子どもたちが自由に遊ぶことのでき るエリア。UNOICHIを通して、大人 だけでなく子どもにも宇野港の魅力

活動場所を「Come 叶夢ハウス」と名付け、

園内で開催される夏祭りには 地域の方たちや卒園した子ど もたちにも参加してもらってい

土壌は、私たちが暮らしている土地(地盤)を形づくっているもので、私たちが