奈良教育大学学術リポジトリNEAR
相談文への応答様式の評定および聴き手の応答の意 図
著者 玉瀬 耕治, 西川 知子
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 28
ページ 61‑73
発行年 1992‑03‑01
その他のタイトル Rating of Response Modes to the Client
Messages and Listener's Response Intention to the Messages
URL http://hdl.handle.net/10105/6778
相談文への応答様式の評定および聴き手の応答の意図‡
玉瀬耕治 ・ 西.川 知 子‡
(心理学教室)
要旨:本研究では、カウンセリングの技法訓練のために作成された大学生の悩 みの相談文を用いて、相談をする側と相談を受ける側の問題を1つずつ取り上 げた。研究1では、相談をする側として男女大学生を用い、相談文に対する6 種類の応答の満足度および有用度を評定させれその結果、満足度・有用度と
もに、質問と支持は高く評定され、反映はもっとも低く評定され㍍研究2で は、相談を受ける側として生徒指導主事群と看護婦群を用い、先の相談文に対
して、どのような意図で応答するかを調べた。その結果、個々の相談文に対す る応答の意図は異なり、2つの群で同じ意図が示される場合と異なる意図が示 される場合がみられた。これらの結果にもとづいて、今後の研究の方向が示唆
された。
キーワード:カウンセラー養成・応答の満足度、有用度、応答の意図
カウンセラー養成の気運は年々高まりつつあるが、わが国においてはカウンセラー教育の在り 方にっいていまだ十分検討される段階には至っていない。カウンセラー訓練の方法についても、
いくつかの試みはあるものの(小谷,1981;倉石1973;田畑,1982;鐘,1977;上地,1990)、
多くを臨床経験に依存しているのが現状ではなかろうか。訓練過程で必要となる教材や資料につ いても、ほとんど手近に利用しうるものがないのが実状である。われわれは先の研究において、
初心者がカウンセリング実習に取り組む際に利用しうるクライエントの相談文を試作し(玉瀬・
大塚・大谷,1990)・従来の研究を参考にしながらその相談文に対する応答様式の典型例を作成 した(玉瀬・大塚・西川,1991)。これらの例文については、さらにさまざまな角度から、カウ ンセラー訓練の目的で使用することが適切であるか否かを検討する必要があると考えられる。
本研究では、玉瀬ら(1990)によって作成された相談文を用いて、相談をする側と相談を受け る側の問題をそれぞれ1つずつ取り上げて検討する。研究1では、相談文に対する応答例(玉瀬 ら,1991)が、相談をする人(クライエント)にとってどの程度満足しうるものであるのか、ま た、どの程度有用なものとみなされるのかを検討する。相談文はいずれも大学生の悩みを想定し
Rating of Response Modes to the C1ient Messages and Listener s Response Intention to the Messages
Koji TAMASE,and Tomoko NISHIKAWA,Department of P;ycho1ogy,Nara
University of Education
て作成されている。非常に特殊な例は含まれておらず、ごく日常的に、大学生に体験されうる問 題を取り上げている。応答例は6つの応答様式をそれぞれ代表するものとして作成されている。
専門家の立場からは、それぞれどのような応答が好ましいかは理論的に導き出されるであろう。
しかし、相談を受ける側からすれば、いかに理論的に好ましいものであっても、必ずしもその応 答が満足の出来るものではないかもしれない。また、その応答は必ずしも役に立つものとはみな
されないかもしれない(E11iot乍,Barker,Casky,&Pistrang,1982)。これらの点を調べるこ とは、作成された相談文およびそれに対する応答例が、実質的にどのような意味をもっのかを考 える資料として役立つものと思われる。
研究2では、先の相談文を用い、聴き手(カウンセラー)の立場に立って応答の意図の問題を 検討する。聴き手は、それぞれの悩みに対してどのような意図をもって相談に応じようとするの であろうか。このことを、実際に相談経験をもつ成人の対象者を用いて検討する。調査対象者は、
生徒指導主事および看護婦であり、彼らはともに大学生を相手とするものではないが、学校また は医療の場面においていずれもかなりの経験を有する者である。聴き手の意図については、欧米 では最近多くの研究者が注目しており(たとえば、Gesユ。,Hi1},&Kiv1ighan,1991;Hi11,&
O Grady,1985)、今後とも研究が進められるべき領域であるといえる。応答様式は、いわば聴 き手の意図の外顕的反応であって、聴き手がどのような応答様式を用いるかを決定する内的過程 として意図の問題があるといえる。本研究では、意図研究の足掛かりとして、個々の相談文に対 してどのような意図が提出されるかを調べる。その際、研究1における応答様式との関連が見ら れるように、Sti1es,Shapiro,and Firth−Cozens(1988)にならって意図をあらかじめ応答様式 と対応づけて設定し、調査対象者に選択させる方法を用い㍍
研 究 1
悩みごとを誰かに相談する場合、一般の人は、その相談によって悩みを解決する何らかの示唆 が得られるものと期待しているであろう。しかし、専門のカウンセリングにおいては、ある相談 を受けても、その問題に対する解決策をただちに提示することはまれである。それは、相談者自 身に悩みの問題に直面させ、その悩みをより深く理解させ、可能なかぎり自らの力で解決に向か わせようとするためである。相談を受けにきたクライエントが、カウンセラーの受容的な態度に 物足りなさを表明することがあるのは、このようなカウンセラー側とクライエント側のカウンセ
リングに対する認識のずれによるものと思われる。
研究1では、カウンセリングの訓1棟を受けていない大学生にとって、支持、意見、解釈、指示、
質問、および反映という6つの応答様式のうち、いずれがもっとも満足のいく応答様式であり、
また、いずれがもっとも役に立つものとみなされるかを検討する。ここで、支持とは、 クライ
エントの立場を是認し、なぐさめたり、不安を和らげたりしようとするもの と定義される。意
見とは、 クライエントの問題を自分の価値基準で判断したり、意見を述べたりしているもの
と定義される。解釈とは、 クライエントが言ったことを越えて、解釈したり、新しい意味を何
和するもの と定義される。指示とは、 凹解決に導くための助言を与えるもの、具体的にどうす ればよいかを示すもの と定義される。質問とは、 クライエントからさらに事実や情報を得よ
うとするもの、質問形式でないものも含む と定義される。反映とは、 クライエントが言った 事実や感情を繰り返したり、言い換えたり、要約したりするもの と定義される(玉瀬ら,
1991)。先に述べたことから、一般の大学生の場合、反映に対する評定よりも、指示や意見に対 する評定の方がより高くなるものと予想される。
方 法
調査対象 大学生60名(男女同数)が調査対象者として用いられた。
材料玉瀬ら(1990.1991)によって作成された5つの悩みの相談文およびそれらに対する6 通りの応答文を用いた。調査用紙には、はじめに次のような教示文が書かれている。 ここに悩 みの相談にやって来た人の悩みが書いてあります。これらの悩みに対して、カウンセラーから次 のような応答をされたとすると、もしあなたが悩みを相談した人の立場であれば、その時とれほ どその応答に満足するでしょうか。各応答について、()内に次の5段階のうち、もっともあ てはまる数字を書いてください。 評定は、非常に満足(5点)、少し満足(4点)、どちらでも ない(3点)、少し不満足(2点)、非常に不満足(1点)の5段階で行われた。次に、悩みの相 談文と応答文の一例を示す。応答文の後の〔〕内は、応答様式を示したものである。
最近、何をしても心から楽しいとは思えないのです。原因は、就職のことなんです。私は不 安なんです。就職しても、ちゃんと働けるかどうか、厳しい社会の中で生き残っていけるかどう か、自信がないのです。
()就職する前から悩んでいても仕方がありません。〔意見〕
()あなたには、まだ就職したくないという気持ちがあるのかもしれませんね。
〔解釈〕
()そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。まじめにやればきっとやっていけますよ。
〔支持〕
()情報誌で情報を集めたり、先輩や友人に聞いてみなさい。〔指示〕
()就職のことが心配で、何をしても楽しくないんですね。〔反映〕
()就職について、具体的にどんなことを考えているのか話してくれませんか。
〔質問〕
残りの相談文は、クラフでの対人的な悩み、家族内での葛藤、学業に関する悩み.、および失敗 への惚れに歯するものである(表2参照)。5つの相談文に対する満足度についての評定の後、
引き続き有用度に関する評定が行われた。調査用紙における教示文は次のとおりであった。 次
に、もう一度同じ悩みに対して、今度はそれぞれの応答が、相談をした人が悩みを解決する上で
どれほど役に立つと思うかについて答えて下さい。各応答について、()内に次の5段階のう
ち、もっともあてはまる数字を書いて下さい。 評定は、非常に役に立つ(5点)、かなり役に
立つ一(4点)、役に立っ(3点)、あまり役に立たない(2点)、全く役に立たない(1点)の5
段階で行われた。
実 施 調査は、心理学専攻の3人の学生が調査対象者に個別に依頼し、個別または2,3人の 小集団ごとに実施した。
結果と考察
表1は、6つの応答様式のそれぞれについて、満足度および有用度の男女別評定平均値と標準 偏差を示したものであり、図1は、男女をこみにした全体の値について図示したものである。こ れらの平均値について、満足度、有用度別に2(男女)×6(応答様式)の分散分析を行った。
満足度 満足度については、性にかかわる要因は、主効果、交互作用ともに有意ではなく、応答 様式の主効果のみが有意であった(F=9.53,必=5,290,ρ<.01)。満足度の評定値がもっとも 高かったのは質問で、それに次いで支持、指示の値が高かった。逆に、もっとも低かったのは反 映であった。意見および解釈は指示と反映の間に位置している。各応答様式間の差について、さ
らに多重比較を行ったところ、質問、支持、および指示の間には有意差はなく、ともに反映より も評定値が高かった(もっとも差の小さい指示と反映の間で、f:3.斗9,ψ=290,ρ=。01)。ま た質問は、意見、解釈および反映よりも有意に評定値が高かった(もっとも差の小さい質問と意 見の問で、ε…4.65,ψ=290,ρ<.01)。
満足度については質問に対する評定値がもっとも高かった。このことは、一部には相談文の情 報が少ないことに起因すると考えられる。常識的に考えて、相談を受ける立場に立てば、この程 度の情報では満足できる答えが出せないので、さらに情報を得ようとするのが普通であり、そう いう意味でこの応答が満足しうるとするものである。しかし、それだけではなく、応答様式とし ての質問の積極的意義も含まれていると考えられる。すなわち、相談者は自分のことをできるだ け聞いてほしいという気持ちを常にいだいており、上記の例文にあるように、相談者が自由に答 えうる開かれた質問(Tamase&Tanaka,198色)をされることは、そのような欲求を満たすも のと考えられる。実際のカウンセリングにおいても質問はきわめて重要であり、質問の仕方の如 何によって、相談の経過は大きく左右されるといえる。
予想されたように、指示は、反映よりも有意に高く評定されれ先に述べたように・カウンセ リングにおいて、カウンセラー側のカウンセリングに対する考え方とクライエント側の考え方に はずれがあることが推測される。すなわち、相談を受けようとする人は、話を聞いてもらった後 で、何らかの答えや指示を与えられるものと期待している。とりわけアジア人はその傾向が強く、
したがって、指示的な技法を用いた方が効果的であるという考え方も示されている(A毛kinson,
Maruyama,&Matsui,1978)。本研究の結果はこのような考え方に一致し、一般の大学生が、
指示を与えられることで満足を得られるものとみなす傾向があることを示している。
一方、反映は、カウンセリングにおいては共感的な理解を促進する上できわめて重要な技法で
ある(玉瀬ら,1990)。にもかかわらず、本研究の結果は、この応答様式がもっとも低い評定値
を得ていることを示している。すなわち、このような応答をされても、相談者にはあまり満足は
えられないと評定されている。本研究は紙筆調査であるので、実際のカウンセリング場面におけ
表1 6つの応答様式に対する満足度および有用度の評定の男女別平均と標準偏差
応答様式 支持 意見 解釈 指示 質問 反映 満足度 男子 M
8D 女子 M ∫D 全体 M ∫D
3,19 2,77 2,70 2,97 3,31 2.57 0,83 0,66 0,69
2,93 2,79 2,71 0,65 0,67 0,67 3,06 2,78 2.7ユ 0,77 0,67 0.68
O.59 0,68 0,69 3,11 3,36 2,75 0,62 0,81 0,82 3,04 3,34 2,66 0,61 0,75 0.76
有用度 男子 M ∫D 女子 μ 8D 全体 M 80
2,77 2,65 2,33 0,89 0,70 0,70 2,63 2,6ユ 2,43
0,86 0,73 0,56 2,70 2,63 2,38 0,88 0,72 0.64
3,04 2.89 ユ.98 0,87 0,86 0,71 3.10 3,23 1,97 0,74 0,89 0,88 3,07 3,06 1,98 0,81 0,89 0,80
3…
評 定 2・
値
1・・
口満足度
■有用度
支持 意見 解釈 指示 質問 反映
図1 6つの応答様式に対する満足度および有用度の評定の平均
る微妙な表現やタイミングが伝わらないことも、評定値を低くする原因であるかもしれない。し かし、本研究の結果は、基本的に、反映は相談者が述べた悩みの陳述を単に繰り返しているだけ だと受け取られやすいことを示している。実際のカウンセリングにおいては、表現の上では反映 になっていても真にクライエントの言いたいと思っていることの核心をついている場合とそうで ない場合があるものと考えられる。この点についての具体的事例として、鐘(1977)のロール・
プレイの実例が参考になろう。このような反映の質の問題については、さらに今後の研究の蓄積 が必要である。
意見については、予想に反して評定値が低かった。この応答様式は、従来の研究では、評価ま たは価値と命名されてきたものであるが(玉瀬ら,199!)、われわれは、あえてこれを意見と命 名した。これは、いわば素人のカウンセラー(聴き手)が相談を受けたときにもっとも多くみら れる応答様式である。専門的な面接技法の応答様式としては、むしろ排除されるべきものとされ ている。このような応答が、一般の大学生ではかなり満足しうる応答として受け取られるのでは ないかと推測された。しかし、実際には、反映、解釈に次いで低いものであった。このことは、
やはり、誰かに悩みの相談をしたときに、常識的な意見を述べられるだけでは満足できないこと を示唆している。
有用度 有用度については、満足度の場合と同様に、性にかかわる要因は、主効果、交互作用と もに有意でなく、応答様式の主効果のみが有意であった(F=20.91,ψ=5,290,ρ<.01)。
有用度の評定値がもっとも高かったのは指示で、質問もそれとほぼ同じ値であった。逆に、もっ とも低かったのは反映であった。支持、意見・および解釈はいずれも中位に位置している。各応 答様式の差について、さらに多重比較を行ったところ、質問と支持の間には有意差が見られ
(t=2−78,ψ=290,ρ<.01)、解釈と反映の間にも有意差が見られた(士=3.13,ψ=290,
ρ<.01)。
これらの結果は満足度の場合と類似している。指示が質問と並んで有用であるとみなされたこ とは、われわれの予想と一致している。また、反映が他のどの応答様式よりも有意に有用ではな いとみなされていることは、先の満足度に関する結果を補強している。ある応答をされて満足す るということと、それが役に立つということとは必ずしも同じではないだろう。しかし、この点 に関して、本研究のような方法ではその違いは明らかにされないといえるかもしれない。結論的 には、一般の大学生では満足度に関しても有用度に関しても、質問と指示の評定は高くなり、反 映の評定は低くなるといえる。
研 究 2
研究1では、クライエント側に焦点を当てて、6つの応答様式が相談者の立場から相対的にど のような満足度および有用度をもたらすかを調べたが、研究2では、同一の悩みに対して、カウ
ンセラー側の立場に立って、どのような意図でそれぞれの悩みの相談に応じようとするかを問題
にする。カウンセリングにおいて、カウンセラーの応答の意図はきわめて重要であるが、このご
とに研究者の関心が集まってきたのは比較的最近のことである。カウンセラーの意図に関する研 究としては、理論的指向性と意図の関係(Hi11,&O Grady,1985;Sti1es.Shapiro,&Firth−
Cozens,1988)、訓練に伴う意図の変化(Kiv1igahn,1989)、意図と転移の関係(Ge1so,Hi11,
&Kiv1ighan,1991)、意図とカウンセラーの不安の関係(Keny,Ha11,&Mi11er,1989)、意 図の認知モデルの検討(Martin,Martin,&Sユemon,1989:Martin,Martin,Mayer,
&S1emon,!986)などの研究が行われている。
カウンセラーは、クライエントの言語的および非言語的なメッセージを敏感に察知し、適切な 応答をしなければならない。その際、カウンセラーはクライエントの感情的側面をさらに明確に
したいとか、事実関係をもう少し確認したいとか、あるいはクライエントの考え方を変えていき たいなどの意図をもつであろう。このようなカウンセラーの意図をカウンセラーの応答全体の中 で、どのように位置づけたらよいであろうか。朱に、大塚(1991)は、感情の反映の下位過程と
して、識別、変換、および表出の3つの過程を区別している。本研究では、これらをカウンセラー の応答の一般的な過程とみなして、この中にカウンセラーの意図を位置づけてみたい。ここでは カウンセラーの意図は主に変換の過程に位置づけられると考えられる。大塚(1991)は、変換の 過程の詳細については述べていないので、ここでさらに具体的に考えてみたい。図2は、カウン
セラーの意図が、応答の下位過程のどの部分に相当するのかを示したものである。クライエント からの悩みが述べられると、まず、その陳述の事実としての内容はどのようなことであるのか、
そこに表現されている感情はどんな感情であるのか、さらに、その背後に隠されている感情はど んなものであるのかにっいて理解する必要があ乱これは大塚(1991)の識別過程に相当す孔
識別段階 変換段階 表出段階
図2 カウンセラーの応答の下位過程
次に、そこで理解された情報を統合し、.クライエントが何を訴えているのかを意味づけなけれ ばならない。さらにカウンセラーは、クライエントが述べたどの側面を取り上げ、どのように応 答すべきかを決定しなければならない。この過程は意図の形成と名付けることができよう。意図 が形成されると、次に、その意図を表現しうるような応答様式を選択し、決定しなければならな い。このような情報の統合、意図の形成、および応答様式の選択の3つの下位過程は、いずれも 大塚(1991)の変換過程に含まれるはずのものである。これらの過程を経て、最後に表出過程と
しての具体的な1つの応答が行われるものと考えられる。
小谷(1981)の応答構成法は、わが国における応答訓練のすぐれた具体的方法の1つであるが、
これをこの図式にあてはめて考えてみたい。応答構成法におけるクライエントの発言内容の検討、
およびクライエントの感情の理解は情報識別過程に相当するであろう。その次の応答構成の段階 は、情報の統合、意図の形成の過程にあてはまるであろう。応答構成法では、ここでカウンセラー の感情が問題にされているが、これは意図の形成にかかわる重要な要因であるとみなされる。応 答構成法の場合、応答はいくっでもよいとされており、最終的にどの応答を選ぶかを決定する応 答様式の選択の過程は含まれていない。むしろ、そこに至るまでの、内的過程についての理解を 深めさせることに焦点があてられているものと思われる。
このようなカウンセラーの意図を含む応答の下位過程は、実際には、個々のクライエントの発 言に対して、内的過程として瞬時に経過するものである。Hin and O Grady(1985)はこのよ
うな1つの応答単位(ターン)ごとの意図をとらえようとしている。また、カウンセラーの意図 は、クライエントのそれまでのいくっかの応答を関連づけたときにより明瞭なものとなる場合も あるであろう。さらに、1回のセッション全体を通じての一貫した意図というものも考えられる。
このように考えると、カウンセリングにおける意図の研究は、いくつかの段階に分けて進めてい くことが必要であるといえよう。以上は、われわれの意図に関する基本的な構想を述べたもので あるが、研究2では、1つの応答単位での意図を問題にする。すなわち、研究1で用いられた悩 みの相談文に対して、カウンセラーの立場にたって、理想としては、どのような意図をもってそ の応答に臨もうとするのかを検討する。それぞれの相談文に対して、2つずつの意図を求め、そ の内のどちらの意図がその相談文により適しているかを調べる。5つの相談文に対して類似の意 図がもたれるのか、個々の相談文に対する意図はかなり異なったものとなるのか。もしそうなら、
どのような悩みに対して・どのような意図がもたれるのかを検討する。
方 法
調査対象 2つの集団が調査対象者として用いられた。これらの集団は、それぞれ筆頭著者が行 うカウンセリング技法の実習のために、別々の機会に集められたものである。調査はいずれも実 習に入る前に行われた。第1の集団は・25名(男性23名、女性2名)の中学校生徒指導主事であっ た。第2の集団は、48名の看護婦であった。これらの調査対象者は、いずれもカウンセリングの 専門家ではない。したがってカウンセリング理論を具体化するものとしてのカウンセリング技法 については特別の知識や経験はもっていないが、実際にそれぞれの職場において生徒または患者 を対象にして、悩みの相談に応じる経験はもっているといえる。このような対象者が、いわば常 識的な視点から、相談文に対してどのような意図を示すかが問題にされた。
材料玉瀬ら(1991)が使用した5つの悩みの相談文に対して応答の意図を測定するための調
査用紙を作成した。調査用紙の初めの部分に次のような教示が書かれている。 ここに、悩みの
相談にやって来た人の悩みが書いてあります。あなたは聴き役として、その悩みを聴いて、どの
ように応答したいと思いますか。まず、あなたの面接の進め方(意図)を2段階に分けて、下の
枠の中から適当なものを選んで答えて下さい。次に、選ばれた2つの意図のうち、より重要だと
思われる方に丸印をつけて下さい。 相談文は表2に示されている。選択肢となる意図は以下の
ように定義されている。
支持:今の気持ちを落ち着かせ、安心させることに努める。
質問=さらにもっと詳しく事情を聞くことに努める。
反映:混乱している感情を理解し、整理することに努める。
解釈:悩みの原因を探り、本人の気づいていない考え方を示す。
指示:望ましいと思われる具体的な解決方法を教える。
意見1自分の経験に基づいた意見を述べる。
実 施 調査は、各集団ごとに一斉に実施された。なお、教示の文面には書かれていないが、用 紙を配付する際に、 もっとも理想的だと思う答、自分にできるかどうかは別として、理想とし ての答を書いて下さい。}と強調した。
結果と考察
表3は、生徒指導主事群(生指群と略す)と看護婦群における、それぞれの相談文に対する理 想的意図の回答を集計したものである。各調査対象者は、1つの相談文に対して2つずつ意図の 回答をしているので、ここでの出現頻度の合計は人数の倍になっている。教示に述べられている ように、それぞれの相談文に対する2つの意図の回答には、順序とともに、どちらがより重要で
表2 本研究で用いられた相談文と研究2でもっとも多く選ばれた意図
1. 最近、何をしても心から楽しいとは思えないのです。原因は、就職のことなんです.私 は不安なんです。就職しても、ちゃんと働けるかどうか、厳しい社会の中で生き残ってい けるかどうか、自信がないのです。
〔生指群:意見、看護婦群:質問〕
2. 野球部でキャプテンをやってきました。その責任上、人から、冷酷だ、傲慢だ、と言わ れても、部のために必死でやってきました。しかし、今誰も人がついてきません.全<の 四面楚歌です。好き好んでリー一ダー一シップをとってきたわけではないのに… 。もう、
やりきれない気持ちでたまリません。
〔生指群 反映、看護婦群 反映〕
3. 兄はとても僅秀な人で、俗にいうエリートです。私はいつも兄と比較されます。もちろ ん、優秀な兄には勝てるわけがあリません。父や母は、私にはいつも冷たく、私はそれに 耐え、言われるままにやってきました。でも、もう限界です。私は疲れてしまいました。
〔生指群:支持、看護婦群:鳶釈〕
4. 大学に入ったら、好きなことをしようと思っていました。しかし、現実は単位に追い回 される毎日です。もう耐えるのは苦痛です。こんな状態なので、だんだん勉強にも身が入 らなくなって成績も下がリ始めています。
〔生指群:指示、看護婦群:質問〕
5. 私は失敗することが怖いのです。たとえ些細なことぞも、行動に移すとき、不安と緊張 に包まれます。失敗した自分の姿を想僚するだけで、恥ずかしくて涙が出そうになります 。こうしてお話している今でも、私は失敗のことばかり考えて落ち着けません。
〔生指群 支持、看護婦群 支持〕
表3 各群における5つの相談文への理想的応答の意図の出現頻度(二重回答)と%
相談文 ① ② ③ ④ ⑤
N% N% N% N% N%
生徒指導主事群 支持 質問 反映 解釈 指示 意見 看護婦群 支持 質問 反映 解釈 指示 意見
16 32 5 10 7 14 4 8
4 8
14 28
ユ5 16 28 29 14 15 10 10 2 2 27 28
4 8
15 30 15 30 6 12
4 8
6 12
11 u 14 15 34 35 21 22 11 11
5 5
15 30 9 18 9 18 7 14 5 10 5 10
21 22 20 21 18 19 24 25 10 10
3 3
6 12 7 14 6 12 8 16 13 26 10 20
6 6
29 30 19 20
9 9
20 21 13 14
16 32 6 12 9 18 8 16
4 8
7 14
39 41 15 16 14 15 14 15 10 10
4 4
相談文は表2参照
あるかも示されている。表4は、より重要であるとみなされた意図の出現頻度を示したものであ る。また、表2の〔〕内には、各群でより重要なものとしてもっとも多く選ばれた意図が示さ れている。これらの資料に基づいて、それぞれの相談文に対する各群の意図の特徴を捉えていく ことにする。
まず、第1文は、将来の就職に対する漠然とした不安を表したものである。この相談文に対し て、表3で、生指群で選択された頻度が高かった意図は支持と意見であり、看護婦群では質問と 意見であった。妻4では、より重要な意図として選択されたものは、生指群では意見、看護婦群 では質問であった。この相談文に対して意見を述べるという点においては両群は一致しているが、
生指群では意見をより重視しているのに対して、看護婦群では、質問をより重視しており、力点 のちがいが現れている。
第2文は、野球部のキャプテンとして頑張ってきたのに、部員がついてきてくれないという悩 みである。表3で、生指群は質問と反映を多く選択し、看護婦群は反映と解釈を多く選択してい
る。表一4では、両群とも反映をもっとも多く選択しているので、この相談文に対する典型的な応 答は反映であるといえる。
第3文は、両親の兄弟への関わり方の違いに対する不満や元への劣等感を述べたものである。
表3で、生指群は支持をもっとも多く選択し、看護婦群は解釈を多く選択している。表4では、
生指群は支持と解釈を多く選択しているがそれほど顕著ではない。看護婦群は解釈をもっとも多
く選択している。この相談文は、そこに含まれている感情がかなり複雑である。現在の気持ちを
表4 5つの相談文へのより重要とされた理想的応答の意図の出現頻度
相談文■ ① ② ③ ④ ⑤
生徒指導主事群
支持 質問 反映 解釈 指示 意見
看護婦群
支持
質問 反映 解釈 指示 意見
5 4 2 1 2 11
7 17 6 5 0 13
3 6 8 5 2
ユ
7 5 19 11 5
ユ
9 10 9 16 4 0
1 19 10 4 8 6
13 2 3 5 1
ユ