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    反トラスト政策における独占について

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Academic year: 2021

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(1)

 研究ノー卜一

    反トラスト政策における独占について

       l一九四五年アルコア事件判決を中心としてl

      師     俊  紀

     一 はじめに

 シャーマソ反トラスト法はトラストと呼ばれる独占体を規制し︑経済的機会均等をもたらすために︑自由競争

を確保することを目的として制定された︒

 シャーマソ法の法律解釈には経済的考慮を伴うことが期待されるのであるが︑一九一一年のスタンダード石油

事件で条理の原則︵回)Qo{yl呂︸が導入されて以来︑独占については形式的な法律解釈だけがなされた︒モ

のために目的とする独占規制は有効的とはいい難い状態であった︒

 しかし︑一九三〇年代の大不況を経て︑このような未曽有の不況の原因は経済力の過度の集中にあり︑これを

   反トラスト政策における独占について

−297−

(2)

放置することは米国伝統の民主主義をも破壊するものと認識された︒そのため反トラスト法を有効に用い︑価格

競争を回復することができれば景気回復対策の一つにもなるとして︑反トラスト政策が強化された︒

 経済力の集中を排し︑競争を回復することをめざす反とフスト政策の強化を最初に反映したのが一九四五年の

アルコア事件判決である︒この判決では従来の独占についての形式的な法律解釈をしりぞげ︑独占の違法性判断

に市場支配の状態という経済的考慮を導入した点で反トラスト史上画期的なものである︒

 筆者は法と経済の混合物であるとされる反トラスト政策の研究を志ざそうとするものである︒アルコア事件を

とりあげるのは前述した事情によるものであり︑先達による多くの研究がなされているが︑本稿ではアルコア事

件に焦点をあわせながら︑経済的考慮が加えられる過程に若干の考察を試みょうとするものである︒

−298−

(3)

      ニ アルコア事件判決

 AluminumCompanyofAmerica︵アル=ア︶は二九四〇年までアメリカ国内で唯一のアルミニュウム生産者

であった︒

 一九三七年政府司法省は︑アルコアはアルミニュウム新地金の製造と販売を独占しており︑シャーマソ反トラ

スト法第二条に違反すると告発した︒地方裁判所の審理では︑政府の訴えはいれられず︑アルコアは無罪とされ

た︒

 そこで政府は直ちに控訴し︑巡回控訴裁判所で審理が行なわれ︑一九四五年に地方裁判所の判決を覆し︑アル

コアはシャーマソ法に違反し︑有罪であると判決された︒

 審理において問題となるのはOアルコアは独占力を有したのかどうか︑Iもし有していたのであれば︑それは

シャーマソ法に違反するのか︑の二点であった︒

  ︵1︶ アルコアの発展の経緯については'M.J.Peck。CompetitionintheAluminumI乱ustry1945‑1958(Har‑

    反トラスト政策における独占について

−299−

(4)

 日 アルコアは独占力を有したのかどうか︒

 この問題を解決するために︑}{Q乱判事は市場の範囲を新地金市場だけに狭く限定した︒アルミニェウム地金

市場には新地金の他に再生地金があり︑互いに競合している︒この点についてHa乱判事は再生地金が新地金

の価格に影響を与え︑かつ競合していることを認めた︒しかし再生地金は以前にアルコアが生産した地金から派

生したものであるということを根拠にして︑地金市場から再生地金を除外した︒

 市場の範囲を限定すると次に︑その市場内でどの程度の支配的占拠が独占となるのかを決めなければならな

い︒

 Hand判事は新地金市場でのアルコアの市場シェアは二九二九年から一九三八年までの期間九〇%であったと

算定した︒これは市場におけるアルコアの新地金供給の割合である︒そして地方裁判所が再生アルミニュウムも

含めた市場シェアを三三%と算定したことをしりぞけた︒

−300−

(5)

 そして︑九〇%という数字は独占を充分に構成し︑六〇−六四%では充分であるかどうか疑わしく︑三〇%で

は確かにそうではない︑という意見を述べてアルコアは独占力を有すると結諭した︒

 ここにおいて市場の範囲を限定する際に︑範囲を狭くするか広くするのか︑ということで市場シェアの数字も

変化してくる︒本件において  Hand判事は再生地金を市場から除外したが︑×年後に新地金が再生地金となっ

て再び市場に現われ︑新地金と競合するという事態を︑アルコアが新地金生産において考慮していたかどうかと

いう問題はありそうもないように思われる︒

−301−

(6)

 昌 アルコアは独占力を有していることが認められたが︑それはシャーマソ法第二条に該当するものだろう

か︒

 アルコア側は︑独占を意図しなかったし︑たとえ独占力を有していたとしても︑それは違法な手段で維持され

たのでもなく︑濫用もしなかったし︑その活動から適正な利益以上のものを獲得しなかったと抗弁した︒この抗

−302−

(7)

弁の根拠は一九二〇年のU・S・スチール事件に準拠して︑市場支配力濫用の欠如は独占に対する抗弁を模成す

         ︵2︶ るというものであった︒

 mアルコアは独占を意図しなかったという抗弁について︑従来の法理では独占の立証に意図があることを要求

された︒しかし︑判事はアルコアの独占を維持するという﹁一貫した決定﹂は充分に独占するための意図を示す

とした︒すなわち︑自らが行っていることを識らないで独占を行うというととはないからである︒

 換言すれば︑独占行為告発に必要とされる意図は︑独占力を獲得し︑維持し︑それを利用する場合の行為にお

いて認められるということである︒

 ㈲アルコアは独占力を濫用しなかった良いトラストであるという抗弁について Hand判事は︑確かに良いト

ラストと悪いトラストを区別することは問題を解決する手段の一つであるが︑それは裁判所に過大な負担を課す

るものであり︑議会がシャーマソ法を制定した際には︑全てのトラストを禁止したのであると述べ︑抗弁をしり

ぞけた︒

 以上二つの抗弁をしりぞけ従来の独占の立証に要求された意図及び濫用行為は各々特に立証する必要のないも

のとされた︒

 しかしながら  Hand判事は︑独占が当然に違法となるという誤った結論を引出さなかった︒

 ㈲独占を獲得しようとする積極的な推進力(positive drive)がない場合︑シャーマン法違反とするのは不合理

なことであるとHand判事は述べた︒そして︑独占が押しつげられたものである場合︑最適規模の企業が競争

を排除した場合︑そして効率性のために独占者となった場合はシャーマソ法に違反しないものとされた︒

−303−

(8)

    反トラスト政策における独占について

 ㈲アルコアの独占は以上掲げた独占の例外に該当し︑違法な手段で維持されたのではないのだろうか︒

 ここで Hand判事は︑アルコアの初期の排他的契心七の他からみて独占はアルコアの懐に飛び込んだもので

はないことを認め︑次のように述べた︒

 ﹁一九四〇年の﹁アルコア﹂の地位を独占の受動的な受益者︑そして自動操作的な経済諸力による競争の無意

識な排除と判断することは誤りであ号﹂

 そして次に続くHand判事の意見は︑独占の違法性基準として︑企業の規模を主たる要因とみなそうとする︑

いわゆる﹁構造基準﹂を認めようとするものである︒

 ﹁﹁アルコア﹂が市場の支配を求めないにもかかわらずやむなくそうなったという行為者の例外事項に該当する

か否かという問題について︑同社の供述は殆ど生き残れないように思われる︒同社が地金の需要増加を常に予想

し︑それらに対する準備をなさねばならないということは必ずしも必要なことではなかった︒他企業が当該分野

に参入する以前に︑同社の生産力を倍増また倍増えと駆りたてるものは何もなかった︒同社は競争者を排除した

ことは全くなかったと主張した︒しかし︑新たに聞かれた機会を次々に利用し︑経験上の有利さ︑取引上のつな

がり及び優秀な人材をもつ大組織に設置された新しい生産能力をもって新規参入者に対すること程効果的な排除

方法はないと考える︒﹁排除一の解釈を正当な営業行為ではなく専ら競争を阻害しようとする欲望に駆られた策

略と限定する場合にのみ︑このように次々と市場支配を追求するやり方が競争排除的でないとみなし得る︒L

 ⑤最後にアルコアの得ていた利益は適正なものであったという抗弁について︑それが年に約一〇%であること

は決っして法外なものでないことを詔めたが︑﹁消費者から﹁適正し利益以上のものを搾りとるため独占力が用

一304−

(9)

いられなかったということは︑市場を﹁独占すること﹂の免責事由とはならない︒﹂

 裁判所は従来の法理である︑独占力を有することと︑それを行使または濫用することとの区別をしりぞけ独占

力を有することはそれだけで第二条違反に該当するとした︒その理由は︑価格決定協定の毎き制限的協定は無条

件にシャーマン法第一条違反となるのであるから︑価格決定力以上の大きな力をもつ独占の存在を黙認すること

は不合理なことであり︑力とその行使は同一であるべきだ︑というものである︒

 以上の理由によりアルコアの抗弁は全てしりぞげられ  Hand判事はアルコアの地金市場独占をシャーマソ法

第二条に該当するものと結論を下した︒

 以上のことからアルコアはシアーーマソ法第二条に違反することが認められたのであるが︑排除措置は直ちに命

令されなかった︒その理由は︑第二次世界大戦遂行のために政府所有のアルミニュウム製造工場が多数建設さ

れ︑それらが一九四四年の余剰財産法により払下げられた結果︑アルミニュウム産業に変化を生じたためであ

る︒余剰財産法による処分が完了するまで排除措置についての審理は延期された︒

−305−

(10)

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(11)

−307−

(12)

      三 アルコア判決における経済的考慮

 一九四五年アルコア事件判決では従来の独占に対する法理︑すなわち﹁独占すること﹂は排他的・掠奪的な目

的と効果をもつ明白な︑ないしは明示の共謀的慣行・行動を件うものであり︑その慣行・行動の成功が圧倒的な

市場支配という形で証拠ずけられた場合にはじめて違法とされ号をしりぞけ︑支配的な市場における地位︑及

び地位を維持する力と意図のみで充分に違法とするという法理を導入した︒このような力は市場の大部分を支配

していることに根ざしており︑掠奪的・排他的な明示の方策を欠いている行為であっても︑市場における卓越的

地位を明らかに確保維持しようとする一連の行動からその意図が推定できるという見解であった︒すなわちこの

見解は市場支配が効果的に維持形成される日常的かつ慎重な事業慣行を件っていれば違反と認められるというも

のである︒

 このような新しい法理において︑経済的考慮の余地は︑独占されていると主張される市場の範囲の限定︑及び

どの程度の支配が違法とするに充分であるかという問題にあることになる︒

 しかし︑裁判所において経済的考慮は常に一貫してなされているのではない︒アルコア事件においても︑地方

裁判所と控訴裁判所では市場の範囲︑またアルミニュウムと競合する他の金属の考慮においてまったく異なると

ころである︒

 裁判所が市場の範囲をどう限定するかによって市場支配が認められたり︑そうでなかったりすることになり︑

裁判所による市場範囲の限定は極めて弾力的であると言へよう︒

−308−

(13)

 先に述べたように︑}{Q乱判事が地金市場から再生地金を除外したことについては多くの論議のあるところで

あるが︑再生地金の組成が新地金よりは劣るものの︑多くの場合新地金と同一に利用することが可能であると考

えれば︑市場に再生地金を含めるのが適切ではないであろう・か︒

 この場合 Hand判事の計算ではアルコアは六日%近くを支配することになり独占といえるかどうか疑わしい

ところであるが︑当時のアルミニュウム産業を考えれば︑独占であるという結論には反対できないように思われ

る︒

 市場の範囲が限定されると次に︑その市場においてどの程度の支配であれば違法となるのかが問題となるので

あるが︑この問題も必ずしも明確ではない︒

 Hand判事は九〇−六〇−三〇%論を示したが︑これは不首尾なものと言われている︒

 支配の程度についてハソドラーは次のように述べている︒

  ﹁支配の程度は神秘的なナンバー・ゲームであり︑経済学的分析方法が発達しても満足な回答は得難いであろ

う・︒そして︑適切なデータと分析を基礎にして市場支配力及び企業の行動はその取引・競争相手に対して重大な

脅威となるのか︑モの地位と力は競争に伴う成果を損うものであるのかどうかについては裁判所の判断を信頼し

       ︵11︶ なければならない︒﹂

 以上の見解が現在のところ︑アルコア事件判決がもたらした経済的考慮についての妥当な考え方のように思わ

れる︒

 問題点はあるものの︑アルコア事件判決は独占についての法律解釈をより経済的考慮に近かずけたという点で

−309−

(14)

意義あるものであろう︒

一一310 一一

(15)

−3n−

(16)

      四 おわりに

 アルコア事件判決は以上概観したように圧倒的な市場支配の状態にあったとしても︑それを達成維持するため

に明示的な掠奪的・排他的な慣行がなければ違法とされないという従来の法律解釈にかわって︑そのような慣行

を欠いている場合でも︑市場支配の状態という独占の経済的概念を法禁の対象とするようになったという点で画

期的なものである︒

 市場の支配を違法性の判断基準とするという傾向はアルコア事件に続く事件においても引継が一気従来の形式

的解釈のため有効的でなかったシャーマソ法第二条を︑競争回復のための有力な手段とし今日に至っているO互

 アルコア事件で導入された構造基準は︑大規模企業の存在︑そしてその日常の活動を違法性判断の対象とした

たために︑現実には多くの企業が脅かされることになる︒また︑判事が判決中で小規模生産者の経済体制が望ま

しいと述べていることを考える場合︑アルコア事件の法理が厳格に実施されると︑技術・経済の進歩発展により

企業規模の拡大している今日では︑企業の経済活動の活力を損うことになりかねない︒

 しかし︑市場に競争構造があってはじめて競争が活発化し︑反トラスト政策の目的である自由競争が達成でき

るものと考えられる︒従って︑アルコア事件の法理が極端にはしることのないよう・︑現実の市場の実情を認識し

たうえでの構造規制は有効なものであろうと思われる︒

 このように市場支配の状態を違法性判断にとりいれ︑法解釈を経済的考慮に近かずけたという点で︑法と経済

― 312 ―

(17)

を近かずけようとしたHand判事の試みには成果があったと考えられる︒

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参照

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