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マクロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題

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(1)

マクロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題

西 山 茂

はじめに

国民経済計算 は,国民経済の構造を生産 一分配 一支 出とい う経済循環の各側 面か ら整理,把握 し,経済政策,分析等 に役立てよ うとす るものであ って,一 般 には 「国民所得統計」あるいは 「マ クロデータ」 と呼ばれた り,データ全体 を論理整合的な体系の下 に推定す るところか ら,「マ クロ勘定」 ,「マ クロ ・フ

レーム ワ‑ク」 とい う用語を付与 され ることも多 い。

国民所得統計 は,その発展 の初期 において は,概ね政府 による税源の把握, 競争国 と比較 した場合の 自国の国力の客観的測定が主 たる目的であ ったが,同 時 に経済循環の構造の理論的考察 もまた今 日の国民経済計算の基礎をなす研究 と して無視 しえない もので あ る。例 えば,英国の グ レゴ リー ・キ ング

1)

,ぺ テ ィ

2)

, フラ ンスのケネー

3)

等 の研究 は このよ うな問題意識 に支 え られて い

1

)グレゴリー ・キングが近代的手法を用いて英国最初の国民所得推計を行ったのは

1688

年についてである。彼はランカスター王家の式部官並びに財政査定委員会の 秘書官を勤めていた。キング推計に関する解説 と

1913

年価格‑の換算は

,Colin Clark''NationalIncomeandOutlay"(1937)を参照せよ。

2

)ペティの

"Verbum Sapienti

' ' ( 賢者には一言をもって足る)が執筆されたのは

16 65

年後半であったと推定されている ( 公刊は

1691

年) 。この年,英国と蘭国との間 に商権の制覇を目的とした第

2

次英蘭戦争が起こり,その戦費調達のための大規模 な増税が行われた。こうした状況に対応 して,合理的な租税賦課とはいかなるもの かについて考察 し英国の国富と国民所得の具体的推計を試みたのがペティである。

"PoliticalArithmetick

( 政治算術)

"(1690)が代表的な著作である。

3)FrancoisQeusnay"TableauEconomique"(1758)

171

(2)

172 44 4

る。

初期段階においては,国力の測定 と言 って も,複数の研究の推定結果 には大 きな開差が存在 した。それは, 単 に利用 した基礎資料の相違, 推計技法の相違, 推計上の誤差の累積が もた らした面 もあるが,よ り重要 な原因 として,経済活 動に関す る基本的視点が同 じものではなか った点が挙げ られる。即ち,そ もそ も生産的活動 とは何か とい う問題 に対 して異なった見方が存在 していたのであ る。

ここで,そ うした経済思想の発展史を回顧す ることも興味深いが,それは別 の機会に譲 るとして,本稿では, もっと概念的な問題,具体的には 「いかなる 活動が生産的であ り,いかなる活動が不生産的であるのか」 とい う問題を先ず 取 り上げることにす る。現在の国民経済計算が,経済循環の枠組みの中で,国 民経済の規模 と構造 を把握す ることに主 た る目的を置いていることを顧 み る と, この生産の境界をいかに定義す るか という問題が最初 に解答すべ き第一問 題 として登場す るのは明 らかであろう。それほど重要な問題ではあるものの,

Ⅱ節では 「 生産の境界」の設定 はマクロ勘定構成の与件であ り,マクロデータ 提供の面か らは本質的事柄 とは考え られないことを論議す る。即 ち,現行のマ クロ勘定を別の 「 生産の境界」を定義 して再編成す ることは常 に可能であ り, 提供す る統計情報が低下す るわけではない ことを論 じる。次いで,マクロ統計 に対 して近年一層高 まっている詳細情報‑の需要 にい

に対応す るか とい う問 題を とりあげる。 この関連で議論 され ることの多 いマイ クロデータの活用につ いて考察す ることが Ⅲ節の 目的である。筆者が,試みた我が国の家計部門に関 す る計算結果の一部 も要約 された形で紹介す る。

なお,本稿 は平成

5

9

月,筆者が東北財経大学 ( 中国大連市)で講演を行 った際の原稿を加筆修正 した ものである。講演の機会を提供 して頂いた東北財 経大学及 び本学国際交流委員会関係者 の諸氏 に改めて謝意 を表す るものであ

る。

(3)

マ クロ勘定 の基礎 と標本統計利用 の問題 173

Ⅱ 「 生産の境界」と勘定設計

(1)

生産的活動の定義

生産の境界をどのように定義す るか

?4

)この質問に対 して,現在の国民経 済計算専門家達 は投入産出表の設計をどのように決定す るか という問題 に対応 付けて考える習慣を とっている。

投入産出表 あるいは産業連関表 は,生産活動 の 目的 とな りうる全ての財貨 サー ビスを網羅 し,個 々の財貨サー ビスを生産す るため必要 となった中間投入 物並びに付加価値,及びそれ らの財貨サ‑ ビスがどのように販売され処分 され たか という一連の取引を行列形式で表章 した ものであり,今 日では国民経済計 算全体の基礎統計 としての位置に置かれている。現行の国民経済計算体系は, 投入産出表を基礎 として,更に国民所得勘定,国際収支表,資金循環勘定,国 民貸借対照表勘定 という基本勘定体系を相互 に整合的な形式に統合 した もので あると言 ってよい。

こうした基本勘定の間の相互関係か ら考察 して も,生産の境界の定義いかん が最 も基本的な前提 となることが分かる。生産の境界,換言すれば, どのよう な範囲の活動が生産活動であ り,何が不生産的活動であるかの区別を決定す る ことと,投入産出表の設計を決定することが,表裏一体の関係にあるな らば, 経済学の発展史を通 じて現われた様々の経済思想の基礎 となっていた生産的活 動観に応 じて,それぞれの投入産 出表の枠組みが暗黙の うちに考え られてい

た, と言 って も差 しつかえないであろ う

本稿では

,18

世紀のフランスで発展 し,アダム ・ス ミス等の英国古典派経済 学の誕生 にも大 きな影響を与えたと言われる垂農主義経済学 に照明をあててみ

るつ もりである。

4)荷車を木材か ら組み立てるとしよう。 この活動 は生産活動であろうか。荷車を木材 とは別個の財貨 として認識 したとすれば,英国古典派経済学の立場 に立っ ことにな る。荷車を見て木材が変形 したもの と認識す るとすれば重農主義経済学に立脚す る ことになる。生産の境界 とはその判断の区分をどこに設定す るか とい う問題 であ る。

(4)

174 44 4

ケネー,チュルゴー等の重農主義経済学者にとっては,農業のみが生産的活 動であ り5 ),製造業,サー ビス業,公務 など他の全ての活動 は不生産的であ ると認識 されていた。 こうした考え方 は,現代の考え方 に慣れている我 々に とって,珍奇かっ未発展であ り到底首肯できない経済観であると断 じることも 不可能で はないが,よ く考えると興味を誘 う含意を有 していることも事実であ

る。

たとえば, 目の前に机が置かれているとす る。我々はそれを机 とい う財貨で あるととらえ,それはいずれかの生産者 ( ‑企業)によって生産された物 と考 えるのであるが,そ うではな く,机 とは木材の外形を変えた ものと考えて もよ いはずである。衣服を見て も,それを衣服 とは考えず,絹糸か ら構成 された物 と考えるのは,自動車を見てそれを自動車 と考えずに素粒子の構成物 と考える 原子物理学者の考え方が嘘ではないことと同様である

要約す ると,国民経済計算論の文脈で考察す る時に,机を机 と解釈するか, 単 に木材 と考えるか,いずれが正 しいかを決定することはで きないということ である。それは約束事 と類似の事柄に属するのであり, この点 こそ生産の境界 の決定 ということである。

6)

現代の考え方 とは異なるという点では,アダム ・ス ミスなどの英国古典派経 済学者達の見方 も同様である。彼 らにとっては有形物を生産 しないサービス業 は基本的に国富の増加には寄与 しない不生産的活動であった。

5)漁業,林業,鉱業 も含む もの と解釈 して差 しつかえはない。

6)国民生産物の定義や尺度が,その時代 の社会の支配的な通念 に依存す るものである ことはSimonKuznetz "ModernEconomicGrowth"(1966)の中で も最 初 に言及 している点であ る。紀元前の古代社会において現代 とは全 く異なった人 間 の死生観が支配 している時に,労働の生産性を測定す る際,分母 にどのような範囲 の人 口を当て族めるべ きか, どのよ うな測定がその時代の人 々にとって了解を得や すいものであったか,予想 は困難であろう。あるいはまた,奴隷制経済の下に生産 が行われていた古代社会 において,人的労働力資源を略奪す ることは国富を増加 さ せ ること,即 ち生産資源の増加 として認識 されたことであろ う。 これを言 い換え る と,そ うした活動が生産活動 として認識 され るとい うことになる。生産の境界が社 会通念 に基づ く約束事であることは,いわゆる不法活動か らは国民所得 は形成 され ないという取 り決めか らも窺われ る。た とえば,麻薬を秘密裏 に生産 し,販売 した

として も,それは財貨の生産 とは見倣 さないのであ る。

(5)

マ クロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題

175

現在 は,生産的活動を もっと広範にとらえサー ビス業ばか りでな く,政府の 活動,病院 といった非営利団体による非市場経済活動を も生産的活動 と見倣 し ている。つまり非商品の生産を許容 している。

こうして振 り返 ると,時代が下 るに伴い,生産の境界の内側 はより広範なも のに拡大 してきていると言えるようである。

生産の境界が拡大 してきたと指摘 したが,勿論,現在で も生産的活動 とは認 識 されていない活動領域 も残 っている。たとえば,主婦による家事労働 は代表 的な例である。家事手伝いという職業に従事 していた女性が結婚 して家庭の主 婦 になると国民生産物 は減少す るという結果になって しまうOその他 にも, ・住 宅 について は帰属処理,つま り住宅資産を 自己保有 し自 らが居住す る場合で あって も,擬制的に自分 自身に賃貸 していると考える立場をとるが,同 じ帰属 処理を他の耐久消費財,例えば自動車,家庭電気製品等については,なぜ行わ ないのか, という疑問が残 ろう

現行体系では,そうした耐久消費財を保有 し て も最終消費支出の一環であると考え,投資が行われたとは考えない。また, 子弟が高等教育機関に就学す る場合を考えて も,理論的にはそれは有償の人的 投資 と捉え るべ きなのであるが,実際には投資的側面は無視 して消費活動であ ると認識す る。 したが って,修得 した専門知識を活用 して高い報酬を得て も, それは過去に投資 した分の回塀や投資収益 とは考えない。つまり生産活動 とし ては認知 されないという扱いになる。更に,自家菜園で栽培 した草花を近隣に 有償で提供す る場合 も基本的には消費活動 と考え られることになる。 これ らは 労働 というよりも本人 自身が満足を感 じる趣味の活動 と解釈 されるのである。

その他にも多 くの類似例を挙げることができよう

このように生産の境界をどこに設 けるかは,その社会の一般的通念に立脚 し て決め られるルールであると言える。 この点を投入産出表の枠組みの下で考え

ると,いかなる財貨サー ビスが行,列を構成するか という問題になる

歴史的

には,生産の境界が拡大されてきたわけで,その意味では国民経済計算体系は

常に拡大体系‑ と発展 してきた。 しか しなが ら,投入産出表の上で考えると,

生産の境界の拡大 と縮小 は単に方向が逆の操作 となり,双方 とも同 じ枠組みの

(6)

176 44 4

上で議論で きることが確認 される。そこで,次節では仮 に垂農主義経済学者の ように農業のみが生産的であると考える立場に立っ時に,投入産出表 とそれを 踏まえたマクロ勘定体系が どのように変更 されることになるかについて議論す

ることに しよう

( 2) 1 8 世

紀 重 農 主 義 経

済学者の投入産出表と勘定体系

重農主義

的 経 済 観 に 立 脚

するな らば生産概念に関 して次の命題を認めること に異論 は

少 な い で あ ろ

:7

)

公理 1

:農 業 , 林 業 , 水 産

業 ( 第 1次産業 と総称する)以外の活動は生産活

動 と は 解 釈 し な い 。

公理 1

に 加 え て 以 下 の 公 理 を

確認するべ きであろう。

公理 2

:財 貨 サ ‑ ビ ス は 生 産 活

動 によってのみ存在を開始 し,消費によって

の み 存 在 が 終 了 す る 。

公 理 3 :い か な る 体 系 にお いて も生 産 一分 配 ‑支出の恒 等 関係 は会 計上 成立 す る。

以 上 か ら次 の よ うな推 論 が 成 り立 っ 。先 ず ,第 1次産 業 以 外 か ら産 み 出 され た物 は財 貨 サ ー ビス と して認 知 され な い こ とに な る。公 理 2は生産 と消 費 を定 した もの と解 釈 で き るの で ,最 終 消 費 支 出 は生 産され た財 貨 サ ー ビスの みを み う る。 そ こで 農 業 生 産 物 の み が 消 費 に計 上 され る。 8)同 じ理 由 に よ り固 定資 本 形 成 も農 業 生 産 物 の み に限定 され る。 9)

しか し製 造 業 生 産 物 , サ ー ビス支 出が実 際 に行 われ た支 払 いで あ る こ とに変 りはな い。 しか しなが ら, これ らの支 払 は財 貨 サー ビスの購入 で はな く,坐

7)国民経済計算 体系 に対 す る公理 的接近 の必要性 は,Odd Aukrust,"An Ax‑

iomaticApproachtoNationalAccounting:AnOutline",Review ofln‑

comeandWealth,1966が提起 した方向である。

8)こうしないと会計上 の恒等式が崩れる。

9)固定資本形成の対象 となるのは考えに くいので実際には在庫品増減 とい う形を とろ う。 とすれば固定資本減耗 とい う記録項 目が消失す ることが予想 され る。木材など をどう考え るか とい う実際上の問題が残 されていることは否定で きない。

(7)

マ クロ勘定 の基礎 と標本統計利用の問題 177

産要素報酬で もないので,経常移転 と結論 しなければな らない。

分配面において も,先ず被用者報酬は農業従事主体か ら支払われた部分のみ が計上 されることになる

10)

。製造業従事主体か ら支払われた報酬 は経常移転支 払 となる。営業余剰 も農業以外には適用 されない。

資本ス トック概念 も変更される。土地 ( ‑耕地)は再生産不可能資産 として 認識 されるが,固定資産の中に機械設備等が含まれ ることはない。それ らは資 本形成の対象 として購入 され ることがありえないか らである。 したが って,磨 業においてす ら,資本収益概念が変更され る結果 となる。

以上の考察を図に示す と図

1

のように表現 されよう

1

次産業の比重が大 きく低下 した現代の経済において こうした変更を行 うとすれば,生産勘定に計 上 され る取引はごく小部分であり,大半の取引は経常移転の受け払いとして処 理 され ることになる。言い換えると,ほとん どの取引が所得支出勘定に計上 さ れる方式 となるが,そのためには現行の所得支出勘定では不十分であり,情報

農業 非農業 最終需要

農業

非農業

付加価値額

ゝ●

∴. ∴. 及 び

.∴ .

:■

企業

; 家計

:.

経常 、 蘇 の

'右 目̲圭.

家計部 門内 経常移転 家計部 門内 経常移転

:::

: : GD 移転

投入コス ト +

1

重農主義的投入産出表への再編成

10)生産のないところに雇用はないか らである。

一斗‑生産額

(8)

178 44 4

の喪失を避けるためには,農業部門一非農業部分の移転関係を詳細に表章す る 勘定設計を採用す るべ きであるという方向が出て こよう

更に,機械設備の残 高,増減などを参考表等の形で表章す るべ きであるという要請が強まろう

0

こうした考察か ら得 られることは,現在で も重農主義経済学者のルールに し たが って国民経済計算体系を設計することは不可能ではないが,そ うした変更

は勘定設計 と して は,所得支 出勘定 に過重 な負担 を負 わせ ることとな り,

GoodDesign

とは言えない。寧 ろ

BadAcconting

で あるとい うことで あ、

る。それは国民福祉の測定,国富の測定 と言 った目的に対応できないわけでは ないが,多 くの参考表,付表を必要 とし,体系の一貫性を単純な表章形式の下 に実現す るとい う望ま しい方向か ら逸脱す ると言わざるをえないのである。 l l )

(3)

国民総生産 ( GNP) に含まれる取引

現行の国民経済計算体系は言 うまで もな く重農主義経済学者達が立脚 した投 入産出表よりは遥かに広範な生産概念を基礎 としている。農業に加え製造業, 建設業,運輸業,商業,サー ビス業などが全て生産的活動 として認識 され,罪 商品の生産主体 として 「 政府サービス生産者」 と 「 対家計民間非営利サー ビス 生産者」が認知 されている

。12)

非商品生産の許容か らも察せ られるように、現行国民経済計算においては, 生産の境界 は市場取引よりも広範な範囲を包括 している。具体的に言 うと,市 場取引の態様 とは別の形で生産額や所得が帰属 されている領域がい くつか存在 す る。その代表的な項 目は( 1 ) 自己保有住宅に係わる住宅賃貸サービス

,(2)

損害 保険,生命保険の帰属サー ビスである。また,実際の取引主体 とは異なった主 体 に取引を帰属 させるリルーティング処理 も行われている.その例 としては、

医療保険の公費負担を家計最終消費支出 として処理 していることが挙 げ られ

ll)地球 も太陽 も動いているか ら地動説で も天動説で もどち らで もよい。 しか し,体系 を単純明快 に保つためには天動説 は不利であると述べ ることと類似 している。

12)非商品の生産額を推計す る場合,基礎価格情報が利用で きないので困難な問題が発 生す るが,現在では投入 コス トによって把握 している。

(9)

マ クロ勘定 の基礎 と標本統計利用の問題 179

る。

こうした帰属処理や リルーティング処理 は,財貨サー ビスの生産 と消費の把 握を通 じて,国民の福祉をより的確に捉えようとの目的か ら採用 されて きた面 が強いが

13)

もうーっ国民福祉の測定 とは別の側面か ら,帰属処理の必要性が指 摘で きることも事実である。たとえば,自己保有住宅に関 しては,住宅投資 と

いう資本形成項 目を認めた以上,それを用いた生産活動 と投資収益の発生を考 えざるをえないという経済的 ロジックか らの要請がある。

それではどの程度 まで経済的ロジックに忠実た りえるか と言えば, これ も一 般的通念に従 うとしか言えない。住宅建設 は資本形成であ りなが ら,なぜ 自動 車をはじめとする耐久消費財購入は資本形成ではないのか との疑問は当然に生 じうる。住宅を資本形成 とすれば住宅賃貸サー ビスを財貨サー ビスとして認知 しなければな らない。同様 に自動車を資本形成 として取 り扱えば,家計は自動 車賃貸サー ビスを消費す ると考えざるをえない。 このように,消費支出と資本 形成 との区分 は,帰属サー ビスの定義に直ちに結び付 く問題である。

14)

国民福祉測定のためのより的確な指標は何かとい う問題提起 と,体系の論理 整合性を維持することか らの要請の双方を考慮 しなが ら, これまで様々の拡大 国民経済計算体系が模索 されてきた。次に,国民経済計算の拡大体系の問題を 取 り上 げよう。

(4)

国民福祉指標測定の方向への拡大体系 と制約

より広範な生産概念に立脚 した拡大国民経済計算体系については,今 日まで

13)東京 と大阪に住んでいる二人が一時的理由か ら互いの自宅を借 り受け転居す るとす れば,その間は家賃が陽表的に発生す るため国民所得 は増加す る。 しか し, この二 人が元の居住地に復帰すれば, もはや家賃を支払 う義務はないのでその分だけ国民 所得 は低下す る。 こうした事態 は国民福祉の測定上回避す るべ きであろ う。

14)

こうした推論は 《在庫品は生産者 によって保有 される》 とい う公理 によって拘束 さ れ進め られたものである。つま り将来消費のためのス トックという概念が許容 され ていないのである。具体的には在庫 は製品,仕掛品,原材料,流通 とい う形態以外 の形態をとりえない。

(10)

180 44 4

様 々の試みがなされて きた。

Nordhaus

&

Tobin [1972]15)

は,

NIPA16)

に 基づ く

GNP

に政府 ・家計資産の帰属サービス,市場外活動 ( 主婦の家計内労 働) ,余暇の帰属消費額を加算 し,取引の性質か ら中間消費 と見なされ るべ き 項 目や不効用に対応 した項 目を除外 し, 国民福祉指標ない し

Measureof丑co‑

nomicWelfare (MEW )

を試算 した。

Jorgenson&Fraumeni[1980

],

Jorgenson& Chiristensen [1969

,

1973

]1 7 ) では,消費,投資に関 して極めて広範な概念設計の下で試算が行われ た。中で も新 しい試みは人的投資の推計である。彼 らの言 う人的投資は生産所 得 の現在価値総額の増減を意味す る。 したが って教育,

OJT

,移民の流入超 はすべて人的投資に該当す る

彼 らはまた余暇の帰属消費額を も含めている。

Jorgenson

を中心、 とす る試みは拡大体系への試みの中で も最 も広範な生産概 念を採 った ものであると言える。

この他 にも,

Kendrick

,

Ruggles

,

Eisner

等 によ り多 くの試みがなされ ている

。18)

これ らの試みはすべて福祉測定上の必要性,あるいは生産性測定上の必要性

15)Nordhaus

,

W.D.andTobin,∫.

,

"Isgrowthobsolete?",in ''Themea‑

surementofeconomicandsocialperformance''ed.byMoss,M.(1973) は国民福祉指標の測定への噂矢 となった文献である。

16)NationallncomeandProductAccountsbyU.S.

17)Fraumeni,B.M.and Jorgenson,D.W.

,

''Theroleofcapitalin U.S.

economicgrowth,1948‑76''in ''Capital,efficiencyandgrowth"ed.by G.YonFurstenberg (1980),Christensen,L R.andJorgenson,D.W.

,

"ThemeasurementofU.S.realcapitalinput,1929‑1967''.Review of lncome and Wealth 31(3),1969 ;Chiristensen,L R.and Jorgenson

,

D.W.,"Measuring economicperformance in the private sector".in

"The measurment of economic and social performance'' ed. by M.Moss(1973)等 々の文献を参照の こと。

18)Kendrick,∫.W.,''Economicaccountsandtheiruses" (1972);Kendrick

,

J.W.,"The formation ofstocks oftotalcapital" (1976);Kendrick, J.W.,"ExpandingImputedvaluesinthenationalincomeandproduct accounts'',Review oflncomeandWealth25(4),1979;Ruggles.R.and RugglesN.D.,"Integrated economicaccountsfortheUnited Staes, 1947‑1980'',SurveyofCurrentBusiness,62(5),1982;R.Eisner''Theto‑

talincomessystem accounts",(1989)等 々の文献を参照の こと。

(11)

マ クロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題 181

か ら生産の境界を拡大す ることが不可欠であるとの議論か ら出発 している

。19)

村 費支 出

耐久消費財 帰属サービス

2

耐久消費財帰属用役を含んだ拡張投入産出表への再編成

最 も単純な事例 として耐久消貴財購入を家計最終消費支出ではな く,家計に

よる固定資本形成 として計上す る方式に変更 したとしよう

その動機 となるの

は,耐久消費財の購入額は消費者に もた らす効用の指標 としては不十分であ

り,より適切な指標はそれ ら耐久財か ら毎期得 られるサービスである, との認

識である。耐久消費財の取 り扱い変更を図示 したのが図 2である。同図に示さ

れているように耐久消費財ス トックは,生産のための資本ス トックとして認識

されることになる。 というのは,現在の

SNA

においては,家計部門は非法人

企業の存在を除外すると純然たる消費主体 として認識 されてお り,加えて,翌

期の消費のための在庫を保有する可能性を考慮 していないことか ら ( つまり在

庫 はすべて生産過程において保有され る) ,ス トックを保有す るとすればそれ

19)国民経済計算体系の拡大 と生産性測定がなぜ関連す るかといえば,たとえば,研究 開発経費 (R&D :ResearchandDevelopment)の取 り扱いがある。現行体 系では,R&D経費は中間投入であるが,仮にこれ らを固定資本形成 として計上す る方式に変更す ると,R&D経費 は利益処分つまり営業余剰を構成することとな る。その結果,付加価値生産性は上方に修正 されることになる。

(12)

182 44 4

は生産のためであると考えざるをえないか らである

。20)

よって耐久消費財を最終消費財ではないと認識す るとすれば,それは固定資 本形成 とな らざるをえず,その目的はサー ビスを生産す るためであると考えざ るをえない。それは家計内生産 ということではあるが,既述 したように,純家 計

(apurehousehold)が生産活動 に携わることはないと考えているので,

一連の痛属処理 埠,活動別分類では耐久消費財賃貸サー ビスの生産,制度部門 別分類では家計部門の中の個人企業 として位置づけられ ることになる. 0

それでは

Jorgen,son& Fraumeni

流 の人的投資の取 り扱 いはどうなる か ?こ甲問題 は,耐久消費財 に比較すると遥かに実現が困難である。 とい うの は, この場合 も教育支由を通 じて専門的な知識技能を修得することは,生産活 動のための投資であることか ら,教育を受けた個人か ら構成 される家計 は,専 門的技術サー ビスを販売す るもの と考えざるをえない

。2

1 ) そ うした場合,当然 に営業余剰 と資本消費が発生する。また中間投入 も生 じる。一体,人的資本の 固定資本減耗をいかに して推計すればよいのか ?それが知識 ・情報の有用性に 依存 していることか らその推計には相当の困難が予想 され る。そ もそも,人的 資本サービスの生産額をどのように捉えるかが既に大変困難な問題である。そ の推計に応 じて,各産業 と政府,非営利団体において支払われた被用者報酬が 全般的に調整 されることになるので,広範 に影響が及ぶ ことになる。

このように拡大国民経済計算 と言 って も,それを実現す る際には,データの 利用可能性を別に して も,概念上の種々の問題が発生することが分かる。

(5)

何のための国民経済計算か

それでは国民経済計算を推計 し整備す ることにはどのような意義があると考

20)耐久消費財購入の性格を最 も的確 に表現するな らば現在消費 と将来消費のまとめ買 いであると言えよ う。つまり耐久財ス トックは消費のための在庫品 とい うことにな る。

21)教育を受 けること自体か ら満足を感 じるな らば,教育支出は最終消費支出として解 釈 した方が適切である。 このことも教育支出の取 り扱いを複雑 にする理 由となって

いる。

(13)

マ クロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題 183

えるべ きであろうか。それが単 にその時代の社会通念にしたが って決め られた 生産概念に基づ くものであるとすれば一定の限 られた役立ち しか持たないと考 えるべ きであろうか。だとした ら,巨大な人的 ・非人的資源を穣下 して国民経 済計算を整備す る必要性があるのであろうか。

国民経済計算に対す る根本的な疑念 に対 して

22)

オールソンは歴史的事実の記 録,マクロ経済分析,国民経済予算の作成を主たる用途 として掲げている。.し か し同時にオールソンは各 目的に応 じて一様 に役立っような国民経済計算体系l の可能性に対 して極めて否定的である。彼にとって国民経済計算論 とは勘定の 設計 と体系の構築 とい うことであった。

こうした視点に立っ とき,国民経済計算体系の重要 な機能 として少な‑ くとも 認めな くてはな らない点がある。一つは,同体系が諸統計のマクロ的整合性を 維持す る上の枠組みとして機能 していることである。換言す ると,公理系 とそ こか ら導かれる恒等式制約を利用 して取引の整合的な記録を可能にす る働 きで ある。 もう一つは,実際に国民経済計算を推計す る際において行われる ̲ 《デー タ判断 とデータ利用》を整合的な らしめる働 きである。どのような国のどのよ うな

SNA

集計構造において も, 所与の統計環境

(statisticalenviroqment)

の 下で行われている 「データ判断」が実際のデータ処理過程の前段階でなされて いることは重要である。整合的なマクロ勘定体系は,マクロデータの整合性を 要求す るがために,実際に様 々の統計データ利用方法を拘束するのである。

いっ くかの異なったソ∵スか ら収集 し, これを組合せて集計データを作 っ七 時は,単一のソースによる集計 よりも高い信頼性をえ ることができることが多 い。その意味では最 も信頼性の高い 『 統計複合体』が国民経済計算統計であろ と言 って もよい。

国民経済計算の実践的側面か ら考えた場合,非常に重要な機能は利用可能な 統計情報の琴択 と利用を行 うに際 して論理的制約 として働 く点である。そ うし

た制約がなければ情報利用の選択範囲は無際限に拡大することになろう。

22)IngvarOhlsson[1953]は国民経済計算体系への理解を深めるためにはその薫 り 高い叙述 ともども現在 もなお必読の参考文献であると言える。

(14)

184 44 4

マイクロデータ利用の問題

最近,国民経済計算 に要請 され ることとして,よ り詳細な情報の開示があ る。よ り細かな部門分類,品 目分類, クロス分類情報の提供 には非常に強い要 望が寄せ られている。 こうした詳細情報の提供をいかに して実現す るかという 問題を考える際,そ こには二通 りの接近がありうる。一つは集計 レベルでの部 門細分化 とい う方向であり,他方はマイクロデータセ ッ トの活用である。前者 の部門細分化については,それぞれの国の統計情報の信頼性,基礎データの利 用可能性が制約条件になる。 この問題 については一般的な議論は難 しい。本稿 では後者のマイクロデータの利用 とい う点に話題を絞 ることに しよう

そ して 特に家計部門の観点か ら議論を進める。

(1)

巨視的勘定と微視的情報の連結

より詳細な国民経済計算情報への要請は,分布統計構想

23)

で も示 された方向 だが, この点 は,今般の

SNA

改訂作業において も当初か ら認識 されていた。

SNA

改訂作業に関す る倉林義正国連統計局長 ( 当時)よ りの提案

24)

に対す るコメン トとして,Ri

chardStone

は四つの希望を表明 しているが,その第

1

に,

''Anintegrationofmacroandmicrodataonthelinesofthe worksbyRichardandNancyRuggles"

を挙げている。

ここで言及 されているRi

cbardandNancyRuggles

が取 り組んできた研 究作業 に一貫 して流れているのは,SNA 上の部門細分割

(disaggregation)

によって供給 しえないタイプのデータとして,標本データが存在す ること,更 に,そ うした標本データが供給する情報の有効性を積極的に活用すべきこと‑

の力点である。

Ruggles

は,マイクロデータとマクロデータとの接合を今後の国民経済計 算発展の方向 としてのみな らず,現行

SNA体系に対置 ・代替すべ き方向 とし 23)UnitedNations[1977

]を参照のこと。

24)Kurabayashi,Y.[1986

]を参照のこと。

(15)

マクロ勘定の基礎と標本統計利用の問題

185

て構想 している。そ して,その実現に際 して双方のデータ間に立ち現れる様 々 の概念上の問題を 「マクロとマイクロの間の断層

(macro‑microsplit)

と 称 し, これが近年の経済学が直面 している最大の問題の一つである 「データ問 題

(data problem)」で あ る と述 べ て い る。 25)

こ う した考 え方 に沿 って,

Ruggles

は取引一取引者原則,帰属処理の回避等を提唱 しているが,彼の思 想 は

MonetaryTransaction

CoreAccount

に要約す るコア勘定構想 に

も反映 しているといえる

。26)

Ruggles

が構想 したよ うな方向に沿 って,

micro一mes0‑macro

とい う各 集計 レベルを縦断する多段階の統合データ体系を設計 し,種々の統計情報を全 体 として整合的に取 り扱おうという視点 は,その後国連か ら公表 された 「 社会

・経済 ・人 口統計用統合デ‑タベースの開発」の中の次のような記述か らも窺 うことが可能である.即 ち,「 社会的データと経済的データとの内部的関係 一 連係

(links)

‑を考える時,まず強調す る必要があるのは,マイクロデータと 集計デ‑夕との論理的な概念上の関係である。双方 とももちろん絶対的な概念 でな く,相対的な ものである。 ・・・データのスペク トルは最小の個別単位か ら最大の集計値に至るまで,一つの連続体をな している。本報告では'マイク ロデータ" とい う語 は収集後まだ集計 されていないか,またはそれ と同等の状 態にあり,収集時にもっていた実質的な情報を保持 しているデータの ことを意 味 している。また,"集計' 'という用語 はマイクロデータの加算またはそのマ イクロデータと同様の単位 との組合せによって求め られたあ らゆる集約を意味 す る ・・・

[10]」。2

7 )更に,「 集計構造 と整合的なマイ クロデータの組合せを 現実に作れば,そのセ ッ トはかな り有益な効果をマイクロデータと集計構造の 双方 にもた らすのであって,その際,調整の負担 は必ず しもマイクロデータの

25)Ruggles,R.andRuggles,N.D. [1986]を参照の こと。

26)コア勘定構想 に関 しては,C.A.vanBochoveandH.K.vanTuinen,''Flex‑

ibilityintheNextSNA :theCaseforanInstitutionalCore",Review oH ncomeandWealth,Series32Number2,1986Juneが基本 的な文献で

ある。

27)UnitedNations[1979]を参照せよ。

(16)

186 44 4

方のみにかか るわけではな く,概念の調整 と統計の調整の両者がマイクロデー タと集計構造の双方で必要 とな る。集計データがマイクロデータの現実の集計 か ら生 まれた ものではない場合 には,その集計構造をマイクロレベルで再生す ることは困難であって, このよ うな場合 は,マイクロデータの修正ではな く集 計概念の調整の方が要求 され るであろう。 [ 1 1

]

」いかな る集計データも理論上 は何等かのマイクロデ‑夕に基礎を有す るものであるO したが って,「 既成の 集計構造 については,それがいかなるものであって も, これを概念的に構成 し ている部分,部分であるマイクロデータと関連づけることがで きなければな ら ない。

[12]」

(2)

福祉への微視的接近の必要性

前節で述べた

"RugglesApproach''

ではマイクロデータが非常 に本質的 なデータ形態 となる。所要の概念上かつ計数上の調整を経て実際にそのような マクロ‑メゾ‑マイクロ ・データセ ッ トが構築 されたな らば多大の恩恵を各方 面 にもた らすであろ う

マイクロデータへの注 目は別の方面か らもなされている。第 Ⅱ節で も述べた よ うに国民経済計算体系の基礎 とな る生産 の境界概念 は,国民 の福祉が何 に よって規定 され るか とい う考察 に深 く係わるものである。最近注 目されつつあ る問題 は,集計量 としての国民福祉ではな く,福祉の分配面である。勿論,辛 福 に暮 らしているかどうか とい う質問は本質的に心理学的な ものであ り定量化 す ること自体が困難であろう

ここでい う福祉 とい うのは,生活の経済的な側 面,即ち財貨サー ビスを利用す ることによって得 られ る満足感ない し効用に着 目 した上 での概念であ る。言 い換え ると,国民経済計算で示 され る所得 にせ よ,消費支出にせよ,それを個別世帯にまで細分 した推計値が利用で きた場合 に,それ らの計数 は各世帯の福祉水準を十分正確 に計測す るものであるのか ど

うか, という問い掛 けである。

この問題 は,世帯属性を織 り込んだ消費者行動分析 という枠組みの中で,最

近非常に研究が活発 にな ってきた領域である。データとして 「 家計調査」など

(17)

マクロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題

187

の個票情報を使用す るので

BudgetAnalysis

とも呼ばれている。今 日までの 数多 い研究の中で,

R.G.D.Allen

&

A.L.Bowley"FamilyExpendi ture" (1955)

は古典的な業績 と して著名で あ る。 また,家計分析 の噂矢 と なった

E.Engel"DieProduktionundConsumptionsverhaeltnissedes KoenigreichsSachsen"(1857)

の存在 も忘れ るべ きではない。

個票データあるいはマイクロデータを用いるのは,集計値 とは異な り,各観 察対象 ごとに多 くの質的量的変数が同時に分析 されるためである

子供が誕生 して世帯人員数が増加 した時に,支出行動 はどのように変化す るか,教育支出 は本当に家計に対す る負担 として考えてよいのか,それ とも単 に教育の所得弾 力性が高いがために以前 に比べれば,教育支出の割合が上昇 しているに過 ぎな いのか,老人同居者がいる世帯では貯蓄率が高 くなるのか低 くなるのか,など マイクロデータを使用 して初めて詳細な分析が可能になる問題 は多い.

(3)

家計部門マイクロデータの利用事例

現在, この他,様 々の視点 に基づ きマイクロデータを利周 した分析が進め ら れている。その中か ら

(a)

児童の養育費用の計測

,(b)

マイクロデータの品質の問 題 について,最近筆者の行 った計算の結果を紹介 してお こう

(a)

児童の養育費用の計測

児童の養育費用を計測す るとい う作業が,多 くの実証経済学者 によ って試み られている

理論的に考えると,費用 とい うのは補償所得 とい う概念によって 計測 され る

つま り,子供が誕生 して低下 した両親の効用水準を元の状態に復 す るために必要 とされ る追加所得 とい う概念である。 しか しなが ら,そ もそ も 子供が誕生 して嬉 しいという両親が多数である状況に目を向けると, こうした 視点か ら子供一人の費用を定義す ることは難 しいことが分か る。

とは言え,子供一人が増えれば,所得を一定に保つ限 り,一人当 りの所得 は

低下す る。食費は嵩み,そのためにエ ンゲル係数 は上昇す る。その分,両親 は

被服費を抑えた り,娯楽費を削 った りす る。 ここか ら,エ ンゲル係数の高 さは

(18)

188 44 4

両親の感 じる効用水準を示す指標 とな りうるという考え方が出て くる。あるい は別の考え方 として,成人の効用はエ ンゲル係数ではな く,成人財,たとえば スポーツ観覧料,アル コール ・煙草消費量, 書籍購入料, 被服購入料 などによっ て測 るべ きであるとの視点 もあ りえよ う。更には,子供が増えれば,確かに一 人当 り所得 は低下す るので節約 しなければな らないが,煙草や酒類 は子供 とは 関係がないので相対的に割安 に感 じて,行楽,その他の娯楽サー ビス消費を節 約 して,煙草 ・酒類に耽 るという影響 も否定 されるところではない。

この場合,世帯の効用を基本的な枠組み と して家計分析を行 うわ けであ る が,考慮 してお くべ き点 は,その効用 は両親の持っ効用であることである。 こ の ことと,効用な り福祉な りと称 して も,それは両親の感 じる幸福感その もの よりはず っと限定的な概念であることも繰 り返 して言 うべ きであろ う

そこで,

Deaton

,

A.S.andMuellbauer,J.[1986]

に したが って,両 親の効用関数を

U

‑f

(q,a)U :

両親の効用水準,

q :

世帯 による消費ベ ク トル,

α :

世帯属性

とした上で,児童の誕生前後で U を一定 に維持す るためには総支出が どのよう な制約を充足 しなければな らないか, とい う具合 に問題を定式化す る。 しか し なが ら, こうした定式化の下で も,実際に観測 され る単一の需要データか ら効 用関数の母数を同定す ることは,一般 には不可能であることが知 られている。

そ こで,頻繁に利用 されてきた方法 として,エ ンゲル係数が同一水準にある複 数の世帯 は同一の生活水準 にあると考え るエ ンゲル

(Enge

l )法 と紳士 ・婦人 用品,酒 ・煙草類,音楽観賞用 レコー ド等,児童 と共用 しない成人財への支 出 額が同一である世帯 は,同一の生活水準にあると考えれば児童増加の もた らす 所得効果が計測 しうると考 え るロスバース

(Rothbarth)

法 の二つが挙 げ ら れる

筆者が,

1984

年 「 全国消費実態調査特別集計結果」を利用 して行 った試算

結果によれば,標準世帯を 「 夫婦のみか らなる

2

人世帯で両者 とも

24‑59

歳,

世帯主年齢が

30‑39

歳,就業人員 は

1

名,世帯主職業 は官公庁 ・民間職員,市

(19)

マクロ勘定の基礎と標本統計利用の問題

189

営 ・公社 ・公団賃貸住宅ない し社宅に居住 している世帯」 として,

5

歳未満の 児童が 1人増え る場合の総支 出額 は標準世帯 に比 して, ロスバ ース法

28)

で は

1.1

倍,エ ンゲル法で は

1.2

倍 になる。換言す ると,上記標準世帯 にとっては, その年齢階層の児童は成人

1

人 に比べて20

‑40%の経費を必要 とす るとの結論

が得 られ る。

理論的に考察す ると,エ ンゲル法では養育経費を過大評価, ロスバース法で は過小評価す る傾向のあることが判明す るか ら,実際には両者の中間の値を採 用す ることが適 当である

。29)

この種 の計算結果 は福祉政策の一環 としての児童 手当給付等の妥 当性を吟味す る際にも有用な情報 となろう

(b)

マイクロデータの品質

マイ クロデータを利用 した児童養育経費 あるいは

EquivaleneeScales

の 推定,

PovertyLine

の推定等を行 うに して も,利用す る統計調査情報が単一 の情報源 として どの程度 までの信頼性な り

Quality

を有 しているかが非常 に 重要 となる。 この点 に関連 して,よ く引合に出され る問題点 に触れてみたい。

( 1) 過小記入

(Underreporting)

の問題。家計調査 と言 って も,同一の世 帯が何年 も継続 して調査 に協力す ることは先ず考え られないことである。我 が国の「 家計調査」の場合,同一世帯が調査 に協力す る期間は半年間である。

「 全国消費実態調査」の場合 は更に短 く

3

箇月間である。 こうした短期間の 調査を行 う場合,購入頻度の非常 に低 い耐久消費財などの購入に関 しては, 多 くの世帯 はゼロ支出を記入す ることになる

また,そ もそ も一時的な高額 支出は消費で はな く,投資のように考えて記入を控える世帯の存在 も無視で きない

。30)

こうした特徴 は分析 を複雑化 させ る原因 となってお り,家計調査

28)

今回の試算では 「 紳士 ・婦人用被服」 ,「 酒類」 ,「 煙草」 ,「 世帯主小遣い」を純成人

財 として解釈 して, これ らの品 目に対するエ ンゲル関数を

Working‑Leser Model

に特定化 して計算を進めた。

29)拙稿 "Onmeasuringequivalencescales:aJapanesecase" (mimeo.) 30)

たとえば北海道居住

2370

世帯について言えば,調査対象期間の

3

箇月で実際に自

動車を購入 した世帯は僅かに

38

世帯となっている。これは自動車の購入確率が

1.6%

(20)

190 44 4

情報 に は過小バ イアスがあ ることが指摘 されてい る

。3

1 ) この問題 は

Budget Analysis

全般 に対 して大 きな障壁 と して立ち塞が る

。32)

( U) 一時的支 出をどのように扱 うか。耐久消費財 は一種のま とめ買 いとして 解釈で きるので,標本平均 は耐久消費財の もた らすサー ビス消費額 として考 え ることも,それ ほど不適当な ことで はない。 しか し,旅行,冠婚葬祭費な どの一過性の高額支出を耐久消費財 と同様 に考 えて扱 ってよいのか とい う問 題があ る

そ もそ も,耐久消費財購入 によって総支出が増加 した世帯 と食費 のよ うな恒常的支 出によって高額の総支出の観測 され る世帯 と同列 に扱 って よいのか とい う指摘 もある し,その食費に した ところで,外食費が不規則 に 高額な世帯の例 もある。外食が,一時的に高額 に達 した理 由 として特別の事 情が存在す るのではあろうが,その点 を区別す るための情報が採れ ることは 通常不可能であ る。

ま と め

本稿で は,先ずマ クロ勘定設計 の基礎 となる生産概念が,必ず しも国民経済 計算情報の提供を束縛す るもので はな く,寧 ろ重要 とな るのは個 々の統計情報 を複合使用す る上でのデータ判断であることを議論 した。その際,各 々の統計 情報 の特性 を十分 に分析す ることが望 ま しい。 ここでは,従来か ら頻繁 に利用 ということであり,仮に同一自動車の平均使用年数を

7

年としても多少低すぎる値 である ( 一様分布を想定すると

,1984

年当時の乗用車普及率が

64.8%

であったこ

‑」 とを勘案 して,

3

箇月の間に買替え時期を迎える世帯は全体の

2.3%

程度は存在す るはずである) 0

31)Maki,A.andNishiyama,S.[1993

]では耐久消費財を中心に概ね家計調査 ベースの消費支出は国民経済計算ベースの家計最終消費支出に比べて概念調整後で

80%

程度の水準にとどまるとの結果が得 られている。

82)DeAton,A.SandIrish

,

M [1984

]では

,Underreportingmodel

及びそれ と同等な

Infrequentpurchasemodel

に関 して

BinaryCensoringProcess Model

を構成 した上で,英国家計調査結果を使用 して トービット分析を行ってい

る。しかし,モデルが想定するよりは少ないゼロ支出記入 しか観察されないという

驚 くべき結果が得 られている。マイクロデータ使用に関 しては他にも様々の障害や

謎が残されているようである。

(21)

マクロ勘定の基礎 と標本統計利用の問題

191

されてきた家計部門マイクロデ‑夕の過小性 について注意を要す ることに言及

した。更 に,マクロデータでは提供 しえない情報をマイクロデータが含んでお り,その ことか ら,新たな問題 に対 して実証的に接近す ることが可能 になるこ とにも触れた。 しか し, これ らはバイアスを含む原データをそのまま利用 した ものであ り,よ り理想的に言えば,中間段階で他の統計情報 と調整 し,十分に 高品質のマイクロ‑メゾ‑マクロ統計情報を整備す ることが望 ま しい ことは言

うまで もないことである

参照

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