フランスにおけるパートタイム労働法制の展開 : 多様な利益調和とワークシェアリング
著者 川口 美貴
雑誌名 靜岡大学法経研究
巻 44
号 3
ページ 47‑128
発行年 1995‑11‑30
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00008698
フ ラ ン ス にお け る パ ー ト タ イ ム労 働 法 制 の展 開
︱ 多 様 な 利 益 調 和 と ワー ク シ アェ リ ング ー
川 口 美 貴
︿目次﹀
はじめに
一 柔軟化と労働者保護
1 労働時制の多様化
︵A︶年単位のパートタイム労働時制
︵B︶数年単位のパートタイム労働時制 2 パートタイム労働の枠組み
︵A︶企業への導入
︵B︶労働契約の締結・更改
︵C︶労働契約の形式
フラ スン にお ける パー タト イム 労働 法制 の展 開 四七
法経研究四四巻三号︵一九九五年︶
︵D︶労働時間
3 小括
機能の多様化
1 職業生活と私生活の調和
︵A︶職業生活と家庭生活の調和
︵B︶職業生活から引退への円滑な移行
2 失業問題の克服
︵A︶職業生活接近への援助
︵B︶経済的解雇の回避
︵C︶雇用創出とワークシェアリングの実現 3 小括
誘導と促進
1 負担の均衡化
︵A︶従業員数の算定
︵B︶社会保障保険料算定基礎の減額
2 負担の軽減
︵A︶使用者負担社会保険料の一部免除
︵B︶複数の社会保険料免除の適用
′ヽ
︵C
︶ 補 足 手 当 に関 す る社 会 的 負 担 免 除
︵D
︶ 雇 用 連 帯 契 約 にお け る社 会 的 負 担 免 除 3 小 括 残 され た課 題
︱ む す び かに え て はじ
め に 1
フラ ン スに おけ る パー ト タイ ム労 働法 制 の展 開 近年 フラ ン スに お い
て︑
パー タト イ ム労 働
は︑
様 々な 利益 を 調和 し 社︑ 会 の諸 課 題を 解 決 し う る手 段と し
て︑
大 き な 期 待 を 担 てっ い
る︒
す な わち 労︑ 働者 のよ り自 由 な時 間編 成 と他 の諸 活 動と の調 和 企︑ 業 にお け 労る 働 時間 編成 の柔 軟 化 と 生産 性 の向 上 労︑ 働 者 家の 族的 責 任 と職 業 生活 の両 立 職︑ 業 生活 か 引ら 退 のへ 円滑 な移 行
︑ 職就 困難 者 の訓 練 と職 業 活動 参 加 への 援 助 経︑ 済的 解 雇 の代 替 措 置 雇︑ 用 の創 出
︑ そし
て︑
ワー ク シ アェ リ ング 実の 現 と失 業問 題 克の 服
︑ で あ
る︒
フ ラ ン スに お け る パ ー タト イ ム労 働 に関 す る立 法 は︑ 一九 七 三年 二一 月 二七 日 の法 律 さに か のぼ るが 最︑ 初 の本 格 的 な パ ー トタ イ ム労 働 立法
は︑
九一 八 一年 月一 八二 日 の法 律 あで
る︒
同法 は︑ 一九 八 二年 月二 二六 日 の オ ル ド ナ ン スに よ り改 正 され
︑ パー タト イ ム労 働 の 一般 的 規整 の枠 組 みが つく れら た し︒ かし な が
ら︑
そ の後 も 一︑ 九 八 六年 月八 一 一 フラ スン おに るけ パー タト イム 労働 法制 の展 開 四九
法経 研究 四四 巻三 号2 九九 五年
︶ 五〇 日 のオ ルド ナ ン ス︑ 一九 九 一年 一月 三日 の法 律 ︑ 一九 九 二年 一二 月 二 一日 の法 律
︑ 一九 九 二年 一二 月 二〇 日 労の 働
︑ 雇
用︑
職 業教 育 に関 す る五 か年 法 ︑ 一九 九 四年 月七 二五 日 の家 族 に関 す る法 律等
︑ パー ト イタ ム労 働 制法 に つい ては
︑ 多 く の立 法 改︑ 正 が な され 現︑ 在 に いた てっ るい
︒ フラ ンス にお け る パ ート イタ ム労 働法 制 の展 開
は︑
前述 のよ うな 多 様 な期 待 に応 え る くべ
︑ 以下 のよ うな 二 つの 大 き な流 れ によ てっ 特徴 づ け られ ると 思 われ
る︒
す な わち
︑ パ ート タイ ム労 働 の柔 軟 化 と労 働 者 保護 の調 和
︑ パ ート イタ ム 労 働 の機 能 多の 様 化
︑ そし
て︑
パ ート イタ ム労 働 の誘 導と 促進
︑ であ
る︒
立法 者
は︑
第 一に
︑ 一方 で使 用者 の労 働 時 間編 成 にお け る柔 軟化 への 要望 他︑ 方 で労 働 者 の様 々な 理由 によ る短 時 間 労働 の希 望 の双 方 を 実 現 さ せ る労 形働 態 と し
て︑
パ ー タト イ ム労 働 を位 置 づ
け︑
そ の労 働時 制 多を 様化 たし 特︒
に︑
一 九 九 二年 一二 月 二〇 日 の五 か年 法
は︑
従来 の週 月︑ を算 定 基礎 とす る パ ート イタ ム労 働 制時 加に え
て︑
年を 算 定基 礎 と す る年 単 位 パ ー トタ イ ム労 働 制時 を導 入 し ま︑ た 段︑ 階 的早 期 退職 制 度 にお い ては 数︑ 年を 算 定基 礎 と する パ ート イタ 労ム 働時 制 の導 入 も行 たっ 他︒ 方
︑ パー トタ イ ム労 働 の導 入 労︑ 働契 約 の形 式 労︑ 働時 間 に つい ては
︑ 労働 者保 護 の基 本 的 枠 組 みを 維持 し つ
つ︑
規制 を 一定 緩 和 し
︑ パ ー タト イ ム労 働 の柔 軟化 と そ の発 展 図を てっ いる
︒ 第 二
に︑
立 法 者 は 特︑ 定 の目 的
・機 能を 担 う特 別 のタ イプ のパ ー トタ イ ム労 働 を発 展 さ
せ︑
家 族的 責 任を 有 す 労る 働 者 あ︑ る いは 高︑ 齢 者 の職 業 生 活と 私生 活 調の 和 を可 能 にす るも のと し
て︑
就職 困難 者 訓の 練 と職 業生 活 への 統合 の機 会 と し
て︑
あ る い
は︑
直 接 的 に雇 用 の維 持
・創 出 を実 現す る手 段と し
て︑
パー トタ イ ム労 働 を位 置 づ け て いる
︒ 具体 的 に
は︑
家 族 的 理由 に基 づ く パ ート タ イ ム労 働制 度 段︑ 階的 退職 制 度 職︑ 業生 活接 近 への 援 助 を 目的 とす る雇 用連 帯契
約︑
雇 用全 国 基金 のパ ー タト イ ム労 働 への 移 行 協定 に基 づく パー トタ イ ム労 働制 度 段︑ 階 的 早期 引 退制 度 等︑ が挙 げ られ よ
︐﹃ノ︒
第 二
に︑
立 法者
は︑
これ ら パ ート イタ ム労 働 を 発展 させ 雇︑ 用創 出
・ワ ーク シ アェ リ ング を 実 現す る ため
に︑
パ ート イタ ム労 働 導 入 の促 進政 策 展を 開 し て いる 具︒ 体的 に
は︑
パ ート タ イ 労ム 働 者 の使 用者 の負 担 を フル タ イ ム労 働 者 の使 用者 の負 担 と均 衡 化 す るた め の措 置 新︑ たな パー タト イ ム労 働 者 雇の 用等 に対 す
る︑
社会 保障 使の 者用 負担 保険 料 の 一 部 免 制除 度
︑ 同制 度 と法 定 最低 金賃 レベ のル 賃金 に関 す 家る 族 手当 保 険料 の軽 減 制度 と の同 時 適
用︑
家族 的 理由 基に づ く パ ー トタ イ ム転 者換 への 補 足 手当 に関 す 保る 険 料等 負 担 の免
除︑
雇 用連 帯契 約 にお け る社 会的 負担 の免 除 あで
る︒
こ のよ うな
︑ フラ スン にお け る パー トタ イ ム労 働 の位 置 づけ お︑ よび
︑ パ ート イタ ム労 働法 制 展の 開
は︑
わが 国 のパ ー タト イ ム労 働 法 制 を考 え てい く う え でも 興︑ 味深 い検 討対 象 あで ると いえ
る︒
なぜ な
ら︑
ラフ スン が
︑ パー ト イタ ム労 働 法 制 にお い
て︑
試 よみ うと し て いる こと す︑ な わ
ち︑
第 一に
︑ パー タト イ ム労 働 の柔 軟化 と労 者働 保 護 調の 和 第︑ 二
に︑
短 時 間労 働 と し ての パ ー トタ イ ム労 働 の特 徴 を生 か し ての 様︑ 々な 諸要 求 の実 現 第︑ 二
に︑
パー ト イタ ム労 働を 発 展 さ せ るた め の有 効 な 進促 政 策 実の 施
︑ そし
て︑
全 体 と し て のパ ー タト イ 労ム 働 の発 展 によ る ワー ク シ アェ リ ング の実 現 と 失業 問 題 の克 服
は︑
わ が 国 にお いて
も︑
現 在
の︑
ま た
は︑
将 来 課の 題 と な りう るか ら であ る 高︒ い失 業率 を背 景
に︑
ワー ク シ アェ リ ング 実の 現 が
︑ パ ート イタ ム労 働 政 策 の中 心的 柱 の つ一 あで
り︑
そ の要 求 が各 法 制度 にも 反映 し てい る フラ ン スと 相︑ 対的 に失 業 率 が 低
く︑
むし ろ パ ート タ イ ム労 働 者 の均 等 待 遇が パ ート タ イ 労ム 働法 制 の現 在 の中 心的 課 題 であ るわ が国 と では 事 情 異は な るも のの
︑ ラフ スン おに け る試 み の検 討 示が 唆 富に む こと には 変わ り はな いと 思 われ
20︒
した が てっ 本︑ 稿 にお い ては
︑ フラ スン おに い
て︑
多 様 利な 益 調和 と 用雇 創 出 の実 現 期の 待 担を う パ ート イタ ム労 働 と 法 制度 の展 開 に つき 特︑ に︑ 一九 九 二年 一二 月 二〇 日 の労 働 雇︑
用︑
職業 教 育 に関 す 五る 年か 法 と同 法 を 具体 的 実に 施 す る ため の適 用 クデ
レ︑
およ び 一︑ 九 九 四年 七 月 二五 日 の家 族 に関 す る法 律 によ る改 正 に焦 点 を あ なて が
ら︑
パー ト フラ スン にお ける パー タト イム 労働 法制 の展 開 五 一
法経研究四四巻三号貧九九五年
︶ 五二 タイム労働の柔軟化と労働者保護の調和︵一
︶ ︑ パートタイム労働の機能の多様化︵二
︶ ︑ パートタイム労働の誘導と促 進︵三
︶ ︑ の流れを検討することにしたい︒ パートタイム労働に関しては︑パートタイム労働者の待遇と地位︑すなわち︑その権利保護とフルタイム労働者との 平等原則︑社会保障法上の権利と義務等が︑課題となるもう一つの大きな柱であるが︑同課題についてはすでに詳細な 研究もあり︑本稿においてはさしあたりこれを検討の対象とはしない︒ 2 パートタイム労働の定義
なお︑本論に入る前に︑パートタイム労働の定義について︑若干のことを明らかにしておきたい︒パートタイム労働 の定義は︑後述するように︑その週︑月︑または︑年の労働時間数が︑同期間に法定労働時間または協約の定める労働 時間を適用して得られる時間の五分の四以下であるであること︵年を算定基礎とする場合はさらに法定休暇または協約 の定める休暇に対応する時間を差し引く︶である︒このような︑パートタイム労働の一般的法的定義の存在は︑フラン ス法の特徴であると思われる︒ ところで︑フランスにおいては︑﹁パートタイム労働﹂に類似する概念として﹁部分的失業︵魯0日︐ 電●留
o 中け¨とが ある︒﹁部分的失業﹂とは︑事業場の全部もしくは一部の一時的閉鎖︑または︑当該事業場で通常実施されている労働 時間の法定労働時間を下回る短縮により︑賃金の喪失を余儀なくされる状態である︒ どちらもその労働時間は法定労働時間より短いが︑パートタイム労働は﹁選択された﹂形態であり︑その決定は個別 的性質をもつが︑部分的失業は︑
・経済的理由により﹁強いた﹂られものであり企業の閉鎖や労働時間の短縮など集団︑