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中級日本語学習者に対する段階的文章指導法

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中級日本語学習者に対する段階的文章指導法

―論理に着目した談話構成指導とは―

An Instruction Method of Logical Writing for Intermediate Japanese Language Learners

文学研究科国際言語教育専攻修士課程修了 Toko Itaya

I. はじめに

中級日本語学習者が書いた文章の中には、どれだけ文法や語彙などの誤りを直しても読みにくい「ま とまりがない文章」がある。そのような文章は、文法や語彙、または漢字、文字、書式の問題を指導 しても改善されない。このことは、多くの研究でも指摘されている(樋口1996, 小森2006)。11 文は正確に書けるのに「まとまりがある文章」を書こうと思っても、なかなか書けないのはなぜか。

また、学習者が書きたいアイデアやメッセージを言語化し、文章として表現するまでのプロセスにお いて、教師ができるサポートのカギとなるものは何なのか。

以上のような問題意識のもと、本稿は、初級を一通り終えたもののまとまりのある文章が書けない 日本語学習者の一助とするため、論理に着目した一貫性・結束性の向上を目指す談話構成指導に関す る一案を示すことを目的とする。

Ⅱ. 現状分析

1. 「まとまりがない文章」とは

まず、文法や語彙を直してもわかりにくい「まとまりがない文章」とは、どのようなものなのであ ろうか。以下に、実際に中級日本語学習者が書いたまとまりがないと思われる文章①を示す。この文 章は、「留学するなら、一人暮らし・寮・ホームステイのどれが良いと思うか」というテーマで書かせ 250字程度の意見文1である。文法や語彙の誤りは、筆者が訂正した。また、下線部も筆者によるも のである。

1 2017年度前期に筆者が履修した「日本語教育実習」で中級日本語学習者が書いた文章。

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留学するなら、人に迷惑をかけたくないので、一人暮らしが一番いいと思います。私は今、

寮に住んでいるので、寮の生活はにぎやかで楽しいと感じますが、いくつかの問題がありま す。相部屋ですから、プライバシーがありませんし、料理をしたい時は、たまに他の人がキ ッチンを使っているから待つしかありません。それに、お風呂に入りたい時は、人がいっぱ いで入れない時もあります。その点で、寮の生活より一人暮らしの方が好きです。一方、一 人で住むと、さみしい時もありますから、寮に住むのは悪くないと思います。

文章①は、主張の方向性がばらばらで、焦点が定まっていない。そのため、読み手はこの文章の書 き手が何を言いたいのか、また、これから何を書こうとしているのかをつかみきれず、非常に読みに くい思いをすると考えられる。それは、下線が引かれた4か所を見ることでも分かる。はじめに「一 人暮らしが一番いいと思います」と述べているにもかかわらず、「一人暮らしの良さ」には全く触れず、

「寮の生活はにぎやかで楽しいと感じますが」と前置きをして、寮生活の問題点について述べている。

その後、「寮の生活より一人暮らしの方が好きです」と述べたかと思えば、すぐに「一人で住むと、さ みしい時もありますから、寮に住むのは悪くないと思います」と、問題点を列挙していた寮生活を擁 護する立場に回っているのである。このような文章は、読み手が理解するために必要以上の認知的負 荷をかけてしまっていると言える。

(1) なぜ「まとまりがない」のか

では、どうして文章①は、まとまりがなく、読み手にとって理解しにくい文章となってしまってい るのであろうか。本稿では、文章①の談話構成の流れが悪いことに注目したい。読み手は文章を理解 するために、先の展開を予測しながら読み進めると言われている。したがって理解しやすい文章とは、

読み手にその予測を容易にさせるもの、つまり、談話構成の流れが整っている文章であると思われる。

この文章中の談話構成の流れが悪いと、読み手が先の展開を予測しにくくなるため書き手の主張を読 み間違える可能性も出てきてしまう。

文章①も、書き手が主張したいことは、「一人暮らし」についてなのか、もしくは「寮生活」につい てなのかがわかりづらく、読み手にとって先の展開が予測しにくくなってしまっている。これは、談 話構成の流れが悪く、文章全体の流れが組み立てられていないことによると考えられる。

この談話構成は指導項目として、英語教育におけるライティングの分野でも注目されている。中学 生に対して英語でまとまりのある文章を書かせる指導について考察している大井(2012)は、中学校 の指導要領にdiscourse(談話)という視点が盛り込まれるようになったことを「歓迎したい」と述べ ている。このように、談話構成はまとまりがある文章を書かせるための指導項目として注目されてい るのである。

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(2) なぜ談話構成を意識できないのか

次に、なぜ談話構成の流れが悪い文章を書いてしまうのかという問題について考えてみたい。その 考えられる最も大きな理由は、書き手が頭に浮かんだことを思いついたままに述べてしまっているこ とではないだろうか。文章①も、思いついたままに述べた結果、「一人暮らし」が良いとは思ったけれ ども、現在「住んでいる寮」での経験を多く書いてしまったという感じが否めない。要するに、読み 手がどのように文章を読み進めるかについて、書き手の配慮が欠けてしまっているということである。

このような読み手に対する配慮がなされていない文章の問題については、多くの悪文研究でも取り上 げられている(永野1969; 佐竹1997; 中村2007)。文章を書くことは、相手を目の前に話をすること とは異なる。相手が目の前にいて話ができるならば、相手の様子を見ながら、重要なところを繰り返 したり、難しい部分がある場合は予告をしたり、ということをそのつど考えて行うことができる。さ らに、目の前にいる相手が話を理解することができなかった場合に「わからない」と伝えてくれるこ とも期待できる。しかし、このようなやり取りができないのが、文章によるコミュニケーションなの である。

文章というコミュニケーションにおいて、書き手と読み手の間でやり取りされるのは、書かれた文 章、つまり書き手からのメッセージだけである。したがって、書き手は自身の文章を読み手がどのよ うに読み進めていくのかを慎重に考えなければならない。言い換えれば、分かりやすい文章を書くカ ギは、書き手が読み手を最大限に意識して、配慮の行き届いた文章を書こうとすることだと言える。

このように考えると、頭に浮かんだことを思いついたままに述べるという書き手本位の文章は、読み 手にとって分かりやすい文章とならないことは当然である。文章を書く際に求められるのは、書き手 の頭の中で行われているプロセスをそのまま文字にすることではなく、伝えたいメッセージやアイデ アを整理して、最も分かりやすい形で読み手に提示することなのである。よって、配慮の行き届いた 文章を書こうとすることが、談話構成の流れを意識することにつながると言える。

2. 日本語学習者向け作文教科書の分析

ここからは、現在どのような文章指導が行われているのかを明らかにするため、日本語学習者向け 作文教科書の分析を行っていきたい。本節では、まず留学生教育における意見文を書く力の重要性に ついて述べ、さらに、母語話者への文章指導との違いを明確にする。そして、現状の作文教科書に見 られる課題を3点にわたって指摘する。その後、日本語学習者向け作文教科書をどう改善していくべ きかについて論じる。

(1)意見文を書く力の重要性

近年、日本の大学院へ進学を希望する日本語学習者の増加により、日本語教育の中でもアカデミッ ク・ジャパニーズの指導が注目されている。これはアカデミック・ジャパニーズの習得を目指す教科

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書が次々と出版されていることからも分かる。このアカデミック・ジャパニーズは、日本語学習者の 中でも特に、日本での大学進学を目指している学習者や、大学に入学した学部留学生にとって、どう しても習得しなければならない目標である。このアカデミック・ジャパニーズには講義を聴く力、専 門書を読む力、ディスカッションする力、そして発表する力などが含まれるが、中でも重要なのがレ ポートや論文を書く力であり、その出発点となるのが意見文の書き方である。意見文は、初級で習う

「一人称」を中心とした自分や家族の紹介などとは異なり、自身の意見を客観的かつ論理的に述べる ことが求められる。さらに書く内容も、抽象的なことを論じなければならないことが多い。このよう な学術の世界で求められるアカデミックな文章は、訓練されなければ書けるようにはならない。その 訓練として、初級で扱うような「一人称」を中心とした文章ではなく、意見文の文章指導を行うこと が、アカデミック・ジャパニーズの基礎として求められるのである。よって本節では、上記の観点に 基づき、意見文を書く力の育成に焦点を当てて、主要な日本語学習者向け作文教科書の分析を行って いくことにする。

(2)母語話者への文章指導との違い

日本語学習者向け作文教科書の分析を行うにあたり、母語話者への文章指導との違いを明らかにし ておきたい。日本語学習者に対して文章指導を行う時は、母語話者へ指導を行う時よりも、談話構成 や表現などの指導をより緻密に行わなければならない。まず、インプットを多く受けてきた母語話者 であれば「序論・本論・結論で書きましょう」というような指導だけで、それまでのインプットの蓄 積によって、だいたい「序論はこのような表現で書き出すことが多い」であったり、「書き出しの後は このような流れが自然だ」であったりなどと自分で判断することができる。だが、それと同じことを 日本語学習者に期待することはできない。

さらに、母語話者が考えて書くという作業を行う時、母語話者は頭の中にある多様な表現の中から、

最適な表現を選び取り、かつそれが適切かどうか自分でモニターすることもできる。つまり、日本語 母語話者は日本語で考えるのであるから、頭の中に浮かんだ語句や表現を整理していけば、そのまま 文章になっていくのである。しかし、第二言語学習者はそうではない。日本語学習者は、日本語で考 えること自体に慣れておらず、多くは母語で考えた内容を日本語に置き換えていく。このような学習 者にとって難しいのは、適切な語彙や表現を用いることだけでなく、日本語としてわかりやすく自然 な談話構成で、整った文章に仕上げることである。

したがって、インプット量が限定的で、さらに日本語で考えることに慣れていない日本語学習者に は、表現の指導でも、談話構成の指導でも、より意識的かつ段階的に細かく行っていかなければなら ない。例えば、談話構成指導であれば、1 つのまとまりを持つ談話の中に、どのような文をどのよう な順番で書いていけばよいのか、意図によって文の配列がどう変わるのか、配列が変わった時にどう やって結束性を高めるのかなどを考えさせながら、さまざまな談話構成の文が書き分けられるように

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丁寧に指導する必要があると考えられる。

(3)作文教科書に見られる課題の分析

本項では、日本語学習者向け作文教科書に見られる指導内容と指導方法の分析を行う。分析対象と する作文教科書は、中上級の学習者がレポートや論文などまとまりのある文章を書くための指導を行 っているものとする。よって、手紙やメールの書き方などの指導は分析から除く。この分析では、作 文教科書をいくつか取り上げ、改善すべきだと思われるところを3点にわたって指摘する。以下に、

3つの課題点を示す。

文レベルを中心とした指導 大まかな構成のみを示す指導

英語のパラグラフ・ライティングに頼った指導 ここから、上記の課題点を1つずつ検討していく。

①文レベルを中心とした指導

まず1つ目の課題点は、指導内容が語彙や文型など1文レベルあるいは2文レベルにとどまってし まっていることである。語彙や文型以外の談話構成を含む指導項目が重要であることは、広く認識さ れるようになってきたと言える。しかし実際には、効果的な談話構成指導が行われているようには見 えない。

このような作文教科書の例として、アカデミック・ジャパニーズの習得を目標としているアカデミ ック・ジャパニーズ研究会編(2015)を挙げる。この教科書は、中級日本語学習者を対象に「論文等 の構成や展開パターンに即した練習を積みかさねることによって、学術的文章の作成技術の獲得」(ア カデミック・ジャパニーズ研究会編 2015:3)を目指すとしている。指導内容としては、表現方法を機 能別に分け「理由・経過を述べる」「定義をする」「解決策を述べる」「手順を述べる」などの項目を扱 っている。このように、文章における1文の役割を機能で分け、さまざまな表現方法を取り上げてい る点は、日本語学習者にとって役に立つと考えられる。

しかし、それぞれの具体的な指導内容は、文レベルから抜け出せていないのではないかと思われる。

例えば、「理由・経過を述べる」章で扱われている理由表現の指導例を見てみたい。はじめに、さまざ まな理由表現の基本的な説明を確認した後、いくつかの練習問題が準備されている。提示されている 問題は、理由表現を使って2文を1文にしたり、すでに使用されている理由表現を他のものに変えた りという文を書き換える問題である。これらは、接続部分を考えたり、穴埋めをしたりという問題で あるが、この後、学習者に文を作らせる問題がある。そのうちのいくつかを以下に示す。

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書きましょう

1. __________。そのため、外食する人が増えている。

2. 高い車やマンションを買う人が少なくなっている。それは__________からだ。

3. 漢字が難しいのは、__________ためだ。

4. 若い人のことばはわかりにくい。なぜなら、__________からだ。

(アカデミック・ジャパニーズ研究会編 2015:41)

この問題では、すでに示されている内容から、学習者が適切な文を考えて書かなければならない。し かし、それはあくまでも文レベルである。作文指導としては、どういう文脈の時にそれを使用するか が重要である。たとえば、「そのため」を用いるには、それなりの文脈が必要になる。もし、問題提起 文が「外食する人が増えている理由はどこにあるのか」で始まった文章であれば、その結びは、「その ため…増えているのである」としなければ、不自然になってしまう。「そのため…増えている」が結び となるのであれば、それに対応する書き出しは「現在…いるが、それはどのような影響を及ぼしてい るのであろうか」というようなものになると思われる。つまり、作文指導の一部として行う文型指導 は、それなりの場面、文脈、意図、あるいは読み手との関係などを明示したものでなければ、効果的 とは言えないのである。

さらに、上記の練習問題の後には、教科書が示す6つの質問に答えて、それをもとに3段落の文章 を書かせるという問題がある。これら6つの質問とは、

1. 国の大学はどこですか。

2. どうしてその大学を選びましたか。

3. 大学に入ってから、生活はどう変わりましたか。

4. 大学にいる間にどんなことをしましたか。

5. 卒業して、日本へ来るまで何をしていましたか。

6. どうして日本へ来ることにしましたか。

(アカデミック・ジャパニーズ研究会編 2015:42)

である。教科書には、質問12の答えが第1段落に、質問34の答えが第2段落に、そして質問 56の答えが第3段落になると示されているが、それ以外の説明や解説は見られない。こうした練 習にはいくつかの問題点を指摘できる。まず、時系列で書けばよい練習であることから、指示された 順序で書くだけでは、自分で文の配列を考える必要がない。加えて、文の接続もあまり気にしなくて よい。要するに、この練習問題のように質問の答えをつないでいくだけでは、まとまりのある文章を 書く練習になりにくいのである。たしかに、思いつくままに文を書いてしまい、順序が前後してしま うような学習者にとっては、これでも内容整理の手助けになるかもしれない。しかし、多様な論理関 係を用いて論じることが求められるアカデミック・ジャパニーズの指導としては、複数の展開が可能

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な練習が必要であろう。

②大まかな構成のみを示す指導

次に2つ目の課題点は、構成について指導はしているものの、その示し方が大まかすぎるため、あ まり役に立っていないと思われる点である。構成について指導をしている作文教科書には「レポート は、序論・本論・結論で書きましょう」や「順序だてて構成を意識しながら書きましょう」などのよ うに示しているものが多い。しかし、これだけでは1つのまとまりを持つ談話の中に何をどのような 順番で書くべきか、また、その際によく使用される表現などが分からない。つまり、構成の指導を行 っているといっても、文章全体の大まかな構成を示すだけのものが少なくないのである。まとまりが ある談話が書けない日本語学習者のためには、例えば、実際の文章をモデルとして示し、そのモデル 文章に沿って談話構成や文同士のつなぎ方について示したり、フローチャートなどを用いながら、本 論を構成する要素の論理関係を示したりする工夫が必要となると思われる。しかし、現状では「まと まりのある談話を書かせるような構成指導」を扱っている作文教科書がほとんど見られない。中には、

パラグラフ・ライティング指導を取り上げている教科書もあるが、この指導法の問題点については、

次の③英語のパラグラフ・ライティングに頼った指導で述べる。

この問題の具体例として、段階的な指導により学術的なレポート作成力の育成を目指す佐々木ほか

(2006)を挙げたい。この作文教科書の構成を扱っている部分には、少子化をテーマに教科書に示さ れている資料を使って、レポートの構成案を完成させる練習問題がある。この構成案は、次のように 示されている。

〈序論〉

日本では子供の数が減少しているという

どのような状況か? なぜか? どうすればよいか?

〈本論〉

1段落(現状)

2段落(少子化の原因)

3段落(意識調査について)

〈結論〉

あなたの意見 (佐々木ほか 2006:51)

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ところどころ、ヒントとなる表現や使うべき資料の番号が補足はされているが、これだけでまとまり のある文章を書くことができる学習者は限られる。文章指導において、具体的な論理展開の型を学習 者に示すことが重要だとする長尾(1992)は、『序論・本論・結論』という形は、いかにも文章の展 開を示しているかのように見えるが[……]これが文章を書く際の参考になるとは考えられない。生徒 が苦心するのは、ここでいう『本論』の部分をどう展開するかの点である」(長尾 1992:28)と述べて いる。文章表現が苦手な学習者にとって必要なのは、詳細な文の配列とつなぎ方の指導である。学習 者のつまずきの原因は、どのように序論を書き始めればよいのか、問題提起はどう書けばよいのか、

少子化の原因を書くにはどのような書き方が効果的で説得力が増すのか、などの基本的なことが多い。

このように、文章構成という観点を取り入れている作文教科書であっても、学習者にとって必要な 知識や技術の指導が十分とは言えない。

③英語のパラグラフ・ライティングに頼った指導

3 つ目の課題点は、英語のパラグラフ・ライティングに頼ってしまい、より効果的な談話構成指導 となっていないと思われる点である。多くの教科書では、英語のパラグラフ・ライティングの考え方 が取り上げられている。パラグラフ・ライティングとは、1つのパラグラフに1つの内容しか書いて はいけないというルールのもと、その中心的な内容を表す「中心文」と、その中心文を支える「支持 文」を書いていくという英語のアカデミック・ライティング分野で発達した書き方である。この書き 方は、学術的文章にこれまで触れたことがない学習者にとって、入門としての役割を果たしていると 思われる。頭に浮かんだことをそのまま述べてしまう学習者にとって、中心文を意識することで書く べき内容が明確になり、また、支持文を書くことで主張の理由などを意識的に考えることができ、よ り客観的な文章を書くことができる。このように、一定の効果を上げているパラグラフ・ライティン グ指導であるが、これだけで十分な談話構成指導につながるのであろうか。

筆者は、アメリカの大学に入学するため、英語を第二言語として学ぶ学生用のパラグラフ・ライテ ィング指導を現地で受けた。この指導によって、日本の国語教育で形式段落と意味段落しか教えられ ていなかった筆者は、たしかにパラグラフというものを意識するようにはなった。しかし実際には、

中心文として何をどのように書けばよいのか、また、それを支える支持文を使ってどのような説明を すればよいのかが分からないことが多かった。実際、大学入学後に学部授業で課されるさまざまなレ ポートに対して「言いたいことが分かりにくい」と担当教授に評価され、書き直しを行わなければな らないこともしばしばであった。

この問題について、小論文の書き方を学ぶための友松(2008)を見てみたい。中級日本語学習者を 対象としたこの教科書では、最終的に意見を述べる小論文を書くことが目標とされている。教科書の

「段落の構成のしかたを学ぶ」部分では、パラグラフ・ライティングが紹介されており、示された文 の前半部分をヒントに中心文を考えたり、その中心文を支えるための支持文を書いたりする問題が提

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示されている。これらの練習問題で、中心文や支持文の書き方は学べると考えられるが、ここで注目 したいのは、支持文の説明として「中心文に出てくる言葉の説明、中心文の例、具体的説明、理由や 根拠などを書くようにするといい段落」(友松 2008:96)になると書かれている点である。ただ「支持 文を書きましょう」という指導をするよりも、支持文の役割が具体的に述べられている点は評価に値 するが、本当にこれだけで書けるようになるのであろうか。

パラグラフ・ライティングといっても、小論文を書く場合にはさまざまなテーマがあることからも 分かるように、本論に書くべき内容は多種多様である。例えば、「〜教育とは」のような抽象的な事柄 を扱うテーマならば定義を行う段落が必要であろうし、理工学分野のレポートであれば原因と結果を 客観的に述べる段落は欠かせないであろう。また、悪文の分析を行った永野(1969)では、さまざま な本論の展開方法を、因果関係方式や、対比方式、一般的なものと特殊なものを述べる包摂関係方式、

すでに知っている事柄とまだ知らない事柄を述べる既知未知方式など、14種類に分類している。この ように、本論部分での論じ方もさまざまな述べ方が考えられるのである。よって、教科書で指導があ った「具体的説明」を書くにしても、原因・理由を述べることもあれば、逆接で述べたり、譲歩した り、対比や程度を使ったりといったさまざまな方法があると言えよう。たしかに、パラグラフ・ライ ティングの指導は一定の効果を上げている。しかし、中心文と支持文だけでなく、上記のようなより 具体的な述べ方まで指導することができれば、より良い談話構成指導につながるのではないだろうか。

(4)どのようにさらなる改善を図っていくべきか

ここまで、具体例を挙げながら、現在市販されている日本語学習者向け作文教科書の課題を分析し てきた。この分析から、「まとまりがある文章」を日本語学習者が書けるようになる指導をするために は、さらなる改善が作文教科書に求められていることが分かった。ここで取り上げた作文教科書の課 題は、①文レベルを中心とした指導、②大まかな構成のみを示す指導、③英語のパラグラフ・ライテ ィングに頼った指導、の3点であったが、これら3つの課題点は、「効果的な談話構成指導を考えな ければならない」という点に集約されると思われる。

現在行われている文章指導では、談話構成指導の重要性は認められているものの、その指導が文レ ベルを中心として行われるか、あるいは、大まかな構成のみを示すという二極化の状態に陥ってしま っていると考えられる。さらに、談話構成に着目をしていても、その指導は、パラグラフ・ライティ ングに偏っている、という課題を抱えているのである。

本稿は、以上のような課題を克服し、効果的な談話構成指導のあり方を考えることが根本的な文章 指導の改善になると考える。よって次章では、本稿が談話構成指導のカギとして着目する「論理」に ついて述べる。

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Ⅲ. 談話構成指導のカギとなる「論理」

1. 本稿における「論理力」の定義

ここまで、「まとまりがない文章」の分析、また日本語学習者向け作文教科書の課題についての分析 を通し、読み手に配慮をした文章を書こうとすることが、談話構成の流れを意識することにつながる と確認してきた。本章ではさらに、この談話構成の流れを学習者に意識させる指導を行うために、「論 理」に着目し、なぜ「論理力」が書くために重要となるのかについて考えてみたい。

論理的な文章の読み書きの力を鍛える『新版 論理トレーニング』の著者である野矢は、この本の中 で論理力について「考えをきちんと伝える力であり、伝えられたものをきちんと受け取る力」、さらに は「言葉と言葉の関係をとらえる力」であるとしている(野矢 2006:2)。つまり論理とは、自由な発 想で新たな閃きを得るというより、むしろ「閃きによって得た結論を、誰にでも納得できるように(中 略)できる限り飛躍のない形で、再構成」(野矢 2006:1)することなのである。

ここで、野矢が重要視しているのは、何か伝えたいメッセージやアイデアがある場合、その結論に 達した実際の思考の筋道を、紆余曲折を含めそのまま伝えてはならないということである。野矢によ ると、分かりやすく伝えるためには「思考の結果を、できる限り一貫した、飛躍の少ない、理解しや すい形で表現する」(野矢 2006:2)ことが必要であり、ここにこそ「論理が働く」としている。これ は、第2章で考察した「なぜ談話構成を意識できないのか」にも通じると考えられる。なぜなら「書 き手が頭に浮かんだことを思いついたままに述べてしまう」というのは、論理を働かせずに紆余曲折 を含めた書き手の思考の筋道を書き連ねてしまっていることに他ならないからである。

野矢(2006)の論理力についての考え方を踏まえ、本稿では「論理力」を「伝えたいメッセージや アイデアを最も理解しやすい形で読み手に表現するために、言葉でものごとの関係を捉える力」と定 義する。書くという行為は、頭の中にあるメッセージやアイデアに構成や表現を与えて文字化するこ とによって、他人に理解してもらえる形にする作業である。そのためには、書き手の頭の中にある情 報を整理しながら、メッセージやアイデアを読み手にわかりやすい形に再構成することが求められる。

この再構成をするために必要となるのが、ものごとの関係性を言葉で捉えていく「論理力」なのであ る。

2. 論理力の重要性と「書く」こととの関連性

論理力の重要性は国語科でも注目されている。国語科での言語論理教育を提唱している井上は、論 理に関する教育の指導内容を考える上で参考になるとして、現代イギリスの分析哲学者トゥルミンが 考えたトゥルミン・モデルを紹介している(井上 2007)。トゥルミン・モデルでは、論証の大きな骨 組みとなる「主張」「理由づけ」「データ」に加え、論証のさらなる要素として「理由の確かさの程度 を示す限定」「考えられる条件を付加する反証」「理由づけを支えるための裏づけ」が付け加えられて

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いる2(Toulmin 2003)。井上は、トゥルミン・モデルを使用し、主張の理由だけではなくその裏づけ や反証まで考えさせたりすることで、思考力を高める国語の授業を行うことができると述べている。

このような論証のモデルは文章を書くことにおいても、書き手が頭の中にある情報を整理する際に有 用な指標となると考えられる。

さらに、井上は「言語技術(language arts)教育」が重要な領域を占めるアメリカの国語科教育に も着目している。その中で、井上は「その後のアメリカの国語科教育に与えた意義は極めて大きい」

(井上 2007:140-141)として、ボイヤー報告(1983)に言及している。ボイヤー報告とは、カーネギ ー教育振興財団が発表したアメリカの中等教育に関するレポートで、国語(英語)教育の重要性を大 きく掲げたものである。そのボイヤー報告では、コミュニケーション手段の中でも「書く」ことと「考 える」こととのつながりを述べ、文章指導の重要性を強調している。

Clear writing leads to clear thinking; clear thinking is the basis of clear writing. Perhaps more than any other form of communication, writing holds us responsible for our words and ultimately makes us more thoughtful human beings.(Boyer 1983:90)

明確に書くということこそが明確な思考を導くものであり、また同時に、明確な思考は明確に書 くことの基礎なのである。恐らく、コミュニケイションのどの形式よりも以上に、文章を書くこ とは、われわれをしてことばに責任を持たせ、よりいっそう思慮深い人間にさせるのである。(井 上仮訳2007:140)

このボイヤー報告が示すように「書く」ことと「考える」ことには、切っても切れない関係がある。

そして、書き手が伝えたいメッセージやアイデアを最も理解しやすい形で読み手に表現しようとする 時、言葉でものごとの関係性を捉える論理力が重要となってくると考えられる。この論理力を育成し ながら、談話構成を指導する具体的な指導内容について、次章で示す。

Ⅳ. 論理に着目した談話構成指導 1. 論理の分類方法

本章では、論理に着目した談話構成指導の具体的な指導内容を示す。指導用文章モデルの提示に先 立ち、本節では論理が関係する表現を分類した野矢(2017)と、接続詞の分類を整理した石黒(2008)

を確認しておきたい。まず野矢(2017)では、論理が関係する表現を以下のように3つのグループに

2 井上(2007)の訳語を使用。

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分類している。

1グループ:付加・選択・換言・例示 2グループ:対比・転換・補足

3グループ:条件・譲歩条件・理由・帰結

また、石黒(2008)における接続詞の分類には「論理の接続詞」と「整理の接続詞」という種類があ り、それぞれに以下のような下位項目が分類されている。

論理の接続詞:順接・逆接 整理の接続詞:並列・対比・列挙

これら2つの先行研究を比べると、野矢(2017)の分類では「転換」と名付けられているものが、石 黒(2008)の分類では「逆接」と呼ばれていることが分かる。また、野矢(2017)では「理由」と分 類されているものが、石黒(2008)では「順接」と表されている。これらは名称の違いはあるものの、

野矢も石黒も「転換・逆接」と「理由・順接」を重視している点は共通である。本稿では、第二言語 指導において分かりやすい表現とするため、「逆接」と「原因・理由」と呼ぶことにする。

このような先行研究の違いからも分かるように、論理の分類方法はさまざまありうる。その中で、

日本語学習者がアカデミックな文章を書く際に、使用頻度が高いと思われるものとして、以下5つの ような論理が関係する表現が挙げられる。

並列

累加

原因・理由

条件

逆接

この5つのうち、①並列と②累加は、談話全体の論理構成から見たとき、部分的な構成要素と言え る。これは、並列と累加は事例や根拠を列挙する時に用いるものだからである。並列や累加の表現は、

文の配列を入れ替えても全体の論理構造があまり変化することはない。一方、③原因・理由、④条件、

⑤逆接は、論理構造の骨格部分に関わるものである。そのため、これらの表現が用いられた談話の文 配列を入れ替えると、全体の論理構造が変化し、主張そのものが大きく違ったものになる。つまり、

談話の内容は同じでも、それを異なる談話構成で述べることになるのである。ゆえに、原因・理由、

条件、逆接の指導は難易度も高くなる。したがって、実際の指導順序を考えるならば、論理的な表現 としての難易度を考慮し、まず論理レベルが低い並列と累加を、そして、論理レベルが高い原因・理 由、条件、逆接の順に指導するのが良いと思われる。このような論理の難易度をもとに指導内容を考 える試みは、他の先行研究では行われていない。本稿では、論理を文章の骨格として捉え、その構造 的な単純さ・複雑さから難易度を判定し、指導順序を決めた。ただし、例えば最初に指導する並列の 表現であっても、実際は多様な表現が使われ、それを適切に使いこなすのは学習者にとって難しい場

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合は少なくない。

2. 指導用文章モデル

本節では、①並列と②逆接の論理的な表現を用いた指導用文章モデルを提示する。これら2つの他 にも、累加、原因・理由、条件、という3種類の論理的な表現を用いた文章モデルも作成したが、こ こでは紙幅の都合上、並列と逆接の2種類のみを示す。これらの文章モデルは、新聞に掲載されてい る投書や記事のリードを参考に筆者が作成した。また、全ての文章モデルは5文でできており、文字 数は150字から200字と非常に短い。しかし、この短い文章モデルの中に完結した談話構成があり、

これを日本語学習者が習得することをねらいとしている。さらに、文章モデルの各文には、文の命題 内容を示す「事実」や「意見」、また文の機能を示す「問題提起」や「説明」などのラベリングをほど こした。このラベリングは、学習者に11文の役割を意識させることを目的としてつけたものであ るが、効果的な指導のためのラベリングはどうあるべきか、さらなる検討が必要である。

《①並列》3

1. 日本の自転車保有台数は世界第3位の7200万台という。 (事実)

2. 利用者増はうれしいが、走行ルールやマナーに問題がある。 (問題提起)

3. 例えば、信号無視をしたり、傘をさして運転したりする人がいる。 (例示1)

4. また、夜間に無灯火で走る人も見かける。 (例示2)

5. 行政には走行ルールやマナー遵守の啓発活動の充実をお願いしたい。 (意見)

3 『東京新聞』2018.11.7朝刊 投書欄「自転車ルール マナー守って」を参考に作成。

(14)

論理構造の図式化 図1

1 つ目に、論理的な文章を書く練習として、最も単純な並列の文章モデルを取り上げる。この例の 場合、伝聞の表現である「…という」を使って、1 文目で事実が述べられている。このように、事実 を談話の切り出しで述べ、読み手との情報共有から始まる意見文は多く、たいていその後には何らか の説明が続く。続いて、2文目で「…に問題がある」と問題提起をした後、3文目と4文目で具体例の 例示を行っている。ここでは、3文目と4文目をつなぐ「また…」が並列の表現である。この「また

…」という表現は、文と文をつなぐ並列の表現の中でも、アカデミックな文章での使用頻度が高いと 思われるため、取り上げることとした。この文章モデルでは、「また…」を使って問題提起に関係する 3つの例を示したことが、意見を強めることにつながっている。この意見は、談話の最後で「…たい」

という希望の表現を使って述べられている。このように希望の表現は談話の締めくくりで使用される 場合も少なくない。これができるようになれば、さらに要求「行政には…てほしいものだ/…が求め られる」、義務「行政は…するべきだ/…なければならない」、あるいは提案「…のではないか」など へと表現を広げていく。

以下は、上記の並列の文章モデルをもとに同じ談話構成で書き換えた文章例である。

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書き換え例 ―同じ談話構成で―

1. インドネシアのバリ島では、時期によっては毎日約100トンものプラスチックごみ が海岸に打ち上げられるという4

2. バリ近隣から出たごみではないものも多く、世界規模の問題へと発展している。

3. 使い捨てのプラスチックといえば、持ち運び可能なカップやビニール袋が挙げられる。

4. また、ストローなどの類もそうである。

5. 各国が協力して、プラスチックごみを減らす工夫が求められる。

書き換え例 ―同じ談話構成で―

1. 女性の社会進出が進んでいるという。

2. 昔より男女差別はなくなってきたと思うが、本当に意識が変わっているのか疑問だ。

3. メディアでも、夫を献身的に支える妻の特集番組や頑張る男性を応援する女性のCMを目にする。

4. また、水着の若い女性を起用したものなど、挙げれば切りがない。

5. より一層の意識改革の取り組みが必要なのではないだろうか。

これらの書き換え例は2つとも、もとの文章モデルと同じく、事実→問題提起→説明→例示→意見 という談話構成を使って書かれていることに注目したい。ただし、文末表現はさまざまな形式が用い られている。例えば2文目で問題提起をする時、文章モデルでは「…に問題がある」という表現が用 いられているが、書き換え例①では現状を表す「…ている」が、書き換え例②では疑問視を表す「…

か疑問だ」が用いられている。文末表現の形式は異なるが、どの文もそれぞれの談話における問題提 起の役割を担っていることは変わらない。この談話構成指導は、単語で穴埋めをすればいい単なる型 はめ指導とは異なるため、談話の流れを学ぶとともに、その流れを形作る多様な表現も学ぶことを目 指す。

それぞれの書き換え例の3文目と4文目では「使い捨てのプラスチックといえば、持ち運び可能な カップやビニール袋が挙げられる」「また、ストローなどの類もそうである」、また、「メディアでも、

夫を献身的に支える妻の特集番組や頑張る男性を応援する女性の CMを目にする」「また、水着の若 い女性を起用したものなど、挙げれば切りがない」と並列の表現を使って具体例が列挙されている。

このように、並列の表現は、書き手が主張する意見の根拠や具体例をいくつか並べることで、説得力 を持たせたい時に効果を発揮する論理的な表現である。

4 AFPBB News「バリ島で『ごみ緊急事態』観光客に人気のビーチも」を参照。

http://www.afpbb.com/articles/-/3157014?pid=19665117&page=1(201891日閲覧)

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《⑤逆接》5

1. 高校野球だけが青春ではない。 (意見)

2. そば打ちに情熱を燃やす高校生もいる。 (予告)

3. 長野県にある高校の「そば部」がこの夏、

全国高校生そば打ち大会に挑んだ。 (情報提供)

4. 目標だった上位3位までの入賞は逃したものの、

地域に伝わる「一本棒丸延し」をアピール。 (解説)

5. 「地域のそば文化の継承を」と、地元のそば職人たちも

大会に向けて胸を貸してきた。 (補足情報)

論理構造の図式化 図2

2つ目に、逆接の文章モデルを取り上げる。この文章モデルでは、まず1文目で「…だけが…では ない」と意見を述べ、2文目でこの先の内容の予告をしている。そして、3文目で「長野県にある高校 の『そば部』がこの夏…」と具体的な情報を提供し、4 文目で「…ものの…」と逆接の表現を用いて さらなる解説を行っている。最後は、5 文目の「地元のそば職人たちも…」という補足情報で締めく

5 『朝日新聞』2015.9.19 朝刊「教育2015 そば打ちに青春かけて」を参考に作成。

(17)

くられている。

この例で取り上げた「ものの」という逆接の表現は、「しかし」や「だが」のような通常の逆接ほど 使用頻度は高くない。しかし、学習者がなかなか使いこなすことができない文型であると思われるた め取り上げる。『明鏡国語辞典』によると、「ものの」は「事柄が全面的に容認されるわけではなく、

一部にとどまることを表す」場合に使われる。通常の逆接と比べると、「一部にとどまる」という点に 使い分けのポイントがあると言える。

このような使い分けが難しい文型こそ、実際の文脈を持つ教材を使って指導する意義があると言え る。この文章モデルでは、3 文目で登場した「そば部」が、全国高校生そば打ち大会で賞をとること を目指すが、入賞は叶わなかったことが4文目で解説されている。チームとして大会に出る以上、賞 をとりたいという気持ちがあることは容易に想像がつく。しかし、賞がとれなかったからといって何 も残らなかったわけではない。結果はゼロではなく、地域に伝わる技をアピールできたというポジテ ィブな面もあるということが文脈から分かる。このように文脈に沿って学ぶことで、例文を覚えるだ けでは使えるようにならない文型への理解を深めることができると言える。

以下の2つは、逆接の文章モデルをもとに同じ談話構成で書き換えた文章例である。

書き換え例 ―同じ談話構成で―

1. すしや天ぷらだけが日本料理ではない。

2. ラーメンやうどんもある。

3. 日本のラーメン屋が海外進出している。

4. 値段はやや高いものの、人気があるようだ。

5. 庶民の味を世界へと、海外進出へ向けて工夫をしてきた。

書き換え例 ―同じ談話構成で―

1. 子育てだけが人間の「成長の証」ではない。

2. 同性パートナーと共に生きるという人生もある。

3. 杉田水脈議員によるLGBTの「生産性」を疑う声が問題視された。

4. 謝罪はしたものの、発言の撤回は行わなかった。

5. 人権軽視の考え方に対して、SNSでも批判が集まったそうだ。

これらの書き換え例も、意見→予告→情報提供→解説→補足情報という流れで構成されている。書 き換え例①、②ともに、4 文目で「ものの」がそれぞれの文脈に沿って使用されている。ここで注目 したいのは、「ものの」がポジティブな文脈で使用される場合もあれば、ネガティブな文脈で使用され る場合もあることである。書き換え例①の「値段はやや高いものの、人気があるようだ」は文章モデ

(18)

ルと同様、ポジティブな結果を表しているが、書き換え例②の「謝罪はしたものの、発言の撤回は行 わなかった」は、ネガティブな結果に終わっていることを表している。このように、「ものの」はポジ ティブ、ネガティブのどちらの場合でも使うことができるため、書き換え例では異なる2つの使い方 を示した。

このような「ものの」は、書き手が内容をポジティブに捉えるのか、またはネガティブに捉えるの かによって、書き方を変えなければならない。文章モデルの例で言えば、「入賞は逃したものの、地域 に伝わる技をアピールできた」と捉えるのか、「地域に伝わる技をアピールできたものの、入賞は逃し た」と捉えるのかによって、文脈が変化するため前後の文も書き換える必要が出てくる。このような 指導は、アカデミックな文章を書くために抽象的な内容を考えさせる訓練になると言える。

さらに、これら2つの書き換え例は同じ談話構成で書かれているが、難易度は書き換え例②の方が 高いと言える。この理由は、書き換え例②で扱う内容が「LGBTの人権」であるのに対し、書き換え 例①では「食べ物」を扱っており、内容の抽象度が変わるからである。このように、書き換え例を使 えば文章内容の抽象度も自由に調節することができる。例えば、もとの文章モデルの抽象度が高く指 導が難しい場合でも、書き換え例を用いて内容の抽象度が低い題材で書き換えを行えば、段階的な指 導をすることが可能となる。

さらにここでは、書き換え例①、②に加え、もとの文章モデルの文配列を入れ替えた書き換え例③ も示すことにする。逆接や、原因・理由、条件などの表現は、すでに示した並列や、また累加の表現 などと異なり論理構造の骨格部分に関わる。そのため、論理レベルが高くなり指導もより難しくなる と考えられる。そこで、異なる談話構成を使って書いた書き換え例③も示すことで、同じ内容でも論 理構造を変えると異なる述べ方ができることを指導する。この指導では、論理構造をどのように変化 させることができるのか、また、異なる談話構成を用いて書いた場合読み手にどのような印象を与え られるのか、さらに、文の配列を入れ替える際にどのような点に注意して表現を書き換えるのか、と いったことに焦点を当てる。このような指導は、学習者の表現の幅を広げることにつながると言える。

書き換え例 ―異なる談話構成で―

1. 長野県にある高校の「そば部」がこの夏、全国高校生そば打ち大会に挑んだ。

2. 「地域のそば文化の継承を」と、地元のそば職人たちも大会に向けて胸を貸してきた。

3. 目標だった上位3位までの入賞は逃したものの、地域に伝わる

「一本棒丸延し」をアピール。

4. このように、そば打ちに情熱を燃やす高校生もいる。

5. 高校野球だけが青春ではないのである。

(19)

もとの文章モデルは意見を1文目で述べる頭括型だったのに対し、この書き換え例③は意見を最後 5文目で述べる尾括型になっている。このような書き換えは、上記の原因・理由や条件の活用例と 同じく、書き手の目的に応じて最適な談話構成を選ぶ力をつけるのに役立つ。意見を最初に述べる頭 括型を選べば、読み手が知りたい情報がすぐに分かる文章となるであろうし、これに対して、意見を 最後に述べる尾括型を選べば、伝えたい内容の強い印象や余韻を読み手に残す文章となる。

さらにこのような書き換えを行う場合、4文目の「このように」や、5文目の「…のである」といっ た、もとの文章モデルにはない指示詞やまとまりを出す表現を書き加える必要があることも、指導の ポイントとなる。

Ⅴ. おわりに

「論理に着目した談話構成指導」とは、これまで述べてきたことから分かるように、日本語学習者 自身が書きたい内容に最適な談話構成そして表現を選び取る、ひいては、談話構成を作り出すことが できる力の育成を目指す指導である。そして、そのカギとなるのが読み手に最も理解しやすい形で表 現するための論理なのである。本稿では、文章指導のあり方について考え、具体的かつ効果的な談話 構成指導の一端を示すことができた。だが、アカデミック・ライティングに必要な論理と表現を網羅 したわけではなく、その一部を例に示したにすぎない。程度・対比・譲歩など、取り上げなかったそ の他の論理に関する表現も枠組みに取り入れていかなければならない。また、この談話構成指導によ って学習者の文章力がどれくらい実際に向上するのか、データを示し、その効果を検証することも求 められる。さらなる考察と調査が必要であるが、これらは今後の課題としたい。

【参考文献】

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井上尚美(2007)『思考力育成への方略―メタ認知・自己学習・言語論理―増補新版』明治図書出版 大井恭子(2012)「まとまりのある文章を書かせる指導」『英語教育』61(3): 17-20、大修館書店 小森万里(2006)「中級作文におけるわかりにくさの要因―結束性、卓立性を支える要素をめぐって

―」『ことばとそのひろがり―山口幸二教授退職記念論集―』4: 197-216、立命館大学法学会 佐竹秀雄(1997)「悪文のパターンと出現のメカニズム」『広報』5: 18-20、日本広報協会 中村明(2007)『悪文 裏返し文章読本』筑摩書房

長尾高明(1992)「文章と段落」『日本語学』11: 26-32、明治書院 永野賢(1969)『悪文の自己診断と治療の実際』至文堂

野矢茂樹(2006)『新版 論理トレーニング』産業図書 野矢茂樹(2017)『大人のための国語ゼミ』山川出版社

(20)

樋口裕子(1996)「初級後半からの作文指導のために」『日本語教育』91(12): 132-143、日本語教育学会 Boyer, Ernest L.(1983)High School: A Report on Secondary Education in America. New York, NY.: Harper &

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Toulmin, Stephen E.(2003)The Uses of Argument. updated ed. Cambridge, England: Cambridge University Press.(*初版はCambridge University Pressから1958年に出版)

【教科書・参考書】

アカデミック・ジャパニーズ研究会(編)(2015)『改訂版 大学・大学院 留学生の日本語 ②作文編』

佐々木瑞枝・細井和代・藤尾喜代子(2006)『大学で学ぶための日本語ライティング―短文からレポー ト作成まで―』The Japan Times

友松悦子(2008)『小論文への12のステップ』スリーエーネットワーク

【辞典】

北原保雄(2010)『明鏡国語辞典 第二版』大修館書店

参照

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