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論文審査の結果の要旨
氏名:木 村 友 美
博士の専攻分野の名称:博士(芸術学)
論文題名:細川俊夫の音楽の独自性 ―「垂直」というキーワードをめぐって―
審査委員:(主 査) 教授 伊 藤 弘 之
(副 査) 教授 川 上 央 講師 綿 村 松 輝 講師 笠 羽 映 子
細川俊夫(1955-)は、自身の音楽について、言葉を用いて頻繁に語って来た作曲家である。だが、抽 象的で断片的な傾向の強い彼の言説はある種のわかりにくさを伴い、欧米と日本を中心に、数多くの 国際的に重要な機会に彼の音楽が広く演奏されている今日なお、細川の音楽と彼の言葉との関係は、
あいまいなまま放置されてきた部分がある。この問題点を学術的な視点から解明し細川の音楽の本質 に迫るべく、本論文は、細川の言説をあらためて整理し、彼自身の言葉と音楽との関係をさまざまな 検証手法を用いながら論述している。論文の全体的な論理の展開は堅実で整合性が高いが、論を進め、
その客観性を更に高めるために、音楽分野で従来から用いられて来た分析手法だけではなく、統計や 音響解析といった手法も導入し、そのやり方が成功しているところも評価される。本論文では、細川 の用いる多くの言葉の中から、重要度の高いものをキーワードとして選び出し、それら一つ一つにつ いて詳細な解説を加えている。そうしたキーワードの中でも特にわかりにくいものの一つとして「垂 直」という言葉がある。この言葉に、論文全体を通して、執筆者は最も注目している。そして、この 言葉が指し示すものがどのようなものであるかを明快に解き明かしながら、「垂直」という言葉が、
いかに細川音楽全体の本質に迫る重要なものであるかを丁寧に論述している。
国際的な広がりを持ちながら現在も旺盛な創作活動を続けている作曲家を研究対象にすることには 難しさも伴う。だが執筆者は、細川と執筆者自身の母国語であり、細川自身が最も雄弁にたくさんの ことを語って来ている日本語で書かれたものを主たる資料として用い、細川の音楽概念の基本的なも のが出そろった時期までを主な研究対象として限定することで、この問題をかなりの程度で解決して いる。また、どうしても細川本人に尋ねて明らかにしなければならないような疑問点は、何度も細川 本人に会う機会を得る中で直接尋ねながら明らかにしている。これは作曲家が存命中の今だからこそ 可能になる研究手法であり、そこで得られた結果には大きな意義が認められる。
序章と第1章では、導入として細川音楽の理解のための予備知識を簡潔に述べた後、彼の音楽的思 考を根底で支えるさまざまなキーワードを挙げ、解説している。そして、特に「垂直」というキーワ ードに細川の音楽の独自性が強く現れる傾向があると論じている。これらの章の論述を通して、執筆 者がこれまでに細川の音楽と思想を深く研究し、細川音楽の専門家として、その理解が進んでいるこ とが見て取れる。
第2章では、前章で執筆者が体験的にキーワードと判断した数々の言葉が統計的にもキーワードと みなされること、それらの言葉の関係性がどのようなものであるかということ、そして、「垂直」とい う言葉が特徴的な重要性を持つことなどについて、テキストマイニングと主成分分析の手法を使って 立証している。音楽学の分野の研究でこのような形で統計を用いることは多くないが、ここでは、こ の分析を通して、筆者の主張をより客観的に立証することに成功している。
第3章は「垂直」という言葉を軸にした分析になっている。主として音響解析ソフトを用いた分析 手法を用いている。これも音楽学の作品分析でたくさんの例を見る訳ではない手法だと言えるが、細 川の音楽に於ける「垂直」という難解な概念を、視覚化された分析結果を通してわかりやすく説明す ることに成功している。
第4章では「垂直」と並ぶ重要性の高いキーワードである「母胎和音」と「螺旋」が、細川の音楽 とどう関わっているかを、伝統的な音楽分析の手法も絡めながら論じている。これにより、本論文の
2 論旨に広がりが与えられている。
第5章(結論)では、先行する各章で論じた言葉と音楽の関係を簡潔にまとめ、更に若干の新たな 情報も加えながら総合的に論じ、「垂直」というキーワードが、とりわけはっきりと細川俊夫の音楽の 独自性につながるものであり、骨格となっているものであると結論づけている。
全体として、目次、章立て等は、研究目標やその意義に基づいて的確に構成され、「垂直」という細 川の創作における重要な概念を実際の作品の中で捉えるために導入された新たなアプローチや分析手 法の説明も丁寧になされ、執筆者の目標を説得性のあるかたちで論じ、結論に至っている。また、「垂 直」というキーワードから細川の音楽の独自性を論述し、彼の音楽の本質に迫る筋立ては見事である。
書式的にも、細部にわたり、音楽学系の博士論文執筆の一般的な基本ルールに則って書かれていると 認められる。本論文は、日本における細川俊夫研究において重要で、今後、細川の音楽を研究するも のたちにとって無視できない、貴重なものとなると思われる。
よって本論文は、博士(芸術学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上
平成30年 1月 29日