保 全 処 分 発 令 要 件 の 法 的 性 質 ( 一 )
片 野
一
β 良
一本稿の目的
二被保全権利と権利保護の資格
1被保全権利の存否と被保全資格との区別
2被保全資格と権利保護の資格(以上本号)
三保全の必要性と狭義の権利保護の利益
1保全の必要性と狭義の権利保護の利益を区別
することの可否‑保全の必要性の本質
2保全の必要性の法的性質‑実体的要件か手
続的要件(訴訟要件)か
四保全処分発令要件の手続上の取扱い
1
2 M
4 5
審理の順序職権調査事項
立証
既判力
保全命令の主文の形式
五結論要約
保全処分発令要件の法的性質(一)
一 〇 七 ( 1 )
一 〇 八 ( 2 )
一 本 稿 の 目 的
民事訴訟法の保全処分は︑本案訴訟で終局的に確定される権利(被保全権利)の存在と︑このような権利が保
全される必要のあること︑すなわち保全の必要性(保全理由)の存在が疎明されたときはじめて発令される(民訴
法七四〇条・七五六条)︒そこで︑保全処分の発令要件とは何かといえば︑被保全権利の存在と保全の必要性の存在
( >をあげるのが普通である︒本稿の目的は︑これら二つの要件の法的性質を検討することであるが︑とくにこれら(2)の要件と広義の権利保護の利益(すなわち権利保護の資格と狭義の権利保護の利益)とがいかなる関係に立つの Mかを明らかにすることである︒
従来︑この問題のうち保全の必要性と狭義の権利保護の利益との関係については比較的多く論ぜられているが
まだ十分とはいい難く︑被保全資格と権利保護の資格については余り論ぜられていない︒したがって︑以下では
右の二つの問題点を中心に︑まず西ドイッおよびわが国の学説を参考にしながら主として理論的・体系的観点か
ら検討を加えて︑私見を提示し︑ついで保全処分発令要件が実体的要件と手続的要件のいずれに帰属するかの問
題は︑かかる要件の具体的な手続上の取扱いにどの程度影響するのか︑あるいは影響しないのかを検討したいと
思う︒
注 (1 ) そ の ほ か ︑ 管 轄 ・ 当 事 者 能 力 ・ 訴 訟 能 力 な ど い わ ゆ る 訴 訟 要 件 が 具 備 し な け れ ば な ら な い こ と は ︑ い う ま で も な い ︒ (2 ) 広 義 の 権 利 保 護 の 利 益 に は ︑ 請 求 適 格 と か 権 利 保 護 の 資 格 と か い わ れ る も の と ︑ 権 利 保 護 の 利 益 ( 狭 義 ) あ る い は 権
利 保 護 の 必 要 と い わ れ る も の が 含 ま れ る ︒ 最 近 で は こ の 広 義 の 権 利 保 護 の 利 益 を 訴 え の 利 益 と い う こ と が 多 い ︒ た と え
ぱ ︑ 中 野 朋 松 浦 網 鈴 木 編 ﹃ 民 事 訴 訟 法 講 義 ﹄ (補 訂 版 ) 一 六 五 頁 ︑ 新 堂 ﹁ 民 事 訴 訟 法 ﹄ (第 二 版 ) 一 七 二 頁 参 照 ︒ (3 ) 通 常 訴 訟 に お い て は ︑ 実 体 的 要 件 と 広 義 の 権 利 保 護 の 利 益 は あ る 程 度 明 確 に 区 別 さ れ て お り ︑ そ の 関 係 が 問 題 に な る
こ と は 少 な い ︒ な お ︑ 通 常 訴 訟 に お け る 権 利 保 護 の 利 益 に つ い て は 多 く の 論 稿 が あ る ︒ 飯 倉 一 郎 ﹁ 確 認 の 利 益 ﹂ 国 学 院
法 学 六 巻 三 号 六 一 頁 ︑ 石 川 明 ﹁ 権 利 保 護 の 必 要 ﹂ ﹃ 慶 応 義 塾 創 立 百 年 記 念 論 文 集 (第 一 部 法 律 学 関 係 ) ﹂ 四 二 九 頁 以 下 ︑
同 ﹁ 過 去 の 法 律 関 係 と 確 認 訴 訟 ﹂ 法 学 研 究 三 一 巻 一 二 号 一 〇 八 〇 頁 ︑ 五 十 部 豊 久 ﹁ 過 去 の 権 利 関 係 の 確 認 ﹂ ﹃ 続 学 説 展
望 ﹄ (別 冊 ジ ュ リ ス ト 四 号 ) 一 二 六 頁 以 下 ︑ 伊 藤 真 ﹁ 確 認 訴 訟 の 機 能 ﹂ 判 タ 三 三 九 号 二 八 頁 以 下 ︑ 同 ﹁ 判 決 の 機 能 と 訴
え の 利 益 ﹂ 判 タ 三 四 六 号 一 一 頁 以 下 ︑ 上 北 武 男 ﹁ 訴 え の 利 益 に か ん す る 一 考 察 ﹂ 民 訴 雑 誌 一 = 号 一 = ご 頁 以 下 ︑ 同 ﹁ 形
成 訴 訟 に お け る 訴 の 利 益 ( 一 ) ( 二 ) ﹂ 同 志 社 法 学 一 一 四 号 一 頁 以 下 ︑ 一 一 六 号 二 九 頁 以 下 ︑ 上 杉 晴 一 郎 ﹁ 過 去 の 法 律 関
係 の 確 認 訴 訟 ﹂ 民 商 法 雑 誌 四 六 巻 四 号 五 九 一 頁 以 下 ︑ 加 藤 俊 徳 ﹁ 権 利 保 護 の 必 要 ( 一 ) ( 二 ) ﹂ 法 学 論 叢 一 九 巻 一 号 二
一 頁 以 下 ︑ 三 号 四 一 八 頁 以 下 ︑ 兼 子 一 ﹁ 違 憲 提 訴 に お け る 事 件 性 の 問 題 ﹂ ﹃ 民 事 法 研 究 ﹄ 二 巻 一 一 九 頁 以 下 ︑ 木 川 統 一
郎 ﹁ 権 利 保 護 の 必 要 ﹂ 法 学 新 報 六 〇 巻 一 号 五 一 頁 以 下 ︑ 北 原 縫 治 ﹁ 権 利 保 護 の 利 益 に 就 て ( 一 ) ( il ) J 法 学 二 巻 三 号 三
四 三 頁 以 下 ︑ 四 号 四 四 九 頁 以 下 ︑ 鈴 木 正 裕 ﹁ 訴 え の 利 益 ﹂ ﹃ 判 例 展 望 ﹄ ( ジ ュ リ ス ト 五 〇 〇 号 ) 三 四 一 頁 以 下 ︑ 谷 口 安 平
﹁ 会 社 訴 訟 に お け る 訴 の 利 益 ﹂ 法 学 論 叢 八 二 巻 二 二 二 ・ 四 合 併 号 三 〇 二 頁 以 下 ︑ 藤 井 彦 一 郎 ﹁ ﹃ 訴 の 利 益 ﹄ 概 念 の 機 能 ﹂
帝 京 法 学 一 〇 巻 一 ・ 1 1号 1 1 1 頁 以 下 ︑ 三 ヶ 月 章 ﹁ 権 利 保 護 の 資 格 と 利 益 ﹂ ﹃ 民 事 訴 訟 法 研 究 ﹄ 一 巻 一 頁 以 下 ︑ 水 谷 暢
﹁ 訴 え の 利 益 論 に 対 す る 一 視 角 ﹂ 法 政 理 論 一 一 巻 三 号 三 〇 頁 以 下 ︑ 山 木 戸 克 己 ﹁ 法 律 行 為 の 効 力 確 認 訴 訟 の 適 法 性 ﹂ 八
幡 大 学 論 集 二 三 巻 一 二 一 ・ 三 合 併 号 一 〇 一 頁 以 下 ︑ 同 ﹁ 訴 え の 利 益 の 法 的 構 造 ‑ 訴 え の 利 益 論 覚 え 書 ﹂ 吉 川 追 悼 ﹁ 手
続 法 の 理 論 と 実 践 (下 ) ﹄ 五 一 頁 以 下 ︑ 渡 辺 催 之 ﹁ 訴 の 利 益 に 関 す る 戦 後 民 事 判 例 ( 一 ) ( i l) C 三 ) (追 補 ) ﹂ 民 訴 雑 誌
二 一 号 ︑ 二 二 号 ︑ 二 五 号 ︑ 二 六 号 ︑ 原 田 尚 彦 ﹃ 訴 え の 利 益 ﹄ (昭 四 八 ・ 弘 文 堂 ) ︑ 南 博 方 ﹁ 環 境 行 政 訴 訟 と 訴 え の 利 益 ﹂
判 タ 三 九 八 号 七 頁 以 下 ︑ 宮 崎 良 夫 ﹁ ﹁訴 え の 利 益 ﹂ 論 i 伊 場 遺 跡 訴 訟 判 決 に よ せ て ﹂ ジ ュ リ 七 一 〇 号 四 一 頁 以 下 ︒
保全処分発令要件の法的性質(一)
一 〇 九 ( 3 )
一 一 〇 ( 4 )
= 被 保 全 権 利 と 権 利 保 護 の 資 格
被保全権利と広義の権利保護の利益との関係では︑とくに権利保護の資格と被保全権利との関係が問題にな
る︒しかしその問題を検討する前に︑被保全権利の要件の中には︑いかなる性質・種類・態様の権利が被保全権
利として認められるかの問題(被保全資格)と︑このような被保全資格を有する権利の存否自体の問題とが存在
し︑これら二つの問題は明確に区別する必要があることを注意しなければならない︒すなわち被保全資格が否定
される場合も︑被保全資格を有する権利の存在自体が否定される場合も︑保全申請は却下されるという同一の結
果になるが︑保全手続上両者の問題は異なる取扱いが必要である︒
1
被 保 全 権 利 の 存 否 と 被 保 全 資 格 と の 区 別
ω右に述べたように︑私は︑被保全権利の存否自体の問題と被保全資格の問題とは厳密に区別すべきである
(1)と考えるのであるが︑わが国の従来の学説は︑両者を一応区別しているが︑それらを手続上どのように区別すべ
きかについての明確な説明はなされていない︒
(2)たとえば︑松岡博士は︑﹁仮差押ニハ其ノ権利保護ノ要件トシテ仮差押二依リ保全スヘキ請求権ノ成立及執行
ノ保全ヲ必要トスル理由存スルコトヲ要ス﹂とされ︑仮差押命令の発令要件として﹁仮差押二依リ保全スヘキ請
求権ノ成立﹂と﹁仮差押ノ理由﹂をあげられているが︑﹁仮差押二依リ保全スヘキ請求権﹂という項目の中で︑
保全せらるべぎ請求権が金銭債権または金銭債権に換えることを得べき請求権でなけれぱならないこと︑保全せ
らるべき請求権成立の事実が仮差押命令当時に完備すること(したがって将来成立すべき請求権は仮差押によク
て保全されえない)︑法律上保全することがでぎる請求権であること(たとえば︑破産債権者の債権保全のため
に仮差押をなすことはできない)などが説明されており︑この﹁仮差押二依リ保全スヘキ請求権ノ成立﹂という M要件の中には︑被保全資格と被保全権利の存在自体とが含まれている︒また︑吉川博士も︑保全処分発令のため
の実質的要件として︑﹁第一に︑被保全権利又は法律関係が存在し且つ被保全権利たる適格をもつこと︑第二に︑
保全理由(必要)が存すること﹂と説明され︑被保全権利の存否と被保全資格を一応区別されているが︑両者は
被保全資格をもつ権利の存在という一つのものに集約されると考えておられるように思われるし︑少なくとも被
保全権利の存否の問題と被保全資格の問題が手続上それぞれ異なる取扱いをうけるべきであるとは考えておられ
ないと思われる︒
西ドイツの学説においても︑Arrestanspruchが欠けているとき︑保全申請はunbegrundetとして排斥さ(4)れるべきであり︑また︑将来の請求権についての仮差押は⊆昌N巳聾ω巴oqであると説明されているので︑被保全権
利の存否と被保全資格とは一応区別されているものと思われるが︑これらの要件が手続上どの程度異なる取扱い(5)をうけるべきかについては余り説明されていない︒
(6)
② ミ ネ ロ ー プ は ︑ 仮 の 権 利 保 護 の 許 容 性 の 特 別 の カ テ ゴ リ ー と し N ' S t a t t h a f t ig k e it な る 概 念 を 認 め ︑ 仮
差 押 を 含 む 全 て の 仮 の 手 続 (v o r la u fi g e V e r f a h r e n ) は 訴 訟 上 の 特 別 の 権 利 保 護 形 式 で あ り ︑ 個 々 の 場 合 に そ の
(7)
S t a t t h a f t i g k e it を 証 明 し な け れ ば な ら な い と 説 く ︒ さ ら に ︑ 仮 の 権 利 保 護 を う け る こ と の で き る 前 訴 訟 上 の
要 件 ( D e r e i n s t w e il ig e m R e c h t s s c h u t z z u g a n g l ic h e v o r p r o z e s s u a l e T a t b e s t a n d ) は ︑ 仮 の 手 続 を 認 め る 手 続 法 規
( す な わ ち S t a t t h a f t ig k e i t に 関 す る 規 定 ︑ た と え ば ㈱ ⑰ 9 3 5 , 9 4 0 Z P O ) と 実 体 法 規 に よ っ て 形 成 さ れ ︑ し た が っ て 保 全
保全処分発令要件の法的性質(一)
一 一 一 ( 5 )
一一itC6)
可 能 な 法 的 地 位 ( si c h e r b a r e R e c h t s p o s it io n ) は 混 合 構 造 に よ っ て 特 徴 づ け ら れ る ︒ す な わ ち 保 全 可 能 な 法 的 地
位 の 中 で 実 体 法 規 と 手 続 法 規 の 統 一 が み ら れ る ︒ し た が っ N ' S t a t t h a f t ig k e it に 関 す る 裁 判 は 同 時 に 保 全 可 能
Cam)な 法 的 地 位 一 般 に つ い て の 裁 判 で あ る と す る ︒ こ 6̀ S t a t t h a f t ig k e it が 阻 却 さ れ る 具 体 的 場 合 と し て ︑ ミ ネ ロ
ー プ は ︑ 強 制 執 行 の 停 止 ( ァァ 7 0 7 , 7 6 9 Z P O ) ︑ 執 行 の 免 脱 の た め の 命 令 (⑳ 認 G︒ 臆 現 行 ァ ァ 7 1 1 , 7 12 Z P O ) ︑ 婚 姻 訴 訟
に お け る 仮 の 命 Q F (ァ 62 7 ff . Z P O = 現 行 ァ 6 2 0 ff . Z P O ) お よ び 非 嫡 出 子 の た め の 扶 養 命 令 (ァ 6 4 1 d Z P O ) な ど の 特
殊 仮 処 分 的 規 定 が 存 在 す る 場 合 ︑ 仮 処 分 が 個 別 請 求 権 の 保 全 (吻 ㊤ ω α N ℃ o ) に も ︑ 争 い あ る 法 律 関 係 の 規 整 (⑰ 逡 O
(9)Z P O ) tit も 関 係 し な い 場 合 ︑ 終 局 的 満 足 が 許 さ れ な い 仮 処 分 の 場 合 な ど を あ げ る ︒ そ し て ︑ ミ ネ ロ ー プ は ︑ こ の
/O
S t a t t h a f t ig k e it S 法 的 性 質 を 不 真 正 本 案 判 決 要 件 す な わ ち 不 真 正 訴 訟 要 件 (u n e c h t e P ro z e ss v o r a u ss e tz u n g e n )
と 解 し ' S t a t t h a f t ig k e i t S 問 題 が 未 解 決 で あ っ て も 申 請 を 実 体 的 理 由 ( す な わ ち 実 体 的 要 件 の 欠 如 ) に よ り 排
( )
斥 す る こ と が で き る と 主 張 す る ( こ の よ う に S t a t th a ft ig k e it を 先 順 位 を も た な い 訴 訟 要 件 と す る こ と に 対 す る 批 判 は 後
述 四 ・ 1 ・ ② を 参 照 ) ︒
保 全 可 能 な 法 的 地 位 の こ の よ う な 混 合 構 造 を 認 め る ミ ネ ロ ー プ は ︑ 仮 処 分 の 申 請 が u n s t a t t h a f t ig と し て 排
斥 さ れ た と き ︑ こ の 裁 判 は た ん に 個 々 の 訴 訟 上 の 欠 敏 に 関 係 す る だ け で は な く ︑ 主 張 さ れ て い る 法 的 地 位 の 保 全
資 格 な い し 規 整 資 格 (R e g e lu n g s fa h ig k e it ) ︑ す な わ ち 保 全 可 能 性 が 裁 判 対 象 で あ り ︑ 同 一 の 権 利 に 基 づ く そ の 他
(12)の仮処分申請は許されない︑と主張する︒その例として︑㈱刈諺昌hΩにより返却されるべき特定物の処分禁止を求める仮処分申請が︑かかる場合の処分禁止は強制執行の受忍請求権のための処分禁止と解すべきであり︑その
ためには仮差押だけが認められるという理由で︑unstatthaftであるとして排斥されたときは︑保管人への引渡
Cam)しを求める仮処分申請は許されないという事例があげられている︒これに対して︑ライボルトは︑債権者によっ
て主張されている法的地位SSicherbarkeitは具体的申請の判断のための前提問題であり︑そのほかの仮処分
申請に対して既判力は及ばないと反対する︒たとえば︑一つの契約に基づく請求権が︑その契約の有効性の否定
あるいは民事訴訟事項の否定によって排斥された場合︑その裁判の既判力はこの契約に基づく全ての請求権には(14)及ばないと主張する︒
いうまでもなく︑既判力の拘束力は同一の訴訟物の間においてのみ作用すると解するのが普通である︒しかし
通常訴訟の場合に比べ︑保全訴訟においては訴訟物の同一性の判定は困難であり︑個々の場合の判定も容易では
ない︒処分禁止を求める仮処分申請がω冨#げ鋒臨oq犀o津を欠くとして排斥され︑ついで同一の権利に基づく保
管人への引渡しを求める仮処分申請が第一の申請と同じ必要性によってなされた場合は︑前の裁判は第二の申請
に既判力を及ぼすと解すべきであろう︒ただその際に︑ミネロープのように保全可能な法的地位の混合構造を既
判力拡張の理由とする必要はなく'Statthaftigkeitを欠くとして排斥された仮処分と同一の訴訟物に基づく他
の仮処分が申請されたときは︑前の裁判におけKaStatthaftigkeitS判断は後の仮処分申請を拘束すると解す
れば足りると思われる(後述四の既判力の部分を参照)︒
ところで︑ミネロープの説vStatthaftigkeitの中には︑被保全資格に関係するもの(強制執行の停止など特
別の保全処分が存在する場合)と︑保全の必要性に関係するもの(仮処分が保全にも規整にも関係しない場合︑
終局的満足が許されない仮処分の場合)とが混在しているが︑被保全資格と保全の必要性は保全手続上の取扱い
を異にすると考えられ(後述四参照)︑右の諸場合を一つの概念で把握することは妥当でないと思われる︒
保全処分発令要件の法的性質(一)
= 三 (7 )
一 一 四 ( 8 )
2
被 保 全 資 格 と 権 利 保 護 の 資 格
被保全資格と被保全権利の存否自体の問題とが区別されるとき︑この被保全資格と権利保護の資格とはいかな
る関係にあるのかが検討されねばならない︒まず被保全資格の具体的な内容からみていくことにする︒
ω被保全資格(ないし被保全適格)の内容の概観
㈲仮差押の被保全権利は金銭債権または金銭債権に換えられるものでなければならない(民訴法七三七条一
(15)項)︒実務例に多いのは︑貸金・売掛金・手形金・債務不履行もしくは不法行為による損害賠償等であるといわ(16)れている︒
係争物に関する仮処分によって保全される権利または法律関係は︑金銭債権以外の物を対象とする給付を目的
とする請求権であることを要する(民訴法七五五条)︒係争物は︑必ずしも有体動産や不動産のような有体物に限
らず︑債権・工業所有権・著作権等の無体財産権も︑その移転その他の処分を目的とする請求権からみれば︑物
(17)と同視されるので︑ここにいう係争物である︒この仮処分の対象となるのは︑普通︑家屋・土地などの特定物で
あるが︑某会社の何型の自動車五〇台とか︑何何株式会社の株式一︑○○○株というような限定種類債権につい
ても︑債権者の特定を侯たず執行官において債務者占有中にある同種同質同量の物を債務者から取り上げること
(° °.)ができるので(民執法一六九条一項)︑仮処分請求の関係では特定しているものと考えられる︒物を対象とする給付
とは︑物の事実状態またはこれに対する権利関係の変更または不変更を義務とする場合であり︑債権的請求権で
も︑物権的請求権でも︑あるいは親族法上の請求権でも差し支えないし︑作為を目的とするものでも︑不作為を
(19)目的とするものでもよい︒実務例に多いのは︑所有権に基づく土地や建物の明渡請求権・登記請求権︑賃貸借契
約終了に基づく土地や建物の明渡請求権︑売買契約に基づく土地・建物の引渡請求権や登記請求権︑土地所有権
(20)や賃貸借契約終了に基づく建物収去土地明渡請求権等であるといわれている︒これに反し︑物を対象としない作
為請求権(例えば︑劇場への出演請求権等)や不作為請求権(例えば︑競業避止請求権等)のようなものは︑現
在の物的状態を維持することによって保全できないので︑係争物に関する仮処分により保全される請求権の中に(21)は含まれない︒
仮の地位を定める仮処分によって保全される権利または権利関係の種類には制限がなく︑財産法上のものでも
身分法上のものでもよい︒所有権・地上権などの物権的権利関係︑金銭債権のほか賃貸借・雇傭・組合などの債
権的権利関係︑特許権・実用新案権などの無体財産関係︑取締役の職務執行停止・代行者選任請求権などの会社
法上の権利関係などいずれも仮の地位を定める仮処分によって保全される資格を有する︒最近はこの他に︑名
誉・信用に基づく差止請求権︑相隣関係における日照・通風の遮断などの生活妨害を理由とする建築工事の差止
請求権︑環境破壊に対する環境権を根拠とする公害差止請求権などの人格的色彩の強い権利関係がこの仮処分の(鎗)被保全権利として登場している︒なお︑民訴法七六〇条は﹁殊二継続スル権利関係二付﹂と規定しているので︑(23)継続的権利関係であることを要すると考える説もあるが︑一回の履行により消滅する権利関係も仮の地位を定め(24)る必要さえ認められるならば︑この種仮処分の被保全権利としての資格をもつと考えるべきである︒
㈲仮差押や係争物に関する仮処分において︑その被保全権利は︑期限未到来のものはもちろん停止条件付の
(26)(25)ものや将来の請求権についてもその基礎となる関係が現存すれぱ差し支えないとされる︒将来の請求権につい
て︑柏木氏は︑その要件を明確にするために補助的な判断の枠組を設けた方が実際的であり︑望ましいとして︑
保全処分発令要件の法的性質(一)
一 一 五 ( 9 )
一 一 六 ( 10 )
﹁被保全権利は︑保全処分発布当時必ずしも既発生であることを要しないが︑保全要件審査時を基準として︑起
(27)訴命令が発せられたとぎには十分本案の訴を起しうると予測される︑そういう確実性がいる﹂とされる︒
(28)実務上しばしば問題となるのは︑農地法三条の知事の許可を停止条件とする所有権移転登記手続請求権を保全
するための処分禁止の仮処分︑催告期間内に賃料を支払わない場合は賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし︑
同時に解除の効果が生じた場合の引渡請求権を保全するための占有移転禁止・執行官保管・債務者使用の仮処分︑
(29)期限未到来の賃貸借契約満了の場合の家屋明渡請求権を保全するための占有移転禁止の仮処分︑詐害行為取消し
の訴えを本案として受益者または転得者を相手に取消しの結果はじめて取り戻さるべき物の処分禁止または占有
Cm)移転禁止の仮処分等である︒条件成就や期限の到来が現在ほとんど期待できないため財産的価値が認められない
(1M)ものは︑被保全資格を欠くとされる︒
⑥仮差押と係争物に関する仮処分の被保全権利は通常の強制執行に適するものでなくてはならないから︑特
別の手続により執行される請求権(国税徴収手続による租税債権)︑不執行の合意のある請求権︑破産により免
責のあった債権(破産法三六六条の=一)︑自然債務︑債務者の自由意思に反してその履行を強制できないもの(た
とえば︑夫婦同居義務等)は被保全資格を有しない︒仲裁契約の存在する請求権は︑仲裁判断に執行判決を得て
強制執行がでぎるから(民訴法八〇二条)被保全資格を有する︒
㈲特別の保全処分が認められている権利または法律関係は被保全資格を欠く︒そのような特殊保全処分が認
められる場合として︑破産・和議・会社整理・特別清算・会社更正などの申立てに伴う保全処分(破産法一五四
条・一五五条︑和議法二〇条︑商法三八三条・三八四条・三八六条・四三二条・四三三条・四五四条︑会社更正法三七条ニニ九
条.七二条)︑民法に定める場合に相続財産につき家事審判手続としてなされる保全処分(民法八九五条・九一八条二
項 ・ 九 四 三 条 ︑ 家 事 審 判 法 九 条 甲 類 二 三 号 .二 五 号 .三 一 号 な ど ) ︑ 家 事 審 判 手 続 に よ る 財 産 分 与 の 申 立 て や 扶 養 に 関 す る
申 立 て に 基 づ く 仮 の 処 分 (家 事 審 判 規 則 五 六 条 ノ ニ ・ 九 五 条 ) ︑ そ の 他 家 事 審 判 前 の 保 全 処 分 (家 事 審 判 法 一 五 条 の 三 ・
一 五 条 の 四 ) ︑ 民 事 調 停 お よ び 家 事 調 停 に お け る 調 停 前 の 仮 の 処 分 (民 事 調 停 法 = 一条 ︑ 家 事 審 判 規 則 一 三 三 条 ) ︑ 仮 登
記 仮 処 分 (不 動 産 登 記 法 三 二 条 . 三 三 条 ) ︑ 行 政 処 分 の 執 行 停 止 決 定 ( 行 政 事 件 訴 訟 法 二 五 条 1 二 九 条 ) ︑ 強 制 執 行 停 止 ・
取 消 し な ど の 仮 の 処 分 (民 訴 法 四 一 八 条 二 項 ・ 五 〇 〇 条 ・ 五 一 一 条 ・ 五 1 1 1条 ・ 五 一 二 条 ノ ニ ︑ 民 執 法 一 〇 条 六 項 ・ 一 一 条 二
項 . lt l ii 条 l l 項 . 三 六 条 ‑ 三 八 条 . 一 三 二 条 三 項 ・ 九 〇 条 な ど ) ︑ 担 保 権 実 行 と し て の 競 売 の 停 止 命 令 (民 執 法 一 八 三 条 一
(32)項五号)などがあげられる︒なお︑人事訴訟手続法一六条による子の監護その他の仮処分と商法二七〇条・二七
一条による株式会社の取締役の職務執行停止・代行者選任の仮処分が︑特殊保全処分に属するか︑民事訴訟法上
(m>の仮処分に属するかについては争いがある︒
右の中︑家事審判法ないし家事審判規則上の保全処分について︑この特殊保全処分とは別に民事訴訟法上の仮
処分が許されるかをめぐって︑従来︑見解が分かれていた︒しかし近年家事審判法一五条の三が新設され︑そこ
で家事審判法ないし家事審判規則上の保全処分の執行力が承認されるに至り︑特殊仮処分の他に民事訴訟法上の
仮処分を認める必要性はもはや存在しなくなったので︑民事訴訟法上の仮処分は許されないと解すべきである︒
行政事件訴訟法四四条は︑民事訴訟法上の仮処分を排除しているが︑最近︑公害訴訟の分野において︑公害発
生の原因となる道路・港湾・空港等の公共施設の建設工事を国または公共団体が施行する場合︑行政事件訴訟法
三条・四四条の﹁公権力の行使に当たる行為﹂に該当しないと構成し︑いわゆる環境権・人格権等の私法上の権(34)利を被保全権利として︑工事禁止等の仮処分を申請することがしばしば登場している︒いかなる行為が﹁公権力
(35)の行使﹂に該当するかについては︑多くの議論がなされている︒
保全処分発令要件の法的性質(一)
一 一 七 ( 11 )
= 八 ( 12 )
㈲最後に'政治a題(politicalquestion)︑行政権︑労働関係︑団体の自立権(とくに宗教団体における)︑
宗教問題︑選挙運動に対する司法権の限界が問題となる︒
政治問題︑すなわち憲法その他法律の解釈適用に関し︑国民の権利利益を侵害する事件として︑法律上の争訟
に該当するものであっても︑﹁高度の政治性﹂をもった事件は︑司法審査の対象から除外されなければならない
といわれて転縛︒このような場合︑たとえそれが法律上の争訟に該当し︑これに対する有効無効の判断が法律上
可能であっても︑このような政治問題は︑国民に対して政治的責任を負う政府・国会等の政治部門の判断に委ね
(37)られているものと解すべきであり︑裁判所の審査権の外にあるものと考えるべきである︒このような政治問題に(38)(39)(40)(41)該当する場合として︑国務大臣の任免︑国会の解散︑予算の作成・議決・執行︑恩赦の決定などがあげられる︒
したがって︑このような事件に関する保全処分の申請は被保全資格を欠き︑許されない︒
行政権に対する関係では︑行政庁に作為・不作為を命じる仮処分︑行政処分がされたのと同様な法律状態を形(42)成する仮処分の申請が問題となる︒このような行政庁に対する義務づけ的仮処分の許容性は︑まずもって義務づ
け訴訟(不利益処分に関して不作為を求める場合は予防的差止訴訟とよばれる)の可否が先決問題であることは
明らかである︒義務づけ訴訟の可否については︑具体的行政処分を行なうについて行政庁の﹁第一次的判断権﹂
を理由に否定する見解(もっとも︑この原則に対しては︑厳しい条件のもとに︑例外が認められる余地は︑認(43)める)と︑司法権が行政権行使の適法性審査を行ないうる範囲は︑行政処分の事前・事後で裁然と区別されるも
のではなく︑処分決定前にあっても事件の裁判的解決が可能かつ必要な﹁争いの成熟﹂があれば︑義務づけ判決(44)を下すことは司法裁判所の範囲内であると解する説が対立している︒もっとも義務づけ訴訟否定論が例外を認め(45)ることにより︑両説間に歩みよりがみられる︒したがって︑行政事件訴訟法三条一項が﹁抗告訴訟﹂とは︑行政
庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう︑と規定し︑その三項で四種の抗告訴訟が列挙されていることから︑
そこになんらかの無名抗告訴訟を認める余地があることをも顧慮するならば︑一定の条件のもとで義務づけ訴訟
を認めることが正しい方向であると思われる︒このような義務づけ訴訟が可能であるとして︑かかる訴訟を本案
とする保全処分はどのようなものであるかが問題として残る︒私は︑行政庁に作為を求める場合や拒否処分がす
でになされ︑その拒否処分の取消しを求める場合(後者は義務づけ訴訟ではないが︑その保全手続の場面では行
政庁に作為を求める必要が生じる)については︑立法論としては︑西ドイツ行政裁判所法=一三条による﹁仮命
令﹂(EinstweiligeAnordnung)1.J近い﹁行政上の仮処分﹂制度を法定すべきであるが︑現在においては︑民事訴(46)訟法上の仮処分によることができると考える︒ついで︑不利益処分についての予防的差止訴訟の場合は︑行政法(47)上の執行停止制度の類推適用が認められるべきである︒以上のように︑行政庁に対して作為・不作為を求める仮
処分や行政処分をしたのと同様な法律状態を形成する仮処分も︑一般的に被保全資格を欠くと考えるべきではな
く︑具体的事情によっては被保全資格を肯定すべき場合が存在する︒
労働関係に対する司法権の限界として︑団体交渉応諾の仮処分や支配介入を禁止する仮処分が問題となる︒後
(48)(49)者の仮処分については消極説が有力であり︑団体交渉応諾の仮処分については積極説が有力である︒なお利益争
議(賃金の値上げ︑労働協約の締結など)については︑被保全資格を欠き仮処分を利用することは許されず︑団
(50)体交渉を経て労働協約の締結に進むほかはない︒被保全資格は否定されていないが︑違法ピケット排除仮処分に
ついて︑労働争議の包括性︑流動性および緊急性を理由に︑仮処分制度がこの種の事案に適していないという主
(51 ) 張 が な さ れ て い る ︒
( 52 )
団体の自立権とくに宗教団体の内部紛争に対する司法権の限界も考慮する必要がある︒この分野でもっとも多保全処分発令要件の法的性質(一)
一 一 九 ( 13 )
一 二 〇 ( 14 )
い紛争は宗派ないし寺院における一定の地位をめぐるものであるが︑判例は︑宗教上の地位それ自体の存否の確
認を求めることは許されないが︑他に具体的な権利または法律関係をめぐる紛争があり︑その当否を判定する前
提問題として宗教上の地位の存否を判断する必要がある場合には︑その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわた
(53)るものであるような場合を除き︑宗教上の地位自体について審判権を有する︑と判示している︒
右に述べた宗教団体の自立権とも関連するが︑宗教教義の紛争に対する司法権の限界も問題となる︒かかる場
(54)合として︑創価学会寄附金返還請求事件がある︒最高裁第三小法廷は︑具体的な権利義務ないし法律関係に関す
る紛争であっても︑法令の適用により解決されるのに適しないものは裁判所の審判の対象となりえないとし︑そ
して本件で︑本尊の真偽と広宣流布達成の時期の判断には︑﹁信仰の対象についての宗教上の価値に関する判断﹂
や﹁宗教上の教義に関する判断﹂が必要であり︑事柄の性質上法令を適用して解決できる問題でない︑と判示し
(55)た︒宗教紛争に対する司法権の限界を考える場合︑たんに訴訟上の請求それ自体から訴えの可否あるいは保全申
(56)請の可否を論じるというのではなく︑攻撃防禦方法レベルの問題も考慮の中に入れて判断すべきであろう︒
(57)(58)選挙戦における一定の主張を禁ずる仮処分は問題であるといわれている︒この仮処分について石川教授は︑
﹁公選法が公正選挙の理念をかかげていても︑このことから公正選挙妨害行為の排除差止の選挙法上ならびに私
法上の請求権がでてくるというわけではなく︑法はこれに対して罰則のみをもって対処するにすぎない﹂と説か
(59)れ︑木川氏も︑﹁選挙の公正という公益の問題は︑選挙管理委員会なり警察なりが処理すべきことで︑司法裁判
所の介入すべきいわれは全くない﹂と主張されている︒
以上︑㈲から㈲まで︑被保全資格(ないし被保全適格)の内容を概観し︑そこで問題となる具体的事項につい
て︑ほぼもうら的に説明した積りである︒ただ︑具体的事項について詳論することは本稿の目的ではないので︑
他の機会に譲ることとし︑たんに私見の結論を明らかにし︑もしくは問題点を指摘するにとどめた︒
②被保全資格の法的性質
㈲上述の被保全資格の具体的内容の概観からわかることは︑被保全資格の内容には︑通常訴訟においても一
般的権利保護の資格を欠くものとして訴求できないもの︑特殊保全処分に関するものおよび保全訴訟に固有なも
のが存在するということである︒すなわち︑㈲の期限未到来のものや停止条件付のもので︑条件成就や期限の到
(60)来がほとんど期待でぎない請求権(たとえば︑出世払いの貸金債権など)︑㈹の破産により免責のあった債権︑
自然債務︑㈹の司法権の限界の諸場合などは第一のグループに属する︒第三のグループに属するものとして︑②
の仮差押の被保全権利は金銭債権または金銭債権に換えられるものでなければならないとか︑係争物に関する仮
処分の被保全権利(または保全される法律関係)は金銭債権以外の物を対象とする給付を目的とする請求権であ
ることを要するとか︑⑥の不執行の合意のある請求権︑国税徴収手続による租税債権︑債務者の意思に反してそ
の履行を強制できないもの(夫婦同居義務等)は仮差押や係争物に関する仮処分の被保全権利となりえないなど
があげられる︒
条件成就や期限の到来がほとんど期待できない︑すなわち財産的価値のない請求権や自然債務が︑権利保護の
資格ないし訴えの利益を欠くものとして通常訴訟においても訴求されえないことはいうまでもない︒また︑行政
権や宗教問題などに対する司法権の不当な介入となる場合も︑通常訴訟において︑権利保護の資格ないし訴えの
利益を欠くものとして︑あるいは﹁法律上の争訟﹂(裁判所法三条一項)に該当しない場合として︑訴求できない︒
これらの場合においては︑被保全資格を欠くとされる権利ないし法律関係は通常訴訟においても権利保護の資格
保全処分発令要件の法的性質(一)一二一(15)
1 X 1 1 1 C °6 )
ないし訴えの利益を否定されるので︑被保全資格と一般的権利保護の資格との関係は明瞭である︒つまり︑かか
る場合の被保全資格は一般的権利保護の資格自体あるいはその保全訴訟における特殊形態と考えることができ
る︒
っぎに︑特殊保全処分が認められる場合や保全訴訟に固有な被保全資格の中の租税債権の場合も︑同様に考え
られる︒すなわち︑租税債権は国税徴収法による手続で執行されるので︑通常の民事訴訟による債務名義を必要
としない︒したがって通常民事訴訟によって租税債権を訴求することは権利保護の資格を欠くことになる︒ま
た︑特殊保全処分が認められる場合も︑大部分は︑通常訴訟において一般的権利保護の資格を欠くものといえる︒
たとえば︑破産債権については破産債権の届出手続によるぺきであるし(破産法一六条)︑執行法上の各種の不服
(61)申立が認められる場合や家事審判事項の場合も︑通常の民事訴訟によることは権利保護の資格を欠くものとされ
る︒ただ︑商法二七〇条・二七一条による株式会社の取締役の職務執行停止・代行者選任の仮処分を特殊保全処
分と解する場合︑かかる場合の本案は通常の民事訴訟手続において審理・判断されるので︑特殊保全処分が認め
られる場合でしかも通常の民事訴訟によることができる︒すなわち権利保護の資格を有する特殊な場合といえよ
う︒以上のように︑特殊保全処分が認められる場合の大部分については︑第一のグループと同様に︑被保全資格
の問題は一般的権利保護の資格の問題に還元することが可能であり︑この場合の被保全資格の法的性質は一般的
権利保護の資格あるいはその保全訴訟における特殊形態であるといえる︒
保全訴訟に固有な被保全資格の残りの場合すなわち㈲の場合や⑥の不執行の合意のある請求権や債務者の意思
に反して履行を強制できないものは仮差押や係争物仮処分の被保全権利となりえないという場合などにおいて
は︑被保全資格を一般的権利保護の資格に還元することはできない︒しかしながら︑かかる場合の被保全資格に
も一般的権利保護の資格と同様の考え方が存在すると考えられる︒つまり︑②の場合には︑当該権利の保全はい
かなる種類の保全方法︑すなわち仮差押︑係争物仮処分および仮の地位を定める仮処分のいずれによるべきかと(26)いうことが問題となっており︑かかる問題は通常訴訟における解決手段の適否(他の手段との分担)の問題と共
通の考え方に基づいている︒さらに︑前にあげた特殊保全処分が認められる場合もこのような考え方が基礎にな
っているといえよう︒したがって︑商法二七〇条・11七1条による株式会社の取締役の職務執行停止・代行者選
任の仮処分の場合も(もちろんこの仮処分を特殊保全処分と解するとぎ)︑一般的権利保護の資格と共通の考え
方が存在するといえる︒このように考えるならば︑㈲の場合や商法二七〇条・11七1条の仮処分の場合の被保全
資格の法的性質を一般的権利保護の資格の特殊形態と解することが許されよう︒最後に︑⑥の不執行の合意のあ
る請求権や債務者の意思に反して履行を強制できない権利は仮差押や係争物仮処分の被保全権利となりえないと
いう場合においては︑仮差押や係争物仮処分の制度目的︑つまりこの二つの保全処分は実体的請求権の将来の実
現︑すなわち執行に奉仕すぺぎであるということから要求される資格が問題となっており︑このような関係は︑
通常訴訟における権利保護の資格ないし訴えの利益が当該紛争は民事訴訟の目的に適合する紛争であるかどうか
という観点から要求される訴訟要件であることと類似している︒したがって︑かかる場合の被保全資格の法的性
質も一般的権利保護の資格の特殊形態と解することがでぎるのではないかと思われる︒
以上のように︑全ての場合の被保全資格が通常訴訟における一般的権利保護の資格自体あるいはその保全訴訟
における特殊形態と考えることが可能であり︑したがって︑前者の保全手続上の取扱いについても後者に準じて
行なわれるべきであろう(後述四参照)︒
ωつぎに︑被保全資格は実体的要件と手続的要件のいずれに帰属するかを検討したい︒もっとも︑この問題
保全処分発令要件の法的性質(一)
二 一 三 ( 17 )
一 二 四 ( 18 )
については今日までほとんど議論されていない︒ところで︑特定の要件の法的性質を考察する際には︑民事事件
に対する一般的体系的な関係としての実体法と手続法(ないし形式法)が問題になっているのか︑あるいは個別
的な関係において当該要件が実体法的に機能しているのか︑もしくは手続法的な機能を営んでいるのかが問題と
なっているのか(再審や仲裁判断取消訴訟等においては︑一般的体系的関係では手続的要件とされるものも実体(63)的要件として評価される)を厳格に区別しなければならない︒けだし︑一般的体系的関係で手続的要件とされる
もので︑個別的関係では実体的要件とされるものは︑その手続上の取扱いにおいて手続的要件としての性質を顧
慮する必要があるからである︒たとえば︑再審においては︑主張された再審事由の存否に関して裁判所は職権で
(64)事実を探知できると共に︑当事者の請求の放棄および認諾または自白に拘束されないとされている︒
上述㈲において︑被保全資格は一般的権利保護の資格自体あるいはその保全訴訟における特殊形態であるとし
た︒したがって︑被保全資格は一般的体系的関係では手続的要件となる︒被保全権利の存否自体を実体的要件と
解することには問題がないと思う︒個別的関係における被保全資格の法的性質については次のように考える︒前
述したように︑従来の学説・判例によれば︑被保全資格は被保全権利の存否自体の要件と手続上厳格に区別され
ていないので︑被保全資格を欠く場合も被保全権利が存在しない場合と同様に︑被保全権利が疎明されないとし
て保全申請は却下される︒たとえば︑東京地判昭和二六年一二月二八日労民集二巻六号六五四頁は会社の諮責処
分について︑﹁調責については︑当不当はあり得ても︑またその存否は問題となり得ても︑意思表示としての効
力の有無を生ずる余地なきものと考えざるを得ない︒然らば︑⁝⁝これを無効として確認訴訟を提起するは︑許
されざるところと考えざるを得なく︑この請求を保全するための仮処分請求は︑請求の疎明なきに帰するものと
(65)言わざるを得ない︒﹂と判示している︒したがって︑従来の学説・判例は被保全資格を含めた被保全権利の要件
を実体的要件と解しているように思われる︒しかし︑私は︑被保全資格と被保全権利の存否自体の要件は厳格に
区別すべきであり︑被保全資格は保全裁判の実体的内容を規定するものではないので手続的要件とみるべきで︑
また︑被保全権利の存否自体は裁判の実体的内容を規定するものであり︑実体的要件と解すぺきであると考える︒
注 ( 1 ) 松 岡 義 正 ﹃ 保 全 訴 訟 要 論 ﹄ 五 六 頁 以 下 ︑ 三 一 八 頁 以 下 ︑ 谷 井 辰 蔵 ﹁ 仮 差 押 及 仮 処 分 手 続 ﹄ 四 頁 以 下 ︑ 三 一 八 頁 以 下 ︑
三 三 九 頁 以 下 ︑ 菊 井 維 大 ﹃ 民 訴 法 ⇔ ﹄ 三 〇 九 頁 以 下 ︑ 三 五 二 頁 以 下 ︑ 前 野 順 一 ﹃ 強 制 執 行 法 保 全 訴 訟 篇 ﹄ 八 頁 以 下 ︑
一 四 八 頁 以 下 ︑ 一 五 四 頁 以 下 ︑ 吉 川 大 二 郎 ﹃ 強 制 執 行 法 ﹂ 一 六 九 頁 以 下 ︑ 兼 子 一 ﹃ 増 補 強 制 執 行 法 ﹄ 三 〇 二 頁 以 下 ︑ 三
二 三 頁 以 下 ︑ 菊 井 闘 村 松 闘 西 山 ﹃ 仮 差 押 ・ 仮 処 分 ﹄ ( 二 訂 版 ) 三 五 頁 ︑ 九 三 頁 以 下 ︑ 二 〇 一 頁 以 下 ︑ 西 山 俊 彦 ﹃ 保 全 処 分
概 論 ﹄ 二 九 頁 以 下 ︑ 柳 川 真 佐 夫 ﹃ 保 全 訴 訟 ﹄ ( 補 訂 版 ) 七 〇 頁 以 下 ︑ 村 上 博 己 編 ﹁ 民 事 執 行 ( 上 ) ﹄ 三 九 九 頁 以 下 ︒ (2 ) 松 岡 ・ 前 掲 五 六 頁 以 下 ︒
(3 ) 吉 川 大 二 郎 ﹁ 保 全 訴 訟 に お け る 裁 判 の 既 判 力 ﹂ ﹃ 保 全 訴 訟 の 基 本 問 題 ﹄ 四 八 頁 ︒
(4 ) R o s e n b e r g , L e h r b u c h , 9 . A u fl ., ァ 2 1 1 I V 1 , A . B lo m e y e r , Z i v il p r o z e s s r e c h t , ァ 1 1 9 I 1 , S t e i n ‑ J o n a s
( G r u n s k q ) , Z P O , 2 0 . A u fl ., 9 1 6 I , I I , T h o m a s ‑ P u t z o , Z P O , 1 1 . A u fl ., ァ 9 1 6 A n m . 2 .
(5 ) S t e i n ‑J o n a s ( G r u n s k y ) , Z P O , 2 0 . A u fl ., ⑰ 9 1 6 R d n r . 4 は ︑ A r r e s t a n s p r u c h が 存 在 し な い か ︑ あ る い は 疎 明 さ
れ な い と き に は ︑ 仮 差 押 申 請 は u n b e g r u n d e t と し て 排 斥 さ れ る べ き で あ り ⊆ 口 N 巳 似 ω ︒・ 同oq と し て 排 斥 さ れ る の で は な い ︑
と 説 ぎ ︑ さ ら に ︑ A r r e s t a n s p r u c h Q 存 在 が 適 法 性 の 要 素 と さ れ る か あ る い は 理 由 具 備 性 の 要 素 と さ れ る か に か か わ り
な く ︑ 一 定 の 条 件 の も と で 申 請 の く り 返 し を 許 す べ ぎ N あ rC a か ら ' u n z u l a s s i g と u n b e g r ii n d e t Q y ず れ に 帰 属 す る
か の 問 題 は あ ま り 重 要 で な い と す る ︒ ま た ︑ 仮 差 押 は 申 請 が 有 理 性 (S c h l ii s s i g k e i t ) を も つ と き に だ け 発 令 さ れ う る ︒
そ し て ︑ そ の 有 理 性 の 審 理 は ︑ 困 難 な 法 律 問 題 の 場 合 ︑ 保 全 手 続 の 迅 速 性 の た め 通 常 手 続 と 同 じ 程 度 の 綿 密 さ で 行 な う
こ と は で ぎ な い ︑ と 主 張 す る ︒ こ れ に 対 し ' W e n z e l , G r u n d l in ie n d e s A r r e s t p r o z e s s e s , M D R 1 9 6 ? , S ° c︒ 旨 は ︑
請 求 権 の 有 理 性 の 審 理 は 真 正 の 認 定 手 続 ( r e fin e s E r k e n n t n is v e r f a h r e n ) で あ り ︑ 略 式 な も の で は な い と し ︑ さ ら
保全処分発令要件の法的性質(一)
= 一 五 ( 19 )
一 二 六 ( 20 )
に ︑ 法 律 状 態 が 実 際 に 明 瞭 で な い と ぎ は ︑ か か る 理 由 に 基 づ き 申 請 を 排 斥 す ぺ き で あ り ︑ そ し て 裁 判 所 に よ る 警 察 権
( R e c h t s p o l i z e i) を 行 使 す る か わ り に ︑ 申 請 人 に 警 察 に ‑'‑ 6 r@ r '法 ( P o l i z e i r e c h t ) に よ る べ き 旨 を 指 摘 す ぺ き で な か ろ
う か ︑ と 主 張 す る ︒
(6 ) S t a t t h a f t ig k e it な る 語 は ︑ 通 例 ︑ 訴 訟 法 上 当 該 裁 判 に 上 訴 が 認 め ら れ て い る 場 合 に 用 い ら れ る ︒ た と え ば ︑ 民 事 事
件 で L a n d g e r i c h t Q 控 訴 判 決 に 対 す る 上 告 に よ る 上 訴 は ロ 昌 ω 訂 暮 冨 津 で あ る ︒ け だ し ︑ こ の 種 の 判 決 の た め に 上 告
に よ る 上 訴 は 一 般 に 規 定 さ れ て い な い か ら で あ る ︑ と い う 場 合 に 用 い ら れ る ︒ < oq 1. U l ls t e i n L e x i k o n d e s R e c h t s ,
ω ゜ ら O N 通 俗 的 に は ︑ 許 容 性 と い う 意 味 で 用 い ら れ る ︑ U & o 昌 H 9 ω . 6 2 0 .
( 7 ) M i n n e r o p , M a t e r ie l le s R e c h t a n d e in s t w e i l ig e r R e c h t s s c h u t z , S . 1 7 f . A S f rf ‑ N ' S t u r n e r , A c P
1 7 4 , S ° 5 6 5 , L e i p o l d , Z Z P 8 Q◎ 燭 ω ゜ 禽 $ °
( oo ) M i n n e r o p , a . a . O ., S ° ω O h °
( 9 ) M i n n e r o p , a ° 9︒ ° 9 ω ゜ ω α ゜
( 10 ) 不 真 正 訴 訟 要 件 と は ︑ リ ム メ ル ス バ ッ ヘ ル ( R im m e l s p a c h e r , Z u r P r u f u n g v o n A m t s w e g e n i m Z i v i l p r o z e B ,
1 9 6 6 ) や グ ル ン ス キ ー ( G r u n s k y , P r o z e B ‑ a n d S a c h u r t e i l , Z Z P 8 0 , S ° q α ) な ど が 訴 訟 要 件 を 本 案 判 決 要 件 と し て
位 置 づ け る こ と に 反 対 し ︑ 訴 訟 要 件 を 本 案 要 件 と 同 様 勝 訴 の 要 件 に す ぎ な い と 主 張 し た の に 対 し て ︑ 通 説 の 説 く 訴 訟 要
件 と 本 案 要 件 の 区 別 を 維 持 し ︑ そ れ を 修 正 す る た め に ︑ プ ロ h イ ヤ ︲ ( 1 ・ B lo m e y e r , D ie U n t e r s c h e id u n g v o n
Z u la s s ig k e it a n d B e g r ii n d e t h e i t b e i d e r K l a g e a n d b e i m A n t r a g a u f A n o r d n u n g e in e s A r r e s t e s o d e r
e in e r e i n s t w e i l ig e n V e r f u g u n g , Z Z P 8 1 , S ° b︒ O ) に よ っ て 主 張 さ れ た も の で あ る ︒ 通 説 を 支 持 す る 最 近 の 論 稿 と し
N ' H . J . S a u e r , D ie R e ih e n f o l g e d e r P r ii f u n g v o n Z u l a s s ig k e i t a n d B e g r u n d e t h e i t e i n e r K l a g e im
Z i v i l p r o z e B ( 1 9 7 4 ) , R ° M a r t i n , P r o z e s s v o r a u s s e t z u n g e n a n d R e v i s i o n ( 1 9 7 4 ) , が あ る ︒ プ ロ マ イ ヤ ー に よ れ
ば ' Y 正 ,,, 訟 要 件 ( D i e e c h t e n P r o z e Li v o r a u s s e t z u n g e n ) と は ︑ 原 告 に よ っ て 選 択 さ れ た 訴 訟 の 方 法 を 妨 げ る も の
で ︑ 原 告 の 目 的 を 達 成 す る た め に は 他 の 方 法 を 選 択 す べ き こ と を 指 示 す る 訴 訟 要 件 で あ る ︒ 管 轄 ︑ 権 利 救 済 手 続 ( 幻 o ‑
c h t s w e g ) Q 選 択 ︑ 訴 訟 係 属 ︑ 訴 訟 能 力 お よ び 裁 判 権 が こ れ に 属 す る ( ω ゜ b︒ 刈 ) ︒ こ れ に 対 し 不 真 正 訴 訟 要 件 と は ︑ 原 告
が 達 成 し よ う と す る 目 的 自 体 ( す な わ ち 権 利 の 実 行 ) を 妨 げ る 訴 訟 要 件 で あ る ︒ 当 事 者 能 力 ︑ 一 般 的 権 利 保 護 の 必 要 ︑
訴 求 可 能 性 お よ び 訴 訟 追 行 権 が こ れ に 属 す る (ω .3 9 ° そ し て ︑ 不 真 正 訴 訟 要 件 は ︑ 真 正 訴 訟 要 件 と 異 な り ︑ 本 案 要 件
に 対 す る 先 行 性 を も た な い と 説 く (ω ﹄ ① ) ︒
訴 訟 要 件 と 本 案 要 件 の 審 理 順 序 に つ い て は ︑ わ が 国 で も 議 論 さ れ て い る ︒ 通 説 は ︑ 訴 訟 要 件 は 本 案 判 決 の 前 提 要 件 で
あ り ︑ 訴 訟 要 件 を 確 か め た 上 で 本 案 判 決 を す べ き で 請 求 の 当 否 が ど ん な に 明 白 で あ っ て も こ れ を 不 問 に 付 し て 本 案 判 決
を す る こ と は 許 さ れ な い と 解 す る (兼 子 ﹃ 民 事 訴 訟 法 体 系 ﹄ 一 五 〇 頁 ︑ 三 ヶ 月 ﹃ 民 事 訴 訟 法 ﹄ ︹有 斐 閣 ︺ >> lo l 頁 ︑ 斎
藤 ﹃ 民 事 訴 訟 法 概 論 ﹄ 一 六 八 頁 ︑ 一 七 二 頁 ︑ 菊 井 臆 村 松 ﹃ 全 訂 民 事 訴 訟 法 1 ﹄ 九 八 五 頁 以 下 ︑ 伊 藤 乾 ﹁ 権 利 保 護 の 利
益 ﹂ ﹃ 民 事 訴 訟 法 演 習 1 ﹂ 二 五 六 頁 ︑ 斎 藤 編 ﹃ 注 解 民 事 訴 訟 法 ⑧ ﹄ 一 〇 七 頁 以 下 ︹ 小 室 ︺ ) ︒ こ の 通 説 に 対 し て ︑ 訴 訟 要
件 の 本 案 判 決 の 前 提 要 件 た る 性 格 を 否 定 し て 審 理 順 序 を 検 討 す る も の と ︑ 訴 訟 要 件 の そ の よ う な 性 格 を 承 認 し つ つ 特 定
の 訴 訟 要 件 に つ い て 例 外 的 に 訴 訟 要 件 の 先 行 性 を 否 定 す る も の と が あ る ︒ 上 北 ﹁ 訴 え の 利 益 に か ん す る 1 考 :J C前 掲 )
一 一 三 頁 以 下 は ︑ 訴 え の 利 益 を 本 案 判 決 の 要 件 で は な く 請 求 認 容 の た め の 要 件 と 解 し ︑ 訴 え の 利 益 が 欠 映 す る 場 合 で
も ︑ 国 民 の 訴 訟 制 度 の 利 用 を 実 質 的 に 保 証 す る た め ︑ 本 案 の 審 理 が 進 め ら れ る べ ぎ で あ り ︑ 理 由 の な い こ と が 判 明 す れ
ば ︑ そ の 時 点 で 請 求 棄 却 の 判 決 が な さ れ る べ き だ と す る ︒ ま た ︑ 坂 口 ﹁ 訴 訟 要 件 論 と 訴 訟 阻 却 ( 抗 弁 ) 事 由 ﹂ 兼 子 還 暦
﹃ 裁 判 法 の 諸 問 題 (中 ) ﹄ 二 二 三 頁 以 下 は ︑ 訴 訟 要 件 の 本 質 を 本 案 判 決 要 件 で は な く 訴 訟 阻 却 事 由 で あ る と 解 し ︑ 訴 訟 要
件 の 欠 飲 が 明 ら か に な っ て は じ め て P ro z e s s w u r d ig k e it (裁 判 所 が 権 利 を 確 認 す る 価 値 ) が 否 定 さ れ ︑ そ の 欠 訣 が 訴
訟 に あ ら わ れ な い 限 り ︑ 請 求 棄 却 ・ 請 求 認 容 の い ず れ か の 本 案 判 決 も す る こ と が で ぎ る と す る ︒ 鈴 木 正 裕 ﹁ 訴 訟 要 件 と
本 案 要 件 と の 審 理 順 序 ﹂ 民 商 法 雑 誌 五 七 巻 四 号 五 〇 七 頁 以 下 は ︑ 訴 訟 要 件 が 本 案 判 決 の 前 提 要 件 で あ る と い う 訴 訟 要 件
の 性 質 を 承 認 し つ つ ︑ 個 々 の 訴 訟 要 件 に つ い て 当 事 者 と 裁 判 所 の 利 害 を 考 量 し て ︑ 請 求 棄 却 判 決 が 無 効 ま た は 取 消 し 可
能 (再 審 事 由 ) と な る 訴 訟 要 件 (被 告 に 対 す る 裁 判 権 ︑ 職 分 管 轄 な ど ) お よ び 民 事 訴 訟 事 項 (通 常 訴 訟 以 外 の 手 続 が 予
定 さ れ ︑ そ の 事 件 に つ い て は 民 事 訴 訟 で 審 理 す る こ と が 許 さ れ な い も の は 民 事 訴 訟 事 項 に 該 当 し な い ) を 除 き ︑ そ の 他
の 訴 訟 要 件 に つ い て は 本 案 要 件 に 対 す る 先 行 性 を 否 定 す る ︒ こ の よ う に 個 別 的 に 訴 訟 要 件 を 検 討 す る 傾 向 が 多 く な っ て
い る ︒ 上 村 明 広 ﹁ 上 告 審 に お け る 訴 訟 要 件 ﹂ 小 室 開 小 山 還 暦 ﹃ 裁 判 と 上 訴 (中 ) ﹄ 一 九 八 頁 以 下 ︑ 竹 下 守 夫 ﹁ 訴 訟 要 件 を
め ぐ る 二 ︑ 三 の 問 題 ﹂ 司 法 研 修 所 論 集 六 五 号 一 頁 以 下 ︒ な お ︑ 学 説 の 状 況 に つ い て は ︑ 中 森 宏 ﹁ 訴 訟 要 件 と 本 案 の 審 理
順 序 ﹂ ﹃ 民 事 訴 訟 法 の 争 点 ﹄ 一 四 六 頁 お よ び そ こ に 掲 記 さ れ て い る 文 献 を 参 照 ︒
保全処分発令要件の法的性質(一)
1 i lk C 21 )
= 一 八 ( 22 )
( ) M in n e r o p 噂 p p o ., s .°︒ 心 h ° (12 ) M in n e r o p , a °a . O ., S .3 1 f. ( ) M in n e r o p , a . a . o ., s ° 器 ゜ (14 ) L e ip o ld , a ° ρ . o ., s . 46 9. (15 ) 大 判 昭 和 九 年 六 月 二 二 日 新 聞 三 七 一 二 号 九 頁 ︑ 浦 和 地 決 昭 和 三 七 年 一 二 月 一 〇 日 下 民 集 = 二 巻 一 二 号 二 四 六 三 頁 (損
害 賠 償 請 求 権 は 仮 差 押 の 被 保 全 権 利 と は な り 得 て も ︑ 営 業 妨 害 排 除 の 仮 処 分 の 破 保 全 権 利 と は な り 得 な い と さ れ た 事
例 ) ︒
な お ︑ 金 銭 債 権 に 換 え る こ と の で き る 請 求 権 と は ︑ 特 定 物 の 給 付 請 求 権 そ の 他 財 産 上 の 請 求 権 に つ い て ︑ 後 日 債 務 不
履 行 や 契 約 解 除 に よ っ て 損 害 賠 償 請 求 権 に 換 わ る こ と が で ぎ る も の を い う と さ れ る ︒ し か し ︑ 仮 差 押 申 請 の 際 ︑ 本 案 の
請 求 権 を 表 示 し た ま ま で こ れ を 被 保 全 権 利 と す る の で は な く ︑ 債 務 不 履 行 や 契 約 解 除 の 可 能 性 を 指 摘 し て 金 銭 債 権 と し
て 表 示 し な け れ ば な ら な い の で あ る か ら ︑ 申 請 の 段 階 で は 条 件 付 金 銭 債 権 と し て 現 れ る の で あ っ て ︑ 金 銭 債 権 に 換 わ り
う る 請 求 権 と し て 現 れ る の で は な い と い う こ と を 理 由 に ︑ こ の 概 念 を 用 い る こ と に 対 す る 疑 問 を 提 示 す る も の も あ る (沢
田 ﹃ 保 全 執 行 法 試 釈 ﹄ 四 頁 ︑ 鈴 木 ⊥ 二 ヶ 月 闘 宮 脇 編 ﹃ 注 解 強 制 執 行 法 ㈲ ﹄ 二 五 二 頁 ︹ 西 山 ︺ ) ︒ (16 ) 西 山 ・ 前 掲 二 九 頁 ︒ (17 ) 兼 子 ﹃ 増 補 強 制 執 行 法 ﹂ 三 二 一二 頁 ︑ 西 山 ・ 前 掲 三 〇 頁 ︒ こ れ に 対 し ︑ 野 村 秀 敏 ﹁ 保 全 訴 訟 と 本 案 訴 訟 ( 続 ) ﹂ 成 城 法
学 五 号 三 七 頁 以 下 は ︑ ﹁係 争 物 ﹂ を ︑ 争 い の 対 象 と な っ て い る 物 ま た は 権 利 で は な く し て ︑ 債 権 者 の 金 銭 賠 償 で は な い
一 次 的 な 目 的 で あ る 訴 訟 物 を 指 し て い る ︑ と し て ︑ 係 争 物 に 関 す る 仮 処 分 と 仮 の 地 位 を 定 め る 仮 処 分 と の 区 別 を 否 定 し
て い る ︒ な お 松 浦 馨 ﹁ 仮 処 分 ﹂ ﹃社 会 科 学 大 事 典 ﹄ 三 巻 (鹿 島 出 版 会 ) 三 六 二 頁 も ︑ 物 に 関 し な い 作 為 ・ 不 作 為 請 求 権 に
っ い て 係 争 物 仮 処 分 を 認 め る ︒ (18 ) 菊 井 闘 村 松 " 西 山 ・ 前 掲 二 〇 二 頁 ︑ 柳 川 ・ 前 掲 七 二 頁 ︑ 西 山 ・ 前 掲 三 〇 頁 ︒ (19 ) 兼 子 ・ 前 掲 三 ≡ 二 頁 ︑ 西 山 ・ 前 掲 三 〇 頁 ︒ (20 ) 鈴 木 ⊥ 二 ヶ 月 朋 宮 脇 編 ・ 注 解 ω 四 〇 六 頁 (小 笠 原 ) ︒ (21 ) 鈴 木 ⊥ 二 ヶ 月 開 宮 脇 編 ・ 注 解 ㈲ ( 小 笠 原 ) は ︑ 作 為 ま た は 不 作 為 請 求 権 等 が 係 争 物 に 当 る か ど う か を ︑ 物 を 対 象 と
す る も の で あ る か ど う か の 点 に 求 め る の は 正 し く な く ︑ む し ろ 移 転 そ の 他 処 分 の 対 象 と な る 権 利 で あ る か ど う か の 点 に
求 め る の が 正 し い の で は あ る ま い か と す る ( 四 〇 六 頁 ) ︒ (22 ) 柳 川 ・ 前 掲 七 四 頁 以 下 ︒ (23 ) 松 岡 ・ 前 掲 三 一 九 頁 ︑ 前 野 ・ 前 掲 一 五 四 頁 ︑ 谷 井 ・ 前 掲 三 四 〇 頁 ︑ 大 判 明 治 三 九 年 一 一 月 二 八 日 民 録 = 一輯 一 五 九 二
頁 ︑ 大 判 昭 和 七 年 一 二 月 一 九 日 民 集 一 一 巻 二 三 五 九 頁 ︒ (以 ) 現 在 の 通 説 で あ る ︒ 兼 子 ・ 前 掲 三 二 五 頁 ︑ 吉 川 ﹃ 強 制 執 行 法 ﹄ 一 七 〇 頁 ︑ 柳 川 ・ 前 掲 七 八 頁 ︑ 西 山 ・ 前 掲 三 一 頁 ︑ 沢
田 ・ 前 掲 四 八 一 頁 ︑ 鈴 木 ⊥ ニ ケ 月 " 宮 脇 編 ・ 注 解 ㈲ (小 笠 原 ) 五 五 五 頁 ︑ 菊 井 髄 村 松 闘 西 山 ・ 前 掲 二 〇 五 頁 ︑ 野 間 繁
﹁ 被 保 全 権 利 ﹂ 吉 川 還 暦 ﹁ 保 全 処 分 の 体 系 (上 ) ﹄ 一 八 五 頁 ︑ 上 谷 清 ﹁ 賃 料 支 払 と 仮 の 地 位 を 定 め る 仮 処 分 ﹂ ﹁ 保 全 判 例
百 選 ﹂ 一 一 六 頁 ︒ (25 ) 大 判 明 治 四 一 年 三 月 四 日 民 録 一 四 輯 二 三 四 頁 ︒ (26 ) 東 京 地 判 昭 和 三 〇 年 六 月 一 八 日 下 民 集 六 巻 = 七 三 頁 (仮 登 記 権 利 者 の 所 有 権 に 基 づ く 妨 害 排 除 請 求 権 ) ︑ 東 京 地 決
昭 和 三 三 年 二 月 一 九 日 労 民 集 九 巻 一 号 一 〇 一 頁 (退 職 金 債 権 を 被 保 全 権 利 と す る 仮 差 押 を 認 め た 事 例 ) ︑ 東 京 高 決 昭 和
三 三 年 三 月 一 四 日 東 高 時 報 九 巻 三 三 頁 (製 作 物 供 給 契 約 の 解 除 前 の 原 状 回 復 と し て の 返 還 請 求 権 に つ い て ) ︑ 福 岡 高 判
昭 和 四 五 年 五 月 二 八 日 金 融 法 務 五 九 一 号 三 四 頁 (中 小 企 業 組 合 の 組 合 員 の 脱 退 お よ び 除 名 に よ る 持 分 払 戻 請 求 権 に 基 づ
く 仮 差 押 を 認 め た 事 例 ) ︒
( 解 ) 柏 木 邦 良 ﹁ 将 来 の 請 求 権 の 保 全 処 分 ﹂ 判 タ ニ 一 四 号 八 八 頁 ︒ 鈴 木 ⊥ 二 ヶ 月 開 宮 脇 編 ・ 注 解 ㈲ (小 笠 原 ) は ︑ 条 件 付 ま
た は 期 限 付 請 求 権 と 将 来 の 請 求 権 と い う よ う な 曖 昧 な 概 念 的 区 別 を 基 準 に し て 保 全 処 分 の 許 否 を 論 ず る こ と は 相 当 で な
い と し (小 笠 原 氏 は 将 来 の 請 求 権 に つ い て 被 保 全 資 格 を 否 定 す る ) ︑ 個 々 の ケ ー ス ご と に 仮 処 分 を 求 め る に つ い て 保 護 に
値 す る 利 益 が 存 す る か ど う か に つ き 分 析 す る こ と が 必 要 で あ る と さ れ ︑ こ の 場 合 に ︑ 本 案 訴 訟 を 提 起 す る に 熟 し た 権 利
で あ る か ど う か を 吟 味 す る こ と も 有 益 な 方 法 で あ る と 主 張 さ れ る (四 〇 七 頁 ) ︒ 同 旨 ' S te in ‑J o n a s (G r u n s k y ) , Z P ρ
8 .A u fl ., $ 9 1 6 R d n .9 ° (認 ) 鈴 木 師 三 ヶ 月 鯛 宮 脇 編 ・ 注 解 ㈲ (小 笠 原 ) 四 〇 七 頁 以 下 ︒ (29 ) 大 決 昭 和 一 四 年 三 月 三 一 日 民 集 一 八 巻 六 号 三 八 九 頁 (池 田 浩 一 ・ 判 批 ﹁ 保 全 判 例 百 選 ﹄ 二 八 頁 ) ︒
保全処分発令要件の法的性質(一)