「空
な る も の」の意味
-言 語 ・文 学 ・宗
教-大
塚
裕
曙
ス ー ニ ヤ と ゼ ロ 「ス ー ニ ヤ」とは「何もない」ことを示すための記号で、インド人の発 想 で あ る。 方 程 式 の 未 知 数-X-も 「ス ー ニ ヤ 」 は あ ら わ す、 す な わ ち、 未 知 数 の 値 が き ま ら な い と い う の は 空 虚 な も の と い うわ け で あ る。 そ の 発 想 の 根 底 に は、 イ ン ドの 哲 学 と 宗 教 が あ る と い え る。 ゼ ロ を示 す 記 号 の ル ー ツ と して 「ス ー ニ ヤ 」 が あ っ た。 イ ン ド数 字 「ス (1) 一 ニ ヤ 」 は ア ラ ビ ァ の 記 数 法 「シ フ ル 」 を 通 っ て ヨ ー ロ ッ パ に 入 っ た。「ス ー ニ ヤ 」 も 「シ フ ル 」 共 に 空 の 桁 を あ ら わ す 記 号 で、 ま だ 数 で な い。 ソ ロ バ ン に 似 た こ の ビ ー ズ 王 は123と 書 くの で は、違 い が わ か ら な い。 空 の 桁 を あ ら わ す 記 号 を0と す れ ば、1230、1023、1203、 と示 せ る。 さ て、 空 集 合 と し て の ゼ ロ で、 次 の よ う に 書 か れ て い る 点 は 実 に 興 味 深 (1)英 語 の シ フ ァー(cipher)、 ゼ ロ(Zero)イ タ リ ヤ 語(P.20)「 ゼ ロか ら無 限 へ 」 数 論 の 世 界 を 訪 ね て コ ン ス タ ン ス ・ レ イ ド著、 芹 沢 正 三 訳、 講 談 社、 昭 46.S.15. ﹁ 空 な る も の﹂の意味密 教 文 化 い。 「人 の空 集合 で も、 ゾ ウの空 集 合 で も、 ハ エ あ るい は山 の空 集 合 で も、 か ら っぽ とい う点 で は全 く同 じ、 つ ま り空 集 合 は た だ一 つ しか な い。…中略 …ゼロがただ 一 つ とい うとき の意 味 は、 もっ とず っ と深 い。 そ れ だ か ら (2) ゼ ロ は ほ か の ど の 数 よ り も 重 要 で あ り、 興 味 深 い の で あ る。」 0を 数 とみ な して い る の は、 温 度 計 を み れ ば わ か る。 す な わ ち、-1よ り高 い の は0で あ り、 さ ら に 高 い の は+1で あ る。 し か し、 年 代 の 目盛 り に な る と、 次 の よ う に な る。 (3) 「ゼ ロ の 話」では、次のような説明がなされている。「朝は零下5度であ っ た の が、 そ の 日 の うち に8度 上 っ た と す る と(-5)+8=3だ か ら、 夕 方 に は3度 に な る。 こ れ は 正 し い。 と こ ろ が、B.C.5年1月1日 に 生 ま れ た 子 供 が8才 に な る の は、(-5)+8=3でA.D.3年 の1月1日 と い う と、 こ れ は 大 間 違 い だ。」 す な わ ち、A.B.4年 の1月1日 と な る の は、 上 述 の 図 式 を 見 れ ば わ か る。 こ の 温 度 計 と年 代 目盛 り を 比 べ て も、 不 思 議 な0の 存 在 が わ か る、 も っ と不 思 議 な の は、 タ イ プ ラ イ タ ー の キ ー 盤 や、 電 話 機 の ダ イ ヤ ル の ゼ ロ の 存 在 で あ る。 こ れ ら は、 記 号 と し て0を 見 て い る の で あ る。 そ れ が 証 拠 に、0は9の 次 に 置 か れ て い る。 そ れ は ゼ ロ が9よ り大 き く な る とい う こ と を 示 し て い る。 ま す ま す、0に 対 す る 興 味 が 湧 い て く る。 数 論 の 世 界 か ら ゼ ロ の 正 体 を3種 類 の 言 葉 で 現 わ さ れ る。 (2)同 書(P.31) (3)同 書(P.26)
0 「意 味 が あ る 」(0÷1)つ ま り、0 「無 意 味 だ 」(1÷0) 「不 定 で あ る 」(0÷0) こ こで、 数 論 を論 ず るの が 本 論 で はな い の で、 数 学 的 見 方 と一 般 の見 方 の違 い に つ い て は、 コ ンス タ ンス ・レイ ドの 興 味 あ る 引用 文 で序 論 を締 め く く りた い。 「ゼ ロ とい う言 葉 は、 数 学 め か した悪 口 をい うと きに よ く使 わ れ る。 最 近 の あ る新 聞紙 上 で、 「空 っ ぽ を空 っ ぽで 割 った よ うな下 らな い 奴 」とい う 表 現 を読 ん だ が、 数 学 的 に考 えれ ば、 こ の言 葉 は、 これ を い っ た人 が考 え (4) て い た ほ ど に は、 軽 べ つ に は な っ て い な い 」 こ れ は 前 述 の 如 く、0÷0は 「不 定 で あ る 」 と し か、 数 学 的 に は 考 え な い か ら で あ ろ う。 空範躊 こ の 「空 」 と は'empty'(空 つ ぼ の)と い う意 味 で、 略 語 と し て'e'を 用 (5) い る、 こ の 空 範 疇 と い うの は、 チ ョ ム ス キ ー(CHOMSKY)のLectures
on Government and Binding(1981)の 中 心 理 論 で あ る 統 率(government)
と束 縛(binding). す な わ ち、 GB理 論 の1つ の 考 え 方 で あ る。 変 形 文 法 の 変 形 部 門(transformational component)中 で 「任 意 の 範 疇 を任 意 の 位 置 へ 移 動 せ よ 」 とい う移 動 規 則 の 空 範 疇 と痕 跡 理 論 は 連 鎖 す る 考 え 方 の 一 方 が 空 範 疇 で あ る。 空 範 疇 の 考 え 方 な し で はtrace theory(痕 跡 理 論)は 成 り (6) 立 た な い。 空 範 疇 はemptyの'e'が 用 い られ る の に 対 し て 痕 跡 理 論 は 次 の よ うに 説 明 さ れ る。 (4)同 書P.24. (5)言 語 学.英 語 学 小 事 典 安 藤 貞 雄 ・樋 口昌幸 ・鈴 木 誠 一 共 編 著(P.77)北 星 堂 書 店、1990.6.12. (6)同 書P.187. ﹁ 空 な る も の﹂の意味
密 教 文 化 「GB理 論(GB THEORY)で は、 あ る 範 疇(例 え ば、 名 詞 句)が 移 動 規 則 に よ り移 動 し た 場 合、 元 の 位 置 に そ の 句 の 痕 跡(trace,t)を 残 す と 考 え る。」 こ の 説 明 で 空 範 躊(emgty,e)が 全 然 記 述 さ れ て い な い。 こ の 考 え 方 が 一 番 重 要 で あ る の で、 空 範 疇(empty,e)を 記 述 し、 そ こ へ 移 動 し と移 動 規 則 の 説 明 を 追 加 し な け れ ば な ら な い。 空 範 躊(empty,e)は な ぜ そ れ 程 重 要 な の か と 言 え ば、 深 層 構 造(DEEP STRUCTURE)に の み 表 わ れ る か ら で あ る。表 層 構 造 を 導 く た め に 欠 か せ な い。 し か し、 深 層 構 造 か ら、 直 接 に 表 層 構 造 に 導 か れ る の で は な く て、 浅 い 構 造(SHALLOW STRUCTURE)を 経 過 しな け れ ば な ら な い。痕 跡 理 論(trace theory, t)は 浅 い 構 造 に の み 表 わ れ る の で あ る。 ま ず、 受 動 文 の 派 生 を考 察 し よ う。
a、John was hit by Fred.(表 層 構 造)
b、ewas hit John by Fred.(深 層 構 造)
c、Johm was hit拓by Fred.(浅 い 構 造)
ま ず、 能 動 文Fred hit John.か ら ス タ ー ト し な け れ ば な ら な い。 次 の
段 階 は 空 範 疇 を用 い て 考 え る が、Johnの 位 置 は 能 動 態 の ま ま で あ る。by+
行 為 者 で、 深 層 構 造(b)が 作 ら れ る。 次 に、 指 標(index, i)が つ け 加 え ら れ、
(C)の文 の よ うに、Johnにiが つ け 加 え られ、 受 動 文 の 主 語 の 位 置 に 移 さ
れ 痕 跡(trace, t)にiが つ け 加 え ら れ、 Johnの 位 置 にJohniが 置 か れ る。
こ の 文 が 浅 い 構 造(S構 造)に 作 ら れ、 最 終 的 に、 指 標(index, i)と 痕 跡
(trace, t)が 消 失 し、 受 動 文 の 派 生a、 が 完 成 さ れ る。指 標(index)iはJohn
(7) の 元 の位 置 と受 動文 の 主 語Johnの2つ のNP(名 詞 句)が 同 一 指 示 的 で あ る こ とを示 して い る。 次 に存 在 文 の生 成 に つ い て 見 て み よ う。 (7)S(entence)=N(oun)P(hrase)+V(erb)P(hrase) 文=名 詞 句+動 詞 句
a、There is a book on the table.(表 層 構 造)
b、Abook is e on the table.(深 層 構 造)
e、t〔vp is a book on the table〕(浅 い 構 造)
ま ず、bの 文 で、 空 範 疇(empty,e)が あ る。 Cの 文 で は、 主 語 名 詞 句 が 空 範 疇(empty,e)の 位 置 へ 後 置 さ れ る と、 元 の 位 置 に 痕 跡tが 残 さ れ る。 a の 文 は、 痕 跡 の 位 置 にthereを 挿 入 す れ ば 表 層 構 造 が 生 ま れ る。 空 範 躊(empty,e)の 位 置 を 考 え る こ と は あ る べ き形 へ の 志 向 か ら生 ま れ る。 受 動 文 の 場 合 に つ い て 考 え る と、 「 に よ っ て さ れ る 」と い う形 に、 ま ずby+行 為 者 を 考 え、 次 に 受 身 は 主 客 転 倒 で あ る か ら、 主 語 が 決 定 さ れ ね ば な ら な い の で、 主 語 の 位 置 が 空 範 疇(empty, e)に な り、 移 動 後、 痕 跡(trace, t)と 指 標(index,の が つ け 加 え ら れ、 痕 跡 が 消 失 し、 表 層 構 造 が 生 ま れ る と い うの は 前 述 の 通 り で あ る。 さ て、 存 在 文 に つ い て も 空 範 疇 に つ い て 考 え る と、 存 在 文 と はThere is構 文 で あ る か ら、 主 語 の 位 置 はis(be動 詞)の 後 に 置 か れ ね ば な ら な
い。 した が っ て、 基 本 文Abook is o on the table.と い う具 合 にis(be動
詞)の 後 に 空 範 疇(emgty, の)置 か れ ね ば な ら な い。 痕 跡 渉が 基 本 文 の 主
語Abookの と こ ろ に 置 か れ、 痕 跡(trace, t)の 後 にThereが 挿 入 さ れ、
表 層 構 造 のThere isが 生 ま れ る。
以 上 の2文(受 動 文、 存 在 文)に お い て、 あ る べ き 形 に 向 か っ て、 空 範
疇(empty, θ)を ど こ に 置 く か と い うこ と が、 特 に 重 要 で あ る。
次 に、 非 人 称 動 詞 の 文 に つ い て 考 察 す る。
aJohn seems to be sick.(表 層 構 造)
beseelns〔John to be sick〕(深 層 構 造)
cJohn seems〔t to be sick〕(浅 い 構 造)
そ も そ も、 非 人 称 構 文 で あ る の で、It seems…である。したが っ て、空
範 疇(empty, e)をItの 位 置 に お い て、 b文eseems〔John to be sick〕が 考
え ら れ、 新 主 語Johnが 空 範 疇(empty, e)に 移 動 され、 痕 跡(trace, t)を
Johnの 元 の 位 置 に 置 き、 c文 が 生 ま れ、 痕 跡(trace, t)が 消 失 す る と、 a ﹁ 空 な る も の﹂の意味
密
教
文
化
とい う表 層 構 造 が 生 ま れ る の で あ る。
空 範 疇 原 理(Empty Category Principle)は、ECPと 略 さ れ、 前 述 の3例
(受 動 文、 存 在 文、 非 人 称 動 詞 の 文 」 の 場 合 は 空 範 疇(empty, e)を 含 ん だ 深 層 構 造 を 記 述 して き た が、 痕 跡(trace, t)さ え あ れ ば、言 い 換 え れ ば、 浅 い 構 造(SHALLOW STRUCTURE=S構 造)だ け で 十 分 で あ る の で、 深 層 構 造 な し で も説 明 可 能 で あ る。 (8) 空 範 疇原 理(ECP)は 次 のa、bの 文 法 性 の違 い を説 明 す る。 (9)
a. Whoi do you think〔s〔compti〕 〔sti saw John〕 〕 (Who do you think saw John?)
b. Whoido you think〔s〔compti〔that〕 〔sti saw John〕 〕 (Who do you think that saw John?)
a.は 「誰 れ が ジ ョ ン を 見 た と思 う か 」
b.は 「ジ ョ ン を 見 た の は 誰 れ と思 う か 」(強 調)痕 跡(trace, t)は 適 正 統
(10)
率(properly govern)さ れ て 「aの 補 文 中 の 痕 跡tiはCOMP内 のti(=同 一
指 標 付 のNP)に よ っ て 適 正 統 率 さ れ て い る が、 bの 補 文 中 の 痕 跡tiは COMP内 にthatが あ る た め、 い か な る 要 素 に よ っ て も適 正 統 率 さ れ て い (11) ない ので あ る。」 要 す る に、 深 層 構造 に は 空 範 疇(empty, e)が 表 われ る。 浅 い構 造 に は痕 跡(trace, t)が 表 われ、それ を経 過 して表 層構 造 に至 る の で あ る。 「空 」とい うの は、 人 間 の思 考 の深 い所 に あ り、前 述 の 「ス ー ニ ヤ」 と 「シ フル」 と 共 通 す る。 す な わ ち、 未 知 数 のXで、 そ の値 が き ま ら ない と発 想 が展 開 し な い。 未 知 数Xの 値 を求 め よ うとす る時、 エ ネ ル ギー が 生 れ る。 そ の エ ネ ル ギ ー こ そ、 人 間 の本 質 の エ ネ ル ギ ーで あ り、0か らの 発 想 とい う言 葉 を (8)同 書P.79,
(9)comp(1emen七)(sentence)は 補 文 と い い、 embedded sentence(埋 め 込 み 文) と 同 じで あ る。 即 ち、 文 の 中 に 含 ま れ て い る 文 の こ と で あ る。
(10)α が βを 統 率 して い て、 そ の αがN, V, A, ま た は β と 同 一 指 標 付 き のNPで あ る と き、 α は βを 「適 正 統 率 」 す る と 言 う。
よ く聞 くが、 そ の こ とは、 前 述 の「 『ゼ ロか ら無 限 へ 』数 論 の世 界 を 訪 ね て 」 の 著 者、 コン ス タ ンス ・レイ ド氏 か ら学 ぶ と同 時 に、 言 語 学 のGB理 論 の 空 範 疇 か らも学 ぶ こ とが で き る。 「空 な る もの」こそ、 哲 学 の本 質 で は あ るま い か。 「虚 栄 の 市 」(Vanity Fair) さ て、 序 論 に お い て、 数 論 の 世 界 か ら、 「空 な る も の 」を考 察 し、 次 に 言 語 学 のGB理 論 の 空 範 疇 の 発 想 の 面 白 さ を 調 べ た。 こ こ で、 「虚 栄 の 市 」に お け る 作 家 ウ ィ リ ア ム ・サ ッ カ レ ー が 最 も 言 い た か っ た 点 に 焦 点 を 絞 っ て み よ う。 「し か し作 中 人 物 は こ と ご と く ゆ が め られ て い て、 茶 化 さ れ す ぎ た 人 間 の 集 団 で あ る。 こ れ こ そ、19世 紀 初 頭 の 英 国 社 会 の 縮 図 で は あ る ま い か。 異 常 な 窒 息 感 を 覚 え る とす れ ば、 人 生 は つ ま る と こ ろ 「空 の 空 な る も の 」 (Vanitas Vanitatum)で あ る と い う 旧 約 聖 書 の 「伝 道 の 書 」 の 言 葉 で 「虚 栄 の 市 」 の 全 巻 を し め く く っ て い る こ と か ら 当 然 の 作 家 の 意 図 を 達 成 した (12) とい うべ きで は な か ろ うか。」 まず、 登 場 人 物 の 中核 をな す、 二 人 の女 性 ベ キー と ア ミー リャの 人 生 を詳 し く考 察 しな けれ ば な らない。 ベ キー も ア ミー リヤ も共 に 同 じ女 学 校 を卒 業 す る同 期 生 で あ る。 ベ キ ー はべ キー シ ャ ー プ とい う名 前 か ら もわ か る よ うに、 ず る賢 い、 節 操 の ない、 危 険 な女 で あ る。 プ ラ ス 面 とマ イ ナ ス 面 は性 格 ば か りで は な く、歌 劇 女 優 の母 と酒 癖 の わ る い父 か ら生 まれ た の で あ る。 歌 劇 女優 は一 般 的 に は賎 しい 職 業 だ と思 われ て い る が、 ベ キー は 母 は ガ ス コニ イ の 貴 い 家 柄 だ と言 って 自慢 して い た。 そ れ に対 し父 は、 酒 癖 が悪 く、酔 うと母 や ベ キー を殴 った。 母 は プ ラ ス で、 父 は マ イ ナ ス だ と 言 え る。 さ らに、 母 は フ ラ ン ス人 だ った の で、 ピ ン カ トン女 史 の学 校 で、 フ ラ ンス語 が 話 せ る とい うの で、 い ろん な 仕 事 や 特 典 が与 え られ た。 これ (12)「 イギ リス小 説 研 究 と鑑賞 」(樋 口欣三 ・内 田能 嗣 ・藤 田栄 一 編)第6章 ウ ィ リア ム サ ッ カ レー の 「虚 栄 の 市 」(大 塚 裕 曙)P.125、 創 元 社、 昭 和51年 4月20日. ﹃ 空 な る も の﹄の意味
密 教 ・ 文 化 も、母 の フ. ラス 面 で あ った。 父 は結 局 ア ル コー ル 中毒 で死 ん で しま っ た。 母 の プ ラス と父 の マ イ ナ ス は イ コー ル0に な る の で は あ る が、 ベ キ ー は、 逆 境 に よ っ て生 み 出 され る生 命 力 と才 知 で 自 らの幸 運 をつ か ん で い く。 プ ラ ス に な る力 を持 ち、 「貧 乏 か ら教 え られ る早 熟 さで、借 金 取 りを追 払 った り、商 人 を だ ま した り、 ま た、 父 の悪 友 た ち に よ って、 早 熟 な話 を 聞 か さ れ、8才 で女 に な っ て い た。 人 を だ ま した り、人 の機 嫌 を と って、 人 生 の (13) 荒 海 を切 り抜 け る 才女 で あ っ た。」 ア ミー一リヤ の場 合 は株 式 仲 買 人John Sedleyと い う父 の 娘 で、 ベ キ ー と は違 って 裕 福 な家 庭 で育 って い る の で、 英 国 社 会 の典 型 的淑 女 の特 質 「優 しさ」、「純 真 さ」、「謙 虚 さ」、「淑 や か さ」、「可 憐 さ」 をア ミー リヤ は持 っ て い た。 しか し、父 の破 産 に よ り、 オ ズバ ン と の婚 約 も破 棄 され る こ とに な り、ベ キ ー とは違 って、 不 幸 に な る と何 も手 につ か な い 無 気 力 な女 性 で あ る。 人 生 の前 半 は プ ラ ス面 で あ る が、 後 半 はマ イ ナ ス 面 が 生 じ、0を プ ラ ス に な か な か展 開 で き な い。 「ベ キ ー が国 王 謁 見 の誉 を うけ最 高 潮 に達 した 頃、 ア ミー リャ は兄 ジ ョ ウゼ フ の所 へ、 親 達 へ の仕 送 りの哀 願 状 を書 き送 るの で は あ るが、 父 セ ド レ老 は仕 送 りを抵 当 に借 金 して い る始 末 で あ る。 ま さに どん 底 生 活 で あ る。 ア ミー リャ は亡 き夫 ジ ョー ジ の息 子 ジ ョー ジ をオ ズ バ ン家 に預 け る決 (14) 心 をす る。」 ベ キー は貧 困 な育 ち か ら、 優 れ た 才 知 と策 略 を身 に つ け、 野 望 を達 成 し よ うと努 力 をす る。 そ れ に対 して、 ア ミー リャは、 裕 福 な 育 ち か ら父 の破 産 で、 無 力 で、 なす す べ を知 らない 無 気 力 な女 に な って しま う。ベ キ ー は マ イ ナ ス か ら0に、 さ らに0か らプ ラ スへ の未 知 へ の努 力 を展 開 す る。 ア ミー リャ は プ ラ ス か ら、父 の破 産 で0に な り、 さ らに不 幸 へ と流 転 して い くこ と とな る。 数 論 の世 界 か ら見 たゼ ロ の正 体 とを比 べ て み る と、 ベ キー の育 ち の0は (13)同 書P.109. (14)同 書P.115.
「意、味 が あ る」すなわち、0÷1なのである。それに対し、アミーリヤの 場 合 は、 良 家 の 育 ち と 父 の 破 産、1÷0と な る、 す な わ ち 「無 意 味 だ 」 と 言 え る の で は あ る ま い か、 こ の 二 人 の 対 比 は す ば ら しい サ ッ カ レ ー の 技 法 な の で あ る。 し た が っ て 二 人 と も 「空 っ ぽ を 空 っ ぽ で 割 っ た よ う な 下 ら な い 奴 」 で は な い の で あ る。 数 論 的 に 言 え ば、0÷0は 「不 定 で あ る 」 と は 言 え な い の で あ る。 要 す る に、 イ ン ド人 の 発 想 で あ る 「ス ー ニ ヤ 」 は 「何 も な い 」 とい う記 号、0で は な く、 そ の 未 知 数 か ら、 そ の 空 虚 な も の か ら ど の よ う な 展 開 を す る か が 問 題 な の で あ る。 ピ ン カ トン 先 生 の 学 園 を 卒 業 し た ア ミ ー リ ヤ(16才)と べ キ ー(19才) は 「未 来 の 夫 獲 得 」 ヘ ス タ ー トす る。 ベ キ ー は ア ミー リ ヤ の 兄 ジ ョ ウ ゼ フ と 恋 人 の よ うに 振 舞 うが、 も ら っ た 金 貨 で、 上 流 社 会 に 入 り、 ロ ー ド ン を夫 に し て し ま う。 「上 流 社 会 に うま く入 り込 め ら れ た め ず ら しい ケ ー ス だ と考 え ら れ る が し か し、 男 な ら と も か く女 が 上 流 階 級 の 牙 城 に 潜 入 す る と い う こ と は、 ベ キ ー が す ば ら し い と ま で 言 え る く らい の 犠 牲 的 精 神 と 籠 絡 的 か つ 策 謀 的 か (15) つ 欺 購 的処 世 術 で 人 生 を切 り開 い て 行 く才 女 に ほか な らな い。」 夫 ロー ドンの留 守 中 に、 ス テ ィー ン と密会 し、夫 ロー ドン に踏 み 込 ま れ る。 こ の場 面 は 「虚 栄 の市 」 の 描 写 は 感 情 的 な もの で な く、客 観 的 な もの で あ る た め、 名 場 面 の 一 つ で あ る、 「ロー ドンは ドァ を開 け て 入 って 行 っ た。 小 さな テ ー ブ ル に は食 事 の用 意 が して あ った一 酒 と料 理 と が。 ス テ ィ ー ンは べ キ ー の坐 って い る ソフ ァー の上 にの しか か って い た。 こ の 見下 げ は て た女 は 眼 の覚 め る よ うな 濃 い 化 粧 を して、 両 腕 や 指 とい う指 に は腕 環 や 指 輪 が輝 き、 胸 に は ス テ ィー ン に も ら った ダイ ヤが 光 輝 を放 っ て い た。 ス テ ィー ンは べ キー の 手 を取 って、 ち ょ う ど、そ れ に キ ス を しよ うとか が ん だ 瞬 間、 ベ キー は ロー ドンの蒼 白 な顔 を見 て、 かす か な叫 び声 を 発 しな が ら、 は っ と立 ち上 が った。 次 の 瞬 間、 彼 女 はお 帰 りな さい とい わ ん ば か (15)同 書P.110. ﹁ 空 な る も の し の 意 味
-79-密 教 文 化 り に、 に っ こ り と、 そ ら恐 ろ しい 作 り笑 い を し た。 ス テ ィ ー ン は 歯 ぎ し り (16) を しな が ら、蒼 白 な顔 に憤 怒 の 色 を浮 べ て 立 ち あ が った。」 ベ キ ー は ロー ドン との結 婚 で プ ラス に な りな が ら、 ス テ ィー ン との 醜 聞 で零 落 し、 マイ ナ ス に な り、最 後 に、 ジ ョセ ブ. セ ドレー ベ キー に最 初 の恋 人 の振 舞 を され、 罠 にか け られ 金貨 をま き あ げ られ た ア ミー リヤの 兄 の残 した金 で、 教 会 の慈 善 事 業 を し、信 仰 の道 に 入 り、偽 善 の姿 を さ らす。 昔 の容 色 を失 い、 かつ ら、 義 歯 をつ け、 笑 うとぞ っ と して しま うの で あ る。 空 虚 な生 活 を送 る ので あ る。 ベ キ ー の 「未 来 の夫 獲 得 」 で、 プ ラ ス した もの の、 密 会 に よ り、そ の醜 聞 か ら、 マイ ナ ス にな り、空虚 な 晩年 の生 活 を送 る こ とに な る。 そ れ に反 して、 ア ミー リャの 「未 来 の夫 獲 得」 は ど うで あ ろ うか、 ジ ョ ー ジ ・オ ズバ ン と婚 約 して い た の に、 ア ミー リャの父 の破 産 に よ って 破 棄 され て しまい、 両 家 は呪 い 合 い。 結 婚 は す る が、 弾 に あ た って 死 ぬ。 亡 き 夫 の ジ ョー ジ の息 子 ジ ョー ジ をつ い に、 オ ズ バ ン家 に 預 け る決 心 をす る。 彼 女 は殆 ど夢 中 で帽 子 を かぶ った。 そ して、 ジ ョー ジ が い つ も学 校 か ら 帰 って 来 る道、 そ して、 彼 女 が い つ もそ れ を迎 え に行 く小 路 へ と出 か けて 行 っ た。 五 月 の或 る半 どん の こ とだ った。 そ ろ そ ろ青 葉 に な る頃 で、 大 変 いい 天 気 だ った。 子 供 は歌 を うた い な が ら、学 校 の書 物 を 革 紐 で ぶ ら下 げ て、 健 康 そ うな赤 い顔 を して 彼 女 の 方 へ駆 け て来 た。 お帰 ん な さい、 母 は 両 腕 で子 供 を抱 い た。 い や い や、 ど うして もいや だ。 こ の子 と別 れ るな ん て こ とは とて も出 来 ない。 「母 さん、 ど うした の?」 と、 子 供 が言 った。 (16) 「たいへん顔色が悪いじやないか」 ア ミー リャ は、 小 さ な身 辺 の出 来 事 に愛 情 を注 ぐの で あ る。 父 母 であ り 夫 で あ り、死 後 も愛 しっ づ け、 息 子 も溺 愛 して い る の で あ る。 ア ミー リャ とべ キ ー は こ の点 で も正 反 対 で あ る。 ベ キー は 息子 ロー ドン が ハ ブ リ ック ス ク ー ル に行 く時 で も、次 の様 に書 かれ て い る。 (16)同 書P.107. (16)同 書P.115.
「ベ キ ー夫 人 は 良人 が学 校 へ 連 れ て 行 くの に 自分 が いつ も使 って い る馬 車 に乗 って 行 っ ち や困 る と言 った。 あの 馬 を下 町 へ 連 れ て 行 くな んて!一 とん で も ない こ とだ。 貸 馬 車 を呼 ん で い ら っ しゃい とい うの で あ った。 彼 女 は子 供 が出 て行 く時、 接 吻 を しよ うと も しな か っ た。 子 供 の方 で も母 を (17) 抱 こ う と は し な か っ た。」 ア ミ ー リ ャ に は 亡 き夫 オ ズ バ ン の 友 人 で い つ も、 ア ミ ー リヤ に 好 意 的 な ド ビ ン が い る。 ド ビ ン は、 セ ド レ家 が 破 産 し、 オ ズ バ ン と の 婚 約 が 破 棄 さ れ た 時 も、 オ ズ バ ン を 説 得 し、 ア ミ ー・リヤ と オ ズ バ ン を結 婚 に 導 い た の で あ る。 オ ズ バ ン の 死 後、 ア ミ ー リ ヤ は 亡 き 夫 オ ズ バ ン と 息 子 ジ ョ ー ジ を愛 し続 け、 ド ビ ン の こ と は 気 に も か け な い。18年 の 長 き に わ た っ て ド ビ ン の 希 い は 実 ら な い。 つ い に、 二 人 の 劇 的 対 面 の 時 が 来 た。 ア ミー リ ヤ と息 子 ジ ョー ジ は 船 着 場 で ドビ ン を 迎 え る こ と に な る。 息 子 ジ ョー ジ は 望 遠 鏡 を 持 ち、 「ひ ど く ピ ッ チ し て る な あ!そ ら波 が ま と も に 舳 を乗 り越 え て ま す よ。 舵 手 の 外 に、 甲 板 に は 二 人 し か 人 が い ま せ ん よ。 臥 て る 人 が い る。そ れ か ら一 人 の 男 は 一 マ ン ト を着 て、手 に は 一 バ ン ザ イ! (18) あ りゃ ドッ ブ だぞ、 畜生!」 焦 点 は ドビ ンに 合 い、 ア ミー リヤ に飛 びつ い て い く息子 ジ ョー ジの 姿 は、 ドビ ン と ア ミー リヤ の劇 的 対 面 を 切 望 さ せ る。 「び し ょ濡 れ に な った 白 い 帽子 をか ぶ り、シ ョー ル を か けた 一 人 の婦 人 が 両 手 を前 に 差 し出 して 彼 の方 へ近 づ い て 行 った と思 うと、 次 の瞬 間 に は そ の 紳 士 の マ ン トの襲 の 中 へ ま る で 隠 れ て しま って、 彼 の一 方 の手 を一 生 懸 命 に接 吻 して い た。 一 方、 相 手 の紳 士 は とい うと、 彼 女 を 自分 の 胸(彼 女 の頭 がや っ とそ こへ届 く程 度 だ った)に 抱 き寄 せ て、 倒 れ ない よ うに持 っ て い て や っ て い た ら しい。 彼 女 は マ ン トの 中 で一 許 して ね、 と か一 大 好 き な ウィ リア ム、 とか一 あ た しの大 事 な大 事 な お 友 達、 と か一 接 吻 して、 接 吻 して とか何 とか か ん とか一 実際 も う取 り乱 して しま って、 い ろ ん な こ と (17)同 書P.116. (18)同 書P.119. ﹁ 空 なるもの﹂の意味
密 教 文 化 を言 い 続 けて い た。 エ ミイ は マ ン トの 中 か ら出 て も、 ま だ ウィ リア ム の手 を握 った ま ま で、 彼 の 顔 を見上 げ た。 彼 の 顔 は悲 しみ と優 しい愛 と憐 れ み とに満 ち て い た。 (19) 彼 女 は 叱 られ て い る よ うな 気 が して、 頭 を垂 れ た。」 ア ミー リヤ の 「未 来 の夫 獲 得 」 は ジ ョー ジ との結 婚 で、 フ ラ ス に な り、 又 そ の夫 の死 で マ イ ナ ス に な り、息 子 ジ ョー ジへ の母 性 愛 で プ ラ ス に な り 最後 に は ドビ ン と結 婚 して、 プ ラ ス に な る。 プ ラ ス とマ イ ナ ス で0に な り そ の0を 何 が満 して くれ る の か、 そ れ が人 生 の一 大 事 で あ る。 息 子 ジ ョー ジへ の母 性 愛 で フ. ラ ス に な る が、 経 済 的 に扶 養 で きな い の で 亡 き夫 の実 家 で あ る オ ズ バ ン家 に 預 け る こ とに な り、 マ イ ナ ス にな り、 ま た0に な っ て しま う。そ の0で あ る未 知 数 を最 後 に解 い た の は、 ドビ ン との結 婚 で あ っ た。0か らの展 開 が人 生 に は重 大 で あ る。 ア ミー リヤ の場 合 は何 事 に も耐 え抜 い た女 性 の勝 利 とい え る。 (20) ベ キ ー と ア ミ ー リ ヤ の 人 生 行 路 を 図 示 して 考 察 し て み よ う。 (19)同 書P.120. (20)P.121第1図 に 加 筆.
要 約 す れ ば、 賎 しい職 業 の母 とアル コー ル 中 毒 の父 の間 に生 まれ たべ キ ー は 不 遇 な 環 境 に 育 った。(マ イ ナ ス)→ずる賢さ、節操 の な さ で、 ロー ドン と結 婚(プ ラ ス)さ らに、 虚 栄 や 偽 善 で ス テ ィー ン と密 会 に よ る上 流 社 交 界 入 り(プ ラ ス)→その醜聞(マイ ナ ス)→セドレの残 した金 に よ る 教 会 の 慈 善 事 業 に よ る信 仰 の道 へ の 偽 善 ぷ り)や や プ ラ ス しか し0以 下) この よ うな 人 生 行 路 を辿 るベ キー はや は り、「虚 栄 の市 」の主 人 公 で あ る。 上 図 の0線 へ と貧 困 か ら上 昇 させ る原 点 は、 名 門 の ピン カ トン女 史 の女 学 校 を卒 業 す る 点 で あ る。 この 貴族 的学 校 の卒 業 記念 の ジ ョン ソン辞 典 を馬 車 の窓 か ら庭 へ 投 げ 捨 て る とい うま さに、 宗 教 上、 道 徳 上 の 大 問 題 で、 革 命 的人 物 と して人 生 行 路 をス ター トす る。 又、 ロー ドン とい う夫 に対 す る 反 逆 と して、 上 流 階 級 の ス テ ィー ン と密 会 し、 社 交 界 の 花 形 とな るが、 そ の醜 聞 に よ り、0線 以下 に転 落 して、 か ろ うじて 慈 善 事 業 に偽 善 ぶ りを示 して、 虚 栄 な生 涯 を終 るの で あ る。 ベ キー が 象 徴 す る時 代 エ ネ ル ギー は 「利己主義」、「偽善」、「自尊心」、「偏見」により、金銭欲を満しつつ社会 的 地 位 を 向上 させ て 行 こ うとす る の で あ る。 一 方、 ア ミー リヤ は 株 式 仲 買 人John Sedleyの 娘 で、 裕 福 な 家 庭 で、 英 国 社 会 の典 型 的 淑 女 の特 質 を 持 って い た。(プ ラス)→父ジ ョン. セ ド レ老 の 破 産、 ジ ョー ジ ・オ ズ バ ン との婚 約 破 棄(マ イ ナ ス)→オズ バ ン の 友 人 ドビ ン の説 得 に よ り、 ジ ョー ジ との結 婚(プ ラス)→弾に あ た って 夫 ジ ョー ジ の死(マ イ ナ ス)→息子ジョ ー ジ へ の母 性 愛(プ ラ ス)→経済 上 の 理 由で 息 子 ジ ョー ジ を オ ズ バ ン家 に預 け る(マ イ ナ ス)→ドビンの18年 に わ た る恋 が 実 り、 ア ミー リヤ は 結 婚 す る。(プ ラス)ア ミー リヤ はべ キ ー と異 って 何 度 も0線 を経 験 す る。 父 の破 産 の 時 で あ る。 しか し、そ の結 果 婚約 破 棄 で 無 気 力 に な る。 第2回 目の0線 は オ ズ バ ンの 友 情 に よ り、再 び ア ミー リヤ の結 婚 に光 が差 し始 め る。 第3回 目、夫 ジ ョー ジ に対 す るベ キ ー の誘 惑 と夫 の死 の過 程 で0線 を横 切 る。 第4回 目、 息 子 ジ ョー ジへ の 母 性愛 をか き立 て た り、亡 夫 の幻 想 に生 き よ うとす る時、0線 を意 識 す る。 第5回 目、両 親 の面 倒 をみ る の が精 一 杯 な の で、 つ い に、 亡 夫 の実 家 オ ズ ﹁ 空 な る も の﹂の意味
密 教 文 化 バ ン家 に 息 子 ジ ョー ジ を預 け、 十 分 な教 育 を して も ら う決意 を して も ら う 時、 ア ミー リヤは 苦 しむ。0線 に触 れ る。 第6回 目、 ベ キ ー をオ ズ バ ンが 口説 い た とい う証 拠 の 紙切 れ に よ って、 ア ミー リヤ の幻 想 が破 れ去 り、 愚 直 な15年 に わ た る ドビ ンが ア ミー リヤ の心 を 目覚 め させ よ う とす る時、 ド ビ ンが ア ミー リヤ に愛 想 づ か しを して 旅 に 出 て しま う。 ア ミー リヤ の会 い た い とい う希 い と船 着 場 で の再 会 の過 程 で0線 を通 過 し、つ い に二 人 は結 ばれ る の で あ る。 ア ミー リヤ は時 代 に頽 廃 し、 な お も力 を保 持 しよ う とす る 「愛 情 」、「人 間 的 尊 厳 」、「同情 心 」 を象 徴 す る対 照 的 人 物 な の で あ る。 「サ ッ カ レー は 「虚 栄 の市」の「幕の前で」ベキー人形、アミーリヤ人形、ドビン人形、 悪 貴 族 の人 形 な どを紹 介 し、人 形 芝 居 も これ で お しまい とい って 「虚 栄 の 市 」 を終 って い る。 しか し単 な る人 形 芝居 と して一 笑 に付 せ られ な い とこ (21) うに 「空 の 空 な る もの 」 の 真 理 が読 者 の心 に残 る の で は あ る ま い か。」 この0線 は 言 語学 のGB理 論 の空 範 疇 に共 通 す る。 ベ キ ー が貴 族 的 学 校 に 入 る こ とは、 上 流社 交 界 へ の パ ス ポ ー トで あ り、0点 を上 昇 的 に切 る。 夫 の 前 で の 密会 に よ る醜 聞 は0点 を下 降 的 に切 る。 ア ミー リヤ の場 合 も父 の破 産 に よ り、当 然、 婚約 破 棄 に至 り、下 降 的 に0点 を通 り貧 困 に至 る。 ドビ ンの 力 添 で ジ ョー ジ と再 び結 ば れ る見込 とな り、上 昇 的 に0点 を通 る。 夫 の べ キー へ の 口説 の 紙 切 れ と夫 の 死 で、 下 降 的 に0点 を切 る。亡 夫 へ の 幻 想 と息 子 へ の 母 性 愛 で、 上 昇 的 に0を 通 過 し、夫 の実 家 に 息 子 を預 け、 下 降 的 に0を 通 過 し、最 後 に、 ドビ ンの18年 の ア ミー リヤ へ の 愛 を ア ミー リヤ が 気 付 き、結 ば れ る。 そ の時 上 昇 的 に0点 を横 切 る。 文 学 に お い て、 空 範 疇 とい うの は、 因果 関係 の分 岐 点(turning point)(=転 換 期)な の で あ る。 栄 枯 盛 衰 が ま る で禍 福 は糾 え る縄 の ご と しで、 空 範 疇 で文 が転 換 さ れ る よ うに、 人 生 に お け る因 果 応 報 を読 み 取 る こ とが必 要 で あ る。0か ら の創 造 の よ うに展 開 も可 能 で あ る が、 ア ミー リヤ の よ うに辛 抱 強 く頑 張 る (21)同 書、P.125.
こ と に よ っ て、 自 ず と次 の 展 開 が 生 じ る。 前 述 の よ うに、0す な わ ち、 ス ー ニ ヤ は、 未 知 数 で、 空 虚 で、 そ の 発 想 の 根 底 を さ ぐ る こ と は 文 学 に お い て も 重 要 で あ る。 次 に、 哲 学 や 宗 教 に お け る 「空 な る も の 」 を 考 察 し て み る。 特 に 般 若 心 経 に お け る 「空 」 と 「無 」 の 問 題 は 興 味 の つ き な い 問 題 で あ る。 「色 即 是 空 空 即 是 色 」 般 若 心 経 に お け る 「空 な る も の 」 を論 ず る 前 に、 「虚 栄 の 市 」 の 「伝 道 の 書 」(旧 約 聖 書)に つ い て 論 じ て み た い。 こ の 「伝 道 の 書 」 は20世 紀 の
W.S.Maugham(モ ー ム)の'The Treasure'(掘 り出 し物)に も 引 き 合
い に 出 さ れ て い る。 「掘 り出 し物 」 の 冒 頭 を 考 察 して み る。
RICHARD Harenger was a happy man. Notwithstanding what the
pessimists, from Ecclesiastes onwards, have said, this is not so rare
athing to find in this unhappy world, bllt Richard Harelnger knew
(22)
it, and that is a very rare thing indeed.
「リチ ャ ー ド ・ハ レ ン ジ ャ ー は 幸 福 な 男 で あ っ た。 伝 道 の 書 が 世 に 出 て 以 来、 悲 観 論 者 が 言 っ た こ と に も か か わ ら ず、 こ れ は こ の 不 幸 な 世 の 中 で 見 つ け る の に そ れ 程、 珍 しい 事 で は な い。 し か し、リ チ ャ ー ド・ハ レ ン ジ ャ ー は そ の 事 を 知 っ て い た。 そ して、そ の こ と は 実 際 大 変 ま れ な こ と で あ る。」 モ ー ム は 「伝 道 の 書 」 そ の も の に つ い て は 論 じ て い な い が、 自 制 や 良 識 の 美 徳 を 尊 ぶ 中 庸 の 精 神 の 必 要 性 を主 張 す る の で あ る。 こ の よ う な モ ー ム 的 視 点 か ら 見 れ ば、 ベ キ ー よ りア ミ ー リヤ の 方 が 支 持 さ れ る の で は あ る が、、「虚 栄 の 市 」 を 通 じ て、 作 者 サ ッ カ レ ー は べ キ ー を主 人 公 と す る こ と に よ っ て、 「云 道 の 書 」 の 言 わ ん とす る と こ ろ を 実 証 し よ う と した と、い え る の で は あ る ま い か。 さ て、 「伝 道 の 書 」 と は ど ん な 内 容 な の か、 こ の 書 が 生 ま れ た 時 代 背 景 と は、 紀 元 前200-150年 ご ろ、 ユ ダ ヤ の 政 治 的 状 態 は 悲 惨 で 混 乱 に 満 ち、
(22) Three English Stories edited by the Eureka Society
(P.1)JIIKEN SHUPAN, 1960.
﹁
空
な
密 教 文 化 外 国 人 に よる圧 政 が、人 々 を失 望 させ、先祖 伝 来 の宗 教 は踏 み に じ られ て、 人 々 の 心 に そ の 影 を落 して い た。 そ こ に、「空 な る か な、空 な る か な、 す べ (23) て空 な り」(1の2)の 嘆 き が主 張 され た。 1.人 間 果 して生 き る価 値 が あ る か。 2.無 知 で は酔 生 夢 死 で あ る。 3.知 を得 れ ば迷 い を生 じ る。 4.快 楽 や 富 も元 よ り空 しい。 5.事 業 も労 働 も何 一 つ 我 々 を益 しな い。 一 時 の満 足 のみ 。 6.善 人 も悪 人 も、運 命 の前 に一 切 の もの が無 力 で あ る。 7.人 間 は競 争 心 と妬 み を原 動 力 に生 きて い る。 8.短 い 人 生 を享 楽 す る しか な い。 こ れ ち の(1)-(8)ま で は 悲 観 論 者 の 主 張 に す ぎ な い。 こ れ ら は 矛 盾 に 満 ち た も の も あ る。 す な わ ち、(2)と(3)、(1)(4)(5)(6)と(7)(8)であ る。 次 に 「伝 道 の 書 」 の 主 張 は 次 の も の で あ る。 9.人 々 よ、 神 に 帰 ろ う で は な い か。 そ の と き 空 と 見 え る 一 切 の も の に 新 しい 意 味 と 価 値 炉 見 い だ せ る で あ ろ う。 「汝 の 若 き 日 に 汝 の 造 り主 を覚 え よ 」, (12の1) 10.ひ と た び こ の 世 の 一 切 を 否 定 して 神 に 帰 り、 再 び こ の 世 に 戻 り来 て 人 生 を 充 実 した 意 味 あ る も の とせ よ。 こ の(9)(10)の主 張 は 「虚 栄 の 市 」 のべ キ ー が、 ス テ ィ ー セ と の 密 会 で 上 流 社 交 界 不 り し た も の の、 そ の 醜 聞 の た め 、 零 落 し、 か ろ う じて 、 セ ド レの 残 した金 に よ る教 会 の慈 善 事 業 に よ る信 仰 の道 へ の二 歩 は、 ま ざ に 「伝 道 の 書 」 の主 張 に一 致 す る。 この よ うな展 開 は、 「虚 栄 の 市 」 の作 者 サ ッ カ レ ー は、 ベ キ ー に よの て 「伝 道 の書 」 の意 図 を案 証9た の で あ る。 「空 の空 な る も の」 とい う真 理 を読 者 に訴 え、 読 者 の心 を握 え、 デ ィ ケ ン ズ と並 び (24) 称 され る大 作 家 に な っ た の で あ る。 (23)聖 書 小 事 典 小 嶋 潤著、P.175教 養 文庫 社 会 思 想社. (24)同 書P.176.
一 言 ベ キ ー に つ い て、 付 け加 え て お か ね ば な らな い。 ベ キ ー が よ く偽 善 的 だ と言 わ れ る の は な ぜ だ ろ うか、 そ の理 由 と して、 伝 道 の書 に 「汝 の若 き 日に汝 の造 り主 を覚 え よ」(12の1)と あ り、ベ キー が 教 会 の 慈 善 事 業 に よ る信 仰 の道 へ 入 っ た の は、 セ ドレの残 した 金 で、 しか も、 晩 年 に な っ て、 昔 の容 色 を失 い、 かつ ら、義 歯 をつ け、 笑 うとぞ っ とす る年 令 に な っ て か らで あ る。 しか し、伝 道 の 書 の 言 わ ん とす る と こ ろ を形 式 的 に せ よ守 って い るが 故 に、 一 層 空 虚 に感 ぜ られ るの で あ る。 さて、 本 論 の般 若 心経 の 中 心 的 思 想一 「色即 是 空 空 即 是 色 」 に つ い て 考 察 して み る。 こ の 「空 」 につ い て、 ま ず始 め て み る。 そ の た め に 「空 」 が般 若 心 経 で どれ ほ ど重 要 な思 想 で あ る か、 引 用 して み る。 「般 若 心 経 とは、 い か にす れ ば 「空 」 に なれ る か、 「空」になるために (25) は ど うす れ ばい い か を教 え る経 典 だ」 そ して、 空=無 心 の 状 態一 物 の 見 方 だ と か考 え方、 概 念 や 常識 を一 度 全 部 捨 て て み る こ と だ と述 べ て お られ る。 見 方 を 変 えて み る と、「空 とい (26) う もの は一 切 の事 物 の存 在 の原 理」=無常、無我、無情とも主張 で き る。 さ らに現 実 的拡 大 解 釈 を加 え る と次 の よ うに も言 え る の で は な い だ ろ う か。 「空 とい う もの は ア ク シ ョ ンを加 え な けれ ば何 もな い と同 じ……空が実 体 を現 して 人 間 世 界 に よい 働 き を させ る た め に は、 人 間 が た えず 社 会 とい う存 在 に対 して 働 き か け な けれ ば な らな い。 ま た、 無 限 に働 き かqる こ と (27) に よ って 無 限 の生 命 がつ む ぎ 出 され る。」 無 常、 無 我、 無 情 な人 や 社 会 や す べ て の物 事 に対 して、 働 き か け る こ と に よ って、 自己 に秘 め られ た 生 命 力 が 湧 く、そ の際、 「自由勝 手 に 動 い て (25)臨 済 宗 妙 心寺 派龍 源 寺 住 職 松 原 哲 明P.69、PRESIDENT(プ レ ジデ ン ト 社)1992.4.1. (26)同 書P.61、 南 無 の 会 会 長 松 原 泰 道. (27)同 書P.64、 作 家 大 城 立 裕. ﹁ 空 な る も の﹂の意味
密 教 文 化 くれ る もの 」 が 「空 」 なの で あ り、 も っ と簡 単 に考 え れ ば、 次 の よ うに説 明 され る の で は あ る まい か。 ハ ン グ グ ラ イ ダー に乗 って い る人 間 が ふ 一 と空 を飛 ん で い る。 ハ ング グ ラ イ ダ ー に乗 って い る人 も空 も一 緒 にな って い る よ うに 見 え る。 そ の ハ ン グ グ ラ イ ダ ー に乗 っ て い る人 がつ ま り 「空 」 に な っ て い る。 「空 」 とい う の は、 ほ しい ま ま に描 き い だす ハ ン グ グ ライ ダー に乗 って い る人 の飛 行 な の で あ る。 「人 生 に は 「ま さか 」 とい う事 態 が次 々 と起 こ る。 こ の肝 心 の と き、 打 っ べ き手 は無 限 に 出 て来 る。……こうし て立 派 にや す ら ぎ方 面 行 きに対 応 す る 「空 」 を人 間 は誰 し も持 って い る。 ま こ とに 「空 」 こ そ が人 生 の 万 能 (29) 薬 と言 え る。」 ハ ング グ ラ イ ダ ー の乗 り手 が、 逆 風 に会 い、 又 障 害 物 に直 面 した りす る とき、 よ り安 定 したや す らぎ方 向 に勝 手 気 ま ま に対 処 す る 「空 」 は、 万人 に必 要 で、 「空 」 を体 得 した 者 に と って人 生 行 路 を巧 み に歩 め るの で あ る。 「人 間 は般 若 大 空 の霊 光 に浄 め られ て こそ は じめて 人 間 ら しい人 間 に な (30) る の で あ る。」 さ て、 「空 」 に対 して 「色 」 に つ い て、 五 慈 十 二 処 十 八 界 に お け る 「色 」 (31) を図 解 を参 考 に して み る と 図解 の前 に 「空 と無 我 」(仏 教 の言 語 観)で 定 方 晟 氏 は 「色 」 と 「空 」 と の 関係 を弁 証 法 的 に 考 え て い る。 色 即是色(筆 者の造語)-有 の立場-正 色即是空-無 の立場-反 空即是色-空 の立場-合 (28)同 書P.103、 京 都 大 徳 寺 塔 頭 大 仙院 住 職 尾 関 宗 園. (29)P.103. (30)同 書P.95、 般 若 院 前 住 職 宮 崎 忍勝. (31)同 書P.95.
(私 が そ の 中 で 生 活 し 日 常 経 験 す る 現 象 界 ) 肉体 私 の……色
精神作用
受 想行 識(五 慈 仮 和 合)十八界
十 二 処 眼 耳 鼻 舌 身 意 一 六 根(肉 体 と心 ・意 識) し色 吉 香 味触 法 一 六 境(六 根 の対 象。 法 は 心 の 対 象 と な る 一 切 の も の) 、六 識…眼識界 乃 至 意 識 界(根 と境 に よ り識 が 生 ず る。 識 は 認 識 主体 で あ り、認 識 作 用 で あ る。) しか し、 こ の図 で色 は肉 体 だ け の よ うに見 え る が、 「目 で 存 在 が確 認 で ゆ き る、形 の あ る物 一 般 を さす。 物 質 の こ と で あ る。」 す な わ ち、 石、 草、 動 物一 流 れ て ゆ く、変 わ って ゆ く、移 ろ うて ゆ く もの、 空 の 中 の ほ ん の 暫 くの 間 が 「色 」 で あ る。 要 す る に、 「色不 異 空、空 不 異 色、 色即 是 空、 空 即 是 色 」 で あ る。 (33) 次 に 「不 」 とい う語 につ い て 一 言 せ ね ばな らない。 六 不、 八 不 が あ り、 対 比 す る と、 六 不…不生・不 滅/不 垢 ・不 浄/不 増 ・不 減 (33) 八 不…不生不 滅/不 断 ・不 常/不 一 ・不 異/不 去 ・不 来(弘 法 大 師) 「い ま 「空 の 六相』(空の六つの特質)の教えに 接 す る と き、 花 の 咲 く も 散 る も 「不 生 ・不 滅 」 で あ り、 ま た 満 開 と な る の も 散 る の も「不 垢 ・不 浄 」 (34) で あ り、 広 い 庭、 更 に は 広 い 宇 宙 か ら す れ ば1不 増 ・不 減 」 で あ る。」 「空 の 六 相」から世相を見 れ ば、 「こ だ わ り」「とらわれ」は空虚に 見 え (32)同 書.P76、 東 大 寺 長 老 清 水 公 照. (33)同 書P.89、 龍 樹 「中 論」(六 不 ゆ 三 組 六 箇 の 相 対 的 判断). (34)同 書P.89、 東 洋 大 学教 授 金 岡 秀 友. ﹁ 空 な る も の﹂の意味密 教 文 化 る、 我 執 に捉 われ ず、 万 物 を空 と見 る考 え に他 な らな い。 「不」と「空」との関係を述べできたのであるが、さらに、「空」と「無」 の関 係 につ い て考 察 して み る。 「漢 訳『無量寿経」にも「自然」とかじ無為自然」の語が 多 用 され て い る よ うに、 大 乗 仏 教 の根 本 義 で あ る 「般 若 経 」 の空 の思 想 は老 荘 の無 と一 脈 (35) 相 通 ず る も の が あ り……」 要 す る に、 紀 元 前3、4世 紀 の老 荘 思 想 に紀 元 前 後 に中 国 に渡 来 した仏 教 が融 合 した の で あ る。 又、 般 若 心 経 の中 に も 「是 故 空 中 無 色 」 と あ り、 「空」なるが故にすべて「無」なのである。それ故、読経中に「空」=「無」 を実 感 す るの は 当 然 で は あ る まい か。 「読 経 して い る と、 腹 の底 か ら何 と もい い が た い 嬉 しさや エ ネ ル ギー が湧 い て くる。 これ こそ 仏 さ んの 心 の よ るべ 「空 」 な の だ。 私 は 「心 経 」 の お か げで 坊 さん に させ て も ら った。 そ れ が私 に と って は 自然 だ つた。 体 の端 か ら端 まで 「空 」 あ るい は 「無 」 で、 「般 若 心 経 」 が書 き込 ん で あ る よ う (36) な 気 持 だ。 生 ま れ た と きか ら皆 「空 」 な の だ。」 (37) 「無 になれ」「空になれ」と修行させられる僧も あ る。 (38) さて、 空、 色、 不、 無 に つ い て、 紺 紙 金 字 般 若 心 経. 後 奈 良天 皇 震翰 の 中 で何 語 つ つ この18行 の 中 で表 わ され て い る の で あ ろ うか。 (35)同 書P.97、 宮 崎忍 勝(cf.「 無 」 の 思 想P.142、 森 三 樹 三 郎、 講 談社 現 代 新 書) (36)同 書P.104、 尾 関宗 園. (37)同 書P.69、 松 原 哲 明 住 職 が 臨済 禅 の 龍 澤 寺 で 中川 宋 淵 老 師 か ら言 わ れ た 言 葉 (38)「「般 若 心経 」 を読 む 」P.105、 第4章 色 即是 空 の 世 界. 紀 野 一 義 著、 講 談 社、1981.
これ らの 数 字 を数 珠 型 図 に して み る と、 数 の大 小 に より、円 を大 きく小 さ くして み た。 こ の数 珠 型 図 を連 語 で 考 察 して み る と、 1、2行 目…タイトル、 序 説 3行 目………空と色不 異 空/空 不(異 色) 4行 目………異色/色即 是 空/空 即 是 色 5行 目………空相/不 生 不 滅/不 垢 不浄 6行 目……不増不減/空/無 色/無 受 想行 識/無 眼 7行 目………無色/無 眼 8行 目………無意識/無 無 明/無 無 明/無 老 死 9行 目………無老死/無若/無 智/無 得/無(所) ﹁ 空 な る も の﹂の意味
密 教 文 化 10行 目………無(呈 擬) 11行 目………無 呈 擬/無(注=1語 だ け 「有 」) 12、13行 目 タ イ トル の く り返 し 14行 目………無/無 15行 目………不 虚 16、17、18行 目…締めく く り と タ イ トル。 空 は 色 と対 句 と して 前 半 に 表 わ れ、 中程 で無 ・不 ・空 ・色 が 全 て 表 わ れ、 後 半 は 「無 」 が 強 調 され、 最 後 に 不 で とい っ たイ メー ジ の リズ ム が読 経者 の心 を深 く把 え て 離 さな い。 「空 の空 な る もの」 数 論 の 見方 一 一 「ス ー ニ ヤ とゼ ロ」で 古代 イ ン ドの哲 学 と宗 教 を暗 示 し、 これ を序 論 と し、言 語 学 に お け る 「空 範 疇」の理論展開 の エ ネ ル ギ ー を述 べ、 再 び、 「ゼ ロ か ら無 限 へ 」 とい うス ー ニ ヤ の未 知 数 の 発 想 の す ば ら し さに感 心 した。 さ らに、 サ ッ カ レー の 「虚 栄 の市 」 の 「空 の空 な る もの 」 を考 察 す る た め に、 主 人 公 の べ キー と好 対 照 の ア ミー リヤ とい う二 人 の 女 性 の栄 枯 盛衰 の運 命 を図式 した。 又 現代 作 家 で あ るサ マ セ ッ ト. モ ー ムの 「掘り出し物」の根底にある旧約聖書の「伝道の書」の思想にも「空の空 な る もの」の意味 を見 出 した。 最 後 に、 般 若 心 経 の 中 心 思 想 で あ る 「色即 是 空 空 即 是 色 」 に お け る 「空」と「色」さらに「不」や「無」の意味を調べ、数珠型 図 で、 視覚 的 リズ ム で 「空 な る もの」の姿を把 えて み た。 (39) 最 後 に清 水 公 照 ・東 大 寺 長老 の 言 葉 を 引用 して、 「空 な る もの 」 の 総 ま とめ の参 考 に す る。 「空 とい うの は、 把 み ど ころ が な い の です か ら、絵 に描 くこ と もで き ませ ん。 ま あ、 時 代 に よ って は大 き く丸 く円 を描 い て 「これ が 空 だ 」 と言 った お坊 さん もい ら した よ うだ。 大 きな丸 い 円 とい うと、数 字 の ゼ ロみ たい な もの で あ る。 た だ し、無 限 (39) PRESIDENT(プ レ ジ デ ン ト社)P.79.
の ゼ ロ で あ る。 ど こ ま で 行 っ て も ゼ ロ は ゼ ロ。 ゼ ロ は 半 分 に し て も ゼ ロ。 無 限 と ゼ ロ は お な じ よ うな も の で あ る。 分 析 して も分 析 し て も、 何 が 本 物 か と い っ た ら、 「そ ん な も ん あ ら へ ん 」 と い う の が、 空 で あ る。 そ の 空 の 上 で、 み ん な、 よ う し や な し に 変 化 し て い く も の な の だ。」 (40) 上 述 の お坊 さん とは 鉄 眼 禅 師 で あ ろ う。掛 け軸 に 墨 で0で は な くて 。 の よ うに描 かれ て い た。 そ の絵 は虚 無 を感 じる の で は な く、 一 見 す れ ば、 頼 りな く感 じる が、 そ の筆 跡 は 力 つ よ く、「何 で もや れ る、 元 気 が 湧 き出 て (41) くる」 も っ とも簡 潔 な一 筆 描 き で は な か ろ うか。 数 論 の 「ス ー ニ ヤ」 か ら、空 の哲 学、 空 の文 学、 伝 道 の書、 さ らに 般 若 心 経 の 「色 即 是 空 空 即 是 色 」 と考 察 して み た が、 般 若 心 経 も古 代 イ ン (42) ドの 原 文 を音 写 した も ので あ る。 それ 故、 イ ン ドの文 化 の深 さ に感 銘 せ ざ る を得 な い の で あ る。 「空 な る もの 」 こそ、 現 代 を生 き る知 恵 な の で あ る。 こ の 高 度 な 物 質文 明 の 鍵 とな る 「空 な る も の」 の意 味 を理 解 し、実 践 す る こ と こそ、 我 々人 類 の 意 志 で は あ る まい か。 以 上 参 考文 献 1.「 ゼ ロか ら無 限 へ 」 数 論 の 世界 を訪 ね て コン ス タ ン ス ・レ イ ド著、 芦 沢 正 三 訳、 講i談社、 昭46.8.15. 2.言 語 学 ・英語 学 小 事典 安 藤 貞 雄 ・樋 口 昌幸 ・鈴 木 誠 一共 編 著、 北 星 堂 書 店、 1990.6.12, 3.「 イギ リス小 説 研 究 と鑑 賞 」(樋 口欣三 ・内 田能 嗣 藤 田 栄一 編)創 元 社、 昭 和51年4月20日. 4.宮 田 ・宮 崎 ・柴 田 ・内多 ・米 田 著 「英 国 小 説 研 究 」第1冊(文 進 堂、 昭和29 年) 5.同 雑誌 第2冊(文 進 堂、 昭 和31年) (40)高 野 山 大学 大 学 院 生 山 口雅 弘 氏所 有、 掛 け 軸 「福寿 海 無 量 」 (41)PRESIDENT(プ レジデ ン ト社)P.79. (42)同 書P.133、 名 古 屋 大学 名 誉 教 授 宮 坂 宥 勝 「サ ン ス ク リ ッ ト原 文 の 真 言 の 音 写 」 ﹁ 空 な る も の ﹂ め 意 味
-65-密 教 文 化 6.米 田 ・榎 木 ・飯 沼 ・宮 崎 永 嶋 ・内 多 「英 国 小 説 研 究 」 第5冊(篠 崎 書 林、 昭 和36年) 7.藤 田 清 次 著 「サ ッ カ レ ー 研 究 」(北 星 堂 書 店、 昭 和38年) 8.ロ ー レ ン ス ・ブ ラ ン ダ ー 著、 臼 田 昭 訳 「サ ッ カ レ 一 」(英 文 学 ハ ン ド ブ ッ ク 「作 家 と 作 品 」)(研 究 社、 昭 和45年) 9.大 阪 大 学 英 文 学 研 究 会 「英 語 英 文 学、 評 論 と 研 究 第1号 」(文 進 堂、 昭 和29, 年) 10. 大 阪 大 学 南 ・北 校 「研 究 集 録 人 文 ・社 会 科 学 第4輯 」(毎 夕 印 刷、 昭 和 31年) 11. 英 文 学 雑 誌「 潮 音12」(山 口 書 店、 昭 和32年) 12. 同 雑 誌14(山 口 書 店、 昭 和33年)
13. Arn. old Kettle, An Introduction to the English Novel(Kinokuniya, 1973) 14. David Cecil, Early Victorian Novelists(Pelican Books, 1948)
15.Edited by M. G. Sundell, Twentieth Century Interpretation-S of Vanity Fair(Spectrum Bboks, Prentice-Hall, IIlc. 1969)
16. Geoffrey Tillotson, Thackeiーay the Novelist(University Paperbacks, Met huell, London 1963)
17. Edited by Alexander Welsh, Thackeray(Spectrum Books, Prentice-Hall, Inc, 1968
18.18-19世 紀 英 米 文 学 ハ ン ド ブ ッ ク(南 雲 堂、 昭 和41年).
テ キ ス トはEtireryman's Library 298 Vanity Fairを 用 い た。 翻 訳 は 三 宅 幾 三 郎 氏 が 岩 波 文 庫(全6冊)よ り 出 して お ら れ る。 な おJohn:K:ennot七 に よ っ て 平 易 に 書 か れ たVanity:Flair(開 拓 社、 ケ ネ ッ ト ラ イ ブ ラ リ ー10. )やJosephi ne PageのVanity Fair(大 阪 教 育 図 書、 オ ッ オ ス フ ォ ド シ リー ズ17)が 出 て い る。
19. Three:English Stories ediited by the:Eureka Society JIKKEN SHUPAN, 1960. 20.聖 書 小 事 典 小 嶋 潤 著、 教 養 文 庫 社 会 思 想 社. 21.PRESIDENT 4'92プ レ ジ デ ン ト社、1992. 4. 1. 22.「 般 若 心 経 」 を 読 む 紀 野 一一義、 講 談 社 現 代 新 書、1981.2.20. 23.「 無 」 の 思 想 森 三 樹 三 郎、 講 談 社 現 代 新 書、1969.10.16. 24.数 の 不 思 議 草 場 公 邦、 講 談 社 現 代 新 書. 1983.12.20. 25.空 と 無 我 定 方 晟、 講 談 社 現 代 新 書. 1990.5.20. <キー・ワ一一ド>空範疇・虚栄 の 市 ・色 即 是 空