索珊氏博士論文審査要旨
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(2) においてセンシティブな分野であり続けている点を確認している。そして、その2点が交 錯・重複する問題として農産品貿易における自由貿易と安全基準の問題に関わるリスクを 整理し、グローバリゼーションの進展にともない、その重要性が高まっていることを明ら かにしている。グローバリゼーションの進展がもたらす生産(流通)者と消費者間の情報 の非対称性によるリスクの拡大に対応して市場を補完し、自由貿易の進展を支えるはずの 安全基準に関する制度が、逆に貿易障壁として機能する点に問題が所在する点をとらえて いる。 第2章では、日中それぞれにおける農産品貿易の位置づけと日中間農産品貿易の展開を 整理し、そこでの自由貿易推進上の政策課題(貿易摩擦)と貿易動向に影響を及ぼした事 象を抽出している。その検討に基づいて、日中間の野菜貿易が自由貿易と食品の安全性と の関係を検討する上で好適な研究対象であることを明らかにしている。これらは双方にと り貿易相手先としての依存度が高く、また貿易摩擦や食品安全事件の対象ともなった分野 であるからである。 第3章では、具体的にしいたけ、冷凍ほうれん草、ねぎの日本の中国からの輸入を事例 として取り上げ、伝統的貿易制限手段であるセーフガードと非伝統的貿易障壁としての可 能性をもつポジティブリスト制度への移行、そして日中間で発生した食品安全問題に係る 事象の効果を検証している。検証結果として、セーフガードの影響はねぎにおいてのみ確 認できること、ポジティブリスト制度がすべての3品目において貿易に影響を及ぼしてい たことを明らかにしている。ただし後者については、しいたけ、ねぎに対して負の効果を、 冷凍ほうれん草に対しては正の効果を有している。この相反する結果の原因について分析 を行い、ポジティブリスト制度の貿易障壁としての性格を明らかにしている。すなわち、 ポジティブリスト制度が、生産・流通過程での高い管理技術水準を必要とし、輸出者がそれ に対応する資源をもたない場合には貿易制限的効果を持つこと、他方で輸出側が対応する 能力を持つ場合には、競争他国に対する競争優位として機能する点を明らかにしている。 第4章では、第3章の分析結果を踏まえ、日中両国政府・企業の対応事例を検討し、自由 貿易と安全基準の問題を検討している。まず日本のポジティブリスト制度の移行過程を検 証し、その政策目的の合理性を確認するとともに、他方でそれへの対応が海外生産者にと っては障壁として機能する可能性を示している。またポジティブリスト制度導入後の中国 側の安全管理面での対策を検証し、技術・資金・人材という対応のための資源の不足を指摘 している。その点は、日本の輸入企業の調査においても確認されている。自由貿易と食品 の安全規制の関係を調整し、自由貿易を進展させるためには、何らかの資源の移転(投資、 生産管理技術の移転等)が課題となっていることが示されている。 第5章では論文の総括として、自由貿易と安全基準の問題に関して、日中間農産品貿易 分野での政策課題解決の課題について検討を行っている。国民の安全を守るという政策目 的と矛盾しない形で、品目区分等のより詳細な設定を行い厳密な運用を行うことで貿易障 壁としての機能を緩和する可能性や、輸出国側の生産・流通管理技術改善のための協力と連.
(3) 携の方向性について示している。 Ⅲ 論文の評価 本論文の貢献は、以下のようなものである。 まず、自由貿易と安全基準の問題にかかる論点へのアプローチとして、日中間の野菜貿 易を取り上げ、品目を複数取り上げ具体的な比較検証を行った点があげられる。貿易にお ける制度的障壁の問題は、近年研究課題として注目を集めており、実証研究の蓄積も進ん でいる。ただそれらは一般均衡分析による分野別の研究、あるいは単品の研究であり、分 析に品目毎の特徴・性格を反映する点では限界がある。本論文は、実証方法としては単純な 手法を採用しているが、それによって品目間の比較が可能となっており、この点は本論文 の優位点といえる。日中間の野菜貿易において、伝統的貿易制限政策であるセーフガード と、ポジティブリスト制度という安全基準の貿易制限効果を、品目レベルで検証し差異を 明らかすることに成功している。 特にポジティブリスト制度という安全基準の貿易制限効果について、品目間の対照的な 効果を明らかにしたことは本論文の貢献といえる。そして、日中間野菜貿易という分野内 において、ポジティブリスト制度が、しいたけ、ねぎに対して負の効果を、冷凍ほうれん 草に対しては正の効果をもつという、相反する結果の原因について、政府の政策対応、輸 入業者の調査を踏まえて、丁寧に品目毎のレベルでの比較分析を行ったことは優れた特徴 となっている。 さらに、日本のポジティブリスト制度の効果に関する品目間の差異の分析を通じて、先 進国が設定する安全基準が、それに対応する資源をもたない輸出者、途上国に対して貿易 制限的効果を持つこと、またそれが障壁とならないために技術移転等の協力・連携枠組みが 必要性である点を明確に示した点をあげることができる。 Ⅳ.結論 自由貿易推進のフロンティアが農産品貿易、また制度的障壁の調整へと展開している今 日、農産品貿易分野における自由貿易と食の安全基準との関係という問題は重要性を高め ている。国民の健康安全のリスク拡大に対処するための政策が、自由貿易を阻害する効果 をもたらすことが問題なっており、その間の調整をいかに進めるかという問題は、自由貿 易のあり方を検討する重要な論点である。特に先進国と途上国間の貿易においては、その 賦存資源の格差のゆえにより重要な問題となる。 本論文は、日中間の農産品貿易(野菜貿易)の展開上における日本のポジティブリスト 制度への移行の効果を、品目間の比較また他の貿易制限措置との比較を通じて明らかにし ており、上記の問題に対しての貢献を果たしている。この点で博士論文として優れた水準 にあるといえる。合格(優)と評価する。.
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主任審査委員 早稲田大学教育・総合科学学術院・教授 博士(文学)早稲田大学 中国隋唐史 石見 清裕 審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 博士(文学)早稲田大学