谷川俊太郎「かなしみ」の詩における 読みの交流と学習課題
-大学生による交流・発話分析をもとに-
キィワード:詩(韻文)のテクスト 読みの交流 レリバント 学習課題
桃 原 千英子 TOUBARU Chieko
1、はじめに
平成20年告示の学習指導要領で、国語科の各領域に「交流」に関する指導事項や 言語活動例が示された。文学における「読みの交流」学習をデザインする際の条件 として、松本修は「読みの交流を促す「問い」の要件」を、次のように提示してい る*1。
〔読みの交流を促す「問い」の要件〕
a 表層への着目:テクストの表層的特徴に着目する「問い」であること。
b 部分テクストへの着目:部分テクストが指定されていることによって、読みのリソー スの共有がなされていること。
c 一貫性方略の共有:部分テクストが他の部分テクストや全体構造との関係の中で説明 されるという解釈の一貫性方略(結束性方略)が共有されていること。
d 読みの多様性の保障:読み手によって解釈が異なるという読みの多様性に開かれてい ること。
e テクストの本質への着目:想定される作者との対話を可能にするようなテクストの勘 所にかかわるものであること。
この要件を用いて、中学生を対象に小説の授業を行ったところ、下記のことが明 らかになった。
(1) 登場人物の人間関係や象徴を読むには、「空所」を押さえる発問が必要とな る。
(2)「空所」に関する発問を提示し、読みの交流の場を設けることで要点駆動の 読みが生じ、読みの交流を促す「問い」の要件のc「一貫性方略の共有」とe「テ クストの本質への着目」を補うことができる。
(3)入れ子構造を持ち、幻想的な世界が展開される文学教材の読みでは、空所を 補う発問と、「語り手」を考える発問、主題を問う発問を併せて提示し、読みを交 流することで、一貫性を持った読みを形成させることができる。
以上のことから、小説の学習をデザインする際は、作品の「空所」を補えるよう な課題を提示し、学習者同士の「読みの交流」の場を設け、「要点駆動」の読みの 状況を意図的に作り出すことが求められる*2ということを導いた。
では、詩の「読みの交流」については、どのような姿が立ち現れるのだろうか。
韻文のテクストにおける「読みの交流」について検討していきたい。
2、詩の読みについて
光村図書出版の教科書(平成23年検定済)、国語1の第1章「はじめての詩」の 著者である荒川洋治は、沖縄で開催された教育講演会*3で、韻文の文学である詩歌 の読みに、小説など散文の読み方を導入してしまうことの問題性について指摘した。
交流や伝達を目的とする散文に対し、韻文は個人的な感覚を詠んだ「表現」であり、
説明しない所に特徴を持つ、曖昧さを受け入れる文学である。従って、詩の読みに 散文の読解方略を用いると詩の魅力を失うのだが、現代は説明できない事を厭う傾 向が強く、曖昧さを良しとする気持ちの喪失から、詩が読めなくなっている、とし ていた。
3、主題を読むこと
谷川俊太郎は、詩歌の韻文性や、主題を読むことについて、次のように述べてい る。*4
なにかよくわからないあいまいなことを順序立てて整理していく、そうやって何 かを理解するというのが、「わかる」ということの一番もとの意味だと思うんです よね。ところが、詩の場合の「わかる」というのは、そういうふうに分析されて整 理されちゃ本当は困るんです。(中略-桃原-)詩以外の普通の文章では一義的に
一つの意味しかないところに、詩の場合にはいくつもの意味がある、そのいくつも の意味が一緒になって一つの味になっているというふうに見てもらわないと困ると ころがある。(中略-桃原-)だから、明解であることを詩に求めると詩を読み違 えるし、むしろ、普段、我々が明解だと思っていたことがなにかもっと曖昧になっ ていく、もっと一種の深みに入り複雑さを増してくるというのが、基本的には詩な んじゃないか(中略-桃原-)
たぶん、詩をわかる、詩を理解するということが、作者が何を言いたいのかとい うところに短絡するところに一番の問題があると、僕は思うんです。作者が何を言 いたいかということが一番重要なのだったら、詩である必要性は全然ないわけです よね。(中略-桃原-)仮に、これが作者の言いたいことなんだとまとめてしまう ことができたとしても、そこから詩の値打ちというのは一つも出てこないんですよ ね。詩というのは主題でもなければ何を書こうというのでもない。
4、検証の目的
荒川・谷川の言葉をふまえた時、詩の「読みの交流」を、散文の交流と同等に捉 えて学習活動を組むことは果たして可能なのであろうか。
現在、詩の「読みの交流」の授業では、空欄補充や題名、語り手に関する問いを 考えることで、作品世界に迫る活動が行われている。「語り手」に関する「読みの交流」
に限定して考えた際、以下2つの問題点が挙げられる。
① 「読みの交流」では、読みの根拠を伝え合うことで、詩のイメージの共有を 図るが、根拠を説明すること自体、曖昧な韻文の世界を散文として表すことにつな がりかねない。
② 交流を促す「問い」の要件に即した発問を作ることは、「テクストの本質へ 着目」させる活動を組むことであり、詩の主題を読む学習に必然的につながる。
「交流」の伝え合うという性質上、『詩のあいまいな世界を順序立てて整理してい く中で、詩の世界や相手の読みを理解するという、「わかる」』活動が展開される事 となり、授業で散文的な読みを用いることは避けられない部分がある。韻文の特性 や魅力を活かした「読みの交流」学習と、読みの交流を促す「問い」の要件の関係 を明らかにしたい。
5、授業の概要
平成26年12月、日本文化学科3・ 4年次の教職課程履修者を中心とした談話分析*5 の授業で、大学生による詩の対談をビデオに収める機会を得た。目的がプロトコル 作成と分析、考察であったため、授業として組織された交流ではない。しかし、対 談の話題が詩の「語り」に関するものであること、また自由な形で臨ませたことか ら、詩の「読みの交流」の自然な展開を見ることが出来ると考える。
6、発話分析の前提
発話分析で前提となる状況を、野村眞木夫「テクストの組織化に関わる要因」*6 をもとに4項目示す。
(1)コミュニケーションの組織
① コミュニケーションの環境
・M(男性)・T(女性)・S(男性)が教室前方で対面して座り、対談する。
・ビデオは真横と後方の2台、固定設置。
・教師は対談者横のビデオ傍、他の学生は教室の中央以降に座りながら参観する。
② コミュニケーションの参加者
・Mは福岡県出身、T・Sは沖縄県出身。
・大学4年次の教職課程履修者であり、「読みの交流」学習についてある程度の知 識はある。
・Mは国語科教育を専攻、語り手の知識がある。
・Tは沖縄文学を専攻、Sは日本文学を専攻。
・M・Tは、講義で「かなしみ」の詩を読んだ経験がある。
③ コミュニケーションの観察者
・詩に目を通した後、話し合いを参観しながら気付いたことを随時メモする。
・コミュニケーションの参加者が観察者に同意を求めるなど、第二のコミュニケー ションの成立は生じていない。
(2)テクストの話題
「かなしみ」 谷川俊太郎
あの青い空の波の音が聞こえるあたりに 何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまったらしい 透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計に悲しくなってしまった *7
発問 「なぜ、僕は余計に悲しくなって しまったのか。」
7、話し合いの概要
交流は50分に及び、下記の流れを取った。【資料1参照】
① 全体の感想
② 発問:「なぜ余計に悲しくなってしまったのか」
③「らしい」について
④「遺失物係」について
⑤「しまった」について
⑥「透明」について
⑦「客観視」の提示
⑧ 象徴とテーマ・矛盾点の提示
⑨ まとめ:自分自身を客観的に見て、自分自身という一つ仮想の自分を作り上げ、
第二の人生を想像して、悲しみという詩を書いた。
8、話し合いの様相
観察者による発話の質的三層分析(形式的な特徴・会話上の機能・意味的な内容)*8 を参考に、詩の読みの様相を見ていく。【 】は発話番号。〈 〉は分析者のイニシャ ルである。分析箇所は各自に任せたため、重なりがある。
(1)形式的な特徴
●【1M ~ 130T】〈観察者KH〉
1M「悲しみ」、17S「余計」、60T「青」の強調が見られる。1M「悲しみ」は、配布 資料の説明時に詩のタイトルを強調したものである。17Sは、2Mの発問「なぜ、僕 は余計に悲しくなってしまったのか」を考える前に、詩の初読の感想の共有3Tが求 められ、「余計」という言葉から受けた印象を述べたことによる。60T「青」は、詩 の「青」という言葉が「青春」というイメージの根拠となっているため、強調され ている。
●【148M ~ 249M】〈観察者SN〉
発話の重なりや連続発話が多く見られた。特にMの発話にその傾向がある。148M「//
この僕のを?」や171M「//預かっとんのやろ?」などでは前の発話を受け、重ねて または連続で発話・疑問を提示している。また、249M「(5)でも何、あっそっか::
(3)谷川俊太郎が、僕を、見て、なんか僕は、とんでもないおとし物をしてきてしまっ たらしいってことか。(1)へ::。(1)何で教えてくれないんだろうね?」で沈黙(間)
が多く含まれており、他の意見をふまえてテクストと照らし合わせながら解釈をま とめようとしていると考えられる。
以上の分析から、話し合い活動そのものは非常に活性化し、建設的であったこと が分かる。また、発話の重なりや間の増加から、Mは思考を深化させるような話し 合いに誘導していることが分かる。また、詩を読むにあたり、初めに作品全体の感 想を共有し、続いて発問の言葉、タイトル、象徴性をキーワードとして読みを交流 し始める。司会者Sは、曖昧な世界のイメージの共有なしに、e「テクストの本質へ の着目」を促す課題を交流する難しさを感じていたと捉えられる。
(2)会話上の機能
●【1M ~ 125M】〈観察者KH〉
Sは3Sで司会の挨拶をし、初読の感想を問う。しかし、発問設定者がMということ もあり、20M「TとかSに、教えてもらおっかな::とTは何で悲しくなったと?」、 86M「僕って、何を落としたかって分かってるのかな?」、120M「じゃあ遺失物係は?」
のように、話し合いを展開させるのはMである。
●【86M ~ 131S】〈観察者SM〉
86Mを機にSの発話は少なくなり、Mから全体への具体的な質問、102M「でもさ::
僕はしてきてしまったらしいさ.またまた登場この『故郷』の「らしい」と一緒の なんやけど.「らしい」け.なんか知ってるのかな::」、108M「Sは分かってると 思う?」、118M「じゃあなんで.遺失物係の前に立ったら余計に悲しくなるの」が 多くなる。司会の会話進行の役割がSからMに移行する。
そして、Mの質問の後にTが応答する、隣接応答ペアを形成(86 ~ 97、102 ~ 107、118 ~ 130)する。その際、MはTの発言をまとめて確認したり、「じゃあ」と いう言葉(86・92・118M)を用いて、考えを広げる発問を投げかける。司会者Sは 101S「あ::、そうなんだ」113S「そうそう」といった相づちや、108M「Sは分かっ てると思う?」という問いかけに、109S「らしいっていうこの言い方がすごく引っ かかった」と応答するに留まり、その後のMとのやりとりはTが行うことになる。
●【137T ~ 230M】〈観察者TS〉
Tの発話が一番多く、自らの考えをしっかりと持ち、示すことで、会話の内容を 深め、詩に込められた意味を構築する働きを担う。137Tで北川幸比古の名を出し、
詩の背景を共有させることで、遺失物係の可能性を広げ、読みを方向付けた。
Mの発話は「?」が多く、相手の言葉を言い換えて考えを再確認したり、疑問を 提起し考えを掘り下げる働きをし、話し合いをより充実させている。175M「=前に 立ったらって何やかね?立ったら悲しくなるのかな?」では、発問中の表現に着目 させることで、遺失物係の人物像という読みの着眼点を示した。
Sの発話は、198S「あっ、でも過去のことを振り返って(いる) っていうのは.何 か(透明)な過去の駅でって言っているから」と、新たな部分テクスト「透明な過去 の駅」に触れ、遺失物係は誰なのかという会話の展開を広げた。それにより、過去 という思い出の中、色のない透明という色で表現したことから、自分には何もない という考えから、「余計に悲しくなり」、過去の自分に自問自答をする(215・221T)
というTの考えを促した。
●【401M ~ 419S】〈観察者IM〉
会話はインフォーマルな形で進行している。401M「ああもう分からんくなってき た」の発話から、Tが自身の解釈を説明しているが、Mの持つ考えとの違いにぶつか り、会話に混乱が起きている。419S「=Mは、どういう感じになってるんだっけ?そ
ういう、イメージっていうか、ごめんね、イメージって」の発話によって、Mの考 えを聞くと共に、内容を整理させるよう働きかける機能を果たしている。
以上の分析は、話し合いの中での人間関係性(レリバント*9)の変化を指摘する ものとなっている。話題提供者としてのMは、自身の持つ課題意識をもとに質問す る人へと自身のレリバントを変化させていく。
それに伴い、司会者のSのレリバントは質問を受けて考える人へと変化する。し かし、司会者としての役割意識が働き続けることで、他者の考えをふまえながら自 分の意見を述べるといったフォーマルな発話が続くことになる。Sは、学習場面で 展開されるような、知と知の融合により新たな知を生み出す実質的な相互行為とし ての「読みの交流」を行っていると見なすことができる。また詩の情報を用意して こなかったことで、純粋に作品を読む事となり、「透明な過去の駅」といった作品 の空所に着目させる人となった。
一方、Tは自分の読みの方略への固執が見られる。これは、Mが対話の初めに「教 えてもらおう」という立場を取ったことに起因する。そのため、TはMに教える人と いうレリバントを取った。しかし、Mから疑問を提起され、教える人から考えさせ られる人へとレリバントが変わる。Mは、話し合いの課題を提供する者から、他者 の意見をもとに自分の課題の答えを追究する者へ。さらに他者の素朴な疑問を取り 上げ、詩の読みを深化させる方向へ導く人へと、レリバントを変化させる。このよ うに、詩の読みにおいても、課題意識を持つ者の質問や発言が話の方向性を決める が、これは課題への探究心が新たな質問を生み、コミュニケーションの参加者のレ リバントを変化させたためだと言える。課題意識を持つ者の質問は、作品の見方を 広げ、思考を促し、それぞれの詩の読みを展開させる働きがあるといえる。
しかしこの話し合いでは、他者の考えを受容しながら聞くMに、答えの見えない 迷路に入り込んだことによる混乱、401Mや403M「僕は今どこにいるの?やっぱりそ の、青春真っ盛りの時の僕なの?ちょっともう」が生じる。交流後の感想でも述べ られているように、互いの役割意識がバイアスとなり、Mは教えてもらうというス タンスをとり続けたため、テクストの文脈を中心にした自分の読みを自由に述べる ことができなかったのだと考えられる。Mには、話題提供者としての教師の役割、
司会者としての役割、教えてもらう人としての役割、答えの追究者としての役割な ど、多様な役割の中で詩を読んでいたと考えられる。
以上をまとめると、次表のようになる。
〈表1〉詩の読みの交流におけるレリバントの変化
コミュニケーションの参加者のレリバント
S M T
レリバントの移り変わり
司会者
↓
考えさせる人
↓
考えさせられる人
↓
他者の意見をふまえな がら自分の意見を述べ る人
↓
答えに導く人・新たな 部分テクスト提示・空 所を指摘
↓
司会者としてまとめる 人
発問提供者
↓
教えてもらう人
↓
質問する人 考えさせる人
↓
他 者 の 考 え を も と に、
自分の読みを再構築す る人
↓
学習課題に戻す人
↓
疑問を提示する人
↓
空所を拾う人
↓
混乱する人
(教えてもらう人という 役割意識がバイアスに なる)
↓
読みを提示する人
答える人
↓ 考える人
↓
考えさせられる人
↓
詩の背景から、読みの 可能性を広げ、新たな 着眼点を示す人
↓
詩の背景をもとにした 自分の読みを完結させ る人
会話 フォーマル →
インフォーマル インフォーマル インフォーマル 読み 相互交流の中で自己の
読みを確立
テクストの文脈に基づ いた読み
作者の背景に基づいた
着眼点 読み
詩の曖昧性・創造性 詩の本質・主題 詩=作者の言葉 テーマ
(3)意味的な内容
●【1M ~ 130M】〈観察者KH〉
Tは事前に谷川俊太郎という人物について調べており、「かなしみ」の書かれた時 期や背景などを知っている。そのため、20M「なんで悲しくなった」という問いに 対して、27・29T「らしくて」、44T「山田さんが」、46T「影響をすごい受けてるら しくて」、48T「って言ってて」などと、自分の持っている谷川俊太郎についての情 報を引用しながら、この詩について考えたことをMとSに伝えている。しかし、60T では「あの青い空の波の音っていうのは多分青、ってイメージから青春なのかな:: と//思って」とあり、テクストから読みとれることにも注目している。このTの一 連の発言に対し、Mは26M「うん」、32M「え::」、36M「楽しそう」、39M「ん::」、 45M「(笑)」、49M「壮大やね」、51M「そっか」と否定も肯定もせず聞いているが、
60Tの「青、ってイメージから青春なのかな::と//思って」に対しては62M「それ はおれも思う.//青春っぽい」と同調している。その後も、68M「あ::わかるよ」
など、作者の人生から詩を読むTの考えを理解しようとしながら話し合いが進む。
これは読みのリソースが異なるために、MがTの考えを理解しようとするだけに留 まっていると言える。
●【86M ~ 131S】〈観察者SM〉
「余計に悲しくなってしまった」とは、何に対しての「悲しみ」なのか意見を交 換し合う。それを受けて、86M「僕って、何を落としたかって分かってるのかな?」
という発話を機に話題が変わり、「落し物」「遺失物係」について言及していく。
●【148M ~ 249M】〈観察者SN〉
遺失物係について、最初Tは作者谷川俊太郎の立場から北川幸比古であると解釈 している。しかし、その人の目の前に立ったら悲しくなるような人は誰か?という 問い(170M)に対して、普通の人生を望んだ父親を挙げており、考えが変化している。
最終的には、谷川が自分(「僕」)を客観視しているという解釈になっている。Mは テクストの「余計に」という表現に着目し、もともと悲しかった「僕」が、遺失物 係の前に立ったら余計に悲しくなったと解釈している。Tは作者の立場から、Mはテ クストから解釈を行っているという特徴が分かる。Sは、Tの意見をふまえて、谷川 が自分自身を客観視していると解釈している。
●【401M ~ 419S】〈観察者IM〉
「落とし物」は学生時代に関係しているという話し合いに進んでいる。作者の人 物像を考えた場合、学校を嫌悪する一方で学校への憧れがあるという矛盾をTが説 明することによって、会話が複雑になり、401M「ああもう分かんなくなってきた。」 と発言する。MがTの読みを受け入れられなくなっている。
●【570T ~ 598M】〈観察者HS〉
570・575・577Tの発言からは、資料中心に読み、状況の文脈によって共通の解釈 を図ろうとしている。582M「それを悲しんでいる?」に対する593Sは「余計に悲し くなってしまった原因」を詩には載っていない「青春時代」を出して分析を行って いる。「青春時代」はこれまでの会話から出てきた三人の考えであり、資料と状況 の文脈を読みに導入することで、詩の外から客観的に見ている。
下線部は、詩の読みに導入されるリソースの違いに言及した箇所である。
Tの読みは、主に谷川の文献を根拠とするが、交流の中で、60T「青、ってイメー ジから青春」のようにテクストの文脈や状況の文脈、象徴性を導入した解釈も取り 始める。
一方Mは、テクストの文脈に読みの根拠を示す読み方をする。88Mは、86S「来年、
再来年、社会人ですけど」と自分と重ねた状況の文脈での解釈を受け、テクストの 言葉に戻り、「落とし物」や「遺失物係」など新たな部分テクストを疑問として提示し、
話し合いを深めていく。
Sは、TやMの考えをリソースに読みを構築する。また状況の文脈の導入も多く、
自分に置き換えて読んでいることがわかる。Sの素朴な感想がMに話の勘所を示し、
結果として答えを導くことになる。
今回の話し合いでは、文献をもとに「わかろう」とする読みが中心に展開されて いる。読みの多様性を開きたいと、Mは新たにミクロな問い(86M)を提示するが、
多様な解釈は生じなかった。そこで、424Mで自身の読みを述べるが、最終的に話し 合いは593S「余計に悲しくなってしまった原因として、届きそうな青春時代に手が 届かない。一連は非常に客観的、二連は主観的に見ている。自分自身を客観的に見て、
自分自身という一つ仮想の.自分を作り上げて、第二の人生を作り上げて、悲しみ という詩を書いた。」と詩作成の経緯を導く話し合いとなった。話し合いでは主題 にも言及されたが、e「テクストの本質への着目」もなされないまま終わる。交流
の活性化とは対照的に、創造的な詩の読みの展開はできなかった。
9、散文的な読みと権威性
山元隆春は、英国の中等学校の実践報告から、「『散文の理解とほとんどかわらな いように詩を扱』ったり、『切実な反応のために何らヒントとならないような規範 的な回答や、ステレオタイプ化された注釈』などが、中等学校の多くの生徒たちの 中に、文学に対するある種の敵意ある態度を作るのに一役買っているのである。」*10 というバロック報告を紹介している。
今回の話し合いでは、自由な対話形式により、散文読解時のような文脈依存性は 多少回避され、創造的な詩の解釈が展開される可能性があった。しかし、観察者SS は、感想に「話し合いの中で正解を探そうとしすぎているのではないか。もっとそ れぞれの考えを出していくことで面白くなったのではないか。それぞれの心情など によって詩の読み取り方は様々であると思うので、その部分を見たかった。」と述べ、
バロック報告の指摘と同様の感想を抱いている。
確かに今回の交流では、文献から作品の背景が述べられ、課題について「なぜか」
と説明していく流れをとった。詩そのものを楽しむ際には採られない読みである。
これはTに「詩は作者の心を表したもの」という作者の言葉や、「この詩には登場人 物がいない」といった文献の言葉が影響したと思われる。また、M・Sには、作者や 資料の言葉が、権威的な解釈として捉えられた可能性がある。全員が、無意識のう ちに詩をわかろう、理解しようとしていたと考えられる。
さらに「読みの交流」学習が、伝達を目的とし、説明を求めるような散文的な読 みを生みやすいことも、詩の魅力を失う要因に挙げられる。詩の解釈の権威性から 開放し、個人的な感覚を詠んだ説明されない「表現」を、「表現」として受け入れ るためにも、素朴な疑問を出し合える環境と、それを拾い上げる姿勢が、授業者に も学習者にも求められる。
10、「状況の文脈」と詩の曖昧性
松本修は「詩の読みの場合は特にこうした状況の文脈への依存度が高い。説明文 などに比べて、ことばの文脈そのものよりも状況の文脈に配慮した読みの活動、交 流の活動をつくりだしていく必要がある」*11としている。大学生の交流にも、詩の
世界と自分の状況を重ね合わせた読みや、学校への嫌悪と憧憬、思春期といった部 分で、状況の文脈を導入した読みが展開した。状況の文脈により、資料に基づく読 みとテクストの文脈からの読みといった、互いの読みのリソースの違いを乗り越え、
共有可能な詩の読みが展開されたと言える。「テクストの文脈」を意識させつつ、「状 況の文脈」の幅を広げ自由な想像を出させることが、韻文の曖昧性を認める状況を 作ると考える。創造的な読みや、「私自身の「かなしみ」」としての読みが生じるきっ かけになるであろう。
11、学習課題の検討
(1)学習課題分析
話し合いの課題を、「読みの交流を促す「問い」の要件」に即して分析すると、
以下のようになる。
【観察者SN】
問い:なぜ「僕」は余計に悲しくなってしまったのか?
要 件 要件の充足
a 表層への着目 ○
b 部分テクストへの着目 ○
c 一貫性方略の共有 ○
d 読みの多様性の保障 ○
e テクストの本質への着目
×
a 表層への着目:テクストの表層的特徴に着目する「問い」である。
b 部分テクストへの着目:部分テクストが指定されている。
c 一貫性方略の共有:なぜ余計に悲しくなってしまったのかは、テクストの最終 部分であることから、テクストの前の部分との関連づけで説明することになりやす いため、部分テクストが他の部分テクストや全体構造との関係の中で説明されると いう解釈の一貫性方略(結束性方略)が共有されやすい。
d 読みの多様性の保障:読み手によって解釈が異なるという読みの多様性に開か れている。
e テクストの本質への着目:想定される作者との対話を可能にするような勘所を
指定していない。「なぜ」という問いは多様な答え方を可能にしており、テクスト の本質を引き出すものとは言えない。
ただし、全ての要件が充足していなくても、他の問いと組み合わせることで、読 みの交流が促されることは、中学校の実践で明らかになっている。*12
今回の話し合いも、発問以外に次の六つの疑問が挙がった。
①「らしい」とは、自分で知っているのか?(102M)
②なぜ遺失物係の前に立つと悲しくなるのか。(118M)
③遺失物係の前に立たなかったらどうしてたのか。(177S)
④「しまった」が二回使われている。(187S)
⑤過去を振り返るのは「透明な駅で」と言っている(198S)透明なのに分かるのは おかしい。(201M)
⑥客観視しているのは今ではないのか?(350M)
しかし、多様な読みにつながらなかったのには、次の原因が考えられる。
①新たに提示された疑問も、「なぜ」という言葉で質問されることがあった。「なぜ」
という言葉は根拠の幅を広げ、自由な読みを容認し、Tが資料に答えの根拠を求め る環境が作られた。
②資料を基にした解釈が、一つの読みを完成させてしまい、提示された状況の文脈 も、その解釈を共有し一貫性ある読みを生む方向で働いた。
③対象となった詩が、「作者」と「話者」と「主人公」*13を区別しなくても、一通 りの読みを可能にする作品であった。
④自由な話し合い形態と、Mの「教えてもらう人」というレリバントが、テクスト の文脈から離れる原因となった。授業の「読みの交流」のように、テクストの文脈 に焦点を当てて想像させるといった枠組みが無い状況を生んだ。
⑤司会が、それぞれの読みやイメージを一つにまとめてしまい、詩を解釈、説明す る話し合いになった。
(2)言語活動の観点から
古閑晶子(2014)は、詩的機能がメタ認知可能な言語活動例*14を以下のように示 した。
〈表1〉詩的機能がメタ認知可能な言語活動例
詩類型 詩的機能が駆動する読み 言語活動例 リズムの詩 言葉の音韻や内在律を楽しむ
読み 音読・朗読・群読する
ビジュアルの詩 視覚的な情報からもの・こと
を図化して楽しむ読み 図とその解説文を書く イメージの詩 もの・ことの見立てを見える
ように描き出す読み 絵と解釈を交流する ストーリーの詩
潜 在 す る 語 り や 時 間・ 空 間・
心情や様子などの物語を連想 する読み
物語に翻案する
(その逆も)
エッセイの詩
潜在する時間・空間・エピソー ドや気持ちを経験から想起す る読み
エッセイに翻案する
(その逆も)
テーマの詩 暗示(明示)されたメッセー ジを捉えて考えを作る読み
テーマを巡るレビューや 討論
話し合いで行われた読み(言語活動)と、古閑の分類を照合すると、「かなしみ」
の詩は、「透明な過去の駅」が想像性、空想性を持つため、イメージの詩。「語りや 時間・空間などの物語を連想する読み」が生じることからストーリーの詩と捉えら れる。
詩のイメージや連想されるストーリーをしっかり持たせ、交流し、その上で課題 に臨ませることにより、詩的機能が駆動するような言語活動になった可能性がある。
Mは作者の背景から物語を連想し、ストーリーの詩として詩を読んだ可能性がある。
12、空所と「異化の世界」
Tは、「遺失物係」について、「北川幸比古・父」という作者の背景を踏まえた読 みから、「思春期の自分が、客観的に自分の人生を省みて、自分の人生を悲しんで いる」といった、再帰的な読みに変化させる。その中で、「自分自身」と詩のイメー ジを変化させていく。
足立悦男は、「話者論のひらく詩の教室」*15で、作者と話者と主人公を区別する
必要性を述べている。Tの読みは、「詩は作者の表現である」という国語科教育で常 識とされてきた読みから逸れることはなかったが、Tに「話者」の認識を持たせる ことになった。それに伴い、詩の読みに視点が導入され、足立の言う「視点の転換」(外 の目から内の目へ)が生まれ、「思春期の自分の視点」で感じたことを思春期に語 るというように、読みを広げることになったと考えられる。「なぜ余計に悲しくなっ てしまったのか」という問いは、客観的に自らを振り返ったときに「余計に」とい う心境になったのだと、遺失物係や作品の「視点の転換」を促すものとして機能し ている。
遺失物係を自分とする中で導かれた、「透明な過去の駅」に関する話し合いからは、
Tにより「自らの人生は何もない素朴なものだという悟り」という解釈がなされる。
想像的な読みが可能ならば、「悟り」という言葉から、想定される作者との対話が 生じる可能性がある。「透明な過去の駅」は、作品の「異化の世界」を意識させる 空所の働きを持つと共に、「読みの交流を促す「問い」の要件」のe「テクストの本 質への着目」を充足させる発問として機能する。それにより、話し合いは活性化す ると期待できる。
つまり、足立の言葉を借りるならば、「遺失物係」は「作者(話者)の位置・視点・
視角を意識づける段階」の問いである。また、「話者」の位置や視点を意識づける ことにより、「透明な過去の駅」という作品の「異化の空間」を意識づけ、要点駆 動の読みが行われるといえよう。
また、児玉忠は、読解・鑑賞と創作を関連させるため、①視点や語り②発想や認識、
といった二つの観点を示している。さらに、読解や鑑賞に用いる文型として、詩の 内包する「矛盾・不安定・欠落(欠損)・未完成・謎・未解決」といった要素を「発 想や認識」を活用する文型として取り出すべきだとして、以下のように述べている。
「これらはどれも、表現として不確かなものであり、かつ表現として自立してい ないものばかりである。また、これらは文学の読みの理論などでよく知られている
「空所」や「空白」などの概念・用語に通底するものであるが、創作上の概念・用 語として一般化しているものはさしあたり存在しない。そもそも詩を生み出す発想・
認識は詩人それぞれの個性とふかく結びついており、性急な一般化・方法化は危険 である。しかし、こうした要素こそが、創作において虚構世界の生成をうながすの
である。」*16
以上から、「透明な過去の駅」は、散文の読みでの「空所」に当たるといえよう。
空所は発問となり得、要点駆動の読みを可能にする。「透明な過去の駅」を学習課 題にすることは、e「テクストの本質への着目」を促し、作者との対話を可能にす るテクストの勘所を押さえることになる。「透明な過去の駅」と「余計に悲しくなっ てしまった」の二つを組み合わせることで、詩の読みの交流は魅力的な虚構世界を 味わうものとして活性化するだろう。
13、まとめ
詩の学習において「読みの交流」活動を行う際には、交流の散文的性質を念頭に 入れて学習活動を組む必要がある。今回の検証から、次のことが明らかになった。
① 詩の「読みの交流」活動では、まず初めに詩の世界をしっかり想像させること。
② 交流においては、状況の文脈を配慮すること。
③ テーマを巡る討論では、視点の転換を生む「話者」に関する発問と、異化の空 間に誘う「空所」に関する発問を併せて提示することで、韻文としての読みを形成 させることができる。
④ 空所は、詩の持つ異化の空間に誘う役割を果たし、表現意図に思いを馳せ、テ クストの本質に着目する学習に繋げる事ができる。
⑤ 異化の世界を表す作品の空所は、詩の魅力を引き出し、創造的な読みを促す。
⑥ 交流を促す「問い」の要件e「テクストの本質への着目」は、想定される話者 との対話を可能にするようなテクストの勘所にかかわるものである。要件eを充足 させた発問は、話者との対話により、詩が表現しようとしている中心思想や、詩人 の表現しようとした中心的な観念を感じとり、創造的な詩の世界を見いだすことに つながる。
今後の課題
詩『かなしみ』の「読みの交流」における学習課題として、空所「透明な過去の 駅」に関する問いが有効であると考えられる。空所を学習課題にすることで、詩の 持つ異化の空間に誘われ、その結果「余計に」と表現された意図に思いを馳せ、テ
クストの本質に着目する学習に繋げる事ができる。
詩という文学作品が、わかるもの、理解するものではないことからも、異化の世 界を表す作品の空所が詩の魅力を引き出し、創造的な読みを促すものとなるであろ う。
今後は、授業としての詩の「読みの交流」の場を設け、今回確認された学習課題 の検証を行いたい。また「話者」に関する課題を併せて提示し、「視点の転換」と「異 化の世界」の関係から、テーマの詩としての読みの可能性を検討したい。
【註釈】
*1 松本修「読みの交流を促す「問い」の条件」,『臨床教科教育学会誌』,第10巻第 1号,臨床教科教育学会,2010.5,pp.75-82
*2 桃原千英子「入れ子構造をもつ文学教材における読みの学習―目取真俊「ブラ ジルおじいの酒」における読みの交流―」,『月刊国語教育研究』№465,日本国語 教育学会編,2011.1,pp.58-65
*3 『光村図書版教科書 国語1「はじめての詩」 著者 荒川洋治氏 教育講演会』
演題「文学と世界」~詩歌、小説をもとに、名作の世界を語る~
開催:平成27年2月6日(金)
主催:那覇地区中学校国語教育研究会
*4 谷川俊太郎・竹内敏晴・稲垣忠彦・佐藤学・国語教育を学ぶ会『子どもが生き ることばが生きる詩の授業-国土社の教育選書18』,国土社,1988.6,pp.39-41
(引用は、「詩を「わかろう」とすることの問題性」より)
*5 野村眞木夫『日本語のテクスト-関係・効果・様相-』,ひつじ書房,2000.11
*6 野村眞木夫 前掲書,pp.25-26
*7 谷川俊太郎『自選谷川俊太郎詩集』,岩波書店,2013.1,p.16
『二十億光年の孤独』(創元社,1952)所収。「かなしみ」1950.3.3とある。
*8 松本修「国語科教育研究における話し合いプロトコルの質的三層分析」,『臨床 教科教育学会誌』,第3巻第1号,臨床教科教育学会,2004.6,pp.74-82
質的三層分析とは、形式的特徴・発話機能・意味内容の三つの側面からプロトコ ルを分析し、質的分析の客観性を担保する方法を指す。
*9 レリバント(relevant)は、本来的な特性としてではなく、環境の中(ここで
は話し合いのグループ)において人間が選択と解釈によって担う人間関係上の役割・
位置を指す。レリバントは個人が担う役割・位置を指し、概念としてはレリバンス
(relevance)。関連性であると同時にその人の役割やその人の存在意義のような側 面を持つ。以下参照。
ナタンソン(Natanson,M.)編 渡部光他訳,『アルフレッド・シュッツ著作集 第
Ⅰ巻 社会的現実の問題〔Ⅰ〕』,マルジュ社,1983,pp.51-52
西坂仰,『自己と「語り」の社会学-構築主義的展開-』,世界思想社,2000.9
*10 山元隆春「詩的経験の成立をめざす詩の学習-英国の中等学校における実践を 中心に-」,論叢国語教育学4,1996,p.4
*11 松本修「まど・みちおの詩を読む-生きる証としての読みとその交流-」, Groupe Bricolage紀要,No.22,2004.12,p.20
*12 桃原千英子 前掲書
*13 田近洵一『国語教育の再生と創造-21世紀へ発信する17の提言-』,教育出版,
p.144
*14 古閑晶子「詩的読みを形成する詩の学習過程デザイン研究―詩ジャンルによる 再考―」,第126回全国大学国語教育学会名古屋大会,自由研究発表資料,2014.5,p.4
*15 足立悦男「話者論のひらく詩の教室」,田近洵一編『国語教育の再生と創造-
21世紀へ発信する17の提言-』,教育出版,1996.2,pp.142-155
*16 児玉忠「詩の学習指導における読解・鑑賞と創作との関連-「視点や語り」・
「発想や認識」に注目して-」,『月刊国語教育研究』No.484,日本国語教育学会編,
2012.8,pp.24-31
【資料1】話し合いの概要
話し合いは、主に、下記の10の話題からなる。
(1)全体の感想
①詩を読む指示。発問の提示。 (1・2M)
②司会の挨拶(3S)
③全体の感想を求める(5S)
④「青」から中・高生の話と捉える(6M)
⑤定型詩が好きだが、自由詩もいいものだ(13・15T)
⑥最近の出来事より共感した。 「悲しくなってしまった」に言及。 (17S)
⑦教えてもらいたい(20M)
(2)発問「なぜ余計に悲しくなってしまったのか」
⑧詩人の本をもとに、生と死を主題にした詩(50T)
⑨普通の生活をしてこれなかったことを落とし物とし、空虚な人生を悲しみとして いる(63T)
⑩詩は詩人の生き方に深く関わってくると言っている(74T)
⑪遺失物係の前に立った瞬間、落としてきたことに気付き悲しくなる(85S)
(3)新たな部分テクスト「らしい」の提示
⑫「らしい」とは、自分で知っているのか?(102M)
⑬普段は気付かないが、 他人の目線で考え直すと、 欠如を実感するという意味。 (105T)
⑭「らしい」が引っかかる。谷川の視点の表れ。 (111S)
(4)新たな部分テクスト「遺失物係」の提示 ⑮なぜ遺失物係の前に立つと悲しくなるのか(118M)
⑯誰か身近に自分の遅れなかった人生を送った人がいるのか。それが遺失物係。
(124T)
⑰詩を書くのを勧めた北川幸比古か。 (137T・142T)
⑱何か落としてきてしまったものを幸比古が持っていると言うことか?(146M)
(5)視点の導入
⑲谷川が自分を客観的に見ているのであれば、何かを取ったのではなく、羨ましがっ ている(160S)
(6) 「遺失物係」の意味の提示 ⑳遺失物係は預かる係である(165M)
遺失物係の前に立たなかったらどうしてたのか。もともと悲しかった。 (177S)
余計に悲しくなった。とりあえず悲しい(178M・180M)
(7)新たな部分テクスト「しまった」と視点 「しまった」が二回使われている。 (187S)
遺失物係は自分自身(190T)
遠くから自分を見ている感じ(194S)
(8)新たな部分テクスト「透明」の提示
「透明な駅で」と言っていることから、過去を振り返っている。 (198S)
透明なのに分かるのはおかしい(201M)
自分の人生で取り立てて述べることが無いことを透明と言っている。 (215T)
自問自答だけではない(236S)
自分の事なのに他人事のように言っている。客観視(240T)
嫌だけどやっておけば良かったという相反する感情。作者の高校時代の話より。
(276T)
遺失物の管理には期限があり、廃棄される。もう自分では取り戻せない。 (293T・
295T)
(9)視点「客観視」の提示
客観視しているのは今ではないのか?(350M)
詩集出版の経緯より、17 ~ 19の時。 (353M)
「あの青い空の」と言っているので、 遠くの方を見て言っているように感じる(356M)
遺失物係は頭の中の自分で、僕だけど僕じゃない僕と対峙していると悲しくなる。
(371T)
山田さんが、この詩には他者が一切出てこないと言っているので、自分で他者的 な僕を作っている。 (385・387T)
大人になったときに振り返って、青春時代を過去と言っている。まさか青春真っ 盛りの今、過去と言っていると思わなかった。 (424M)
過去を振り返っている感じ(427S)
(10)象徴とテーマ・矛盾点の提示 駅は人生の分岐点(466T)
矛盾がテーマか(481M)
自分の心を声にしているので、谷川は僕。前半は客観的だが、後半は主観的。空 白が無意味と思えない。だから矛盾しているように思う。 (517・520・523T・
526T)
他に登場人物が居ないから、遺失物係は僕(543T)
「あの」は近いけど手に入らないものという意味。 (558T)
詩のできた日。 (568・570T)
自分自身を客観的に見て、自分自身という一つ仮想の自分を作り上げ、第二の人
生を想像して、悲しみという詩を書いた。 (593S:まとめ)
【資料2】発話プロトコル
1 M えっと::配った資料の『悲しみ』と いうえっと六行の詩、をえっと、について 話し合いをしたいと思うので三十秒ぐらい で、ぜひ読んでみてください。
2 M じゃあ大丈夫、かな?で、えと今日は 六行目、僕は余計に悲しくなってしまっ た。ってあるんですけど、なぜ、僕は余計 に悲しくなってしまったのか。を発問にえ と話し合いをしたいと思います。
3 S はい、それでは司会を務めさせていた だきます S です。え::今回の議題として、
発問、僕は、なぜ僕は余計に悲しくなって しまったのか?という発問をもとに::今 回話し合いを行っていきたいと思います。
4 M はい
5 S え::今回早速なんですけどちょっと 話し合いをする前にちょっと全体の感想と いうか『悲しみ』を読んでの感想をちょっ と、ちょっと僕も(.)周りの人もみんなはっ きりとはわからないと思うのでちょっと二 人にお伺いしたいです。M さんどう感じま したか。
6 M ん::(3)これってなんか中学生と か高校生の頃の話なのかな::?と思って なんか青いってあるさ?、なんかそれが青 春っぽいな::と思って::、ね?アハハ ハ、T は?
7 T 一緒だと、
8 T あ::ん。
9 T だけどなんか、もともと?
10 M うん
11 T 口語自由詩が嫌いで 12 M うん
13 T 定型詩が一番いいと思ってたから、
14 M う::ん
15 T なんか意外と::こういうの読んで結 構、良いのかなって思いました。
16 M ああ。
17 S 僕も似たような感じなんですけど、(で すね)、悲しみ、最近色々あって悲しみと
いうものにちょっと僕も共感をしてしまっ て、まあ今回の議題とはやっぱ違うんです けど何かとんでもない落とし物を僕はして きてしまったらしいというところによく、
まあ、非常にかん、感動という訳ではな いんですけど、ちょっと共感をしました。
じゃあちょっと戻りますね。で、なぜ僕は 余計に悲しくなってしまったのか、余計に 悲しくなってしまった。というような言い 方、これはなってしまったというもう、過 ぎたような、やってしまったような、もう そういう印象をちょっと今受けたんですけ ども::そうですねちょっと余計に悲しく なってしまったという部分でこれは、今回 発問のまあ、中に含めちゃう、M さんえ::
今回なぜここを、え::議題として取り上 げたのかちょっと聞きたいですけれども 18 M なんでやろうね::、何で余計に悲し
くなってしまったのかが分からん、くて 19 S うん
20 M T とか S に、教えてもらおっかな::
と T はなんで悲しくなったと?
21 T ん::// なんか。
22 M // 余計に
23 T この::この詩自体が 17 歳から 19 歳 までの大学ノート三冊分に
24 M うん
25 T この谷川が書いた::
26 M うん
27 T 詩というものを 50 個、選んで、出し たらしくて::この人なんだっけ(3)
28 S へえ::大学ノートにか
29 T 大学ノートにそう大学ノートにそう三 冊書き溜めて、なんかこの人学校めっちゃ 嫌いらしくて
30 S 笑い 31 T 高校もやっと 32 M え::
33 T 19 歳でやっと卒業して 34 全員 (笑)
35 T 大学もいかずになんかプラプラプラプ ラしてて
36 M 楽しそう 37 S 楽しそうって
38 T お父さんにお前将来どうすんの?って 聞かれて僕は今こうゆうことをやっていま すっていう感じで出したのがこのノートら しくてお父さんもすごい感動して、これは いいみたいな感じで
39 M ん::
40 T 有名な詩人、誰だっけ、なんか有名な 詩人、三好たつ
41 M うん
42 T はる?に送ったら、良いじゃん良いじゃ んみたいな感じで詩人になったらしいんだ けど::
43 S あ::
44 T 山田、さん?山田さんが 45 M (笑)
46 T この詩は銀河鉄道の夜っていうこの宮 沢健二の作品の影響をすごい受けてるらし くて
47 M うん
48 T なんか人はいつ . か死ぬと知った少年 が宇宙に一人ぼっちの中挑むように(見つ めた)日常を不思議な明るさに包まれてい る。って言ってて、// なんか生と死を 49 M // 壮大やね。
50 T 生と死をね::テーマにしてるのかな::
51 M そっか 52 T てな感じで 53 M ん
54 T 思って::で思春期の時ってなんか結 構アンビバレントな感情 // の中で 55 M // アンビバレント
56 T わかる?アンビバレントあの 57 M 両価性ね
58 T そうそうそう、倫理でやったやつ。結 構なんかハリネズミのジレンマとかあるさ 59 M (笑)
60 T でもそういう感じでー多分この、青、
あの青い空の波の音っていうのは多分青、
ってイメージから青春なのかな::と //
思って
61 M // う::ん。
62 M それはおれも思う .// 青春っぽい 63 T // 青春時代をこういうふうに言ってて
青春時代の自分の中で学校に普通に通うと か、勉強するとか、友達と遊ぶとかそうい う普通の生活を // してこれなかったって いうことをなんか //.とんでもない落と し物って言ってて、なんかそれが無いから 自分の人生とっても空虚・みたいない 64 M // うん
65 M // あ::そっか 66 S あ::
67 S ん::
68 M あ::わかるよ、ふりかえるみってこ とか
69 T そうそうそうそう
70 T なんかいつ死ぬかなって考えて自分の 人生振り返った時になんか何もないな透明 な感じだなって思って悲しみだったのかな みたいな、そう、そんな感じ、
71 M あはははは 72 S あ::へ::
73 M なるほど、何も言えないな::
74 T なんか人生が、人生関わってくるって 自分でもいってるらしくて . なんか一つの 詩はその詩を作った詩人の生き方に深く関 わってるものだって言ってるから、人生関 わってるのかなみたいな
75 M うんうん
76 M なるほど、谷川俊太郎の、人生なのか 77 T たぶん
78 M へ::
79 S ( )
80 T 現段階で振り返ってみたら、空虚なの かな
81 S 青春時代に自分フォーカスを当てて るってそういうふうに視点を保って時代が なかったものから僕はしてきてしまったら しいって後悔していてるようなですかね 82 T そうだね
83 T なんか一応、学校はほんとうに嫌いら しんだけど、大きくなってからのも教材批
判.学校批判.教師批判をやっててほんと に嫌いだとと思うんだけど、思春期で揺れ 動く自我の中で普通の人生の成功もあった のかな
84 M お::、なるほどね、S は?
85 S そうだね::、ん::、まぁ、自分自 身のこの経験になってきてからこの悲し みっていう題名がね、非常に、まぁプラ イベートのことであったのでそこに対して 青いていう部分も青春というかまぁ大学 生活ですけど青春真っ盛りなのかなとい う、まぁ来年、再来年、社会人ですけど、
で、そうだね、今またちょっと T の話し と M の話を聞いてちょっと思ったんですけ ど、まぁ今さっきも言ったんですけど僕は してきてしまったという後悔をしているよ うな.まぁ話を戻しますけどなぜ僕は余計 に悲しくなってしまったでこの悲しくなっ てしまった時っていうのは遺失物係の前に 立ったら悲しくなってしまったていう悲し くなってしまった原因は、何かこうそう遺 失物係の人まぁ僕の中の頭の中の想像なん ですけど、遺失物係の人っていうか人物像 というのが車掌さんみたいなイメージなっ たんですけど、そういうのが人の前に立っ た瞬間にさまざまなものを落としてきてし まったんだなって今さっき T が言ってくれ た青春時代というものを落とした、そこで 例えば勉強に関しても遊びに関しても全部 落としてきてしまった瞬間に悲しくなって しまったていうような、まぁちょっと抽象 的すぎる答えになっちゃったんですけど 86 M なるほど、あっじゃあさぁ、なんか僕
は何かとんでもない落し物をしてきてし まったらしいさこれって、僕って、何を落 としたかって分かってるのかな?
87 T 自分でも分かってるんじゃないかな.
お父さんに言われるぐらいだし 88 M お父さんにいわれるの?
89 T お前何ふらふらしてるのみたいな 90 M あー、谷川俊太郎がお父さんにか 91 T 自分でもなんか結構教師に反抗してた
みたいだから.学校の好きじゃなかったの かな
92 M あじゃあこの何かとんでもない落し 物っていうのは.学校ぽい/のってこと 93 T そう、学校てか学校でしかできないこ
と勉強もそうだし友達作ったり
94 M あー部活したりとか、それが落し物な のか
95 T それとかあれだ人生設計とか学校にい る間に将来の夢とか決めたりするかもしれ ないけど、この人なんか何にもないみたい だから、なんかそういう人生設計とかも落 としてきたのかな::みたいな
96 M あははははは 97 T 人生設計の機会とかも 98 M を、落としてきたのか
99 S ふらふらして何もしてなかったのか な?
100 T 一応詩を書いてたんだけど、それ以外 は.なんか書いてない
101 S あ::、そうなんだ
102 M でもさ::僕はしてきてしまったらし いさ . またまた登場この『故郷』の「らしい」
と一緒のなんやけど.「らしい」け.なん か知ってるのかな::
103 T だいぶ醒めてる、客観的と言うか。
104 M あ::落し物してるけど、何を落とし たのか知ってるけど、知らないぱ::して るってこと?僕はしてきてしまったらし いって
105 T 何だろな、普段は気づかないんだけど、
普段はそんなこと思いもよらないんだけ ど::、一回なんか他人の目線に立ってみ て自分の生き方を考え直すと::、なんか 私って何か欠如してないみたいな 106 M ほほほ
107 T だいぶ欠如してると思うけど 108 M S は分かってると思う?
109 S (まあ一応)らしいっていうこの言い方 がすごく引っかかったんだよね、なんか T も客観的に見たっていうちょっと思いつか なくて、僕はしてきてしまったらしいって
言うのは::なんだろうな::あの::分 からないような自分の中では分かるのか分 からないのか.分からないような印象を受 けてしまって::
110 M あもう何が何だか
111 S そう、何を落としたのかなっていうよ うな、まあ、最初読んだ時なんけど、客観 的に見て.こう思ったっていう谷川の視 点っていうのもあるんだろうな
112 M んー、あっ T の聞いて思ったのか 113 S そうそう
114 T 舞姫的な、舞姫的な 115 S あ::は::
116 T 後から自分を振り返ってみる 117 M あーなるほどね.石炭をば早や積み果
てつ(5)なるほど
118 M じゃあなんで.遺失物係の前に立った ら余計に悲しくなるの
119 T なんかあれじゃん、本当はやってみた かった、教師に反抗さえしなければ普通の 人生を送ってたと思うし、嫌いだけど、嫌 いだけど::、そういう人生も送ってみた かったな::みたいな
120 M ほ::、なるほど。じゃあ遺失物係は?
121 T 遺失物係、何だろうねこれ::
122 S 遺失物係、さっきちらっと調べてみた ら落とし物係
123 M んーんね、だはずね
124 T だれか身近にいるのかな、自分が送っ てこなかった人生を送った人みたいな 125 M それが遺失物係なの?
126 T かもしれないし 127 M え::
128 T 他の人に自分の::何だろ.何かを見 いだしてみたいな(兄弟いるのかな)【本 を見る】
129 M = あ::そっか 130 T 一人っ子なんだ 131 S 一人っ子?=
132 M =一人っ子。
133 S (1)ふーん。
134 T (4)(なんか)友達とかかな?
135 M 遺失物係?
136 S 遺失物係。
137 T うん、北川幸比古ってやつかも。// 友 達。
138 M //(笑い)
139 S // 北、北川幸比古?
140 T 幸比古。
141 S 幸比古。
142 T その人が元々詩を書くのを勧めたみた い
143 S あ::
144 M (2)その人が(.)遺失物係なの?=
145 T = か:: も し れ な い。 他 の 人 を 見 て、
ああ自分もこういう人生送ってみたかった
(か) (.)のかな::みたいな。
146 M はあ(.)じゃあ、僕が、何か落とし てきてしまった、物を(1)その人持って る ってこと?
147 T たぶん。(互角::に:://)
148 M //この僕のを?
149 T たぶん。
150 M え::取ったんや。
151 T 取った訳じゃない(んだと)思うんだ けど、(1)取ったのかな?
152 M (1)そりゃ悲しいね::。
153 S (1)う::ん。
154 S ( 2) でも.どうなんだろうね.何か::、
(2)客観的に見たって言うんだったら=
155 M =うん。
156 S 谷川俊太郎が自分を客観的に見てって いうのであれば=
157 M =うん。
158 S 何か取ったっていうような.感じでは なくて=
159 M =うん。=
160 S =羨ましがってるような 161 M (1)う::ん。=
162 S =感じなのかな、っていう。
163 M でも、遺失物係だよ。落とし物係よね?
164 T うん、うん、//うん。
165 M //預かっとんのやろ?
166 T (笑い)預かってる//のかな?誰が預