生態的デザイン手法を用いたサインシステムの研究
ーダイナミックサインの提案ー
A Research on the Sign System using Ecological Design Method -Proposal of Dynamic Sign-
5115E005-4 大石 諸兄 指導教員 長 幾朗 教授 OISHI
Moroe Prof. CHOH Ikuro概要: 情報デザインにおいてデザインを人間中心のアプローチから設計するだけではなく、扱う事象の存在す る環境の面から設計していく必要があると捉え、状況という人間と環境の両側面からのデザイン手法に主眼を置 いた研究である。本研究における前段階では、メディアの様態から情報の形を定義するのではなく、現実に存在 している情報の形からメディアの形を落とし込むという手段を用いて定義した。[1]情報からメディアの様態をデ ザインするという環境中心のアプローチであり、状況の形をなるべく崩さない直喩的なデザインをされたものは 人間にとっても使いやすいという考えである。これは人間も環境の一部であるからという捉え方から来ている。
だが、一部の機能でうまくユーザーに取得されなかった情報があった。地域、気候、生態などの風土から形成さ れる文化といった環境に含まれない人間特有の側面があり、それら両方について対応する生態的デザインという 手法を考え、最も日常的に必要とされている情報構成であるサイン(標識)についての応用を図り、ダイナミックサ インを提案する。
キーワード:情報デザイン、人間中心、生態的デザイン
Keywords: Information Design, Human centered, Ecological Design
1.環境中心のアプローチ
先行研究では、情報を媒介するメディアが既 存の情報伝達手法の主要なものの一つである文 字情報から考えられて発展しており、文字自身 が平面で構成されたものであるがゆえ、メディ アも平面で構成されたもの主流となっていた。
けれども、本来人間が認識する情報というもの は空間の中に存在している。空間に存在してい る情報がメディアを通して表現される際、平面 に変換されて伝達されることにある。平面に置 き換えた情報が人間にとって真にわかりやす い、使いやすいメディアであるのかという問い からメディアの形に合わせて情報の形を考える のではなく、情報が本来の実空間で存在してい る形をなるべく壊さないようにメディアの形を 作り出せればより使いやすい情報提示が可能に なるのではないかと考えた。
情報デザインにとって扱われる側の情報と扱 う側の人間がいる。いわば情報は人間にとって 外側に存在している対象であり、環境である。
先行研究で行ったデザイン手法は環境中心の設 計と言える。この環境中心のデザインから作ら れたGroundariumの機能は大方情報取得につい て高い取得率を実現したが、一部、距離感につ いてはうまく機能しなかった。実際の目的地ま での大きさのみで表現したことが起因している
と考えられる。人間の日常の中で距離の提示は 数値データによるものが多く、人間が実際に距 離感を捉える際にも数値データが判断基準の大 きな要素となっている。距離判断におけるユー ザーのメンタルモデルは数字から情報を取得す るということが始めにあり、本研究の先行研究 であるGroundariumでは距離感の取得の入り口 が物体の大きさであったためにユーザーの中で うまく機能しなかったと判断した。
情報の実空間のあり方のみから情報表現を考 えたが、人間の普段の文化や規定から使いやす さを考える必要がある。
2.デザイン手法の考察
先行研究で用いたデザインの考え方を再確認 し、その視点に組み込まれていない視点から生 じた問題点への解決策を模索した。デザイン手 法を確認して、それを踏まえ人と環境と自然の 関係性を示し、そこから良いデザインを作り出 していく手法を考えた。
使いやすい人に寄り添った良いデザインとい うものをD.Aノーマンの「誰のためのデザイ ン」から定義し、人間中心設計というデザイン 手法を考察することで情報デザインについてど のようにデザインをしていけばいいかを考え た。人間中心設計で情報デザインをすると、快 1
2 適なツールを使ってデザインするという点につ いて、人間が日常的に使用してユーザーの中に 経験が蓄積されている情報メディアが最も負担 なく導入されやすいものになるだろう。しか し、それでは平面構成という根本的な部分は変 更されず、既存のメディア上の表現の改善とい うデザインに陥ってしまいメディアの構造は変 わらない。それでは本当に良いデザインとはな らない。扱われる情報に着目することで平面で は対応しづらい情報表現に、より適した自然な 対応づけを作り出せる。情報デザインとは人の ためでもあるが、それと共に情報のためを考え ていく必要がある。情報という環境中心の考え 方で情報をデザインすると感覚的で直感的な情 報取得を可能にする一方、人間の情報の捉え方 の規定などを無視してしまうことになり、結果 として人間が規定した数値データから情報を読 み取るといった行動にデザインが即さず、距離 の情報取得に困難を生じさせてしまう。
よって人間中心設計と環境中心設計の両方の 側面からデザインをしていく必要がある。
3.生態的デザイン
本論文で扱う生態的デザインにおける生態の 定義は以下の通りである。
1)人間と、その人間を取り巻く環境をさす。
2)人間は環境の一部(第一の自然)であるが、同 時に人間の理性や思考、それらが生み出す独自 の文化(第二の自然)は環境の外である。
人間のための理想のデザインには、自然、環 境としての人間と文化や倫理といった側面を持 つ人間への対応を考えて、その両方を取りこぼ さないようにデザインを行う必要がある。この 考え方を新しい人間中心設計と考え、生態的デ ザイン、ecological designと呼ぶ。つまり、人 間と環境の両側面からのデザインアプローチで ある。具体例として建築をあげてみても、人間 に対してデザインするということは、人間固有 の要素に対してデザインすることと、人間が環 境の一部としてあることで環境に対してもデザ インすることの必要性がある。
4.新しい空間的サインの提案
ここまでで述べた理論の実現性を考察し、先 行研究で提案したサインシステムを改良した新 し い ” G r o u n d a r i u m ” を 提 案 、 設 計 し た 。 Groundariumはドーム状のディスプレイで表示
され、表示される情報は実際の景色を模してあ る。情報デザインにおいての対象である情報と その情報を扱う人間の2つの側面に思考を広げ てUIを設計した。情報の状況の形をなるべく崩 さない直喩的なデザインになるように平面構成 のメディア様態ではなく、360度全方位を表現 できる円環状とした。メディア上でも方角や出 口の名前といった概念情報以外はなるべく文字 表現を排除して本来情報がある姿を崩さないよ うデザインした。また、提示する情報のうち人 間の文化が関わってくる情報である距離感につ いては、数値データから情報を取得するという ユーザーの距離判断におけるメンタルモデル と、ユーザーの目的地にたどり着くという目的 達成のための材料となる要素を複合して所要時 間を表示した。
5.結論
結果から生態系のデザイン手法を用いた新し い「Groundarium」のサインシステムとしての 有効性は示された。距離感の情報取得率はネガ ティブな意見がなくなり、改善が施された。直 感的で感覚な情報提示手法はユーザーにとって 使いやすいデザインになるが、情報に着目する だけでは対応できない部分もあることを考慮に 入れて、対応しきれない人間の文化といった側 面にも思考を巡らし、デザインへと対応させる ことの有効性が示された。
参考文献:
[1]大石諸兄『空間的な情報提示手法を用いたサインシステムの研 究』(2015)
1) ロバート ヤコブソン著 篠原 稔和, 食野 雅子 訳『情報デザイン原 論 「ものごと」を形にするテンプレート』pp11-12(2004) 2) 情報デザインフォーラム『情報デザインの教室 仕事を変える、
社会を変える、これからのデザインアプローチと手法』pp6-7(2010) 3) 山崎和彦, 松原幸行, 竹内公啓『人間中心設計入門』p38(2016) 4 ) D . A . ノ ー マ ン 著 野 島 久 雄 訳 『 誰 の た め の デ ザイ ン 』 pp308-309(1990)
図1 「Groundarium」のイメージ