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表 1 情報種 - 何を知りたいか 情報種 光で見た形状 赤外光で見た形状 電子で見た形状 紫外光で見た形状 形を重視 イオンで見た形状 可視光で見た形状 形状 X 線で見た形状 大きさを重視 超音波で見た形状 SPM で見た形状 全成分 定性 平均 特定成分多量成分に注目するか 成分 半定量 分布

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表面・界面分析概論

および

電子プローブX線マイクロアナライザと走査電子顕微鏡

(EPMA/SEM-EDX)

島津製作所 副島啓義

Ⅰ.表面・界面分析概論

1.はじめに [表面分析][界面分析][微小部分析]とは目的を表した言い方であり、方法を表した言い方では ない。したがって、方法は幾らでもあり得る。分類の仕方にもよるが、150種以上はある。主要な 手法だけでも30 種はゆうに越すであろう。それらの原理構成を羅列的に記述しても、あるいは覚え てもあまり役には立たない。 電子、イオン、中性原子・分子、X線や各種電磁波を試料に照射すると、それらは試料により散乱・ 吸収を受ける。また、試料が励起されて、試料から電子、イオン、中性原子・分子、X線や各種電 磁波が発生することがある。これらの散乱・吸収の様子や信号発生から試料の様々な情報を得るこ とが出来る。試料表面のμm∼nm領域の解析には、電子、イオン、X線を組み合わせた手法が多 い。したがって、電子やイオン、X線の振る舞いを理解することが、分析目的に対する適した表面 分析法・微小部分析法の理解と選択に肝要である。 なお、原理から予想される基本性能や得意不得意も大切であるが、実際の利用にあたっては装置の 完成度や蓄積されたノウハウの質・量、分析コストも重要な判断項目である。 2.何を知りたいのか よくある要求は ・これは何だろう?どうなっているのだろう ・どんな形・色をして・どんな成分で出来ているか ・元素の結合状態は?化学状態・電子状態は? ・ある程度微小部の情報と全体的情報の両方知りたい ・大きな試料、汚れた試料もそのまま分析できないか などである。分析の立場からまとめると表1となる。項目を大別すると、形状観察、成分分析、構 造解析あるいは状態分析、となる。この表において、例えば形状観察では、肉眼と可視光顕微鏡に 対して、他の顕微鏡は単に分解能が異なるだけではない。具体例で言えば、1000 倍のSEM像と 1000 倍の可視光顕微鏡像が同じ形状を示すとは限らない。可視光と物質との相互作用と電子と物質との 相互作用が異なるので形状に違いが出ても不思議ではない。したがって顕微鏡を選ぶとき分解能だ けで判断すべきではない。また、成分分析では、特定の微量元素の検出と全成分を満遍なく検出す るのとでは目的も手法も異なるので、高感度分析法が良い定性分析法とは限らない。高感度・高分 解能は分析装置の永遠の課題ではあるが、分析目的から見た場合は『適当な』感度と分解能も重要 な要素であり、先端的性能と汎用性や間口や底辺の広がりのバランスが分析目的によって異なるこ とも大切な判断要素である。言い換えると、これらの情報をどれくらいの領域に対して、どれくら いの感度と精度で必要か、要するコスト(人、物、時間)と投入できるコストはどうか、などを含 めて『知りたいこと』と『知らなければならないこと』と『知りえること』が決まることとなる。

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手法・装置に対して判断すべきことを列挙すると ①得られる情報の種類:形状・分子配列・原子配列・組成・分布・化学状態・電子状態・ 物理物性など ②検出感度:全元素対応か、特定の元素か。微量検出能力・定量性・必要試料量など (必ずしも高感度が適しているわけではない。定量の単位に注意) ③アウトプット形体:マッピング能力はあるか、必要か ④空間分解能:水平方向・垂直方向 (必ずしも高分解能が適しているわけではない) ⑤どんな試料が分析可能か:試料種・形状・形態・絶縁物・前処理の必要性 ⑥分析環境は?:大気中か、溶液中か、真空中か―真空度は? ⑦手法・装置の完成度:信頼度、自動化・データ解析能力、データベースなど ⑧コスト:装置導入コスト、運転コスト、操作難易度と人件費、所要時間 3.表面分析法の基本原理 図1に示すように、多くの表面分析は電子やイオンあるいはX線などの電磁波と試料との相互作 用を用いている。したがって電子・イオン・X線の振る舞いを理解することにより、表面分析法を 理解することが出来る。 光で見た形状 赤外光で見た形状 電子で見た形状 紫外光で見た形状 形を重視 イオンで見た形状 可視光で見た形状 形状 X線で見た形状 大きさを重視 超音波で見た形状 SPMで見た形状 全成分 定性 平均 特定成分 多量成分に注目するか 成分 半定量 分布 少量成分に注目するか 情報種 微量成分に注目するか 定量 量の単位(重量濃度、モル濃度、原子数、・・・) 精度 結合状態 分子式(化学式) 状態 吸着状態 構造式 電子状態 電位 物理状態 磁区 構造解析 各種物理量(多くの場合解析装置の範疇外) 結晶種 方位 結晶 格子定数(面間隔) 原子間距離 原子配列 ひずみ等 完全度 不純物 光で見た形状 赤外光で見た形状 電子で見た形状 紫外光で見た形状 形を重視 イオンで見た形状 可視光で見た形状 形状 X線で見た形状 大きさを重視 超音波で見た形状 SPMで見た形状 全成分 定性 平均 特定成分 多量成分に注目するか 成分 半定量 分布 少量成分に注目するか 情報種 微量成分に注目するか 定量 量の単位(重量濃度、モル濃度、原子数、・・・) 精度 結合状態 分子式(化学式) 状態 吸着状態 構造式 電子状態 電位 物理状態 磁区 構造解析 各種物理量(多くの場合解析装置の範疇外) 結晶種 方位 結晶 格子定数(面間隔) 原子間距離 原子配列 ひずみ等 完全度 不純物 表1 情報種−何を知りたいか (Soejima)

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3.1.電子・イオン・X線の振る舞い 電子や光子(X 線、光)の固体内での振る舞いを考えるとき[電子は固体内を通過するとき 個数と運動エネルギーの両方が変化(多くの場合、減少・減衰)するが、光子は個数は変化(多く の場合、減少)するがエネルギーは変化しない]という性質を忘れてはいけない。 3.1.1 電子の主な性質と振る舞い ・電子はその発生源が何であろうと電子に変わりはない。陽電子を除外するなら、電子を区別し ているのは唯一運動エネルギーだけである。プローブ電子であろうと多種の信号電子であろう と判別可能なのは個数と運動エネルギーと運動の方向のみである。(重要な性質) ・電子は物質を通過すると個数と運動エネルギーの両方が変化する。(重要な性質) ・物質との衝突において、電子は比較的強い影響を受けるが、多くの場合、物質に対しては非 破壊性である。ただし、電子密度が非常に大きいと総運動エネルギーが大きな熱エネルギー に変わり、物質に熱ダメージを与える。また、特定の有機物に対しては電子衝突自体が構造変 化を引き起こす。 観察・分析に利用している電子と物質の主な相互作用は次である。 ・試料原子と衝突するが、エネルギーを失わないで散乱する。(弾性散乱) ・試料原子と衝突をしてエネルギーを失う。(非弾性散乱、エネルギー損失) ・試料表面凹凸により散乱量が変わる。(形状観察) ・試料組成により散乱量が変わる。(平均組成変化) ・試料の結晶構造の影響を受けて散乱の状態が変わる。(回折) ・試料の結晶の方位によって浸入の様子が変わる。(チャネリング) ・試料原子に吸収されて吸収電流となる。 ・例えば半導体PNジャンクションで電流を発生する。(内部起電流) ・試料から電子を発生させる(二次電子、オージェ電子) 2次変質層 表面処理層 構築層2 構築層1 基盤 形状・組成・原子配列 化学状態・電子状態 電気的特性・機械的特性 電子 イオン・X線 中性原子・分子 赤外線・可視光 紫外線・γ線 電子 イオン・X線 中性原子・分子 赤外線・可視光 紫外線・γ線 2次変質層 表面処理層 構築層2 構築層1 基盤 2次変質層 表面処理層 構築層2 構築層1 基盤 形状・組成・原子配列 化学状態・電子状態 電気的特性・機械的特性 形状・組成・原子配列 化学状態・電子状態 電気的特性・機械的特性 電子 イオン・X線 中性原子・分子 赤外線・可視光 紫外線・γ線 電子 イオン・X線 中性原子・分子 赤外線・可視光 紫外線・γ線 図1 表面の分析法 (Soejima)

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・試料からX線を放出させる。(特性X線→微小部成分分析) ・試料から光子を放出させる。(カソードルミネッセンス) ・試料がある厚さ以下、入射電子エネルギーがある値以上の場合、上記の相互作用の後、試料を 通過する。(透過電子) ・透過電子の中に、オージェ電子や特性X線を発生させた結果の元素固有のエネルギー損失を受 けた電子が含まれる。(EELS) ・試料から原子(イオン)分子を脱離する。 以上の現象の幾つかを図2、図3に示す。 3.1.2 イオンの主な性質と振る舞い ・イオンはそれ自体が元素つまり物質である。 ・中性原子として扱いたいが、中性の場合は電場・磁場に反応せず扱いにくいので便宜上イオ ン化して用いることが少なくない。(注意すべき条件) ・イオンは物質中を通過するとき、電荷変化や運動エネルギー変化(多くの場合、減衰)と個 数変化(多くの場合、減少)を生じるが質量は変化しない。 ・イオンは物質との相互作用が大きく、相手物質の原子をスパッタしたり原子攪拌を起こす、 言い換えると、試料原子を空間に分離放出したり原子レベルの試料破壊を引き起こす。 分析に利用しているイオンと物質の主な相互作用は次である ・試料表面の原子と衝突し散乱する。(イオン散乱→表面原子層解析) ・試料表面の原子と衝突し試料原子をスパッタする。(2次イオン→高感度成分分析) ・試料の結晶の方位によって浸入の様子が 変わる。(チャネリング) ・試料から電子を発生させる。(二次電子、 オージェ電子) ・試料からX線を放出させる。(特性X線 →成分分析) ・試料近傍から光子を放出させる。(プラ ズマ発光) 以上の現象の幾つかを図4に示す。 図2 図3 回折電子 非弾性散乱電子 エネルギー損失電子 弾性散乱電子 透過電子 チャネリング電子 非弾性散乱吸収電子 入射電子 SEM LEED EBSD EELS SEM TEM ECP EPMA 回折電子 回折電子 非弾性散乱電子 エネルギー損失電子 非弾性散乱電子 エネルギー損失電子 エネルギー損失電子 弾性散乱電子 弾性散乱電子 透過電子 透過電子 チャネリング電子 チャネリング電子 非弾性散乱吸収電子 非弾性散乱吸収電子 入射電子 入射電子 SEM LEED EBSD EELS SEM TEM ECP EPMA 入射電子 二次電子 X 線 オージェ電子 カソードルミネッセンス EPMA CL SAM SEM 入射電子 入射電子 二次電子 二次電子 X 線 X 線 オージェ電子 オージェ電子 カソードルミネッセンス カソードルミネッセンス EPMA CL SAM SEM 入射イオン 二次イオン X 線 光 反射イオン 二次電子 チャネリングイオン SIMS RBS ISS SIM PIXE SCANIR ICP 注入イオン 入射イオン 入射イオン 二次イオン 二次イオン 二次イオン X 線 X 線 光 光 反射イオン 反射イオン 二次電子 二次電子 チャネリングイオン チャネリングイオン SIMS RBS ISS SIM PIXE SCANIR ICP 注入イオン 注入イオン 図4 (Soejima) (Soejima) (Soejima)

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3.1.3 X線の主な性質と振る舞い ・X線は波長を持つ波としての振る舞いと、光量子としての個数の性質を常に併せ持つ。 ・X線は物質を通過すると個数は変化(多くの場合、減少)するが、波長(エネルギー)は変化 しない。(重要な性質) ・通常分析に用いられる波長∼0.1nm∼10nm∼、エネルギー∼10keV∼100eV∼のX線の作用深さは 入射角により異なるが、1nm∼数ミクロンであり意外と浅い。 ・物質との衝突において、物質に対してはほとんどの場合非破壊性である。 ・電場・磁場には反応しない ・波長がnm∼サブnmレベルであり、原子間距離と同等なので原子と原子配列の情報を多く持 ち得る。 分析に利用しているX線と物質の主な相互作用は次である ・試料表面近傍の原子および内部の原子 により散乱する。 ・試料原子に作用して光電子を発生させ る。(光電子→表面状態分析) ・試料原子に作用して特性X線を発生さ せる。(特性X線→成分分析) ・試料原子に作用してオージェ電子を発 生させる。(オージェ電子→表面成分 分析) ・試料の原子配列や結晶構造により散乱 の状態が変わる。(回折→結晶種、結晶 化度、配向度、結晶粒子径、格子歪) 以上の現象の幾つかを図5に示す。 3.2 電子・イオン・X線の作用深さ 入射電子・イオン・X線が試料のどこまで侵入し、どこで信号を発生し、どの深さから信号が脱 出するかは、表面・界面・微小部の観察分析では非常に大切なことであり、空間分解能/Spatial Resolving Power と呼ばれている。この言葉は筆者が1979 年に命名し定義したもので[1][2]、正し い意味を次のように定義している。 [微小部の観察あるいは分析を行うとき、試料微小部の本来の形状を正しく表示する能力と、 目的とする分析対象物あるいは領域を近傍の他の対象物あるいは領域から正確に区別して定 性・定量・その他の分析を行うときの精度を保証する能力] 日常的にはそれほど厳密である必要はないが、少なくとも、1次プローブのプローブ径を空間 分解能と言うのは間違いであり、2次元と3次元を区別せずに用いることはすべきでない。 この空間分解能は、多くの場合、定量的に記述することができるが、ここでは概念のみ図6に 示す。図6において、横軸は表面からの距離(深さ)であり、縦軸は実線が電子・イオン・X 線(フォトン)の個数、点線が電子・X線のエネルギーとイオンの質量を示している。横軸に はスケールが入っていないが、一番左が1nm 一番右が 10μm の対数表示という感じである。電 子は1nm∼1μm∼∼領域で個数もエネルギーも減衰し、X線はサブμm∼数μm∼領域で個数が 図5 入射X線 低角入射 低角散乱X線 全反射X線 吸収X線 光電子 蛍光X線 回折X線 吸収X線 二次電子 ESCA(XPS) XRF XRD TR-XRF EXAFS EXAFS XRD 入射X線 入射X線 低角入射 低角入射 低角散乱X線 低角散乱X線 全反射X線 全反射X線 吸収X線 吸収X線 光電子 光電子 蛍光X線 蛍光X線 回折X線 回折X線 吸収X線 吸収X線 二次電子 二次電子 ESCA(XPS) XRF XRD TR-XRF EXAFS EXAFS XRD (Soejima)

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減衰するがエネルギーが変化しない、という具合である。(Ⅲ章に具体的記述を行う) 4.様々な分析法・装置と比較 先にも述べたように非常に多種の手法・装置があるのでそれらを全て概説し、またそれらを比較 することは、よほどの紙面がないかぎり不可能に近い。 多種類の分析法が存在し、必要とする分析目的に対して複数の手法が対応可能と思われるとき、当 然のこととしてどの手法(どの装置)を用いるかの選択が必要となる。そこで、手近にある装置か ら選ぶ、経験者や詳しそうな人に尋ねる、各種表面分析法の比較表を参考にして選ぶ、ということ になる。《幸いにして》比較表は数多く公表されているし、詳しそうな人もかなり居る。しかし、こ れら『比較』は難しい問題を抱えている。しかるべき出版物に掲載されている比較表においても随 所に間違いが見受けられる。間違いが生じる背景の推測は次である。日々進歩する何十種以上の表 面分析法を全て常に満遍なく公平に理解しているのは不可能に近い。そこで、作成者は自分の専門 分野の手法については最新の能力を記述するが、そうでない手法についは他人が以前に作成した比 較表を参考にしたり丸写ししたりせざるを得ない。この結果、引用・転載の繰り返された古い性能 の記述と最新性能の新規記述とが同じ比較表に記載されてしまうことになる。原理から予測される 得意・不得意以外に製造技術や機種・型名からくる性能レベルの違いが合わさるため一層比較を複 雑にしている。 また、非常に技術的に高度な記述にも関わらず大きな間違いをしている比較もある。典型的事例に 軽元素検出感度におけるオージェ電子と特性X線の比較がある。断っておくが、オージェ分析は大 変優れた分析法であり、けっして悪く言う気はないが、専門家でも陥る過ちが、権威有るハンドブ ックに記載されてしまうことすらある、という事例である。よく知られているように電子ビーム照 射によりオージェ電子と特性X線が発生するが、オージェ電子が発生する収率ωA とX線が発生する 収率はωX の間には概略 ωA+ωX =1 の関係がある。軽元素領域ではωA が1に近いことが知 られている。この収率を根拠に軽元素分析ではオージェ電子が高感度でX線は感度が悪い、と記述 している解説書がある。入射電子は固体試料内に侵入拡散し、通常∼1μm程度の深さまでの領域 においてオージェ電子またはX線を発生させる。発生オージェ電子あるいはX線の総量は上記収率 に従う。しかしオージェ電子は試料表面∼2nm程度までの深さで発生したもので、且つ表面方向 に発生しないと脱出しない、つまり検出できない。それに対してX線は全領域で表面方向に発生し 図6 電子・イオン・X線の浸入・脱出 個数とエネルギー変化 イオン数 フォトン数 電子数 質量数 エネルギー エネルギー 最表面 深さ イオン数 フォトン数 電子数 質量数 エネルギー エネルギー 最表面 深さ X線 電子 イオン イオン数 フォトン数 電子数 質量数 エネルギー エネルギー 最表面 深さ イオン数 フォトン数 電子数 質量数 エネルギー エネルギー 最表面 深さ X線 電子 イオン

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たものが脱出する、つまり検出可能である。さらに、オージェ電子は脱出過程でエネルギーロスし、 白色化してバックグランドになるものが少なくないので結果として、さらに信号が減り、S/Nの 悪い検出となる。X線は脱出過程でもエネルギーロスせずS/Nの良い状態が保たれる。検出感度 は総発生量・脱出効率・検出効率・S/Nなどの総合により決まるのであり、固体内での発生量だ けで判断するのは間違いである。オージェ電子分光法は軽元素高感度分析ではなく表面敏感分析で あり、EPMAはμm領域の高感度分析法である。 汎用的に良く用いられるバルク試料用の5種の分析法、EPMA、SEM−EDX、AES、SI MS,XPSについて分析テーマ別に得意・不得意を定性的に示したのが表2である。◎○△×は あくまで参考である。原理上の能力以外に、解析ソフトの充実度や応用データベースの充実度、試 料前処理の容易さなども考慮している。

Ⅱ.電子プローブ

X 線マイクロアナライザと走査電子顕微鏡(EPMA/SEM-EDX)

EPMAやSEMは良く知られているように、細く絞られた電子ビームを固体試料(生体を含む) に照射し、発生する電子[反射電子・吸収電子・2次電子など]と電磁波[X線や光など]などの信号 を用いて、微小部の観察・組成分析(・状態分析)を行う。何の元素が[(Li、Be)―U]、何処 に[(cm)∼mm∼μm∼(nm)]、どのように結合して、何量だけ[(0.0001%)―0.1% ―100%)存在するかを明らかにする分析法・装置である。非常に広い応用分野と実績を有し、 数多くあるマイクロアナライザの中で最も汎用的で中心的役割を果たしている。なお、波長分散形 X線検出器(WDXあるいはWDS)を搭載したEPMAとエネルギー分散形X線検出器(EDX 表2 代表的表面分析法の機能・能力 Soejima EPMA SEM−EDX AES SIMS XPS 光学的な形の観察 ○ (△) (△) (○) (△) 色の判断(可視光顕微鏡) ○ (△) (△) (○) (△) 高倍率(サブミクロン)観察 ○ ◎ ○ (△) X サブミクロン分析 ○ ○ ◎ ○ X 深さ分解能 △ △ ◎ (○) ◎ 水平方向分解能 ○ ○ ◎ ○ △ 大面積分析 ◎ ◎ △ △ ○ 元素をまんべんなく検出 0.1∼100% ◎ ○ 〇 (○) ○ ppm∼100% ○ X X (○) X ppm以下 (△) X X (◎) X 元素を確実に定性判定 高速自動定性 ◎ ○ (△) (△) (△) 精密定性 ◎ X X △ X 定量分析 高速半定量分析 ◎ ○ X X X 精密定量分析 ◎ X △ △ △ 薄層状態分析 △ X △ X ◎ 微小部状態分析 ○ X △ X ○ 同位体分析 X X X ◎ X 大きな試料の分析 ○ ○ △ △ △ 汚れた試料の分析 ○ ○ × X X 絶縁物試料の分析 ○ ○ (△) △ ○

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あるいはEDS)を取り付けたSEM(SEM−EDX)は類似装置であるが、より高分解能観察 力に優れたSEMと、精密な元素分析力とX線スペクトル解析による状態分析力を有したEPMA は区別して取り扱われる。 (EPMAにしろSEMにしろ、よく知られた汎用装置であり、また紙面の制約もあり、一通りの 応用例を示すのも無理であるので重要な基本的項目の記述に留めることとする) 1.主な信号と情報 図7に示すように電子ビーム照射により 様々な信号が発生する。夫々の信号が持つ 主な情報を図8と次に示す。

①後方散乱電子(Back Scattered Electron、 BSE):試料の平均原子番号により強度 が変化するので、おおざっぱな成分動向 (均一性や析出・異物など)を知ること ができる。 ②吸収電子(試料電流ともいう):一般的に BSEの逆のコントラストを持つが、検出 感度が高くなく、あまり利用されていない。 ③2次電子(Secondary Electron、SE):空間分解能が高く微細組織の顕微鏡観察に利用する。 ④特性X線:微小部の組成分析がこのX線により実施される。X線の波長は元素に固有であるので 波長測定により定性分析ができる。また、その強度が元素の重量濃度に比例するので定量分析が できる。さらに、特性X線のスペクトルの微細構造は元素の状態(たとえば結合状態)により変 ⑤CL光 ①反射電子 ③2次電子 ④特性X線 ②吸収電子 試 料 ⑦透過電子 ⑥内部起電流 ⑧チャネリング電子 ⑨回折電子 ⑤CL光 ①反射電子 ③2次電子 ④特性X線 ②吸収電子 試 料 ⑦透過電子 ⑥内部起電流 ⑧チャネリング電子 ⑨回折電子 図7 図8 EPMAの機能と用途 Soejima

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化するので、この変化を検出して状態分析も行われている。 ⑤光(カソードルミネッセンスCathode Luminescence CL):直接的には材料の発光特性の分 析であるが、微量成分の動向や結晶欠陥の解析に重要な役割を持っている。 ⑥内部起電流:例えば半導体PNジャンクションに電子が入射すると電子増殖が生じる。電子特性、 半導体特性の解明に用いられる。 ⑦透過電子(Transmitted Electron、TE):試料が 1μm程度より薄いと発生するが、薄膜試料中 の原子番号コントラストを有している。 2.電子線信号の発生と主なるコントラスト要因 試料表面から空間に放出される電子のエネルギー 分布は一般に図9のような分布を持っている。 図 10 を合わせてみながら記述する。入射電子が ほとんどエネルギーを失わずに散乱してくる弾性 散乱電子(記号E)、エネルギーを失って散乱して くる非弾性散乱電子(記号NE)、そして 50eV 程 度よりエネルギーの低い電子(記号S)である。 通常EとSE領域の電子を反射電子、S領域の電 子を2次電子と言って いるのであるが、NE とSの区別は曖昧であ る。散乱を繰り返して エネルギーが 50eV 以 下になった散乱電子も 2次電子という分類に なってしまっている。 さらに、実際のSEM において2次電子像と いわれているのは、多 くの場合、EとNEと Sの混合であり、厳密 な像解釈においては注意深い 考察が必要である。なお、 図9に現れている小さなピー クはオージェ電子や試料原子 固有のエネルギーロスによる ものあるが、通常のSEMで はこれらも反射電子や2次電 子に含めている。2次電子像 をしばしばSEM像というが、 図9 図10 図11 反射電子と2次電子 発生量の原子番号依存性[1][2] Soejima

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この言い方は案外的を得た言い方である。 (通常の言い方における)2次電子や反射 電子の主なるコントラスト要因は試料表面 の平均原子番号(図 11)と凹凸(例えば 図 12)である。ところで入射電子1個に 対して通常は発生電子数は1個未満である が、入射エネルギーが低い時、発生電子数 が1個超になることがあり、この様子を示 したのが図 である。試料材質依存性が あるが、多くの場合、入射電子エネルギー が1keV 程度以下になると1個超となる。 この現象は絶縁物観察の時に特別な効果を もたらす。マイナス電子が照射されると試 料は当然マイナスになるが、導電試料では 試料内を電子が高速に自由に移動してチャ ージアップとはならないが、絶縁試料では 試料表面がマイナスにチャージして、像コ ントラスト異常を起こし、ついには観察不 能に陥ることもある。ところが発生電子が 1個超であると、試料表面はプラスにチャ ージすることになる。プラスにチャージす ればマイナス電子の発生が抑えられ、ある いは空間に出た電子が戻ってきて中和され る。つまり、絶縁物試料の正常観察が可能 となる。超低加速SEMは極表面敏感であ ると共に絶縁物試料観察にも適している理 由がこれである。 3.特性X線の発生 図 14 に示すように、内殻軌道電子が外部からのエネルギー入射により離脱した空席(空孔)に外 殻軌道電子が遷移したときの位置エネルギー差が、あるときはX線として放出され、あるときは他 の軌道電子を励起してオージェ電子として放出される。最終的に特性X線となるかオージェ電子と なるかの両者の収率は1章4項 で述べたように、軽元素領域で のX線収率は大変小さいが、 X線の検出効率はオージェ電子 よりずっと高く、S/N値もは るかに良いので、実際の検出感 度は特性X線の方が 10 倍∼100 倍高い。後述するように、分析 深さは多くの場合サブミクロン ∼ミクロンである。特性X線の 図12 図13 2次電子収率の加速電圧依存性 図14

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名前は、どの軌道の空孔にどの軌道の電子が遷移することにより発生するかによって、図 15 のよう に決められている[3]。電子軌道がM殻以上ある元素ではK線以外にL線やM線などが存在する。通 常のEPMA分析条件では、K線のエネルギーが 10KeV 程度を超える元素ではエネルギーのより小 さいL線やM線が用いられる。 4.特性X線の波長/定性分析 発生するX線の振動数ν(このνにプランクの乗数hを乗じればエネルギー)と波長λと原子番号 Zの間には次 Moseley の法則が成り立つ。 ν=k(Z+k)2 (1) λ=k・1/(Z+k)2 (2) 、k、kは定数 Kα線についてはλは次式で近似されることが知られている。もっとも実際の分析では、正確な波 長表が用意されており、都度計算する必要はない。 λ=1.21×10−3/(Z−1)(3) 上記のようにエネルギーや波長は原子番号に固有なので、未知X線のエネルギーあるいは波長を測 定すれば定性分析が成り立つ。 図15 エネルギー順位間の電子遷移と特性X線の名称[3]

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5.特性X線の強度/定量分析 元素固有のエネルギーあるいは波長のX線のピーク強度と元素の重量濃度の間には次の関係があ る。 Cunk=Cstd×[Iunk/Istd]×[f(ZAF)・f(other)) (4) 未知試料と標準試料からのX線強度は基本的には夫々の試料の重量濃度に比例するが、補正ファク ターが2種ある。f(ZAF)はZAF(ザフと言っている)効果と言われており、未知試料と標準 試料において、平均原子番号が異なる(Z)X線吸収が異なる(A)蛍光励起が異なる(F)こと を補正するものである。このf(ZAF)は非常に詳しく正確に計算できるようになっている。f (other)は試料ダメージや装置不安定など補正が難しい誤差を示す。f(other)が1の場合(つま り不確定誤差が非常に小さい場合)は、相対誤算1%程度(WDXの場合)あるいは数%(EDX の場合)の精度で定量分析が実施できる。 定量分析の詳細は文献[4]を参照されたい。 6.X線スペクトル解析 特性X線発生は、軌道電子の遷移によるものであり、軌道電子のエネルギーが元素に固有なので、 遷移により放出されるエネルギーすなわちX線エネルギー(波長)は固有である。という原則があ る。しかし、実際は原子は孤立しているわけではなく、種々の配列や化学結合の状態にあり、した がって、軌道電子エネルギーにも周囲の存在原子状態により何がしかのシフトが生じる。特に外郭 軌道電子(価電子帯)は周辺状況により変化しやすいので、外郭軌道電子が遷移して生じるX線に はシフトが生じる。言い換えると、K線よりL線、α線よりβ線に変化が生じやすい。複数軌道電 子のエネルギーシフトや、どの電子が遷移するかの遷移確率の変化などが重なり合って、ピーク波 長・ピーク強度・半値幅・対称性が変化し、非図表線(サテライト)の出現などが起きる。μmの 微小領域において、定性定量分析による精密組成のみならず、X線スペクトル解析(波形解析)に よる状態情報(特に化学結合状態)が得られることは非常に有用なことである。なお、このスペク トル変化は高精度WDXによってのみ計測可能であり、この点においてもSEM−EDXとEPM Aは区別されている。状態分析の詳細は文献[5]を参照されたい。 図17 鉄の状態マップ 図16 各種カーボンCKバンドスペクトル

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7.WDXとEDX 一昔前にしばしば解説書やハンドブックに記述されていた両者の比較は、夫々の進歩により現時 点では通用しない項目も多い。まして、総合的に見てどちらが良いか、という記述は成り立たない し、原理の異なる手法を比較するのは望ましいことではないが、項目ごとにあえて表3に示す。な お、試料面凹凸の影響は、焦点深度ではなく、凹凸による影やエッジ効果の問題であり、WDXと EDXの比較ではなくX線取り出し角度の項目で取り扱うべきものである。WDXとEDXの比較 は別の角度からも見る必要がある。微小部分析を可能にしているWDXは結晶直進型湾曲結晶分光 器と呼ばれる分光器で、理想に近い分光 特性を持ちうる反面、マイクロビーム装 置に装着するには制約が多く、高性能タ イプは現時点ではEPMAにしか装着で きない。これに対してEDXはほとんど のタイプがほとんどのマイクロビーム装 置に装着できる。このため、WDXとE DXの違い以外にマイクロビーム本体の 応用分野にも左右されることになる。 他方、最近の状況としてSEMやTEM に装着可能な新原理の高波長分解能WD Xが誕生しており、EDXも新たな開発 ・工夫が実現しており、従来の比較表に 判断を任せるべきではない。 Ⅲ.空間分解能 分解能という言葉は多くの場合、像がシャープであるとかスペクトルがシャープである、という 使い方がされる。これらの場合は、人がデータを見れば少なくとも定性的には分解能の良し悪しが 判断できる。しかし、これらは2次元あるいは1次元の話である。Ⅰ章 3.2で述べたように表 面分析・微小部分析では深さ方向を含めた3次元の分解能を判断しなければならない。この深さ方 向の分解能は像やスペクトルの単純なシャープさには反映しないので見落とすことが多く、そのた めデータ解釈に重大な過ちが生ずることが少なくない。データをただ単に眺めていても深さ分解能 の知見はえられない。幸い現在は、装置原理・装置性能・分析条件・試料状態などにより空間分解 能が計算と経験でかなり精度よく得られるようになってきているので、的確なデータ解析も可能で あり、必要な空間分解能を想定した分析条件を設定することもかなり可能である。 ここでは、電子ビーム照射によるX線の発生領域の事例を示す。ところで、シャープな像が必ずし も正しい像ではない場合もあるので、SEMにおける走査像の事例を示す。 1.入射電子の侵入と拡散領域ならびにX線の発生領域 図18 は 1965 年の古いデータであるが、隠された分析深さがデータを左右することを顕著に示し た例で、今日の空間分解能の検討のきっかけになったデータである[6]。試料はシルミンというAi −Siの実用合金で、光学顕微鏡的に1μm程度の灰色の組織(Si初昌)があり、その組織におけ るAlとSiの濃度分布をEPMA分析した結果である。当時は30 keV が標準加速電圧なので、 30keV で分析したが、分析結果は金属学的には納得性がなかった。まったく同じ試料位置を 20keV と 5keV で分析した結果、30keV とは異なる結果となった。金属学的には 5keV のデータが納得

EDX WDX 主成分の定性・検出 ○ ○ 微量成分の定性・検出 × ○ 超軽元素の定性・検出 △ ○ 定性・半定量分析速度 速い 速い 定性・定量分析精度 △ ○ 複雑多元系の分析 △ ○ 多元系の分析速度 速い 遅い 波形解析(状態分析) × ○ SEM・TEMへの取付け 簡単 難しい 分光器の焦点合わせ 簡単 難しい 表3

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性があった。何故、このようなことが生じたのか。 入射電子が固体内でどのように振舞うかを理論的に扱う手法に大別して2種ある。一つは入射電子 の動きを平均自由行程・散乱角・エネルギー損失からシミュレートする、いわゆるモンテカルロ法 といわれるものであり、他は拡散中心・電子の存在密度・進入深さなどを含んだ全体形状を図とし て表示するものである。前者は一個一個の電子の軌道が見える表示で理解しやすいのと、境界値問 題に対処しやすい利点がある。後者は空間分解能が数値的に把握できるので分析現場向きである。 どちらも文献[1][2]に詳しく記述されているが、ここでは後者の領域形状モデルの概要を紹介する。 膨大な数の入射電子がそれぞれ拡散していった結果、全体としてどのような「拡がり」「形」が出来 上がるかを、次の項目に対して数値化・図式化を行いモデルが作成された(図19)[1][2] 次の項目を図および数式化したものである a、多くの(99%あるいは 90%)のX線の発生領域とその密度分布 (X線分析の実質的な空間分解能) b、入射電子の拡散領域の中心はどこか(信号発生の中心と深い関係) c、電子の通路はどこが多いか(固体内電子密度に関係→X線発生密度に関係) d、入射直後の散乱角はどうか(薄膜・微粒子にとって重要) こモデルでは多数のレンジと夫々の数式が用いられているがその詳細は省略する。もっとも重要な 値はX線発生有効深さRsx である。 Rsx は入射電子エネルギーが1keV程度∼数十keV程度 の場合は(5)式のように近似される。Rsx の式で分かるように加速電圧を最少励起エネルギーに近 づけるとRsx がゼロに近づくすなわち、発生領域を非常に小さく出来る。また、ωは入射電子が浸 入する角度で、表面層、薄膜、微粒子の場合に発生領域の横の広がりにとって重要な値であり、(6) 図18 EPMAによるシルミン初昌の分析/加速電圧依存性[6](若林、副島 1965)

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式によって求められる。ωは加速電圧が大きいほど小さくなる。したがってTEMにおけるSTE Mではωが非常に小さくなり、入射ビーム径が分析領域の幅になるのはこのためである。 Rsx=1/40・A /ρZ・(V1.7−V1.7)μm (5) A:試料平均原子量 ρ:試料平均密度 Z:試料平均原子番号 V:入射電子エネルギー(keV) VE:最少励起エネルギー(keV) ω1=1−[2β×0.90/1+β−0.90] (6) β=(5.44/V)Z2/3 V:入射電子エネルギー(加速電圧)ボルト Z:試料平均原子番号 Al 中の微量 Cu の CuKα線の発生領域の各R値の計算結果を表4に示す。電圧により各レンジが大 図19 電子ビーム励起によるX線発生領域モデル[1][2]

X−ray generation model

by Soejima Rsx ω1

90%

領域

99%

領域

R

S1

99.9%

領域

X−ray generation model

by Soejima Rsx ω1

90%

領域

99%

領域

R

S1

99.9%

領域 RX 最大発生深さ RSX 実行的発生深さ R1 入射電子の最大エネルギーロス深 さ RS1 X線の最大発生密度深さ RWX 入射電子の表面での横の広がり ω1 入射電子の90%は入射直後この 角度以内に散乱される ω2 入射電子の99%は入射直後この 角度以内に散乱される 表4 発生領域計算例(Al 中の微量 Cu の CuKα)(μm)[1][2]

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きく変わることが示されている[1][2]。表 5 は低加速電圧における CuKαと AlKαの発生領域の加 速電圧依存性の計算値である[7]。低加速電圧ではサブミクロン∼ナノの分析が可能であることが示 されている。 加速電圧依存性はもちろんX線のみならず電子信号においても顕著である。 図 20 は加速電圧 30kV∼300V で撮影されたステンレス鋼の2次電子像である[8][9]。表面に人為 的に作られた1nm∼3nm のカーボン層のコントラストや結晶方位によるチャネリングコントラス トの電圧依存性が明瞭に観察されている。重要なことは、どのデータも正しいデータであるが、深 さ分解能の違いが情報の違 いを示していることである。 このデータも1973 年の古 いデータであるが、今日の 低加速SEMの開発のきっ かけとなった。 ところで信号の発生領域は 空間分解能の重要な要素で あるが、発生した信号の脱 出深さも重要な要素である。 Ⅰ章3項で述べたように物 質内を通過する時、電子や X線は夫々の性質を示す。 このことは同じ条件の電子 ビームで励起されたX線と オージェ電子はまったく同 じ領域で発生するが、脱出過程が大きく異なり、検出信号では空間分解能に大きな違いが生じるこ とを示している。実際のデータ例を講演時に示す。 2.走査像の分解能 SEM像や成分の2次元マッピング像は大変分かりやすいデータで多用されているが、この走査 像には「試料微小部の本来の形状を正しく表示する能力」という点において誤りが起きることが ある。図 21 に画素の概念で単純化して示す。2つの接する微細組織を、この組織より小さくないサ イズのビームで走査した信号分布を示している。単純化のため、ビームと組織が重なる面積に比例 した強度の信号が発生するとしている。

0.018 0.018 2k V

0.07 0.07 3k V

0.05 0.05 10k V 0.11 0.07 実効幅 0.23 0.36 実効幅 (約 ) 0.20 0.19 実効深さ 90% 領域 0.23 0.36 実効深さ 99% 領域 5k V 15k V A l K α Cu K α

0.018 0.018 2k V

0.07 0.07 3k V

0.05 0.05 10k V 0.11 0.07 実効幅 0.23 0.36 実効幅 (約 ) 0.20 0.19 実効深さ 90% 領域 0.23 0.36 実効深さ 99% 領域 5k V 15k V A l K α Cu K α 表5 発生領域計算例(純 Al 中の AlKα 純 Cu の CuKα)(μm)[7] 図20 ステンレス鋼上のカーボン薄層の2次電子像[8][9] Soejima 1973

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得られる信号分布は、いわゆるボケが 生じることを示している。ところで、 走査像というのはデータ後処理により、 閾値やコントラストをかなり自由に変 えることができる。ということは、例 えばAで、もし6以下の信号をカット すれば、9の強度を持つ離れた画素1 個の小さな組織像となってしまう。C の例では、同様に本来離れた2つの組 織が1つの組織として表示されること を示している。データ処理の詳細を知 らずに結果の走査像を見た場合、試料 の形状を正しく理解できるか、強い疑 問が生じる。以上の他に、ボケがなく シャープな像で、画像処理を変えても 形状が変わらないので疑問が生じない にもかかわらず、実試料の形状とは異 なる像が得られてしまう事例がある。 紙面の都合でテキストには表示しない が講演では示す。 おわりに 表面分析法と総称される一連の分析法が非常に多数開発されている。すでに数十年の実績を有す るものや、まさに試作された直後のものなど多様である。これらは、科学技術・先端研究の学術研 究分野、製造・品質保証・クレーム対策などの産業の現場、さらに環境・医学・健康・安全・食品、 などなどで広く使われている。多岐にわたる分析原理、そうとうに高度な装置構造、多くは高価格、 操作も簡単とはいえない、といった状況において、表面分析を総合理解するのは大変である。実際 の分析で成果をあげるには、どうやら広く浅くはダメなようである。何かの理由で使うこととなっ た手法・装置をまず深めていくことにより、他の手法も理解しやすくなると考えられる。 参考文献 [1] 副島啓義:博士論文 大阪大学(1979) [2] 副島啓義:電子線マイクロアナリシス、日刊工業新聞社、基礎編4章(1987) [3] 飯田修一訳:固体物性、丸善(1962) [4] 副島啓義:電子線マイクロアナリシス、日刊工業新聞社、応用編8章(1987) [5] 副島啓義:電子線マイクロアナリシス、日刊工業新聞社、応用編9章(1987) [6] 若林忠男、副島啓義:金属分析における発表とシンポジウム、14(1965)

[7] H.Soejima et al:Int. Symp. on Microbeam Analysis in Cheju Ses.Ⅱinvited(2002) [8] 副島啓義:電子顕微鏡学会、A‐Ⅱ‐19(1973)

[9] H.Soejima:Surface Science, 85, 610-619(1979)

図 21  走査像の形状変形  画素による模式表示[1][2]

参照

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