早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
グリーンコンシューマーの育成を目的とした 環境学習プログラムの開発・実践とその評価手法
に関する研究
A Study on Development, Practice, and the Evaluation of Environmental Study Program to Promote Green Consumer
申 請 者
塩田 真吾
Shingo Shiota
氏 名
研究科・研究指導
(課程内のみ) 環境・エネルギー研究科 環境配慮デザイン研究
2010 年 2 月
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近年、地球温暖化等の地球規模の環境問題に関心が集まっている。こうした問題の解決には、市民の役割 が重要であり、家庭生活や社会活動の場で常に環境を意識した姿勢とそれに基づく対応が求められている。
こうした態度や対応の醸成には、若年層からの教育の重要性が指摘されており、わが国の学校教育でもいち 早く、1988年の教育課程審議会答申のなかで環境学習を重要な課題として位置づけ、各教科や道徳・特別 活動での実施を求めている。一方国際的には、2004 年に「持続可能な開発のための教育の 10 年」が国連総 会で採択され、2005 年から環境学習に関連したさまざまな取り組みが世界各地で実施されている。これを受 けてわが国でも、文部科学省が学習指導要領における環境に関わる内容を見直し、環境学習推進グリーン プランなどの推進に向けた取り組みを行っている。
このように環境学習に関する関心は高まっているが、これまでの現場での対応の主体は、自然環境を題材 とした体験や環境問題に関する知識の伝授に止まっている。環境学習の目的としては、「環境やそれに係わ る諸問題に気付き、関心を持つとともに、現在の問題の解決と新しい問題の未然防止に向けて、個人的、集 団的に活動する上で必要な知識、技能、態度、意欲、実行力を身につけた人々を育成すること」と定義される が、後段の環境問題の解決やその未然防止に向けた態度や意欲の醸成とそれに基づく実行力の発揮にまで 高める教育が十分に行われたとは言い難い。環境問題の深刻化の要因として、個人の日常生活が挙げられ る現在、将来を担う児童には環境問題への関心や知識の獲得に止まらす、自らの考えを基本に日常の生活 のなかで環境配慮行動を実践できるレベルまでの教育の実施が強く求められている。
環境問題の解決に向けて、多くの市民が等しくその力を発揮できる機会は、商品やサービスの購入・使用と いった日常生活のなかにあり、こうした時点で環境配慮行動をとる市民を、「グリーンコンシューマー」と呼ん でいる。環境学習の消費者教育としての重要性は、最近の文部科学省の環境教育指導資料でも強調されて いる。一方で商品・サービスの提供側でも、EPR(Extended Producer Responsibility:拡大生産者責任)のもとで、
環境配慮設計(Design for Environment:DFE)や使用済み製品の引き取り・リサイクルの実施が強化されており、
市民もグリーンコンシューマーとしての役割を、より一層強めていくことが求められている。
そこで本研究では、これまでの環境学習の変遷の経緯や現状について体系的に整理するとともに、上述し たようなグリーンコンシューマーの育成を目指した環境学習プログラムの開発・実践とその評価手法の開発・
検証を行うことを目的としている。とくに、環境学習の実践初心者を意識し、学校教育だけでなく、社会教育に おいても環境学習が実施できる支援システムとしての情報や手法の提供を志向している。環境学習の裾野を 広げ、多様な実践者を育成するためにも、こうした取り組みは意義深いものといえる。
本論文は、6 章から構成されている。
第 1 章は序章であり、本研究の背景、目的を明らかにするとともに、グリーンコンシューマーの定義等やわ が国における環境学習に関する従来研究を整理し、本研究の必要性・独創性を示している。とくにグリーンコ ンシューマーの定義について、従来研究をテキストマイニングの手法を用いて解析し、今日的な内容として再 構築している。
第 2 章では、環境学習プログラムと教具に関するデータベース(以下、DBとする)の構築ならびに、その活 用について述べている。
現在、多様な環境学習プログラムが全国的に実施されており、その事例は文献、書籍やインターネットなど で多数紹介されているものの、それらの体系的な整理はなされていない。ここではとくにグリーンコンシュー
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マーの育成を目的にした環境学習の実践例ならびにそこで活用されている教具を体系的に整理するフォーマ ットを提示するとともに、それに従ってDBを構築している。学習プログラムでは 238 事例、教具では 102 事例 の収録・整理を行っており、両DBは連携できる構造となっている。
従来の代表的なDB、例えば環境省「ECO 学習ライブラリー」や宮城教育大学「環境教育実践事例 DB」では、
とくに教育経験の少ない実践初心者において、情報検索やプログラムとしての実施内容の具体化の点で、活 用し難いとの問題が挙げられたことから、構築した DB をもとに、こうした点を改善したインターフェースの開発 も行っている。完成したインターフェースは、実践初心者及び環境学習施設のインタープリター等の経験者に よる検証では操作性や実用性の点で高い評価を受けている。
第 3 章では、環境学習プログラム及び教具の開発ついて述べている。
前述の第 2 章で構築した DB を基に、筆者らが考案したアイデアシート、シナリオシートを活用し、実践初心 者にも利用し易い環境学習プログラムの開発フローを提案している。アイデアシートよって、実施者はプログ ラムの構成に用いる手法等を DB より類推・活用することができ、またシナリオシートでは、アイデアシートで 考えた手法等のデザインや時間配分を考察・検討することができる。これらによってプログラムの構成・流れ、
そこで用いる手法等のシミュレーションが可能となり、経験の少ない実践初心者がプログラムを開発する上で 極めて有用なものである。
また、環境学習の多様な実践形式についても検討を行い、予め応募者を募り一定時間を区切り実施するイ ベント型や会場を自由に往来する人が興味を持ったら参加するブース型、小学校等で数回の連続した授業と して企画するスクール型の 3 つの実施形式に展開させることを提案している。プログラムの作成ではイベント 型を基本とし、実践初心者とともに上述した開発プロセスを適用しながら 27 プログラムを開発している。これ らのうち、適切なものについては、その特性にあわせてブース型やスクール型へと展開させている。
加えて、企業との連携によるプログラム開発を実践の対象としており、人間の成長過程に応じた環境配慮行 動を学ぶ学習教具「エコライフゲーム:ELG」の(株)タカラトミーとの連携による商品化や日本 IBM(株)が開発し た風力発電の仕組みを学習できる 3D インターネットゲーム「PowerUp」を、企業関係者を支援しながらさまざ まな実践形式のプログラムとして完成させている。
第 4 章では、環境学習プログラムのデザイン及びその学習効果の評価手法の開発について述べている。
これまで環境学習プログラムのデザインの評価は教師の暗黙知によりなされおり、定量的で合理的な評価 手法が開発されていないこと、さらにその学習効果では知識や関心の変容の評価焦点が当てられており、行 動の変容を定量的に評価した研究が少ないことを明らかにしている。そのうえで、プログラムデザインの評価 手法としてシナリオポイントを、また学習効果の評価手法としてエコチェックシステムならびにテキストマイニ ングによる評価手法を開発・提案している。
シナリオポイントでは、プログラム内容を動作性、思考性に分け、講義、体験などの手法をマッピングし、そ れをポイント化することで定量的な評価を行う方式を提案している。さらに、実施手法の時系列を付加するこ とで時間配分に配慮したものにし、また実施内容に関する付加条件を加えることでポイント化を容易にするな ど、実践初心者に利用し易いよう、高度化を図っている。こうしたプログラムデザインの定量的な評価は、実 践初心者のみならず、経験を有する実施者にとってもプログラムを高度化するうえで有用である。
エコチェックシステムでは、当研究室で開発した家庭での環境負荷を計量する LSA(ライフスタイルアセスメ ント)の手法に基づき、プログラム実施前後の CO2 削減量及び環境配慮の行動回数を受講者に入力させるこ
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とで、プログラムの学習効果を定量的に評価できるようにしている。このエコチェックを、PCソフトウエアとして 完成させ、学校や家庭で活用できるよう、FeliCa カードならびに WEB の両方でのログインを可能とし、システ ムの汎用性を向上させている。
また、テキストマイニングによる評価では、自由記述式感想文を定量的に分析することで、従来の選択式ア ンケートでは読み取れない児童の学習効果を把握できるようにしている。選択式アンケートでは、「知識を取 得した/していない」という面でしか捉えることができなかったが、テキストマイニングによる評価では、具体 的に「どのような知識を獲得したか」までを定量的に分析することができる。このことは、学習効果の評価で得 られた知見をプログラム開発にフィードバックする際に、極めて有用である。
第 5 章では、第 3 章で開発した環境学習プログラムを活用して、初等教育や社会教育の場において環境教 育を実践し、その成果を包括的に評価している。
イベント型では、2007 年から 2009 年にかけて、科学技術実験教室である早稲田大学理工ユニラブならびに 本庄ユニラブにおいてプログラムの開発、実践を行っている。プログラムの開発では、先に述べたシナリオポ イントを用い、繰り返しプログラムデザインの評価を行うことで、その高度化を図っている。シナリオポイントで は、時系列付加及び配点付加条件を付与した方式が、第三者によるプログラムの評価と高い相関の得られる ことを検証し、その有効性を示している。
スクール型では、2007 年から 2009 年の3年間に渡って、東京都葛飾区立金町小学校及び千葉県富里市立 富里第一小学校において4つのプログラムを開発、実践している。エコチェックシステムによる学習効果の評 価では、プログラムの受講の有無の比較を行い、受講者において環境配慮行動の実施回数に有意な向上が 見られたこと、また学習意欲の高い児童だけでなく低い者でも環境配慮行動の向上が得られたことを明らか にしている。さらに、テキストマイニング分析では、学習内容に関するキーワードの分類を行い、特に行動意 欲の向上に関する傾向が把握されることを明確にして、環境学習プログラムの有効性を確認している。
第 6 章では、本論文のまとめとして、本研究で得られた成果を要約するとともに、今後の研究の展望につい て述べている。
以上、要するに本論文は、グリーンコンシューマーの育成を目指し、独自のフォーマットによる大部な環境 学習プログラムDBと学習教具DBを構築するとともに、その活用について実践初心者にも利用し易いインタ ーフェースやプログラム作成支援ツール等を開発している。また、このDBを用いて実際に多くの環境学習プ ログラムの作成支援を行うとともに、企業と連携したプログラムも開発し、これらをさまざまな実施形態へと展 開させている。加えて、環境学習プログラムのデザインや実施効果についての独創的な評価手法を考案し、
主として小学校における環境学習の実践のなかで、その有効性を検証している。
これらの成果は、今後の環境学習の普及や発展に大きく貢献するものであり、高く評価される。よって、博 士(学術)の学位論文として価値あるものと認める。
2010 年 2 月
審査委員 主査 早稲田大学教授 永田 勝也 早稲田大学教授 吉田 徳久 早稲田大学教授 友成 真一 早稲田大学准教授 博士(工学)早稲田大学 小野田 弘士