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企業合併による承継者の責任

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企業合併による承継者の責任

──米国製造物責任の一側面──

中 村 弘

はじめに

不法行為法リステイトメント第3版:製造物責任第12条とそのコメント

筆者のコメント

はじめに

ある製造会社が製造し販売したある製品に欠陥があったとする。その会社が後日他の 会社によって合併されてから,その欠陥製品を使用したある人が怪我をしたとする。そ の時点では,欠陥製品を製造した被合併会社はもはや存在しない。その会社を合併した 承継会社が製造物責任を負うべきか。これが今回のテーマである。

これに関する『不法行為法リステイトメント第3版:製造物責

1

任』の規定は第12条 に設けられ,その条文およびコメントの全文和訳は次章Ⅱに示しているが,それを見る 前に,同条の沿革を見ることにしよう。

1.第1次暫定草案(

2

1994年)規定全くなし。

2.第2次暫定草案(1995年)規定全くなし。

3.第3次暫定草案(1996年)第15条として,以下の条文が初登場した。

15条 被承継者が業として販売した製造物に起因する危害に対する承継者の責任

(Liability of Successor for Harm Caused by Product Sold Commercially by Predecessor)

被承継会社または他の企業体の資産を取得する承継会社または他の企業体は,その取 得が以下に該当するのでなければ,被承継者が業として販売または他の方法で流通した 欠陥製造物に起因する,または被承継者が

3

第18条もしくは

4

第19条に基づく販売後の義 務に違反したことに起因する人身または財産に及ぶ危害に対して責任を負わない。

────────────

Restatement of Torts, 3 d : Products Liability, American Law Institute Publishers, St. Paul, Mn., 1998.

Restatement of Torts, 3 d : Products Liability, Tentative Draft No. 1, American Law Institute, Philadelphia, Pa.,

1994.なお第1次暫定草案から第4次の最終草案(1997年)に至るまでのすべての草案は同じ協会か

ら出版されている。

18条「販売時点後,警告しないことに起因する危害に対する販売業者または流通行者の責任(Liabil- ity of Commercial Seller or Distributor for Harm Caused by Failure to Warn After the Time of Sale) 19条「被承継者の販売時点後,承継者が警告しないことに起因する危害に対する承継者の責任(Li-

ability of Successor for Harm Caused by Successor’s Failure to Warn After the Time of Sale by the Predeces- sor)

445)1

(2)

(a)取得が被承継者の全部の,または実質的に全部の資産に該当する場合

(b)取得が不法行為請求者の被承継者からの有効な救済を得ることを妨害するため に,取得後被承継者による解散,破産免責,または他の方法による再編成が行われ る場合,および

(c)(1)取得が承継者のかかる責任を引き受けるための合意を伴う場合,または

(2)取得が新設合併または吸収合併を構成する場合,または

(3)取得の結果として,承継者が被承継者の継続者となる場合,または

(4)取得が被承継者の負債または債務の責任を逃れるための詐欺的譲渡となる場 合。

上記の規定は,(a)(b)(c)の3項目から成り,(c)項がさらに(1)(2)(3)(4)

と四つに細分化されるという多重的構成となっているが,第4次の最終草案では,本条 は第12条に移されたうえ大幅に書き改められ,(a)(b)(c)(d)の4項目のみという すっきりした形にまとめられている。最終草案(1997年)の翌年,すなわち1998年に 正式採用された第12条は最終草案に僅かな字句の修正が行われただけであるので,第 12条の規定は,最終草案段階の修正によりほぼ完成を見たと言ってよい。

さてこの第12条の位置付けであるが,この条は最終草案および正式採用において,

これに続く第13条,第14条とともに,三つまとめて第3章に組み込まれている。第3 次草案との位置付けの変化を示すと次のようになる。

第3次草案(1996年)

第2章 承継者;表見的製造者(Succes- sors ; Apparent Manufacturers)

第15条 被承継者が業として販売した 製造物に起因する危害に対する承継者 の責任(Liability of Successor for Harm Caused by Product Sold Commercially by Predecessor)

第16条 他人の製造による製造物を自 己の製造物として販売または他の方法 で流通すること(Selling or Otherwise Distributing as One’s Own a Product Manufactured by Another)

第3章 販売時点における製造物の欠陥 に基づかない責任(Liability Not Based

→ 最終草案(1997年)・正式採用(1998年)

第3章 承継者および表見的製造者の責 任(Liability of Successors and Apparent Manufacturers)

第12条 被承継者が業として販売した 欠陥製造物に起因する危害に対する承 継者の責任(Liability of Successor for Harm Caused by Defective Products Sold Commercially by Predecessor)

第13条 販売後の警告を承継者自身が しないことに起因する危害に対する承 継者の責任(Liability of Successor for Harm Caused by Successor’s Own Post−

Sale Failure to Warn)

第14条 他人の製造による製造物を自

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

2(446

(3)

読者は,上記において,第3次草案の第2章のタイトルと最終草案・正式採用第3章 のタイトルが内容的に同じであるが,第3次草案の条の並べ方において2番目の第16 条が最終草案・正式採用の最後の第14条に繰り下げて置かれ,最後の第19条が最終草 案・正式採用の2番目の第13条に繰り上げて置かれていることに気付かれるだろう。

これは,起草者がいかなる意図をもってこのようにしたのかは説明がないのでわからな いが,最終草案・正式採用の第3章の3ヵ条は,相互にそれほど密接な関連があるもの とは思えない。いわば雑居的寄せ集め条文の章という感じがする。

本論文では冒頭部分にてお断りしたように,正式採用された第12条の条文とコメン トとを取り上げることにしている。同条条文の位置付けについては上記のように検討を 終わったので,次にはそのコメントの検討に入りたい。

第3次暫定草案第15条にはコメントがaからhまで合計8項目あるのに対して,最 終草案・正式採用第12条にはaからiまで合計9項目ある。最終草案・正式採用を中 心に据えて両者の比較をすると次のようになる。

1.最終草案・正式採用の冒頭のコメントaには「歴史(History)」が新設された。

これは第3次暫定草案にはなかった項目内容である。コメントとして非常に重要な部分 である。

2.最終草案・正式採用の8番目のコメントhには「被承継者がそのすべての資産を

譲渡して廃業する必要性(Necessity for the predecessor to transfer all of its assets and go

out of business)」が新設された。これは上記1と同様に,第3次暫定草案にはなかった

項目である。

3.最終草案・正式採用の最後のコメントiには「本条のルールと承継者の独立した

警告義務との関係(Relationship between the rule in this Section and the successor’s inde- upon Product Defect at Time of Sale)

第2節 販売後の行 為;警 告 し な い こ と;回収しないこと(Post−Sale Con- duct ; Failure to Warn ; Failure to Re- call)

第19条 被承継者の販売時点後,承継 者が警告しないことに起因する危害に 対する承継者の責任(Liability of Suc- cessor for Harm Caused by Successor’s Failure to Warn After the Time of sale by the Predecessor)

己の製造物として販売または流通する こと(Selling or Distributing as One’s Own a Product Manufactured by An- other)

企業合併による承継者の責任(中村) 447)3

(4)

pendent duty to warn)」が新設された。これは内容的に重要なコメントではない。

4.最終草案・正式採用において新設された上記3項目以外の6項目は,それらに対

応するものが第3次暫定草案に置かれているが,逆に第3次暫定草案に置かれていたが 最終草案・正式採用において抹消されたものが2項目ある。ひとつはg項「他の企業 体(Other business entities)」,もうひとつはh項「承継者責任を制定法で取り扱うこと が望ましい(Desirability of statutory treatment of successor liability)」である。これら2 項目抹消の理由は説明がないのでわからないが,後者のh項については本論文の末尾 の節「筆者のコメント」の(3)「むすび」で触れるつもりなので,その先触れとして全 文を以下に示しておきたい。

3次暫定草案コメントh。「コメント

5

aで述べたように,承継者は被承継者が販売 した欠陥製造物に対して責任を負うべきか,そしてもし負うとすれば,どの範囲まで負 うべきかという社会問題は複雑であり,かつ扱い難い問題である。裁判所はかかる問題 に対して適切な救済を差し延べることができる範囲についてどうしても制限を受ける。

会社の解散に関する現行法を改めるなどしてより適切な解決策を講ずることに関して,

州議会(legislatures)は裁判所よりもより適当な地位に居る。例えば,州議会は,会社 の資産の実質的移転は,期間と金額に対する一定の制限付きで承継者不法行為責任(suc- cessor tort liability)を伴うものとするという配慮をすることができるであろうし,また 柔軟な制限付きで資産移転に参加する者は責任保険を入手または保持すべきものとする と命ずることもできるであろう」。

では次に節を改めて,1998年に正式採用された『不法行為法リステイトメント第3 版:製造物責任』の第12条条文とコメントの全文和訳を示す。

不法行為法リステイトメント第 3 版:

製造物責任第 12 条とそのコメント

12条 被承継者が業として販売した欠陥製造物に起因する危害に対する承継者の 責任(Liability of Successor for Harm Caused by Defective Products Sold Commercially by Predecessor)

被承継会社(predecessor corporation)または他の企業体(business entity)の資産を取 得する承継会社(successor corporation)または他の企業体は,その取得(acquisition)

が以下に該当する場合,被承継者が業として販売または他の方法で流通した欠陥製造物 に起因する人身または財産に及ぶ危害に対して責任を負う。

(a)取得が,承継者によるかかる責任を引き受けることの同意を伴う場合,または

────────────

このa項は「理論的基礎(Rationale)」に関する項目である。

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

4(448

(5)

(b)取得が,結果的に被承継者の負債または債務(the debts or liabilities)の責任を免 れるための詐欺的資産移転(fraudulent conveyance)である場合,または

(c)取得が,被承継者との新設合

6

併(consolidation)もしくは被承継者の吸収合

7

(merger)を構成する場合,または

(d)取得により,結果的に承継者が被承継者の継続(continuation)となる場合。

コメント

a.「歴史(History)」 上記(a)項乃至(d)項に述べた状況が存在しない場合,会

社または他の企業体は,その者が製造のための資産(productive assets)を購入した会社 が販売した欠陥製造物に起因する危害に対して責任を負わないとするルールは,製造物 責任法および会社法の二つの法原則に由来する。承継者が二つの会社間または他の企業 体間において,操業の継続性が殆どまたは全くなしにバラバラに(piecemeal)資産を 購入するとき,その承継者に責任を負わせないとすることは,彼が「欠陥製造物を販売 または流通する者は,その欠陥製造物に起因する危害に対して責任を負う」(下線はイ タリック)とする本リステイトメント第1条の基礎的責任ルールの範囲外であることに 本源的に由来する。例として,ある会社がいくつかの欠陥製造物を含んでいるある製品 を販売し,後日その製造のための資産を別の会社に譲渡した,とする。その資産を購入 した会社は,それを使用して自分自身の製品を製造する。その資産の購入者は,譲渡者 が以前に販売した欠陥製造物に起因する危害に対して責任を負わない。その理由とし て,被譲渡者は危害を生じた欠陥製造物を販売もせず流通もしなかったからである。承 継者が,譲渡者ののれん(goodwill)の形である価値を受け取り,被承継者が以前に製 造したのと同じ種類の製品を継続して製造し,ある程度被承継者の継続者となるとき,

その者に責任を負わせないとする一般的ルールは,資本の形成と投下を容易にするため に,会社の資産を自由に譲渡できるようにし,株主が責任に晒されるのを制限しようと する会社法に本源的に由来する。

譲渡者が製造のための資産を譲渡したのと同時に,またはその時から間もなくして廃 業(go out of business)するときは,譲渡者が以前に販売した欠陥製造物によって傷害 を受けた原告の権利は不利な影響を受けるだろう。譲渡と解散(dissolution)の時点で 被承継者に対してまだ履行されていない(outstanding)判決を有する不法行為原告に対

────────────

新設合併は,当事会社(constituent corporation)のすべてが消滅し,新設会社(consolidated corporation)

が生ずる合併。主としてアメリカ合衆国で用いられるが,ただし1984年モデル会社法は,新設会社は 実際上使われないとして,これに関する規定を削除し,吸収合併についてのみ規定している(鴻 常夫

・北沢正啓共編『英米商事法辞典(新版)』商事法務研究会,1998年,208ページ)

吸収合併は,当事会社の一つが存続会社(surviving corporation)となり,他の当事会社がこれに吸収さ れて消滅する合併。イギリスでは,吸収合併と新設合併を合わせてmerger of companiesということが 多く,同じ意味でamalgamation of companiesなる語も用いられる(同辞典,604ページ)

企業合併による承継者の責任(中村) 449)5

(6)

して,会社および他の企業体を管理する法は,制限付きではあるが,法的保護をしてい る。資産を譲渡し廃業の手続をしている会社に対して判決を有する不法行為債権者を含 む債権者は,資産譲渡の売得金の中から請求額を支払わせることができる。さらに,資 産譲渡の売得金が,適用される州の会社法または詐欺的譲渡法(fraudulent transfer law)

に違反して,譲渡会社の株主に分配されたならば,その会社の債権者は譲渡会社の株主 の手中にある売得金に追跡の手を差し延べることができる。これらのルールは,いくつ かの州では制定法中に明示されているが,実行可能性(practicality)の制限付きで,承 継会社に対する被承継者の資産の譲渡および譲渡者の解散の時点で身元の確認できる債 権者を保護することが目論まれている。同じ原則が所有主(proprietorships),組合(part- nerships)および他の企業体の資産譲渡にも適用されてきた。

被承継会社が販売した欠陥製造物の結果として,承継会社に対する資産の譲渡後にお いてのみ損害賠償を求める不法行為請求者は,前述の法的ルールの範囲内で彼らの請求 を提出しようとするに当り,しばしば困難に出会う。彼らの請求権は,被承継会社が資 産譲渡の売得金をその株主に合法的に分配し,解散して(ceased to exist)しまった後に 典型的に発生する。このような状況の下では,資産の譲渡時点において実存する債権者 ではなかった不法行為請求者は,被承継者の株主に対しては償還請求権(recourse)を 有しない。彼らが承継会社に対して請求の手を差し延ばすか,または保険もしくは制定 法によって提供される資金(funds)に手を差し延ばすことができなければ,彼らの実 際的救済請求は,被承継者の流通経路に存在する小売業者および卸売業者に対して仕向 けるものに限られるが,これとて実際問題として有望であるとは言えないだろう。会社 が資産譲渡し廃業した後の債権者の権利を左右する制定法および判例は,譲渡後の請求 権発生(post−transfer claims accrual)のかかる問題を一般に取り扱っていない。

製造のための資産を取得する取引が数々の伝統的例外の一つにより確立された標準に 合致しなければ,被承継者が販売した欠陥製造物に起因する危害について承継会社に対 する不法行為請求を認めた判例は殆どない。これらの例外は,請求権が被承継者の解散 後に発生し,かつ製造物責任請求者に限定されない債権者に一般に適用される。それら は,基本的に次の二つに分類される。一つは,承継者の行為が,被承継者の資産を取得 することに加えて,承継者に責任を問うことを正当化する場合(承継者が契約上責任を 負うことに同意するか,または詐欺的資産譲渡に故意に関与する場

8

合),もう一つは,

承継者が多分いくらか異なった形で(承継者が被承継者を吸収合併するか,または被承 継者の単なる継続者となる場

9

合のように)被承継者と同じ法的実体となるという理由 で,承継者自身が欠陥製造物を販売または流通したと言えるような場合,である。本条

────────────

このカッコ内の2例は第12条(a)項と(b)項に該当する。

このカッコ内の2例は第12条(c)項と(d)項に該当する。

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

6(450

(7)

の下では,かかる状況の下で,被承継者が流通した欠陥製造物に起因する危害につい て,製造物責任請求者は承継者に対して請求することが認められる。

株主,役員または取締役の継続がない場合であっても,事業の継続の概念を広く解釈 して,承継会社に責任を課する裁判所が少数ある。資産譲渡以前に販売された製品中の 欠陥に起因する危害に対して,承継者による被承継者の製品ライン(product line)の継 続があれば,承継者に責任を負わせるのに十分だとするいくつかの裁判所がある。

b.「理論的基礎(Rationale)」 承継会社の責任を本条に述べた状況に制限すること

は,公正と効率を考慮する観点から支持されている。被承継者の製造のための資産を,

継続事業の一部としてではなく,バラバラに(piecemeal)に購入する承継者は,購入 の事実だけで,資産の譲渡以前に被承継者が流通した欠陥製造物を,製造または販売し たと言うことはできない。承継者が,彼自身の資産取得前の行為により,被承継者の継 続者になると言うことができるか,または,その後の不法行為原告になにがしか損害を 与えたと言うことができるような状況がなければ,危害を生じた欠陥製造物を製造も流 通もしなかった企業体に責任を負わせることは,その企業体が資産取得後,原告の請求 を満足させるのに役立つ金銭の額をふやしたという理由においてのみ,正当化すること ができるだろう。しかし,それだけでは,承継者責任を正当化することはできない。か ように,製造のための資産をバラバラに購入することに責任を負わせることは,やむを 得ない理由がなければ(for no compelling reason)会社資産の自由な譲渡可能性を阻害 し,それにより株主の資本投下を妨げ,社会的費用を増大させることになるだろう。

承継者が責任のあることに同意するか,または資産譲渡のさい,かかる責任がなけれ ば,被承継者から他の方法で得られたであろう救済を不公正にも将来の製造物責任原告 から奪ってしまうであろうことが暗に認められる時は,承継会社に責任を負わせること は公の政策として望ましい。(a)項乃至(d)項は,承継者に責任を負わせるのを正当 化するために定められた会社資産譲渡の類型を示している。(a)項では,承継者が後に 生ずる不法行為請求に対して支払いをするという契約上の約束(その約束に対して承継 者は多分代償を取得済みである)は尊重されるべしとすることが認められている。(b)

項では,ある企業体が詐欺的譲渡を行い,承継者がそれに関わりを持っている時,他の 債権者のために責任を負わせるという同じ理由で,承継者責任は適当であるむね規定し ている。例として,被承継者は容易に発覚するのを逃れる方法で,被承継者,所有者ま たはその支配人に補償するという承継者の同意付きで,わざと金額を引き下げて資産譲 渡を取り決めるかも知れない。あるいは,不法行為原告を救済しないで放置する目的 で,株主に対して被承継者が現金を分け前としてばらまくことを仕組んだ資産譲渡に承 継者が知っていて参加するかも知れない。これらの譲渡が州の適法に照らして詐欺とな

企業合併による承継者の責任(中村) 451)7

(8)

るならば,かかる譲渡に知っていて参加した被譲渡者に不法行為責任を負わせることは 正当化される。

(c)項とd項は,いくらか異なった組織形態ではあるが,現実に危害を生じた製品 を製造し流通した承継者を取り扱っている。(c)項は,典型的に会社の経営または所有 に実質的変更を加えることなしに,法によるか,または事実上被譲渡者に吸収合併され る譲渡会社を取り扱っている。(d)項は,組織形態の変更のみを伴う取引に関する会社 資産の譲渡に関係している。これら二つの状況において,過去に流通した欠陥製造物に 起因する危害に対する責任は,譲渡取引から生れた企業体に負わせるべきである。形態 的ではなくとも実質において,資産譲渡後の企業体が欠陥製造物を流通すれば,当然そ れに責任を負わせるべきである。単なる形態上の変更が実質を支配すると認められるの であれば,操業を継続しようと意図する会社は,見せかけの取引をして,実際には費用 を全くかけないで(at practically zero cost)潜在的責任を定期的に洗い落とし,それに よって不合理にも,製造者や流通者が製品安全のために投資しようとする気持を衰えさ せ,かつ後日欠陥製造物が危害を生ずるに至った時,不公正にも不法行為原告に適切な 救済を与えるのを拒むだろう。

ごく少数の裁判所は,本条に述べたルールよりも製造物責任請求者にとってより有利 な承継者責任ルールを創り出した(fashioned)。これらの少数派ルールは,実際に,直 前に述べた「形態変更のみ(change in form only)」という例外を拡大し,被承継者が過 去に流通した製品ラインを承継者が継続しているという状況を含ませた。少数派の考え は,資産譲渡以前に被承継者が販売した製品に起因する危害に対する請求に対して,製 造のための資産を購入する承継者は,不法行為上の賠償責任を負担しないで,被承継者 の営業上ののれんや名声を利用する恩恵を受けることは許されるべきではないという信 念に基づいている。この少数派意見をより強く支持する論拠は,承継者に責任を負わせ ることは資産譲渡に対して被承継者が受け取る代金を減額させ,それにより被承継会社 の支配人達が事業譲渡以前に注意に対して精力を注ぐ動機付けを強化するのに役立つと されることである。

この論法(reasoning)は,この問題を調べた大多数の裁判所にとっては説得性がない ことが証明された。(a)項乃至(d)項に設けた例外を乗り越えて承継者責任を拡大す ることは,多くの裁判所の判断によれば,不公正であり,かつ社会的に無駄遣い(waste- ful)だとされた。資産譲渡前の欠陥により危害を受けた資産譲渡後の原告は,資産譲 渡が判決を満足させる機会を金銭的に損なうことは許されないと期待する権利を有す る。しかし,譲渡は,譲渡がなかった時よりも機会を一層ふやすべきだ,と彼らは正当 に主張することはできない。承継者が被承継者よりも金銭的に有力であるという可能性 のある場合において,譲渡以前の製造物欠陥に対して,より大きな責任を負わせること

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

8(452

(9)

は,もし譲渡が行われなかったとすれば提供されたであろう基金と較べて,かかる欠陥 により傷害を受けた者に役立てられる基金を不当にもふやすことになるだろう。

裁判所が認めてきたように,資産譲渡後の原告の権利を譲渡前の被承継者の正味価値

(net value)と等しい総額に制限しようとする責任ルールを実行し,かつ管理すること は困難であり,しばしば不可能である。不法行為判決は,それぞれ個別に種々の管轄区 で下される。総額において不法行為判決があらかじめ予定した金額を超過しないように する中央権力は存在しない。かように,譲渡時点の正味価値に限定しない少数の州にお ける拡大された承継者責任ルールは,資産譲渡が伝統的例外((a)項乃至(d)項に示 されたような)を満足させない場合に,原告の財産回復を不公正に減額するかも知れな いという不公正(injustice)の一つの危険を,その譲渡が不法行為原告に資産譲渡に従 事する会社の負担で,つまりは最終的に一般消費者の負担でタナボタ(windfall)を与 えるかも知れないというもう一つのより大きな不公正と置き換えることになる。

さらに,より拡大された責任ルールの実質的な社会的費用は,極めて多数の不法行為 原告に実際上恩恵を与えることなしに発生するであろうことが大多数の裁判所によって 結論付けられてきた。多くの場合,資産譲渡以前に流通された製品に対する将来の責任 の大きさ(magnitude)を査定することは不可能ではないにしても困難である。大多数 の裁判所が認めてきたように,一般ルールとして承継者責任を負わせることの結果は,

明らかに買主に責任を問わないバラバラの資産売却(piecemeal disposition of assets)が 採算のとれている事業の一部として売却することに代替する望ましい手段であるという 点まで譲渡資産の価格を押し下げるだろう。その場合,譲渡以前の製造物欠陥によって 危害を受けた製造物責任請求者は,回収不能の判決を貰っただけの結果に終るという危 険をなお負担することになろう。採算のとれている事業としての被承継者の資産を保持 するという社会に対する利益は犠牲にされ,不法行為請求者に対する同等の利益もなく なるだろう。

そして,より拡大された承継者責任ルールが必ずしもバラバラの資産譲渡につながる とは言えないにしても,かかる責任ルールは,会社を管理する法の目的を傷つける恐れ が生ずるほどに,採算のとれている事業の譲渡に対して受け取れる価格を押し下げるだ ろう。会社組織によってかなえられる目的の一つは,資本形成を促進するために株主に 対する危険を制限し,それに対する確実性を持たせることである。かように,株主の当 初危険は持株の価値が限度であり,将来の潜在的責任を負うことなしに,株式を売却す ることにより投資から撤退することができる。より拡大された承継者責任ルールは,会 社資産の譲渡を著しく制限することにより,株主の投資を脅かし,それによって株主の 投資を促進しようとする会社法の目的を挫折するようになるだろう。

承継者がしばしば被承継者と同じ商標を用いて被承継者と同じ製品の製造を続ける

企業合併による承継者の責任(中村) 453)9

(10)

時,消費者は,被承継者の製品の背後に承継者が立っているという正当な期待を持つこ とを,多数者ルールの批判者達は言う。彼らによれば,資本形成についての承継者責任 の効果とは別に,消費者のこのような期待を裏切ることは不公正であるとされる。しか し,これらの場合における危害の原因となった被承継者の製品は,資産譲渡に先立って 流通されたものであり,その時承継者の財政的能力に対して消費者が信頼を持てようは ずはなかったという事実を,この主張は見逃している。被承継者による資産譲渡以前に 行われた流通に対して,承継者に責任を負わせることを正当化するために,承継者に対 して資産譲渡後の期待をかけることは,論理的に成り立たないことである。

c.「特別な状況がなければ責任なし(Non−liability in the absence of special circum- stances)」(a)項乃至(d)項に述べた状況がなければ,他の会社から製造のための資 産を買い取る承継会社は,承継者が資産を取得する前に,被承継者が販売または他の方 法で流通した欠陥製造物に起因する危害に対して責任を負わない。資産がバラバラに買 い取られる時,いわゆる承継者は,

10

第1条に述べた責任ルールに基づいて製品を販売も 流通もしていない。企業体の継続を証明しようとする企ては,本条に定めた条件に基づ いてのみ認められる。承継者は,自分自身が資産取得後に販売する欠陥製造物に起因す る危害に対して,第1条乃至

11

第4条の下に責任を負う。しかしながら,本条に述べた状

────────────

1 欠陥製造物に起因する危害に対する商業的売主または流通者の責任(Liability of Commercial Seller or Distributor for Harm Caused by Defective Products)

製造物を販売または他の方法で流通することを業とする者が欠陥製造物を販売または流通したとき は,その欠陥に起因する人身または財産に及ぶ危害に対して責任を負う。

1 第1条は注10を参照。第2条〜第4条は以下の通り。

2 製造物欠陥の類型(Categories of Product Defect)

販売または流通の時点で製造物が製造上の欠陥を含むか,設計上の欠陥を有するか,または不適切な 指示もしくは警告により欠陥があるときは,その製造物は欠陥製造物である。

(a)製造物を準備し,市販するに際しあらゆる注意を払ったとしても,その製造物が意図した設計から 逸脱しているときは,その製造物は製造上の欠陥を有する。

(b)製造物によって惹起される危害の予見可能な危険が,売主,他の流通者または流通の商業的連鎖過 程の先行者(predecessor)による合理的な代替設計の採用により,削減または回避可能であり,その 代替設計の不採用がその製造物の合理的安全を欠くに至らしめたときは,その製造物は設計上欠陥が ある。

(c)製造物によって惹起される危害の予見可能な危険が,売主,他の流通者または流通の商業的連鎖過 程の先行者による合理的な指示または警告の提供により,削減または回避可能であり,その指示また は警告の不提供がその製造物の合理的安全を欠くに至らしめたときは,その製造物は指示または警告 が不適切であることを理由に欠陥がある。

3 製造物欠陥の推定を指示する状況証拠(Circumstantial Evidence Supporting Inference of Product Defect)

以下の状況に該当するときは,特定の欠陥を立証することなく,原告の受けた危害が販売または流通 の時点で存在する製造物の欠陥に起因したことを推定することができる。

(a)原告に危害を与えた事故が,通常では製造物欠陥の結果として生ずる種類のものであったとき,お よび

(b)原告に危害を与えた事故が,特定の事故において,販売または流通の時点で存在する製造物欠陥以 外の原因の唯一の結果によるものではなかったとき。

4 製品安全に関する制定法または行政規則の不遵守および遵守(Noncompliance and Compliance with Product Safety Statutes or Regulations)

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

0(454

(11)

況がない場合には,その時より前に他人が販売した欠陥製造物に対しては責任を負わな い。

例示

1.芝刈機(lawn mower)を製造し販売するABC Corp.はそのすべての資産を現金

で,役員,取締役,株主が異なる製造会社XYZ Corp.に譲渡する。そして,ABCは その売得金を株主に分配して,解散する。ABCは解散を規定したすべての制定法に従 っており,本条に述べた例外のどれにも該当しない。XYZは,ABCの従業員や支配人 の大部分を引き取り,芝刈機の製造を続ける。その芝刈機のいくらかはABCが過去に 製造したものと同じである。XYZに資産が譲渡されるより前にABCが製造し流通し た欠陥のある芝刈機により,資産譲渡後3年目に使用者が怪我をする。XYZはその芝 刈機の使用者が被った怪我に対して責任を負わない。

2.資産譲渡後XYZが製造し流通した欠陥のある芝刈機により譲渡後3年目に使用

者が怪我をする点を除いて,事実は例示1と同じ。XYZはその芝刈機の使用者が被っ た怪我に対して責任を負う。

d.「承継者が責任を引き受けるという同意(Agreement for successor to assume liabil-

ity)」 被承継者が販売した欠陥製造物に対して承継者が責任を引き受けることに同意

する時は,(a)項の下で同意の条件に従って責任が課せられる。一般問題として,契約 法がこの例外の適用を支配する。裁判所は,たとえその同意が製造物責任に特に言及し ていなくても,製造物責任請求を含む被承継者の責任を承継者が引き受けるという一般 的陳述であると解釈してきた。しかし,製造物責任は,承継者による製品サービスまた は取替え(replacement)についての特定義務の引受けによって黙示的に引き受けられる ものではない。

例示

3.資産譲渡の同意の中にXYZがABCのすべての責任を引き受けるという約束が含

まれている点を除いて,事実は例示1と同じ。XYZはその芝刈機の使用者が被った怪

────────────

欠陥のある設計または不適切な指示もしくは警告に対する責任に関して,

(a)製造物が製品安全に適用される制定法または行政規則を遵守していないときは,その制定法または 行政規則により削減が求められている危険について,その製造物には欠陥があるものとする。および

(b)製造物が製品安全に適用される制定法または行政規則を遵守しているときは,その制定法または行 政規則により削減が求められている危険について,その製造物に欠陥があるか否かを判断する際に,

適正に斟酌される。ただし,かかる遵守は,法律問題として製造物欠陥の事実認定を排除するもので はない。

企業合併による承継者の責任(中村) 455)1

(12)

我に対して責任を負う。

e.「負債または債務を逃れるための詐欺的譲渡(Fraudulent transfer in order to avoid debts or liabilities)」(b)項は,詐欺的譲渡を取り締まる関連州法を参照し取り込んで いる。承継者製造物責任以外の関連では,譲渡者の現存する債権者のために,詐欺的譲 渡は無効にすることができる。これに関連して,詐欺的譲渡は,譲渡後の不法行為原告 に対する責任を負わせるための根拠を提供する。一般の債権者が被譲渡者に対して救済 を求めつつあるという事実は,不法行為原告が(b)項に基づく救済を求めることを妨 げるものではない。何によって詐欺的譲渡が構成されるかは,適切な州法を参照するこ とによって決定される。

例示

4. ABCのXYZに対する資産の譲渡が,ABCの欠陥製造物によって危害を受けた不

法行為原告を強制可能な救済を受けさせないで(without enforceable remedies)放置して おくという両者間の計画の一部としてなされた点を除いて,事実は例示1と同じ。取引 が適切な州法の下で詐欺的譲渡を構成するならば,XYZは,芝刈機の使用者に対する 危害に対して責任を負う。

f.「新設合併または吸収合併(Consolidation or merger)」 二つの会社間で制定法上

の新設合併または吸収合併が行われる時,製造物責任は(c)項に基づき,承継会社に 移る。より困難な問題は,制定法上の吸収合併がない場合,事実上の吸収合併(de facto merger)が行われたか否かである。事実上の吸収合併を支配する地域法(local law)に 決定力がある。(c)項に基づく事実上の吸収合併が行われたか否かは,通常,以下によ って決まる。(1)経営者,従業員,場所(location)および資産の継続があるか否か,

(2)譲渡会社の株主が被譲渡会社の株主になれるように,承継会社はその株式の割当を して被承継会社の資産を取得したか否か,(3)被承継会社はその通常の営業を資産譲渡 後直ちに,または間もなく止めたか否か,および(4)承継会社は被承継会社の正常な 操業が途切れずに継続するのに必要な被承継会社の債務および負債(liabilities and obli- gations)を引き受けたか否か。

例示

5.資産譲渡がXYZの株式を見返りとして行われ,適切な州法に基づきABCとXYZ の制定法上の吸収合併を構成する点を除いて,事実は例示1と同じ。XYZは芝刈機の 使用者に対して責任を負う。

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

2(456

(13)

6.資産譲渡がXYZの株式を見返りとして行われ,ABCはそのXYZの株式と交換 に自分の株主から自分自身の株式を取り戻すことを除いて,事実は例示1と同じ。ABC は営業を止め,その仕事はXYZが同じ経営者と従業員を使って同じ場所で再開する。

ABCとXYZの事実上の吸収合併が行われたことが適切な州法によって決定されるな らば,XYZは芝刈機の使用者に対して危害に対する責任を負う。

g.「被承継者の継続(Continuation of the predecessor)」「単なる継続(mere continu-

ation)」という例外として,多くの裁判所が呼んでいる(d)項に認められた例外は,被

承継会社の実体にうわべの再指名(formal redesignation)はあったが,基本的実体にお いて殆どまたは全く変わらない時に適用される。継続という最も重要な徴候(indicia)

は,被承継者の営業活動の継続に加えて,被承継会社と承継会社において役員,取締役 および株主に共通の同一性があることである。少数の裁判所は,「事業の継続(continu-

ity of enterprise)」と呼ぶ,より広義の例外を認め,たとえ承継者の会社形態が被継承者

と異なっていようとも,被継承者の営業活動を継続することに対して継承者に責任を負 わせる。本条は,かかる少数派の立場には従っていない。

例示

7. XYZがABCと同じ役員,取締役および株主をかかえた会社である点を除いて,

事実は例示1と同じ。資産譲渡後,XYZはABCが過去に行ったのと同じ製造と流通 の仕事を続ける。XYZが(d)項に基づき,ABCの「単なる継続」であると判定(deter-

mine)されるならば,XYZは芝刈機の使用者に対して責任を負う。

h.「被承継者がそのすべての資産を譲渡して廃業する必要性(Necessity for the prede- cessor to transfer all of its assets and go out of business)」 本条に述べた承継者責任の 基礎を適用する殆どすべての判決は,承継者に対して自己の全資産を譲渡した後,自分 自身は解散するか,または他の方法で操業を止めた被承継者と係わりを持っている。実 際問題として,被承継者の廃業は,不法行為原告にとって,回復のためには承継者を当 てにする必要がしばしば生ずる事態である。(c)項と(d)項に設けた例外,すなわち 吸収合併および継続は,被承継者がそのすべての資産を承継者に譲渡し,少なくともう わべは存在することを止めた時,最もしばしば重要性を持つ。しかし,ある大会社がそ の一事業部門を譲渡し,その会社はその譲渡後も存続するような場合については,(c)

項と(d)項に設けた例外が生じないだろうという理由はない。そして(a)項と(b)

項に述べた例外は,被承継者がその資産の一部を譲渡し,その後もその者が存続する場 合にも,生ずるだろう。

企業合併による承継者の責任(中村) 457)1

(14)

i.「本条のルールと承継者の独立した警告義務との関係(Relationship between the rule in this Section and the successor’s independent duty to warn)」 本条は,被承継者 の欠陥製造物に起因する危害に対する承継者の責任を取り扱ったものであって,承継者 自身による資産譲渡後の不法行為を前提としたものではない。承継者が資産譲渡後にお いて被承継者の顧客に警告しなかったことに対する承継者の責任に関するルールについ ては,第13条を参照されたい。

筆者のコメント

1.伝統的ルールとその一部修正

本リステイトメント第12条において採用された(a)項乃至(d)項に述べられた四 つの状況に該当する時は,承継者を例外的に有責とするルールは,本来,伝統的な会社 法のルールである。会社の所有権(ownership)を移転するには,ふつう三つの方法が あ

12

る。第1に,制定法による吸収合併(statutory merger)。吸収合併とは,一つの会社 がもう一つの会社に吸収され,その会社の一部になることを言う。アメリカでは実質的 にすべての法域に,これに関する制定法がある。生き残る会社は消え去る会社の全部の 負債・債務(不法行為に基づくものも含む)を引き受ける。第2に,株式の売却(sale of stock)。この方式では,株主は変わっても会社の機構や実体(structure and entity)は 変わらない。これら第1,第2の方式では,製造物責任訴訟は,実存する会社を相手取 って行われる。第3に,資産の売却(sale of assets)。この場合には,消費者の権利は影 響を受ける。伝統的会社法では,ある会社の資産を買う会社は,自動的に売手会社の負 債や債務を引き受けることはない。売手会社は,解散以前に,自分自身の負債を支払う 責任がある。しかし,欠陥製造物によって被害を受ける事態が生ずるのは,売手会社が 解散した後幾年も経ってからだというケースがあるので,その場合,被害者は救済され ないまま放置される懸念がある。他人の全く独立した行為に対しては責任を負わないと するのが法の基本原則である。

しかし,形式上は別会社の資産の買取りとしながら,実質的には吸収合併するとか,

姿を変えて事業を継続するとか,故意に債権者を欺くための工作をした取引を行うこと があるので,これらに対する規制として例外ルールを設け,承継者に責任を負わせる必 要があった。これらの例外ルールが第12条の四つの例外ルールであり,1970年代以降 の承継者責任訴訟判決においては,これら四つを並べる順番はマチマチであっても,必

────────────

Frumer and Friedman, Products Liability, Matthew Bender & Co., Inc., New York, 1997, p. 7−4.以下の「筆 者のコメント」は,文献としては,この本を下敷として使っている。加除式の本でsupplementが届け ば,新旧部分を取り替えることができるので便利である。

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

4(458

(15)

ずと言ってよいほど明示され,言及されている。筆者の調べた限りでは,その最も早い 事例は1968年のケー

13

スであった。

(1)第1の例外 第12条(a)項に該当する承継者による契約責任の明示的引受けで ある。しかし,裁判所の中には,不測の不法行為責任については,とくにかかる責任を 明示的に引き受けるとしない限り,認めないとするところがあるようであ

14

る。また,承 継者がかかる責任引受けの特約を被承継者と同意することは稀のようであ

15

る。

(2)第2の例外 第12条(b)項に該当する被承継者資産の詐欺的移転。この規定は 資産売却会社に対する債権者の保護がそもそもの目的であったが,税金対策や製造物責 任請求に対する対策としても用いられることがある。譲渡資産の見積り額を不当に低く したり,ゼロにする(例えば贈与にする)場合,詐欺的譲渡とされることもある。しか し,実際にはかかる事例は少ない由であ

16

る。

(3)第3の例外 第12条(d)項に該当する,承継者が被承継者の「単なる継続(mere

continuation)」と見なされる場合。「単なる継続」を説明するのに,新会社が旧会社の単

なる「新しい帽子(new hat)」だと言う事例があ

17

る。ある会社が同じ仕事を別の名前で 単に継続する場合,かつて仕事をしていた時に負担した責任を,欠陥製造物に対する責 任を含めて,承継会社に負担させるのは,理屈にかなったことである。その共通点捜し の例としては,株主,役員,取締役などの新旧比較が挙げられる。Cyr v. B. Offen &

Co.事件判決(

18

1974年)を事例として見よう。

Mr. Offenは個人経営の印刷用プレス機および乾燥機製造業のオーナーであったが

1962年に死去した。彼の従業員達が資金を出し合って彼の資産を買い取り,会社を設 立した。この会社は,契約書でもって被承継者の不法行為責任の引受けを排除したが,

以前と同じ従業員と支配人を使い,同じ場所で操業し,その会社は以前と同じ事業をし ているという広告を出した。1959年,つまり Mr. Offenの個人経営の頃に売った機械 の欠陥で,ある印刷工場の従業員Cyrが1969年に怪我をした。裁判所は,会社の実体 よりも操業の継続を重視し,新会社に損害賠償金の支払いを命じた。会社法や契約法で は従来免責が認められるところであったが,本件では裁判所は承継者責任を重視し,明 らかに態度の変化を見せた。つまり,これは伝統的ルールの一部修正例である。

本件に適用された「単なる継続」例外ルールは,上記第2の例外の「詐欺的移転」例 外ルールよりもよく用いられているそうだが,次に述べる「事実上の吸収合併」例外ル

────────────

Kloberdanz v. Joy Manufacturing Co., 288 F. Supp. 817(D. Col. 1968) Frumer and Friedman, op. cit., p. 7−15.

Ibid., p. 7−16.

Ibid., p. 7−18.

Armour−Dial, Inc. v. Alkar Eng’g Corp., 469 F. Supp. 1198, 1201−02(E. D. Wis, 1979)

501 F. 2 d 1145(1 st Cir. 1974),cert. denied, 421 U. S. 965(1976),applying New Hampshire law.

企業合併による承継者の責任(中村) 459)1

(16)

ールよりは用いられることが少ない由であ

19

る。

(4)第4の例外 第12条(c)項に該当する「事実上の吸収合併(de facto merger)。 二つの会社間で制定法上の吸収合併が行われれば,製造物責任は問題なく承継会社に引 き継がれる。事実上の吸収合併が行われたか否かは,コメントfに述べられているよう に,地域法(local law)に決定力がある。なお,新設合併は現実にはアメリカで行われ ていない

20

由で,筆者が調べた文献中にも実例が見当たらないので,この「筆者のコメン ト」の中では触れないことにする。ここでは二つの事例を挙げて検討することにしよ う。

第1に,Shannon v. Samuel Langton Co.事件判

21

決(1974年)。この事件では,原告Shan- nonはLangton社が1952年に製造した機械により1967年に怪我をした。同社は,Shan- nonが怪我をする1年前にHarris Intertype Corp.という別の会社に,Langtonの社名を 含む全資産が買い取られた。資産譲渡には現金ではなく,承継会社の株式で支払われ た。裁判所は,この買付けは,事実上の吸収合併のすべての要件を満たしていると認定 し,承継会社に欠陥製造物に対する責任あり,と判断した。すべての要件とは,①事業 の継続があること,②株主の継続があること。すなわち,買付会社は,売却される会社 の株主に自己の株式を与えること,③売却された会社はすみやかに解散し,営業活動を 止めること,④承継会社は通常の営業を続けるのに必要な債務および負債(liabilities and obligations)を引き受けること。以上,四つであ

22

る。

第2に,Turner v. Bituminous Casualty Co.事件判

23

決(1976年)。本事件は,Shannon 事件の2年後に生じた事件で,Turnerが怪我をした機械は1968年に上記と同じHarris 社から原告Turnerの雇主が中古品として買ったものである。同機械は,T. W. & C. B.

Sheridan Co.が 製 造 し た も の で,同 社 は1964年 にHarris社 に よ り,の れ ん(good

will),社名(name)を含むその全資産が買い取られた。買取りが株式ではなく,現金

で支払われた点がShannon事件と大きく異なった点である。すなわち,この事件では 株主の継続性は失われているが,Turner裁判所は他の状況が事業の継続性があること を示しておればそれでよいとし,形式よりも実体を重視する態度を示した。何故なら,

被害者にとっては会社譲渡の方法が株式か現金かという区別は全く無意味だからであ

24

る。この判決も伝統的ルールを一部修正する例である。なお,本事件被告のBituminous Casualty Co.は労災保険会社である。

────────────

Frumer and Friedman, op. cit., p. 7−24, footnote 47.

0 脚注6を参照。

370 F. Supp. 797(W. D. Mich. 1974) Frumer and Friedman, op. cit., pp. 7−30〜7−34.

244 N. W. 2 d 873(Sup. Ct. Mich. 1976) Ibid., p. 878.

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

6(460

(17)

しかし,Turner判決のように,事実上の吸収合併に柔軟な態度を示す裁判所は数少 なく,その後の判例では,支払は株式でなければ事実上の吸収合併ではないとする判決 が多い。

2.製品ライン説の是非

承継者責任を支配する第12条の(a)項乃至(d)項から成る四つの例外ルールはも ともと会社法の原則として債権者,株主,企業体を保護するために設けられたものであ るから,これを厳格に適用すれば本来保護の対象とされていなかった欠陥製造物の被害 者たる消費者,すなわち製造物責任請求者は,裁判所から門前払いされる恐れなしとし ない。前節「伝統的ルールとその一部修正」中に例示した,第3の例外,すなわち「単 なる継続」ルール事例の原告

25

Cyrにしても,また第4の例外,すなわち「事実上の吸収 合併」ルール事例の原告

26

Turnerにしても,裁判所がルールを柔軟に解釈してくれたか

らこそ救済されたのであった。

そこで欠陥製造物の被害者をより救済しやすくするために,会社法に対する新しい例 外を創設すべく「製品ライン(product line)」の例外が提唱された。その事例はカリフ ォルニア州最高裁のRay v. Alad Corp.事件判

27

決(1977年)である。この例外は,Cyr 判決の「単なる継続」ルールとは異なり,被承継者の実際の製品ラインが承継者によっ て継続されているか否かに焦点を当てるものである。換言すれば,この例外は,営業や 事業が継続しているか否かを見るのではなく,製品の製造や流通が継続して行われてい るか否かを見るのであ

28

る。

原告RayはAlad Corporation(Alad I)が製造した欠陥のある梯子(ladder)で怪我を した。Alad Iは,1968年,すなわち事故が起こる以前にその全資産をLighting Maintenance

Corporationに売却し,間もなく解散した。買主Lighting社は,その社名を変更し,元

の会社と同じAlad Corporation(Alad II)と名乗った。第1審では,裁判所はAlad IIの 略式判決申立(motion for summary judgment)を認めたが,上訴審では原審判決が覆え され,Alad IIが有責とされ

29

た。

その論拠とするところは,承継者は被承継者より製造業を引き継ぎ,被承継者と同じ 製品ラインの製品の製造を継続し,かつその製品を流通しているのであるから,被承継 者の製品の欠陥に対して責任を負うべきであ

30

る,とする。この結論は,次の三つの政策

────────────

5 脚注18参照。

6 脚注23参照。

560 P. 2 d 3(1977)

Frumer and Friedman, op. cit., p. 7−45.

560 P. 2 d 3, 4(1977) Ibid., p. 11.

企業合併による承継者の責任(中村) 461)1

(18)

的考慮によって正当化される。①承継者による被承継者の事業取得により,原告は元の 被承継者に対して賠償を求めることが実際上できない。②承継者は,被承継者の危険分 散の役目を引き受けることができる。③承継者は事業の継続において被承継者ののれん

(good will)を利用しているのであるから,それに見合う責任を引き受けるのが公正で あ

31

る。これら三つのうち,最後の③が重要視される。Alad IIはAlad Iの名前,のれ ん,顧客リストを使用したほか,同じ製品ラインの梯子の製造を継続し,潜在的顧客に 対し,自分は元の会社と同じだ,と言った。かようにAlad IIはAlad Iが築き上げた信 望(reputation)を利用したのであるから,Alad IIはAlad Iの欠陥製品が原因で生じた 怪我に対して責任を負うのが公正かつ正当(fair and equitable)である,とされ

32

た。

かくして新しい「製品ライン」例外がカリフォルニア州において1977年に確立され たが,その後の動向を見ると本リステイトメントがコメントbにおいて指摘するよう に,本例に従う州は少数である。それら少数派の州とは,Frumer and

33

Friedman によれ ば,New Jersey(

34

1981年),Pennsylvania(

35

1981年),Washington(

36

1984年)の3州であ る。

同じくFrumer and Friedmanにより,製品ライン説の是非を以下に対比することにし

よう。

(1)製品ライン説を是とする理

37

1)会社法の下では,欠陥製造物を市場に出した会社は正規の手続を終えて解散し てしまっている以上,被害者はもはやその者を相手取って訴えることができない。し たがって被害者は,承継会社に求償せざるを得ない。

2)承継会社は元の会社の知識,経験,技術を利用して操業するので,製品の欠陥 については,以前製造された製品の欠陥まで含めて発見し,調査する十分な管理能力 を有する。

3)承継会社は承継した製品ラインの売上げにより利益を計上している。利益を得 ている者が製品に伴う危険を負担するのは当然である。

4)承継会社は製品の潜在的欠陥を発見し,製品の費用を見積り,もし製品が傷害 の原因となるようであれば,かかる傷害の費用を全消費者に分担してもらえるように することのできる最良の地位に居る。承継会社は,不測の傷害危険を負担するが,そ の危険は責任保険によってカバーすることができる。

────────────

Ibid., pp. 8−9.

Ibid., p. 10.

Frumer and Friedman, op. cit., pp. 7−49〜7−50.

Ramirez v. Amsted Ind., 86 N. J 332, 431 A. 2 d 811(1981)(Ibid., p. 7−50, footnote 33)

Dawejko v. Jorgensen Steel Co., 290 Pa. Super. 15, 434 A. 2 d 106(1981)(Ibid., p. 7−50, footnote 33) Martin v. Abbott Labs, 102 Wash. 2 d 581, 689 P. 2 d 368(1984)(Ibid., p. 7−50, footnote 33) Frumer and Friedman, op. cit., pp. 7−53〜7−64.

同志社商学 第54巻 第4号(23年2月)

8(462

(19)

(2)製品ライン説を非とする理

38

1)承継会社に買収された会社の欠陥製造物に対して承継会社に責任を負わせるこ とは,会社資産の自由な譲渡が制限されることになる。その制限要因の一つは,譲渡 主の事業に対する合理的な譲渡価格取決めの困難さである。その要因は,すでに市場 に置かれた欠陥製造物から生ずる将来のクレームの大きさを予想することが不可能な ことである。

2)会社の買付者,すなわち承継会社は,財産法(property law)の下で,善意の買 付者(bona fide purchaser)が不知の危険から保護されるのと同じ保護を受ける権利 を有す

39

る。

3)承継会社は問題の欠陥製造物を支配しておらず,販売もしておらず,かつまた その販売から利益を得ていないのに,責任だけ負わされるのは不公正である。

4)承継会社の中には,とくに小企業の場合,責任保険を購入できないという不公 正さに遭遇する場合がある。消費者の場合には,不測の事態に備えて保険に入ること もできないし,会社のように事故費用を分散する能力もない。付保可能性の問題は,

州議会が解決するのが最も望ましい,と多くの裁判所や有識者によって唱えられてい る。

3.むすび

以上のようにFrumer and Friedmanは,製品ライン説の是非両論を対比させた後,彼 ら両人の意見として次のように述べる。「最近の傾向として,被承継者の欠陥製造物に 対して,承継者を有責とするケースがふえてきている。現存する会社法の例外を拡大す るよりも,製品ライン説に基づく責任を課するやり方のほうが被害を受けた原告および 被告とされる承継会社の双方にとって最大級の公正さを提供する。このやり方は伝統的 なルールからは根本的にはずれている(radical departure)と非難されているが,製品ラ イン説の例外は,実在する承継者責任説の中で最も穏健なものであ

40

る」。これに続く結 論として彼らは次のように述べる。「会社法は,会社の商業的関心事に焦点を当てる が,製造物責任法は個々の消費者と消費する公衆に焦点を当てる。裁判所の役目は,社 会全体にとってより大きな利益をもたらすためにはどうすればよいかという解決点に到 達するために,個々の法の背後にある広い政策的配慮のバランスをとることだ。……大 部分の裁判所は,①会社法の一般ルールに対する伝統的例外を拡大するか,②承継者に 対して被承継者の製品がつくった潜在的危険について警告する義務を負わせるかの方法

────────────

Ibid., pp. 7−64〜7−72.

Ibid., p. 7−66.しかし,この主張は,買付会社は潜在的製造物責任については十分知識があるのだか

ら,説得性に乏しい,とされる。

Ibid., p. 7−75.

企業合併による承継者の責任(中村) 463)1

参照

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