破綻型上場廃止率と実現リターン : PBRを利用した 株式投資の視点から
著者 桜井 貴憲
雑誌名 同志社商学
巻 65
号 6
ページ 1018‑1063
発行年 2014‑03‑15
権利 同志社大学商学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013472
破綻型上場廃止率と実現リターン
──PBRを利用した株式投資の視点から──
桜 井 貴 憲
Ⅰ 本論文の目的と構成
Ⅱ 仮説,分析方法ならびに分析対象企業
Ⅲ PBRの絶対的水準と破綻型上場廃止率
Ⅳ PBRの絶対的水準と実現リターン
Ⅴ PBRの絶対的水準別の破綻型上場廃止率と実現リターン
Ⅰ 本論文の目的と構成
主に
1990
年代から2000
年代にかけて,PBRの絶対的水準が低い銘柄が数多く出現 した。それらの銘柄から構成されるポートフォリオに分散し,かつ時間的にも分散し,それぞれの銘柄を中期的(3年程度)に保有するバリュー投資戦略が,PBRの水準が高 いポートフォリオを保有する場合と比較して,高い実現リターンをもたらしてきたこと は明らかであ
1
る。このようなバリュー投資戦略をとる場合における懸念事項の一つは,
投資した銘柄が上場廃止になることによって損失を被るかもしれないことである。
PBR
の水準が低いということは,貸借対照表において会計的に測定される自己資本 に比べて,相対的に株価が低水準にあることを意味している。低水準な株価は,一般的 に,経営不振等に起因して,投資家が当該企業の将来業績について悲観的である場合な どに観測され2
る。とくにエクストラポレーション・バイアスが強く効いていると考えら れるような場合には,投資家に経営破綻や上場規程抵触を想起させ,不安心理も手伝っ てよりいっそう低水準な株価が形成され,同時に
PBR
が低い数値となって計測され る。この現象はバリュー投資家に有利な投資機会を提供することになる。事実,その後に 高リターンがもたらされることはこれまでの実証研究で明らかになってきたことであ る。しかしながら,誤解してはならないのは,低
PBR
銘柄に分散させ,時間的にも分────────────
1 桜井(2010)等において,PBRが低い銘柄から構成されるポートフォリオに分散して中期的に投資す ると,その他のポートフォリオに比較して,その後の実現リターンが高い位置に分布するということが 示されている。ただし保有期間によっては必ずしもそうではない。また将来的にこの戦略が通用するこ とを保証するものでもない。なお,筆者が超過リターンではなく,実現リターンにこだわる理由につい ては桜井(2010)において記述している。
2 たとえば,将来のROEが株主資本コストを下回ると投資家が予想しているような場合である。
218(1018)
散させて投資した場合に,その後のリターンが統計的に高い位置に分布するということ であって,すべての低
PBR
銘柄が高リターンをもたらすわけではないということであ る。低PBR
銘柄に投資した後に株価が上昇しない,あるいは逆に下落する銘柄も数多 く含まれている。なかには経営破綻に陥ったり,時価総額基準に抵触したり,取引量の 減少によって流動性基準に抵触するなどして上場廃止が決まり,大きなマイナスのリタ ーンが計測される銘柄もある。上述のように,そもそも低PBR
というのは,当該株式 の発行企業が業績不振なときに観測されるのが一般的であり,なかにはそのまま経営破 綻に陥って,上場廃止になる銘柄も当然ながら存在しているからである。もし将来的に上場廃止になる低
PBR
銘柄への投資を回避できるとすれば,バリュー 投資家はより高いリターンを追求することができるようになるであろう。そのためにはPBR
の水準と上場廃止の関係についての分析が不可欠である。PBRと上場廃止は,実 際にはどういった関係にあるのだろうか。これが本論文の主たる課題であり,会計情報 に基づいて株式投資を行うことを考えている投資家が,株式投資でより高い利益を獲得 するために実証的に調査されるべき課題であると考えられる。本論文における分析結果は,破綻型上場廃止が
PBR
の特定の水準に偏って発生して おり,破綻型上場廃止とPBR
が線形的な関係にはないことを示している。これは,そ の水準を回避すれば,上場廃止になる可能性をある程度低く押さえ込みつつ,十分に高 い実現リターンを獲得できる可能性があることを示唆している。また本論文では,そう いった投資機会がこれまでに数多く存在してきた証拠が示されている。同時に,この分析結果は,たとえ公表済で市場に広く行き渡った自己資本に関する会 計情報であっても,高い実現リターンを獲得するという意味で十分に有用であることを 証拠づけてい
3
る。また本論文においては利益情報を敢えて用いていない。これは利益情 報に頼らずに,自己資本の情報だけでも,投資意思決定における有用性が十分に担保さ れていることを証拠づけるためであり,事実,その証拠が示されてい
4
る。
────────────
3 公表済の情報はすぐさま株価に織り込まれるので,(超過リターンを獲得するための)投資の意思決定 に役に立たないという主旨の主張もある。しかし,桜井(2010)でも記述しているように,本論文でも 超過リターンには着目しておらず,超過リターンとの関係で何かを主張するつもりはない。ただし,投 資元本に対して高いプラスの実現リターンを獲得する目的のためには,たとえ公表済であっても,自己 資本の会計情報は十分に有用であると考えている。
4 もちろん利益情報を用いた分析を否定するものではないことは言うまでもない。本論文では記述しない が,むしろ,残余利益モデルが示しているように,自己資本の情報に加えて,将来の利益情報をもうま く利用することができれば,株式の本源的価値をより適切に推定することができる場合もあるだろう。
そして適切に推定された本源的価値をうまく利用できればよりいっそう高い実現リターンを獲得できる であろう。しかしながら,筆者は将来利益の予想というのは実践が非常に難しいと考えている。各種の モデルに見られるように数式で表現するのは簡単だが,数式で表現された変数に実際に将来の数値を予 想してインプットするのはとても難しい。利益の数値に限らず,将来を予想するということが非常に難 しいことは誰もが知るところであろう。
また,決算短信において発表される会社予想(経営者予想)や,さまざまなコンセンサス予想を利用 すればよいという意見もあるだろう。しかしながら,高い実現リターンを得るためには,会社予想や!
破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1019)219
本論文は以下のように構成されている。Ⅱ節では,仮説,分析方法,分析対象企業を 示している。Ⅲ節では,PBRの絶対的水準と破綻型上場廃止率の関係についての分析 結果が示されている。Ⅳ節では,PBRの絶対的水準と実現リターンの関係についての 分析結果が示されている。Ⅴ節では,本論文の主たる課題である破綻型上場廃止率と実 現リターンの関係が示されている。
Ⅱ 仮説,分析方法ならびに分析対象企業
(1)仮説
上述の問題意識から,ここでは
PBR
と上場廃止の関係を考える。上場廃止には,上 場廃止になる原因の発生後に付随するリターンの相違の観点から,大きく2
つのタイプ があり,戦略型上場廃止と破綻型上場廃止に分類することができる。戦略型上場廃止と は,株式移転や株式交換等で完全子会社化されるために上場廃止になるような戦略的な 上場廃止をいう。破綻型上場廃止とは会社更生法や民事再生法の適用など経営破綻を理 由にした上場廃止をいう。本論文では,とくに破綻型上場廃止になる銘柄がPBR
のど の水準に潜んでいる可能性があるのかをまずは明らかにする必要がある。PBRは株価 と1
株当たり自己資本の比率であることから,株価と破綻型上場廃止の関係,自己資本 と破綻型上場廃止の関係をそれぞれ簡単に考えてみる。① 株価と破綻型上場廃止
株価が低い企業というのは,そもそも業績が芳しくないことが多い。それゆえそうい った企業を中心に構成される低
PBR
ポートフォリオには,業績不振のまま回復するこ となく会社更生法や民事再生法の適用申請をするなどして上場廃止になる企業が,他の ポートフォリオに比較して多めに含まれていてもおかしくはない。また,株価が下落すると時価総額が減少する。時価総額が証券取引所が規定する一定 金額以下に減少すると,上場廃止規定に抵触する。したがって,株価が低く
PBR
が低 水準にある企業からなるポートフォリオには,そうでない企業からなるポートフォリオ と比較して,上場廃止になる企業が相対的に多く含まれている可能性がある。このように株価が低迷し
PBR
が低水準にある企業からなるポートフォリオには,そ うではないポートフォリオに比較して,その後に破綻型上場廃止になる銘柄が相対的に 多く含まれている可能性がある。────────────
! コンセンサス予想がどうなるかということを(つまり,他人が将来利益をどのように予想するかという ことを),さらに先回りして予想する必要があるということになり,結局は,将来を予想するという困 難な問題を回避できるわけではない。また将来利益を利用する場合,割引率として用いる株主資本コス トをどのように推計するかという問題も生じることになる。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
220(1020)
② 自己資本と破綻型上場廃止
続いて,PBRのもう一つの計算要素である自己資本と破綻型上場廃止の関係を考え てみる。株価と上場廃止の関係に比べて若干複雑である。まず自己資本がマイナスの場 合,すなわち債務超過の場合,PBRはマイナスとなる。なぜなら分子の株価は常にプ ラスの数値をとるので,分母の自己資本がマイナスになると
PBR
はマイナスになるか らである。債務超過が所定の期間継続すると上場廃止となる。たとえば,東京証券取引 所の場合,1年以内に債務超過を脱しないと上場廃止となる。一般的に,債務超過は複 数年にわたる当期純損失の累積によって生じる現象であることが多く,実際のところ債 務超過に陥った企業がそれを克服するのはなかなか難しい。したがって,債務超過でPBR
がマイナスになっている企業からなるポートフォリオには,数多くの上場廃止候 補が含まれていると考えられる。ただしPBR
がマイナスの場合,PBR がプラスの場合 と理解の仕方が異なるので,本論文の主たる分析の対象にはしていない。つぎに,自己資本がマイナスではないが,僅少な自己資本しか残されていないような 債務超過寸前の銘柄について考えてみる。こういった企業は,一般的に株価も低いのだ が,自己資本が僅かにプラスの数値であるがゆえに,PBRが極端に高い数値となるこ とがある。たとえば,株価は
5
円で,1株当たり自己資本が0.1
円であるとき,PBRは50
という極端に高い数値を示すような場合である。自己資本が極端に薄いのは,一般 的に,長期間にわたる業績不振の現れであり,その後に経営破綻に陥る,あるいは債務 超過となり上場規程に抵触することが多いことを考えると,PBRが極端に高いポート フォリオには,そうではないポートフォリオと比較して上場廃止になる銘柄が相対的に 多く含まれている可能性があ5
る。
上述の①と②から,株価低迷に起因して
PBR
が極端に低い場合と,自己資本が僅少 でPBR
が極端に高い場合に,破綻型上場廃止の候補が相対的に多く含まれているので はないかということが考えられる。しかし,そういった場合を除くと,一般的に,上場企業の大部分は,好不況の波に揉 まれながらも,経営破綻等に至ることなく上場し続けている。それを考慮すると,上述 のように,株価が極端に低いがゆえに
PBR
が極端に低い場合と,自己資本が極端に小 さいがゆえにPBR
が極端に高い場合とを除けば,経営破綻や上場規程に抵触して上場 廃止になることは相対的に少なく,PBR の水準と上場廃止は相関関係があまりないも のと考えられる。つまりPBR
の高低の両端を除けば,破綻型上場廃止に陥ることは少 ないことが想定される。もし
PBR
と破綻型上場廃止に関する上述の考え方が,ある程度現実を説明できると────────────
5 高PBRポートフォリオには,急成長している銘柄や,仕手化して高騰している銘柄等も含まれている ので,高PBRであることがそのまま自己資本が僅少であることを意味するわけではない。
破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1021)221
すれば,PBRと破綻型上場廃止になる割合(以下,破綻型上場廃止率)は図表
2−1
の ようなU
字型の関係になっている可能性がある。これを調べるためには,PBR の水準 ごとにポートフォリオを作成し,それぞれのポートフォリオの破綻型上場廃止率を計算 すればよい。グラフの左右の両端が相対的に高い数値を示すものと期待される。しかし 両端がどの水準からカーブが始まり,どの程度のカーブを描くのか,すなわち緩やかな カーブなのか急カーブなのかを数式等を用いて理論的に導き出すのは困難であり,これ は実証的に確かめるほかない。また,桜井(2010)でも示されているように,PBRと実現リターンの間には図表
2−
2
のような負の相関関係があることがわかっているので,もしPBR
と破綻型上場廃止 率がU
字型の関係であるとすると,破綻型上場廃止率と実現リターンの関係は図表2−
3
のようにC
字型になっていることが考えられる。もし図表2−3
においてC
字型であ ることが確認できた場合に注目すべきは矢印のポイントである。なぜなら,そこは破綻 型上場廃止率が低水準でありながら,高い実現リターンを獲得できるポイントにほかな らないからである。このポイントが実際に存在するのかどうかを検証するのが本論文の図表2−1 PBRと破綻型上場廃止率 図表2−2 PBRと実現リターン
図表2−3 破綻型上場廃止率と実現リターン 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
222(1022)
主たる目的である。ではそのような
C
字型の関係が実際に観察されるかどうかを,PBR
と破綻型上場廃止率と実現リターンの3
つの数値を用いて明らかにしていくことにした い。(2)作業内容
本論文においては,企業ごとに毎月末に
PBR
を計算し,PBRの水準ごとにポートフ ォリオを構築する。そしてそのポートフォリオごとの実現リターンと破綻型上場廃止率 を計算することを通じて,PBR と破綻型上場廃止率の関係,PBRと実現リターンの関 係,そして破綻型上場廃止率と実現リターンの関係を明らかにしていくことを考えてい る。全体の作業の流れは次の通りである。なお,作業を行うにあたり,以下の③とその 他の補助的作業は手作業で行うが,それ以外は統計処理ソフトウェアでプログラムを記 述して一括処理している。① 各企業・毎月末ごとに
PBR
を計算する。これを投資1
件としてカウントする。② 各企業・毎月末ごとに計算された
PBR
をその絶対的水準にしたがってポートフォ リオに分類する。③ 上場廃止になった企業について,その理由を調査し,戦略型上場廃止と破綻型上場 廃止に分類する。
④ 各ポートフォリオに含まれる投資件数のうち,36ヵ月の経過観察期間中に上場廃 止となり投資を継続できなくなった投資件数の割合を上場廃止率として計算する。
⑤
PBR
の水準と破綻型上場廃止率の関係(図表2−1
のU
字型)を確認する。⑥ 投資
1
件ごとに,PBRが計算された各月末の翌月から投資を開始するという設定 で,36ヵ月分の実現リターンを計算する。なお,実現リターンは月次投資収益率 のデータをもとにして,累積月次投資収益率として計算する。⑦
PBR
の水準と実現リターンの関係(図表2−2
の負の関係)を確認する。⑧ 破綻型上場廃止率と実現リターンの関係(図表
2−3
のC
字型)を確認する。(3)PBRの計算方法
PBR
は株価を1
株当たり自己資本で割算して計算する。しかし,実際の投資を考え た場合,単に割算すればよいというものではなく,若干の手間を要する。実際に投資す ることを念頭においた場合,毎月末株価をその時点で入手可能な直近の1
株当たり自己 資本で割算する必要があるからである。たとえば,3
月決算企業について,4
月末のPBR
を計算する場合,4月末の株価データはその時点で入手できる。しかし分母に使う1
株 当たり自己資本のデータは,3月本決算のデータが決算発表で公表されるのは通常5
月 になってからであるため,4月末時点でPBR
を計算する投資家にとって入手可能なの破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1023)223
は
2
月に公表された第3
四半期(前年12
月末が四半期決算日)のデータであ6
る。つま り実際の投資で使用する
PBR
を計算しようとすれば,決算発表される自己資本のデー タが入手可能になる時点のズレを考慮に入れて計算する必要がある。したがって,たと えば本決算が3
月末の企業の場合,PBRの計算に使用する株価と自己資本のデータの 対応関係は次の図表2−4
のようになる。図表
2−4
は3
月決算企業の一例であるが,本論文では,3月決算企業に限定せずに,決算期にかかわらずすべての上場企業を分析対象としているので,それぞれの企業の決 算期にあわせて,各月末の株価と各月末時点で入手可能な本決算・四半期決算データを 用いて計算している。また決算期の変更がある場合もあり,そのような不規則な場合に ついても,PBRを計算する各月末時点で入手可能な直近の
1
株当たり自己資本のデー タを使って計算している。本論文におけるPBR
の算出期間は2000
年1
月から2008
年6
月までの102
ヵ月間である。本論文の分析で使用するのは2011
年6
月までのデータ なので,36ヵ月間の経過観察期間を差し引くと,2008年6
月までがPBR
の算出期間 となる。したがってこの期間を通して上場していた企業については,102件のPBR
を 計算することになる。これを全上場企業について計算する。ただし,算出期間の途中か ら上場する企業や途中で上場廃止になる企業もあるので,単純に[企業数×算出期間中 の月数]が総投資件数となるわけではない。また,上述の条件に加えてもう一つ条件が ある。本論文では,PBRを月末最後の営業日に計算し,それに基づいて翌月最初の営 業日から投資を行うという設定で分析を行う。したがって,月末にPBR
を計算できて も,その月末限りで上場廃止になった場合は分析対象にすることができない。したがっ────────────
6 自己資本はストックなので,四半期データでもとくに問題は生じない。
図表2−4 PBRの計算の一例(3月決算企業の場合)
月 決算期末 決算発表時期 株価 1株当たり自己資本 PBR 1 1月末株価 ÷第2四半期データ(前年11月発表) =1月末PBR 2 第3四半期決算発表 2月末株価 ÷第3四半期データ(2月発表) =2月末PBR 3 本決算期末 3月末株価 ÷第3四半期データ(2月発表) =3月末PBR 4 4月末株価 ÷第3四半期データ(2月発表) =4月末PBR 5 本決算発表 5月末株価 ÷本決算データ(5月発表) =5月末PBR 6 第1四半期期末 6月末株価 ÷本決算データ(5月発表) =6月末PBR 7 7月末株価 ÷本決算データ(5月発表) =7月末PBR 8 第1四半期決算発表 8月末株価 ÷第1四半期データ(8月発表) =8月末PBR 9 第2四半期期末 9月末株価 ÷第1四半期データ(8月発表) =9月末PBR 10 10月末株価 ÷第1四半期データ(8月発表) =10月末PBR 11 第2四半期決算発表 11月末株価 ÷第2四半期データ(11月発表) =11月末PBR 12 第3四半期期末 12月末株価 ÷第2四半期データ(11月発表) =12月末PBR
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
224(1024)
て,上述のような計算で必要な月末株価と
1
株当たり自己資本のデータを入手できるこ とに加えて,翌月最初の営業日にも継続して上場しているという条件を満たす銘柄につ いて,PBR
を企業ごと毎月末ごとに計算することになる。そのような条件を満たすPBR
は
373,170
件であり,これが総投資件数(全体ポートフォリオに含まれる投資件数)となる。
(4)PBRの水準別ポートフォリオの作成方法
上述のようにして計算された
373,170
件のPBR
を その絶対的水準にしたがって,図表2−5
のように3
つのパターンに分けてポートフォリオを作成す7
る。ま ず分類
A
は,PBRが1.0
より低いか高いかによって ポートフォリオを作成す8
る。ただし,PBRがマイナ スの場合と
PBR
が非常に高い場合とはポートフォリ オを別にしているので,全体を4
つに分類しているこ とになる。なお図表2−5
が示しているように,PBR がマイナスのポートフォリオはPF
M, PBR
がプラスで1.0
未満のポートフォリオはPF
0.0−1.0, 1.0
以上10.0
未満 のポートフォリオはPF
1.0−10.0, 10.0
以上の非常に割高な ポートフォリオはPF
H と表記している。つぎに上記の分類
A
ではざっくりとしすぎている ため,PFMとPF
Hとを除いたPF
0.0−1.0とPF
1.0−10.0,すな わちPBR
が0.0
から10.0
ま で に つ い て,0.5刻 み で ポートフォリオを作成したのが分類B
である。分類B
に基づいて分析を行うことで,細かい刻みでPBR
に基づく投資がもたらす投資結果の特徴をある程度明 らかにすることができると考えたからである。つぎに後述の記述統計量が示しているように,PBR の
9
割以上は0.0
から4.0
の範囲に集中している。そ────────────
7 相対的に分位ポートフォリオを作成するのではない。その理由については,桜井(2010)を参照のこ と。
8 1.0を境にポートフォリオを区分したのには理由がある。PBRが1.0を下回っているという現象は,残 余利益モデルに基づけば,将来に獲得されると期待される利益が株主資本コストを下回っており,将来 の残余利益の割引現在価値の合計がマイナスになっているということを意味している。逆に,PBRが 1.0を上回っているという現象は,残余利益モデルに基づけば,将来に獲得されると期待される利益が 株主資本コストを上回っており,将来の残余利益の割引現在価値の合計がプラスになっているというこ とを意味している。したがって1.0というのが1つの区切りになりうると考えたからである。
図表2−5 ポートフォリオの作成
PBR 分類A 分類B 分類C
− PFM −−− −−−
+
PF0.0−1.0
PF0.0−0.5
PF0.0−0.2
PF0.2−0.4
PF0.4−0.6
PF0.5−1.0 PF0.6−0.8
PF0.8−1.0
PF1.0−10.0
PF1.0−1.5
PF1.0−1.2
PF1.2−1.4
PF1.4−1.6
PF1.5−2.0 PF1.6−1.8
PF1.8−2.0
PF2.0−2.5
PF2.0−2.2
PF2.2−2.4
PF2.4−2.6
PF2.5−3.0 PF2.6−2.8
PF2.8−3.0
PF3.0−3.5
PF3.0−3.2
PF3.2−3.4
PF3.4−3.6
PF3.5−4.0 PF3.6−3.8
PF3.8−4.0
PF4.0−4.5 −−−
PF4.5−5.0 −−−
PF5.0−5.5 −−−
PF5.5−6.0 −−−
PF6.0−6.5 −−−
PF6.5−7.0 −−−
PF7.0−7.5 −−−
PF7.5−8.0 −−−
PF8.0−8.5 −−−
PF8.5−9.0 −−−
PF9.0−9.5 −−−
PF9.5−10.0 −−−
PFH −−− −−−
破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1025)225
こでこの範囲について,さらに詳細に調査を進めるために,0.2刻みで細分化してポー トフォリオを作成しているのが分類
C
である。なお,0.2刻みでポートフォリオを作成 する理由は,0.1刻みでより詳細なポートフォリオを作成しようとしたところ,含まれ るデータ数が極端に少なくなってしまうポートフォリオが生じ,適切な分析ができなく なってしまうと判断したからである。また分類C
で4.0
までを範囲としたのも,PBR が高いところを細かい刻みでポートフォリオを作成すると,個々のポートフォリオに含 まれるデータ数が少なくなってしまうことが理由である。(5)上場廃止理由の識別方法
本論文では,上場廃止理由について,リターンに与える影響の相違から,図表
2−6
のように戦略型上場廃止と破綻型上場廃止の2
つに分類することにし9
た。戦略型上場廃 止には,企業集団等の戦略的意思決定による上場廃止を分類する。たとえば,株式交換 や株式移転といった方法による完全子会社化や合併などである。これらの理由による上 場廃止の場合,投資家に深刻な損失を与えることは少なく,むしろ割高な
TOB
価格が 提示されることが多10
い。
それに対して,経営が行き詰まり民事再生法や会社更生法の適用申請がなされたり,
虚偽記載や監査意見不表明など上場規程に抵触して上場廃止になる場合に
11
は,一般に,
株価は大きく値下がりし,投資家に深刻な損失を与えることが多い。これらは破綻型上 場廃止として分類することにした。
────────────
9 上場廃止となる理由については,各証券取引所が定めるルールがある。たとえば,東京証券取引所の
『有価証券上場規程』や『有価証券上場規程施行細則』にその記載がある。なお,より細分化しない理 由は,理由ごとに分類すると極端にデータの少ない分類が生じてしまうからである。また,たとえば,
民事再生法の適用申請にせよ,会社更生法の適用申請にせよ,破産にせよ,経営破綻には変わりなく,
本研究の目的に照らし合わせると,そういった細目ごとに実現リターンの相違を分析することに,ほと んど意味がないと考えられるからである。
10 TOBやMBOなどの場合,株式を買い集める必要があるので,一般的には市場で形成されている株価 よりも高い価格が提示されることが多い。
11 各証券取引所がルールを定めているが,たとえば,東京証券取引所であれば,東京証券取引所有価証券 上場規程および有価証券上場規程施行細則を参照されたい。
12 事例が実際にあったもののみを分類している。また,上場規程に抵触して上場廃止になる場合,一般的 に株価が急落しロング・ポジションをとる投資家にネガティブなリターンをもたらす可能性が高いとい う意味で,民事再生法適用申請,会社更生法適用申請などとともに破綻型として括ることにした。
図表2−6 上場廃止理由の分
12
類
分類 理由
戦略型上場廃止 株式交換,株式移転,合併等
破綻型上場廃止
民事再生法適用申請,会社更生法適用申請,破産,事業活動の停止,債務 超過,監査意見不表明,虚偽記載,時価総額基準,少数株主持株基準,適 時開示義務違反,不適当な合併,銀行取引停止,公益・投資者保護等
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
226(1026)
各企業の上場廃止理由については,上場廃止前後に当該企業から開示された各種資料 の記載内容を
1
社ずつ調べていった。具体的には,株式交換による完全子会社化であれ ば「株式交換契約締結に関するお知らせ」,株式移転による完全子会社化であれば「株 式移転による持株会社体制への移行について」,会社更生法適用申請による上場廃止の 場合には「会社更生手続開始の申立てに関するお知らせ」等といった当該企業が直接開 示した資料の記載内容から理由を識別している。ほとんどの場合,会社発表の各種資料 から識別しているが,会社の意図に反して上場廃止になった事例などでは,ごくまれに ではあるが,会社発表の資料から上場廃止理由を直接拾うことができないことがある。そういった場合には,証券取引所発表の資料や日本経済新聞等の報道内容から廃止理由 を調べている。
(6)上場廃止率の計算方法
全体ポートフォリオまたは細分化されたポートフォリオに含まれる投資件数が,投資 開始後に,時間が経過するにつれて,上場廃止によってどのくらい減少していくのかを カウントしていく。そしてその減少数を当初の投資件数で割算することによって,上場 廃止率を計算する。
上場廃止になったもののうち,戦略型上場廃止となった投資件数を当初の投資件数で 除したものが戦略型上場廃止率である。破綻型上場廃止率は,破綻型上場廃止となった 投資件数を当初の投資件数で除したものである。これらをポートフォリオごとに計算す る。
① 上場廃止率=上場廃止件数÷当初投資件数
② 戦略型上場廃止率=戦略型上場廃止件数÷当初投資件数
③ 破綻型上場廃止率=破綻型上場廃止件数÷当初投資件数
(7)実現リターンの計算方法
本論文では,実現リターンを累積月次投資収益率として計算している。各ポートフォ リオに含まれる投資の
1
件1
件について,PBR計算後の翌月初めから投資するという 設定で投資後の実現リターン(累積月次投資収益率)を(1)式にしたがって36
ヵ月後 まで毎月計算する。本論文での分析に含まれる投資は373,170
件であり,その1
つひと つについて1
ヵ月後から36
ヵ月後までの累積月次投資収益率を計算する。後述のよう に,生存バイアスについて修正しているので,373,170件について36
ヵ月分の累積月次 投資収益率を計算している。したがって累積月次投資収益率の延べ数は13,434,120
個と なる。なおR
は累積月次投資収益率,rは月次投資収益率,tとτ
は投資開始からの経破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1027)227
過月数である。
R
t=t
Π
τ=1(1+rτ)−1t=1, 2, 3, . . . , 36
(1)(8)生存バイアスの修正
上場廃止になるまでは月次投資収益率のデータが入手可能である。当然ながら,上場 廃止後は月次投資収益率のデータが得られなくなるので,そのままでは上場廃止後の累 積月次投資収益率は計算できないことになる。しかし上場廃止後の累積月次投資収益率 を計算しないまま分析を行うと,上場廃止以降の分析結果に生存バイアスが存在するこ とになる。つまり生き残った投資だけが分析結果に反映されてしまうからである。
たとえば,図表
2−7
に示されているように,あるポーフォリオに7
件の投資が含ま れていたとす13
る。そのうち
5
つは36
ヵ月間の観察期間を無事に終え,それぞれの投資 の累積月次投資収益率は4%,40%,−13%,90%,8% であったとする。しかし 2
件 は上場廃止になり,うち1
件は完全子会社化のために上場廃止となり,その時点までに5% の累積月次投資収益率を得たとする。もう 1
件は経営破綻し,その時点までの累積月次投資収益率は−99% であったとする。生存バイアスを修正しない場合には,生き 残った投資だけを対象に計算することになるため,このポートフォリオの
R
36の中央値は
8% となる。しかしこの場合,上場廃止になった投資を含めずに計算されてしまうの
で,バイアスがかかった数値となっている。
この点について本論文では,上場廃止時点の累積月次投資収益率を上場廃止後の期間 にも延長してポートフォリオ内にデータを保持するプログラムを組み込むことで生存バ イアスを除去している。したがって,このポートフォリオの
R
36の中央値は5% とな
る。────────────
13 実際にはポートフォリオに含まれる投資件数は図表3−2から図表3−4に記述されているようにもっと 多いが,ここでは例示のために件数を少なくしている。
図表2−7 生存バイアスの修正 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
228(1028)
(9)周期性と網羅性
しばしば,分析上の都合によって,最も多くサンプルの集まる
3
月期決算企業だけを 分析対象にして,さらに投資開始月を特定してリターンの計算を行うことがある。しか しながら,そうすると,累積月次投資収益率のグラフに周期的な株価の動きが反映して しまう。つまり,たとえば,近年観察されているように,春先に株価が高くなり,5月 頃から株価が軟調になるといったような周期性が累積月次投資収益率の計算に反映する という問題が生じるのである。また,月を特定するとデータの準備やプログラミング等 の作業は簡略になるが,網羅性に欠けることになる。実際に投資を行う場合には,3月 決算企業だけに投資を限定するということはない。そこで本論文では,決算期が異なるすべての企業を対象に,また投資開始月を特定す ることなく,毎月末に
PBR
を計算し,その翌月初めから投資を開始するという設定で 分析を行っている。こうすることでデータ的に偏った分析になることを回避している。月を特定した場合に生じる周期性が修正され,累積月次投資収益率のグラフはとてもな だらかな曲線となって計算されている。もちろん,網羅性も担保されている。
(10)分析対象
本論文における分析は,以下の条件を満たす企業を対象としている。
① 日経
NEEDS
ポートフォリオマスターから株価と月次投資収益率のデータを取得できること。本論文のためのデータの分析時点(2011年夏)では,2011年
6
月まで のデータが取得可能であった。② 自己資本,発行済株式数,決算年月等の各種財務データを日経
NEEDS Financial
Quest
から取得できること。なお,連結財務諸表を公表している企業については連結データを,そうではない企業については,単独データを取得する。銀行,証券,
保険も含まれる。なお,上場
ETF
やREIT,外国部は分析の対象から除外される。
③ 上場廃止企業について,eol Online,日経テレコン
21,証券取引所ホームページ,
各企業ホームページに収録されている開示資料から上場廃止理由を識別できるこ と。
Ⅲ PBR の絶対的水準と破綻型上場廃止率
(1)上場廃止銘柄の記述統計量
図表
3−1
には,2000年1
月から2011
年6
月までに上場廃止になった企業数が示され てい14
る。上場廃止理由の約
8
割は戦略型であり,その多くが株式交換や株式移転による────────────
14 なお,上場廃止年月については,データベース上で最後に月次投資収益率が収録されていた年月とし! 破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1029)229
完全子会社化による上場廃止である。破綻型は約
2
割しかないことがわかる。(2)PBRの記述統計量
企業ごと月末ごとに
PBR
が計算可能で,かつその翌月も上場しているという条件を 満たす投資件数は373,170
件であった。つまり企業ごと月ごとに投資機会をカウントすると
373,170
件の投資機会があったということである。これらを,図表2−5
にしたがって,PBRの絶対的水準別ポートフォリオに分類する。まずは,分類
A
の投資件数が図 表3−2
に示されている。PF0.0−1.0は176,609
件(全体の47.33%)であり,PF
1.0−10.0は188,306
件(全体の50.46%)である。PBR
は1.0
を境にして,おおよそ上下に半分ずつ分かれ ていることがわかる。PFMは2,270
件(全体の0.61%)であり,PF
Hは5,985
件(全体 の1.60%)であっ
15
た。
つぎに,分布状況をもう少し細かく見てみるために分類
B
によって作成したのが図 表3−3
である。PBRの分布はPF
0.5−1.0の125,023
件を頂点にして,PBRが高くなるにつ れて投資件数は減少していくことがわかる。また373,170
件のうち,92.19% に相当す る344,012
件が0.0
以上4.0
未満の範囲に含まれている。またPBR
が正規分布していな いことも検定を行うまでもなく明らかである。つぎに分類
C
の投資件数が図表3−4
に示されている。これは投資件数の90% 以上が
集中するPBR
が0.0
から4.0
の間を詳細に検討するためのものである。これを見ると最頻値は
PF
0.6−0.8の53,235
件であることがわかる。次にPF
0.4−0.6の48,251
件,PF0.8−1.0の46,278
件と続いており,いずれもPBR
が低いところに多く分布していることが分かる。
年月ごとの
PBR
の第1
四分位置,中央値,第3
四分位置をグラフで表現したものが 図表3−5
である。PBR は相対的に景気がよく相場全体が高い位置にあるときにはばら────────────
! て識別している。
15 自己資本がマイナスの場合において,マイナスの金額が僅かであるほど,PBRは大きなマイナスの数 値となる。また債務超過一歩手前で,自己資本が僅かにプラスという場合には,逆にPBRは大きなプ ラスの数値となる。PBRの最小値,最大値が極端な数値になることがあるのは,そのような理由によ ることが多い。平均や標準偏差といったパラメトリックな統計量はそういったサンプルの影響を極めて 大きく受ける。したがってパラメトリックな分析方法を採用する場合には,極端な数値を含む上下1%
程度を外れ値として除去したり,他の数値で置き換えたりするといった処理が行われることがある。し かし,分布が歪んでいるので,本論文では平均や標準偏差といったパラメトリックな統計量を使用しな い。それゆえ外れ値処理は行っていない。
図表3−1 上場廃止企業数
上場廃止企業数 戦略型上場廃止企業数 経営破綻型上場廃止企業数 2000年1月〜2011年6月 1,251 988 263
100.00% 78.98% 21.02%
注:複数回上場廃止になった企業を含む。
同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
230(1030)
200,000
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0 PF
M PF0.0-1.0 PF1.0-10.0 PFH
件数
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0 PF0.0-0.5 PF0.5-1.0 PF1.0-1.5 PF1.5-2.0 PF2.0-2.5 PF2.5-3.0 PF3.0-3.5 PF3.5-4.0 PF4.0-4.5 PF4.5-5.0 PF5.0-5.5 PF5.5-6.0 PF6.0-6.5 PF6.5-7.0 PF7.0-7.5 PF7.5-8.0 PF8.0-8.5 PF8.5-9.0 PF9.0-9.5 PF9.5-10.0
件数
つく傾向にあり,景気が冷え込んで相場全体が低い位置にある時期にはばらつきが小さ くなることも読み取ることができる。
(3)PBR水準別の破綻型上場廃止率
①全体ポートフォリオ
まずは細分化せずに,全体ポートフォリオの数値を概観する。前節でも示したよう
図表3−2 分類AにおけるPBRの分布
図表3−3 分類BにおけるPBRの分布
破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1031)231
60,000
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0 PF0.0-0.2 PF0.2-0.4 PF0.4-0.6 PF0.6-0.8 PF0.8-1.0 PF1.0-1.2 PF1.2-1.4 PF1.4-1.6 PF1.6-1.8 PF1.8-2.0 PF2.0-2.2 PF2.2-2.4 PF2.4-2.6 PF2.6-2.8 PF2.8-3.0 PF3.0-3.2 PF3.2-3.4 PF3.4-3.6 PF3.6-3.8 PF3.8-4.0
件数
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0 200001 200101 200201 200301 200401 200501 200601 200701 200801
PBR
年月
に,月末に
PBR
が計算でき,かつ翌月に投資開始可能だった投資件数は全部で373,170
件であ16
る。36ヵ月後までに
32,078
件が上場廃止となり,残存する投資件数は341,092
────────────
16 月末にPBRを計算できても,当該月末限りで上場廃止になり,翌月から投資を開始できないサンプル は計算に含まれていない。したがって,月末にPBRを計算でき,翌月以降少なくとも1ヵ月はリター ンデータが得られるサンプルが分析の対象となる。またこれは監理銘柄や整理銘柄であっても同様であ る。整理銘柄については,上場廃止が確定している銘柄なので,PBR計算時点で整理銘柄となってい る企業については分析の対象から除外することも考えられるかもしれない。しかしながら,たとえ整理 銘柄であっても投資すること自体は可能であるから,本論文では分析の対象から除外していない。
図表3−4 分類CにおけるPBRの分布
図表3−5 PBRの年月ごとの第1四分位置,中央値,第3四分位置 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
232(1032)
件,上場廃止率は
8.60% であった。
つまり,すべての上場企業を対象にして,毎月投資し続け,それぞれの投資につい て,36ヵ月間にわたって経過観察すると,36ヵ月後に生き残っていたのは
91.40% で
あり,8.60% は上場廃止になったということを意味している。上場廃止になった
32,078
件のうち,戦略型によるものが25,202
件,破綻型によるものが
6,876
件である。戦略型上場廃止率は6.75%,破綻型上場廃止率は 1.84% である。
②分類
A
つぎに,分類
A
の数値が図表3−7
に示されている。PF0.0−1.0の投資開始時点における 投資件数は176,609
件であった。それが36
ヵ月間に14,717
件減少している。そのうち 完全子会社化等による戦略的な理由による上場廃止は12,013
件であり,破綻型による 上場廃止は2,704
件であった。したがって,戦略型上場廃止率は6.80%,破綻型上場廃
止率は1.53% であった。
PF
1.0−10.0の投資開始時点における投資件数は188,306
件である。36ヵ月の間に15,714
件減少した。そのうち戦略型が
12,530
件であり,破綻型が3,184
件である。上場廃止率 を計算すると,戦略型上場廃止率が6.65%,破綻型上場廃止率が 1.69% である。これ
らの数値はPF
0.0−1.0の数値とほとんど同じ水準である。PBR
が10.0
以上という極端な数値をもつPF
H についてみてみよう。このポートフォ リオは,PBRが極端に高いという特徴を持っており,成長著しく株価が高騰している 企業や,自己資本が僅少で債務超過寸前の企業,過熱状態にある仕手株といった極端な サンプルから構成されている特殊なポートフォリオである。投資開始時点における投資件数は
5,985
件であり,36ヵ月間に724
件減少した。そのうち戦略型は444
件,破綻型は
280
件である。戦略型上場廃止率は7.42%,破綻型上場廃止率は 4.68% であった。
PF
0.0−1.0やPF
1.0−10.0と比較して,戦略型上場廃止率は若干高くなり,破綻型上場廃止率は約
3
倍となっている。PBR
がマイナスのサンプルから構成されるPF
Mもみてみよう。ただし,PBR がマイ ナスということは,投資対象が債務超過に陥っているということを意味している。周知 のように,PBRがマイナスの場合には,プラスの場合と同じように解釈できず,割 安・割高の判断には利用できない。したがって,以降のリターンとの関係で行う分析か らは外さざるを得ないが,とりあえずここでは数値だけ確認しておこう。投資開始時点図表3−6 全体ポートフォリオの上場廃止投資件数と上場廃止率 ポート
フォリオ 投資件数 生存数 生存率 上場廃止になった投資件数 上場廃止率 合計 戦略型 破綻型 合計 戦略型 破綻型 全体 373,170 341,092 0.9140 32,078 25,202 6,876 0.0860 0.0675 0.0184
破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1033)233
における投資件数は
2,270
件であり,36ヵ月間に923
件減少している。そのうち戦略型 は215
件であり,破綻型は708
件である。したがって,戦略型上場廃止率が9.47%,破
綻型上場廃止率が31.19% となる。上述の 3
つのポートフォリオと比べると,破綻型が 多いのが特徴である。これは投資開始時点で債務超過であるということに加えて,既に 上場廃止が決定している整理銘柄がこのポートフォリオに多く含まれていることが原因 であると考えられる。③分類
B
つぎに分類
B
に基づいた計算を行う。その結果が図表3−8
に示されている。まずPF
0.0−0.5であるが,当初の投資件数は51,586
件である。それが36
ヵ月後には46,648
件にまで減少する。上場廃止件数は
4,938
件であり,そのうち戦略型が3,676
件,破綻型が1,262
件である。したがって戦略型上場廃止率は7.13%,破綻型上場廃止率は 2.45% で
ある。
PF
0.5−1.0の当初投資件数は125,023
件であり,分類B
におけるポートフォリオのなかでもっとも多い。36ヵ月後に残存している投資件数は
115,244
件であり,上場廃止件数は9,779
件であった。戦略型によるものが8,337
件,破綻型によるものが1,442
件であり,戦略型上場廃止率は
6.67%,破綻型上場廃止率は 1.15% となっている。ここで注目す
べき点は,破綻型上場廃止率が,PF0.0−0.5の半分以下になっていることである。つぎに
PF
1.0−1.5について見てみよう。投資件数は74,601
件であり,これはPF
0.5−1.0に次いで多い投資件数である。これが
36
ヵ月後には68,678
件まで減少している。上場廃止件数は
5,923
件であり,うち戦略型が4,933
件,破綻型が990
件である。よって戦略型上場廃止率は
6.61%,破綻型上場廃止率は 1.33% である。破綻型上場廃止率は PF
0.0−0.5の半分程度であり,PF0.5−1.0と同様に低い水準になっている。
以下,PF1.5−2.0
,PF
2.0−2.5,PF
2.5−3.0における破綻型上場廃止率は,1.59%,1.65%,1.75% とPF
0.5−1.0やPF
1.0−1.5と同様に相対的に低い数値を示しており,図表3−6
における全体ポートフォリオの
1.84% よりも低くなっている。
PF
3.0−3.5以降のポートフォリオは相対的に高い破綻型上場廃止率を示すようになる。PF
3.0−3.5は2.08% ,PF
3.5−4.0は2.57% ,PF
4.0−4.5は2.62% ,PF
4.5−5.0は2.73% , PF
5.0−5.5は2.10
%,
PF
5.5−6.0は2.49%, PF
6.0−6.5は2.12%, PF
6.5−7.0は3.05%,PF
7.0−7.5は2.80%,PF
7.5−8.0は4.40
図表3−7 分類Aの上場廃止投資件数と上場廃止率 ポート
フォリオ 投資件数 生存数 生存率 上場廃止になった投資件数 上場廃止率 合計 戦略型 破綻型 合計 戦略型 破綻型 PFM
PF0.0−1.0
PF1.0−10.0
PFH
2,270 176,609 188,306 5,985
1,347 161,892 172,592 5,261
0.5934 0.9167 0.9166 0.8790
923 14,717 15,714 724
215 12,013 12,530 444
708 2,704 3,184 280
0.4066 0.0833 0.0834 0.1210
0.0947 0.0680 0.0665 0.0742
0.3119 0.0153 0.0169 0.0468 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
234(1034)
%,PF8.0−8.5は
4.79%,PF
8.5−9.0は2.69%,PF
9.0−9.5は2.99%,PF
9.5−10.0は2.97% で あ る。い
ずれも全体ポートフォリオの数値を上回っている。また繰り返しになるが,図表3−7
にあるようにPBR
が10.0
を超えるPF
Hは4.68% である。こうして記述統計量を眺め
てくると,PBR 3.0付近を境にして,若干のばらつきを伴いながらも,破綻型上場廃止 率が少し高くなる傾向が見受けられる。PFH の数値も併せて考えると高PBR
には上場 廃止になる銘柄が少し多く含まれているということが示唆されているのである。④分類
C
投資件数の
90% 超は PBR
が0.0
から4.0
までに集中している。そこをもう少し詳細 に見るための分類C
による結果が図表3−9
に示されている。なお,念のため4.0
まで 調べてはいるが,Ⅱ節(1)でも記述したように,ここで注目すべきはPBR
が0.0
から1.0
の領域である。PF
0.0−0.2の当初の投資件数は2,253
件である。それが36
ヵ月後には1,745
件に減少する。上場廃止件数は
508
件,うち戦略型上場廃止は218
件,破綻型上場廃止は290
件で ある。戦略型上場廃止率は9.68% であり,破綻型上場廃止率は 12.87% にも及ぶ。破綻
型上場廃止率は,債務超過ポートフォリオであるPF
Mに次ぐ高さである。PF
0.2−0.4の当初の投資件数は26,592
件であり,36ヵ月後には24,064
件に減少する。上場廃止件数は
2,528
件,うち戦略型上場廃止が1,880
件,破綻型上場廃止が648
件であ る。戦略型上場廃止率は7.07% であり,破綻型上場廃止率は 2.44% である。破綻型上
図表3−8 分類Bの上場廃止投資件数と上場廃止率 ポート
フォリオ 投資件数 生存数 生存率 上場廃止になった投資件数 上場廃止率 合計 戦略型 破綻型 合計 戦略型 破綻型 PF0.0−0.5
PF0.5−1.0
PF1.0−1.5
PF1.5−2.0
PF2.0−2.5
PF2.5−3.0
PF3.0−3.5
PF3.5−4.0 PF4.0−4.5
PF4.5−5.0 PF5.0−5.5
PF5.5−6.0 PF6.0−6.5
PF6.5−7.0
PF7.0−7.5
PF7.5−8.0
PF8.0−8.5
PF8.5−9.0
PF9.0−9.5
PF9.5−10.0
51,586 125,023 74,601 39,665 23,097 14,110 9,465 6,465 4,727 3,407 2,670 2,132 1,745 1,408 1,178 977 815 670 636 538
46,648 115,244 68,678 36,586 21,049 12,863 8,611 5,849 4,294 3,104 2,416 1,936 1,612 1,279 1,067 866 728 605 570 479
0.9043 0.9218 0.9206 0.9224 0.9113 0.9116 0.9098 0.9047 0.9084 0.9111 0.9049 0.9081 0.9238 0.9084 0.9058 0.8864 0.8933 0.9030 0.8962 0.8903
4,938 9,779 5,923 3,079 2,048 1,247 854 616 433 303 254 196 133 129 111 111 87 65 66 59
3,676 8,337 4,933 2,449 1,668 1,000 657 450 309 210 198 143 96 86 78 68 48 47 47 43
1,262 1,442 990 630 380 247 197 166 124 93 56 53 37 43 33 43 39 18 19 16
0.0957 0.0782 0.0794 0.0776 0.0887 0.0884 0.0902 0.0953 0.0916 0.0889 0.0951 0.0919 0.0762 0.0916 0.0942 0.1136 0.1067 0.0970 0.1038 0.1097
0.0713 0.0667 0.0661 0.0617 0.0722 0.0709 0.0694 0.0696 0.0654 0.0616 0.0742 0.0671 0.0550 0.0611 0.0662 0.0696 0.0589 0.0701 0.0739 0.0799
0.0245 0.0115 0.0133 0.0159 0.0165 0.0175 0.0208 0.0257 0.0262 0.0273 0.0210 0.0249 0.0212 0.0305 0.0280 0.0440 0.0479 0.0269 0.0299 0.0297 破綻型上場廃止率と実現リターン(桜井) (1035)235
0.1500 0.1400 0.1300 0.1200 0.1100 0.1000 0.0900 0.0800 0.0700 0.0600 0.0500 0.0400 0.0300 0.0200 0.0100
0.0000 PF0.0-0.2 PF0.2-0.4 PF0.4-0.6 PF0.6-0.8 PF0.8-1.0 PF1.0-1.2 PF1.2-1.4 PF1.4-1.6 PF1.6-1.8 PF1.8-2.0 PF2.0-2.2 PF2.2-2.4 PF2.4-2.6 PF2.6-2.8 PF2.8-3.0 PF3.0-3.2 PF3.2-3.4 PF3.4-3.6 PF3.6-3.8 PF3.8-4.0 PF4.0-4.5 PF4.5-5.0 PF5.0-5.5 PF5.5-6.0 PF6.0-6.5 PF6.5-7.0 PF7.0-7.5 PF7.5-8.0 PF8.0-8.5 PF8.5-9.0 PF9.0-9.5 PF9.5-10.0 PFH
破綻型上場廃止率
場廃止率が
PF
0.0−0.2に比較して格段に低下していることがわかる。PF
0.4−0.6の当初の投資件数は48,251
件であり,うち3,986
件が36
ヵ月後までに上場廃止となっている。うち戦略型が
3,342
件,破綻型が644
件であり,戦略型上場廃止率は6.93%,破綻型上場廃止率は 1.33% であった。破綻型上場廃止率はさらに低下している
図表3−9 分類Cの上場廃止投資件数と上場廃止率 ポート
フォリオ 投資件数 生存数 生存率 上場廃止になった投資件数 上場廃止率 合計 戦略型 破綻型 合計 戦略型 破綻型 PF0.0−0.2
PF0.2−0.4
PF0.4−0.6
PF0.6−0.8
PF0.8−1.0
PF1.0−1.2
PF1.2−1.4
PF1.4−1.6
PF1.6−1.8
PF1.8−2.0
PF2.0−2.2
PF2.2−2.4
PF2.4−2.6
PF2.6−2.8
PF2.8−3.0
PF3.0−3.2
PF3.2−3.4
PF3.4−3.6
PF3.6−3.8
PF3.8−4.0
2,253 26,592 48,251 53,235 46,278 35,738 27,399 21,320 16,688 13,121 10,579 8,746 7,153 5,811 4,918 4,255 3,609 3,078 2,670 2,318
1,745 24,064 44,265 48,917 42,901 32,892 25,186 19,709 15,418 12,059 9,664 7,942 6,516 5,294 4,496 3,860 3,296 2,801 2,412 2,091
0.7745 0.9049 0.9174 0.9189 0.9270 0.9204 0.9192 0.9244 0.9239 0.9191 0.9135 0.9081 0.9109 0.9110 0.9142 0.9072 0.9133 0.9100 0.9034 0.9021
508 2,528 3,986 4,318 3,377 2,846 2,213 1,611 1,270 1,062 915 804 637 517 422 395 313 277 258 227
218 1,880 3,342 3,669 2,904 2,417 1,822 1,302 1,007 834 753 656 519 419 321 305 241 209 187 165
290 648 644 649 473 429 391 309 263 228 162 148 118 98 101 90 72 68 71 62
0.2255 0.0951 0.0826 0.0811 0.0730 0.0796 0.0808 0.0756 0.0761 0.0809 0.0865 0.0919 0.0891 0.0890 0.0858 0.0928 0.0867 0.0900 0.0966 0.0979
0.0968 0.0707 0.0693 0.0689 0.0628 0.0676 0.0665 0.0611 0.0603 0.0636 0.0712 0.0750 0.0726 0.0721 0.0653 0.0717 0.0668 0.0679 0.0700 0.0712
0.1287 0.0244 0.0133 0.0122 0.0102 0.0120 0.0143 0.0145 0.0158 0.0174 0.0153 0.0169 0.0165 0.0169 0.0205 0.0212 0.0200 0.0221 0.0266 0.0267
図表3−10 PBRと破綻型上場廃止率 同志社商学 第65巻 第6号(2014年3月)
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