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知覚動詞の補部の構造

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Academic year: 2021

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(1)

知覚動詞の補部の構造

著者 友次 克子

雑誌名 主流

号 55

ページ 71‑86

発行年 1994‑02‑25

権利 同志社大学英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015115

(2)

知覚動詞の補部の構造

友 次 克 子

本稿では,英語の知覚動詞 (perceptionverb)の補部 (complement)に 現れる ‑lllgと,日本語の知覚動調の補部となる節を名詞化する「の」の役 割を調べることで,知覚の対象となる出来事とその中の要素との関係を,形 式と意味の両面から明らかにしたいと思う.ある出来事全体が知覚の対象と して表されるときには,補部がひとつの名詞句として機能する.出来事の中 の一要素が知覚の対象として取りあげられるときには,一名調句が動調の目 的語となり,補部の残りの部分が付帯状況を表す.これらの性質が英語と日 本語に平行して観察されることを示していく.そして,英語では出会いを表 す動詞,日本語では具体的な接触を表す動詞も知覚動調と共通する性質をも つことから,知覚以外の動詞とーing,

r

J

との共起関係にもふれる.

知覚動詞は英語ではsee,hear, feel, smell, taste,日本語では「見るJr聞くj

「感じる

J r

かぐ

J r

味わう」を基本として人間の五感の活動を表し,動詞固 有の意味から知覚の対象の性格も決定される.知覚動詞は,知覚者と知覚の 対象となる事物との関係を表す.いくつかの言語を調べた結果, Dik and  Hengeveldは,知覚動詞の補部は対象に応じて次の4つに区別されると考 えている

(a)  Immediate prceptionof individual  (b)  Immediate perception of state of affairs 

(3)

72 

(c)  Mental pereeption of propositional content  (d)  Reception of propositional content of speech act 

知覚動詞の補部の対象が, (a)では個体, (b)では出来事, (c)では命題, (d)では 伝達内容である.英語の知覚動詞の研究でまず議論されるのは(b)と(c)との区 別であり,この区別に関しては次節でふれる.(c)(d)との区別は, (c)が半叙 実的,つまり,肯定文では主語が補部の命題が真であることを前提としてい るのに対し, (d)は第三者による命題を主語が情報として受け取ったことを表 す.日本語では興味深いことに, (b)は「の

J

,(c)は「こと

J

(d)はいわゆる引 用の「と

J

と共起し,これらの分布が上の補部の区別と対応している.本稿 で問題とするのは, (a)(b)との聞に位置づけられる構造である. 2節と3節 では英語 4節で日本語を分析する.

知覚動詞の研究は,動詞と補部との共起関係,叙実性,現実の知覚活動の 性質からくる制約などを中心に進められてきた.ここではまず英語での知覚 動詞の研究をふり返ることで,知覚動詞丈の性質を整理してみたいと思う.

知覚動調の補部は次の例文のように, (1)名詞句+原形不定詞, (2)名 調 匂 + 動調.ing,(3) that節, (4)名詞匂+to不定調,の形式をもっ.

(1)  1 saw John I him open the door  (2)  1 saw John I him crossing the road  (3)  1 saw that John was ill. 

(4)  When the figure came nearer, 1 saw it  to be a woman. 

このうち(3)のthat節と(4)の名詞句十to不定詞は,間接的な知覚を表すとい う点で,亘接的な知覚を表す(1)や(2)と対比される.間接的な知覚とは,知覚 した状況をまとめたり判断を加えるなど,主体的な認識を介して知覚したも

(4)

のを提示するという意味である.(3)はJohnの様子から病気だと判断したも のであり, (4)も主語による判別を表す.(3)と(4)の文を, (1), (2)のように*1 saw John be (ing) ill.や*1 saw it  be (ing) a woman.と表すことはできな い.伝達によって知った内容が (5a)のようにthat節で表されるのも,

また, (6 a)のように,実際には起こっていないことをthat節では否定を 使って表すことができるのも,知覚が間接的に行われることを示している.

(5) a .  heard that J ohn passed the exam  b. 

1 heard J ohn pass the exam. 

(6) a .  heard that he was not singing any more  b.  *1 hardhim not singing any more. 

次に

( 1 )

( 2 )

を見ると,まず,補部の主語(John)が代名詞であれば目的 格 (him)となることに気づく.知覚動詞と補部との共起関係で議論される ことのひとつは,補部の主語は知覚動詞の直接目的語であるかどうか,つま り,補部の主語は知覚の直接の対象であるかどうかという問題である.ふつ うは,ある出来事を知覚するとき,その出来事内の個々のものも知覚すると 考えられる.(2)の文では,私がJohnを見たことになり,

saw John 

crossing the road but 1 didn't see J ohn.という文は矛盾している. しかし,

次の例では,補部の主語は直接知覚されていない.

(7)  1 smelled Sylvia spraying the living  room (but 1 couldn't smell  Sylvia herself). 

(8)  We heard the farmer kill (ing) the pig  (9)  1 saw it  raining. 

(7)のSylviaは知覚の対象となっていない.(8)では声をあげるのは農夫では なく豚のほうだと考えられる.(9)の虚辞itを知覚することはできない.また,

(5)

74 

W h a t / *  Who 1  h e a r d  w a s  J  o h n  l a u g h i n g .  

において,関係詞が指すのは

J o h n

という人間ではなく,

J o h n

が笑うとい う出来事である.これらの例では,知覚の対象は補部が表す出来事全体であ るということカfできる.

(1)(2)からもうひとつ気づくことは,補部の動詞には時制を示すものがな いことである.補部の時制は常に主文の時制と一致すると解釈される.これ は,直接的な知覚と知覚される出来事とは同時であるという現実世界での制 約を反映している.(1), (2)の補部に助動詞の

h a v e

は現れない.

1)

s a w  J  o h n  h a v e  o p e n e d  t h

d o o

r.

s a w  J  o h n  h a v i n g  c r o s s e d  t h e  r o a d  

次に, (1)の原形不定調と(2)の動詞ー

mg

との違いに注目してみる.従来よ りこの2つは,出来事の局面を表す,アスペクトの違いであると説明されて きた.たとえば, (1)の補部は単純形

J o h n  o p e n e d  t h e  d o o

r. (2)の補部は進行 形

J o h n  w a s  c r o s s i n g  t h e  r o a d

と同じ解釈をうける.

K i r s n e r  a n d  Thomp‑

s o n

は,原形不定詞は

BOUNDED I N   TIME

, 

‑ i n g  

NOTBOUNDED I N   TIME

であると特徴づけてさまざまな文の解釈を導きだしている出来事 には初め,半ば,終りの部分があり,

BOUNDED I N  TIME

とは,出来事 の境界 初めや終りーを意識してとらえることである.原形不定詞は出来事 の初め,終り,または出来事をひとつのまとまったものとしてとらえるのに 対し,ー

i n g

はこのような境界を意識せず,出来事の半ばをとらえる形式で ある.(1)がドアをあけるという完結した行為, (2)

J o h n

が道を渡る過程の ーコマを表すと解釈されるのも,境界の有無から説明される.

また, (2)の動詞

‑ m g

は動名調と形式は同じであるが,動名詞の性質をもっ てはいない.動名詞であれば,直前に所有形の主語が現れ,補部に助動詞の

h a v e

が現れることもある.

(6)

(12)*1 heard John's plyingthe piano.  (John's は所有形)

1regret John's having played the piano  同の補部は動名調である.

ここまで,いくつかの研究をふり返ることで,知覚構文といわれる(1)と(2) は,直接的な知覚を表す,知覚の対象は出来事である,補部には時制ではな くアスペクトが示されることを見てきた.次節で, (1)(2)がアスペクトの違 いだけではないことを, Akmajianの研究を取りあげて考察する.

目的語+ーmgの補部構造をもっ動詞は以下の通りである。6

(i)  feel  perceive  (ii)  catch  同 hav

get  hear  smell  discover 

nohce  spot  find  observe  spy  leve overhear  listen to  come across  see  look at  come upon  watch 

(i)は知覚動詞, (ii)には出会いを表す動調が多く含まれ,い)は使役動詞である.

(i)のうち左列にある動詞は,目的語+原形不定詞の形とも現れるが,右列に ある動詞はこの形をとらない.Akmajianは‑mgと現れる動調としてさらに behold, witness, record, photograph, film, tape, paint, imitate, portray,  studyをあげている原形不定詞だけが可能で、,ーmgとは現れない知覚動調 はないようである.

補部に‑mgと原形不定詞の両方が現れる制と(l5)を比べてみる 8

(14)  We sw the moon rising over the mountain 

(7)

(15)  We saw the moon rise over the mountain.  (

14)の補部には次に示すように,分裂文の焦点の位置に現れ,目的語削除をう け,受動文の主語となることができる 9

(16) a. It was the moon rising over the mountain that we saw. 

b.  The moon rising over the mountain was a breathtaking sight to  see. 

c  The moon nsmg over the  mountain has  been witnessed  by  many a 10ver here on Lover's Lane. 

分裂文1t.. . thatの位置に入る,目的語が削除される,受動丈の主語になる のは,名詞句だけがもっ性質である.このことから, the moon rising over  the mountainは名調匂と同じ単一の構成素(constituent)をなしていると いえる.一方,同の補部は分裂丈,目的語削除文,受動文に現れず,単一の 構成素ではない.

a.

It was the moon rise over the mountain that we saw 

b. 

The moon tise over the mountain was a breathtaking sight to  see. 

The moon rise  over the  mountain has  been witnessed by  many a 10ver here on Lover's Lane. 

~4)と M はアスペクトだけではなく,構造も異なるといえる.

補部には通常進行形にならない動調がーmg形で現れることからも,補部 のーmgを常に進行相と結ぴつけて考えることはできない 10

(18) a .  1 just can't picture J ohn weighing 300 1bs  b. 

John is  weighing 300 1bs. 

(l9) a .  1 just can't see myself needing any more drugs 

(8)

b. 

am needing more drugs 

さらに,ーmgを伴った補部には,補部の主語名詞句と ‑mgとが独立した次 のような構造も可能である 11

(20) a .  It  was the moon that we saw rising over the mountain.  b .  The moon is  beautiful to watch rising over the mountain.  c  The moon was seen rising over the mountain. 

倒の倒では,もはや補部の主語名詞匂とーmgとがひとつの名詞句(構成素) として機能していない 12先の(8)(9)から(ここに繰り返す)、,知覚の対象は 補部の主語になるものではなく,補部が表す出来事全体であることを見た.

(8)  We heard the farmer kill (ing) thp1g

( 9 )   1 

saw it  raining. 

しかし,補部の主語が受動文の主語となると解釈は異なる 13

1) The farmer was heard killing the pig 

(

22) 

It was seen raining. 

制)では,農夫が直接知覚の対象となり,農夫が声か音をたてたことになる.

闘では,知覚できないitを受動文の主語とすることはできない.

Akmajianの研究にさらに考察を加えたDeclerckは,同には2種類の統 語構造と,それに対応する2種類の解釈(23),例が可能であるとしている 14

(14)  We saw thmoonrising over the mountain 

同 W saw the event of the moon rising over the mountain.  同 W saw the moon as it  was rising over the mountain 

闘は(14)の補部に節,凶は同の補部に名詞句+叙述付加詞 (predicativead‑

(9)

junct,ここでは目的格補語 (objectcomplement))を想定した構造の解釈で ある.仰は出来事を知覚の対象とするもので,出来事のとらえ方が原形不定 詞かーmgかの選択として反映される.凶は出来事の中から一要素を取りだ

して知覚の対象とし,これに付帯状況を加えている.

目的語+ーingを補部とする動詞のうち, (ii)のグループは(i)に比べ,個体 を選択する性質が強い. (16)に対応する構文は(川の動詞で、は不可となる 15

5).  We caught J ohn stealing the car 

b. 

It was J ohn stealing the car that we caught.  c 

John stealing the car would be hrdto ctch. d. 

John stalingthe car was caught by the police. 

しかし,倒に対応する構文は可能である.

(26) a .  It  was J ohn that we caught stealing the car  b.  John would be hard to catch stealing the car.  c  J ohn was caught stealing the car by the police. 

また,補部が後置される伺の構造でも(i)と(ii)には違いが見られる 16

(21) a .  You can see, but you can't hear, the  moon rising  over the  mountam. 

b. 

We tried to catch, but couldn't catch, ohn stalingthe car. 

(ii)の知覚を伴う動詞は(i)の知覚動詞に比べて,補部の主語と ‑mgとの結び つきが弱い.

似)のーmgはいわゆる分詞構文にもつながるが,自由付加調 (freeadjunct)  と叙述付加詞には次のような違いがある 17

(28) a.  J ohn was senstealing the car 

(10)

b.  Someone saw John stealing the car  (29) a.  J ohn was killed crossing the road 

b.  Someone killed J ohn crossing the road 

闘ではーlllgが叙述付加調であり, (28 a )が主格補語, (28 b)が目的格補語 として, (a, b)が同じ状況を表すと考えられる. しかし, ‑lngが自由付 加詞となる闘では, (a, b)は同じ状況を表さない.分調句の主語は主文 の主語と一致するために, (29 a )はJohnが道を渡るところを殺された, (29 

b)では誰かが道を渡りながらJohnを殺したという意味になる.

以上,英語の知覚動調の補部は原形不定詞, lllgを伴って出来事を表す ことを,そして, ‑lngには出来事の中から個体を取りだして主文の動詞と 結びつける役割があり,この役割は知覚を伴う動詞に顕著に現れることを示

した.次節では,これと平行した現象が日本語にもあることを見ていく.

日本語では節が動詞の補部となる場合,節が形式名詞の「こと

J t

J t

と ころ」を伴って名詞化され,これに格助調がつく.形式名調のうち「こと

J

と「の」は多くの動調と用いられ,交替できる場合も多いが,動詞によって は「こと」としか用いられないもの,

t

J

としか用いられないものがある.

「ことがあるJ

t

ことができる」の「ある」ゃ「できるJ,

t

命じるJ

t

提案す るJ

t

約束する」などは「ことJとしか現れない.一方,知覚動詞と「手伝うJ

「助けるJ

t

待つJ

t

じゃまするJなどは「の」としか現れない.

t

ところ j は「見る

J t

見かける」などの目撃を表す動詞と,

t

捕える

J

など捕捉を表す

動詞に用いられる.英語で考察したことと対比しながら,日本語の知覚動詞 と補部との関係について考えてみる.

形式名詞の前には完全な節が現れ,補部の動詞は「るJ

t

たJ

t

ているJ何 れの形でも現れる.

(11)

倒a 電車がホームに入ってくるのを見た.

b .

雨で川が増水したのを見た.

穴があいているのが見える.

英語の知覚動詞文と同様,知覚と知覚の対象となる出来事とは同時平行的で あるという制約は日本語にも見られる.そのために,補部と主文の時制が異 なるとおかしな文となる.

1 ) *

電車がもうすぐホームに入ってくるのを見た.

(31)は補部が未来,主丈が過去を表している.補部の中に時を示す副詞があ る場合,時の副調は主文の時制も規定する.

(32) a.電車が1時間前にホームに入ってくるのを見た.

b .

電車が

1

時間後にホームに入ってくるのを見る(つもりだ). 

どちらも補部の動詞は同じ形をしているが, (32 a )の「見た」は1時間前の 過去, (32 b)の「見る j は1時間後の未来である.

知覚の対象が補部が表す出来事全体であるのか,出来事の中の個体である のかという問題は,英語の場合は,補部の主語が主文の動詞の目的語となる ところから生じたが,日本語では,補部のアスペクトカf解釈に影響を及ほす ことがある.

倒 川の水が干上がっているのを見た.

(34) a.友人が切手を集める(集めている)のを見た.

b .

友人が切手を集めたのを見た.

同で見たものは水ではなく,水が干上がるという出来事の結果(おそらく川 底)である. (34 a )で見たものは切手を集める過程であるのに対し, (34 b)  で見たものは,過程のほかに,切手を集めた結果,つまり切手そのものとい

(12)

う解釈も成り立つ.主文の動詞を基点に,補部の「る j は出来事をひとまと まりに.

r

ている j は出来事の一局面.

r

J

は出来事の完了を表す.

補部の出来事とその中の要素との関係を明らかにするために,本来,節を 目的語とせずに個体を目的語とする動詞を使って調べてみる.同では主文の 動詞を「取る」にすると,さらに(a)(b)の違いが明らかになる.

同a 本友人が切手を集めるのを手に取って見た.

b.  ?友人が切手を集めているのを手に取って見た.

友人が切手を集めたのを手に取って見た.

Kurodaは,補部の中のー名詞句だけが主文のー要素となる((…V一連体 形)sの)NPの構造を pivot‑independentrelative clause  (p.  ‑i.関係節と略 す).または.headless relative clauseとよんで分析している 18

同a 太郎はりんごが皿の上にあったのを取って,ポケットに入れた.

b .

太郎は血の上にあったりんご、を取って,ポケットに入れた.

(36 a)はp.‑1.関係節で,主文の動調の「取る

J .

さらに「入れる」の目的 語は補部全体ではなく,補部の中のー名調句「りんご」である.

r

りんご

J

は補部では「が」を伴って「ある」の主語となるのと同時に. ["を

J

を伴っ た主文の動詞「取る」の目的語として解釈される. (36 b)は「りんご

J

を主 要部とした関係節で.

r

りんごjが「取る

J

の目的語であることが明示され た構造である.

r

泥棒が商品を盗んだのを取り返した」という文では,取り 返したものは商品であり.

r

泥棒が商品を盗んだのを取り押えた」という丈 では,取り押えたものは泥棒であることから.p.ー1.関係節では,主文の動 調の目的語が補部のどの要素に対応するのかを決定するために,現実の世界 での知識も必要となる.Kurodaはp.‑1.関係節の成立条件として次のRe‑

levancy Conditionを提案している.

(13)

For a p.  .i.  relative clause to be acceptable, it  is  necssarythat it  be  interpreted pragmatically in such a way as to  be directly relevant to  the pragmatic content of its matrix clause. 19 

ここで必要とされる語用論的解釈とは,具体的には,補部と主文との間に,

(i)同時性, (ii)同一場所性, (iii)意図や動機づけなど補部と主文との関連性を高 めるもの治宝あることをさす.

(37)a.  ?太郎は花子がきのうりんごを買ったのを取って,

b .  

太郎は花子がきのう買ったりんごを取って,

太郎は花子がきのうりんごを買っておいたのを取って,

(37 a )では,主文と補部に同時的解釈が成り立たず不適切であるが, (37 b )  の主要部のある関係節にはこのような制約はない.また, (37 c)では,

I

買っ ておいたj と意図を表すことで,補部と主文の出来事に継起性が生じる.先 の附では,補部の中の「切手」が主文の動詞の目的語として解釈されるかど うかが文法性を判断するときの基準となっている.

知覚動詞の補部は(けとい)の条件を満たしている.本来,個体を目的語とす る動調には, (iX叫に加えて(iii)の条件も必要であると考えられる.知覚動詞の 補部と p.‑1関係節には次のような違いが見られる 20

同a 太郎はりんごが血の上にあり,なしが盆の上にあるのを見た.

b.  こおろぎが鳴き,鈴虫も鳴くのが聞こえた.

c *太郎はりんごが皿の上にあり,なしが盆の上にあるのを取って,

知覚動詞の補部は等位接続が可能であるが, p. .i.関係節は等位接続ができ ない.また,知覚動詞では補部に従属節が現れることもあり,補部が節とし ての性格を残したまま名詞句として機能している.

(39) a.  ベルが鳴ると犬が出ていくのを見た.

(14)

b .  

?ベルが鳴ると犬が出ていくのを連れ戻した.

次に,補部の中の一名調句だけが知覚動詞の目的語となる構造を調べてみ る.

同a 次郎は太郎が花子と会っているのを見た.

b .  

次郎は太郎を見た,花子と会っているのを.

住1)a.  ?太郎が花子と会っているのが次郎に見られた.

b .  

太郎が花子と会っているのを次郎に見られた.

太郎が次郎に花子と会っているのを見られた.

d.  太郎が次郎に見られた,花子と会っているのを.

(40 b)は(40a)の補部の動詞勾を「を j を伴ったまま後置したものである.

受動文の主語が出来事となる(41a )は不自然である. (41 b ‑d)では「太郎」

が目撃の対象,

r

花子と会っているのを」は付帯状況を表すと考えることが できる.

形式名詞の「ところ」は,

r

の」と交替して「見る」と使われる.同は(40 a)と(41b ‑d)の「のjが「ところ j と交替したものである.

同a 次郎は太郎が花子と会っているところを見た.

b .

太郎が花子と会っているところを次郎に見られた.

太郎が次郎に花子と会っているところを見られた.

d.太郎が次郎に見られた,花子と会っているところを.

さらに,

r

ところ

J

はp..i.関係節を作ることもできる.

住地a 警察は泥棒が逃げるところを捕まえた.

b.私は赤信号で停止していたところをバイクにはねられた.

知覚動調の補部には,出来事全体が知覚の対象となる節としての構造と,

(15)

出来事の中の個体が動詞と直接結びついて目的語となり,

r

のj を伴った残 りの部分が付加詞となる構造が考えられる.これは英語の知覚動詞の補部に 節と名詞句+叙述付加詞の

2

つの構造が考えられたことに対応する.

知覚動調の考察からはなれるが,英語の分詞構文に対して,

r

J r

ところ」

には助詞を伴ったまま従属節となる用法がある.

制~a .信号が赤になったのを,そのまま交差点に入っ(てしまっ)た.

b .   r

おおじしん(大地震)Jと読むところを,

r

だいじしん」と言った.

同の「のを

J r

ところを」は,主文のー要素ではなく,対比を表す従属節で ある 21

英語のーing,日本語の「の」は共に広範な用法をもっ形式である.動詞 を知覚を表すものに限定することで,その中からいくつかの性質を明らかに することができた.英語のーmgには,進行相を表す,主要部と結合して名 詞句を作る,叙述付加詞となる役割がある.日本語の「の」には,節を名詞 化する,補部内のー名調勾を主文の動調に結びつける役割がある.これは,

知覚の対象は出来事全体であるのか,出来事の中の個体であるのかという意 味の問題を直接反映するものである.

1 Simon C. Dik and Kees Hengeveld,The Hierarchical Structure of the Clause  and the Typology of Perception‑Verb Complements," Linguistics 29 (1991): 231‑

259. 

2 例文(4) RenaatDeclerck,On the  Passive  of  Infinitival  Perception Verb  Complements," Journal of English Lingzωtics 16 (1983): 30からのヲl用.

3 例文(6)はDeclerck,Onthe Passive" 35からの引用.

4 例文(7)はRobertS. Kirsner and Sandra A. Thompson,The Role of Pragmatic  Inference in Semantics: A Study of Sensory Verb Complements in English" Glos‑ sa 10 (1976): 209からの引用.

(16)

5 Kirsner and Thompson, 215‑222. 

6 Randolph  Quirk, Sidey Greenbaum, Geoffrey  Leech, and  Jan  Svartvik, A  Comprehensive Grammar of the English Langzω'ge (London: Longman, 1985) 1206  7 Adrian  AkmaJ1an1,The Complement  Structure  of  Perception  Verbs  in  an 

Autonomous  Syntax  Framework"Fo7澗 女Ymal Suax.eds. Pet巴白r W.  Cullicver Thomas Wasow, and Adrian Akmajian (Orlando: Academic Press, 1977) 441  Akmajianによると.listen toは原形不定詞も可, observeとnoticeはーlllgのみ可

となっている.

8 例文(14)と同の構造の違いについてはAkmajian,427‑460を参照.

9 例文闘はAkmajian,430からの引用.

10  例文(l8X1骨はAkmajian,446からの引用.

11  例文帥はAkmajian,438からの引用.

12  Akmajianは,知覚動詞の補部は文構造ではなく主要部一補部構造をもっと考え ている.そして,原形不定詞補部には[̲NP VP], ‑ing補 部 に は [ NP [NP VPj 

NP]の下位範醇化枠を設け,凶の構造は後者からの外置によって説明している.

13  Renaat Declerck,The Triple Origin of  Participial Perception Verb Comple  ments," Lin isticA加か'sis10 (1982): 12‑13参照.

14  Declerck,The Triple Origin" 13‑14. Declerckは, ‑lllg補部に3つの基底構造 を考えている. 1つは,節 (ComplementS)であり,原形不定詞補部と対比され るもの. 2つめは,名詞句+叙述付加詞. 3つめは,名調匂+疑似修飾要素 (pseudoωmodifier)であり,これは補部全体が単数の名詞句として機能するもので,

ーingに進行相の意味はない.疑似修飾要素とは,主要部に対し制限的でも非制限的 でもない修飾要素のことである.

15  例文信司と(26)はJamesPaul Gee,Comments on the Paper by Akmajian," Formal  Syntax, eds. Peter W. Culicover, Thomas Wasow,昌ndAdrian Akmajian (Orlando  Academic Press, 1977) 465‑466からの引用.

16  例文(27a)はAkmajian,449, (27 b )はGee,465からの引用.

17  Declerck, 寸heTriple Origin" 15‑18参照.

18  S.  ‑Y.  Kuroda,Pivot‑Independent Relativization in  Japanese (II),"  Papers in  Japanese  Linguistics  4 (1975‑76):  85‑96.  S.  ‑Y. Kuroda,Pivot‑Independent  Relativization in Japanese (III)" Papers in Japanese Linguistics 5 (1976‑77): 157‑

179 

19  Kuroda,Pivot‑Independent Relativization in Japanese (II)" 86. 

20 例文(38a)と(38c)についてはKuroda,Pivot‑IndependntRelivizationin  J apanese (III)"  175‑177を参照.

(17)

21  日本語の「のjによる補部構造については,レー・パン・クー,

n

の」による文 埋め込みの構造と表現の機能j(東京:くろしお出版, 1988)を参照.

参照

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