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コグニティブな戦略グループの相互関係と 経時的変化の研究

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コグニティブな戦略グループの相互関係と 経時的変化の研究

-国内 ISP 業界の事例を通じた命題の提示-

早稲田大学

博士学位論文 論文概要書

2015 年 10 月 30 日

宮元 万菜美

(2)

宮元 万菜美 提出

博士学位申請論文 論文概要書

コグニティブな戦略グループの相互関係と経時的変化の 研究

-国内 ISP 業界の事例を通じた命題の提示-

Ⅰ.本研究の主旨ならびに構成

1. 本研究の主旨

戦略論には業界内で展開される競争を、さまざまな軸によって分類するフレームワーク があるが、戦略グループは業界のプレーヤーを戦略の類似性によりグルーピングすること を一般に意味する。戦略グループ概念は1972年にM, Huntが1960年代の米国の大手家電 製品業界のパフォーマンスに関する論文で導入した概念で、「それぞれのグループの企業間 で、ある戦略的に重要な違いを作るもの」(Reger and Huff, 1993) という定義や、「各戦略次 元上で同じか、あるいは類似の戦略をとっている企業グループのこと(Porter, 2002, 邦訳 p.183)」という定義が知られている。本研究は競争環境が変化している業界で、競争優位 性を作り出すために各企業が着目する資源が企業によって大きく異なる時の、経営者の主 観的な業界のグルーピングである「コグニティブ な戦略グループ」の相互作用と変化を、

資源と戦略的な競争行動の観点から論じる。本研究では、経営資源に基づく企業のグルー ピングとグループ性のある戦略的行動とが半独立的な関係性を持ち、競争の当事者(経営 者)のコグニティブな戦略グループに関する認識が変化することを「資源と行動の相互作 用による戦略グループの変化」と呼ぶ。本研究はコグニティブな戦略グループの存在には 一定の根拠があることを示しつつ、資源と行動の相互作用によりコグニティブな戦略グル ープが変化していくメカニズムに関する、一つのモデルを示す。本研究の理論的な位置付 けは、戦略グループ論の主観的実在論であり、コグニティブな戦略グループの変化をケー ス・スタディによって論じる「主観主義的・動的・記述型」の戦略グループ論である。

本研究は事例を通して、コグニティブな戦略グループの存在には一定の根拠があること を示しつつ、他社戦略の参照行動を行う経営者の主観的(コグニティブ)なグルーピング

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が、資源と競争行動の相互関係を通じて変化していくメカニズムの解明によって、戦略グ ループ理論の動学化に貢献することをめざすものである。そのために、本研究は大きくは 2つの目的を持つ。1つ目は競争の現場には各社の保有資源や戦略行動といった、企業のあ る共通性への着目による経営者のコグニティブなグルーピングが存在することを例証する こと、2 つ目は他社戦略の参照行動とその変化を通じて、経営者の主観によるグルーピン グが新たな戦略グループを生み出し、変化していくメカニズムに関する一つのモデルを示 すことである。

第一の目的は、言い換えれば、分析者がツールを用いて人為的に業界を分類した便宜的 なグルーピングとは異なる戦略グループが存在することに一定の根拠を示し、戦略グルー プの実在論を支持する根拠を示すことである。理論的には、まず客観主義的戦略グループ 論と主観主義的戦略グループ論を分離する。その上で、経営者による心理的なグルーピン グには、資源の共通性に着目したコグニティブな戦略グループと行動の共通性に着目した コグニティブな戦略グループが両方存在し得ることを示す。そして、コグニティブなグル ーピングは同時に複数存在し得ることを支持しつつも、経営者がある時点で何の共通性に 着目してグルーピングをしており、それが何に変化していくのかを明らかにする。

第二の目的のために、具体的には以下の二つのことを行う。

2-① コグニティブな戦略グループの変化のメカニズムの前提には、他社戦略の参照行 動があるということの実証的な確認を行う。競争変化が比較的早いタームで起こる業界で は、動きの少ない安定的な業界以上に、それぞれの企業がどのような資源を活用し、生き 残りのポジションを確立していくための行動を素早く決定する必要に強く迫られる。当事 者の代表である経営者は競争環境を特によく理解し、タイミングよく具体的な戦略に落と し込んでいくことが求められるため、同じ顧客を取り合う関係にある他社の戦略行動を常 に観察していると思われる。しかし競争環境の変化が早い業界では、何が競争優位性をも たらす資源なのかをあらかじめ特定することは難しい。仮に特定できたとしても、安定的 な業界のように時間をかけて調達蓄積することは状況が許しにくく、陳腐化もしやすい。

そのためこのような業界では、競争優位性の確立のために何に着目するかがプレーヤーに よって大きく異なる可能性が高く、また競合する他社の戦略的な行動を参照し、経営者が どのような考えのもとで戦略行動をとろうとするかを考察することが意味を持つだろう。

企業経営の中枢である経営者のコグニションは、当該企業の競争行動に少なからぬ影響 を与える要素の一つと考えられるが、コグニションは実体験および競争環境の観察によっ て形成されると考えられる。だが現実には経営者は自らの知識に制約されつつ、自らと意 思決定に関与する人々の認識するものごとに依存しながら意思決定を行うしかない(加護

野,1988)という限界もある。経営者の競争環境の認識努力は必然的に真剣味を帯びざるを

得なくなるだろう。経営者は複雑で変化の激しい環境で事業展開しているときほど視界の

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隅々にまで目配りする(「戦略の視力検査」ジョージ・デイ、ポール・シューメーカー,

DHBR2009.06)とされるのも、肯首すべき成り行きである。本研究は、経営者のコグニシ

ョンと競争行動との関係性を論じる初手として、経営者による他社の戦略の参照行動に接 近する。

2-② コグニティブな戦略グループが資源と競争行動の相互関係を通じて変化してい くことを実例で示す。本研究では、競争環境が変化するとき、競争の当事者である経営者 の主観的なグルーピングが、他社戦略の参照行動を通じて競争行動に影響を与え、新たな 戦略グループが作り出される要因となることを例証し、そのメカニズムをモデル化する。

すなわち、資源ベースのコグニティブな戦略グループ(後述)が他社戦略の参照を通じて、

資源をまたがる行動ベースの戦略グループに変化し、新たな資源ベースの戦略グループが 生成され、業界内で共同主観化されていくプロセスをモデル化する。本研究は、資源と行 動とは関係しつつも資源が行動を規定するパターンは必ずしも一致しないことおよび、行 動から資源への影響の経路が存在し得ることを主張する。(このことは、保有資源が行動と パフォーマンスを規定するとする、一方向に固定的なパラダイムに一石を投じるという意 味もある。)

以上の作業は以下のように、「戦略グループ理論の動学化」に貢献する。

まず、本研究を戦略グループの成立過程の考察に役立つことである。これまでのコグニ ティブな戦略グループ論は理念的な提示がほとんどで、グループの変化を連続的かつ実証 的に論じた研究が極めて少ない。戦略グループ論の分類は2章で詳しく行うが、本研究は 主観主義的で動的な戦略グループ論に属し、記述的な方法により戦略グループの変化のメ カニズムを説明する型の研究である。

コグニティブな戦略グループの変化は、他社戦略の参照行動によって環境や、保有資源 の競争力の変化を経営者が認識し、それを戦略構想の意識の中に取り込むことが前提とな ると考えられる。参照対象の中からある新たな優位性をもった企業のグループの認識が確 立されれば、それもまたある特徴的な資源や能力を持った新たなコグニティブな戦略グル ープとして成立するということが示唆できると考える。

次に、戦略グループ論の資源ベース戦略論からの接近である。戦略グループ論には、グ ループの境界は保有資源の違いであり、グループは移動障壁に基づき識別されるべきだ (Mascarenhas and Aaker,1989)という見かたがある。資源障壁の概念を間にはさんで、一般的 にはポジショニングアプローチに属すると言われる戦略グループ論にも資源ベース戦略 論との接合点がある。競争環境が変化すれば、時につれて競争優位性に資する資源が何で あるかもまた変化するだろうという着想は比較的容易である。本研究では、資源が戦略行 動に影響するという文脈を保ちながら議論の深耕を試みる。本研究の縦の軸が主観主義的

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な戦略グループ論とすれば、横の軸にあるのは資源ベース戦略論的なアプローチである。

戦略グループが変化する過程で、新たな資源蓄積のモーメントが示されることは、「初め に資源ありき」型の資源ベース戦略論にも動学化の光を投げかけるものとなるだろう。資 源 と 行 動 の 戦 略 グ ル ー プ の 存 在 と 相 互 の 関 係 性 を 明 ら か に す る こ と は 、Priem &

Butler(2001)による「何が競争に有効な資源であるかは、後から理由づけられたものに過ぎ ないのではないか」という、資源ベース戦略論の後付け批判に対抗する、理論的な補強と なる。

伝統的な戦略グループ概念は、企業の業界参入を論じる際に用いられることが多いが、

企業がgoing concernであるためには、どのような経営資源を保有する企業がどの業界やど

の戦略グループに参入するかだけではなく、参入後も競争環境をよく認識し具体的な戦略 行動に結び付けていくことが重要であると思われる。ただし環境の変化が早いと、競争優 位に資する要因が何であるかも変化しやすい。移動障壁をグループの境界とし、安定的な 業界における静的なフレームワークであると捉えられがちな戦略グループ論も、競争環境 の変化という今日的な課題に対応する理論としての補強や発展が必要であると考えられる。

競争環境をよく理解するという意味では、競争の当事者は顧客を取り合う関係にある他 社の戦略行動を常に観察している。この「他社戦略の参照行動」を通じて得られた経営者 の認識が自社の意思決定や競争行動に影響を与え、結果的には業界の勢力図も塗り替えて いくというある種のダイナミズムの想定が、本研究における「コグニティブな戦略グルー プと戦略的行動」という基本的な発想となっている。本研究ではコグニティブな戦略グル ープを、「競争の当事者がある共通性に着目して業界内部をグループ分けしたもの」と捉え、

「競争上の主要な意思決定や行動に違いをもたらす、資源や行動などの共通性に着目した、

経営者の主観に存在するグルーピング」と定義する。本研究はこの定義に立脚することに より、戦略グループ概念を参入後の競争戦略にも適用できる理論として磨きをかけようと 意図している。本研究におけるリサーチクエスチョンは、経営者の認識の中にあると言われている コグニティブな戦略グループがどのような形で存在し、そのグルーピングは競争環境の変化の中 でどのようなプロセスで変化をするのかということである。このことについて本研究は、コグニティブ な戦略グループの存在およびグループ変化の例証を、経営者インタビューに基づくケース・スタ ディによって行い、一般化された命題および一つのモデルを提示することを目指している。

戦略グループ論には理論の視座に関して一つの分岐点がある。それは、競争に従事する 経営者の主観を分析の対象として取り扱うか否かという問題である。コグニティブな戦略 グループ論は、戦略グループは経営者の主観に基づき存在するとする視座を有し、産業組 織論を直接の起源とする客観主義的な戦略グループ論より少し遅れて登場してきた。本研 究がベース理論とするコグニティブな戦略グループ論は、Porter 等の経営者の認識を考察

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対象としない研究とは視座が異なるタイプの研究である。競争環境の分析者は時として競 争の当事者である経営者でもあるにも関わらず、ある種の戦略グループ研究が経営者の主 観問題を全く取り扱わず、戦略グループを経営者の意識とは無関係に設定していることへ の違和感が、本研究をコグニティブな戦略グループ論に向かわせるモチベーションの一つ となっている。競争行動に係る意思決定が、経営者の認識するところに従って行われるの だとすれば、そしてまた、その認識の一部は他社の戦略行動の観察を通じて形成されるの だとすれば、業界内の構造を示す戦略グループの「実在性」と経営者の認識はどのように 関わりあうのだろうかという議論を避けて通ることはできないと考えている。また、伝統 的な戦略グループ論においては、業界内に保有資源による移動障壁が存在すれば、その業界に は戦略グループが存在すると通念的に考えられている。しかしもし、その資源の競争力が通用し なくなるほどに市場の環境が変化するとしたら、その戦略グループはどうなってしまうのかということ や、戦略の主体である経営者たちはどのように振る舞うのかというようなことも、ほとんど研究の俎 上には上ってこなかったように思われる。

競争戦略論としての戦略グループ論には、概念を通じて企業の戦略行動に関する理論的 な説明が期待されるにもかかわらず、実際にはどの研究にも不十分な部分があり、戦略グ ループは研究者による便宜的な分類に過ぎないのではないか(Barney,2002他)という批判を 受ける状態が続いている。戦略グループにはそれが本当に存在するのかどうかという実在 論と共に、2 つの大きな概念の混乱あるいは混同があり、このことが戦略グループ論の説 明概念や議論をわかりにくくしているのではないかと思われるふしがある。一つは前述の 経営者の認識を考察の対象にするか否かという視座の問題、もう一つはグループを識別す る戦略次元としての保有資源や競争行動および、パフォーマンスをめぐる説明の混乱であ る。これについて本研究は、先行研究のレビューや事例分析を通じて、混乱する戦略グル ープ論に関する一つの解明の道筋を示す。具体的には経営者の心中に、競争に役立つと想 定する資源を識別のキーにしたグルーピング(資源グループ)がある時、参照行動はグル ープにより異なること、そして「資源の共通性に着目したコグニティブな戦略グループ」

(資源グループ)と「行動の共通性に着目したコグニティブな戦略グループ」(行動グルー プ)が相互に影響し合いながら変化することを論じる。キー概念は「経営者による他社戦 略の参照行動」である。

本研究ではまず戦略グループ論をめぐる視座の混乱について、これまでの戦略グループ 研究を研究の型によって一旦整理する。ここから本研究は、コグニティブな戦略グループ の変化を論じる動的・記述型の研究はいまだ手薄であり、これを補強していくことが戦略 グループ理論の発展に有効であるという理解に立ち、コグニティブな戦略グループの経時 的変化についての理論化を試みる。

本研究では企業間で共通性がある経営資源、グループ性のある戦略的行動、その行動の

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共同性が生み出す各企業のコグニションの変化を「資源と行動の相互作用」と呼ぶ。競争 の当事者である経営者の主観的なグルーピングが、他社戦略の参照行動を通じて競争行動 に影響を与える要因となることと、コグニティブな戦略グループが資源と競争行動の相互 関係を通じて変化していくことに関する、戦略グループ理論の動学化が本研究の成果であ る。

以下が具体的な解題のステップである。

① 先行研究レビューによる異なるパースペクティブの戦略グループ論の分類

② 客観主義的な戦略グループ論と主観主義的(コグニティブ)な戦略グループ論の 論点整理

③ コグニティブな戦略グループについて、資源を基準に識別されたグルーピングと 実行された戦略行動を基準に識別されたグルーピングに分けて考えることの提案

④ 国内のコンシューマー向けISP事業の史的記述

⑤ 経営者へのプレインタビューによるプレーヤーマップの考察(コグニティブな戦 略グループと経営者が任意に描くプレーヤーマップとの概念的な違いを明確にする)

⑥ 本調査とデータ分析の実施

⑦ コグニティブな戦略グループの経時的変化に関する検討および一般化された命題 の提示

国内のコンシューマー向けISP事業の顧客獲得競争の事例を通してコグニティブな戦略 グループの存在には一定の根拠があることを示しつつ、資源ベースのコグニティブな戦略 グループ(後述)が他社戦略の参照を通じて、資源をまたがる行動ベースの戦略グループ に変化し、新たな資源ベースの戦略グループが生成され、業界内で共同主観化されていく 相互関係の過程を示す。このことを通じて、混乱する戦略グループ論の実在と説明概念に 関する課題の一端は解決され、動学的な側面の深掘りが進むであろうと考える。

戦略グループ論には、グループの境界は保有資源の違いによって形成されるという一つ の見かたがある。つまり一般的にはポジショニングアプローチに属すると言われる戦略グ ループ論には、資源障壁の概念を間にはさんで資源ベース戦略論との近接点があると思わ れる。本研究はこの着想を得て、資源が戦略行動に影響するというエッセンスを取り入れ ながら戦略グループに関する議論の深耕を試みる。本研究の縦の軸が主観主義的な戦略グ ループ論とすれば、横の軸にあるのは保有資源が企業の戦略に影響を与えると考える、資 源ベース戦略論的なアプローチである。

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本研究で提案する、参照行動を通じたコグニティブな資源と競争行動に関する戦略グル ープについての一般化された命題は以下の5つである。

■コグニティブな戦略グループの存在に関する命題

命題 1: 経営者の心中には、資源の共通性で競合を識別したグルーピング(コグニ ティブな資源グループ)が存在する

■コグニティブな戦略グループが与える影響に関する命題

命題 2:グループ間の保有資源が大きく異なる時、各グループへの参照は互いに不均

等に行われ、コグニティブな資源グループは、他社戦略の参照行動の違いに影響する 命題3: 経営者は参照行動を通じて、競合しながらも仲間性を見出す企業とそうでな い企業とを識別する(参照点としての戦略グループ)

■コグニティブな戦略グループの変化に関する命題

命題4: 仲間性の認識は保有資源に関わらず獲得され、協調的に戦略行動を起こす行動 ベースのコグニティブなグルーピングを形成し、仲間性を認め合う競合企業は、その他 の強く競合すると考える企業との差異を作り出す行動を起こす(行動ベースのコグニテ ィブ戦略グループの創造と移動)

命題 5: 行動グループのパフォーマンスが市場で顕在化し、ある程度の期間持続的な 競争力を発揮した時、そのグループは新たな資源を有する戦略グループとして業界内で 認知され、共同主観として安定化する。

また事例から、ある企業のコグニティブな戦略グループが他社の戦略参照行動を通じて経 時的に変化し、やがて新たな戦略グループが生成されるプロセスは以下のように整理され る。

(t=0):企業がある安定期に競争資源に着目しながらプレーヤーを分類する時、そのグ ループとは移動障壁となる資源による「資源ベースのコグニティブな戦略グループ(資源 グループ)」を指している。

(t=1):このグルーピングが業界内で競合に関する情報が流通することで、ある程度の

共同主観化が進む。

(t=2):競争力を生み出す環境が変化する業界ではやがて、当初の資源グループの境界 を越えて仲間性を認め合い、協調的に競争行動を起こすことを企図する「行動ベースのコ グニティブな戦略グループ(行動グループ)」が新たに生まれる。コグニティブな戦略グル ープは、ある程度の時間をかけてメンバー間でのパーセプションの共有とグループ認識の 形成が進む。

(t=n):上記の行動グループが協調的にその他の競合への差異化行動を繰り返すうちに、

実行された行動が市場で存在感やパフォーマンスを顕在的に発揮すれば、グループは仲間

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内だけでなくグループ外のプレーヤーからもある一定の競争力を有したグループとして認 知される。

(t=n+1):この競争力が一過性でなくある程度の期間持続したとき、グループは新たな持

続的競争力となる資源を有する資源グループとして、業界内で安定化していく。

なおこれまでのほとんどの戦略グループ研究は、戦略の概念を単一事業のスコープで扱 っている。本研究においてもこの姿勢は踏襲され、戦略とは単一の事業について、実務者 が実際に実行することが前提となっている具体的なレベルのものであるとする。対象は個 別の事業単位であり、複数の異なる事業を並行させるような多角化事業を対象としない。

また、本稿における「行動」とは「組織としての意思決定に基づく現実への介入」を意味 する。

2. 本研究の構成

本研究の構成は以下の通りである。図1は本研究の構造を示している。

序章

1. 本研究の主旨 2. 研究の背景 3. 研究の目的

4. 研究の方法と解題のステップ 5. 本研究の構成

第1章.戦略グループ論の今日的意義の検討

1. はじめに

2. 戦略グループ論の黎明

3. 伝統的な戦略グループ論の論点 4. 日本の戦略グループ研究

5. 戦略グループ論に残されている課題

6. 小括:戦略グループ論の発展に向けての着眼

第2章 先行研究と戦略グループ論をめぐる論点整理

1. はじめに

2. 異なる視座の戦略グループ論と説明概念 -客観主義型と主観主義型- 3. 2軸による戦略グループ論の研究類型の検討

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4. 3軸による戦略グループ論分類とその意義 5. 小括およびディスカッション

第3章.コグニティブな戦略グループ論の深耕と論点整理

1. はじめに

2. コグニティブな戦略グループ論が準拠する理論 3. コグニティブな戦略グループをめぐる論点 4. 戦略次元における資源と行動

5. 参照行動に関する基本的想定および構成要素の検討 6. 小括

第4章. 事例の選定および予備調査 -経営者インタビューを通じたプレーヤーマップに関す る考察-

1. はじめに

2. 事例の選定

3. 予備調査としてのインタビュー 4. 予備調査のfindings

5. 戦略グループ概念との比較によるプレーヤーマップの考察 6. 本調査に向けての示唆

7. 小括

第5章 国内のコンシューマー向けISP事業の顧客獲得競争に関する経営者の認識と事業行 動の記述

1. はじめに

2. インタビューの実施概要

3. 国内の商用インターネット接続サービスの創成 4. キャリア系ISP参入と最初の敗退者

5. 「メーカー系」のケース 6. DTIのケース

7. ASAHIネットのケース 8. @niftyの先行戦略 9. ASAHIネット 10. IIJ

11. 常時接続ブロードバンドの時代 12. 電話会社の代理戦争IP電話セット

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13. 資本政策とISP統合 14. 光アクセスの時代

15. 誰をどのように認識していたのか 16. 小括

第6章.他社戦略の参照行動とコグニティブな戦略グループ -データ分析と分析結果-

1. はじめに

2. インタビューの実施 3. インタビューの分析 4. 観察される事実

5. 参照行動および新たなグループの形成

6. コグニティブな戦略グループの存在についての結論

7. コグニティブな資源グループと参照行動に関するデータ分析 8. 参照行動に関する考察

9. コグニティブな戦略グループの変化と参照行動の変化の時間的な関係性 10. 小括

第7章.結論

1. はじめに

2. 一般化された命題の提示 3. 本研究の貢献

4. 実務上のインプリケーション

5. 本研究の総括および本研究の限界 6. むすびにかえて-今後の課題-

【付表】

・インタビュー質問票

【参考文献】

【Appendix】

・図表

・発言対応付き業界年表

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Ⅱ.本研究の概要

本研究の概要は以下のとおりである。

序章においては、本研究の主題である戦略グループ論の研究を行うにあたり関心の所在 と研究の意義、目的および研究方法について論述する。競争戦略論では一般に競争優位の 根拠は業界内でのポジショニングや保有資源がベースになると考えられているが、経営者 のコグニションがそれにどのように関わっているかは考察のスコープから捨象されがちで ある。その点、コグニティブな戦略グループ論では競争の当事者自らが身を置く競争環境 について理解することが、彼らの戦略的な競争行動になんらかの影響を与えているだろう と考えられているため、数理的な手続きのみに依存して戦略を論じようとする種類の研究 とは立脚点が対極的に異なっている。この種の伝統的な戦略グループ論は経営者のコグニ ションを考察対象とせず、また業界は資源による参入障壁や移動障壁で隔てられた境界で 画定されると前提している。これはおそらく産業組織論という経済学を源流としているこ とで、人の行動の完全合理性を暗黙の前提にしているからだと思われる。しかし、実際の ビジネスの世界では似たような経営資源を有している企業同士が異なる戦略行動をとる場 合もあれば、異なるバックグラウンドと経営資源を有する企業が同じ土俵で顧客を取り合

(図1) 論文の構造

第3章

・コグニティブな戦略 グループ論の論考

・資源グループと⾏動 グループの分離

第2章

・先⾏研究の分類と 論点整理

序章

・関心の所在

・研究意義

・目的、研究方法 第1章

・戦略グループ論の 今日的意義

第4章

・事例の選定および

・プレーヤーマップ予備調査 の考察

第5章

・事例の記述

第6章

・データの分析

第7章

・一般化された 命題の提示

・本研究の総括

・今後の課題

(13)

っている場合もある。この事実がこれまでの経営者のコグニションを考察の対象としない 戦略グループ論の理論の間隙を衝いているように思われ、筆者が経営者の認識(コグニシ ョン)を考察の対象とすることを登り口とした理論とその発展に関心を持つに至った理由 でもある。

技術革新が早い業界や、その他の理由であっても競争環境の変化が早い業界では、何が 競争優位性をもたらす資源なのかをあらかじめ特定することが難しい。仮に特定できたと しても、安定的な業界のように時間をかけて調達蓄積することは状況が許しにくく陳腐化 もしやすい。比較的安定的な業界と異なり、このような業界では業界内の勢力図を現在の 保有資源を分類キーにして静的に捉えて見せることよりも、それが次にはどのように変化 をしていくか、他社はどのような戦略で競争に臨もうとしているかを知りたいといったこ とに関心が集まりやすい。安定的に競争が推移するビジネスよりも、変化の激しい業界が 増えている今日は、そのような事柄に焦点を当てる、変化を前提とした競争戦略論により 多くの関心が集まるだろう。この点でも、「ある業界の特定の時期はそう分けられるだけだ」

といういわゆる「静的スナップショット批判」や、「戦略グループは単なる分析上の都合」

(Hatten and Hatten, 1987)、「単なる計算の結果得られた人為的カテゴリーに過ぎない」

(Barney, 2002)といった批判を背負うこれまでの戦略グループ論は分が悪い。

本研究は上記のような問題意識から出発し、経営者の経験的なコグニションに踏み込む ことによって、戦略グループにおける参照行動を通じた資源と行動の相互作用およびグル ープ変化に関する検討と得られた知見を一般化された命題の形で報告するものである。

第1章「戦略グループ論の今日的意義の検討」は、競争環境が変化する、プレーヤーの 入れ替わりが激しい、また、競争をする企業の相対的な関係が頻繁に変化するといったこ とが多い今日の市場競争を念頭に置きつつ、伝統的な戦略グループ論を概観し、理論の発 展の可能性と研究の方向性を探ることを目的としている。

従来の戦略グループ論の中心的論題は、業界は比較的安定しているという暗黙の前提の もとで、戦略グループというものが存在するのかどうか、存在するとすればそれはどのよ うにして形成されるのか、戦略グループで企業間やグループ間の収益性の差が説明できる かどうかといった内容が主であった。これまで、多くの実証研究によってさまざまな業界 における戦略グループの存在は支持されてはきたが、論者によって根拠はさまざまである。

一方で、クラスター分析などの統計的な方法で定義された戦略グループは実在するとは限 らず、単なる人工物に過ぎない(Barney and Hoskisson, 1990、Barney, 2000)とする研究者も おり、戦略グループ研究は未だ結論的な解明に至ってはいない(Leask, 2004)。さらに理論 の内容についても、「現状分析偏重」「戦略形成の議論が手薄」(Mintzberg et al,1998、Fleisher

& Bensoussan,2003)といった批判が少なくない。これだけのことを挙げれば、もはや価値が

枯渇したようにも思える戦略グループ論だが、業界内の企業を経営者が認識するある基準

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でグルーピングしたもの(コグニティブな戦略グループ)が彼らの意思決定や戦略行動に 影響を与えるさまや、競争の進展によって変化するグループ間の相対関係やグルーピング そのものの動的な変化を論じられるのならば、多少なりとも上記のような批判を克服する 理論として発展可能性があるのではないかと考える。

本研究の口火を切る役割を果たす本章では、伝統的な戦略グループ論における基本的な 論題と上記のような、伝統的な戦略グループ論が突き当たっている批判や課題を概観する。

これを通じて、競争が絶対的に膠着した状態でない業界で戦略策定者がある戦略上の共通 性を基準に業界内の企業をグルーピングしながら動向の認識をしている可能性に注目し、

1. 分析者や戦略策定者のコグニションの取り扱いについての検討を行うこと

2. プレーヤーの入れかわりや競争軸が頻繁に変化する今日的な状況の中で変化する、業 界内の競争企業間の相対関係を、事例を使い時系列で記述すること

3. 競争の進展によって変化する戦略グループを論じる、動学的な理論を検討すること の3点に研究の方向性を定める。本研究ではこの後、章を追ってコグニティブな戦略グル ープ論の深耕を進めていくが、事例分析を通じて戦略グループ論を変化が激しく不確実性 が高いといわれる今日的な業界にも適用できる理論に発展させることができると考えてい る。

第2章「先行研究と戦略グループ論をめぐる論点整理」では、先行研究について時間性 (通時・共時)、論述の型(記述・規範)による2軸整理を行い、次に視座(客観・主観)の違い に着目しながらレビューを行う。

レビューは、さまざまな視点を持つ代表的な戦略グループ論の先行研究を、上記の研究 の型によって再整理することをアウトプットとする。

これを行う目的は、本研究が戦略グループ研究の流れの中でどのように位置づけられる かを確認するためであるが、全体の結論を先取りして言えば、本研究は先行研究には少な い「主観主義的(コグニティブ)・記述型・動的」の研究に位置づけられる。先行研究を分 類しながらそれぞれの研究を見ていくことによって、その類型ごとに有する研究上の貢献 と課題を明確にすることができ、さらにどの領域の検討を強化していくべきかがわかると ころに意義がある。戦略グループ論に対する中心的な批判の一つである戦略策定局面への 貢献強化は、パフォーマンスに対して決定論的な戦略グループ論ではなく、「主観的・動的」

な戦略グループ論を発展させていくところにある。

本章では、戦略グループについてある固定の時点における状況を共時的に論じるものを

「静的な戦略グループ論」と呼び、企業のグループ間移動やある時点からある時点におけ る、戦略グループの通時的な構造変化を論じるものを「動的な戦略グループ論」と呼ぶ。

また、戦略グループ分析はいかにあるべきか、望ましい戦略グループとはいかなるもので あるべきかなどを論じるものを「規範型研究」と呼び、具体的な業界や企業の事例をもと

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に戦略グループを論じるものを「記述型研究」と呼ぶ。さらに、統計や数学的手続きなど に依拠した客観分析をベースに戦略グループの考察をし、競争の当事者である経営者の戦 略グループに対する主観を議論から捨象する研究を「客観主義的な研究」、経営者の戦略グ ループに対する主観を考察対象に含めて論じる研究を「主観主義的(コグニティブ)な研 究」と呼ぶ。レビューのステップは、まず戦略グループ論が扱う時間性(通時・共時)、論 述の型(記述・規範)による2軸整理を行い、次に視座(客観・主観)の違いを加えた3軸によ る分類を実施する。レビュー結果の要約と図示(図2)は以下のとおりである。

1. 戦略グループ論には客観的な方法で一意に業界内のグループを識別できると前提す る「客観主義的な戦略グループ論」と、競争当事者の認識によるグルーピングを考 察対象に含める「主観主義型の戦略グループ論」がある。

2. 戦略グループ論には、産業組織論(I.O)起源の「静的な戦略グループ論」と、それよ り後に登場してきた、企業が戦略グループを移動したり戦略グループ自体が変化し たりすることを論じる「動的な戦略グループ論」がある。

3. 研究の型には「規範型」と「記述型」があり、両者は互いの理論を補強しあう。

4. 上記の3軸により先行研究を分類すると、各領域の研究について貢献や充実させてい くべき課題を知ることができる。

5. 主観主義型の研究、とりわけ動的な戦略グループ論には確立された規範論がなく、規 範を裏打ちする実証研究も少ない。現在は演繹的にも帰納的にも十分な議論が足りない ことがわかる。

これまでの戦略グループ論は、研究上の興味によって異なる視座やアプローチが、位置 づけ未整理のままに混在してきた。本章でのレビューによって、競争当事者の主観や認知 の問題を考察の対象とするコグニティブな戦略グループ論の研究が手薄で、特に動的な戦 略グループ論には確立された規範論や規範を裏打ちする実証研究が少なく、十分な議論が 不足していることがわかる。経営者の主観を考察対象とし、通時的な構造変化を論じる動 的な戦略グループ論は、競争の変化が早いために戦略の切り替えの必要性に迫られること が多いという、本研究が着目する今日的な競争環境を考察することに役立つ。以上の検討 から、次章ではコグニティブな戦略グループ論について、本研究での展開に向けた概念の 深掘りをすることを予告し、本章の小括としている。

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第3章「コグニティブな戦略グループ論の深耕と論点整理」では本章では研究のベース 理論となるコグニティブな戦略グループ論について論考を行う。

まず、コグニティブな戦略グループ論が暗黙的に依拠してきたと思われる、二重の解釈 学や共同主観性について論考を行い、さらに加護野(1988)や、1989年から2011年にわたる Porac, Thomas and Barden-Fullerの約20年間の研究について再考を加えることで、本研究 のグルーピングに関する立脚点を明確にしていく。論考に基づき①「コグニティブな資源グル ープ」と「コグニティブな行動グループ」という分離されたグループ概念の設定、②他社 戦略の参照点としてのコグニティブな戦略グループに関する基本的な想定の整理、③経営 者のコグニション形成の駆動要因となる参照行動の構成要素の提示、この3点を本章での 具体的なアウトプットとする。

コグニティブな戦略グループの先行研究に対して、本件が着眼する事項の1番目はグル ープ分けに関するイシューである。Porac et al., (1989)は、同じような製品を作っていても、

当事者たちが強く競合し合っていると考えるかどうかによって戦略グループと呼べるかど うかが違うと考えた。この考え方を受けて、Fiegenbaum and Thomas (1995)は「コグニティ ブな戦略グループは参照点として働き、戦略行動に影響を与える」と言っている。このよ うに、先行研究が資源だけでなく競合の行動にも着目していることを受け、本研究ではコ

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グニティブな戦略グループを「主要な差別化要因を何にするかの意思決定や行動に類似性 や共通性をもたらす、経営者の主観に存在するグルーピング」と定義する。コグニティブ な戦略グループを広義にとらえれば、経営者が業界を分類したものはすべて戦略グループ だという見方があるのかもしれない。しかしそれでは戦略グループは何のために何を基準 にし、何に影響するのかがわかりにくくなる。客観主義的なグルーピングとは異なり、コ グニティブなグルーピングは収益性を直接説明するものではないとの考えは、中心的論者 であるFiegenbaum and Thomas(1995)やPeteraf and Shanley (1997)、Panagiotou(2007)等に見ら れるが、それに代わる説明対象はあまり明確ではない。また、コグニティブな戦略グルー プ論でもしばしば援用されるPorter(1980)の定義の曖昧さに見るように、グループ分けの基 準(ベース)は資源と行動どちらの類似性なのかがしばしば混同的である。理論上のコグ ニティブな戦略グループは、資源をベースに認識されるものと行動をベースに認識される もののどちらも存在し得るだろう。しかし本研究では事例研究における戦略グループを論 じる際には、当該のグルーピングがどちらをベースにしているものかを明確にしながら対 象を論じていく。

2 番目の着眼点は戦略参照点としてのコグニティブな戦略グループである。Fiegenbaum and Thomas(1995)はグルーピングが競争当事者にとっての参照点となることが、戦略行動 に影響を与えるという可能性を示し、Reger and Huff (1993)やPeteraf and Shanley (1997)は、

経営者たちの認識が相互に流通することでコグニティブな戦略グループは業界内で、ある 程度共通認識化(共同主観化)するとも考えている。一般的な企業は他社の行動を継続的 に観察し、環境のスキャンを行う。これ自体は個社単位の観察であることが多いと思われ るが、業界内に戦略的な共通性がある企業が複数存在する場合には、当事者たちはその共 通特性で企業を括って物事を論じることがある。つまり、業界内に多数存在する競合他社 をいちいち全部見て回るのではなく、ある種の代表性を持つ企業に対する戦略参照が、事 実上、似たような戦略を採用している企業群に対する参照とみなせる場合があるというこ とである。Reger and Huff (1993)はこれをsimplification and elaborationと呼んでいるが、戦 略グループ単位での戦略参照は経営者にとって実務的な効率性があると思われる。この時 の括り方、すなわちグルーピングに対して何らかの納得性を当事者たちが感じれば、それ は Peteraf and Shanley(1997)が言うような形で共同主観化していくだろう。Peteraf and Shanley(1997)はこれを「戦略グループアイデンティティ」と呼んでいる。

コグニティブな戦略グループ論研究は関係者のコグニションを十分に集めることが必 要だが、その難しさのため概念的な検討から先へなかなか進めず、何に対して説明力を発 揮するのか、企業の競争行動にどう結びつくかの解明は進んでいない。また、グルーピン グに用いられる戦略次元に移動障壁を形成する資源と、他社との違いを作り出すための戦 略的行動が無秩序に混在することが、コグニティブな戦略グループの説明概念を一層曖昧 にしている。そこでコグニティブな戦略グループの定義を「競争上の主要な意思決定や行

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動に違いをもたらす、資源や行動などの共通性に着目した経営者の主観に存在するグルー ピング」とし、グルーピングの分類キーとなる経営者が着目する戦略次元を、資源または 行動のどちらかに明確に分けて考えることを改めて提唱する。

本章では、経営者の意識に内在する入れ子構造(二重の解釈学)の考察や、彼らが着目 する資源は必ずしも一つではないという理解から、コグニティブな戦略グループの存在の 重層性や相互作用、可変性について言及する。本章で得た洞察は、次章以降に続く事例分 析で確認していくことを企図しており、本章で提示される位置づけの認識と競争的姿勢か らなる構造化された参照行動の構成要素は、後の事例でその対応物が提示される。

第4章「事例の選定および予備調査 -経営者インタビューを通じたプレーヤーマップ に関する考察-」は、本研究の事例の選定(後述)と予備調査である。

予備調査では実際の経営者に接し、彼らの生のグルーピング認識の原形(プレーヤーマ ップ)を入手し検討する。現実の競争に直面している経営者が自社と競争相手をめぐる環 境をどのようにとらえているか、何等かの括り(グループ)によるプレーヤーの識別意識 が存在するのかを探ることが予備調査の目的である。経営者が自由に描く業界分類図をコ グニティブな戦略グループと同一視してよいかどうかは、それが描けるというだけでは意 思決定や行動に違いをどうもたらしているかまで確認できないという意味で不十分である。

このため、一旦は区別してこれを「プレーヤーマップ」と呼ぶこととする。

本章の目的であり、研究全体に係る事例調査の第一段階としてここで行うことは、「資 源の共通性に着目したグルーピング」や「行動の共通性に着目したグルーピング」が経営 者の認識の上に実際に存在しているかどうかを、まず確認するということである。このと き経営者自身に、競争のダイナミズム(Hitt, et al., 2008)の概念やグループ間の相互作用など、

理論的なものの意味が理解されていなかったとしても、まずは経営者の心中にグルーピン グ認識自体があるかないかの確認ができるかどうかが本質である。

この段階でもし、経営者が資源や行動の共通性で業界内のプレーヤーを分類するような 様子が全く認められないのなら、コグニティブな戦略グループを論じる意義はほとんどな いものと思われる。逆にそのようなものが現認できるのならば、研究としてはそれが理論 空間上でどのような意味を持つのかを考察するステップへと進むべきであろう。「理念的な コグニティブな戦略グループ」の作用や変化を机上でもてあそぶ前に、予備調査で経営者 の意識の上にあるグルーピングの原形がどのようなものであるかを、できるだけ外部者に よる誘導や加工が加わらない状態で描き出し、具象化してみる必要がある。このため本章 では競争の当事者(経営者)が自由に発想し、競争環境や企業をグループ化して描いたも のを実際に入手し検討する。本章では予備調査によって得られた情報とその検討結果を通 じて、理念的なコグニティブな戦略グループと経営者が自在に描くプレーヤーマップの違 い、概念上の包含関係の整理および定義の再確認を行ったうえで、本調査に臨む前の着眼

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と方針を導出する。

事例研究を行う対象としたのは、競争環境の変化や競合が激しいといわれている国内の コンシューマー向けISP(インターネットサービスプロバイダ)事業である。この業界を取り 扱う理由は、第一に競争の軸となる主要プロダクトが技術革新と共に何度か変遷しており、

競争環境の変化が早いため、各社とも戦略変化の必要性に迫られやすいことである。競争 が膠着状態にある業界では、過去・現在・将来に対する経営者の観測が固定化している可 能性があり、この観点の検討がしにくくなる。このため、競争の変化に対する時間性が考 察でき、時間の経過とともにグループ自体が変化する可能性を考える材料が得られる業界 を選択した。第二には、本業界は異なるバックグラウンドを有する多数の企業からなり、

プレーヤーの資源の持ち方が大きく異なるということがある。第三には、この業界では頻 繁な参入退出によりプレーヤーの顔ぶれが変わることである。経営者が他社を観察する必 然性が高く、他社に対する位置づけの認識も変化しやすいと考えられる。1992年に国内の ISP事業が商用化されて以来、業界創成期から現在までの約20年間の歴史を追いながら競 争の動きを見ることができることも、変化に着眼する研究の材料として適当である。本章 では国内を代表する大手ISPの役員2名(当該事業の責任者)にプレインタビューを行い、

自社の属する環境がどのように競争の構造をなしていると考えているか、また自らの認識 を模式的に図で描けるか聞き取りを行った結果を記述している。

調査の結果、時間的変化の認 識を伴ういくつかのプレーヤー マップを手に入れることができ た。同時に、理念的なコグニテ ィブな戦略グループ同様に、プ レーヤーマップにおける分類の キーにも、保有資源の違いによ るものと、実行され表出した戦 略行動の違いによるものがある ことを確認した。中にはそれが、

激しく競合するライバルかどう

かという仲間性の認識を含む、共同主観化されたグルーピングの場合もあることが追加的 発見事項である。ただし一方で、プレーヤーマップのグルーピングには意思決定や戦略行 動に直ちには影響を与えないほとんど思いつきのような形で描いてみただけのものがある こともわかった。

プレーヤーマップは理論的な説明力の有無に関係なく、経営者の意識の上に自由で雑多

コグニティブな 戦略グループ 経営者のコグニション全体

グルーピングされたコグニション

(プレーヤーマップ)

(図3) コグニティブな戦略グループとプレーヤーマップの概念上の関係

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な形で存在する。したがって、これまでコグニティブな戦略グループの定義として概ね信 じられてきた「経営者がある分類キーで業界を認識したグルーピング」というのはかなり 大雑把なものだということが理解できる。むしろこれは概念的にはプレーヤーマップを指 し、コグニティブな戦略グループとは「自在に描かれるプレーヤーマップの中に内在する、

戦略行動への影響性を有する主観的なグルーピング」だと考えた方が、議論は精密化する。

コグニティブな戦略グループとは、「経営者が資源や行動などのある共通性に着目して行う 企業のグルーピングの中でも、競争上の主要な意思決定に違いをもたらす認知的な構造物」

と考えることができる。このことは、図3のように概念上の包含関係で表すことができる。

予備調査の結果より次の本調査では、直ちには戦略的意図として経営に反映されない茫 漠としたグルーピングの模索ではなく、戦略的行動に対する意味と影響力を有する、コグ ニティブな戦略グループの存在と戦略的な作用の実際および、経時的変化の探索と分析に 集中する。具体的な事項には以下の3点がある。まず2社2名程度の経営者のコグニショ ンの単純比較ではなく、さらに多数の経営者のコグニションをデータに加えた分析を行う ことである。次に、時間の経過とともに経営者によるグルーピングは変わることが予備調 査によってある程度予測できたことから、コグニティブな戦略グループがどのようなプロ セスを辿って変化するのかを、時系列で事例を追うことで明らかにすることである。経営 者は必ずしもプレーヤーマップを、理論的な知識や手続きを踏んで描いているわけではな い。このため、彼らのマップがすべて理論的に意味を持っているとは限らず、逆に経営者 自身が自覚していない部分に理論としての発見が潜んでいる可能性も否定できない。した がって、3 点目には、資源や行動の共通性や仲間性に着目したコグニティブなグルーピン グが、他社戦略の参照という行動を間に挟みながら競争行動にどのように関係するのかを、

当事者発言の質的データ分析によって探る必要性がある。

第5章「国内のコンシューマー向けISP事業の顧客獲得競争に関する経営者の認識と事 業行動の記述」では、ケース・スタディの第一歩として、インタビューおよび公開資料に 基づく、顧客獲得競争に関わる各社の認知と戦略行動についての記述を行う。

インタビューは2010年8月から2011年7月にかけて、国内のコンシューマー向けイン ターネット接続サービス事業者(Internet Service Provider; ISP)12社の、経営意思決定に直接 携わる立場にあった17人に対して行った。競争環境をどのようにとらえ自社の意思決定や 戦略行動をしてきたかについての、半構造化質問形式によるインタビュー調査である。経 営者が競争をどのように認知し、解釈し、どのような行動を起こしてきたのかを記述し、

本研究における質的分析の基礎情報とする。分析に先立つ本章は、当該業界に関する経営 者たちの発言および、客観的事実が歴史的順序に沿って記述される。

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日本で商用ISP事業が始まってから現在にいたるまでの約20年間、各社は様々な経緯や 資源をバックグラウンドに事業を開始しているが、各社から出されるプレスリリースやIR 資料等の公開情報を見ると、各社は互いに戦略的行動を繰り返しながら顧客獲得競争を展 開してきたことが読み取れる。記述の内容を多少先回りしてまとめると、各社が戦略行動 として認識しているものには、料金の値下げ合戦のようなわかりやすい模倣・追随行動も あれば、これとは別に、他社と異なる独自の行動を取ろうとしてきたことも、ある仲間性 を共有するグループで、共通的で協調的な行動を取ろうとしたこともあったということが わかる。企業は環境の中で、ひとり他企業や市場から隔離して存在することはないことを 鑑みれば、経営者は競合他社、市場の状態、自社の事業に対して影響力を持つ親会社の存 在、新たな収益モデルによって自社の利益を収奪する可能性を持つプレーヤーなど、自社 を取りまく環境を認知したり、他社の行動を参照したりしながらこれに解釈を加え、戦略 行動を決定していることが事実として読み取れる。

本章では、ISP の顧客獲得競争の歴史的事実を単に時系列で並べていくのではなく、経 営者自身の認知、主観的解釈、その帰結としての行動を、語られた本人たちの実際の言葉 でできるだけ忠実に記述していく。インタビューの狙いは、競争の当事者である経営者が 競争環境や他社をどのようにとらえ、自社の戦略的行動に反映してきたのかを当事者の言 葉で浮彫りにしていくことにあり、必要に応じて刊行物やテレビ番組のインタビューの中 で経営者が語った内容も補足しながら記述を進める。

第6章「他社戦略の参照行動とコグニティブ戦略グループ」では、第4章で検討したコ グニティブな資源グループと参照行動について、インタビュー調査で得られた情報をベー スに質的分析を行う。本章で行うことは以下である。

①経営者の認識にあるグルーピングの一部は、半ば趣味的に描かれたプレーヤーマップ ではなく、経営者の意思や行動に影響を与えるコグニティブな戦略グループであるこ とを確認する

②コグニティブな戦略グループは経時的に変化することを確認する

③参照行動はコグニティブな戦略グループの形成や変化の伏線となり、競争環境が変化 すると参照行動も変化をすることを確認する

分析は第5章で記述された、経営者らのグルーピングの認識に関する変化のエピソード の内容分析および、個々の発言を文脈によってタグ付け分類する、グランデッド・セオリ ー・アプローチ(戈木,2006、佐藤,2008)に依拠した質的データ分析からなる。データ分析 では、コグニティブな戦略グループが変化する伏線的役割を果たす、他社戦略の参照行動 について、参照先、参照量、競合に対する位置づけの認識の状態および、その変化の分析 を行う。

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予備調査に引き続きISP業界を事例研究の対象とした理由は、各企業が競争優位性を作 り出す資源が、業界内で不均衡に分布している状態の業界であること、また、複数の経営 者のコグニションと競争行動が、経時的に追跡可能な状態で直接収集できるためである。

業界創成期から現在までの約20年間の競争の動きについては、インタビュー以外にもプレ スリリースや公開資料による客観的な記録も確保できる。

この業界は、資源の持ち方が大きく異なる多数の企業からなっており、慣習的に使用さ れている比較可能なグルーピングが少なくとも 3 つある。そのグループは「キャリア系」

「メーカー系」「独立系」と呼ばれ、当事者たちがプレーヤーを、資源の違いによって識別 しながら認識していることがわかる。競争の主軸となるメインの商品が技術変化とともに 変化していき、当初の保有資源の競争力に対する認識が変化するにつれて、参照行動やグ ループ認識が変化していくことが事例分析によって、明らかになる。

コグニティブな戦略グループが変化する伏線となる参照行動の変化を確認するための データ分析は、大まかにはまずインタビュー録音を原稿化したものから回答者が戦略参照 や自社の行動について言及した部分を全て抜き出し、第4章で構造化しておいた位置づけ 認識および競争的姿勢の分類タグを入れコードごとにつけていく(総発言数 245)。次に、

大きな競争軸の変化をもたらしたと考えられる主力商品の変化によって、調査対象とした 約20年間を、①キャリア参入前 ②ダイヤルアクセス時代 ③ADSL時代 ④光アクセス 時代に区分する。「キャリア系」「メーカー系」「独立系」と呼ばれるグループごとに、さら に時代別にタグ付けされた発言データを集計することで、それぞれの参照先や参照活動量 の違いおよび、時代による変化を確認するという手順で行われる。

各グループを分ける資源の競争力の認識に変化が現れる時、これとは別に戦略的行動の 類似性や共通性による、行動ベースのコグニティブなグルーピングが発生する。このこと を本事例では、「メーカー系」と呼ばれる資源グループの参照行動と、「メーカー系」のISP の度重なる積極的な働き掛けに呼応したISPの、仲間性の認識による行動エピソードによ って確認する。特に、一方で顧客を取り合う競争関係にありながらの共通的で協調的な競 争行動の結実として、「withフレッツ」という名称でサービスを開始することに成功した、

光アクセス利用契約事務の共同ワンストップ化の事例に注目する。これは、「with フレッ ツ」という新たな加入方法を顧客に提示できることが、競合との差異化を実現する新たな 持続的競争力として、彼らの内に蓄積され資源化されたことを示す事例である。このこと は、行動の共通性によるグループが、新たに資源の共通性を有するグループへと変化して いくことを意味している。行動と資源化された行動の意味的な境界は、ある行動がアドホ ックなアクションではなく、繰り返し性や持続性を持っているかどうか、その行動パター ンがある程度の期間競争力につながるかどうかというところにある。事例では、一部の仲

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間内だけでグループ性をアドホックに認識する以上に、業界は「withフレッツ対応グルー プ」(A,B,C,N,S社)と「非withフレッツ対応グループ」(G,O,K社)に分けられる(調査対

象のうちI,R,M,J社はこの時点では競争退出)という共同主観化が、プレーヤーの間で進

んだと考えられることから、行動は持続性を持ったと解釈できる。資源グループをまたが り、仲間性の認識を共有する行動ベースのグルーピングが市場で競争力を発揮し、業界内 のその他のプレーヤーの間でもグルーピングに関する共同主観化が進んだ事例である。

本調査の事例では、当初経営者は、自前設備や人材、ブランドなど、ある特定の資源が 競争に影響を与えると考え、企業の競争力を特徴づける資源の有無によって自社や競合を グルーピングし、それぞれのグループは異なる参照行動をとっていたことがわかる。グル ープによって保有する資源の競争力が異なると認識される環境では、グループ間の参照行 動は相互に非対称である。やがて資源の競争力に対する経営者の認識が変化すると、参照 行動の量や方向性が変化し、仲間性のあるプレーヤーの探索が始まるなど、参照行動その ものが変化する。

事例分析によって、経営者は参照行動を通じて認知、理解した事柄を根拠に、自社の戦 略的行動を左右することがあるとの確認がなされ、ここで経営者の行動に影響を与えるコ グニティブな戦略グルーピングは存在すると例証される。コグニティブな戦略グループは 単なる理解や分析上の便宜ではなく、戦略グループは実在するという結論である。また分 析によって、コグニティブなグルーピングの存在と競争環境の変化、参照行動および、新 たなグループ認識の形成の間には、時間的な関係性があることが確認できる(図4)。以上 を時系列で並べれば以下のように整理できる。

t=0 & t=1:ISP業界において、「キャリア系」「メーカー系」「独立系」にグルーピング するコグニションが一般化している。

t=2:仲間性の認識を有し、強く競合する相手との差別化行動を取ろうとするプレーヤ ーが共同して数度にわたり「withフレッツ」を差別化手段にした行動を繰り返す

t=n:「withフレッツ対応グループ」と「非対応グループ」の存在が業界内で認知される

t=n+1:「with フレッツ対応グループ」であること(共通資源の保持)が顧客獲得に安

定的に優位に働く

ただしこの新たなグループ認識の出現は、当初あったキャリア系、メーカー系、独立系 というグルーピング認識に置き換わったことは意味しない。経営者がそのグルーピングで 当時の競争関係や戦略を語らないだけで、本調査でも、ダイヤルアクセス時代の戦略をキ ャリア系、メーカー系等というグルーピングで語る以外に、この分類は忘却されずにその 後も残り語られていることがあった。

本事例は資源分布が不均衡な業界では、資源の競争力に関する認識を背景にしたコグニ

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ティブな資源グループが参照行動に影響を与えること、グルーピングは固定的なものでは なく、環境の変化に起因する資源の競争力の変化により、コグニティブな行動グループが 生み出される可能性があることを示している。資源障壁が十分に機能すると考える間はそ の競争力に依存する企業も、それをベースとした位置づけに変調を感知すれば、次なる戦 略行動を模索する必要性に強く迫られることとなり、参照行動にも一層のドライブがかか ると考えられる。事例では、単独の経営者が参照行動によって他社を位置づけ単独の認知 マップを構成するだけでなく、あるタイミングでグループおよびグループのメンバーシッ プは業界内で競争力を持つ存在として共同主観化されることがわかる。参照行動と共同主 観性とを間に挟み、「資源」と「戦略行動」の2つのコグニティブなグルーピングは相互関 係を有することがここで示されている。

本研究の事例だけではどの業界にも必ずコグニティブな戦略グループが存在するとは 言えない。また全ての戦略が参照行動の影響によって実行されるとも限らないし、人のコ グニションを完全に解明しきることは不可能と言わざるを得ないが、少なくとも本研究の 結果は、「戦略グループはグループ分けが目的の便宜的分類に過ぎない・存在しない」とい う主張には対抗しうると考える。

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第7章「結論」では、コグニティブな戦略グループが存在するときの、他社戦略の参照 行動および、資源と行動の相互作用による戦略グループの変化について、一般化された命 題およびモデルの提示をする。「資源と行動の相互作用」とは、企業間で共通性がある経 営資源または、共通的な戦略的行動によるコグニティブなグループが存在し、両者は半独 立的な関係性を有しつつ新たなコグニティブな戦略グループを生み出すという、一連の変 化のことを指している。本研究が提示する命題が示すのは、競争環境の変化が起こり、競 争優位性を作り出すために各企業が着目する資源が企業によって大きく異なるとき、資源 ベースのコグニティブな戦略グループ(資源グループ)が、資源をまたがる行動ベースの コグニティブな戦略グループ(行動グループ)に変化し、新たな資源ベースの戦略グルー プが業界内で共同主観化されていく過程、すなわちコグニティブな戦略グループが経時的 に変遷するプロセスである。

■コグニティブな戦略グループの存在に関する命題

命題1(コグニティブな戦略グループの存在):経営者の心中には、資源の共通性で競

合を識別したグルーピングすなわちコグニティブな資源グループが存在する。

・経営者は競争優位性や競合との違いを作り出すのに有効だと経験的に考える特 定の資源を想定し、その資源の共通性で業界内の企業をグルーピングしながら現 在の競争環境を理解する。経営者は着目している資源が企業の競争力を特徴づけ、

移動や模倣の障壁として機能すると考える。

■コグニティブな戦略グループが与える影響に関する命題

命題2(コグニティブな資源グループの参照行動):グループ間の保有資源が大きく異 なる時、各グループへの参照は互いに不均等に行われ、コグニティブな資源グループ は他社戦略の参照行動の違いに影響する。

・各経営者が認識するそれぞれの資源障壁の高さには違いがあり、その競争力に 関する認識の違いから各グループへの参照は不均等になる。

命題3(参照点としての戦略グループ):経営者は参照行動を通じて、競合しながらも

仲間性を見出す企業とそうでない企業とを識別する

・競合に対する位置づけの認識には、敵対的に強く競合するか当面の共存を許容 するかについて程度の差がある。

■コグニティブな戦略グループの変化に関する命題

命題4(行動ベースのコグニティブ戦略グループの創造と移動):仲間性の認識は保有

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