早稲田大学博士論文概要書
株式会社法制における種類株式制度と 会社支配権の帰属のあり方
―EU における「黄金株」問題を契機として―
早稲田大学大学院法学研究科
李 艶 紅
博士論文概要書 李 艶紅
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株式会社法制における種類株式制度と会社支配権の帰属のあり方
―EU における「黄金株」問題を契機として―
一 問題意識と研究対象
株式会社法制においては、株式会社の株主に対して、1つの株式につき1つの議決権を付 与する1株1議決権の原則を基本形とし、株主が出資額に応じて株主総会における意思決 定に参加できるように権利を与えている。株主総会の意思決定に際しては基本的に、株主 の出資額の多寡によって、株主の会社に対する影響力が左右されるわけである。これが資 本多数決の原則であり、同様に株式会社法制の基本原則と位置づけられる。しかしながら、
株式会社法制は、これらの基本原則に対する例外または修正をも認めている。その現れの 1つが、世界各国で見られる種類株式制度である。すなわち、種類株式制度の下では、1株 1議決権の原則および資本多数決の原則への例外または修正が認められる。
日本の株式会社法制も、基本的に、以上のような考え方を踏襲してきたとされる。とり わけ、21 世紀に入ってから、株式会社のエクイティ・ファイナンスに資するよう、種類株 式制度の利便性を高めるために、同制度に対する規制緩和が一連の法改正のなかで実現さ れてきた。その結果、そもそもは資金調達という側面での利便性の需要に対応すべく行わ れた種類株式制度の法改正が、結果的に資金調達に止まらず、株式会社の支配権の帰属に 関わる問題にまで大きな影響を及ぼすようになってきたと評価されてきている。すなわち、
会社法における種類株式制度を駆使することにより、会社のコーポレート・ガバナンスに 関連する事項に及ぼすこと、特定の種類株主に拒否権を認めること、株主総会決議事項に つき議決権の有無を細かく設定できる(もちろん、全ての株主総会決議事項を取り上げる 無議決権株式にすることもできる)ことなどが可能となっていることが、その証左である といえよう。
本論文は、株式会社の支配権の帰属のあり方に関して、支配権の帰属を確定させるため のツールとして種類株式を利用し、それも、1株1議決権の原則という、株式会社法制にお けるある意味での基本原則に修正を施すことが可能となっている現在において、株式会社 法制に如何なる影響が生じ、それに対して、株式会社の支配のあり方とそれに関わる種類 株式制度を中心とした制度の解釈、運用、そして今後の立法のあり方について検討を行お うとしたものである。
1 種類株式制度の変遷
日本では、平成13年に行われた商法改正の前まで、株式の種類を構成する要素としては、
利益の配当または残余財産の分配についての優先あるいは劣後および利益による償還の有 無という要素しか認められなかった。加えて、株式の転換性と議決権の有無ということに 関しては、これらを株式の種類というよりは、株式に付随させる1つの属性として整理ま
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たは理解されていた。したがって、平成13年商法改正以前の種類株式とは、基本的に、優 先株式、普通株式と劣後株式の 3 種類のことをいい、これらに転換権、無議決権といった 属性が付随され得る、というのが実際の種類株式のバリエーションであった。
その後、平成13年商法改正により、利益の配当や残余財産分配の内容自体を種類株式の 構成要素として設定できるようになった。また、議決権に関する事項については、それを 定款で規定することもできることとし、それ自体が独自の種類株式を構成するものとされ た。さらに、平成14年商法改正では、株式譲渡制限会社についてではあるが、種類株式の 構成要素として、取締役または監査役の選任権を認めた。このようにして、平成13年商法 改正と14年商法改正は、種類株式の構成要素として、コーポレート・ガバナンスに関わる 要素を正面から取り入れ、それまでの種類株式の基本概念自体を改めたものとして評価さ れた。
このような種類株式の多様化は、さらに平成17年新会社法においても続けられた。すな わち、種類の構成要素に、譲渡制限および拒否権が1つ種類の構成要素として認められた のである。譲渡制限株式は、会社が、譲渡による当該種類の株式の取得について当該会社 の承認を要するとする点において、いわゆる普通株式と内容の異なる株式として発行する ことができるとし、譲渡制限がされていることまたは譲渡制限の内容の差異を株式の種類 とすることができるようになった。また、拒否権付種類株式は、株式会社が、株主総会・
取締役会・清算人会において決議すべき事項について、それら決議のほかに、当該種類の 株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要である点において、普通株式と 内容の異なる株式として発行することができるとし、決められた事項に関する事実上の拒 否権の有無または拒否権の内容の差異を株式の種類とすることが認められた。
こうした一連の種類株式制度の改正が行われた背景には、ベンチャー・ビジネス等の場 面における種類株式の活用などが想定されていたと言われる。すなわち、ベンチャー・キ ャピタルがベンチャー企業に出資する際に、一定程度に投資した会社における自らの影響 力を何等かの形で留保したいという需要があったからである。このような需要に対して、
従来の実務においては、それまで株主間契約またはその他の交渉を通じて対応してきたと いう実態があった。しかしながら、そのようなさまざまな契約の法的な効力、そして契約 の不履行があった場合の処理などの面で不明確な点があるなどといったデメリットが指摘 されるようになってきたため、会社法では、総じて定款自治を拡大させ、それとともに、
上述したような種類株式の多様化を促進するなどといったことが行われてきたとされる。
2 会社支配のツールとしての種類株式
上記のような種類株式制度の一連の法改正を通じ、さまざまな種類株式が法定化されて きたなかで、とくに注目されるべきは、会社支配権のあり方に直接的に結びつく種類株式 の選択肢が増えてきたところにあると思われる。すなわち、議決権制限株式や取締役等の 選任に関する種類株式(ただし、株式譲渡制限会社に限る)により、コーポレート・ガバ
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ナンスの中枢に関わる事項についても種類株式の構成要素として認められ、種類株式の種 類の多様化が図られてきた。そして、とくに一定の株主総会または取締役会または清算人 会の決議事項について、ある種類株主に拒否権が認められる拒否権付種類株式までもが1 つの種類株式として認められてきたことが注目される。また、既述したように、会社法は、
定款自治の拡大をも図ってきており、これらの会社支配権が左右されるような種類株式の 実際の権利内容の設定は、基本的にはすべて会社の定款自治に委ねられることとされる。
しかしながら、実際上、これらの種類株式が、どのような会社において、どの程度利用 され、普及がどれほど進んでいるのかということについては、必ずしも明確なデータは示 されてきていない。少なくとも、上場会社についていえば、東京証券取引所は、その上場 規程によって拒否権付種類株式の発行を、一部の例外を除き、原則として上場廃止事項と して定めており、その数は限定的であること(国際石油開発帝石株式会社というエネルギ ー部門の企業は、拒否権付種類株式を発行しながら、同取引所への上場が認められている という例がある)が分かっている程度である。
このような現状にかんがみれば、会社法上においてさまざまな種類株式のカテゴリーを 用意したものの、実務における利用の活発化、そしてそのことを前提にしたソフト・ロー を含む具体的かつ細則的なルールの構築・運用という点では、近年認められた新たな種類 株式制度はまだまだ課題が多い状況にあるように思われる。
3 本論文における問題意識と研究の対象・素材
種類株式の多様化の本来の目的は、会社による資金調達の際における種類株式の柔軟な 利用が期待され、会社支配をめぐる場面においても、さまざまな選択肢が提供されうると いうメリットの享受であった。しかしながら、会社支配のツールとして利用され得るよう な種類株式は、とりわけその濫用が危惧され、利用する際の一般株主への影響が強大であ るがために、一定程度の歯止めをかけておくことが望ましいなどといったことなどが一般 的に指摘されてきている。
直接的にしろ、間接的にしろ、会社の支配権を配分することを企図した種類株式の利用 において、その種類株式の具体的な権利内容の設定は定款自治に委ねられている。そうし た種類株式に対する画一的な規律は、逆に種類株式利用の機動性が損なわれるとも考えら れるが、そのようなことを考慮してか、会社法レベルでは、具体的にどのような事項につ いて、どのようなことを定款に定めることができるのか、といったことについて詳細な規 定はおかれていない。いかなる権利内容の設定が合理的であり、会社支配権の適切な配分 に資するのか、そして、なにより適法なものとして認められるのか、という非常に重要と 思われる事項については、これまでの日本においては、実務における事例が少なかったこ ともあり、理論的な面でもまだまだ積み重ねが少ない状況であるように見受けられる。
こうした状況に鑑み、本論文では、上記のような問題意識に基づいて、とりわけ「拒否 権付種類株式」に焦点を当て、これに類似した制度である、EUにおける「黄金株」制度と
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その利用状況の分析を行っている。すなわち、本論文では、イギリスにおいて創設され、
EU諸国での利用の拡大がみられたとともに、近年ではEU法という枠組みのなかで、その あり方が大きく議論されてきている「黄金株」問題を研究の対象ないし素材として取り上 げ、分析・検討を試みている。
二 本稿の構成
本論文は、4つの章で構成される。
第一章では、「黄金株」がイギリスと EU で利用されてきた経緯とその実態について紹介 した。具体的には、1980 年代のイギリスにおいて、従来の国有企業の民営化を図っていく なかで、「黄金株」が考案・創出されてきた経緯と実際の使用例について紹介した。また、
これに習った類似した仕組みが、1990 年代以降に、EU 域内の他の構成国にまで広まってい った経緯などを紹介したうえ、「黄金株」が、EU 運営条約に定める「資本移動の自由の原則」
との関連で、EU 委員会が問題視するに至り、EU 裁判所において一連の構成国政府の条約違 反判決が出されたという経緯などについて紹介した。
第二章では、主に EU 運営条約において定められた「資本移動の自由原則」とその適用問 題を取り上げた。すなわち、EU 運営条約においては、域内市場の統一を図る目的で、物、
人、サービスおよび資本の自由な移動を基本原則とする旨が定められており、なかでも「資 本移動の自由原則」については、各構成国間の利害調整が難しいとされつつも、独自に緩 やかな発展を遂げてきている。本章では、EU の市場統合の歴史を遡りながら、そうした「資 本移動の自由原則」を巡る諸問題について、同原則の例外が認められる場合にも着目しな がら考察を行った。
第三章では、EU 域内における、いわゆる「黄金株」の利用をめぐって、EU 裁判所が EU運営条約上の「資本移動の自由原則」に違反するか否かという判断を下した判例を紹介 し、それらを類型化しながら分析し、それら判決に対する学界からの主に批判的な意見を も紹介しながら検討した。具体的には、2000年から、EU委員会が8の構成国と地域に対 して、当該国や地域の政府などが保有する「黄金株」について、それが EU 運営条約上の
「資本移動の自由原則」と「開業の自由」に違反するとして、EU裁判所で争った事例がみ られてきた。本章は、そうした判例を紹介し、分析を行うことによって、EUにおいて「黄 金株」の発行が許容される法的な条件を見出そうとした。
端的に言えば、EU 裁判所は、EU 委員会の意見に賛成するスタンスをとってきている。
すなわち、EU 裁判所は、「黄金株」が、EU における「資本移動の自由原則」のもとで、
基本的に存在しえないものであり、また、例外的にその存在・発行が許容される場合につ いては、極めて狭義かつ厳格な解釈に服さなければならないとの結論を出してきている。
他方で、こうした EU でのスタンスに関しては、とくに、一連の「黄金株」裁判例にお いて示されてきた、「黄金株」の条約違反の論拠が「投資者への投資意欲の減退」にあるこ とについて、学界から批判的な見解も唱えられている。すなわち、「投資意欲」とは、単な
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る心理的要素であって、「黄金株」を否定する根拠として乏しいとされ、また、「黄金株」
の発行が真に「投資者への投資意欲の減退」に結びついているかどうかについての十分な 検証も経ていないというのである。本章は、このような一連の判例とそれらに対する学界 からの見解を紹介したうえで、今後、許容されるべき「黄金株」の条件について、主に公 益的な事業を行っている株式会社を念頭に置きながら、考察を行った。
第四章では、日本会社法上の種類株式制度の変遷を辿り、種類株式および種類株主総会 制度の変容を明らかにしたうえで、そのような文脈の中で、「拒否権付種類株式」のような 種類株式が法定された経緯とそれをめぐる若干の議論を紹介した。すなわち、日本におけ る会社法は、企業の資金調達の利便性を考慮して、種類株式の規制緩和の一途を辿ってき ており、そうした中で、EU において大いに争われた「黄金株」が、実際に日本の会社法に は、会社の類型問わず、支配という側面からの十分な検討なしに「拒否権付種類株式」と いう形で実現可能となった経緯などをとりあげた。また、1 株 1 議決権とは異なる形での会 社の支配のあり方を実現するツールとして考えられ得る複数議決権問題についてもとりあ げ、それが日本の会社法の下でも、単元株制度と種類株式制度の組み合わせで実質的に実 現可能な状況とされたことについても若干の検討を加えた。
三 今後の研究課題と展望
1 「黄金株」問題に関する今後の研究
上述したように、本論文では、研究の素材として、主に EU における「黄金株」を取り 上げた。EUでは、その域内単一市場の構築、国家または地域間の障壁の撤廃などといった これまでの要請およびそれを行ってきた史実が背景にある一方で、EU域内の経済の発展や 活性化を促進するため、より一層の自由競争環境への志向などにより、EU運営条約の中で
「資本移動の自由原則」という基本原則を確立したという経緯がある。
他方で、各構成国からは、国内の公益に資するという観点から、とくに国内の基幹産業 部門にかかわる会社に関して、当該会社への国内政府による支配を維持しようと一定程度 の影響力を残してきた。その代表例として「黄金株」が注目されてきた。このように「黄 金株」を導入した各国においては、「黄金株」がEU枠組みでの「資本移動の自由原則」へ の例外規定によって許容されるべく、「黄金株」の保有を堅持しようとしてきた。
しかしながら、一連の「黄金株」に関する事例から明らかなように、EU 委員会および EU裁判所は、「国内の公益」よりも「EU全体の公益」を優先する判断を行ってきている。
もちろん、「黄金株」は、その存在が認められることにより、その発行を受ける各国政府 等にとっては、基幹産業部門等の重要な会社に対する支配の安定化、そして、ひいては濫 用的な企業買収に対する有効な防衛策として機能しうるということは揺るぎない事実であ る。他方で、EU構成国における「黄金株」については、その権利内容の如何によって、「資 本移動の自由原則」の例外規定の範疇の中でしか解釈され得ず、これまでの一連の判例の なかでは、「黄金株」のもつ影響力の大きさゆえに、そのほとんどが条約違反と判断されて
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きた。一連の判例の蓄積のなかで、唯一、ベルギーの「黄金株」が「資本移動の自由原則」
に違反しないと認められたことは、EUの「資本移動の自由原則」の枠組みのなかでも、「黄 金株」によって実現された会社支配のあり方次第では、その合法性をも認められうる余地 が示されたとも考えられよう。こうした、「黄金株」を通じた会社支配権のあり方に対する EU での動向は、他の国においても、「黄金株」と同様の株式制度の今後の有り様を考える うえで大いに参考となりえよう。
もっとも、日本における今後の種類株式制度のあり方を考えていくうえで、とくに、会 社の支配権の帰属問題とも関連して、1株1議決権に基づく場合とは異なる支配関係を構築 するためのツールとして利用しうる種類株式制度の今後あり方を検討していくうえでは、
本稿で取り上げた EU における判例その他の状況を参考にすること、そして、今後の EU の動向を踏まえるべく、引き続き追跡していくことは、大きな価値があるように思われる。
現実問題としても、近時、日本において、公益に関わる分野の会社の運営コスト問題が しばしば問題視されてきている。インフラ関連分野の会社、たとえば、地方空港の運営問 題に関してその運営を民間に委ねるといったことも議論されるようになってきている。ま た、日本取引所グループにおいては、インフラ企業の民間運営に資するようなインフラ上 場市場の創設に向け、「上場インフラ市場整備と上場の実現」といったテーマを中長期重点 戦略の1つとして取り上げている。今後いかなる方向性でそうした議論がなされ、そのよ うな上場インフラ市場が整備されるのかということについては、現時点ではまだ明らかで はないが、いずれにせよ、そういった会社の支配権の帰属問題も1つの重要な課題となり 得るであろう。そうしたときには、種類株式制度を活用することを想定され得るのであり、
そうした場面に備えて、拒否権付種類株式制度などについて議論を深化させておくことも 不可欠であると考える。
2 種類株式制度および会社支配権の帰属問題をめぐる今後の研究課題
近年の日本の株式会社法制にみられる種類株式制度の規制緩和の傾向は、会社の支配権 の柔軟な配分・帰属を確実にする道を切り開いたように思われる。本論文における問題意 識からすれば、分析を行うべき事項や検討すべき研究課題はまだまだ残されている状況に あるが、他方で、会社支配に関わる種類株式制度は、今後も様々な形での利用の拡大が見 込まれる状況にある。
たとえば、2014 年 2 月、東京証券取引所は、ロボットスーツ HAL の研究開発、製造およ び販売を行うサイバーダイン株式会社の上場を承認した。同社は、単元株式制度と議決権 種類株式制度とを組み合わせ、現行会社法ではストレートに認められていない複数議決権 制度を実質的に作り出し、同社の創業者に一般株主より 10 倍もの複数議決権を認め、支配 権を保持させたままの上場となった。
また、2014 年 9 月に、中国の電子商取引大手である株式会社アリババがニューヨーク証 券取引所に上場した。同社には、種類株式を通じた会社支配権の政策的な措置はないもの
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の、会社経営陣の過半数の選解任権限が、同社の創業者が設定したパートナーシップ制に よってコントロールされ、そのような仕組みを維持したままの上場となった。そして、同 社のパートナーシップ制の仕組みは定款規定により 95%以上の株主の同意によってのみ変 更されうると定められ、同社創業者の持ち株比率が5%を超えるため、実質的にそのよう なパートナーシップ制の変更は不可能となる。このようにして、アリババ社の場合も同様 に少額の投資をもってそれに比例する支配権以上の会社支配権を保持しているという形で の大きな上場例もみられている。問題は、こうした会社の上場が、少なくともアメリカに おいては認められていることである。アリババ社の上場が種類株式制度を利用したわけで はないにしても、このような上場例を許容されてきたアメリカの状況、また、それによっ て上場がかなわなかった香港や、他の国々において、アリババ社のような上場を許容すべ きか、といったことについてさまざまな議論が巻き起こっている現状にかんがみても、会 社支配権の帰属問題に影響を与え得る各種の株式関連制度の研究を続ける価値はあるよう に思われる。
本論文は、このようなごく最近の現状を踏まえた研究までは踏み込んでおらず、「拒否権 付種類株式」に関する考察に止まっている。しかしながら、今後、拒否権付種類株式また は前記サイバーダイン社の例にみられるような、実質的に複数議決権株式を実現するよう な種類株式制度の利用例が増えていくとすれば、支配株主と一般株主との間の利害調整、
支配株主の行為規制、または少数株主の保護問題など、さまざまな問題ついての検討が現 実に必要になってくるものと思われる。こうした問題の検討には、先行事例の多い、EU や アメリカをはじめとする諸外国の判例の調査または関連制度についての比較・検討が不可 欠であるように考えられる。今後は、こうした視点からも研究を行っていく予定である。
本論文は、そうした研究を行っていくための土台ともなるべく、執筆をしたものであるが、
いずれにしても、本稿の問題意識に関わる問題・課題はまだまだ多く、今後も研究に邁進 していく所存である。
以 上