産会計』における未着商品に関する記述を概観してみ たい。 番場教授は『棚卸資産会計』の第2章「棚卸資産の 概念と認識原則」において,棚卸資産の概念を構成す る場合に考慮すべき条件として,次の3つを挙げてい る。 (1)資産の用途(資産保有の目的) (2)資産保有の期間,費用化の期間ならびに取得原 価の多少 (3)所有権1) 未着商品の関する議論については,上記の(3)所 有権が問題となる。番場教授は,棚卸資産の概念構成 における所有権の問題について,次のように述べてい る。 「棚卸資産の概念に密接な関係をもつのは,経済財 に対するエンティティーの所有権の問題である。原則 として,所有権のある経済財がエンティティーの棚卸 資産である。棚卸資産にあっても,他の資産と同様 に,所有権の有無が,これを資産に含めるか否かの判 断基準となる。」2) さらに番場教授は,「しかし,所有権の有無が盲目 的に資産認識の基準とされてはいない。」と指摘し, 『モントゴメリーの監査論』における所論を紹介する。 「モントゴメリーによれば,会計方法がコンシステ ントであるかぎり,当事者の考え方いかんが支配権を もつのである。慣習として,所有権いかんにかかわら ず,運送途上の購入物品は棚卸資産に含め,運送途上 の販売物品は棚卸資産から除外されるのである。ただ し,当方の工場渡という条件で買い入れた運送途上の 物品は,当方の棚卸資産に含めないことが適当であ る。」3) そして,番場教授は,モントゴメリーによる棚卸資 産に含めるべき物品の例示として,次の記述を紹介す る。 「運送途上の購入品(決算日現在または決算日以前
であるが,それを特に問題とはしない,という考え方 である。いいかえれば,元帳のある一つの勘定の残高 と財務諸表のある一つの科目の計上額との一致にあま り拘らずに,それらの二つの数字の不一致あるいは断 絶も認める考え方である。この場合では,諸項目の計 上額の関係は次の式のようになる。 B/S の商品2,900= P/L の期末商品棚卸高2,900 =商品 a/c または繰越商品 a/c の次期繰越高2,000 +未着商品 a/c の次期繰越高900 P/L の当期商品仕入高9,900 =仕入 a/c の決算整理前の借方残高9,000 +未着商品 a/c の次期繰越高900 このような金額上の関係は,具体的な簿記手続とし ては,棚卸表に記録が残り,そこで確認・検証される ことになろう。 2の場合には,1の場合と異なり,元帳のある一つの 勘定の残高と財務諸表のある一つの科目の計上額との 一致をあくまでも追求し,そのための決算整理仕訳を 工夫して行なうという考え方である。分記法および売 上原価対立法を採用するならば,次のような数字の一 致が達成される。 B/S の商品2,900= P/L の期末商品棚卸高2,900 =商品 a/c の次期繰越高2,900 三分法を採用するならば,以下のような金額の一致 が実現する。 B/S の商品2,900= P/L の期末商品棚卸高2,900 =繰越商品 a/c の次期繰越高2,900 P/L の当期商品仕入高9,900=前述の A の決算整理 仕訳を転記した後の仕入 a/c の借方残高9,900 私見としては,以上の二つの考え方は,簿記理論と しては,どちらの考え方も成立すると考えられる。た だ,実務においては2の処理は,次年度の期首におけ る未着商品 a/c への振り戻しなど,煩雑な手続が生ず るので敬遠され,1のより簡便な処理が採用されるの ではないか,と思われる。 おわりに 本稿で取り上げた未着商品売買取引は,その現代的 な意義が全く失われてしまったわけではない。その一 つの証左として,平成30(2018)年商法改正において も,海商編に船荷証券に関する規定は存続したことが 指摘できる。確かに陸上運送に関わる貨物引換証とい う貨物代表証券は,昭和の時代中に実務から消滅し, したがって陸運および貨物引換証が利用される未着商 品売買取引は行なわれなくなったようである。しか し,荷為替手形および海上運送に関わる船荷証券は, 海運を利用する輸出入の外国貿易においては,まだ現 在でも行なわれている。そうであるからこそ,船荷証 券に関する商法規定が存続したのである。したがっ て,簿記学および会計学においても,未着商品売買取 引を分析・考察する現代的な意義が完全に失われてし まったわけでは決してない。 読者諸兄諸姉におかれては,今さら未着商品売買取 引について考察し,論説を寄稿する行為は,いわば 「終わったコンテンツ」に対して奏でる葬送曲もしくは レクイエムのごとく感じられるかもしれない。しかし, 少なくとも筆者の見解では,未着商品売買取引の会計 的考察について,蓋棺し,墓碑銘に R.I.P.(requiescat (requiescant) in pace, rest in peace)と刻むのは,ま だ,いささか早きに過ぎるのではないか,と思われる。 (本稿は,令和元(2019)年度における専修大学会 計学研究所の共同研究(スタディ・グループ)の成果 の一部をまとめたものである。) 注 1)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,59-60 頁。 2)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,79頁。 3)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,79
1957, p.191.
4)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,79 頁。Norman J. Lenhart and Philip L. Defliese, Montgomery’s Auditing, 8th ed, The Ronald Press Company, New York, 1957, p.191.
5)江頭憲治郎著,『商取引法』第8版,弘文堂,2018年,65頁。 6)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,80-81
頁。William A. Paton, Asset Accounting: An Intermediate Course, The Macmillan Company, New York, 1952, p.43. 7)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,82-83
頁。Joseph A.Mauriello, Intermediate Accounting, The Ron-ald Press Company, New York, 1950, p.337.
8)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,83 頁。Joseph A.Mauriello, Intermediate Accounting, The Ron-ald Press Company, New York, 1950, p.337.
9)番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年,91-92 頁。 10)江頭憲治郎著,『商取引法』第8版,弘文堂,2018年, 18-19頁。落合誠一著,『運送法の課題と展開(商法研究第2 巻)』,弘文堂,1994年,197,199頁。大崎正瑠(おおさき・ まさる)著,『詳説船荷証券研究』,白桃書房,2003年, 83-84頁。 11)落合誠一著,『運送法の課題と展開(商法研究第2巻)』,弘 文堂,1994年,197頁。 12)松井信憲・大野晃宏編著,『一問一答平成30年商法改正』, 商事法務,2018年,はしがきⅰ頁。 13)田中誠二・喜多了祐・堀口亘・原茂太一著,『コンメン タール商行為法』,勁草書房,1973年,390,411頁。 14)田中誠二・喜多了祐・堀口亘・原茂太一著,『コンメン タール商行為法』,勁草書房,1973年,411頁。 15)田中誠二・喜多了祐・堀口亘・原茂太一著,『コンメン タール商行為法』,勁草書房,1973年,389頁。 16)松井信憲・大野晃宏編著,『一問一答平成30年商法改正』, 商事法務,2018年,25頁。 17)松井信憲・大野晃宏編著,『一問一答平成30年商法改正』, 商事法務,2018年,25頁。 18)江頭憲治郎著,『商取引法』第8版,弘文堂,2018年, 18-19頁。 19)江頭憲治郎著,『商取引法(上)』初版,弘文堂,1990年, 14頁。なお,江頭教授の『商取引法』という著書は,初版だ けは2分冊の形で,上巻が平成2(1990)年に,下巻が平成4 (1992)年に発行された。その後,平成8(1996)年に発行さ れた第2版からは1冊にまとめられて,平成30(2018)年に発 行された最新の第8版に至っている。 20)江頭憲治郎著,『商取引法』第8版,弘文堂,2018年,19 頁。 21)田中誠二・喜多了祐・堀口亘・原茂太一著,『コンメン タール商行為法』,勁草書房,1973年,389頁。 22)松井信憲・大野晃宏編著,『一問一答平成30年商法改正』, 商事法務,2018年,127頁。 23)中村忠著,『新訂現代簿記』第5版,白桃書房,2005年, 129頁。 24)中村忠著,『新訂現代簿記』第5版,白桃書房,2005年, 129頁。 参考文献 江頭憲治郎著,『商取引法(上)』初版,弘文堂,1990年。 江頭憲治郎著,『商取引法』第8版,弘文堂,2018年。 大崎正瑠(おおさき・まさる)著,『詳説船荷証券研究』,白桃 書房,2003年。 落合誠一著,『運送法の課題と展開(商法研究第2巻)』,弘文 堂,1994年。 田中誠二・喜多了祐・堀口亘・原茂太一著,『コンメンタール 商行為法』,勁草書房,1973年。 中村忠著,『新訂現代簿記』第5版,白桃書房,2005年。 番場嘉一郎著,『棚卸資産会計』,国元書房,1963年。 松井信憲・大野晃宏編著,『一問一答平成30年商法改正』,商事 法務,2018年。
Norman J. Lenhart and Philip L. Defliese, Montgomery’s Auditing, 8th ed, The Ronald Press Company, New York, 1957.
Joseph A. Mauriello, Intermediate Accounting, The Ronald Press Company, New York, 1950.